出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル129(2019年1月1日~1月31日)

 18年12月の書籍雑誌推定販売金額は1163億円で、前年比1.8%増。
 これは16年11月以来の2年1ヵ月ぶりのプラスである。
 書籍は586億円で、同5.3%増。双葉文庫の佐伯泰英の新刊『未だ行ならず』(上下)、ポプラ社の原ゆたか『かいけつゾロリ ロボット大さくせん』、トロル『おしりたんてい』シリーズなどの大物新刊が多かったこと、また返品率が改善されたことによる。
 雑誌は576億円で、同1.6%減。その内訳は月刊誌が490億円で、同1.2%減、週刊誌は85億円で、同4.3%減。
 返品率は書籍が35.0%、雑誌が39.7%で、月刊誌は39.1%、週刊誌は42.7%。
 18年の最後の月は本当に久し振りのプラスで年を越したことになるが、年末年始の書店売上動向は日販が4.3%減、トーハンは3.8%減である。
 19年1月の販売金額と返品は、18年12月の反動の数字となるかもしれない。

未だ行ならず かいけつゾロリ ロボット大さくせん おしりたんてい
 


1.出版科学研究所による1996年から2018年にかけての出版物推定販売金額を示す。

■出版物推定販売金額(億円)
書籍雑誌合計
金額前年比(%)金額前年比(%)金額前年比(%)
199610,9314.415,6331.326,5642.6
199710,730▲1.815,6440.126,374▲0.7
199810,100▲5.915,315▲2.125,415▲3.6
1999 9,936▲1.614,672▲4.224,607▲3.2
2000 9,706▲2.314,261▲2.823,966▲2.6
2001 9,456▲2.613,794▲3.323,250▲3.0
2002 9,4900.413,616▲1.323,105▲0.6
2003 9,056▲4.613,222▲2.922,278▲3.6
2004 9,4294.112,998▲1.722,4280.7
2005 9,197▲2.512,767▲1.821,964▲2.1
2006 9,3261.412,200▲4.421,525▲2.0
2007 9,026▲3.211,827▲3.120,853▲3.1
2008 8,878▲1.611,299▲4.520,177▲3.2
2009 8,492▲4.410,864▲3.919,356▲4.1
2010 8,213▲3.310,536▲3.018,748▲3.1
20118,199▲0.29,844▲6.618,042▲3.8
20128,013▲2.39,385▲4.717,398▲3.6
20137,851▲2.08,972▲4.416,823▲3.3
20147,544▲4.08,520▲5.016,065▲4.5
20157,419▲1.77,801▲8.415,220▲5.3
20167,370▲0.77,339▲5.914,709▲3.4
20177,152▲3.06,548▲10.813,701▲6.9
20186,991▲2.35,930▲9.412,921▲5.7

 本クロニクル126や同128で、18年の出版物推定販売金額は1兆3000億円を割りこみ、1兆2830億円前後に落ちこむのではないかと予測しておいたが、12月がプラスとなったことで、かろうじて1兆2900億円台を保ったことになる。
 しかし19年はさらに深刻な危機に見舞われていくことは確実だ。雑誌は1997年に比べ、3分の1の販売金額になるだろうし、書籍もまた半分近くに迫っていくだろう。
 そのような出版状況の中で、どんぶり勘定を象徴する再販委託制は、もはや破綻に限りなく近づき、それに依存してきた大手出版社、大手取次、大手書店をさらなる危機へと追いやっていく。
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2.トーハンと日販の2007年から18年にかけての売上高の推移も示しておく。

■トーハンと日販の売上高推移(百万円)
トーハン日販2社合計
売上高
売上高前年比(%)売上高前年比(%)
2007641,396▲2.1648,653▲4.41,290,049
2008618,968▲3.5647,109▲0.21,266,077
2009574,826▲7.2632,673▲2.21,207,499
2010 547,236▲4.8613,048▲3.11,160,284
2011519,445▲5.1602,025▲1.81,121,470
2012 503,903▲3.0589,518▲2.11,093,421
2013 491,297▲2.6581,3550.61,072,652
2014 492,5570.2566,731▲2.51,059,288
2015 480,919▲2.4538,309▲5.11,019,228
2016 473,733▲1.5513,638▲4.6987,371
2017 461,340▲2.6502,303▲2.2963,643
2018427,464▲7.4462,354▲8.0889,818


