出版状況クロニクル74(2014年6月1日〜6月30日)
5月の出版物推定販売金額は1125億円で、前年同月比5.0%減である。その内訳は書籍が同6.0%減、雑誌は同4.2%減である。雑誌のうちの月刊誌は同1.5%減だが、これはコミックス『NARUTO』 『暗殺教室』 『黒子のバスケ』 『亜人』 『進撃の巨人 悔いなき選択』 の好調な売れ行きに支えられたもので、週刊誌に至っては同13.8%減と大幅に落ちこんでいる。
返品率はさらに上がり、書籍が43.4%。雑誌が42.9%となっていて、雑誌のほうは近年かつてない高返品率に達してしまった。このような状態が続けば、ガソリン代の上昇もあり、再販委託制に基づく流通システムそのものがパンクしてしまうかもしれない。これがいかに異常な事態であるか、1 の表の返品率と照らし合わせてほしい。
このところ「出版人に聞く」シリーズのインタビュー者は高齢者が多く、出版業界の1950年代から60年代にかけての出版業界のことが中心になっている。そしてインタビューしながらいつも思うのは、その時代には出版をめぐるコミュニティが確固として存在していたという実感である。それは著者も出版社も取次も書店も読者もつながっていたという事実でもあり、それらが失われてしまったゆえに、現在の出版危機が招来したと考えざるをえない。
1.『出版ニュース』(6/中)に、『出版年鑑』による実売金額に基づく書籍・雑誌の発行推移が掲載されているので、それを引いておく。
■書籍・雑誌発行推移 年 新刊点数
(万冊)書籍
実売総金額
(万円)書籍
返品率
(%)雑誌
実売総金額
(万円)雑誌
返品率
(%)書籍+雑誌
実売総金額
(万円)前年度比
(%)1996 60,462 109,960,105 35.5% 159,840,697 27.0% 269,800,802 3.6% 1997 62,336 110,624,583 38.6% 157,255,770 29.0% 267,880,353 ▲0.7% 1998 63,023 106,102,706 40.0% 155,620,363 29.0% 261,723,069 ▲2.3% 1999 62,621 104,207,760 39.9% 151,274,576 29.9% 255,482,336 ▲2.4% 2000 65,065 101,521,126 39.2% 149,723,665 29.1% 251,244,791 ▲1.7% 2001 71,073 100,317,446 39.2% 144,126,867 30.3% 244,444,313 ▲2.7% 2002 74,259 101,230,388 37.9% 142,461,848 30.0% 243,692,236 ▲0.3% 2003 75,530 96,648,566 38.9% 135,151,179 32.7% 231,799,715 ▲4.9% 2004 77,031 102,365,866 37.3% 132,453,337 32.6% 234,819,203 1.3% 2005 80,580 98,792,561 39.5% 130,416,503 33.9% 229,209,064 ▲2.4% 2006 80,618 100,945,011 38.5% 125,333,526 34.5% 226,278,537 ▲1.3% 2007 80,595 97,466,435 40.3% 122,368,245 35.3% 219,834,680 ▲2.8% 2008 79,917 95,415,605 40.9% 117,313,584 36.3% 212,729,189 ▲3.2% 2009 80,776 91,379,209 41.1% 112,715,603 36.1% 204,094,812 ▲4.1% 2010 78,354 88,308,170 39.6% 109,193,140 35.4% 197,501,310 ▲3.2% 2011 78,902 88,011,190 38.1% 102,174,950 36.0% 190,186,140 ▲3.7% 2012 82,204 86,143,811 38.2% 97,179,893 37.5% 183,323,704 ▲3.6% 2013 82,589 84,301,459 37.7% 92,808,747 38.7% 177,110,206 ▲3.4% [取次ルート出回り金額をベースとする出版科学研究所の13年推定販売金額は書籍が7851億円、雑誌が8972億円、合計が1兆6823億円であるので、差異が生じてしまうにしても、マイナスがパラレルなのは一目瞭然である。
