17年1月の書籍雑誌の推定販売金額は963億円で、前年比7.3%減。
書籍は508億円で、同6.0%減、雑誌は455億円で、同8.7%減。
雑誌内訳は月刊誌が353億円で、同11. 2%減、週刊誌は101億円で、同1.4%増。
前者の大幅マイナスは、集英社のジャンプコミックスの主要タイトルの12月31日前倒し発売、後者のプラスは発行本数が一本多かったことによっている。
返品率は書籍が36.4%、雑誌は45.3%。
前回の本クロニクルで、12月31日の特別発売日の反動が恐ろしい気がすると述べておいたが、それを実証したかのような雑誌返品率である。
これは特別発売日の企てがほとんど功を奏しなかったことを意味しているし、昨年5月の45.5%と並ぶ高返品率でもある。
963億円の販売金額にしても、やはり昨年5月の最低の962億円をかろうじて上回るものでしかない。
1月の販売金額が1000億円を割ったのも、今世紀に入って初めてのことだ。
これらの1月の売上と返品率は、17年の前途を予兆するような数字だといっていい。
その一方で、すでにナショナルチェーンの解体と、予想もできなかった帖合変更が起き始めていることも挙げておこう。
1.日本地図共販が自己破産。負債は14億6300万円。グループのキョーハンブックスも自己破産。
日本地図共販は1946年に設立の地図や旅行ガイドの専門取次で、97年には売上高109億円を計上していたが、16年には32億円まで落ちこんでいた。
[日本地図共販(以下地図共)の自己破産は新聞でも記事とされなかったり、業界紙でも大きなニュースになっていないが、これは現在の出版業界、とりわけ取次と流通問題の危機を象徴するものであるので、それを記してみたい。
地図共に関しては、『出版状況クロニクル4』 の15年6月段階で、これからの行方が気にかかると既述したが、その後も昭文社への資本参加の要請と不成立、営業所の閉鎖、出版社への支払いの遅延、出版社の出荷停止などが伝えられていた。それゆえに今回の自己破産は予想された事態でもあった。
しかしここで重要なのは、地図共が全盛期にはトーハンや日販以上に取引書店数を有していた最大の専門取次だったことだ。北海道から九州まで営業所を設け、全国の書店の地図売場のメインテナンスも担当し、国土地理院の地形図も扱っていた。その書店数は正確にはつかめないが、1万5000店に及んでいたのではないかと推測される。
しかもそれらの大半は中小書店で、ロングセラーの地図やガイドがメインだったことから、低返品率、すでに入金済みの厖大な社外在庫といった専門取次メリットによって稼働していたのである。その事実は取次の経営条件として書店数が多いほど安定していること、さらにそれらが中小書店で返品率に加え、歩戻し率も低いことが不可欠であることを示している。
だがそのような取次にとっての安定した書店インフラは、今世紀に入って崩壊したといっていいし、本クロニクルでも繰り返し記してきたように、書店数は1990年の2万3000店から2016年には1万4000店を割っている。
地図共の破産は大手書店の大手取次への帖合変更が原因だとも伝えられているが、それよりも地図共を支えていた中小書店の閉店と消滅に求められよう。それは取次の流通構造もまた、薄利多売と出店や閉店の少ない安定した書店市場にベースを置いていることを告げている。
地図共は売上高70億円まで減少した段階から6期連続で赤字とされている。書店数1万5000店を割ろうとしていた2010年頃から、それは赤字と危機へと追いやられたことも示唆している。また総合取次としての大阪屋、栗田、太洋社がたどった回路でもある。そうした総合取次の破綻と今回の専門取次地図共の破産を照らし合わせれば、再販委託制に基づく取次システムが、もはやビジネスモデルとして成立が不可能なところまできていることを否応なく認識せざるをえないだろう。
再販委託制に関連して、地図共の破産によって、地図やガイドは必然的にトーハン、日販、大阪屋栗田を通じて出版社へと返品されるだろう。出版社にとってはまたしても売掛金を回収できず、さらに返品というダブルパンチになる。ちなみに売掛債権は昭文社が1億3700万円、山と渓谷社が7257万円とされる。
もうひとつ最後に付け加えておけば、地図共の東京商工リサーチの配信記事に、「大手取次による得意先書店の囲い込み」によって売上高が減少したとあったが、大手取次による「書店の囲い込み」とは本クロニクルが使用しているタームであり、企業調査会社にしても、本クロニクルを読んでいるのかと苦笑させられた]
