出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル73(2014年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル73(2014年5月1日〜5月31日)

4月の出版物推定販売金額は1339億円で、前年同月比6.5%減となり、近年の最大の落ちこみである。その内訳は書籍が7.7%減、雑誌が5.4%減、雑誌のうちの月刊誌が4.1%減、週刊誌は10.1%減で、返品率は書籍が34.8%、雑誌が42.1%と、またしても雑誌のほうが高返品という異常な事態を迎えている。

また実際の書店売上も10%近くのマイナスとなっているようで、このような状況がすぐに変化するわけもなく、5月から6月にかけても続いていくだろう。

ちなみに消費税が引き上げられた月であるから、他の業界の数字を挙げておけば、百貨店12%減、スーパー5.4%減、コンビニ2.2%減であり、書店のマイナスは百貨店に近い。しかし百貨店は5ヵ月にわたって増収、3月売上は大幅増だったので、反動とみなせるし、4月の落ちこみは書店と同じものではないことは明らかだ。


1.雑誌の高返品率の要因であるムックの動向を示す。

■ムック発行、販売データ
新刊点数平均価格販売金額返品率
(点)前年比(円)(億円)前年比(%)前年増減
19996,59911.5%9151,3201.9%43.5▲0.5%
20007,1758.7%9051,3240.3%41.22.3%
20017,6276.3%9311,320▲0.3%39.8▲1.4%
20027,537▲1.2%9321,260▲4.5%39.5▲0.3%
20037,9906.0%9191,232▲2.2%41.52.0%
20047,789▲2.5%9061,212▲1.6%42.30.8%
20057,8590.9%9311,164▲4.0%44.01.7%
20067,8840.3%9291,093▲6.1%45.01.0%
20078,0662.3%9201,046▲4.3%46.11.1%
20088,3373.4%9231,0621.5%46.0▲0.1%
20098,5112.1%9261,0912.7%45.8▲0.2%
20108,7622.9%9231,0980.6%45.4▲0.4%
20118,751▲0.1%9341,051▲4.3%46.00.6%
20129,0673.6%9131,045▲0.6%46.80.8%
20139,4724.5%8841,025▲1.9%48.01.2%

[ムック推定販売金額は1025億円で、前年比1.9%減だが、販売部数は1億1460万冊と1.0%増である。しかし新刊点数が9472点と4.5%増となっていることからすれば、実質的にはマイナスだと見ていい。

しかも平均価格は初めて900円を割り込み、廉価ムックの比重が高くなっているとわかる。それに加えて、返品率は48.0%と最悪で、今年の推移から考えると、ムック返品率は50%を超えてしまうかもしれない。

この十数年の新刊点数、販売金額に明らかなように、新刊点数は2000点近く増えているのに、販売金額は300億円のマイナスをたどっており、週刊誌や月刊誌の落ち込みをムックで埋めるどころか、ムックそのもののマイナスの歯止めにもなっていない。

さらにまた文庫の8500点を超える新刊点数と高返品率は、今後雑誌危機のコアに至る問題となりかねないだろう。

ムックに対して、取次による総量規制が実施されているという話は伝えられていないにしても、それも時間の問題のように思われる]

2.アルメディアによる14年5月1日現在の書店数調査が出された。

■書店数の推移
書店数減少数
199922,296
200021,495▲801
200120,939▲556
200219,946▲993
200319,179▲767
200418,156▲1,023
200517,839▲317
200617,582▲257
200717,098▲484
200816,342▲756
200915,765▲577
201015,314▲451
201115,061▲253
201214,696▲365
201314,241▲455
201413,943▲298
[ついに書店数は1万4000店を割り込み、1999年に比べれば、9000店の減少を見たことになる。本クロニクル67で、セブン-イレブンが1万5800店に及び、すでに12年時点において書店数を上回ってしまったことを既述しておいた。それを象徴するように、最近「セブン-イレブンは街の本屋になります」というテレビCMが流れ、書籍と雑誌注文もできることを宣伝している。

