出版状況クロニクル102(2016年10月1日〜10月31日)
16年9月の書籍雑誌の推定販売金額は1374億円で、前年比2.9%減。
書籍は717億円で、同3.2%減、雑誌は657億円で、同2.6%減。
雑誌内訳は月刊誌が545億円で、同2.0%減、週刊誌が112億円で、同5.8%減。
雑誌は返品率の改善によりマイナス幅が抑えられているが、販売部数から見ると、月刊誌は7.0%減、週刊誌は8.4%減で、こちらのマイナスは相変わらずだといっていい。
店頭売上は書籍が3%減。これは『小説君の名は。』(角川文庫)のミリオンセラー化、『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(サンマーク出版)の80万部が寄与している。
しかし雑誌のほうは定期雑誌がほぼ前年並みだが、コミック7%減、ムック6%減で、コミックは既刊分の落ちこみが深刻だとされる。
1.1月から9月までの出版物推定販売金額を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) |
2016年 1〜9月計 | 1,118,690 | ▲3.2 | 576,225 | 0.2 | 542,464 | ▲6.5 |
1月 | 103,907 | ▲4.5 | 54,048 | 0.1 | 49,859 | ▲9.1 |
2月 | 147,551 | ▲0.1 | 84,425 | 9.8 | 63,126 | ▲10.9 |
3月 | 181,691 | ▲3.4 | 106,318 | ▲2.5 | 75,373 | ▲4.7 |
4月 | 125,936 | ▲1.1 | 61,201 | 6.5 | 64,735 | ▲7.4 |
5月 | 96,289 | ▲4.1 | 46,104 | ▲3.2 | 50,185 | ▲4.9 |
6月 | 114,721 | ▲3.4 | 54,312 | ▲1.2 | 60,409 | ▲5.4 |
7月 | 106,864 | ▲5.7 | 49,829 | ▲3.1 | 57,035 | ▲7.9 |
8月 | 104,259 | ▲4.7 | 48,277 | ▲2.9 | 55,982 | ▲6.2 |
9月 | 137,472 | ▲2.9 | 71,712 | ▲3.2 | 65,760 | ▲2.6 |
[9月までの販売金額は1兆1186億円で、前年比3.2%減である。2015年の年間販売金額は1兆5220億円だったので、この3.2%マイナスを当てはめると、16年度は487億円の減で、1兆4733億円前後と推測される。ついに1兆5000億円を割ってしまうことになろう。
しかし9月段階での3.2%マイナスは少し改善されているように見えるが、通年で13年が3.3%、14年が4.5%、15年が5.3%であるから、下げ止まったわけではない。
残りの3ヵ月の販売状況はどうなるであろうか]
2.ニッテンによる「出版社売上金額2015/書店販売金額2009−2015」が出され、『出版ニュース』(10/中)に掲載されている。
『出版状況クロニクル4』でも、それらをトレースしてきているが、今回は状況が切迫していることもあり、「2015年出版社3,489社の年間売上総額」「出版社売上額推移」「2015年書店販売金額(389社)」の3つを示してみる。
売上順位 | 総売上額(100万円) | 売上占有比(%) | 前年比(%) |
1位〜5位 | 484,459 | 27.0 | 17.5 |
6位〜50位 | 445,389 | 24.9 | ▲18.6 |
51位〜100位 | 238,192 | 13.3 | ▲5.6 |
101位〜150位 | 148,962 | 8.3 | ▲1.9 |
151位〜200位 | 88,676 | 5.0 | ▲6.8 |
201位〜250位 | 62,971 | 3.5 | ▲5.4 |
251位〜300位 | 47,996 | 2.7 | ▲5.1 |
301位〜350位 | 38,383 | 2.1 | ▲6.7 |
351位〜400位 | 32,006 | 1.8 | ▲7.9 |
401位〜450位 | 27,635 | 1.5 | ▲5.2 |
451位〜500位 | 23,540 | 1.3 | ▲7.5 |
500社小計 | 1,638,209 | 91.4 | ▲4.0 |
501位〜1000位 | 112,377 | 6.3 | ▲3.4 |
1001位〜2000位 | 38,127 | 2.1 | ▲9.6 |
2001位〜3000位 | 3,332 | 0.2 | ▲18.1 |
3001位〜3489位 | 220 | 0.0 | ▲8.3 |
