出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル111(2017年7月1日〜7月31日)

17年6月の書籍雑誌の推定販売金額は1103億円で、前年比3.8%減。
書籍は541億円で、同0.2%減、雑誌は562億円で、同7.0%減。
雑誌の内訳は月刊誌が459億円で、同6.3%減、週刊誌は102億円で、同9.6%減。
返品率は書籍が41.6%、雑誌は44.8%で、月刊誌は45.5%、週刊誌は41.4%。
今年に入って、書籍の返品率が40%を超えたのは5、6月の2回だが、雑誌はずっと40%を超え、その内の半分は45%以上となっている。
雑誌の場合は、書籍以上に毎月の調整がなされているわけだから、一向に返品率が低くならないのは、雑誌離れ、雑誌を読む習慣が社会から急速に失われつつあることを表象しているのだろう。
それは雑誌の委託配本システム自体のこれからの困難さを物語っているようだ。


1.出版科学研究所による17年上半期の出版物推定販売額を示す。

■2017年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2017年
1〜6月計
728,098▲5.5395,389▲2.7332,709▲8.5
1月96,345▲7.350,804▲6.045,541▲8.7
2月139,880▲5.282,789▲1.957,092▲9.6
3月176,679▲2.8105,044▲1.271,635▲5.0
4月112,146▲10.955,090▲10.057,092▲11.9
5月92,654▲3.847,4783.045,176▲10.0
6月110,394▲3.854,185▲0.256,209▲7.0

[書籍雑誌推定販売金額は7280億円、前年比5.5%減。前年は7700億円、同2.7%減だったから、マイナスが加速してきている。

その内訳は書籍が3953億円、2.7%減、雑誌が3327億円、8.5%減。月刊誌は2710億円、8.4%減、週刊誌は616億円、8.9%減。

返品率のほうは書籍が34.2%、雑誌が44.0%、月刊誌は45.0%、週刊誌は39.1%で、高止まりし、書籍は横ばいだが、雑誌は低くなる気配が見えない。

このまま推移すれば、17年出版物推定販売額は1兆4000億円を割りこみ、1兆3000億円台へと突入してしまうだろう。ピーク時の1996年の2兆6980億円の半分になってしまうのだ。

それに伴い、出版業界において、これから何が起きていくのか。何が起きても不思議ではない出版状況を迎えているといっても過言ではないと思われる]



2.同じく出版科学研究所による「紙と電子の出版物販売金額」も出されているので、それも挙げておく。

■2016年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2016年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)4,0643,6377,701633122928478,548
前年同期比(%)101.692.997.3126.2116.2176.9128.999.7
占有率(%)47.542.590.17.41.41.19.9100.0
■2017年上半期 紙と電子の出版物販売金額
2017年1〜6月電子紙+電子
書籍雑誌紙合計電子コミック電子書籍電子雑誌電子合計紙+電子合計
(億円)3,9543,3277,2817771401121,0298,310
前年同期比(%)97.391.594.5122.7114.8121.7121.597.2
占有率(%)47.640.087.69.41.71.312.4100.0

[17年上半期電子出版市場規模は1029億円で、前年比21.5%増。金額にして182億円のプラスで、1000億円を超えた。

その内訳は電子コミックが777億円で、同22.7%増、電子書籍が140億円で、14.8%増、電子雑誌が112億円で、同21.7%増。

紙と電子出版市場は合わせて8310億円だが、同2.8%減。そのシェアは、紙の出版が書籍47.6%と雑誌40.0%を合わせて87.6%、電子出版は12.4%を占める。

17年の電子出版市場はついに2000億円に達するだろう。本クロニクルでずっと指摘してきたが、電子出版市場が2000億円を超えれば、それは取次や書店の流通販売市場に取り返しのつかない打撃となる。