その一方で、日書連加盟店は4224店となり、こちらも1990年には1万2558店を数えていたわけだから、8300店が消えてしまっている。そのことによって、現在の日書連組織率は32%となり、書店の主流がナショナルチェーンの大型店で占められ、かつての街の書店がほとんどなくなってしまった状況を示している。

しかしナショナルチェーンの大型店の閉店も多く生じているはずで、13年の日販の取引書店数は130店、トーハンは68店がマイナスとなっている。またこれは3月までのデータなので、断定はできないにしても、書店閉店数は13年を上回るもので、3月には111店という3桁に及んでいる。つまり3月は1日に3店以上が閉店、撤退していたことになり、4、5月がどうであったかが気になるところだ]

3.『人文会ニュース』117号が人文会45周年記念特集を組み、そのシンポジウム講演である岩波ブックセンターの柴田信の「町と書店と―神保町で人文書を売る」を掲載している。これはきわめて簡潔に書店と人文書の危機を語っているので、その発言を抽出紹介してみる。

 書店の危機とは一体何でしょうか? 本屋さんは地殻変動という言葉を言ってもいいぐらい根底から危ないというところにきています。名前は挙げませんけれども、わりと大きな書店の社長さんが老いてきて、娘さんのお婿さんに後をやってくれとなった。その人は商社に勤めていたからいろいろ分析してみたら、とてもこんなものはやっていられない、株を売ってしまえと。それで大取次さんのものになってしまった。そのくらい根源的な問題です。

 駅前の本屋さんがなくなるもう一つの理由は、十二回転以上する雑誌が売れなくなったことですね。売れなくなると資金繰りに困ってくる。弱小書店は資本も少ないですから、どんどん厳しくなっていく。北海道などは小さな本屋はほとんどなくなりました。その代わり、すごくでかい本屋がいっぱい増えるけれど、町の書店さんはなくなっていく。

 まさに地殻変動です。資本関係で、どうしても苦しくなって経営権を譲渡してしまったり、系列下に入ったり、統合化しなくてはならなくなったりします。ということは経営の危機と同時に売り場や売り場にいる人の危機でもあるのです。

 必然的に低い回転率の人文会の本はそこになくなるということです。だから、人文会はそのことを深刻な危機だと、一緒に思ってくれないと。例えば神戸の海文堂がなくなったら、「あれはいい本屋だったなあ」「俺はあの本屋好きだったんだよ」と言っても始まらないんですよ。現場がなくなっちゃうんだから、「懐かしい本屋だったねえ」と、そんな悠長なこと言ってられないですよ。そうじゃなくて、書店の危機というのは資本の危機から経費の節約に繋がり、それは、繰り返しますが販売現場が危ないということです。だから、合理的経営を目指す方が入り、本屋をやっていこうとなったときに一番最初に考えることは回転率の低いものは不要という話になります。人文書?「回転率が低いからいらないよ」ってなっちゃうんです。だから人文会の危機なんです。

[いうまでもなく、柴田は書店界の長老で、池袋の芳林堂時代から半世紀にわたって人文書販売に携わってきたことになる。

彼の言を私なりに補足すれば、これまでの書店は雑誌の高回転率に支えられ、人文書を売ってきたが、雑誌の衰退によってそれも不可能になってきている。その中で人文書を売っていく書店を存続させるためには、現在の取次システム、及び再販委託制下では無理であるから、直取引による正味と決済の見直しを考えるしかないということに尽きるであろう。

これらのことも含め、あらためて柴田にも「出版人に聞く」シリーズに登場を願おうかと考えている。ちょうどシリーズ7 『営業と経営から見た筑摩書房』の菊池明郎も、「人文会は私を育ててくれた場だった」を寄稿しているからだ。

なお『人文会ニュース』は柴田の講演の他に、書店員によるシンポジウムや人文書棚をめぐる寄稿も掲載されているので、こちらに問い合わせてほしい]
営業と経営から見た筑摩書房

