出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル87(2015年7月1日〜7月31日)

出版状況クロニクル87(2015年7月1日〜7月31日)


15年6月の書籍雑誌の推定販売金額は1188億円で、前年比4.6%減。

その内訳は書籍が550億円で、0.6%増、雑誌は638億円で8.8%減、そのうちの月刊誌は7. 2%減、週刊誌は14.6%減。

書籍が前年を上回ったのは送品稼働日が1日多かったことによっている。また週刊誌のマイナスは深刻そのもので、今年に入ってから6カ月連続の二ケタ減となっている。

返品率は書籍が41.8%、雑誌は42.7%で、これも今年になって雑誌返品率が書籍を上回り、40%を超えるといった状況が恒常化してしまっている。これは雑誌を支えてきたコミックの低迷が大きく影響しているとされる。

このような出版販売状況を背景にして、栗田出版販売民事再生が起きたのであり、出版物販売金額の絶えざるマイナスと、かつてない雑誌の返品率の上昇の中で、出版物を流通させる現在の取次システムそのものが、利益を上げることの困難さを表出させていると思われる。



1.栗田の民事再生をめぐる問題は単なる取次の破綻ではなく、現在の正味体系と再販委託制に基づく近代出版流通システムの崩壊を、ついに露出してしまったことにある。

 それは作者(著者)・出版社・取次・書店・読者という近代読者社会の解体をも告げていることになろう。

 それらの近年の出版状況に関し、私は2014年版『文芸年鑑』(新潮社)で、作者(著者)に向けて発信している。これは大阪屋や栗田や太洋社問題を念頭に入れてのもので、栗田の破産に至る簡略なチャートともなっている。

 しかし『文芸年鑑』の掲載であり、ほとんど読者の目にふれていないだろうし、啓蒙的一文ゆえに、少し長いが、全文を以下に示す。

文芸年鑑
「出版」          
 2013年版の本欄で、1997年から露出し始め、近年に至って深刻な様相を呈してきた出版危機は、13年にさらに顕在化していくのではないかとの予測を述べておいた。それはやはり適中し、出版危機は深刻きわまりない事態を迎えているといっても過言ではないように思われる。そのことによって、14年の出版業界はかつてない苦難の状況へと追いやられることになるだろう。それは出版業界を形成する出版社、取次、書店のみならず、作者や著者にも、さらには読者にも大きな波紋と影響をもたらしていくはずだ。

 その予兆を示している2013年の出版物売上状況をまず提出しておこう。出版科学研究所の出版物推定販売金額によれば、13年は1兆6823億円で、前年比3.3%減となっている。ピーク時の1996年は2兆6564億円だったから、この17年間で何と1兆円近くの出版物売上高が失われたことになり、定価値上げ分も含めて考えると、まさに半減してしまったとも見なせるであろう。これは欧米のまだ成長を続けている出版業界に比べ、異常なまでのマイナスといっていいし、日本だけで起きている特異な出版危機を告げるものである。

 この13年の販売金額の内訳も記しておけば、書籍が7851億円、同2.0%減、雑誌が8972億円、同4.4%減で、それぞれこの1年間で前者が162億円、後者は414億円、合わせて576億円減となっている。これらの数字に表われているように、ほぼ17年間続いたマイナスの下げ止まりはまったく見えていないし、それどころか、4月の消費税増税も待ち構えているし、さらなる落ち込みが予測されている。

 このような目前にある深刻な事態を確認検討するために、もう少し販売金額の数字を追ってみる。ピーク時の書籍は1兆931億円、雑誌は1兆5633億円だから、この17年間で書籍は3080億円、雑誌は6661億円減少している。ちょうど雑誌のマイナス金額は書籍の倍に相当し、雑誌がつるべ落としのように売れなくなっていった近年の状況をあからさまに伝えている。

 さらにこの雑誌の内実を見てみると、月刊誌は7124億円、同3.4%減、週刊誌は1848億円、同8.1%減で、とりわけ週刊誌の凋落がわかるし、その販売部数に至っては3分の1になってしまっている。その一方で、月刊誌も決して安泰ではなく、この数字にはコミック分も含まれていることから、その推定販売金額2200億円を引くと、4924億円となる。それを週刊誌と合わせれば、6772億円で、書籍の7851億円を下回ってしまうのである。