 2社の売上高は合わせて、2007年が1兆2900億円であったが、18年には8898億円で、この10年間で4000億円のマイナスとなっている。
 能勢仁は『昭和の出版が歩んだ道』(出版メディアパル、2013年)の「取次盛衰記」において、1998年の神田村取次の松島書店の自主廃業から「取次受難期」が始まり、柳原書店、北隆館、鈴木書店、神奈川図書、日新堂書店、安達図書、三星、金文図書などの倒産の2005年まで続いたと指摘していた。
 だが残念なことに、そこで終わったわけではなく、本クロニクルにおいても、それ以後の東邦書籍、栗田出版販売、大阪屋、太洋社、日本地図共販などの倒産をレポートしてきた。
 中小取次の倒産のかたわらで、トーハン、日販の4000億円のマイナスも生じていることになり、で見た出版物売上高の凋落が2大取次にも如実に反映しているのである。
 しかもこれも前回の本クロニクルで取り上げておいたように、2社の中間決算は赤字基調で、通年決算は大幅な赤字が予想される。それに流通業の場合、一度赤字になれば、それは加速し、累積するばかりの道をたどるであろう。
昭和の出版が歩んだ道



3.『FACTA』(2月号)が文教堂レポートとして、「『暗愚の火遊び』上場書店が徳俵」を掲載している。
 サブ見出しは「創業家出身者のままごと遊びで文教堂GHDが上場廃止の危機。トップ交代にはかない望み」とある。それを要約してみる。

*文教堂GHDは1949年に川崎で島崎文教堂として始まり、ピーク時には全国で200店を超え、売上高は500億円となり、94年に文教堂としてジャスダックに上場し、2008年に持ち株会社制に移行。
*しかし業績は振るわず、赤字続きで、18年連結売上高はピーク時のほぼ半分の273億円、前年比8.5%減。5億9100万円の赤字となり、2億3300万円の債務超過で、それらは20店の不採算店舗閉鎖と13店舗のリニューアルの結果でもある。
*その文教堂GHDに対し、昨年11月東京証券取引所は上場廃止の猶予期間入り銘柄に指定し、最後通牒を突きつけた。今期中に財務を健全化しなければ、上場廃止となる。
*その原因として、出版市場の低迷もあるが、「文教堂の中興の祖である嶋崎欽也の息子で、欽也の跡を継いで社長に就いた富士雄の『火遊び経営』が債務超過を招いた」ことによる。
*それらはコミック専門店「アニメガ」の出店、ゲオとの提携、トーハンから日販への帳合変更などだが、結果がついてこなかった。
*それでいて、書店経営の基本的な部分は思いつきで、地域担当者も置かなかった時期もあり、社長と少数の取り巻きからなる川崎市の本部が、全国140店を直接支配する体制で、「典型的なブラック企業」だった。
*そのとばっちりを食らったのが16年に筆頭株主となった日販で、社長は経営改善案にまったく聞く耳を持たず、同じく大株主のDNPやみずほ銀行などの金融機関も匙を投げた状態だった。 債務超過にもかかわらず、社長の座に固執し、周囲の説得により、ようやく株主総会の前日に降りたという。
*経営を引き継ぐことになったのは、文教堂GHD生え抜きではない佐藤協治で、彼は88年に北海道の「本の店岩本」に入社し、文教堂がそれを買収したことにより、2000年に文教堂入りしている。
*しかし文教堂GHDの再建はかなり厳しく、財務健全化の期限の月までに打てる手立てはさらなる店舗の削減、不動産売却や賃貸、もしくは日販やDNPの増資を期待するしかない。だが増資は難しいだろう。


 本クロニクル127などでの言及と重複するところもあるが、これも『FACTA』のような直販誌でしか書けないレポートだと見なせるので、詳細に紹介してみた。
 しかし出版業界はこの文教堂GHDの一件を単なる「創業家出身者のままごと遊び」として片づけることができるだろうか。再販委託制を逆利用し、出店バブルという「暗愚の火遊び」に加わったのは文教堂だけでなく、その他の大手チェーン、ナショナルチェーンも同様なのである。このレポートは日販からのリークを主として書かれているように判断できるが、それは取次も同罪だといっていい。