『出版状況クロニクル4』でも既述しておいたように、電子出版市場が2000億円に達した場合、この金額は15年のコミックス売上に相当するものであり、しかもそれは紙よりも低価格であることから、コミックス誌1100億円も含んでしまう売上となる。現実的に電子コミックの占めるシェアは75.5%なのだ。

それが現実となってしまったし、今年度の書籍雑誌推定販売金額が1兆3000億円台まで落ちこんでしまうこととパラレルに進行している。

これがもはや何が起きてもおかしくない出版状況を招来しているのである。それに猛暑が重なり、8月が始まろうとしている。かつて夏休みは書店の稼ぎ時でもあったが、そのような時代はとっくに終わってしまったのだ]



3.『日経MJ』(7/12)の「第45回日本の専門店調査」が出された。そのうちの「書籍・文具売上高ランキング」を示す。

■ 書籍・文具売上高ランキング
順位会社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
店舗数
1カルチュア・コンビニエンス・クラブ
(TSUTAYA、蔦谷書店)
255,1476.714,501
2紀伊國屋書店105,960▲2.51,43068
3丸善ジュンク堂書店76,9391.4
4ブックオフコーポレーション68,6174.1739843
5未来屋書店57,5214.9▲2336
6有隣堂49,551▲5.59343
7くまざわ書店42,143▲0.2235
8ヴィレッジヴァンガード36,360▲0.0709389
9フタバ図書35,5842.275166
10トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA)30,935▲4.470270
11文教堂29,468▲3.3▲137196
12三省堂書店26,1003.638
13三洋堂書店22,023▲4.73383
14精文館書店20,1162.458951
15明屋書店13,788▲0.917391
16リブロ(mio mio、よむよむ、パルコブックセンター)13,377▲21.97469
17キクヤ図書販売11,942▲1.933
18オー・エンターテイメント(WAY)11,647▲2.520560
19ブックエース10,401▲10.54927
20積文館書店9,562▲1.0533
21ダイレクト・ショップ7,899▲9.6
22京王書籍販売(啓文堂書店)7,224▲11.91831
23戸田書店6,680▲2.22131
ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)
268,0790.19,0401,805

[23店のうちで、前半の売上高を上回っているのは7店である。本クロニクル99 で既述しておいたように、昨年は10店だったことからすれば、出店やM&Aによる増収もほぼ限界に達していることになろう。

ただこれらのランキングに入らない書店にしても、取次との提携、子会社化といったコラボによって、かろうじてサバイバルしていることは明白だ。それは取次にとっても同様で、日販やトーハンも子会社書店売上がそれぞれ700から800億円に及んでいる。

ここに挙げられた書店にしても、もはや取次からの独立系は紀伊國屋、丸善ジュンク堂、未来屋、有隣堂、ヴィレヴァンなど少数でしかない。

ちなみに日販系はCCC、トップカルチャー、文教堂、精文館、リブロ、ブックエース、積文館、トーハン系はくまざわ書店、三洋堂、明屋であり、それらは半数近くに及んでいる。この事実はこれらの書店が大取次の支援を受け、ランキング入りしていることを告げている。

その支援の第一に挙げられるのは大型店の出店にまつわる初期書籍在庫を利用した資金調達といっていいもので、それは独立系書店にも共通している。

そのようなバブル大型店出店が、大都市のみならず、地方の中小書店を壊滅させた原因に他ならない。

それは取次から、書店市場も2万店以上が必要だというチェーンオペレーションの視点を欠如させ、現在に及んだことを意味している]



4.日販とMPDの支援というよりも、三位一体となって2の売上高ベストワンに至ったCCCの6年間の連結決算の推移を挙げてみる。
 『出版状況クロニクル4』などから抽出。

■ CCC 連結決算の推移
順位売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
2011番外172,6071.59,854
20121174,9801.47,375
20131195,91412.010,675
20141200,4162.317,976
20151239,23319.418,577
20161255,1476.714,501