2.アルメディアによる2016年の書店出店・閉店数が出された。
■2016年 年間出店・閉店状況(面積:坪) 月 ◆新規店 ◆閉店 店数 総面積 平均面積 店数 総面積 平均面積 1月 6 1,170 195 63 7,612 127 2月 5 1,372 274 55 4,716 94 3月 15 2,854 190 70 4,909 85 4月 23 3,715 162 68 4,101 65 5月 3 1,340 447 93 7,003 82 6月 10 1,064 106 63 5,790 93 7月 14 4,152 297 35 4,053 116 8月 9 1,753 195 49 3,487 79 9月 16 4,168 261 44 3,772 88 10月 9 2,107 234 29 2,303 82 11月 11 1,222 111 33 2,741 88 12月 12 2,136 178 30 2,477 88 合計 133 27,053 203 632 52,964 90 前年実績 189 35,540 188 668 60,856 97 増減率(%) ▲29.6 ▲23.9 8.2 ▲5.4 ▲13.0 ▲6.6 [出店133店に対して、閉店は632店である。14年が出店189店、閉店668店であったことから比べると、双方が減少しているが、書店が減り続けていることに変わりはない。
出店による増床面積は2万7053坪、閉店による減少面積は5万2964坪で、こちらもトータルとして2万5911坪の減少。これも『出版状況クロニクル4』 で既述しておいたが、書店数のマイナスとは逆に、1990年80万坪、96年125万坪、2014年140万坪とバブル的に増床してきた書店坪数も、減少過程に入ったと考えていいだろう。
ただ書店数の場合、昨年の取次の統合や破産が生じたことで、毎月の集計ができず、発表されていない。しかし1でふれておいたように、確実に1万4000店は割っているはずだ]
3.2と同じく、アルメディアによる取次別新規書店数と新規書店売場面積上位店を示す。
(カウント:売場面積を公表した書店数)
■2016年 取次別新規書店数 (面積:坪、占有率:%) 取次会社 カウント 増減(%) 出店面積 増減(%) 平均面積 増減(%) 占有率 増減
(ポイント)日販 60 ▲34.8 15,242 ▲20.4 254 22.1 56.3 2.4 トーハン 61 ▲14.1 10,745 9.6 176 27.5 39.7 12.1 大阪屋栗田 9 ▲57.1 866 ▲86.3 96 ▲68.1 3.2 ▲14.6 中央社 3 200.0 200 122.2 67 ▲25.6 0.7 0.4 その他 0 − 0 − 0 − 0.0 0.0 合計 133 ▲29.6 27,053 ▲23.9 203 8.0 ー ー [15年の取次別新規書店数リストには大阪屋、栗田、太洋社が入っていたが、16年は大阪屋栗田として残っているものの、取次は6社から4社となり、何とも寂しい限りである。
■2016年 新規店売場面積上位店(面積:坪) 順位 店名 売場面積 所在地 1 TSUTAYA OUTLET 神栖店 1,300 神栖市 2 明文堂書店TSUTAYA戸田 1,070 戸田市 3 ジュンク堂書店立川高島屋店 1,032 立川市 4 枚方蔦屋書店 900 枚方市 5 ジュンク堂書店南船橋店 900 船橋市 6 TSUTAYA BOOK GARAGE福岡福岡志免 840 志免町 7 蔦屋書店長岡花園店 800 長岡市 8 TSUTAYA美しが丘 735 札幌市 9 岡書帯広イーストモール店 630 帯広市 10 TSUTAYA仙台荒井店 620 仙台市
それに比べて、新規店売場面積上位店はTSUTAYAとジュンク堂の大型店が並び、9の岡書帯広イーストモール店もTSUTAYAのFCであるので、TSUTAYAが上位8店を占め、全盛を見せつけているようでもある。15年にはTSUTAYAは4店だったから、倍増したことになる。
日販の新規店は60店、出店面積は1万5242坪となっているが、8店だけで6895坪と半分近くなる。残りの52店にしても、TSUTAYAとそのFCの出店がかなりあると思われるので、実質的に16年の日販は、TSUTAYAの出店にいそしんできたことを示している。
しかしこの事実は日販とTSUTAYAの癒着という関係をあからさまに露呈するもので、両者がMPDを通じて一蓮托生の状況になっていることの表われであろう]
