出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル123(2018年7月1日~7月31日)

 18年6月の書籍雑誌推定販売金額は1029億円で、前年比6.7%減。
 書籍は530億円で、同2.1%減。雑誌は499億円で、同11.2%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が406億円で、同11.5%減、週刊誌は92億円で、同9.6%減。
 返品率は書籍が41.4%、雑誌が44.5%。
 6月の大阪北部地震に続いて、7月の西日本豪雨による被災書店は中部、関西、中国、四国、九州と広範囲にわたり、浸水に見舞われたようだ。
 災害の詳細はまだ明らかになっていないけれど、被害が少ないこと、速やかな復旧と再開を祈るしかない。


1.出版科学研究所による18年上半期の出版物推定販売額を示す。

■2018年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2018年
1〜6月計
670,150▲8.0380,991▲3.6289,159▲13.1
1月92,974▲3.551,7511.941,223▲9.5
2月125,162▲10.577,362▲6.647,800▲16.3
3月162,585▲8.0101,713▲3.260,872▲15.0
4月101,854▲9.253,828▲2.348,026▲15.8
5月84,623▲8.743,305▲8.841,318▲8.5
6月102,952▲6.753,032▲2.149,920▲11.2

 書店雑誌推定販売金額は6702億円、前年比8.0%減。前年は7281億円だったので、この上半期で579億円のマイナスである。
 いうまでもなく、18年のマイナスは加速し、毎月100億円近くが減少し、最大の落ちこみとなるだろう。
 書籍が3810億円、3.6%減、雑誌が2892億円、13.1%減。
 雑誌の内訳は月刊誌が2341億円、13.6%減、週刊誌が550億円、10.7%減。
 その月刊誌のほうだが、月刊定期誌11%減、ムック16%減、コミックス15%減と、雑誌分野がすべて二桁マイナスということになる。
 恐ろしいといっていいほどで、日本の書店市場は雑誌をベースにして成立していたわけだから、18年上半期の販売状況が、書店を苦境に追いやっていることは歴然だし、それは大手出版社や取次も同様である。そのために書店の閉店も増えているのではないだろうか。 
  
 今月は近隣のイオンタウン内にある三洋堂書店の閉店を目撃してしまった。300坪ほどのバラエティショップであったが、ほぼ5年で撤退してしまった。結局のところ黒字化しなかったのであろう。 
 それにしても、バラエティショップの大型複合店の閉店は、取次に雑誌書籍を返品して終わりということではないので、様々な順序があるようだ。まず最初に古本コーナーが棚だけになり、続いてレンタル商品や文具や什器なども店舗間移動し、再利用されることになるのだろうか。
 そのような大型複合店の閉店が全国各地で起きているように思われる。



2.『出版ニュース』(7/中)に「日本の出版統計」がまとめられているので、『出版年鑑』による17年の出版物総売上高と出版社数の推移を示す。

■書籍・雑誌発行売上推移
新刊点数
(万冊)
書籍
実売総金額
(万円)
書籍
返品率
(%)
雑誌
実売総金額
(万円)
雑誌
返品率
(%)
書籍+雑誌
実売総金額
(万円)
前年度比
(%)
199660,462109,960,10535.5%159,840,69727.0%269,800,8023.6%
199762,336110,624,58338.6%157,255,77029.0%267,880,353▲0.7%
199863,023106,102,70640.0%155,620,36329.0%261,723,069▲2.3%
199962,621104,207,76039.9%151,274,57629.9%255,482,336▲2.4%
200065,065101,521,12639.2%149,723,66529.1%251,244,791▲1.7%
200171,073100,317,44639.2%144,126,86730.3%244,444,313▲2.7%
200274,259101,230,38837.9%142,461,84830.0%243,692,236▲0.3%
200375,53096,648,56638.9%135,151,17932.7%231,799,715▲4.9%
200477,031102,365,86637.3%132,453,33732.6%234,819,2031.3%
200580,58098,792,56139.5%130,416,50333.9%229,209,064▲2.4%
200680,618100,945,01138.5%125,333,52634.5%226,278,537▲1.3%
200780,59597,466,43540.3%122,368,24535.3%219,834,680▲2.8%
200879,91795,415,60540.9%117,313,58436.3%212,729,189▲3.2%
200980,77691,379,20941.1%112,715,60336.1%204,094,812▲4.1%
201078,35488,308,17039.6%109,193,14035.4%197,501,310▲3.2%
201178,90288,011,19038.1%102,174,95036.0%190,186,140▲3.7%
201282,20486,143,81138.2%97,179,89337.5%183,323,704▲3.6%
201382,58984,301,45937.7%92,808,74738.7%177,110,206▲3.4%
201480,95480,886,55538.1%88,029,75139.9%168,916,306▲4.6%
201580,04879,357,21737.7%80,752,71441.6%160,100,931▲5.2%
201678,11378,697,43037.4%75,870,39341.2%154,567,823▲3.5%
201775,41276,259,69837.2%67,808,47043.5%144,068,168▲6.8%