本クロニクル62 において、12年度の数字から雑誌危機が加速していくであろうと記しておいたが、今年はそれがさらにエスカレートし、9000億円を割り込むことになろう。
さらに13年の雑誌売上高から、これは出版科学研究所の数字だが、コミック売上の2231億円を引けば、7049億円となる。つまり書籍よりも雑誌が売上において下回っていることを示している。これは大量生産、大量消費の雑誌に基づく再販委託制の終わりを告げているのだ。
日本の近代出版流通システムは雑誌をベースにして立ち上がり、それに書籍が相乗りして稼働してきたこと、また戦後の再販委託制度も雑誌売上によって支えられてきたことを本クロニクルでも繰り返し言及してきた。
ところがもはや雑誌が書籍を支えるどころか、それはかろうじて『ワンピース』や『進撃の巨人』といったコミックの大ヒットによってカバーされているにすぎない。
それゆえに現在の出版危機を打開するためには、書籍に対する時限再販の導入とそれに伴うマージン体系の改革が残された唯一の手段だと考えられる。そうして書店のマージンアップを図り、書籍販売によって小資本であっても書店営業を可能にする道を開くこと、新規加入のハードルを低くすること、新刊と古本の垣根を取り払う道を模索することへとつなげていく。たとえそれが一時的にはアマゾンやナショナルチェーンを利するかもしれないが、可能性のある小書店をサバイバル、もしくは出現させるための選択肢に他ならないだろう。
書協、雑協、取協、日書連、JPO、JPICなどによる、実現するはずもない出版物への軽減税率適用、電子書籍の推進、マガフェスへの取り組みが出版業界を救うことにならないと断言していい。これらは雑誌と書籍に関する出版史と読書史をふまえた危機分析、それに基づくビジョンから提出されたものではないからだ。かくして出版危機は深まっていくばかりなのだ]
2.1 には出版社推移も掲載されているので、それも引いておく。
■出版社数の推移 年 出版社数 1992 4,284 1993 4,324 1994 4,487 1995 4,561 1996 4,602 1997 4,612 1998 4,454 1999 4,406 2000 4,391 2001 4,424 2002 4,361 2003 4,311 2004 4,260 2005 4,229 2006 4,107 2007 4,055 2008 3,979 2009 3,902 2010 3,817 2011 3,734 2012 3,676 2013 3,588 [あらためて確認してみると、出版物売上高がピークだった1996年前後が最も多く、売上高が落ちこんでいくにつれ、出版社もまた減少していったことがよくわかる。
97年の4612社に対し、2013年は3588社であり、書店ほどではないにしても、出版社も数多く消えていったのである。それらに関しては能勢仁、八木壮一著『昭和の出版が歩んだ道』(出版メディアパル)所収の「出版社盛衰記」に詳しいので、よろしければ参照されたい]
3.大阪屋の決算が出された。売上高は767億円で前年比176億円のマイナスで、当期純損失13億7400万円。売掛債権など見直しにより債務超過56億円となる。2002年からの大阪屋売上高の推移を表化してみる。
■大阪屋売上高の推移 年 売上高
(億円)前年比 2002 1052 2.9% 2003 1077 2.3% 2004 1074 ▲0.3% 2005 1093 1.8% 2006 1205 10.2% 2007 1257 4.3% 2008 1280 1.8% 2009 1281 0.1% 2010 1257 ▲1.9% 2011 1268 0.9% 2012 1199 ▲0.5% 2013 948 ▲20.9% 2014 767 ▲18.7% [大阪屋の売上がアマゾンとの取引によって伸びていたことは自明であり、それが日販に奪われ、またブックファーストのトーハンへの移行によって、13、14年とドラスティックなマイナスと債務超過状態へと追いやられたことになる。2年間のマイナスは432億円に達し、しかもまだそれは続くだろう。この事実は取次の依存度が一社に集中し、その帖合変更、もしくはその凋落が起きた場合、ひとたまりもないことを教えてくれる。それが日販にとってはCCC=TSUTAYA、トーハンにとってはセブン‐イレブンで、大阪屋の例は他人事ではないのである。
これに対し大阪屋は本社の売却と希望退職者160人のリストラにより、180人体制で来期735億円の売上高を目指すとされている。14年の売上高内訳は書籍467億円、雑誌291億円と、他の取次に比べ、アマゾンやジュンク堂の関係から書籍シェアが群を抜いて高い。第3商品に当たるその他は16億円しかない。
