出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル85(2015年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル85(2015年5月1日〜5月31日)

15年4月の書籍雑誌の推定販売金額は1273億円で、前年比4.9%減。その内訳は書籍が5.2%減、雑誌は4.6%減。雑誌のうち月刊誌は2.7%減、週刊誌は12.4%減である。

返品率は書籍が36.0%、雑誌は43.2%である。15年に入って、雑誌返品率は2月の38.5%を除き、40%を超えたままで推移している。ムックの返品率は に示しておいたとおりだ。

書籍実売は、前年の消費増税の大幅減の反動もあって、書籍は3%減だったが、文芸書は15%以上の減、文庫も9%減。雑誌は6%のマイナスで、週刊誌、月刊誌は7%減、ムックは5%減、コミックスは5%減。

返品率の高止まりは出版物の売上の落ちこみと同時に、閉店だけでなく、書店市場の在庫の縮小が起きていることも影響していると思われる。

過剰消費社会の縮小は、ヤマダ電機の今月の37店一斉閉鎖に象徴されているし、アパレルのワールドは今期に400から500店、東京スタイルも260店、これらはいずれも全店舗の15%に当たるが、閉店するという。

いずれの分野においても、バブル出店の清算が始まっていることになろう。



1.『出版月報』(4月号)が「ムック市場2014」特集を組んでいるので、それを引いておく。

■ムック発行、販売データ
新刊点数平均価格販売金額返品率
(点)前年比(円)(億円)前年比(%)前年増減
19996,59911.5%9151,3201.9%43.5▲0.5%
20007,1758.7%9051,3240.3%41.22.3%
20017,6276.3%9311,320▲0.3%39.8▲1.4%
20027,537▲1.2%9321,260▲4.5%39.5▲0.3%
20037,9906.0%9191,232▲2.2%41.52.0%
20047,789▲2.5%9061,212▲1.6%42.30.8%
20057,8590.9%9311,164▲4.0%44.01.7%
20067,8840.3%9291,093▲6.1%45.01.0%
20078,0662.3%9201,046▲4.3%46.11.1%
20088,3373.4%9231,0621.5%46.0▲0.1%
20098,5112.1%9261,0912.7%45.8▲0.2%
20108,7622.9%9231,0980.6%45.4▲0.4%
20118,751▲0.1%9341,051▲4.3%46.00.6%
20129,0673.6%9131,045▲0.6%46.80.8%
20139,4724.5%8841,025▲1.9%48.01.2%
20149,336▲1.4%869972▲5.2%49.31.3%
[ムックの14年推定販売金額は972億円で、前年比5.2%減となり、ついに1000億円を割りこんでしまった。前年マイナスとなったのは新刊点数、販売部数も同様だが、その一方で返品率は上昇していて、週刊誌や月刊誌ばかりでなく、ムックもまた売れなくなっている販売状況が浮かび上がってくる。

しかしもはや返品率49.3%というのは最悪で、週刊誌や月刊紙の40%前後をはるかに超え、取次送品の半分が返品される事態を迎えている。おそらく今年は50%を超えてしまうかもしれないし、それは全体としてみれば、ムックの出版流通システムの破綻を告げることになるだろう]

2.アルメディアによる15年5月1日時点の書店数調査が出された。

■書店数の推移
書店数減少数
199922,296
200021,495▲801
200120,939▲556
200219,946▲993
200319,179▲767
200418,156▲1,023
200517,839▲317
200617,582▲257
200717,098▲484
200816,342▲756
200915,765▲577
201015,314▲451
201115,061▲253
201214,696▲365
201314,241▲455
201413,943▲298
201513,488▲455
[14年に比べて書店の減少はさらに加速している。それは売場面積にも反映され、138万6728 坪で、2万2109 坪のマイナス、前年比1.6%減。

また1990年には1万2558店あった日書連加盟点数は4015店となり、同209店減。

都道府県別の減少を見てみると、東京都が66店、大阪府38店、神奈川県33店が上位を占めている。これは都市部における書店が自社物件、もしくは解約リスクの少ないテナントやインショップで営業していて、それらが閉店していると考えられる。

その他の地方の場合、大半が郊外のロードサイド店舗であり、撤退するに際し、違約金負担が生じてしまうので、赤字になっても直ちに閉店するわけにはいかないのである。もしそれがなければ、さらに多くの書店減少が起いるはずだ]