■出版社数の推移
出版社数
19984,454
19994,406
20004,391
20014,424
20024,361
20034,311
20044,260
20054,229
20064,107
20074,055
20083,979
20093,902
20103,817
20113,734
20123,676
20133,588
20143,534
20153,489
20163,434
20173,382

 本クロニクル117などで示しておいたように、出版科学研究所の取次ルート販売金額は1兆3701億円、前年比6.9%減であった。
 『出版年鑑』による実売金額のほうは1兆4406億円、同6.8%減ということになり、どちらもかつてない1000億円以上のマイナスで、しかもまったく下げ止まりが見られないことも共通していよう。
 出版社数の推移にしても、1990年代に比べれば、1000社以上が減少していて、このまま進めば、近年のうちに3000社を割ることが確実であろう。
 前回の本クロニクルで、18年の実質的書店数は1万店を割るのではないかと既述しておいたが、それは書店市場が出版社の多様性を支えられない状況を浮かび上がらせている。その流通と金融を担う取次も同様で、出版危機は出版業界の全分野に及んでいることなる。
odamitsuo.hatenablog.com



3.大阪屋栗田から「資本金及び資本準備金の額の減少(振替)に関するご案内」が届いた。
 そこには「平成30年5月25日付にて第三者割当により増加した資本金の額金1,750,000,000円及び資本準備金の額金1,750,000,000円につき、平成30年7月6日付けで同額を減少し、その他資本剰余金に振り替えることにいたしました」とあった。
 そして「最終貸借対照表の開示状況」は、『官報』(7/3、136頁)に掲載とのことだったので、それを見てみた。

 要するに大阪屋栗田の第4期決算は売上高770億3700万円で、当期純利益は10億6200万円の赤字。
 その結果、利益剰余金が△53億1700万円となる。そこで第三者割当増資などによる35億円をその他資本剰余金に振り替え、その後利益剰余金に振り替えることで、欠損補填を行い、財務体質の健全化を図る目的としての操作と見なせよう

 しかし今期はともかく、これから大阪屋栗田はどのような道をたどるのだろうか。もはや出版業界に対し、決算も公表していないことからすれば、取次というよりは楽天の子会社としてサバイバルしていくしかないだろう。
 これも前回ふれておいたが、そのプロセスにおいて、不良債権を有している帳合書店はどのように処理されるのか、それが問題であろう。



4.『日経MJ』(7/11)の「第46回日本の専門店調査」が出された。
 そのうちの「書籍・文具売上高ランキングを示す。

■ 書籍・文具売上高ランキング
順位会社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
店舗数
1カルチュア・コンビニエンス・クラブ
(TSUTAYA、蔦谷書店)
276,5018.418,201
2紀伊國屋書店103,376▲2.41,24969
3丸善ジュンク堂書店76,034▲1.2
4ブックオフコーポレーション65,619▲4.41,349825
5未来屋書店56,073▲2.5▲278306
6有隣堂50,7402.424944
7くまざわ書店41,467▲1.6241
8フタバ図書37,3374.91,01667
9ヴィレッジヴァンガード34,689▲4.6119387
10トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA)30,397▲1.724971
11文教堂26,907▲8.7121185
12三省堂書店25,500▲2.337
13三洋堂書店21,224▲3.68383
14精文館書店19,598▲2.650750
15明屋書店14,0241.710991
16リラィアブル(コーチャンフォー、リラブ)13,8701.460010
17リブロ(mio mio、よむよむ、パルコブックセンター)13,021▲2.72469
18キクヤ図書販売11,604▲2.833
19オー・エンターテイメント(WAY)11,060▲5.05061
20大垣書店10,3171.64036
21ブックエース10,247▲1.511628
22京王書籍販売(啓文堂書店)6,609▲8.54129
23戸田書店6,410▲4.0▲3731
ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)
299,26211.615,2481,843