[アマゾンを除けば、まさに一強という売上高の伸びと経常利益を見せつけている。それは三位一体たる日販やMPDと比べても明らかである。

前回記しておいたように、日販連結売上高は6244億円、前年比2.4%減で、4期連続マイナス、経常利益は24億円、同26.8%減。MPDは売上高1880億円、同0.7%減、経常利益は8億4500万円、同15.8%増で、5年ぶりの増益。

日販にしてもMPDにしても、売上高はずっと減収だったにもかかわらず、CCCだけが増収を続け、11年に対して16年は825億円、48%の増である。もちろん連結決算の数字だけれど、書店として他に例を見ない。それは経常利益も同様で、16年も日販連結の6倍、MPDの17倍に及んでいる。

そのCCCの売上高を支えてきたのは日販、MPDであり、本クロニクル106 でリストアップしておいた16年新規大型出店の上位10位のうちの8店をTSUTAYAが占めていることに露骨に表出している。しかしそれは結果として、日販やMPDを疲弊させるように進行しているとも判断できる。
16年度のTSUTAYAの書籍雑誌売上高は1308億円、前年比5%増の63億円である。1994年から22年間連続増収とされている。その内実も同106 などで分析しているので繰り返さないが、単純にそれを当てはめれば、16年CCCの売上高の2551億円の半分が出版物ということになる。しかし出版物売上からこのような経常利益率は生じないし、それはの各書店の経常利益からもわかるだろう。

これも『出版状況クロニクル4』で言及しておいたが、15年に『週刊東洋経済』(10/31)が特集「TSUTAYA破壊と創造」を組んだ際に、CCCの収益源の5割がFC料、直営店の2割強、Tポイント1割強、インターネット1割強と推定していた。それゆえに本クロニクルにおいてCCCはネット、出版、図書館、カード事業と様々に展開しているけれど、本質的にはFCとレンタル事業をコアとする企業と見なしておいた。

それから2年近くが経っている。CCCは日販とMPDが疲弊しているように見える中で、次々と新たな業態や様々なアドバルーンを上げているが、ここまで出版業界が危機に追いやられている現在、まだ成長を続けることができるのだろうか。

『週刊東洋経済』には そのような視座からの再度のCCC特集を期待したい]



5.未来屋書店の決算が出された。売上高は575億円、前年比4.8%増だったが、店舗リストラの減損損失分として、2億5700万円を計上したために、当期純損失3億5600万円。

[店舗数は339店で、期中の新規出店は10、閉店も10とされる。しかし15年に吸収合併したアシーネを含め、雑誌やコミックの依存度が高く、それらの凋落が決算に表われている。

出版物売上は513億円で、前年比6%減。それを文具やeコマースの伸長でカバーし、増収となっているけれども、マーチャンダイジング変換に伴う店舗リストラは必然的に生じてしまう。それはイオングループの未来屋にとっても、避けられないアポリアであろう。

において、『日経MJ』は売上高が伸びたことで、紀伊國屋や有隣堂のマイナスに対し、「CCC・イオン系好調」と総括しているが、実際には未来屋も赤字だし、それは本クロニクル109でレポートしておいたように、ブックオフも同様なのである]



6.静岡の谷島書屋呉服町本店が閉店し、静岡駅ビルのパルシェへ移転。

[かつては呉服町通りには吉見書店、江崎書店、谷島屋の静岡御三家が並んでいた。しかしその営業が93年に及んだ谷島屋の閉店で、ついに単独書店の時代は終わってしまった。本クロニクル104 で、名古屋御三家の時代の終わりも伝えたばかりだ。

残っているのは10年に開店した葵タワーの戸田書店静岡店、同じく14年の呉服町タワーのTSUTAYAすみや静岡本店となってしまった。また11年には新静岡セノバにはMARUZENジュンク堂が入っている。

だがこれらが新御三家とはならず、これも本クロニクル100 で既述しているように、戸田書店は丸善ジュンク堂と業務提携しているので、静岡における2店も、そのまま存続するとは見なせない。