 この書籍がコミックを除いた雑誌販売金額を上回る徴候は、数年前から露呈し始めていたが、13年に至って決定的になったと見なせるし、これは現在の出版危機を象徴する特筆すべき逆転と考えられる。1960年代後半に書籍が雑誌を上回っていた時期もあったけれど、それは成長過程にあった出版業界の勢い、及び団塊の世代による教科書、学参、辞書などの需要にかさ上げされたもので、現在とはまったく要因が異なっている。

 出版社・取次・書店という近代出版流通システムがスタートしたのは1890年前後で、それと軌を一にして近代文学も誕生しているのは偶然ではない。雑誌や書籍の生産だけでなく、流通や販売といったインフラが成立することによって、雑誌と書籍は広く普及するようになり、まずは雑誌をきっかけにして、作者や著者も読者と出会う多くの機会を得ていったのだ。

 近代出版流通システムは近代出版社の雄である博文館とその子会社の取次東京堂を中心にして構築されていった。そのコアの商品は何よりも定期的に刊行される雑誌であり、博文館に続き、実業之日本社講談社が雑誌王国として成長していくことで、日本特有のマス雑誌をベースとする流通販売網が整備されていったのである。それは書店数の増加となって表われ、1910年代に3000店、30年には1万店、40年には1万6000店を数えるにいたった。ちなみに現在は1万4000店台になっている。

 しかし出版社や取次がそうであったように、その立ち上がりが雑誌をメインにしていたことから、それらの大半は書店というよりも雑誌店の色彩が強く、販売もまた雑誌が主で、書籍が従という環境を前提として始まっていたといえる。つまり日本における書店とは欧米のような書籍だけを売るものではなく、雑誌によって支えられ、書籍販売はそれに相乗りするようなかたちで営まれてきたことになる。さらに付け加えれば、1980年代以後、その雑誌にはコミックが含まれ、その売上シェアが高まっていったのである。この雑誌、コミック、書籍の三位一体の関係と再販委託制が日本の戦後出版業界の歴史と構造といっていいだろう。

 それゆえに雑誌と書籍の販売金額の逆転は近、現代出版史を鑑みても、特異な現象であり、しかもそれが出版危機を象徴していることを了承頂けるであろう。書籍販売金額が雑誌を上回ったところで、再販委託制に拘束され、低マージンで低回転率の書籍が、週刊誌や月刊誌に典型的な高回転率の雑誌の代わりを務めることができないのは自明の事実に他ならないからだ。しかもそれらの再逆転が困難であることも。

 このように現在の出版危機とそれに関連する流通販売状況に関して、少しばかり立ち入って詳述してきたのは、この出版状況が出版社、取次、書店で働く人々だけでなく、作者や著者をも包囲している現実であり、等しく危機へと追いやられていることをわかってほしいと考えているからだ。小説にしてもノンフィクションにしても、確かに13年にもミリオンセラーは出ているし、村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、近藤誠『医者に殺されない47の心得』、渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』を挙げることができる。だがそのかたわらで、書籍も売れなくなってきているのは見てきたばかりだし、売れる本と売れない本の二極化は進む一方である。それは書籍販売金額が減少していく中で、特定の作者や著者しか売れない出版状況を物語っているし、その傾向は結果として出版物の多様性を困難ならしめようとしている。

 こうした出版状況下において、山本芳明『カネと文学』(新潮社)が刊行された。同書はサブタイトルに「日本近代文学の経済史」と付されているように、作家が出版業界の成長に寄り添い、貧乏の代名詞に他ならなかった文士から、高額所得者を輩出する文化人に至った歴史をたどっている。山本によれば、大正8年前後の様々な雑誌の創刊に至って「出版ビジネス」が隆盛となり、それによって作家たちにもそれなりの原稿料がもたらされるという「文壇の黄金時代のはじまり」を迎え、単行本も売れるようになっていく。それはすなわち1919年からで、ここでも雑誌であることに留意されたい。