 しかも『出版状況クロニクルⅤ』でもふれておいたように、文教堂GHDの株はDNP、丸善ジュンク堂グループが筆頭株主だった16年に日販へと譲渡され、日販が筆頭株主となっていたのである。これは現在から見れば、文教堂GHDとは関係のない株式売買ゲームに位置づけることができよう。それゆえに、これらの株式売買ゲームも「暗愚の火遊び」に他ならず、その果てに文教堂GHDの上場廃止の危機も必然的にもたらされたというべきだろう。
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4.(株)出版人の今井照容が【文徒】2018年12月3日号で、18年1月から12月までのTSUTAYAの閉店をリストアップしている。

 このリストを見れば、誰でも知っているTSUTAYA店があることに気づかされるだろう。それほど多く、しかも全国的に閉店している。
 で文教堂が20店舗閉店したことが赤字の要因であることを既述しておいたが、TSUTAYAの場合、その4倍に及び、平均坪数にしても200坪は下らないのではないか。それにこれらはCCCの直営店、FC、FCのFCと多岐にわたり、さらに各地域会社のTSUTAYAが絡み、複雑に入り組んだかたちで大量閉店が起きているのである。
 このようなTSUTAYAは出店に際し、開店初期在庫の支払いは据え置きとなっていると伝えられているので、出版物に関しては返品してもマイナスが生じることになる。
 その81店に及ぶトータルなマイナス金額は予測以上のものになるだろう。それに加えて、様々な閉店にまつわるコストを考えると、日販とMPDに逆流する損失は多大なものになると判断するしかない。文教堂が前門の虎とすれば、TSUTAYAは後門の狼のようにして、日販を包囲しているといっていい。

 またこの18年の大量閉店にしても、閉店コストが少ないところから始まっていることは確実で、むしろ19年のほうが18年以上の本格的な閉店ラッシュとなる可能性も高い。もしそうであれば、フランチャイズシステムにベースを置くレンタルと出版物の複合大型店、すなわちTSUTAYA方式はビジネスモデルとして崩壊し、成立しなくなりつつあることを露呈していくはずだ。
 そしてそれが結局のところ、日販とMPDを直撃する。本クロニクル119で、流通コストの問題から発せられた「日販非常事態宣言」にふれておいたが、その1年後には閉店ラッシュと債務超過を背景とする「主要取引先、及び傘下書店非常事態宣言」をも公表しなければならない状況に追いやられていると見なせよう。
 で取次も危機の連続であったことを示したが、今年はその最大の危機を迎えているといっていい。 
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5.大阪の天牛堺書店が破産。負債は18年5月時点で16億4000万円。
 天牛堺書店は1963年創業で、新館と古本を中心とし、CDや文具等も扱い、大阪府内に12店舗を展開していた。
 新刊と古本を併売する業態で知られ、古書や専門書にも通じ、大学図書館、研究室とも取引があり、1998年には売上高28億円を計上していた。しかし近年のアマゾンや電子書籍の台頭などにより、集客力と売上が低下し、18年には18億円にまで落ちこんでいた。 
 また不採算店の閉店に伴う資金繰りの悪化を受け、取次や銀行の支援もあったが、先の見通しが立たず、今回の措置となった。

 本クロニクル127で、山口県の鳳鳴館の負債が6億5000万円であり、前回のクロニクルで、広島県の広文館はさらに負債は多く、これからの書店破産はそのようにして続いていくという予測を述べておいた。 
 それが早くも出来してしまったことになるし、また実際に多額の負債を抱えた破産が続いていくだろう。
 なお取次はトーハンである。



6.『日経MJ』(1/16)の「2019トップに聞く」にゲオHDの遠藤結蔵社長が登場しているので、それを紹介してみる。

*リユース事業は好調だが、レンタル業は苦戦している。スマホの登場後、時間の消費が多様化したことが原因で、レンタル事業からの撤退はないが、モバイバルなどの他の商材に切り替えることはある。
*リユース事業はフリマアプリが成長を後押しし、まだまだ広がり、中古品買い取り競争が続く。ゲオの強みは創業期から増やし続けてきた実店舗と多彩な買い取り品目で、「ゲオショップ」と「セカンドストリート」の2つの屋号で何でも買い取っていくし、好調に推移している。
*店舗数はグループ全体で1800店を超え、業界最多となっているが、今後も買い取りの拠点を増やすために、2022年までに2000店舗を実現し、さらに新業態を増やしていきたい。