また谷島屋が移転する静岡駅ビルにしても、3月まで江崎書店が営業をしていたことからすれば、撤退物件であり、それが谷島屋に代わったからといて、テナント料などの多少の優遇はあっても、大幅な売上の改善が難しいことはいうまでもあるまい。

ただ取次の視点から見れば、江崎書店はトーハンだから、日販が駅ビル書店の帳合変更を目論んだことになるのかもしれない。おそらくそのように見たほうが妥当であろう]



7.大阪屋栗田の決算も出された。
 大阪屋と栗田出版販売の経営統合による変則決算で、第2期と第3期(16年2月〜17年3月)の14ヵ月の売上高は829億円。
 営業利益1億円、経常利益2億円となるが、関係会社整理などの特別損失5億円を計上し、最終利益は赤字。

[今期に入ってからはアマゾンや楽天などのネット書店の売上が伸び、またネット加盟書店の帖合変更もあり、3ヵ月連続で売上が前年を上回っていると報告されてもいる。アマゾンの日販からのバックオーダー廃止の余波はあるのだろうか。

今回の決算発表は従来の大竹深夫社長ではなく、加藤哲郎副社長によって行なわれた。本クロニクル108 で、楽天出身の服部達也副社長の代表取締役就任を伝えたが、調べてみると、この加藤も代表取締役となっていた。つまり3人が代表取締役を務めるという体制である。

ただこれも既述しておいたように、大竹社長の退任も伝えられているので、いずれは服部と加藤の2人の代表取締役によって、大阪屋栗田は仕切られていくことになるだろう。それは楽天主導のかたちの取次ということになるが、その先に何が待ち受けているのか]



8.医学、薬学、農業所書などの専門取次の西村書店が、自費出版の文芸社によってM&Aされたようだ。

[これはまだ業界紙などでも報道されていないが、複数の情報筋からもたらされたものだ。

数年前から資金ショートや出版社による支援が伝えられていたが、専門取次と自費出版の組み合わせにはどのような経緯と事情が絡んでいるのだろうか。

ただよくわからないM&A組み合わせといえば、本クロニクル109 でふれた図書新聞と武久出版、ぶんか社と日本産業推進機構も同様の印象を与えるし、そうした声も届いていた。

またこれもここで書いておくと、サイゾーが れんが書房新社を買収しているが、同じ思いに捉われる。

このような出版危機状況において、サバイバルのためには何でもありという事態を迎えていると考えるしかない]