4.TSUTAYAは16年度の書籍・雑誌販売金額が1308億円で、前年比5%増の63億円プラス、1994年から22年連続で前年を上回ったと発表。
[この販売金額は812店の売上とされるので、1店当たりに換算してみると、1億6000万円、月商にして1340万円ということになる。
これは、『出版状況クロニクル4』でも、紀伊國屋やジュンク堂との売上高推定を提出しておいたが、紀伊國屋の16億7000万円、月商1億4000万円、ジュンク堂の9億6000万円、月商8000万円と比べ、驚くほど書籍・雑誌を売っていないのである。
この比較は14年のもので、TSUTAYAは1億5000万円、月商1250万円だったことからすれば、プラスになっているけれども、3で見たように、日販とMPDが出店と増床を全面的にフォローしているからに他ならない。それは4月出店の銀座蔦屋書店も同様であろう。
要するにTSUTAYAは日販と一体化し、レンタルと雑誌とフランチャイズとTカードをコアとし、書籍のマーチャンダイジングを確立しないままに成長してきたことになる。それが1店当たりの書籍・雑誌販売金額に如実に表われているのである。
それから忘れてはならないのが、TSUTAYAの22年連続の書籍・雑誌販売金額の増加とパラレルに、出版物売上高が減少し、半減してしまったことだ。当初レンタルと書籍・雑誌販売の組み合わせはビジネスモデルとして機能していたにしても、現在のレンタル料金設定、それから1店当たりの書籍・雑誌販売金額を見れば、もはや難しくなっているのではないだろうか。
近年の雑誌の凋落は、書籍シェアが低いTSUTAYA各店を直撃しているはずだし、それを3 に見られるような日販とMPDの全国的フォローによって、プラスの構図が支えられているのである。それは開店在庫のことを考えれば、実質的な金融支援と見なすこともできよう。
しかしフランチャイズの一角が崩れれば、それはMPDと日販にただちに跳ね返っていくであろうし、遠い先のことではないように思われる]
5.講談社の決算が出された。売上高1172億円、前年比0.4%増、当期純利益は27億円、同86.7%増の3期ぶりの増収増益。
[その内訳は「雑誌」627億円、7.4%減、「書籍」173億円、1.1%減だが、事業収入としての「デジタル」が175億円と44.5%増となり、それが増収増益を支えたことになる。
今期の「デジタル」収入の増加に基づく決算を機として、講談社はさらなるデジタル事業へと向かっていくだろう。そしてそれは日販のTSUTAYAとの癒着と並んで、これまで何とか存続していた書店をさらに苦境に追いやるだろう。
現在の大手出版社である講談社にしても、また小学館や集英社にしても、町の中小書店によって育てられたにもかかわらず、もはやそれを忘れてしまったかのようだ。
大手取次と同様に、大手出版社もその報いを受けていることも]
6.メディアドゥに集英社も出資し、同社の1%株主となり、小学館の2.2%、講談社の2.0%に続く出版社上位3番目となる 同社は「著作物のデジタル流通」を事業コンセプトとし、電子書籍コンテンツを電子書店に提供・配信する電子取次事業を行なっている。
7.ジュピターテレコム(J・COM)が電子雑誌読み放題サービス「J・COMブックス」を開始。
月額500円の500種以上のデジタル版雑誌が読める「雑誌読み放題コース」、同400円から700円のNHK出版の語学テキスト、趣味、実用誌が閲覧できる「NHKテキストコース」の2種。
[5 に見られる講談社の電子書籍による増収増益は、大手出版社のそれへの傾斜をさらにエスカレートさせていくにちがいない。6 と7 はそうした動向に併走している。
この他にもクリーク・アンド・リバー(C&R)による椎名誠や宮部みゆきなどの英語も含めた電子化配信、ユミコミックスの漫画家いがらしゆみこの『キャンディ・キャンディ』などのアジア市場も想定する電子配信、岩波書店の谷川俊太郎全集やボイジャーの片岡義男の300作品の電子化もされている。
また電子雑誌専業で、19の雑誌を無料で読めるブランジスタという会社も登場している。その主力の電子旅行雑誌の『旅色』は、観光地の旅館やホテルの広告費によって成立している。
ただその一方で、ソニーの専用端末「リーダー」での電子書籍購入サービスは終了し、閲覧とダウンロードはリーダー以外の端末からの配信サイト「リーダーストア」での利用となる。