3.同じくアルメディアによる「取次別書店数と売場面積」も示しておく。2と書店数が異なるのは、売場面積を持たない本部や営業所が除外されているからである。

■取次別書店数と売場面積 (2015年5月1日現在、面積:坪、占有率:%)
取次会社カウント数前年前年比売場面積前年前年比売場面積占有率
トーハン4,8454,558287530,163490,47539,68838.2
日本出版販売4,3154,430▲115632,874633,953▲1,07945.6
大阪屋6981,110▲42283,211116,351▲33,1406.0
栗田出版販売638666▲2861,29566,379▲5,0844.4
中央社405415▲1020,80220,975▲1731.5
太洋社382451▲6931,26852,286▲21,0182.3
その他1,1571,199▲4227,11528,418▲1,3032.0
不明・なし02▲20000.0
合計12,43012,831▲4011,386,7281,408,837▲22,109100.0
[大阪屋の場合、422店の書店が閉店、もしくは帳合変更したことになり、3分の1近くの減少を見ている。しかもそれはまだ続いていて、鳥取のブックセンターコスモチェーン3店もトーハンへと移る。

日販もこのアルメディア調査では115店だが、1年間で196店が閉店し、その6割が不採算であると日販自身が公表している。

トーハンは増えているが、これはブックファーストを始めとする帳合変更などによるものと考えられる。それらのトーハングループ化した書店は、ブックファースト41店、明屋書店80店、スーパーブックス21店などに東京ブッククラブもあり、また6月からは山下書店11店も加わるとされる。

太洋社も69店減り、6月から書籍の新刊送品業務を日販に委託し、すでに雑誌は出版共同流通に委託してあるので、注文品の出荷だけを行なうことになる。

それから書店坪数だが、500坪以上が436店で24.4%、499坪から300坪が923店で24.2%、299坪から100坪が2876店で34.6%となり、100坪以上の書店の占有率が83.2%に達している。

これらの状況は、書店は減る一方だが、大型化し、そのかたわらで取次も隘路に陥っている事実をあからさまに照らし出している]

4.丸善ジュンク堂書店MARUZEN名古屋本店が開店。東海地区最大級の1474坪で外商と連動する拠点としての旗艦店、在庫は120万冊。売上目標は月商1億8000万円。

 『新文化』(5/14)によれば、開店日の4月28日の売上は852万円、29日は1042万円、30日674万円、5月1日619万円、2日736万円、3日721万円、4日669万円とされている。

 なお同社の名古屋栄店はリニューアルを予定し、丸善名古屋セントラルパーク店55坪、ジュンク堂ロフト名古屋店1200坪、ジュンク堂書店名古屋店300坪は棲み分け可能として閉店しない。

[このような開店にあたって、売上目標や初日から1週間の売上が公開されたのは、近年あまりないことなので、それに関していくつか書いてみる。

この1週間の売上を見ると、店売だけで1億8000万円は難しいのではないか。外商も含めた上での目標設定と考えられる。しかしかつてであれば、開店後数年の売上増は確実だったが、現在ではそれがどこまで続くか不確定きわまりない。

売上目標に達したとしても、年商21億6000万円であり、書店在庫10億円とすれば、年2 回転強で、本来なら3〜4 回転、つまり30億円から40億円の売上が目標とされる。このことを考慮すると、最初から開店口座の支払いはまったく想定されておらず、常備の切り換えといったかたちで処理され、支払われないままに営業していくのである。つまり取次が最大の特販条件でフォローしていくことを意味している。

それから新築ビルのテナント料だが、これは借地借家方式の地上7階、地下1階の1500坪近い物件である。おそらく建設費も20億円は下らないはずで、この投資利回りからテナント料を算定すれば、年間2億円、月1700万円ちかくになる。これでは月商売上目標1億8000万円の9.3%に及んでしまうし、それに3年毎の値上げがあれば、10%を超えるテナント料になる。したがってこの出店において採用されているのは、売上目標にそった歩合制テナント料だと見なせよう。