 ゲオとトーハンの関係は定かになっていないけれど、やはりレンタルからリユースへとシフトするようなコラボレーションを展開しているのだろうか。
 FCシステムによらないゲオにしても、レンタル事業は苦戦しているとのことだから、TSUTAYAの場合はさらに苦しいことが想像できる。ゲオは直営多店舗+リユース事業という、レンタルから一歩進んだところに新たなビジネスモデルを構築しようとしているのだろう。



7.折しも2のノセ(能勢)事務所より、出版社645社、書店300店ほどの売上高実績表を恵送された。

 これらに関してのコメントは差し控えるが、多くがの出版物販売金額や取次売上高の推移とパラレルであることはいうまでもないであろう。
 ただ気になるのはこれらのデータの今後の行方である。これらは『出版ニュース』も毎年掲載していたが、3月には休刊となってしまうので、途切れてしまうことになる。といってノセ事務所に代行をお願いするのは心苦しい。
 それに『出版ニュース』ならではのデータ提供、また『出版年鑑』に基づく実売データも同様で、今後は出版業界における多様で総合的な出版データの把握すらも難しくなっていくかもしれない。



8.セブン-イレブンとローソンは8月末までに全店での成人向け雑誌の販売を原則中止。

 昨年1月のイオングループのミニストップの販売中止に続くもので、20年の東京オリンピックに向けてのコンビニ清浄化の一環として、他のコンビニも追随していくであろう。その後、ファミリーマートも続いた。
 それは所謂「エロ雑誌業界」を壊滅させることになるだろう。だが飯田豊一の『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」シリーズ12)にも明らかなように、「エロ雑誌業界」も出版のアジールであり、そこが多くの著者や編集者も含めた人材の揺籃の地だったことは、出版史に記録されなければならない。
 だがそれと同時に、そのような時代が終わっていくことも。
『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』



9.海賊版サイトを強制的に止めるブロッキングの法制化に関し、政府は通常国会での関連法案提出を見送り、事実上の棚上げとなる。

 本クロニクル126などでも、このサイトブロッキング問題にふれてきたが、実質的に出版業界の主張が受け入れられず、「通信の秘密」を侵害する恐れという慎重論が優勢だったことを伝えていよう。
 だがその一方で、文化庁が海賊版ダウンロードの違法範囲をネット上のすべてのコンテンツに広げ、国会への著作権法改正案の提出を目論んでいる。これもまた実効性が疑わしく、拙速な議論によって進められ、サイトブロッキング法制化の断念の代わりに、政府の体面を維持するためのものだとの観測もなされている。
 コンビニの成人雑誌販売中止ではないけれど、東京オリンピックを前にして、規制と管理が社会の隅々にまで及んでいくように思われる。



10.WAVE出版は12月にぎょうせいグループ会社の一員となる。
 WAVE出版は1987年創業で、ビジネス、自己啓発、実用書、児童書などでベストセラー『働く君に贈る25の言葉』『インバスケット思考』『石井ゆかりの12星座シリーズ』、課題図書『がっこうだってどきどきしている』を刊行している。

 他にも何社かM&Aの話が伝わってきているけれど、最終的に確認がとれていないので、今回はふれないことにする。
 しかしこのような出版状況下ゆえ、水面下でM&Aが進められているはずで、判明したら、できるだけ本クロニクルでも伝えていきたいと思う。
働く君に贈る25の言葉 がっこうだってどきどきしている