しかしいずれにしても、電子書籍化が推進されれば、しかもその比重は雑誌に向けられているのだから、書店売上に影響を及ぼすことは必至で、さらなる書店の危機をもたらすことになろう]
8.『新文化』(2/16)に「東洋経済オンライン書籍販促の『武器』」という一面特集が組まれている。
ここではその「東洋経済オンライン」の現在を、主として抽出しておく。
* 経済系ニュースサイトとしてはトップの「東洋経済オンライン」は、昨年9月に月間2億PVを突破し、3億PVをめざしている。
* 更新される記事は毎月15〜20本で、書籍に関する記事は年間で200本近い。それは文字数3000から4000字まで、記事のトップに書影が掲載され、クリックするとアマゾンの購入サイトにジャンプする。
* その書影紹介は中立的な独自の報道メディアとしてで、自社書籍の宣伝を優先することはなく、他社の書籍も掲載する。オンラインの強みはリアルタイムのニュースに合わせ、ニュースを配信することである。
* PVが飛躍的に伸び、メディアとしての力がつくことで、自社の販売力強化と社内組織の活性化にもつながり、書店にコーナーも設定され始めている。
「東洋経済オンライン」は今後の出版社のオンラインビジネスの範となるはずだ。
[これは『週刊東洋経済』を有する東洋経済新報社の電子配信事情ということになるが書店販促の気配りは理解できても、やはりアマゾンにリンクしてしまう事実は否めないだろう。アメリカでは電子書籍の売上が減少し、ペーパーバックが伸びていると伝えられているけれど、日本のビジネス書の電子書籍化が進めば、「東洋経済オンライン」の試みにしても、そちらへ誘導されてしまうかもしれない危惧を孕んでいる。これは本クロニクルにしても、書籍紹介はアマゾンの書影を借りているので、そちらにリンクしてしまうことに内心忸怩たるものはあるのだが。
実際にアマゾンは、KADKKAWAなどすべてが直取引の出版社は54社及び、さらに拡大予定で、紙にしても電子にしても、すべての分野が依然として成長しているとされる。
3億PVに達した場合「東洋経済オンライン」のような試みは、どのようなシーンをもたらすであろうか]
9.富士山マガジンサービスは売上高25億6800万円で、前年比8.0%増、純利益2億7500万円で、同26.7%増の増収増益決算。
同社を定期購読の窓口とする雑誌は752誌で、総登録ユーザー数は247万5018人で、第3四半期累計期間より8万2000人の増となっている。
これはひとえにデジタル雑誌の取次サービス拡大による、ユーザー増の増収増益で、取扱デジタル誌は3343誌に及んでいるという。
[そのかたわらでは次のような出来事も起きていることを記しておこう。
『選択』(2月号)の発行人後記といえる「裏通り」コーナーで、富士山マガジンサービスにふれ、この1月で同社との契約を終了したと述べ、その理由と後日譚を報告しているので、それを引用しておく。
一番の理由は、富士山マガジン経由で講読している読者の多くが、そうとは知らず弊社に直接申し込んだと誤認しているためです。
ネットで「選択」と検索すると富士山の「月刊誌《選択》定期購読」という項目が先頭に出てくるため、勘違いする方が後を絶ちませんでした。
弊社への直接申し込みなら、様々な読者サービスが受けられるため、誤解の元を断つべく今回の契約解除に踏み切ったしだいです。
富士山側は報復措置として、同社経由の読者二千六百人への雑誌配送を、一月号までで一斉打ち切りとしました。
さらに同社は読者に対して「『選択』は一月一日で休刊」との虚偽情報をメールで流す始末。
「偽ニュース」流行りの世とはいえ、読者と出版社を混乱に陥れる所業は、まともな書店とは思えません。
縁を切って正解でした。私もかつて同社から不快な思いをさせられたことを付記しておく]
10.取協と雑協は2017年度の年間発売日カレンダーの最終案を発表。
それは業界や運送会社の事情を考慮し、暫定的処置として、土曜休配日を前年比8日増の13日とするもので、年間稼働日は280日。
[前回のクロニクルで、東京都トラック協会の出版取次専門部会長の語る「いつ出版輸送が止まってもおかしくない」問題伝えてきた。
それからただちに取協と雑協が暫定案を発表したということは、まさに切迫した事態を迎えていることの表われだろう。
しかし例によって、出版業界の弥縫策は変わることがない。休配日を8日増やしたところで、問題が解決するはずもなく、上意下達的な出版輸送歴史構造に由来していることに注視が向けられていない。