9.『文化通信』(7/10)が「電子書籍流通でトップシェア」と題し、メディアドゥの藤田恭嗣社長にインタビューしているので、それを要約してみる。

* 昨年の東証一部上場や出版デジタル機構の買収は、これから急速に業界が変わっていく中で、色々なことを展開していくためには一部上場による資金調達が必要で、また単体では無理だし、仲間を増やさなければならないと考えたからだ。
* その仲間とは出版デジタル機構のような同業者であったり、電子コミックのカラーリングで高い評価を得ているアルトラエンタテイメントだったりする。後者からは2月にその事業買収をした。さらにAIやコンテンツの要約を専門とする会社だ。
* 今後はAIなどで自動翻訳する方向が考えられ、欧米語はもちろんだが、マーケティングからすれば、アジアやアフリカ語といったマイノリティ言語が重要になってくる。
* 国内において、電子書的はすでに出版社や流通、電子書店などの努力により、日本語のコンテンツを日本のユーザーに届けることがほぼできているが、さらに市場と活路を見出すべきは国外でしょう。
* それにインターネットを敷設するのが難しい地域ほど、加速的に新しい技術が普及していくので、発展途上国のほうが新しいインフラが早く立ち上がる。このことを考えると、5年後にはマイノリティ言語市場も無視できないだろう。
* ただそうした市場にはアマゾン、アップル、グーグルも進出してくる可能性があるので、それらの大手プラットフォーム企業と切磋琢磨し、よりよいコンテンツを作っていける環境のデータベースを作り、コンテンツのカラー化、AIによる作品の自動要約、翻訳などに取り組んでいる。
  それにメディアドゥは出版社と電子書籍の中間にいて、色がついていないこともあり、こういう会社が世界へのルートを切り開いていく役割を担うべきだ。
* 現在の電子書店に対するリスペクトがあるので、垂直統合プラットフォームはめざしていないし、今後裏方として煩わしい作業、システムビューワなど、協力できることを考えている。
  また世界中にコンテンツを配信していける時代になれば、言語、法体系、決済手段、販売単価は国によってちがうわけだから、ひとつのコンテンツを多くの国で流通管理するシステムを作っていかなければならない。そうした出版社や電子書店の世界展開のために、メディアドゥは役に立ちたい。
* メディアドゥが提供している電子取次サービスは、電子書籍を卸すだけの「単純取次」、及び電子書店システム全般を提供する「システム取次(ソリューション取次)」の二つがあり、後者が売り上げの65%を占めている。
* メディアドゥの電子書店市場シェアは出版デジタル機構を加えれば、総販売額は700億円くらいである。全体のマーケットが2000億円とされるので、35%のシェアになる。
* これまでは紙の本を電子に置き換える売り方だったが、今後の電子書籍市場はテキスト本、ビジネス書の要約サービスが最も有力ではないか。それを呼び水として、本を読まないユーザーを、テクノロジーというアプローチで本に目覚めさせる。
  これもメディアドゥの裏方のとしての仕事であり、こういうエンジンを新聞社にも提供するつもりで、ルナスケープというブラウザーの会社も買収している。
  このブラウザーにビューワ機能を組みこみ、さらにAIの要約エンジンを加えれば、読者は要約アプリで様々な新聞を読むことができるし、そこから派生するビジネスもあると考えている。


[メディアドゥが1999年に名古屋で創業されたベンチャー企業で、2009年に電子書籍取次事業を立ち上げ、LINEマンガや楽天マンガの取次を担っていることは承知していたし、その後の動向として、本連載107 などで出版デジタル機構を子会社化したこと、大手出版社が出資したことも取り上げてきた。

しかしその電子書籍取次事業の具体的な全貌に関して、通じていたわけではなかった。だがこのインタビューによって、そのアウトラインをつかむことができる。

ただその方面での知識が欠けていることもあり、ここでは舌足らずな言及は差し控えるが、「要約サービス」問題は現在の社会状況と重なっているように思える。それは物語とプロセスが排除され、プラグマティックな問題しか論じられない現況とリンクしているはずだ。そこに本当にビジネスが派生し、隆盛するのであれば、本来の出版の意味と歴史は一端切断されてしまうかもしれない]



10.緑風出版の高須次郎が「中小出版社の発言」として、『出版ニュース』(7/中)に「アマゾンバックオーダー中止と出版の危機」を寄稿している。

 バックオーダー中止問題は本クロニクル109、110でも続けてふれてきているので、ここでは高須の主張を要約してみる。

* アマゾンは中小出版社をe託販売サービスに誘導するつもりで、しかも今回はアマゾンがEDI(電子データ交換)取引をしている倉庫会社と連携が特徴である。
  アマゾンで欠品となっても連携倉庫会社に発注できれば、倉庫会社の定期便ですぐに納品されるので、欠品率も低くなり、リードタイムも短縮される。
  これらの連携倉庫会社は大村紙業、河出興産、京葉倉庫、工藤出版サービスで、やはり日販とも取引がある。
* しかしアマゾンへの直接納品は梱包材料費が余分にかかり、納返品運賃負担は出版社持ちとなり、これらの経費に定価の10%ほどがかかり、さらにベンダーセントラル費用の負担などを加えると、実質正味は50%を切ってしまう。
  連携倉庫会社を利用できない出版社にしても、宅急便での納品負担では採算がとれない。
* それゆえにアマゾンのバックオーダー発注中止は、アマゾンと日販と出版社の三つ巴のチキンレースという見方もでき、実際にアマゾンは両刃の剣だと承知しているので、大阪屋栗田のなどにはその中止を通告していない。
* だが日販バックオーダー中止の影響は大きく、その数百億円の売上が消え、出版社にとってもは大量返品が予想される。
* アマゾンを最初から支えてきた大阪屋は12年に主取次を外され、翌年に経営危機に見舞われたことを考えると、日販も大きなダメージを受けるのでないだろうか。