501〜3489社小計 | 154,056 | 8.6 | ▲5.4 |
3489社合計 | 1,792,265 | 100.0 | ▲4.1 |
年 | 出版社数 | 総売上額 (100万円) | 売上高 前年比(%) |
2015 | 3,489 | 1,792,265 | ▲4.1 |
2014 | 3,534 | 1,869,176 | ▲1.4 |
2013 | 3,588 | 1,894,864 | ▲6.7 |
2012 | 3,676 | 2,031,212 | ▲3.5 |
2011 | 3,734 | 2,105,542 | ▲1.1 |
2010 | 3,815 | 2,128,185 | ▲8.4 |
2009 | 3,902 | 2,323,247 | ▲5.7 |
2008 | 3,979 | 2,462,594 | ▲7.2 |
2007 | 4,055 | 2,653,177 | ▲1.0 |
2006 | 4,107 | 2,680,242 | ▲0.1 |
売上規模 | 企業数 | 店舗数 | 売上高 | 前年比(%) | 1店舗当 平均売上高 |
200億以上 | 12 | 1,501 | 500,584 | ▲9.6 | 333.5 |
100億〜200億未満 | 10 | 425 | 147,261 | ▲0.8 | 346.5 |
50億〜100億未満 | 24 | 660 | 184,700 | ▲9.2 | 279.8 |
30億〜50億未満 | 17 | 249 | 62,122 | 5.4 | 249.5 |
20億〜30億未満 | 13 | 153 | 33,002 | 12.4 | 215.7 |
10億〜20億未満 | 50 | 273 | 68,829 | ▲15.7 | 252.1 |
5億〜10億未満 | 79 | 249 | 54,371 | ▲3.2 | 218.4 |
5億未満 | 184 | 302 | 52,366 | 0.1 | 173.4 |
合計 | 389 | 3,812 | 1,103,235 | ▲6.5 | 289.4 |
[「出版社売上総額」は1兆7922億円で、前年比4.1%減。前年が1兆8691億円で、同1.4%減だったことからすれば、大幅なマイナスだったことになる。しかもそのマイナスは「1位から5位」までを除いて、全社に及んでいると見るべきで、雑誌のみならず、書籍にまで凋落が押し寄せていることがうかがわれる。
ちなみに昨年は「151位から400位」まではプラスだったのである。とりわけ深刻なのは「6位から50位」までの出版社だろう。昨年の5471億円、シェア29.27%、前年比2.1%減が、4453億円、24.9%、18.6%減となり、売上は1000億円、シェアは5%近く落ちこみ、マイナス幅はほぼ9倍に達しているからだ。
「出版社売上額推移」にしても、この10年で出版社は600社以上減り、総売上額にしても、9000億円近いマイナスとなっている。
2015年でも出版社総売上の91.4%は上位500社で占められているので、出版社減と総売上額減の相関を詳らかに指摘できないけれど、出版の多様性が失われていった10年間だと見なせよう。
なぜならば、出版の多様性とは小出版社が担ってきたものであり、消えていった出版社にしても、多くが小出版社であったことはいうまでもないからだ。
「書店販売金額」のほうも389社ではあるけれど、1兆1103億円、前年比6.5%減で、「出版社売上総額」のマイナスとパラレルである。15年で特徴的なのは「200億以上100億未満」、店舗数というと、2586店の大型店が軒並みマイナスとなっていることに尽きるだろう。
「200億以上」は9.6%減、「50億〜100億未満」は9.2%減で、「100億〜300億未満」はかろうじて0.8%減であるけれど、これは出店による影響も考えられるので、実際には同様のマイナスも推測される。
これらが2015年の出版社と書店の売上、販売金額をめぐる状況だが、さらに売上が落ちこみ、返品率も高止まりしたままの16年状況はどのようなものになるのか、本当に予断を許さない時期を迎えていることだけは確かだと思われる]
3.文教堂GHDは11月1日から315店舗をトーハン、共栄図書から日販へと変更。
[これは前回のクロニクルでも既述したように、DNPが日販に株式譲渡し、日販が筆頭株主となったことに伴う処置である。
だがこの場合、文教堂とトーハンの清算はどのようなかたちで処理されるのだろうか。
その一方で、平安堂が2014年に日販からトーハンに帳合変更した際に、日販が「一方的な解約」だとして、平安堂などに3億8000万円の損害賠償を求め、民事訴訟を起こしていた。それがこのほど平安堂は日販に対し、解決金500万円を支払うことで和解が成立した。