4.CCCはTSUTAYAと蔦屋書店740店舗の書籍雑誌販売金額が19年連続成長で、過去最高の1157億円、前年比4.3%増になったと発表。

[このことに関連して、本連載71 にも書いておいたが、重要な事実なので、再びふれてみる。

この1157億円はグロスの金額としては大きいけれども、一店舗当たりにすると、年商1億5600万円、月商1300万円である。これは1990年代の80坪クラスの郊外型書店の売上高であり、現在の複合大型店とすれば、採算ベースの売上高なのかどうか疑問に思える。ちなみにレンタル売上高は1143億円で、初めて出版物販売金額が上回ったとされる。それでも出版物の販売はメインではなく、複合化によって利益を上げているので、それでもかまわないということになるのだろうか。

これも本連載67 で既述しておいたが、セブン-イレブンの「1店当出版物売上高」が540万円で、月商に換算すれば、50万円に満たない。取次の通常の書店取引から見て、50万円以下では口座すらも開けないのに、それがコンビニにおいて可能になっているのは、本部とのグロス取引ゆえであろう。したがってトーハンはセブン-イレブンだけでも1万5000店、取次全体で8万5000店のコンビニを抱え、これらも大半が取次にとって単店では利益があがる構造になっていないし、さらに雑誌売上が落ちこめば、コンビニにおける売場自体の存続が問われることになるかもしれない。

それと同じことがTSUTAYAと蔦屋書店にもいえるであろう。複合のDVDレンタルによる収益が確保されている間は大型店とフランチャイズシステムの増殖も可能だが、そのバランスシートが崩れてしまえば、出版物売上で大型店を支えることができない。

CCCは超大型店を100店にまで拡大し、19年度には書籍雑誌販売金額を1500億円に拡大するとしているが、レンタルが主で、出版物販売のマーチャンダイジングが確立されていない傘下書店の状況を考えれば、困難であろう。

トーハンにとってセブン-イレブン、日販にとってCCCがチェーンオペレーショによる展開で、メインの取引先へと成長してきたけれども、雑誌売上の凋落とチェーンオペレーションのコアであるレンタル、さらに訴訟も起きているフランチャイズシステムの行方を問う時期に入っているのではないだろうか]

5.三洋堂HDが連結決算を公表し、売上高253億円で前年比3.4%減、固定資産減損損失の計上もあり、当期純損失は3700万円の赤字。

[三洋堂といえば、1975年に最初の郊外店を出したことで知られ、近年は文具や雑誌、セルやレンタル、ゲームや古本なども組み合わせたブックバラエティストア化を推進していた。

しかしメインの書店部門、セル、レンタル部門が落ちこみ、減収となり、15年度も売上高244億円、前年比3.6%減とマイナス予想となっている。

取次による第三商材としての文具や雑貨の導入が仕掛けられているが、複合化の範であったヴィレッジヴァンガードも13年後半に既存店売上が4.9%減少し、売れ残りをアウトレット商品とし、半額以下で売る「ヴィレッジヴァンガード」の出店、多店舗が伝えられている。
その一方で、超大型複合店を展開する北海道釧路市のコーチャンフォーが東京稲城市の京王相模線若葉台駅前に2000坪で、10月に開店すると発表されている]

6.『新文化』(5/22)が「新生・大阪屋 新たな取次像とその構想」と題し、大竹深夫社長にインタビューしているので、それを要約してみる。

* 新生大阪屋の新たな取次像と構想についてはいままさに模索しているところだが、基本的に大きく変わらないにしても、ネット書店に負けない物流スピードと充足率は絶対必要だ。

* 街のリアル書店を活性化させ、読者に満足をしていただけるように、今日注文した本が明日届くような取次になりたい。

* 注文流通に関しては、再生委員会6社に協力をお願いし、全国書店の客注品に対応できるインフラ的機能を有する在庫センターを検討している。

* 大阪屋直営のマルノウチリーディングスタイルが堅調に推移しているので、本以外の商材も取りこみ、そういった提案や物流も行えるようにしたい。

* 再生委員会は出資予定のKADOKAWA、講談社、集英社、小学館、DNP、楽天の6社トップからなり、サポート委員会は再生委員会各社から2名ずつ参加し、そこに大阪屋とコンサルティング会社が加わったもの。サポート委員会の下にワーキンググループを設け、書店や出版社にヒアリングし、大阪屋に期待することなどを話し合っているので、6月の株主総会でスキームを報告したい。