これらの事柄から判断すると、MARUZEN名古屋本店はDNPグループの丸善のブランド、名古屋栄区のビル開発とブランドテナントの相乗化が作用し、好条件のテナント料でスタートしたと考えられる。だがテナント料値上げも含め、様々な拘束が付帯する10年間といった長期契約であることは間違いなく、こちらは変わらないが、売上は変動する。結局のところ、店舗の集約化に向かわざるを得ないだろう。

また丸善ジュンク堂は今期6店の出店も大阪屋を取次とする意向だが、これは丸善ジュンク堂と大阪屋の癒着とされるだろうし、3 で見たように、大阪屋を取次とする多くの書店の帳合変更や閉店にさらに拍車がかかるのではないだろうか。

それならば大阪屋は何のための増資であったかを問われることになろう。それはこのようなDNPグループと丸善のブランド、大阪屋の最優遇の出店条件を背景にして、出店を続ける丸善ジュンク堂書店が、その地域の書店に与える影響も同様で、自社だけのサバイバルのための出店も問われるにちがいない。

DNP丸善との関係の中で、したたかな書店マキャベリストとして変貌したと伝えられる丸善ジュンク堂書店の工藤恭孝社長は、これらの出店を通じて、サバイバルに挑んでいると思われるが、それはどのような結果をもたらすであろうか。

またその一方では、CCCの生活家電と本や雑誌を組み合わせた「蔦屋家電」2200坪、ガーデンラウンジや他業種テナントも配置した梅田蔦屋書店1050坪、有隣堂の本と雑貨とカフェの「STORY STORY」300坪も開店している。これらもどのような行方をたどるのであろうか]

5.4 のMARUZEN名古屋本店の出店と対抗する立場にある古田一晴が『人文会NEWS』(No120)に「ちくさ正文館という本屋」を書き、同店の歴史について語っている。

 ちくさ正文館は1962年に創業し、古田は74年に入社し、その後の40年間にふれ、前半の20年について、時代は追い風で幸せな時代、後半の20年は市内中心部に大型出店が続いた時期で、それによって「本屋シーンが活性化するかに見えたが、そうはならずに人文書店が定着する難しさを思い知らされる」と述べている。

本クロニクル83 でちくさ正文館に古書店のシマウマ書店が出店したことを既述しておいたが、これもMARUZEN名古屋本店に対抗するひとつの選択だったことがわかるだろう。これだけ名古屋に丸善ジュンク堂が出店すれば、「人文書店が定着する難しさ」はあっても、地場の書店は否応なく影響を受けざるをえない。おそらく数年後には名古屋書店状況もドラスチックに変わっているに違いない。古田とちくさ正文館の健闘を願う。

なお
『人文会NEWS』には細見和之「体験的読書案内―世界の戦後七〇年に際して」や「図書館にとって専門書とはなにか?」も掲載されているので、これらも一読をお勧めする]

6.『潮』(6月号)で、長岡義幸の「書店を歩く」の連載が始まった。

 第一回は「縮小する出版市場と書店の苦境」で、豊島区長崎にあった四季書房のことがレポートされている。全盛期は30坪で年商1億6000万円の売上があったが、池袋のジュンク堂の開店や雑誌の落ちこみを受け、4000万円にまで売上は下がり、閉店せざるをえなかった状況が生々しく語られている。現在は店舗を持たない1200万円の外商だけになっているという。

『潮』(6月号)
のようにナショナルチェーンの大型店出店は華々しく報道されるけれど、消えていく街の小さな書店のことはほとんど記事にもならない。だが大型店出店の背後には、四季書房のような事柄が無数に起きていることを忘れるべきではない。

それらの詳細なレポートを長岡の連載に期待したい。またどうしてこのような連載が『潮』で始められたのかもわかる気がする]

7.『選択』(5月号)が「宅配制度『崩壊』の瀬戸際」というサブタイトルを付した「『断末魔』の新聞販売店」なる記事を掲載している。

 それによれば、新聞各社の発行部数の右肩下がりに歯止めがかからず、2014年上期から下期にかけて、読売新聞は30万部、朝日新聞は33万部減少で、この背後には新聞離れだけでなく、新聞販売店問題が潜んでいる。

 1990年のピーク時に2万3700店あった販売店は2014年には1万7600店まで落ちこみ、その影響を受け、01年の一般紙部数4756万部は13年に4169万部と12.3%減少している。販売店従業員激減による人出不足、残紙問題、チラシ収入の減少などがその原因とされる。記事は次のように結ばれている。