出版状況から考えても、雑誌売上を伸ばすことは困難だし、その他にしてもシェアから見れば大きく育てることも同様であろう。ということは書籍売上を伸ばす以外にないのであるが、このような取次のリストラ状況の中ではこれも困難だというしかない。
したがって大阪屋をサバイバルさせるために必要なのは、第三者割当増資による資本強化よりも、まず書籍のマージン体系の見直しである。はっきりいえば、大阪屋のサバイバルは増資するとされている講談社、小学館、KADOKAWAなどがそれを実行するかにかかっている。それ以外の対応は弥縫策でしかないであろうし、すでにその実例を鈴木書店に見てきている。
しかしもし大阪屋に新マージン体系が導入された場合、それは他の取次にも波及していくことになるわけだから、その決断を大手出版社の経営者たちが下せるか、それが大阪屋危機の最重要問題だと思われる。またそのように進んでいかない限り、大阪屋危機のみならず、出版危機もさらに深刻化するばかりだろう]
4.トーハンの売上高は4925億円と前年比0.2%増と8年ぶりの増収だが、文具、雑貨などのMM商品の伸びに支えられたもので、出版物売上は同3.6%減。
[3 の大阪屋と比較する意味で、売上高内訳を挙げてみると、書籍1862億円、コミックを抜いた雑誌1908億円、コミック569億円である。書籍シェアは37%で、大阪屋の書籍シェアの高さがわかるだろう。それからトーハンの場合、特筆すべきは雑誌売上43%がコンビニで、それが8.8%減となっていることだ。
また返品率は書籍40.6%、雑誌43.6%とともに40%を超えていることで、今年に入ってからトーハンが明らかに日販と同様に総量規制を実施している理由をうかがわせている。
これは零細小出版社にはほとんど関係がないし、実体の詳細も不明だが、大手出版社の場合、注文分はもちろんだが、新刊委託分に関しても翌月支払いがあり、それは出版社によっては30%から100%まで分かれているようだ。しかも創業の古い出版社は100%支払いが多いとされている。このメカニズムは売れても売れなくてもとりあえず新刊を取次に入れれば、その金額は翌月入金になるというシステムで、大手出版社を始めとする金融はこれによっているのである。
それが総量規制の導入によってどうなるかといえば、日販の例でいうと、新刊部数の取り分を大きく減らすことになる。つまり取次の総量規制は出版社の資金繰りに大きな影響を与えてしまうのである。日販のみならず、トーハンもそれにならっているわけだから、これまで優遇されてきた出版社の資金繰りはものすごくタイトになってきているのではないだろうか]
5.日販の売上高は単体で5667億円、前年比2.5%減、減収減益。連結で6819億円、同3.2%減。
[日販の連結決算で注目すべきはMPDが2年続けてマイナスで、ついに2000億円を割りこんだことだろう。06年にCCC=TSUTAYAのために設立されたといっていいMPDの売上は、12年の2094億円をピークに13年2061億円、14年1992億円、前年比3.4%減となり、2年連続のマイナスでもはや成長は終わったと見なせよう。皮肉なことにTSUTAYAの書籍雑誌販売金額が1157億円と過去最高になっているにもかかわらず、MPDは減収減益となっている。
その売上高内訳は「BOOK(書籍雑誌)」1031億円、同1.1%増、「AVセル」329億円、同15.8%減、「ゲーム」202億円、同3.8%減、「レンタル」306億円、同3.0%減で、CD、DVDのセル、レンタルの落ちこみが原因だとわかる。
それに対して、CCCは超大型店100店構想、「BOOK」1500億円への拡大を打ち出しているが、レンタルの凋落によって、新たなFC店の増加は難しく、既存のFCシステムの維持もまた困難なターニングポイントを迎えていると思われる]
6.地方・小出版流通センターの決算も出され、総売上高13億908万円で、前年比8.53%減。他の取次と異なり、「地方・小出版流通センター通信」No454に肉声が掲載されているので、それを引いてコメントに換える。
2013年度の決算報告をします。本当に厳しい状況で売上が8.5%のダウンです。取次出荷の9.7%もの減少は深刻です。経費を6.4%切り詰めましたが、営業損益は2,460万円のマイナスで、ほぼ二ヶ月分の経費が出ていません。
今年も営業外収入1,652万円計上し、当期利益は531万円の損失となりました。積立て金の損失算入も限界があり、今年の売上げ状況を見つつ、規模の縮小など検討せざるを得ないと思います。
ただ、既存取次店などが採算に合わないということで設立した当社ですので、機能の他への移転はともかく完全停止はなんとか避けねばと思っています。
7.『出版ニュース』(6/上)にJPOの永井祥一専務理事・事務局長による「経済産業省補助事業/コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)とは何であったか」が掲載されている。