* 増資は秋をめざしているが、正式にはまだ決まっておらず、それに向けてサポート委員会で財務事業計画を検討している。

* 社員のリストラは3月末に締め切ったが、全体で160名ほどになる。しかし物流はアウトソーシング、書店営業は組織再編を行うので心配はいらない。

* 本社と東京支社の売却益は想定以上のものになったので、来期の決算はよくなると思うが、今期は厳しい数字になる。

[まだあるけれど、このぐらいで止めておく。要するに「新生・大阪屋」のスキームも具体的な増資金額も、肝心なことは何も決まっていないといっているに等しい。

で柴田信が書店の危機感と、人文会の各出版社の危機感が共有されていないことがまず問題だと始めていたが、この大竹の発言からは取次、しかも新生大阪屋をめざす社長としての危機感が、取引先の出版社や書店とも共有されていないのではないかと思えてくる]

7.KADOKAWA とドワンゴが経営統合。

[出版社とIT企業が合体し、コンテンツとプラットフォームの融合化によって、アニメ、ゲーム、電子書籍のシナジー化、世界に類のないコンテンツプラットフォーム化の実現と謳われている。これは10年に角川歴彦が著わした『クラウド時代と〈クール革命〉』のひとつの帰結ということになろう。

今回の統合はクールジャパン、国家プロジェクトとしてのクラウド「東雲計画」の後に行き着いた自前のプラットフォームの構築の具体化と見なせるが、角川は川上量生という若きIT企業経営者とともに手を携え、「21世紀のイノベーション」を起こすことができるであろうか。
ただそれはひとまずおくにしても、これでKADOKAWAの大阪屋への増資は消えたように思われるし、角川の持論だったリアル書店との提携も後退したと判断したほうがいいだろう]
クラウド時代と〈クール革命〉

8.日本ABC協会による2013年下半期雑誌販売部数レポートで、デジタル版47誌も報告されるに至っている。とりあえず1000部以上の24誌を挙げておく。

■ABCデジタル雑誌部数報告誌  2013年7〜12月
順位誌名発行社販売部数
1日経ビジネス日経BP社23,523
2Mac Fanマイナビ6,750
3日経TRENDY日経BP社6,064
4週刊アスキーKADOKAWA5,808
5Get Navi学研パブリッシング3,731
6Mac PeopleKADOKAWA3,600
7ニューズウィーク日本版阪急コミュニケーションズ3,537
8週間東洋経済東洋経済新報社3,246
9Begin世界文化社3,166
10日経エレクトロニクス日経BP社2,872
11日経コンピュータ日経BP社2,850
12文藝春秋文藝春秋2,730
13DIME小学館2,658
14ナショナルジオグラフィック日本版日経ナショナルジオグラフィック社2,008
15プレジデントプレジデント社1,679
16日経パソコン日経BP社1,599
17週刊プレイボーイ集英社1,500
18SPA!扶桑社1,472
19日経ビジネスアソシエ日経BP社1,354
20Gainer光文社1,206
21BAILA集英社1,157
22ESSE扶桑社1,116
23MENS'NON・NO集英社1,021
24日経アーキテクチャー日経BP社1,008
[この販売部数をどう見るかだが、鳴り物入りで喧伝された電子書籍時代の雑誌部数としては少ないというしかないだろう。

しかも1000部以上の雑誌のうちで、7誌が日経BP社、それにパソコン誌や経済誌を含めれば、半分ほどがビジネスマンによる購入である。表にない女性誌などを見てみると、『MORE』585、『non・no』452、『SEVENTEEN』299、『家庭画報』246、『おとなの週末』448といった数字で、大手出版社の雑誌ですらもまったく売れていないに等しい数字が挙がっている。

文教堂の「空飛ぶ本棚」などの、書店での電子雑誌販売もプロパガンダされているが、実際の数字は伝わっていない。

での疑問を繰り返すならば、KADOKAWAとドワンゴの統合が電子書籍における「21世紀のイノベーション」となるのであろうか]