 そして大正15年、1926年に改造社の『現代日本文学全集』が刊行を開始し、それに新潮社の『世界文学全集』、平凡社の『現代大衆文学全集』が続き、1冊1円、予約出版の全集の幕開けとなった。所謂「円本時代」の出現である。これらの円本のベストセラー化によって、文学者、大衆文学者、外国文学者たちは揃って、まったく思いがけなかった莫大な印税を手にするに至った。そして彼らは作家の名称どおり家を建てたり、洋行したりして、ここで初めて「文学」が「カネ」になることを世間に広く知らしめたといえる。それはもちろん幻想だが、「出版」についても同様であったと思われる。したがって、そのような「カネ」と「文学」をめぐる「出版」神話が成立したのが昭和円本時代だとすれば、それはちょうど今から1世紀前のことだった。

 その円本という全集出版神話は戦後になっても続き、各種の文学全集を例にとっても、「円本時代」の再現であるかのように、多くの出版社から絶えず出され続けていたし、それは20世紀の日本の出版業界においても途切れることがなかった。そのようにして、「カネと文学」をめぐる「出版」神話のバランスシートが表層的に保たれていたのである。しかしここで忘れてはならないのは繰り返し言及してきたように、日本の近代出版業界の始まりが雑誌をベースとして立ち上がってきた事実から考えれば、これらの全集類もまた雑誌をビジネスモデルとしていることだ。いってみれば、全集類は単行本とちがって、ほとんど長期間にわたって毎月1冊ずつ出されるので、月刊誌と同じであり、個人全集にしても巻数物の辞典や事典類などにしても、そのように刊行され、流通販売にあっては定期購読、外商を通じての拡販商品と目されていた。つまり書籍とはいえ、それらも雑誌販売のノウハウに基づき、書店で売られていたのである。そして雑誌と書籍は車の両輪のように機能し、出版業界の成長を支えてきたことになる。

 ところが13年に決定的になった雑誌と書籍の販売金額の逆転は、そうした日本特有の出版物のマーチャンダイジングの終焉を意味していよう。それは1980年代以後における商店街の中小書店の大半の消滅に起因し、現在の出版危機はその果てに出現した様々な雑誌と書籍をめぐるインフラと環境によってもたらされたともいえる。それらを挙げてみよう。郊外消費社会の隆盛の伴う郊外店ラッシュ、コンビニの包囲網、大型店とナショナルチェーン化、レンタルを兼ねた複合店の全国的出店、公共図書館の増殖、ブックオフなどの新古本産業の出現、アマゾンの上陸とネット通販などがかつての書店市場を崩壊させ、その挙げ句に現在の出版危機が招来したことになる。そしてそれは書店と出版社ばかりでなく、流通の根幹である取次にも及んでおり、これは2月現在の観測であるが、14年はどのような出版状況に至るのか、まったく予断を許さない段階へ入っているように思われる。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 医者に殺されない47の心得 置かれた場所で咲きなさい カネと文学

2.本クロニクル86補遺で、7月6日の栗田の債権者説明会と再生スキームについてレポートしてきたので、その後の動向をトレースしてみる。

7月9日に首都圏栗田会が開催され、講談社の森武文専務が次のように呼びかけたとされる。

「栗田の民事再生は書店を守り、出版社の被害を最小限に食い止める措置だと考えている。返品の受取拒否や出荷止めをする出版社が多くなると、できるだけ高い弁済率を検討している栗田が破産し、書店を守ることができなくなる。大阪屋との統合により、売上高1000億円の取引が誕生することでいろんなチャレンジができ、安心して取引ができるだろう。」

 それに対し、双葉社、祥伝社、河出書房新社、ベレ出版、新星出版社が賛同の意を表したという。

7月10日東京地裁による栗田民事再生開始決定。

 再生債権届出期間8月4日まで。

 11月下旬の債権者集会において、「議決権を有する再生債権者の債権総額の2分の1以上、及び出席再生債権者の過半数の賛成があれば、再生計画率が可決されること」になっている。
7月13日栗田は「返品スキーム等に対する弊社からのご提案につきまして」を出版社に出し、7月期の返品相当額を再生債権から控除し、再生期間中の新刊支払いサイトの短縮という新スキームを提案。原則として7月24日までに出版社はこの新しい提案に対する回答書を返送のこと。