 「もはや販売店の苦境は限界に達し、家庭に日々、新聞が届けられるという日本のビジネスモデルは崩壊の瀬戸際だ。販売店の上にあぐらをかいてきた新聞社がしっぺ返しを受ける日も遠くない」。

[この記事を挙げたのは、新聞販売店と書店の現在は相似しているからだ。前者は新聞流通消費販売のインフラとして2万3700店、後者は出版物の販売インフラとして99年には2万2296店あった。これらは郵便局の数とも共通するもので、新聞、出版、郵便インフラは全国的に2万以上が必要なことを教示している。

ところが新聞と出版物はそのインフラが崩壊してしまったことになる。それは再販制によっていることも同じく共通しているが、チラシの打てない小売業としての書店は、新聞に毎日掲載される雑誌や書籍の広告をチラシ代わりにして、新聞と密接につながっている。その新聞の減少もまためぐりめぐって、書店をも衰退させる一因となってしまうのだ]

8.『出版ニュース』(5/上)が編集部編「世界の出版統計」を掲載している。これも毎年のことになるが、欧米の出版状況をトレースしておく。

アメリカ/2013年出版社総売上は270億ドルで、前年比0.4%減。12年は271億ドル。3年続いての減少だが、微減でほぼフラットな推移とされ、総販売部数は25億9000万部。

 電子書籍は12年の30億6000万ドルから13年は30億3000万ドルと0.7%減少。販売別売上高ではオンラインセールス(デジタル本、印刷本をともに含む)が75億4000万ドルで、8.8%増で、出版社総売上高の27.9%を占めるに至った。

 一方で書店販売高は71億2000万ドルとなり、出版社総売上高の26.3%で、販売シェアがオンラインセールスと逆転してしまったことになる。

イギリス/2013年の出版社売上高は34億ポンドで、前年比2%減。そのうちのフィジカル書籍(印刷本)は28億8000万ポンドで、同5%減。デジタル書籍は5億ポンドで同19%増、総売上高の15%を占めることになった。

ドイツ/2013年書籍販売業者総売上高は95億3600万ユーロで、前年比0.2%増。この総売上高は11年同1.4%減、12年0.8%減だっただけに、かろうじて前年を上回ったことは業界人を安堵させたという。

フランス/2013年出版社総売上高は26億8700万ユーロで、前年比3%減。販売部数は4億2700万部、同3.2%減。デジタル書籍売上高は12年の8180万ユーロから13年には1億500万ユーロへと増え、出版社総売上高の4.1%に及んでいる。

[毎年確認していることだし、電子書籍の売上も含んでいるけれど、このような簡略なトレースを見ても、日本だけが深刻な出版危機にあることがわかるだろう。

日本において、このような出版危機、もしくは出版物の価値の崩壊に襲われたのは、明治維新、敗戦後に続き、3 度目である。明治維新の際には江戸時代の和本類が紙屑のように扱われ、敗戦後には軍国時代の出版物が二束三文になり、いずれも前時代が否定され、価値を失ってしまったことから起きている。もちろん新たな出版流通システムへの移行も同時に進んでいたことにもよっている。

したがって現在の出版危機や出版物の価値の崩壊も、明治維新や敗戦に匹敵する社会の大変動とともに生じている事柄だと認識するしかない。しかしその一方で、再販委託制の変革はほとんど見られず、アマゾンだけが日本の出版業界の占領軍のように位置している。

このような状況はどのような行方をたどるのか、それを記録するために本クロニクルは書き継がれている。

また
『出版ニュース』の「海外出版レポート」とは異なる内容で、表象文化論学会ニューズレター〈REPRE〉が小特集「各国の出版事情」を組み、アメリカ、イタリア、ドイツ、ロシア、中国、韓国の人文書出版状況をレポートしているので、こちらもぜひ読んでほしい]

9.これも本クロニクル83 で既述した民事再生法の適用を申請した美術出版社は、再建のスポンサーとして、CCCの子会社カルチュア・エンタテイメントを選んだと発表。

[カルチュア・エンタテイメントはCCCの出版コンテンツ事業子会社として、傘下にネコ・パブリッシング、復刊ドットコムがあり、それに美術出版社も加えられたことになるのだろうか。