今回の文教堂の場合、日販とトーハンの立場は逆になったわけであるが、わずか数ヵ月でのトーハンから日販への帳合変更は何の問題もなかったのだろうか。平安堂と日販の間にあった「債務確認並びに取引継続の覚え書き」に準ずるものが、文教堂とトーハンの間にも交わされていたと考えるほうが妥当だろう。
文教堂の帳合変更にはまだ明かされていないいくつかのアポリアが潜んでいるように思われる。
なお文教堂GHDの決算は321億5500万円、前年比3.5%減、営業損失8500万円、経常損失7200万円。親会社株主に帰属する当期純損失は3億3100万円]
4.トーハンがあおい書店の全株式取得。
これはトーハンの100%子会社ブックス・トキワを通じてである。譲渡金額は非公表。
トーハンはあおい書店に代表取締役を派遣する。
あおい書店(東京)は名古屋市のあおい書店から会社分割によって9月に設立され、東京を始めとして19店舗、合計売上高は50億円とされる。
ブックス・トキワの社長はトーハンの近藤敏貴副社長で、らくだ書店を運営するらくだの株式を所有している。
[本クロニクル95 でもあおい書店のゲオへの移行を伝えてきたが、あおい書店とトーハンの関係、及びその業態や運営方針がよくわからない会社であった。
それも含めて、ここで明らかになったのは、ブックス・トキワもらくだ書店もトーハン傘下となっていた事実である。このことから考えると、3 にも象徴されるように、現在の書店はトーハンと日販の帳合というよりも、これまで明らかになっているよりもさらに多くが、水面下で子会社化されていることになろう]
5.取次の東邦書籍が自己破産。
[東邦書籍は1950年創立で、神田村取次の一社であり、静岡の吉見書店の取次として知られていた。
3 で文教堂と共栄図書の取引を記したが、共栄図書も神田村取次として学参を専門とし、文教堂の他に三省堂、戸田書店をメインにしていたはずだ。戸田書店も丸善ジュンク堂と提携したことで、共栄図書も外れることになるだろう。共栄図書は協和出版販売と同じくトーハン傘下となっているにしても、大きなダメージであることは間違いない。
栗田や太洋社だけでなく、専門小取次にも危機は否応なく訪れている]
6.中堅取次5社の共同集品を担っていた出版物共同流通センターが11月で業務を終了し、解散。
出版物共同流通センターは1970年に大阪屋、栗田、中央社、日教販、協和出版販売の5社の共同集品のための出版物共同受品センターとして発足し、78年に株式会社として法人化していた。
[5社のうち協和出版販売は4に示したようにトーハン傘下となり、栗田は大阪屋と統合したことによって、もはや共同集品する意味と機能を失い、コストも合わなくなっていたのだろう。
共同集品対象の出版社は古い版元が多いのだが、各取次ごとに対応せざるをえないことになった。一例を挙げておけば、栗田の場合、埼玉県戸田市の注文輸送課に直接納品ということになる]
7.講談社はアマゾンの電子書籍読み放題サービス「キンドルアンリミテッド」で、1,000タイトルを一方的に削除されたとして、「同サービスにおける講談社作品の配信停止につきまして」という抗議声明を発表。
[これは光文社も同様で、こちらは全550タイトルとされる。
この問題は前回も取り上げているが、この削除はダウンロード数が想定以上に及び、規定料に上乗せして料金を支払う契約だったために、支払額がかさみ、アマゾンの予算が不足したからだと伝えられている。またアマゾンは契約の見直しも求めていたようだ。
その後の講談社の抗議とアマゾンの対応などは何も報道されていないので、例によってアマゾンの秘密主義の内側で処理されたことになるのだろうか。
電子書籍の販売と流通の問題を象徴的に浮かび上がらせたことになろう]
8.講談社が一迅社の全株式を取得し、グループ傘下に収める。
一迅社は2005年にスタジオディー・エヌ・エーと一賽舎が合併して設立され、オタク系コミックやライトノベルの分野でシェアを高め、10年間で年商44億円を計上するに至っている。
[一迅社のコミックはブックオフで棚が作られているのを見て、その分野の一角を占めていることは知っていたが、読んだことはないので、コメントする立場にない。それに年商額も驚きであった。
一迅社から持ちかけたとされる資本提携の目的は、電子書籍や海外展開をめざしての大きなビジネスインフラの必要性から、講談社側はマンガカとコンテンツがかぶっておらず、競合しないことを挙げている。
確かにそれらを肯うにしても、一迅社にしてみれば、現在の出版流通システムの解体の中で、これ以上の成長は難しいことから、講談社という大きなビジネスインフラへと身を寄せたと判断できる]