 これが栗田側の主たる動向であるが、それに対する出版社側の、公的にしてパラレルな対応などをピックアップしておく。

栗田の民事再生手続き開始申立に伴い、上場会社のインプレスHDとアルファポリスがIR情報を発信。

 インプレスHDは子会社インプレス、リットーミュージック、山と渓谷社の3社で、債権6400万円が取立不能のおそれ。一方でアルファポリスは債権9000万円は中取次の星雲社にあり、栗田にはなく、もし星雲社の貸倒リスクが顕在化した場合、同社の売上債権に対し、債権譲渡担保契約を締結しているので、栗田から直接売上債権の回収が可能であり、当社債権への影響はないとしている。

星雲社と同じく中取次といえる地方・小出版流通センターは「同通信」(7/15)で、5、6月の未回収売上高が467万円であり、栗田の7月6日の再生スキームは「出版社に対して二重の負担を強いる、常識では理解しがたいスキーム」に他ならず、注文品は出荷しているが、返品は拒絶している旨を述べている。

そのような中で、栗田からの抗議を受けてか、出版社などの負債一覧である「倒産・民事再生・債権者情報」がネットから削除されるに至っている。

7月16日付で、日本出版者協議会は栗田の再生スキームが「出版社に二重の負担を強いる」などの理由から、「栗田出版民事再生案スキームを撤回するよう求める」という声明を発表。

 また7月23日付で、「栗田新提案への対応について」も出し、21日に行われた出版協向け栗田返品スキーム新提案説明会記録メモを付し、弁護士見解として、回答書にあまり法的意味はなく、単なる票読み狙いとの見方を提出し次のように結論づけている。

1.7月24日までに提出とされている「返品スキーム等に対する弊社からのご提案につきまして」の回答書は、承諾なくても(回答欄3番目を選択)、「合意書」の提出を求められ、二次卸スキームを認めたことになるので、要注意。

2.8月4日までに提出の「再生債権届出書」には、今回承諾した場合は、「返品相当額」を債権額から差し引いた額を記載、承諾しない場合は現在の債権額をそのまま記載することになる。

3.何よりも最初の説明会の時と基本的な考え方は何も変わっていないことに留意。

また7月13日付で、「栗田出版販売民事再生債権者有志出版社一同」は「呼びかけ文」を出し、地方小や出版協と同様の理由から、次のように述べている。

 「私たち債権を有する中小出版社は、このスキームの意図するところを少しでも明確にさせ、出版社のさらなる負担を回避するべき、当該民事再生を担当する弁護士事務所に対して、連名で質問状を出す用意を進めています」。

 質問書内容は「平成27年(再)第44号 民事再生手続開始申立事件 質問書」として出されている。なお、この時点で賛同出版社は30社、月末には60社とされる。

[これらが栗田の民事再生申請と再生スキームをめぐる主な出版社の対応の動きである。講談社の森専務の発言からわかるように、このスキーム自体が大阪屋の再建問題と密接につながっている。

本クロニクル78で既述したように、昨年の大阪屋の再建に当たって、37億円の増資を引き受けたのは講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、楽天、DNPであり、その前に社長として講談社の大竹深夫、小学館や集英社から取締役訳が送り込まれていた。
私が仄聞しているところによると、彼らの役割は増資案件の他に、高正味出版社の正味の見直し交渉があったとされるが、それらはまったく成功しなかったようだ。それゆえに、増資はクリアしても再建は片翼飛行でしかなく、今回の栗田案件とその吸収によって、かろうじての両翼飛行をプランニングしたのではないだろうか。あるいは増資に当たっての楽天やDNPに対する密約スキームのようなものであったとも考えられる。

これも
本クロニクル80で大阪屋の役員の刷新にふれ、「新たな改革の見取図などは描かれていないと見るしかない」と書いておいたが、今となってみれば、栗田の案件が隠し玉だったのかと見なすことができる。

したがって今回の栗田民事再生とその再生スキームは、大手出版社による大阪屋再建スキームともなる。先述の講談社の森専務の言葉は、大手出版社が納得づくで進めているし、こちらも多大な損失を蒙るのに、中小出版社が異を唱えるのであれば、栗田も破産し、書店も守れなくなり、大阪屋もどうなるのかわからないぞという恫喝としか思えない。