これから取協と雑協でプロジェクトを立ち上げ、発売日、輸送問題に取り組んでいくとされるが、抜本的改革とコスト負担は難しいとなれば、運送業界の人出不足問題とも絡んで、出版流通はスポイルされかねない状況にあるのではないだろうか。。すでにコンビニも雑誌売場の撤去を考え始めているようだ]]
11.これも『新文化』(2/23)が「高まるアダルト誌への規制」と題して、アダルト系出版社22社で構成する出版倫理懇話会の長嶋博文会長(ジーウォーク代表取締役)にインタビューしているので、それを紹介してみる。
* 2020年の東京オリンピックとグローバル社会を意識して、アダルトの表現規制がさらに厳しくなり、コンビニにおいても、表裏表紙のきわどい描写の自粛が求められている。
* コンビニはこれからもアダルトを売り続けたい意向だが、「成人コーナー」は縮小され、雑誌点数はかつての半分以下で、いつか亡くなるのではないかという危機感がある。実際に首都圏では多くが撤去されている。
* 販売面でも、ネットの影響から、この1、2年で急激に売れなくなった印象があるが、そうした中で、取次はコンビニ向けPB商品の提案をしている。コンビニの雑誌の売上において、アダルト誌はかつてドル箱商品であり、そのいちじるしい凋落は出版社のみならず、コンビニ、取次にもかなりのダメージを与えている。
* 昔は小規模書店がアダルト誌を多く取り扱ってくれたが、廃業する書店が多く、配本する店が少なすぎるという現状である。それでもまだコミックを中心とするチェーン店、専門店などは伸びしろがあり、市場はなくなっていない。
* ただアダルト分野の販売金額は感覚的に1990年代をピークにして半分以下になり、発行部数も同様で、雑誌点数も減り、創刊もほとんどなくなっている。
* それはコミックスも同じだが、アダルト電子コミックは近年伸び続け、ほとんどの会員社が右肩上がりで推移し、当社のシェアは30%だが、50%近いところもあり、売れ筋の作品が出た時には爆発的に売れる。電子市場の20%はアダルトコミックで占められているのではないか。
* 出版倫理懇話会の現在の問題は違法ダウンロードで、許可なく勝手にスキャニングし、アップロードし、閲覧できるサイトが多く存在していることである。その事業者、個人には警告文を送り、中止させたりしているが、山のようにあり、いたちごっこでなくならない。
* また出版倫理懇話会は都条例に引っかかったコミックに関しては話し合いを持ち、警視庁からの警告に対しても、サポート業務を行ない、情報を共有し、ある意味において、行政や警察への防波堤になっている。
ただ逆風が吹いていることに変わりはないし変わりはないし、会員社はそれぞれに創意工夫し、雑草のごとく生き延びているし、環境の変化に合わせていけるのか、これに尽きる。
[たまたま今月の論創社HPの連載「本を読む」(13) は「消費社会、SM雑誌、仙田弘『総天然色の夢』」で、「出版人に聞く」シリーズ〈12〉の飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』の補遺編として書いている。
戦後のカストリ雑誌から始まるアダルト誌の世界は、出版業界においても、エロ本分野としてアウトサイダー的扱いをされてきたが、編集者にしても執筆者にしても、人材の宝庫であり、出版業界を下支えしてきたことは明白である。
ここに見られる長嶋の「会員社はそれぞれに創意工夫をし、雑草のごとく生き延びている」との真摯な発言は、私たちが見習わなければならないものでもあるし、そこでもう一度、出版の原点を考えてみるべきことを示唆してくれているように思える]
12.ニュートンプレスが民事再生法申請。
同社は1974年に設立され、81年に月刊科学誌『Newton』を創刊し、2011年には年商17億年を計上していたが、16年には12億円に減少し、赤字になっていた。負債は20億円とされる。
また前経営者がタブレット中学生向け理科学習教材の開発への出資を定期購読者にもちかけ、違法に現金を集めたことで、出資法違反で逮捕されたことも重なり、今回の処置となった。
[このニュートンプレスと『Newton』は、地球物理学者の竹内均がかねてからの念願のカラー写真とイラストが豊富な科学雑誌をめざし、81年に教育社から創刊した『ニュートン』を受け継いだものであろう。
その後どのような経緯と事情があって、ニュートンプレスに至ったは詳らかでないが、科学雑誌とその出版が様々に利用された結果を伝えているのだろう。