 売上高が前年を上回っているのは23社のうちの6社だけで、CCCとフタバ図書を除いて、微増といっていい。
 赤字は2社だけだが、実質的にはブックオフではないけれど、かなりが赤字になっていると考えられる。それほどまでに書店市場における雑誌の凋落は大きな打撃を与えていよう。
 フタバ図書は店舗増によっているが、CCCは店舗数を公表していないけれど、店舗減は明らかで、17年度だけでも閉店は100店近くに及んでいるはずだ。それは前回の本クロニクルで示した日販帳合の書店数の200店以上に及ぶ減少にも表われている。それにレンタル部門も大幅なマイナスに見舞われていると推測できる。

 それなのにどうしてCCCだけが、今回も増収増益を確保できているのだろうか。これはチェーン店売上高の集積だけでなく、すべての関連会社などの連結数字であり、様々に展開するフランチャイズ事業とそれらの商品も含めた売上、M&Aした出版社売上なども計上されていると考えられる。だが上場企業ではないことから、それらの売上内訳、純利益などは公表されておらず、日販との関係もそうであるが、ブラックボックスと化している。実際に第2位の紀伊國屋書店と比べても、その突出した経常利益はどのようにしてもたらされているのか。

 これまでも『出版状況クロニクルⅤ』などでも追跡してきたように、CCCはTSUTAYAの書籍雑誌売上高を発表してきている。しかし今期はそれを見ていない。16年のその売上高は総売上の約半分の1308億円だったが、17年はどうなっているのか。これも前回の本クロニクルにおいて、日販の決算発表に際し、これまでと異なり、MPDの業績が公表されなかったことにふれておいたが、TSUTAYAの書籍雑誌売上高未公開もそれに照応しているのだろう。

 だがその一方で、TSUTAYAが「本でつながる『親子の日』書店プロジェクト」をコーディネートし、それに旭屋、リブロ、パルコなどの900店が参加し、講談社や集英社などの出版社も協賛するという。これはまさにブラックユーモアのように思える。
 これも『出版状況クロニクルⅤ』で取り上げておいたように、16年のTSUTAYAの1店当たり書籍雑誌売上高は月商1340万円で、大書店に当たる坪数と比較して、驚くほど出版物を売っていないのである。それに加えて、日販、MPD、CCC=TSUTAYAによる複合大型店の出店と、ナショナルチェーン化が、出版業界を支えていた中小書店を壊滅させた一因であること、その果てに日販が危機に追いやられ、「日販非常事態宣言」を出すに至ったことはいうまでもないだろう。

 このようなミスマッチを見ると、このほど成立したカジノ法案が想起される。現在の郊外消費社会の風景に多少なりとも通じていれば、そのエリアシェアのトップにパチンコ店が挙げられるだろう。最も広い駐車場と店舗を有していることは、自明といっていい。しかもそれは数においても、書店を超える1万店に及び、売上も20兆円強に達している。それに他のギャンブルも加えれば、日本はギャンブル王国だし、私たちも周囲にパチンコ中毒者や破産者がいることを知っている。そうした現実を弁えれば、今回のカジノ法案の成立は、日本のギャンブルの現在状況に無知な国会議員たちによる専横だとしか思えない。
 だが出版業界でもそのようなことがまかり通り、それが積み重なり、めぐりめぐって日本だけの出版危機を招来させてしまったと考えられるのである。
出版状況クロニクル5



5.『新文化』(7/12)が西日本豪雨で、書店に大きな被害が出ていることを伝えている。
 それによれば、倉敷市の宮脇書店真備店、岡山市のゆめタウン平島店、愛媛県大洲市の大洲店(いずれも宮脇書店)、広島県啓文社コア神辺店は浸水し、フタバ図書も20店舗が雨漏り、浸水したとされる。
 同紙には、啓文社コア神辺店の浸水写真も掲載され、被害の深刻さが伝わってくる。