それに加えて、これも先述した債権総額の2分の1と出席再生債権者の過半数の賛成という票読みもすでに終わっているのだろう。

このような構図からすれば、栗田の新しい提案も、スキームそのものに対する説明責任を何ら果たすものではなく、少し譲って通してしまおうとする相変わらずの出版業界の姑息な上意下達の反映でしかない。

この栗田という初めての総合取次の破産として表出してしまった出版危機下にあって、本当に必要とされているのは、現在の出版状況の正確な分析であり、それに基づく新たなビジョンであるはずだ。それなのに栗田再生スキームに表われているのは、明らかに破綻している現在の正味体系に基づく再販委託制の先送りに他ならず、大阪屋に統合されたとしても、それは同じことの繰り返しだし、行き詰まることは目に見えている。

それからこの大手出版社による取次再生スキームに対して、ここまで異議が唱えられたのは予想外ではなかっただろうか。IR情報を出していないKADOKAWAや学研HDなどに対し、アルファポリスは債権放棄しないと発信しているし、中小出版社からも多くの異議が発せられているのは記してきたとおりだ。それこそ大手出版社に中小出版社の資金繰りの苦しさなぞわかるはずもないのだ。

冷え切った出版業界の中で、栗田をめぐる暑い夏がこれからも続いていくと思われるし、本クロニクルもそれに寄り添っていくつもりだ]

3.大阪屋の正式な決算が出された。56億円の債務超過は講談社などによる37億円の増資、及び本社と大阪物流センター売却益45億円で解消。

 売上高は681億円で前年に11.2%減、営業損失は6億8900万円、経常損失7億3800万円。

 来期売上目標は前期比102%、経常利益9200万円。

[これは前回の本クロニクルでも記しておいたが、栗田の統合する大阪屋の現在状況を確認するために、もう一度挙げておく。

この大阪屋に売上高329億円の栗田を統合し、売上高1000億円の取次を誕生させるというスキームが提出されているわけである。しかし出版物販売金額のマイナスはまだ続くし、書店の閉店も同様な中で、従来の出版流通システムを改革せずに、新たな取次を維持していくことは不可能に近いだろう。

大阪屋も栗田も資産は売却し、大阪屋は増資、栗田は債権放棄という流れになっているが、その後には何も残されていないところまできている]

4.栗田を支援する出版共同流通センターの親会社日販の平林彰社長が『文化通信』(7/16)でインタビューに応じているので、それを要約してみる。

出版市場の低迷の下げ止まる要素は見出しにくい状況にある。人口減と少子高齢化の中で、市場を支えてきた「団塊の世代」である高齢者は図書館で読むことが増え、若年層の場合は読者増に結びつく人口が少ない。

本という商材自体の価値は下がっていないが、スマフォやタブレットの普及で、本によって得ていた感動や面白さは他のメディアに流れ始め、可処分時間に占める書籍・雑誌を読む時間は確実に奪われ、相対的に価値が低下してきている。

日販は取次だけでなく、不動産賃貸や映像版権出資などの複数の事業により構成されているが、出版取次に関してはこのまま何もしなければ、数年でマイナスになるのが現実だ。出版物市場が縮小していくからには取次の規模もマーケットサイズに合わせ、効率の追求が必要で、これを社内では「リサイズ」と呼んでいる。

日販でも書籍のマイナスを雑誌のプラスで補い、採算をとってきたが、そのために雑誌のマイナス成長が大きな負のインパクトになり、それは取次だけでなく書店にも及び、資金繰りにも影響してきている。

雑誌配送に関してはすでに複数の運送会社からやめたいという話がでるまでに、状況は悪化している。コンビニの早朝配送と書店送品を同じトラックで運べないなどの問題がある。

 配達は取次が共同して行う「共配」、自社が首都圏、関西圏、名古屋圏で行ってきた「自家配」があるが、これらも共配化を進め、効率化を図るべきで、配送は取次間の共通の課題だ。

