出版状況クロニクル104(2016年12月1日〜12月31日)
16年11月の書籍雑誌の推定販売金額は1159億円で、前年比1.2%増。
書籍は531億円で、同4.9%増、雑誌は628億円で、同1.7%減。
雑誌内訳は月刊誌が522億円で、同0.3%増、週刊誌が105億円で、同10.5%減。
11月の書籍が大きなプラス、雑誌が小さなマイナスとなったのは、10月の送品の激減の反動であり、売上が回復していることを表わしているのではない。単月ではなく、8月から11月までを通算すると、書籍は前年比4.4%減、雑誌は4.9%減である。
返品率は書籍が39.1%、雑誌が39.5%で、こちらも10月よりは多少下がっているが、12月にはその反動が生じることも予測される。
店頭売上は書籍が4%減、雑誌の定期誌は1.5%減、ムックは1%増、コミックスは12%減。週刊誌とコミックスの大幅なマイナスはまだ続いていくだろう。
16年は太洋社の自主廃業と破産から始まり、信山社=岩波BCの破産で終わったといえる。
そのような出版状況の中で、17年がスタートしていくわけだが、否応なく大手取次と大手書店の危機を露出していくことになろう。
1.16年11月までの推定販売金額を示す。
■2016年 推定販売金額 月 推定総販売金額 書籍 雑誌 (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) 2016年
1〜11月計1,342,601 ▲3.6 679,330 ▲0.8 663,271 ▲6.4 1月 103,907 ▲4.5 54,048 0.1 49,859 ▲9.1 2月 147,551 ▲0.1 84,425 9.8 63,126 ▲10.9 3月 181,691 ▲3.4 106,318 ▲2.5 75,373 ▲4.7 4月 125,936 ▲1.1 61,201 6.5 64,735 ▲7.4 5月 96,289 ▲4.1 46,104 ▲3.2 50,185 ▲4.9 6月 114,721 ▲3.4 54,312 ▲1.2 60,409 ▲5.4 7月 106,864 ▲5.7 49,829 ▲3.1 57,035 ▲7.9 8月 104,259 ▲4.7 48,277 ▲2.9 55,982 ▲6.2 9月 137,472 ▲2.9 71,712 ▲3.2 65,760 ▲2.6 10月 107,935 ▲12.1 49,952 ▲15.1 57,983 ▲9.3 11月 115,976 1.2 53,152 4.9 62,824 ▲1.7 [11月までの推定販売金額は1兆3426億円で、前年比3.6%減。書籍は6793億円で、同0.8%減、雑誌は6632億円で、同6.4%減である。
15年12月の推定販売金額は1290億円だったので、これに16年11月までの通年マイナス3.6%を当てはめれば、12月は1244億円ほどとなる。したがって16年度は1兆4670億円前後と予測され、ついに1兆5000億円を割りこんでしまうだろう。
そしてさらに17年度は1兆3000億円台まで落ちこみ、1996年のピーク時の2兆6538億円の半分の売上高という事態を迎えることになろう。
またとりわけ16年にあって特徴的なのは、雑誌販売額が書籍を下回ってしまったことで、それは11月時点で160億円に及び、12月での逆転は不可能である。
書籍が雑誌を上回っていたのは1960年代半ばから70年代初頭にかけてで、その後はずっと所謂「雑高書低」の時代に入っていたことからすれば、近年の雑誌の凋落の深刻さがわかるだろう]
2.16年の年間ベストセラー表も示しておく。
■日販・トーハン 2016年 年間ベストセラー (集計期間:2015年11月27日〜2016年11月25日) 日販順位 トーハン順位 書名 著者 出版社 1 1 天才 石原慎太郎 幻冬舎 2 2 おやすみ、ロジャー カール=ヨハン・エリーン/三橋美穂監訳 飛鳥新社 3 4 ハリー・ポッターと呪いの子
第一部・第二部特別リハーサル版JKローリング、ジョン・ティファニーほか 静山社 4 5 君の膵臓をたべたい 住野よる 双葉社 5 − 嫌われる勇気 岸見一郎、古賀史健 ダイヤモンド社 6 6 どんなに体がかたい人でもベターッと開脚