アマゾンによって日本の出版業界自体が破壊されていくとして、高須は次のようにいっている。

日販は日本最大の取次であり、日販がダウンサイジングをうまくやれればいいのだが、それに失敗すると、日販におおくを依存している出版社も書店も当然、死活的事態を迎えることになろう。

「取次システムの崩壊」とか「近代出版流通システムの崩壊」との見方もできるが、我々版元にとっては、出版そのものの「死」でもあるからだ。

その意味から日販に対する意見や注文は多々あろうが、従来通りの取引関係を維持することが必要ではないか。

日販に優遇されてきた大手・老舗版元には特にそれを求めたい
 

[アマゾンとの取引を拒否している緑風出版の高須ゆえの言であると思われるかもしれないが、これもまたアマゾンとCCCの二強に翻弄される日販の現在状況を浮かび上がらせている。

だが高須のいうところの「チキンレース」はまだ始まったばかりで、しかもそれは「迷走と混迷」の中で行なわれているし、最終的にどのような結果をもたらすのだろうか]



11.10の倉庫会社だが、『文化通信』(7/10)の増刊「bBB」が12ページに及ぶ「2017年出版倉庫ガイド」特集号となっている。
 その見出しは「役割大きくなる出版倉庫業者の現状」で、リードは次のようなものだ。

雑誌市場の縮小に伴い、出版物の流通環境は大きく変わっている。出版社は取次に納品すればよいという時代は終わり、いかに的確に、効率よく、しかも迅速に商品を供給できるのかが問われている。

特にアマゾン・ジャパンが今年6月末で日本出版販売をはじめとした取次へのバックオーダー発注(取次非在庫品の再発注)を停止したことに伴う騒動は、そのことを強く印象づけた。

そんな時代にあって、出版社の在庫を補完し、入出庫、返品処理などを担う出版倉庫業者が果たすべき役割はますます大きくなっている。そうした倉庫会社の現状や、多様化するサービスについて特集する
 

[協賛は出版倉庫流通協議会とあり、「目で見る出版倉庫会社の役割と機能」チャートが掲載され、43社に及ぶ「倉庫会社一覧」も収録されている。そこにはもちろん高須が挙げた4社も含まれている。

あらためてこれらの集積を見てみると、倉庫業が出版業界の必須にして、大いなるバックヤードであることを認識させられる。

かつての古本屋の存在と同様に、戦後の出版業界の成長も、このような倉庫業とともにあったことを実感してしまう。

そしてこの出版危機の中でも運命共同体であることも]



12.「ダイヤモンドオンライン」(7/25)によれば、ヤマト運輸はアマゾンに対し、1.7倍の値上げを要請し、大詰めを迎えているという。

 アマゾンの宅配便数は年間3億個で、そのうちの4分の3の2億2000万個をヤマト運輸、残りを日本郵便が運んでいるが、その平均単価は270〜280円とされる。それに対し、470円への値上げの要請で、アマゾンはそれを呑まざるを得ないと観測されている。

 しかし問題なのはそれでもヤマトが4000万〜5000万個は引き受けられないとしていることで、アマゾンの最大の課題はそれらをどうするかということになる。

[2016年の宅配便は初めて40億個を超え、この20年で2.5倍になっている。背景にあるのはネット通販の拡大で、アマゾンが3億個とすれば、アマゾンのシェアは7.5%となる。