これも前回のクロニクルでふれておいたが、徳間書店とネコ・パブリッシングの共同出資による営業会社「C-パブリッシングサービス」の設立、洋書と文具の輸入、翻訳書出版のクロニクルブックスジャパン、CCCメディアハウス(旧阪急コミュニケーション)と出版にも大きく手を広げている。

公共図書館、書店の新業態、様々な物販など、あらゆる方向にCCCは進出しているが、あまりにも総花的であり、明確なパースペクティブのもとに動いているというよりも、すべての案件がCCCに持ちこまれ、それを引き受けることで、ただ拡散しているという印象を受ける。
そのような中で、美術出版社の再建はどのような方向に進むのだろうか]

10.CCCのライバルであるゲオホールディングスの決算が発表された。売上高は2703億円で、前年比3%増の5年連続増収決算。営業利益95億円、当期純利益は73億円。

 店舗総数は1590店で、そのうち新刊書籍を販売するゲオショップは100店で、売上は70億円。

[提携したゲオとトーハンの関係のその後の話が伝わってこないが、出店情報から、ゲオも積極的に出店していることを知ってはいた。

しかし期末店舗総数は前年比18店減で、非採算ゲオショップ63店閉店とあることからすれば、出店は160余店に及んだものの、採算がとれず、閉店したことを物語っているのだろう。それこそ返品率ではないが、高閉店率がうかがわれる。

だからCCCと異なり、ゲオはトーハンと提携していても、DVDレンタルやゲームなどのレンタルや販売をメインとする業態だと見なせよう]

11.『週刊東洋経済』(5/23)に、本クロニクル83 などでもふれたネットフリックスの共同創業者・CEOのリード・ヘイスティングスへの独占インタヴュー「今秋、日本で未来テレビが始まる」が掲載されている。それを要約してみる。

『週刊東洋経済』(5/23)
* 日本での目標は5年から10年かけて、日本で大きく成長し、ユーザーにネットフリックス愛好者になってもらうことである。1年のうちにどのようにユーザーを満足させるかが課題であり、数値目標は掲げず、それは2.3年目とする。

* 日本のテレビは最大のライバルだが、大量に広告を流すことで成立している。それに対し、ネットフリックスは広告に煩わされず、コンテンツだけをわずかな費用を払うだけで楽しめる。

* アメリカではネット接続世帯の半数近くネットフリックスを使っている。アメリカで成功したのは07年の動画配信の本格的参入により、高品質のストリーミングや洗練された操作画面を提供できるようになったからだ。

* それに重要なのは、既存のテレビからネットテレビへの劇的な移行が世界中で起きていることだ。テレビ局にとって真の脅威はネットフリックスではなく、ネットテレビ産業である。既存のテレビは今後メール出現後のFAXのような存在になり、次第に衰退していくだろう。

* 優れた企業は大きな夢を持っていて、私たちのネットフリックスの夢は日本の最高のコンテンツ、デンマ−クの最高のテレビ番組、アルゼンチンの最高の映画など、これらのすべてを世界中で視聴者に見ることを可能にすることである。

* 日本のテレビ局もコンテンツ制作を依頼しているし、来年にはネットフリックスのために制作されたドラマやアニメを配信できる。しかもそれは欧米でも視聴されるとなれば、制作者にとってもエキサイティングなことになる。

* コンテンツ制作者だけでなく、日本の企業との関係も良好で、ソニー、パナソニック、東芝、シャープなどとも協業関係にあり、東芝のリモコンにはすでにネットフリックスボタンがつきアクセスが簡単になっている。


[これらは要点だけなので、さらなる詳細はインタビューを読んでもらいたいが、確かに優れた企業は大きな夢を持っていることが伝わってくる。

今回のインタビューはネットフリックスの幹部会議が京都で開かれ、世界中から幹部たちが集まった機会を得て、もたれたようで、日本の代表も含め、それらの一同の写真も大きく収録されている。

日本におけるネットフリックス上陸がどのような推移をたどるのか、まだわからないが、もし成長すれば、CCC=TSUTAYAとゲオのDVDレンタルを直撃することは間違いない。すでに音楽に関してはスマホで定額料を払い、聞き放題のストリーミングサービスが始まるし、これもCDレンタルに大きな影響を与えるだろう。