できるようになるすごい方法Eiko サンマーク出版 7 8 羊と鋼の森 宮下奈都 文藝春秋 8 10 コンビニ人間 村田沙耶香 文藝春秋 9 3 正義の法 大川隆法 幸福の科学出版 10 9 新・人間革命(28) 池田大作 聖教新聞社 11 ー つくおき nozomi 光文社 12 12 火花 又吉直樹 文藝春秋 13 ー 超一流の雑談力 安田正 文響社 14 13 言ってはいけない 橘玲 新潮社 15 ー 結局、「すぐやる人」がすべてを手に入れる 藤由達蔵 青春出版社 16 ー 幸せになる勇気 岸見一郎、古賀史健 ダイヤモンド社 17 14 置かれた場所で咲きなさい 渡辺和子 幻冬舎 18 15 幸福の花束 創価学会 聖教新聞社 19 18 また、同じ夢を見ていた 住野よる 双葉社 20 20 コーヒーが冷めないうちに 川口俊和 サンマーク出版 − 7 嫌われる勇気/幸せになる勇気 岸見一郎、古賀史健 ダイヤモンド社 − 11 つくおき/もっとつくおき nozomi 光文社 − 16 九十歳。何がめでたい 佐藤愛子 小学館 − 17 だるまさんが/だるまさんの/だるまさんと かがくいひろしさく ブロンズ新社 − 19 京都ぎらい 井上章一 朝日新聞出版 [この数年、年間ベストセラーリストを掲載してこなかったが、今年は例年以上に1の売上推移をダイレクトに反映していると推測できるし、それは現在の書店市場の鏡像でもあろう。ファストフード、ファストファッションではないけれど、出版業界もファストブックの時代に入って久しいことをあらためて認識させられる。
児童書、自己啓発書、宗教書、賞絡みで大半が占められ、不遜なことをいってしまえば、そこに大学進学率が52%に達した、かつてない高学歴社会の照り返しはまったく見られない。もはや大学が読者を生み出し、育てるトポスではなくなってしまったことを告げている。
それはこれからさらに加速し、また年間ベストセラーリストへと反映されていくにちがいない]
3.『出版月報』(11月号)が特集「学参マーケットの最新動向」を組んでいる。それを要約してみる。
* 学参販売は書店ルート、学校ルート、塾ルートの3つに大別される。そのシェアは書店ルートが全体の6割、学校、塾ルートが4割と見られる。
* 2015年の辞典を除いた学参市場規模は450億円。書店店頭における販売シェアは5%ほどだが、5年連続で伸びていて、11年6%、12年3%、13年2%、14年6%、15年7%のプラスとなっていて、非常に好調である。
* しかし小・中・高校合計の児童・生徒数は1985年の2266万人をピークにして、16年は1300万人と42%も減少し、11年と比較しても5年間で60万人以上のマイナスで、少子化の影響は歴然としている。
* それでも学参が伸びている理由として、次の5つが挙げられる。2011年以降の指導要領改訂によるカリキュラム難化に伴う家庭学習のニーズの高まり、親の教育熱は高いが、学習塾に通わせる金銭的余裕のない家庭も多く、学参購入につながっていること、新しい学参が続々登場し、市場が活性化していること、ベネッセの個人情報漏洩事件で「進研ゼミ」などの会員が激減し、それが書店の学参販売に影響を及ぼしていることなどである。
* 新刊発行状況は学参指導要領の改訂された年は2500から2700点だが、近年は2100点で、平均低下も1100円から1200円推移し、極端な価格上昇は見られない。
* 学参の特徴として、季節商品であり、4月の新学期シーズン、夏休み、入試シーズンと販売の山が年に3度あるが、近年は年間販売曲線がフラットになり、既刊比率75%のロングセラーという商品特性も加わり、安定した市場を形成しつつある。
これらの他に、学参出版社の特徴と構造変化、書店への営業と啓発活動、この2年間のジャンル別売上動向などへの言及もなされているが、それらに関して必要な読者は直接『出版月報』を参照してほしい。
[これはあまり組まれてこなかった特集であり、少子化が進行する中でも学参は伸び続けているという思いがけない事実を教えてくれたことになる。学参をメインとする学研プラス、学参専門取次の近年の好調がこのような販売市場を背景としていることがわかる。
さらに2020年にはこれまでにない規模の抜本的な教育改革が控えているので、大きなビジネスチャンスが待っているのではないかとの指摘もなされていた。
学参についてはほとんど門外漢で、「出版人に聞く」シリーズ4の中村文孝『リブロが本屋であったころ』の中での学参販売レクチャーを拝聴し、とても啓発されたことを想起した。そしてまた学参の世界とは無用の用ではなく、有用の用であることも]