一方で宅配便企業シェアはヤマト運輸が46.9%、佐川急便30.6%、日本郵便15.9%で、上位3社で93%を超え、寡占化が進んでいる。また佐川急便も値上げを発表した。

それとパラレルに日本郵便も「ゆうメール」などが値上げとなり、書籍小包の送料も2割以上アップになっている。

それらを含め、送料の値上げもまた量で対抗できない出版社を直撃しているし、トランスビューのようなミニ取次も例外ではないだろう]



13.『日経MJ』(7/7)の「米国流通現場を追う」や『朝日新聞』(7/22)の「米国小売り閉店加速」が、アメリカの専門店チェーンの閉店や破産を伝え始めている。

 前者はアパレルチェーンのアメリカンアパレル、子供服のジンボリーの破綻や大量閉鎖を始めとして、多くの著名なチェーン展を挙げている。それらはトータルすると3000店を越え、年内には8000店に達するのではないかとされ、これほどの破綻の連鎖は過去最悪のペースだと述べている。

 このような状況下では今後5年間にショッピングモールの20〜25%が消えるとの予測レポートも出され、実際にゴーストタウン化するモールの出現にもふれられている。

 後者は「苦境の米小売り産業」リストを挙げ、ネット通販に客を奪われ、苦境に追いやられた小売り業の現在をレポートしている。

 その背景にあるのはアメリカの半数近い世帯が、アマゾンのプライム会委員と推計され、4年後にその売上は3945億ドル(45兆円)に達すると予測されている。さらにアマゾンは高級スーパーのホールフーズも買収し、実店舗と生鮮食品でも攻勢に出ようとしている。

[戦後の日本の消費社会化がアメリカを範としていたことは、1970年代以後のコンビニやファミレスの出現から、80年代ロードサイドビジネスによる郊外消費社会の成長と隆盛を見ても明らかだ。また郊外ショッピングセンターも同様である。

とすれば、アメリカの現在の消費社会の動向は、日本へと及んでくることは必至だ。かつて『出版業界の危機と社会構造』において、「やがて哀しきショッピングセンター」に言及したことがあったが、アメリカはそれがすでに広範に現実化している。そのような風景も、やがて日本でも現実化していくだろう。その時、書店のみならず、出版業界はどのような状況を迎えることになるのだろうか]
出版業界の危機と社会構造



14.日新報道が倒産。
 1967年創業で、政治、経済、ビジネス書を刊行し、2002年には年間売上高1億500万円を計上していたが、16年には4500万円まで落ちこみ、恒常的に資金不足となっていた。
 負債額は現在調査中とされる。

[もう半世紀近く前のことになってしまうが、日新報道で思い出されるのは、1970年の藤原弘達『創価学会を斬る』の出版である。この出版に対し、公明党が「著者や版元に対し、様々な抑圧と妨害を加えたとし、公明党と創価学会による「言論・出版の自由」に関する重大な問題として、マスコミに大きく取り上げられた。

ベストセラーになったのはいうまでもなく、確認してみると、1970年のベストセラーの第5位に記録され、続編も刊行された。

もはや旧聞に属し、出版業界でも覚えている人も少なくなっているであろうが、かつてのベストセラー出版社の倒産なので、あえてふれてみた]
創価学会を斬る



15.沖積舎から『沖積舎の45年』を恵送された。

[これは創立45周年を迎えての総目録で、1900余点が並び、壮観である。
私にとって記憶に深いのは、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』と夢野久作『ドグラ・マグラ』の復刻である。
この総出版目録は少部数刊行とされているので、必要な読者は早めに申しこんだほうがいいだろう]
黒死館殺人事件 『ドグラ・マグラ



16.「出版人に聞く」シリーズ番外編、鈴木宏『水から風へ』は幸いなことに好評で、残部僅少となった。
 こちらも水声社総目録付きで、重版は難しいので、ぜひ購入されたい。
   水から風へ
 今月の論創社HP「本を読む」18は「寺山修司と新書館『フォア・レディース』」です。

以下次号に続く