そうなると大型化した複合店の行方の問題へともつながっていく。ネットフリックスの今秋の日本上陸はテレビ局ならず、出版業界にも大きな影響を与えるものとなろう]

12.講談社のノンフィクション雑誌『G2』が19号で休刊。これも08年に休刊した月刊誌『現代』の後継誌として09年に創刊され、最近の発行部数は6000部で、実売3000部。ノンフィクションを掲載していたが、売れ行きは低迷し、掲載作品の書籍化も困難になっていた。

 ただ来年には形式は未定だが、新しいノンフィクションメディアを立ち上げるとしている。

G2 田中角栄研究

[ノンフィクションは1970年のノンフィクション賞の設立、74年の立花隆の『田中角栄研究』などに端を発して隆盛となり、80年代以後も多くの新人と作品を輩出するに至った。

ただノンフィクション、もしくはニュージャーナリズムと称された動向も、雑誌の成長と全盛を背景にしていたのであり、その衰退が『G2』のようは雑誌にもダイレクトに反映されているのである。そのことでノンフィクションの分野もやせ細っていくしかない現在をあらわにしている]

13.今野勉が『出版クラブだより』(No570)に「出版不況という言い方はもうやめよう」という一文を寄せ、ノベルスバブルについて書いている。それを抽出してみる。


 あの時代にある顕著な現象があった。ノベルスの全盛期を迎えていたのだ。世間がバブルで浮かれている時代、書店にも色鮮やかなイラストで表紙を飾ったノベルスがあふれていた。 
 出せば売れる時代。だから、内容は玉石混淆もいいところ。二番煎じ三番煎じが当たり前で、それでも売れていた。(中略)
 ノベルスが書店にあふれたとき、その内容の薄さにあきれかえったことがある。それでも売れるから出版社は出し続けた。(中略)
 その結果が、今なのではないか。

 これに続いて、実作者の立場から、文芸界のエネルギーの衰退、編集者の変質を問い、「そんな状況で、面白い作品が生まれるわけがない」とも述べている。ひとえに売れなくなった原因はそこにあるのであり、それを真摯に反省するところから始めるしかないと結ばれている。

[ノベルスバブルの後にきたのは新書バブル、文庫バブルであり、それらは依然として続いている。まさに「そんな状況で、面白い作品が生まれるわけがない」ことは共通しているし、それらの多くがブックオフの100円棚に並んでいるのである。

それらも含め、出版危機もまた、出版業界そのものが生み出してきたものに他ならないのだ]

14.『日本古書通信』(5月号)に、折付桂子による「ふたつの震災と古書業界」が掲載されている。

[これは阪神淡路大震災から20年後の兵庫古書業界、東日本大震災から4年後の宮城や東北の古書業界の現在状況をレポートしたものである。

神戸市と仙台市に関しては最新の古書マップも示され、またそれぞれの各地におけるブックイベントにもふれられているので、震災後の古書業界の復旧、復興状況を知るためにも、ぜひ読んでほしいと思う]
『日本古書通信』(5月号)

15.かつて読んだ作者や著者が次々と鬼籍に入っていく。それは漫画家も同様で、確認がとれないのだが、愛読した漫画家の死も伝えられている。

[それとは別に、3月に亡くなった辰巳ヨシヒロの『辰巳ヨシヒロ傑作選』(ビームコミックス)を読んだ。つげ義春に「懐かしいひと」という短編があったが、私にとって辰巳はその作風と描写が一貫して変わらなかったことで、「懐かしい漫画家」で在り続けている。
同書を読むことで、あらためて確認することになった]
辰巳ヨシヒロ傑作選 懐かしいひと

16.「出版人に聞く」シリーズ〈18〉の野上暁『小学館の学年誌と児童書』は遅れてしまい、6月下旬刊行。

 それに続いて、同〈19〉として宮下和夫『弓立社という出版思想』、〈20〉として鈴木宏『書肆風の薔薇から水声社へ』を刊行予定。

《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店
書評紙と共に歩んだ五〇年 薔薇十字社とその軌跡 名古屋とちくさ正文館 『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』 倶楽部雑誌探究 戦後の講談社と東都書房 鈴木書店の成長と衰退 三一新書の時代

〈新刊〉
『「週刊読書人」と戦後知識人』

以下次号に続く。