 先月の大阪北部地震の書店の被害は30社とされていたが今回の西日本豪雨はそれどころではないようだ。まして被害額は浸水ということで、やはり同様であろう。出版社としては浸水出版物を入帳することで協力するしかないが、その処理はどのようになされるのか。それにフタバ図書だけでなく、のナショナルチェーンも被害が及んでいるだろう。 
 まだすべてが明らかになっていないが、西日本豪雨の被害は周辺にも及び、知人の故郷の町は浸水により、壊滅状態になってしまったという。まだ本格的な台風シーズンを迎えていないが、8月は大丈夫だろうか。



6.秋田県潟上市の高桑書店は会社分割を行い、同社の書店TSUTAYA事業を秋田市のWAPに譲渡。
 WAPは書店事業の他に、新品・中古ゲームソフト販売、CD・DVDのレンタルショップを手がけている。

  『ブックストア全ガイド96年版』(アルメディア)で確認したが、秋田県に高桑書店もWAPも見当たらないので、それ以後に設立、もしくは展開されたTSUTAYAのFCグループだと思われる。
 いずれにしても、高桑書店の書店・TSUTAYA事業がWAPによってM&Aされたということで、そこに何が生じていたのかは言うまでもないだろう。おそらくこのようなTSUTAYA事業をめぐるケースは、至るところで生じていると考えられる。
 また『会社四季報』夏号によれば、トップカルチャーはTSUTAYAより7店を譲渡されているという。そのようなM&A店舗譲渡が、FCグループ内で頻繁に起きているのだろう。



7.ブックオフの渋谷センター街店が閉店。

 ブックオフの3年連続赤字は本クロニクル121で、創業地の「相模原駅前店」と、青山ブックセンター六本木店の閉店とともに伝えておいたが、2008年に開業した大型店も同様となった。

 『週刊実話』web(6/29)が「止まらない店舗数減 ブックオフ経営危機のドロ沼の先」という記事を発信している。それによれば、ヤフーの「ヤフオク!」やフリマアプリの「メルカリ」との競合もさることながら、メインの中古本の低迷が最大の原因だとされる。つまり冗談ではなく、「本離れ」がブックオフを直撃しているのである。
 そのために店舗運営が困難となり、次々に閉店に追いやられ、それは大型店の渋谷センター街店も例外ではなかったことになる。ブックオフの利益率でも店舗コストが合わないのであれば、通常の書店の大型店がどのような状況に追いやられているかはいうまでもないだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



8.埼玉日販会が解散。
 同会は1970年に会員書店86店で設立され、98年には140店が加盟していたが、現在では38店となり、48年の歴史に幕を閉じる。

 これも前回の本クロニクルで、1999年の2万2296店から、2017年の1万2026店という所詮数の半減をレポートしておいたが、埼玉日販会も同様で、大手取次と都市部においてはそれ以上に加速しているとわかる。
 確かに1970年代には各地で日販会のみならず、東販会=トーハン会も組織されたが、現在ではその大半が埼玉日販会のような状況にあるのだろう。それは日書連の現在とまったく重なっている。



9.日書連が書店マージン30%以上の獲得を唱え始め、今年はそのスローガンだけが繰り返されていくだろう。

 これは明らかに本クロニクル119や121などでふれた「日販非常事態宣言」やトーハンの動向と連動している。
 しかしこの期に及んでの相乗りという印象を抱かざるを得ない。現実的に考えても、再版委託制のままで粗利30%というのは難しいし、出版社における旧刊依存ではなく、新刊売上シェアの高止まりからしても、それに応じられる体力がないことは自明である。

 取次は流通コストの増加と「囲い込み」書店状況を背景とし、そこに至る原因に関しては見ぬふりをして、出版社に対し、コスト負担と正味切り下げを要求している。
 だがそこには取次がこれだけ努力、アピールしているのに、応じてくれない出版社が悪いという責任回避言説の形成が見え隠れしているように思える。それゆえに、日書連は取次とは異なる新しい流通と販売を提案すべきであるのに、そうでないことは、相乗りスローガンだけに終始しているからだろう。