4.日販の子会社27社を含む中間決算は連結売上高2970億円、前年比2.7%減。親会社株主に帰属する中間純利益は7500万円、同73.2%減。
日販単体売上高は2384億円、同1.9%減。MPDの売上高は893億円、同100%。
5.トーハンの子会社15社を含む連結中間決算は売上高2227億円、前年比1.4%減。親会社に帰属する中間純利益は13億円、同77.6%増。
八重洲BCなどの直営書店法人は13で、売上高は600億円。トーハン単体売上高は2153億円、同1.3%減。
6.日教販の決算は売上高273億円、前年比0.9%減だが、当期利益は1億1200万円で、6年ぶりの黒字決算。
その内訳は取次販売事業が264億円、前年比1.1%減、学参・辞書・事典部門は193億円、同2.6%増、教科書部門は71億円、同9.7%減。
7.有隣堂の決算は売上高495億円、前年比5.5%減、営業利益は1億8300万円、経常利益は9200万円。
店舗リニューアルに伴う固定資産除却損などにより、当期純損失は1億600万円の赤字。
その内訳は書籍類が189億円、同2.5%減、雑誌が43億円、同6%減。
8.紀伊國屋書店の決算は売上高1059億円、前年比2.5%減。営業利益は6億円、同10.5%減、当期純利益は7億円、同2.6%増。
出店はそごう川口店とセブンパークアリオ柏店の2店で、国内店舗は68店、店売総 本部売上は前年比2.0.%減、営業総本部は3.8%減。
9.ゲオHD中間決算は売上高1229億円、前年比1.3%減、リオ五輪などの影響で、レンタル部門は35億円減少。
[1の今年度売上推移、2のベストセラー、3 の学参動向などを背景として、大手取次、書店、複合店の中間決算や決算が出されたことになる。
日販にしてもトーハンにしても、雑誌のマイナスは5%を超えているが、それがダイレクトに決算に反映されていないのは、開発商品などの導入、子会社やM&A書店の連結化に基づいている。
しかし日販の連結売上高における中間純利益7500万円というのは、過去10年間で明らかにビジネスモデルがピークアウトしてしまった事実を否応なく浮かび上がらせている。それは最終決算に表出するであろう。
日教販は6年ぶりの黒字決算だが、これは3 の学参の好調も一因となっているはずだ。
有隣堂は1の売上推移とパラレルなかたちでの赤字決算で、日教販と同様に不動産プロジェクトに着手し、安定収入を図ろうとしている。
紀伊国屋は6期連続決算とされるが、閉店がなかったことと、2店出店の寄与によるだろうし、数年内には海外店舗も連結対象決算とならざるをえないだろう。
ゲオのレンタル部門の35億円の減少は、そのままTSUTAYA=CCCのマイナスともリンクしていると推測される。
ゲオの動画配信のゲオチャンネルはエイベックス・デジタルと提携し、800万のヒットゲーム『龍が如く』を実写ドラマとして、11月30日から独占配信し、1月からはこれも独占貸出を行なう。
動画配信市場は15年に1500億円だったが、22年には2000億円に達するとされる。だがその一方で、ネットフリックもそれほど伸びていないようだし、NTTドコモ系のスマートフォン向け有料放送「NOTTV」の終了が伝えられている]
10.ティーエス流通協同組合の決算は売上高5882億円、前年比23.3%減と大幅なマイナスとなり、客注品受注事業の採算ラインである1億円の6割を下回る売上規模で、赤字となる。
[やはりアマゾンの会員制即日配達などの浸透により、客注品流通を旗印とする協同組合事業も成立が難しくなっていることを伝えている。
図書館などの一括採用、共同販売事業の拡大などが今後の方針とされているようだが、それもまた困難であることはいうまでもないだろう。またこのような事業のためには取次の支援が不可欠であるけれど、そうした余裕と体力が取次にもはや残されていないことも確かだからだ]
11.名古屋の栄進堂書店が自己破産。
1962年創業で、2000年初頭には売上高20億円を計上していたが、16年には4億6000万円にまで落ちこみ、4年連続の赤字決算となっていた。負債は7億円。
[1980年代まで栄進堂は日進堂、鎌倉文庫と並んで、名古屋地元御三家と呼ばれていたこともあった。それが日進堂は90年代に退場し、本クロニクル100でも既述しておいたように、鎌倉文庫がトーハングループに吸収され、最後にのこった栄進堂も自己破産という結末を迎えたことになる。