9.ブックオフの決算も出された。売上高791億円、前年比3.2%増。営業利益20億円、純利益9億円。

[そのうちのブックオフ事業は536億円、前年比2.2%増で、29店を閉店して当期純利益にマイナスが生じたものの、まだ売上高には反映されていない。

やはりブックオフ問題は今期の15年に集約されると思われる。それは本連載72で記しておいたように、筆頭株主となったヤフーと資本・業務提携による1000万冊に及ぶ「ヤフー・オークション」構想、株主の講談社などとの関係の行方、フランチャイズ下にある店舗問題などが絡み合って進行していくだろう]

10.『週刊新潮』(5/29)に「水嶋ヒロ」小説家デビューの仕掛け人! 石もて追われた独裁者!」とされる「『ポプラ社』前社長の解任と蒸発と自死」が掲載されている。

それによれば、坂井宏先前社長は長きにわたる独裁の果てに、昨年11月の取締役会で解任され、3月に地位保全の反撃に及んでいた矢先、行方不明となり自死して発見されたという。3代目社長として売り上げを倍にしたものの、解任された理由は会社の私物化、目に余る横暴ぶり、パワハラ、セクハラ、公私混同、出版決定権の集中などに及ぶ独裁者ぶりに加え、物忘れが激しく、業務に支障をきたすほどだったからだとされる。

『出版状況クロニクル3』で、坂井による書店の図書館入札制度はやめるべきだとの発言を紹介しておいた。また本連載50において、トーハンの社長人事をめぐって坂井就任案が出され、その怪文書も絡む内紛で「トーハンの上瀧天皇」が退任し、現在の藤井武彦が社長就任に至ったことも記しておいた。
それに加え、児童書に関するインタビューも用意しつつあったので、坂井を取り巻く周辺事情は複雑であることを承知していたが、まさかこのような事態に至るとは予想もしていなかった。

業界誌などでは病院で亡くなったと報道されているので、『週刊新潮』の記事が出なければ、知らずにいたことになる。

それにつけても考えさせられるのは、記事にある水嶋ヒロの『KAGEROU』のポプラ社小説大賞受賞の内幕である。これは「ある出版プロデューサーから持ち込まれたもので、華々しく大賞を受賞させたうえで大々的に売り出すというシナリオが坂井さんの鶴の一声で決まっていた。目論見通り、100万部を超えるベストセラーになった」ことになる。

このような賞にヤラセはつきものだけど、ミリオンセラーになったことが「独裁者」ぶりに拍車をかけたに相違ないし、そのとおりにベストセラーになってしまう出版市場の現在の状況そのものが浮かび上がってくる]

『週刊新潮』(5/29) 出版状況クロニクル3 KAGEROU

11.『出版ニュース』(5/上旬)が「世界の出版統計」を掲載しているので、欧米の出版状況をトレースしておく。

* アメリカ/2012年出版社総売上は271億ドルで、前年比0.9%減。ちなみに08年265億ドル、09年271億ドル、10年279億ドル、11年272億ドル。ただこれは2000の出版社による数字で、出版市場全体を表すものではない。

* イギリス/2012年の出版社売上高は29億330万ポンド、09年は30億530万ポンド、10年は31億150万ポンド、11年は29億670万ポンド。

* ドイツ/2012年書籍販売業者総売上高は95億2000万ユーロで前年比0.8%減、11年は96億100万ユーロ。

* フランス/2012年書籍市場総売上高は41億3000万ユーロで、前年比1.2%減。

[欧米の出版統計は様々にあって、どれによるのが最もふさわしいのかは判断できないが、このように売上高の数字を挙げただけでも、欧米の出版業界が成長はしていないにしても、微減であるし、横ばい状態の売上高を保っていることがわかる。

それゆえにこれも本連載で繰り返し述べてきているけれども、ドラスチックな出版危機に追いやられているのは日本だけであるとはっきり認識できるはずだ]

12.赤田祐一/ばるぼらの『20世紀エディトリアル・オデッセイ/時代を創った雑誌たち』(誠文堂新光社)が出された。

[これは雑誌フリークといっていい著者たちによる、雑誌とエディトリアルをめぐる一大カタログである。20世紀と銘打たれているが、1960年代以後のマイナーな雑誌がコアとなっていて、今になって思えば、20世紀後半の日本がまさに雑誌とそれに寄せる愛情の時代だったことを実感させてくれる。そしてマイナーな雑誌こそが時代を予測していたことも。