だが科学雑誌とは、戦前の雑誌の一角を占める役割を果たしていて、それが戦後の科学の発展に寄与したという説もある。そのことに関して、『子供の科学』の創刊者で、その分野のキーパーソンだった「原田三夫の『思い出の七十年』」(『古本探究3』所収)を書いていることを付記しておく]
13.新潮社の季刊誌『考える人』が2017年春号で休刊。
その理由として、雑誌市場の加速的な縮小の中で、季刊誌の維持が困難になったとされる。同誌はユニクロの単独スポンサー誌として02年7月に創刊され、15年にわたり発行。発行部数は2万部。
[これからは所謂「スポンサー雑誌」にしても、どこまで維持できるかわからない時期に入っていくのだろう。そのように銘打たれていなくても、「スポンサー雑誌」に当たるものは多々あり、その筆頭に文芸誌を挙げることができる。
『考える人』だけでなく、『新潮』もまた新潮社をスポンサーとする雑誌に他ならず、創刊以来、『新潮』もそのようにして刊行されてきたのである。それが可能だったのは、文学の時代であったこと、文芸誌刊行が出版社のステータスであったこと、ベストセラーを生み出したことなどによっている。しかしそのような時代が終わってしまった。それゆえに他の文芸誌にしても、同様の状況に置かれていることはいうまでもあるまい]
14.北沢書店の一階に出店していた児童書専門店のブックハウス神保町が閉店。
これは一ツ橋グループの物流を担う小学館の関連会社の昭和図書が、2005年に開設したものである。公取委の要請に応える意味もあり、児童書と自由価格本を中心とし、全商品にICタグを付し、書協の期間限定謝恩価格本フェアなども実施してきた。
[公取委や経産省の意向を受け、書協を代表するかたちで小学館が引き受け、自由価格本販売やICタグ実験を行なってきた書協のアリバイ的書店と見なすことができよう。
しかしそれでも八木書店ルートの自由価格本販売は、新刊書店でも広く採用されるようになり、それはひとつの成果でもあったかと思われる。先日私もそうした一冊である生田誠『日本の美術絵はがき1900−1935』(淡交社)を買ったばかりだ。またDNPグループのトゥ・ディファクトのハイブリット型総合書店「honto」が八木書店から1万点を仕入れ、常設コーナーとして、「アウトレットブックフェア」を設けてもいる。
それと思い出されるのは、最初の店長が丸善社員だった人で、彼には『評伝アレクサンドル・コジェーヴ』(パピルス)の刊行の際にお世話になったことだ。名前を失念してしまったけれど、お元気であろうかと気にかかる]
15.谷口ジローが亡くなった。
[思いがけない69歳の死で、現在の高齢化社会からすれば、若い死であった。
谷口については、『出版状況クロニクル4』 でもふれ、フランスでの「静かなブーム」と『遙かな町へ』の映画化も伝えてきたし、実際に観ている。
また私は本ブログの「ブルーコミックス論」6で、谷口の『青の戦士』を論じているし、『書店の近代』(平凡社新書)でも、『「坊っちゃん」の時代』を引用させてもらっている。
それらもさることながら、谷口の作品で最も懐かしいのは、狩撫麻礼と組んだ『LIVE! オデッセイ』(双葉社)全3巻で、それには「複製時代の偽叙事詩」というサブタイトルがついていたことを思い出す。確認するために探してみたら、出てきて、1982年の刊行であった。これを読んで追悼に代えることにしよう]
16.嵯峨景子の『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』(彩流社)が出された。
[11 のアダルト業界ではないけれど、コバルト文庫も多くの作家たちをデビューさせた揺籃の地であり、その歴史がここでようやく俯瞰され、たどられることになった。
1965年集英社コバルトブックが生まれ、66年に『小説ジュニア』の前身が創刊され、68年にその新人賞が設けられる。そして70年代後半には氷室冴子、久美沙織、正木ノン、田中雅美などがデビューし、80年代に少女小説ブームが起きていく。87年にコバルト文庫は1000点を突破し、88年には1600万部に達する売れ行きを見せる。
この時代のコバルト文庫の売れ行きはすごく、団塊の世代の子どもたち、つまり少女たちにとってのオアシスのようなものだったのではないだろうか。
私は田中雅美が後年になって書いた『暴虐の夜』(光文社文庫)などのファンで、かつて「ジュニア小説からヴァイオレンスノベルへ」(『文庫、新書の海を泳ぐ』所収)という一編も書いている。
それはともかく、この嵯峨の労作で、角田光代のコバルト時代のペンネームが彩河杏であったことを知った]