そういえば、かつて全国各地に御三家と呼ばれた地元書店が存在していた時代があったけれど、それらの書店の多くがもはやなくなってしまったと思われる。
しかし今回の栄進堂に関して驚かされるのは、年商に対して負債額が大きいことである。結局のところ、粉飾決算を重ねて延命してきたと見なすしかないだろう。
折しも『週刊エコノミスト』(12/20)が「粉飾ダマし方見抜き方」特集を組んでいるが、粉飾決算事件のパターンとして、売掛金と在庫の過大計上が挙げられている。おそらく栄進堂も同様だったと考えられる。
以前にやはり取次に吸収された地方チェーン店の水増し決算の手法を聞いたことがある。それはCDやDVDを外国から廉価で大量に仕入れ、それを日本の時価として棚卸し、在庫を膨らませるというものだった。取次が書店をM&Aするに際し、あらためて在庫棚卸しを経た上で、「囲い込み」をしているとはとても思えない。所謂「ババ」を引いてしまい、結局のところ不良債権の先送りでしかないM&Aも起きているはずだ。また現在のような出版状況下にあって、売上を回復することは至難の業だといっていい。
信山社の自己破産負債額が1億3000万円近かったことにも驚かされたが、こちらは栄進堂などのような出店による負債ではなく、岩波ブックセンターという最高の立地の単独店のものだったのである。それはさらに深刻な書店状況を浮かび上がらせてしまったことになろう]
12.『新文化』(12/1)に「『仲(ママ)卸』『直営&FC事業』で躍進する新進」として、これもまた名古屋の取次兼書店が一面特集されているので、こちらも紹介しておこう。
* 新進は1969年に週刊誌などを販売するスタンド販売業のために設立された会社で、折込チラシを手がける中日興業の姉妹会社である。
* 新進の売上高は20年前をピークに右肩下がりとされるが、中卸しと書店経営と開発を事業として100億円を超え、雑誌扱い高は全国書店の中でもトップクラスで、黒字決算で、経営は順調だという。
* 中卸事業の柱であるスタンド販売は街の菓子店、煙草屋の店頭売りから発想され、日本で最初に「スタンドルート」と呼ばれる流通システムをつくった。現在は喫茶店、美容院、病院、介護施設、官公庁などを取引先とし、全国110ヵ所にあるディーラーを通じて雑誌を送り、高さ1メートルのスタンド什器で、60タイトルを販売、このスタンド設置は数万に及び、書籍も増えている。
* ディーラーへの卸正味条件は通常の書店正味が基本で、買掛金は新進が一括して取次へ保証すること、それに加え、中小書店の廃業により、スタンド販売の需要が増えている。
* それとは別に、スーパーやコンビニなどの2400店については、1983年に「直送システム」を構築し、取次から直接送品し、新進が決済する流通となっている。それらのスーパーとはヤオコー(埼玉)、丸久(山口)、タイヨー(鹿児島)、杏林堂(静岡)、フィール(愛知)、バロー(岐阜)、ツルハドラッグ(北海道)などである。
* また直営書店としては「本の王国」13店舗を運営し、個人を対象とするFC60店舗を有する。FCモデルとしては10坪から30坪で、月商150万円以上、開業資金は新進への保証金100万円と在庫を含め、600万から800万円で、ロイヤリティはなく、取次に対しても新進が保証するシステムとなっている。[FC書店のことはともかく、この特集によって、日頃の疑問が解けたこともあり、詳しく紹介してみた。
ここに挙げられているスーパーやドラッグストアに買い物に出かけているが、これらには必ず雑誌スタンドが置かれ、週刊誌中心だとしても、コンビニとは異なる組み合わせのタイトルが並んでいる。かつては地場の書店の外商の場合も考えられたけれど、現在はM&Aもあり、チェーン店となっていたりしても、それはないし、そのような外商もなくなっている。そこでどこがそれを担っているのかと考えていたのである。
その一社が新進だったことになり、それが2400店の取次からの「直送システム」によっていることを教えられたことになる。
しかしである。前回の本クロニクルでも指摘したが、コンビニの雑誌売上は雑誌の凋落に伴い、日商1万円を割りこんできている。それは新進のスタンド業態にも及んでいるであろうし、取次による「直送システム」もまたどのような行方をたどることになるかが問われる出版状況を迎えようとしているのではないだろうか。