取次同士は同業ゆえに「競争」関係にあるが、物流やインフラについては「協業」することで、双方のメリットが生まれるはずで、日販グループではそれを出版共同流通が担っている。大阪屋など取次4社も株主の出版協同流通はこれまでの返品業務に加え、送品業務の協業も開始し、太洋社に続き、大阪屋や栗田とも打ち合わせに入っている。このような経緯もあり、栗田に物流面での最大限の協力を惜しまないつもりである。


[この後に書籍返品率、書店マージン、買切、時限再販、文具雑貨・カフェ導入と続いていくのだが、ここでは現在の日販から見た出版状況と出版協同流通と栗田関連にしぼった。

この物流構想によれば、太洋社、大阪屋、栗田の送品や返品は、出版共同流通に一本化されていくことになろう。これは従来の取次の役割である流通部門と金融部門の分離ということになり、取次の流通の「協業」化を意味している。それは流通の独立というよりも、取次はもはや単独で「流通」を支えていくことができなくなっていることの表れであろう。しかし取次の「金融」の問題に関しては、大阪屋と栗田の統合に際しての再生スキームによる「協業」化に表れたというべきだろうか]

5.『日経MJ』(7/8)の「第43回日本の専門店調査」が出された。そのうちの「書籍・文具売上高ランキング」を示す。

■2014年 書籍・文具売上高ランキング
順位会社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
店舗数
1カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA、蔦谷書店)200,4162.317,976
2紀伊國屋書店106,714▲0.471464
3ブックオフコーポレーション74,347▲6.11,677942
4未来屋書店50,621▲0.2361251
5有隣堂50,4050.429147
6ジュンク堂書店(現丸善ジュンク堂書店)48,574▲3.5▲34852
7くまざわ書店42,721▲3.0235
8ヴィレッジヴァンガード35,749▲5.3▲277403
9フタバ図書34,536▲2.01,29264
10トップカルチャー(蔦屋書店、峰弥書店、TSUTAYA)33,042▲2.511863
11文教堂30,730▲2.4▲297195
12三省堂書店25,900▲4.436
13三洋堂書店24,144▲4.421187
14丸善書店(現丸善ジュンク堂書店)20,832▲2.6202
15リブロ(mio mio、よむよむ、パルコブックセンター)20,240▲5.288
16精文館書店19,269▲0.454049
17キクヤ図書販売13,914▲3.030
18明屋書店13,75328484
19オー・エンターテイメント(WAY)12,115▲7.515461
20文真堂書店10,141▲12.4
21積文館書店9,7179.87532
22すばる9,600▲5.029
23ダイレクト・ショップ9,533▲5.43151
24アシーネ9,208▲0.193
25京王書籍販売(啓文堂書店)9,087▲7.738
26戸田書店7,292▲9.54132
 ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)
270,3083.010,0301,590

[26店のうち、前年をうわまわっているのはわずか3店で、書店市場の苦境が浮かび上がってくる。

1位のCCCは売上高2000億円を超え、経常利益は180億円近くに及んでいる。後者は昨年10億円だったことからすれば、18倍であり、売上高は微増であるのに、どうしてこのような高い経常利益となったのであろうか。

3位のブックオフに変化が起きている。まだ全店には及んでいないが、単行本の100円均一、半額というアイテムが変わり、バーコード付き200円本、新刊は2割引といった売値になっている。例えばピケティの
『21世紀の資本』は定価5940円に対して4310円であり、2冊売っているのを見ている。ブックオフももはや従来のシステムでは利益の確保が難しいので、このようなインフレ戦略の採用に至ったという。この点に関して、詳しいレポートが望まれる]
21世紀の資本

6.紀伊國屋の高井昌史社長がDNPグループの書店、オンライン書店と一体となり、買切仕入れや出版社との直接取引を今年中にスタートさせ、来年には店とネットが連携する「ハイブリッド総合書店プラットフォーム」を立ち上げると表明。

 買切、直接取引の仕入れ、物流業務は、DNPグループの書籍流通センターやDNPロジスティックスを活用し、紀伊國屋、MARUZEN、ジュンク堂、文教堂の国内330店で実証実験し、こちらも来年には本格的に稼働予定。

[これも本クロニクル83で既述した紀伊國屋とDNPの合弁会社出版流通イノベーションジャパン(PMIJ)の構造改革の事業の具体化ということになる。はっきりいってしまえば、取次と再販委託制を外しても構わないという表明である。現在の出版状況下にあって、「委託・再販、取次への依存など旧来の構造では対応できなくなっている」との高井の言はそれを裏付けている。