最近私も冬樹社の『カイエ』、加賀山弘を編集者とするニューミュージックマガジン社の『ヘビー・ピープル123』『ハッピーエンド通信』、それに続く『par Avion』のことを書いたばかりだし、(『日本古書通信』6月号)、先月も井家上隆幸へのインタビューで、『週刊F6セブン』について聞いている。後者は私たちの世代にとって、『週刊平凡パンチ』と並ぶ雑誌であった。

この一冊を読んでいると、前回言及した雑誌のマガフェス「超刊号」にまったく欠けているのが、雑誌に対する思い入れと愛情だとわかる。雑協に加盟する出版社は必読、必備の一冊として、『20世紀エディトリアル・オデッセイ/時代を創った雑誌たち』を買うことをお勧めする]
『20世紀エディトリアル・オデッセイ/時代を創った雑誌たち』カイエ 

13.『週刊ポスト』(5/9・16)が1985年に創刊され、2000点を突破したフランス書院文庫に関して、「熟女たちが濡れて乱れる『フランス書院文庫』の官能世界」特集を組んでいる。

[フランス書院は三笠書房の子会社で、この文庫は低返品率を誇る出版社のドル箱にして、書店や古本屋でも人気の高いものだった。それがついに2000点に達したことをこの特集で知らされた。岩波文庫が70年かけて5000点であるので、フランス書院文庫もそれに匹敵する点数を出してきたことになる。

日本の出版業界を支えてきたアブノーマル雑誌や倶楽部雑誌について、飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』や塩澤実信『倶楽部雑誌探究』を刊行したが、ポルノ小説のフランス書院文庫も同時代の文化やセクシュアリティに大きな影響を与えたシリーズと見なさなければならない。おそらくアダルトビデオの世界と直結していると思われる。

それから著者たちのプロフィルはほとんど明らかにされていないが、特集にも出てくる文庫の第一作『叔母・二十五歳』の著者鬼頭龍一の本業は哲学者であり、その他にも本業で食えない多くの著者たちがこの文庫を収入源としているはずだ。それはこの文庫の起源が翻訳ポルノ小説にあったこととも関連している。

これから書かれなければならないポルノ出版、小説史のためにも、フランス書院には『フランス書院文庫1985−2014解説総目録』を編んでほしい。

なお私は未読だが、現在の人気ナンバーワン作家は、記念すべき2000点目『義母と甘えん坊な僕』を上梓した神瀬知巳で、作品と読者について、彼は「たった一行でも手を抜けば、読者が離れてしまいます」と語っている。近いうちに読んでみることにしよう]

『週刊ポスト』(5/9・16) 『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』 倶楽部雑誌探究  『義母と甘えん坊な僕』 

14.松山俊太郎が亡くなった。

 今年の初めに、内藤三津子『薔薇十字社とその軌跡』の出版打ち上げに、彼女と松山と私の三人で温泉旅行を計画し、彼に連絡をとったところ、所在不明となっていて実現できなかった。後に判明したのだが、その時すでに病院に運ばれていたのである。

 内藤によれば、『血と薔薇』関係者で残ったのは彼女と松山だけであり、その松山も亡くなってしまったことになる。

 私は彼に近代日本における仏教書と宗教書出版、とりわけ大正時代の『世界聖典全集』に関して、ずっとインタビューしたいと考えてきた。そのような機会も失われてしまった。本当に残念であるが、ご冥福を祈るしかない。

『薔薇十字社とその軌跡』 血と薔薇 世界聖典全集

15.「出版人に聞く」シリーズは植田康夫へのインタビュー『「週刊読書人」と戦後の書評史』を終え、井家上隆幸『三一新書の時代』は編集中、原田裕『戦後の講談社と東都書房』は6月末刊行予定である。

《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店 書評紙と共に歩んだ五〇年
薔薇十字社とその軌跡 名古屋とちくさ正文館 『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』 倶楽部雑誌探究

以下次号に続く。