[これは本クロニクル72 などでも既述してきた緊デジに対する『河北新報』の批判、書目選定審査委員長永江朗による内幕告発、5月22日に仙台で開かれた永江と仲俣暁生による批判イベント「〈緊デジ〉ってなに!?」に対して書かれた一文と判断していい。このイベントレポートは「緊デジを振り返りながら」を参照されたい。
しかしこれは緊デジの税金が東北へ還流したこと、書目申請は審査委員会で基準を設け、出版社の決定によることなどが垂れ流し的に書かれているだけで、要約する気にもなれない。しかもこの一文は出版業界、東北の人々、納税者に向けて書かれているのではなく、単に経産省に対して、JPOはこのように対応していますというアリバイ的一文にすぎない。それは次のような永井の言葉が証明していよう。
「どのような事業であれ、上手くできたとしても、必ずどこかに課題は残るはずです。それらを検証して次回の政策立案に活かされるように残せば、官僚の人達もきっと考慮してくれると思いました。」
緊デジとJPOの真意はこの言葉に尽きていよう。本当に何をかいわんやである。そして反論にもなっていないこの一文で幕引きを図ろうとする意志が透けて見える]
8.KADOKAWAと経営統合を決めたドワンゴの川上量生会長が『日経ビジネス』(6/16)、『週刊エコノミスト』(6/24)、『週刊ダイヤモンド』(6/28)と立て続けにインタビューに応じている。ここでは『週刊ダイヤモンド』のそれを紹介しておこう。
会見で編集者とエンジニアが一体となり、コンテンツを制作する時代がくるという話がありましたが、出版業界の将来像をどう見ていますかという質問に対して、川上は次のように答えている。
「そこに明白なビジョンを出せる人は居ないと思います。出版業界がインターネットの時代に対応していかなければならないのは明白ですが、グーグルやアマゾン・ドットコム、アップルのプラットフォーム上にコンテンツを提供しているだけでは、生き残れないでしょう。彼らのルールの中でやっていくことになるからです。
ただそこ以外で収入を得るとなると、コンテンツだけでなく、プラットフォームも共に生み出す力が必要です。両方セットでないといけません。つまり、コンテンツホルダーはネットの分かるエンジニアが居ないと勝負にならないのです。(中略)
同じプラットフォームをつくっても、彼らに勝てるわけがない。やるならば競争の土俵を変えて勝負するしかありません。要するに競合しないということ、そうしたビジネスを探すことです。」
ではKADOKAWAと組み、他と競合しない分野でかつビジネスとはどのようなものなのですかと問われ、川上は率直に答えている。
「そこは、なんとも言えません。統合後の姿が『よく分からない』といわれますが、それはある意味正しいのです。」
[KADOKAWAがドワンゴと統合したとしても、まだ明白なビジョンがあるわけでもないし、新たなビジネスが生まれるかどうかもわからないということを川上は語っていることになろう。
川上のようなプロフェッショナルから見ても、コンテンツとエンジニアとプラットフォームのコラボ問題は運不運もあり、新しいビジネスは容易に生まれるものではないことを伝えている。
とすれば、7 の緊デジはそうしたプロの視点もなく、補助金ありきで進められ、幼稚な即席プロジェクト以外の何でもなかったことになる。それはこれまでの電子書籍問題のすべてに共通しているものなのではないだろうか。
なお川上のもう少し具体的な言及が他のインタビューに示されていることを付記しておく]
9.紀伊國屋書店はアジア地域で出版物などの日本製品のネット通販事業を展開するアジアンベイシスを設立していたが、産業革新機構(INCJ)から6億円の出資を受け、年内にはシンガポールなど6ヵ国地域での事業をスタートさせる。
[官民ファンドINCJ 主導による紀伊國屋の、アジアにおけるリアル店舗とネット通販を組み合わせたバラエティEC事業と見なすべきだろう。
しかし「緊デジ」に象徴的なように、官主導によるこうしたプロジェクトのビジョンにはいかがわしさがつきまとっている。INCJ はクールジャパン戦略に基づく出資だと説明しているが、本クロニクル50 で示しておいたように、それも虚妄でしかないことは明白だ。
またINCJはこれも本クロニクル49 などで既述しておいたが、出版デジタル機構に出資し、電子書籍2000億円の売上をめざすとされていたが、その後出版デジタル機構とそのビジョンの行方はまったくといっていいほど報道されていない。
紀伊國屋の国内での苦戦が伝えられている中で、アジアンベイシスもそのような道をたどるのではないかと危惧する]
10.地図の昭文社の決算も出され、売上高138億円で、前年比5.7%減、純利益4億円。