10.図書カードNEXTも発行する日本図書普及の発行高は419億円で、前年比9.2%減。
 期末時点加盟法人は6100社で、同290社減。

 この20年間の「図書券、図書カード発行高、回収高」の推移は『出版状況クロニクルⅤ』に掲載しておいたが、やはりそのマイナス過程は加盟店の減少とパラレルである。
 2000年には2万2500店あったわけだから、現在では半減してしまったことになる。
 雑誌や書籍だけでなく、図書カードもそれに見合う絶対的書店数が必要であり、もはや単独では存続が難しいところまできているのかもしれない。



11.出版社における経営者の交代が目に見えて増えている。
 本クロニクル121で、文春の社長人事とそれを伝えたが、筑摩書房も社長が山野浩一から喜入冬子、岩崎書店が岩崎夏海から岩崎弘明、ハースト婦人画報社が二コラ・フロケへと代わっている。

 やはりこれらの社長交代にも、各社の様々な事情が絡んでいるのだろう。筑摩書房の山野の場合、まだ任期は残っているし、とりわけ岩崎書店の岩崎弘明は相談役からの復帰である。
 このような出版状況下において、サラリーマン社長にしても、オーナー社長にしても、困難な立場であることは共通しているのだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



12.東京・武蔵野市で、直販誌『オピニオン』などを発行するオピニオン社が破産。負債は1億1200万円。

 これはどのような雑誌なのか未見であるけれど、直販誌の世界にも活字離れ現象は起きているのだろうか。
 私も直販誌は『出版月報』『選択』『FACTA』を定期購読しているが、やはり発行部数、定期購読者数は減少しているのであろうか。



13.明治古典会の「明治一五〇年」にあたる『第五十三回七夕古書大入札会』目録を恵贈された。

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 そのうちの「文芸作品」はほとんどが初版本、署名本、稀覯本で、私はこれらに門外漢であるけれど、すっかり目の保養をさせてもらった。
 それでも揃いでも署名本でもないが、ひとつだけ所持しているものがあった。それは垂水書房の『吉田健一著作集』で、そのことを「垂水書房と天野亮」(「古本屋散策」297、『日本古書通信』2018年8月号所収)として書いたばかりだ。そうした個人全集や文学全集に関して、最近聞いた話を書いておきたい。

 ひとつは親しい古本屋から伝えられたことである。頼まれて、元高校の国語教師だった人の本を買いにいったところ、岩波書店と筑摩書房の個人全集と文学全集ばかりで、分量的に段ボール50箱ほどがあった。しかしいずれも在庫が何セットもあり、とても買えるものではなかったけれど、どうしても片づけたいというその人の80を超える年齢と、知人からの紹介ということもあり、わずかばかりの金額を置き、買い入れてきた。かつてであれば、岩波書店や筑摩書房の全集類は古本屋スタンダードなアイテムだったが、もはやそうした基本セオリーも崩壊してしまったと。

 もうひとつはまさに筑摩書房の『明治文学全集』全百巻を古本屋に売った話だが、何とわずか5000円だったという。これは日本の全集の金字塔ともいうべきもので、私も最も参照している全集だが、それが何と一冊50円になってしまったのである。
 書物と文学と出版の神話の崩壊シーンを見ているといっても過言ではないだろう。残念ながら、それが現在なのだ。
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14.西潟浩平『カストリ雑誌』(カストリ出版)が届いた。

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 これはカストリ雑誌116冊の創刊号表紙セレクションで、初めて目にするものが多く収録され、敗戦と占領下の雑誌出版のひとつの実態を浮かび上がらせてくれる。
 現在が第二の敗戦と占領下であるとすれば、13のような書物状況がそれを伝えていることになろうか。



15.これもまた「特集 ひん死の論壇を再生する」という『情況』(2018年夏号)が送られてきた。

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 年初に情況出版の大下敦史が亡くなっていたこと、また同号が第五期創刊に当たることを教えられた。
 しかし特集の内容や、旧知の人たちが出たりしているのに、『出版状況クロニクルⅤ』への言及は見られず、結局のところ、ひとつの書評も現れなかったことになる。



16.論創社HP「本を読む」㉚は「中野幹隆、『現代思想』、『エピステーメー』」です。