しかしこれも同様に記しておいたが、書協の事業計画には、構造改革をめざす「出版流通イノベーション」への意志はまったく見られないことが問題であろう。

それこそDNPと書協のこのような「協業」スキームを前にして、出版社がどのように対応していくかが問題であり、そのことによって、再販委託制の現在的意味があらためて問われなければならないからだ]

7.トーハンは住吉書房の全株式を取得し、子会社化。住吉書房は神奈川、東京、千葉に14店舗を展開し、2013年度売上高は40億円。

[この他にもブックスタマがトーハンの傘下に入ると伝えられている。

7月20日にリブロ池袋本店が閉店したが、代わりに29日にオープンした三省堂はトーハンなので、こちらもトーハン傘下になったことになる。

また取次の協和出版販売もトーハンから出向中の磯田肇が社長に就任し、こちらも再編が進んでいる]

8.イオングループの未来屋書店はダイエーの子会社アシーネを吸収合併。これによって売上高600億円、店舗数340店超となる。

で見たように、未来屋書店は売上高ランキング4位で、売上高507億円で前年比0.1%減となっていた。(別統計による)
ショッピングセンター内出店も飽和状態となり、既存店や新規店売上も厳しくなっている状況から、今回の合併となったのであろう]

9.札幌のくすみ書房が破産、負債総額は5億円。

[くすみ書房の閉店は前回の本クロニクルでも伝えていたが、負債総額は2億円とも3億円とも伝えられている年商の倍に及ぶもので、いささか驚かされる。

くすみ書房は近年最も露出が多かった書店と見なしてよく、その知名度を利用して資金調達を図り、それもピークに達し、破産となったことになる。

取次は中央社であるが、負債内訳はどうなっているのか気になるし、知名度も高く、露出の多い書店も危機の中にあることを教えてくれる]

10.青山の自動車関連書店としてよく知られた嶋田洋書、京都のフランス文学や幻想文学の古書店として著名なアスタルテ書房が閉店。

[嶋田証書は訪れたことはないのだが、自動車ライターには不可欠の書店で、ここで洋書資料を集めて書いたということを、ブルーバックスの著者から聞いたことがある。

アスタルテ書房からは自社の本の註文を受け、売ってもらったりした。これらの閉店は新刊書店のみならず、専門洋書店も古書店も様々な事情から退場を迫られていることの表れであり、その後に出来してくる出版状況とはいかなるものなのか、それが問題となろう]

11.ロシア関連の専門書>「ユーラシア・ブックレット」の東洋書店が事業停止。

 負債総額はまだ明らかになっていないが、2007年に1億7000万円あった売上高が、13年には1億円を割りこみ、回復の見込みも立たないとの判断によるものとされる。

ユーラシア・ブックレット(ユーラシア・ブックレット) ロシア文学翻訳者列伝
[私はこの書店が出した�・島亘の『ロシア文学翻訳者列伝』を愛読、評価していて、現在も�・島が中野書店の『古書倶楽部』に連載中の「文学は何処に行くのか―科学から空想へ」などの東洋書店からの単行本化を期待していたが、残念ながらそれはかなわなかったことになる。

それから外国文学の復刻などの本の友社も廃業のようだ]

12.国土社が民事再生の適用を申請。

 1948年創業で、教育書や児童書を刊行し、ピーク時の1998年には売上高12億円を計上していたが、2014年には3億円まで減少していた。負債総額は3億円。

[国土社といえば、児童書よりも斎藤喜博などの教育書のイメージが強い。

1980年代までは小中高の教師に向けた教育書の出版がまだ続いていて、そのような需要がそれらの出版を支えていたことを想起させる。

しかし学校や教師の変容に伴い、そのような出版物も必要とされなくなっていく。その挙げ句に今回の国土社の措置も招来されたのであろう]
授業

13.12と関連して、遅れていた「出版人に聞く」シリーズ〈18〉の野上 暁『小学館の学年誌と児童書』は7月末刊行。

小学館の学年誌と児童書

以下次号に続く。