おそらくこの新進の取次による「直送システム」は、コンビニの先行するそのシステムが80年代になって、スタンドルートへと導入されることによって確立を見たのであろう。とすれば、その起源は同様であり、コンビニ雑誌売上がここまで減少してしまった現在、そのような「直送システム」が取次にとってコストが見合うものかを問われつつあるようにも思われる]
13.『FACTA』(1月号)が雑誌のABC調査レポートに際し、「『岩波書店』が没落『週刊文春』が快進撃!」とのタイトルを掲げている。
[これは信山社=岩波ブックセンターの破産に絡む岩波書店事情にふれたものである。
それによれば、岩波書店は13年に1億8千万円の赤字に転落し、14年にはメーンバンクのみずほが企画部門に行員を送りこみ、社員の年収一律25%カット、20人の社員の早期退職のリストラを行ない、ようやく単年度黒字になったというもので、それが「『岩波書店』が没落」というタイトルにつながっている。
しかし直販誌である『FACTA』にしても『選択』にしても、出版業界に関する記事は風聞に基づくものが多く、それなりに通じたふりをよそおっているが、専門家によるものではない。今回もそれが目立つし、間違っていないにしても、信山社=岩波ブックセンター破産は別会社、書店問題であるのに、岩波書店がついでにスケープゴート化されている印象は否めない。
またこれを書いたのが誰なのかの指摘もできるが、ここでは留保しておこう]
14.市営による書店、八戸ブックセンターが12月4日にオープン。中心部のビル1階に入店し、売場面積は100坪、海外文学、社会科学、芸術書などの8000冊をそろえる。
読書会用の部屋、執筆活動のための個室カンヅメハウスを備え、三浦哲郎の文机部屋を再現し、コーヒーや地ビールも飲める。
地元書店3店が有限責任事業組合八戸書籍販売を設立し、仕入れ納品を担う。
[この八戸ブックセンターに関しては、『出版状況クロニクル4』で、武雄市のTSUTAYA図書館誘致につながる、政治家による文化的パフォーマンス、本にまつわる売名的プロジェクトと見なし、すでに批判しているので、ここでは繰り返さない。
ただそれにまつわるコストなどは明記しておこう。内装工事などの経費は1億1千万円、人件費などの年間運営費は6千万円、それに対し年間売上目標は2千万円で、4千万円の赤字となる。これらはすべて税金で支えられるのである。八戸市長がいうところの「文化の薫り高いまちにするため」のプロジェクトとして、八戸ブックセンターが本当に機能していくと考えているのであれば、とんでもない錯誤だと断言していい。文化に名を借りた赤字の垂れ流しだし、書店、図書関係者はどうして批判しないのだろうか]
15.『ブルータス』(1/1・15)が「危険な読書」特集を組んでいる。
[雑誌の読書特集は裏切られることが多く、ずっと取り上げないことにしていたが、これは友人から恵送され、思いがけずに本当に「危険な読書」にふさわしい2冊が掲載されていた。それは次の2冊である。
* 画メビウス、作ホドロフスキー 『天使の爪』 (原正人訳、飛鳥新社)
* マック・Z・ダニエレブスキー 『紙葉の家』 (嶋田洋一訳、ソニー出版)
しかも両者は現在品切となっているけれど、ネット上や図書館などで探せば、入手可能である。何が起きているのかわからない出版業界の年始にお勧めする読書として、この2冊ほどふさわしいものはないようにも思われるので、ここに挙げてみた]
16.論創社から高野慎一『貸本マンガと戦後の風景』が出された。
[『日本読書新聞』や『ガロ』の編集者を経て、北冬書房を創業した高野による体験的貸本マンガ史であり、知らなかった多くのことがつめこまれている。
高野には「出版人に聞く」シリーズへの登場を乞うてきたが、番外編のようなかたちで、この一冊が論創社から刊行され、とてもうれしい。
同じく番外編として、鈴木宏の『風から水へ』も、2月には出すことができるであろう。
また「出版人に聞く」シリーズとしては、所謂「総会屋雑誌」に関しても準備されているので、乞う、ご期待!と、ここに記しておこう。
私は本クロニクル92−1などにおいて示したように、雑誌が好調なうちに、書籍の販売、流通システムの改革を提起してきたが、雑誌の急速な凋落によって、それらもほとんど不可能な事態へと追いやられてしまった。
リードのところでも書いておいたがが、17年の出版業界は末期的な危機状況の中を歩んでいくしかないと思われる]
17.今月の論創社HP掲載「本を読む」11 は「柴田錬三郎『江戸群盗伝』と山田風太郎『風眼抄』」です。