9.エンターブレインの『月刊コミックビーム』編集総長の奥村勝彦が「ビーム緊急事態宣言」を発している。
それは「ビームがとにかく売れていない」「ビームだけではないマンガ雑誌自体がこのままではなくなってしまうのではないか」というもので、そのために月額1980円のプレミアムサービス「読もう! コミックビーム」を10月1日からスタートさせている。
その奥村に「ねとらぼ」が「スマホが漫画市場を一変させた」に始まる、かなり長いインタビューをしている。
[私は『出版状況クロニクル4』で何度も取り上げているように、「ビームコミックス」のファンで、その大半を読み、エンターブレインの奥付にある奥村の名前も覚えてしまったほどだ。おまけに拙ブログでカネコアツシの『SOIL論』 まで書いてもいる。
近年は『テルマエ・ロマエ』がヒットしたので、奥村の漫画エディターシップは健在であり、まだ行けるのではないかとの希望的観測を抱いていたが、そこまで追いつめられているとは思ってもみなかった。
いがらしみきおが『誰でもないところからの眺め』(太田出版)の「あとがき」で、「漫画家も追い詰められています。そして出版社も」と述べていたが、それがミリオンセラーも出したエンターブレインにも及んでいたことになる。
また7 の一迅社の講談社傘下入りも、このような状況に密接にリンクしているのだろう。その意味において、一迅社に先駆け、エンターブレインがKADOKAWA傘下となっていたのは賢明な選択だったということになる。ただその先がどうなるかはわからないにしても。
それらはともかく、奥村へのインタビューはずっと漫画の最前線にいた彼の実感のにじむもので、電子コミックへの言及も含め、教示されることが多いので、ぜひ読んでほしいと思う。
本クロニクルに引きつけて、ひとつだけ述べておけば、雑誌の時代が終わろうとしていることが示唆される。そして奥村は漫画雑誌がなくなってしまった場合、それでも漫画は成立するのかと問うているのである。
まさしく日本の漫画とは雑誌の嫡子ともいうべき存在で、彼ら/彼女らは働き者で、全員がよく稼ぎ、本家ともいうべき出版社に財をもたらしてきたのである。その両親ともいうべき雑誌がなくなれば、出版社自体はどうなるのか。奥村へのインタビューの向こうには、そのような問いもまた生じていることになろう]
10.音楽専科社が自己破産。負債は同社が3億6954万円、関連会社の連合通信社が1699万円で、合わせて3億8653億円。
音楽専科社は1966年設立で、『音楽専科』を発行し、90年にはヴィジュアル系ロックバンド専門音楽誌『SHOXX』、2007年にはアニメ声優専門誌『Pick-up Voice』を創刊し、その他にも写真集やムックなども刊行してきた。
98年には年商21億円を計上していたが、近年は2億5000万円となっていた。
[雑誌出版社の場合、メインとする雑誌部数が減少していくと、それをV字回復するのは困難で、新雑誌を出してマイナスを埋めようとするのだが、これも難しいことに変わりはない。
音楽専科社もそのような軌跡をたどったはずで、売上がほぼ10分の1になってしまったことは、それを如実に物語っている]
11.小学館の『小学二年生』が12月発売の2017年2.3月合併号で休刊。
1925年創刊で、73年には111万部を記録していたが、現在は6万部だった。
2010年の『小学五年生』『小学六年生』、12年の『小学三年生』『小学四年生』の休刊に続くもので、残された学年誌は『小学一年生』だけとなる。
[それこそ小学館はこれらの学年史を創刊することで始まっていたわけだから、ほぼ1世紀近くを経て、自らその休刊を見届けたことになる。
これらの雑誌の全盛時代は野上暁『小学館の学年誌と児童書』(「出版人に聞く」シリーズ18)に詳しい証言がなされているので、関心のある読者はぜひ参照してほしい]
12.2と関連する出版社の売上だが、岩田書院の「新刊ニュースの裏だより」No.969が、売上げが20年前の水準に落ちた」という、次のような一文を発している。
今年7月の地方小出版流通センターからの入金が153万円だった。これは1995年以来の低水準(同年11月:147万円、12月:155万円)。 この年は創立2年半で、刊行点数も40点である。その売上高と、創立23年・刊行点数970点を超えている今の売上高とが同じってどういうことよ。 地方小は、岩田書院の書店経由の90%以上を占める。 今年の7月分は、大阪のジュンク堂難波店の閉店にともなう返品もあったりして、ただでさえ少ない売上げが、削られた。 以前は、週2回の納品で毎回50万円、それに新刊の売上げが入って、月500万円くらいあったが、最近は1回の納品が30万円以下、月300万〜400万円で推移している。 この売上で大丈夫か、って? もちろん大丈夫じゃない。 この他に、出版助成金やら編著者の買上げや、個人への直販の売上げなどがあって、なんとか回っている。 と言っているうちに、8月も終わったが、8月の総売上が280万円しかない。これまた1995年と同じ水準である。 こうして、だんだん企業規模が元に戻っていくんだろうな。 |