[これは何気なく見ていたのであるが、その内訳は地図、雑誌、ガイドブックなどの市販出版物部門が73億円、電子部門49億円で、この分野におけるカーナビを始めとする電子化の進化をあらためて認識させてくれた。近年のうちにそれらの売上は逆転するかもしれない。
書店の大型化に伴い、かつての数倍に及ぶ地図、ガイド売場を見ているが、昭文社に限ってもそれらは前年比9.8%減で、本クロニクル65 でもレポートした人文社の破産もそのような状況下で起きたことになる]
11.ヤフーとの提携を受け、ブックオフの松下展千社長が『日経MJ』(5/30)のインタビューに答えている。
[これも要約するほどのものではないが、この人物の露出は初めて目にするので、ここでふれておくことにする。
ブックオフのリアル店舗と「ヤフオク!」のネット販売を融合させたバラエティリユース市場の拡大をめざしているということになろうか。
ブックオフにしても、中古本をコアとしたビジネスモデルから、書店やネット販売と同様に、バラエティショップの方向へと向かっているのだろう]
12.明治古典会の『七夕古書大入札会』の目録が届いた。
[明治古典会会長が旧知の駒場の河野書店の河野高孝であることに驚いたが、この会にしても明らかに世代交代が始まっているのだろう。
それをもうひとつ明らかなのは、目録に書籍がきわめて少ないことで、国会図書館のデジタル配信などの影響を受けていると考えられる。
その代わりに目立つのは草稿、書簡などの肉筆物、版画、絵画、趣味物、浮世絵類で、明治古典会のような市においても、書籍中心というよりもバラエティ化が重視されている印象を受ける。
もっともこれは印象であって、各年の目録を比較対照してのものではないけれど、古書市場も変化を強いられていることの表われではないだろうか]
13.『新文化』(6/19)が「武雄図書館改装から1年2ヵ月の現状」をレポートしている。以下要約してみる。
* CCCを指定管理者とし、13年4月にリニューアルオープンした武雄市図書館はスターバックス、蔦屋書店を併設し、365日オープンすることで、来館者数は14年5月で累計100万を超えた。11年度利用者が25万人だったことを考えると大成功である。
* その一方で地元書店の一店は15〜20%の売上マイナスとなり、他の書店も共存共栄とはならず、売上は悪くなってきている。それに、どうして地元書店からなる図書納入組合からの納品の話が打ち切られ、CCCに決まったのかも真相は不明であるし、「税金を使った公共施設で民間企業が商売をやる」蔦屋書店の併設は、地元書店にも納得がゆくものではない。今後地元書店に図書館内の書店運営を任せるつもりだといっているにしても。
* CCCによる図書館計画は神奈川県海老名市、宮城県多賀城市でも進んでいて、やはり書店併設を予定している。こちらは地元書店と連携するかたちを探ってほしい。[本クロニクル72 で、武雄市長とCCCの幹部が同級生だったことから、CCCが図書館事業に進出したとされているので、それらについてCCCと市長は説明責任があるはずだと既述しておいた。このレポートはどうしてそれに言及していないのか。見て見ぬふりをしているだろう。
しかしこのようなプロジェクトを推進すれば、地元書店に影響を及ぼして当たり前である。図書館面積は述べ530坪、レンタルを兼ねる蔦屋書店170坪で、しかも駐車場170台分、年中無休とくれば、地元の中小書店の売上が落ちることは必至である。それに対して「あれだけの建坪で、地元の書店に影響が出るなんと思わなかった」とか、「地元書店の自助努力が足りないのも現状だ」とかの市長発言は、無責任極まりない官僚体質を物語っている。海老名市や多賀城市も同じ道をたどるのであろうか。
これも同じく72 で書いておいたが、公共図書館3248館と大学図書館1425館、短大図書館204館を合わせると4877館となり、日書連加盟書店4459店を上回ってしまう。すでに公共図書館貸出数が書店販売冊数を超えているし、おそらく公共図書館数だけで、書店を上回る日も近づいている。
東京都書店商業組合によれば、都内の書店数は1001店と大台割れ寸前で、組合加盟率も5割を切る445店となっているようだ。7月はすでに大台割れしているであろう]
14.「出版人に聞く」シリーズ〈14〉の原田裕 『戦後の講談社と東都書房』 は遅れてしまい、7月下旬刊行予定。井家上隆幸 『三一新書の時代』 は編集を終えた。
なお〈9〉の井出彰が 『書評紙と共に歩んだ五〇年』 を補足するものとして、「『日本読書新聞』と混沌の六〇年代」を語っている。これは日本編集者学会発行、トランスビュー発売の 『エディターシップ』3 に掲載されているので、お読みいただければ幸いである。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》