11.駒井稔の『いま、息をしている言葉で。』(而立書房)を読了した。
 サブタイトルにあるように、「『光文社古典新訳文庫』誕生秘話」に他ならない。

 駒井は1979年に光文社に入り、81年に『週刊宝石』創刊に参加し、週刊誌編集者を16年間続けた後、97年に翻訳編集部に異動となる。そして2006年に古典新訳文庫を創刊し、10年にわたり編集長を務める。その「誕生秘話」を語った一冊である。 
 光文社が「古典新訳文庫」を創刊したことは、私も翻訳やその出版に携わっている関係もあり、それなりのインパクトを受けた。ただそれは単行本シリーズではなく、「新訳文庫」というコンセプトによって提出されたことに対してではあった。それゆえに本棚の一段分は買っている。
 しかしその創刊の内幕事情、及び駒井が長きにわたる週刊誌記者だったことは知らなかったので、とても興味深く読んだ。巻末の「刊行一覧」を見ると、よくぞここまで出したというオマージュを捧げたくなる。
 いま、息をしている言葉で。



12.『フリースタイル』41の特集『THE BEST MANGA 2019このマンガを読め!』が出た。

 年々歳々、新刊マンガと新刊小説を読むことが減っているのを自覚しているが、19年BEST10で読んでいたのは3の吉本浩二『ルーザーズ』(双葉社)の一冊だけだった。同書は幸いにして、それに先駈け、本クロニクル122で紹介しておいてよかったと思う。
 呉智英の「マンガ史マンガにまた傑作が生まれた」との言はまさに『ルーザーズ』にふさわしいし、続けて読んでいこう。
 4の山田参助『あれよ星屑』(KADOKAWA)は5年前に第1巻だけしか読んでいないし、第7巻で完結とのことなので、あらためてこれから読むつもりでいる。

THE BEST MANGA 2019このマンガを読め! ルーザーズ あれよ星屑
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13.『創』(2月号)の恒例の特集「出版社の徹底研究」が出された。

 その「深刻不況の出版業界をめぐる大きな動き」という座談会で、本クロニクルへの言及もあるが、それよりも巻頭の篝一光のカラーグラビア「東京street ! 」が連載終了になったことにふれておきたい。
 その理由は篝夫人が病気で倒れ、彼がカメラを持って都内を自由に歩き回れる状況ではなくなってしまったことによるという。私の周辺でも、そのようなことがしばしば起き始めていて、同世代の哀感を強くする。

 これは書いてもかまわないはずで、篝はかつて伊達一行という作家で、『沙耶のいる透視国』(集英社)を書き、カメラマンとして写真集も出し、私はそれを彼から直接購入している。「東京street ! 」はその延長線上にある仕事として、ずっと楽しませてくれた。かつてはストリートカメラマンとよんでいい人たちもいたけれど、いつの間にか篝しかいなくなってしまったように思われる。再開の時がくることを祈る。

 なお、『DAYS JAPAN』(2月号)と広河隆一問題にもふれるつもりでいたが、3月最終号にて真摯に検証し、公表するというので、それを待ってのこととする。

創 沙耶のいる透視国 創



14.SF作家で明治文化史研究家の横田順彌が73歳で死去。

 1980年頃に、今はなき『日本読書新聞』で、私は「大衆文学時評」を担当していたことがあり、12の伊達一行や横順を読む機会に恵まれた。それをきっかけにして、『日本SFこてん古典』(早川書房)を読み、このような文献発掘もあることを教えられた。横順の仕事を範とし、ミステリー研究や文献探索も深化していったように思える。
 それに加えて、今世紀を迎え、『日本古書通信』で連載をともにしていた時期もあったのである。面識はなかったけれど、ご冥福を祈る。
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15.元未来社の編集者で、後に影書房を設立した松本昌次が91歳で亡くなった。

 松本と最後に会ったのは、これも2014年に急逝した元講談社の編集者鷲尾賢也のお別れの会においてだった。元信山社の柴田信に会ったのもこれが最後だった。
 鷲尾は『小学館の学年誌と児童書』(「出版人に聞く」シリーズ18)の野上暁とともに松本にインタビューし、『わたしの戦後出版史』(トランスビュー)を残している。これを読むと、松本が編集した多くの本を読んだことを、今さらながら思い出す。本当に時は流れたが、彼が何よりも長寿を全うしたことはよかったと思う。
小学館の学年誌と児童書 わたしの戦後出版史



16.今月の論創社HP「本を読む」㊱は「『澁澤龍彦集成Ⅶ』、ルイス『マンク』、『世界幻想文学大系』」です。