[民俗学専門書出版だといっても、岩田書院はここに述べられているように、刊行点数は970点を超えているのに、7月の取次入金が153万円しかなかったという台所事情が実に率直に語られている。
それにしても、創立時の刊行点数40点の頃と売上高がほとんど変わらないとは「どういうことよ」と岩田のみならず、読んだ方も驚くであろう。だがこれが出版社のひとつの恐ろしい現実であり、取次が地方小でなければ、逆ザヤになっていたことも考えられる。
そればかりが、8月も「総売上」が280万円で、9月、10月は大丈夫だっただろうかと他社のことながら、心配になってくる。
順序は逆になってしまうが、「同裏だより」No.973では「DM縮小計画」が語られ、1回分として265万円かかっているが、効果も薄く、早急に見直さなければならないとも書かれている。
それで思い出したが、大宮の友人の葬式参列のために京浜東北線に乗った際に、目の前にいた乗客が何とこの「裏だより」を読んでいたのである。この人も岩田書院のDMを送られていた一人だろうが、このところ買っていない私も含め、見直しで外されるかもしれない]
13.ゲーテ書房が自己破産。
ゲーテ書房といっても知らない人のほうが多いと思うが、ドイツ語、辞書、文芸書、哲学書、絵本などの輸入販売をメインとしていた。
アマゾンなどにより、売上が落ちこみ、負債は2億5000万円。
[前世紀までは欧米の書籍は専門の小書店に頼ることが多く、それらは新刊輸入目録も発行していたからだ。私の場合はフランス図書をずっと利用していた。
澁澤龍彦は第三書房だったようだ。なお和書は鎌倉の邦栄堂書店だったという。
しかしアマゾンの台頭によって、それらの専門小書店が駆逐されていったのである。私にしても、洋書はマーケットプレイスもあるので、ついアマゾンを使ってしまうし、新刊であれば、届くのも早いからだ。
1970年代にはペーパーバック1冊を買うのに数ヵ月待ったことを思い出す。大学の近くにあった小さな洋書店がなくなったのはいつのことだったのだろうか。そのようにして時代も変わってしまったことも]
14.太洋社の破産に伴い起きていた、出版協の緑風出版など8社の芳林堂高田馬場店の選択常備問題は、トーハンが伝票切替に応じ、常備納品伝票を受領したことによって解決した。
「これは本クロニクル100でも既述しておいたが、太洋社破産管財人、トーハン、出版協などの5者協議によって、ようやく解決を見たことになる。
緑風出版の高須次郎によれば、根本原因は太洋社が選択常備出版社リストとその明細を出さなかったことにあり、これが解決したのは太洋社の管財人の了承があり、切り替えられたというのがポイントだとされる。
このような問題はこれからも続いていくことが予測される]
15.岩波ブックセンター会長の柴田信が亡くなった。
[現役のままの86歳の死であり、あやかりたいと思うが、それはとても無理だろう。
柴田に関しても、『出版状況クロニクル4』でも何回も言及してきたし、最後に会ったのは、2014年の元講談社の鷲尾賢也のお別れの会だった。
久しぶりに会ったので、来月の出版状況クロニクルにあなたのことを書きますといったら、とてもうれしそうな顔をしたことを思い出す。
ただ業界紙などにも掲載されることなく、亡くなった出版関係者も多いはずで、これからはそういう人たちのことも記しておくことを心がけたい]
16.日本古書通信社から、若狭邦男の『探偵作家発掘雑誌』第一巻が刊行された。
[戦後のカストリ雑誌に見られる八切止夫を始めとする探偵作家の探求であり、このような発掘はこの著者しかできないと思われる。それは公共図書館や大学図書館ではなく、地道な個人の収集と探索によるしかないからだ。
この一冊を通読するだけでも、戦後の出版業界の始まりが混沌といかがわしさの中にあり、そこにもはや想像できない出版物の放つ魅力すらもこめられていたのだろう。
それに比べて、現在もまた第二の占領下だと思われるが、出版物のエネルギーはどこかに消えてしまったようだ]
17.「出版人に聞く」シリーズ〈20〉、河津一哉、北村正之『「暮しの手帖」と花森安治の素顔』 は10月中旬に発売された。
「日本の古本屋メールマガジン」213号に、北村による紹介「天才編集者花森安治のもとで薫陶を受けた日々をふり返る」が掲載されている。
今月の論創社HP連載「本を読む」9 は「吉川英治『鳴門秘帖』と『世界聖典全集』」です。