出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル131(2019年3月1日~3月31日)

 19年2月の書籍雑誌推定販売金額は1221億円で、前年比3.2%減。
 書籍は737億円で、同4.6%減。
 雑誌は473億円で、同0.9%減。その内訳は月刊誌が389億円で、同0.3%減、週刊誌は84億円で、同3.6%減。
 雑誌のマイナスが小幅なのは、前年同月が16.3%という激減の影響と返品減少で、ムックとコミックスの返品の改善によるものである。
 その返品率は書籍が33.2%、雑誌は41.5%で、月刊誌は41.6%、週刊誌は41.0%。
 雑誌の返品率は16年41.4%、17年43.7%、18年同じく43.7%と、続けて40%を超え、19年も同様であろう。
 3月は第1四半期と取次の決算などが重なり、どのような影響を及ぼしていくのだろうか。


1.日販は10月1日付で持株会社体制に移行すると発表。
 4月1日付で子会社を新設し、子会社管理、及び不動産管理以外のすべての事業を簡易吸収分割により継承する。
 その「10月1日以降のグループ体制の概要(予定)」を示す。

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『新文化』 (2/21)

 つまり日販の新体制において、持株会社は新お茶の水ビルなどの資産を保存し、グループの経営に特化する。グループは「取次」「小売」「海外」「雑貨」「コンテンツ」「エンタメ」「その他」「グループIT」「シェアードサービス」の9事業に分かれ、それぞれに子会社が配置されることになる。
 「取次事業」は新設の日販を始めとして、出版共同流通などの物流子会社、文具卸の中三エス・ティ、TSUTAYA卸のMPDなどから構成される。
 「小売事業」は中間持株会社NICリテールズに6法人、273店の書店が入る。折しもクロス・ポイントはファミリーマートとの一体型店舗「ファミリーマートクロスブックス我孫子店」を開店。同店は旧東武ブックス我孫子店で、1階がCVS、2階が書店。NICリテールズとしては2店目で、CVSとの融合を加速させていくようだ。
 「海外事業」は台湾での日本出版物の卸の日盛図書有限公司、中国で日本出版物の翻訳出版に携わる北京書錦縁諮詢有限公司。
 「雑貨事業」はダルトン、「コンテンツ事業」はコミックや小説の電子書籍を発行するファンギルド。
 「その他事業」のASHIKARIはブックホテル「箱根本箱」を経営、日本緑化計画はそら植物園との合弁会社、蓮田ロジスティクスセンターは倉庫会社。
 「エンタメ事業」と「シェアードサービス」は10月以降の将来構想とされる。

 前回の本クロニクルで、トーハンの「機構改革」と月刊広報誌『書店経営』の休刊にふれ、「ポスト書店を迎える中での取次のサバイバルの行方」を象徴していると既述しておいたが、日販の持株会社体制移行もまた同様だと見なすしかない。本クロニクル119などで、「日販非常事態宣言」に言及してきたが、その1年後の動向となる。
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2.トーハンは岐阜・多治見市のアクトスとフランチャイズ契約を締結し、フィットネスビジネス運営事業に参入。
 アクトスは1998年に設立され、フィットネスクラブなどを全国90店舗展開している。トーハンは「スポーツクラブアクトスwill-G」の屋号で、文真堂書店ゲオ小桑原店の2階に開店し、群馬県高崎市、埼玉県熊谷市にも新規出店。

 これはポストDVDレンタルの行方のほうを伝えてもので、この3店がそれなりに好調であれば、トーハン傘下の書店に続けて導入されていくだろう。
 だが2月の書店閉店状況を見てみると58店で、大型店の閉店が増えている。これらは日販だが、フタバ図書GIGA福大前店は700坪、同高陽店は600坪、TSUTAYA天神駅前福岡ビル店は710坪である。

 新規事業の導入にしても、大型店の場合は家賃コストとテナント料の問題もあり、すべての店舗に可能だとはいえない。それらのことを考えれば、これからも大型店の閉店は続いていくはずだ。それからTSUTAYAの6店に加え、チェーン店の未来屋が2店、宮脇書店も3店が閉店している。これらも気にかかるところだ。
 また東海地方のカルコスチェーンが、日販からトーハンへ帳合変更。



3.取協は4月1日から中国、九州地方で、雑誌や書籍の店頭発売が1日遅れになると発表。
 これは中国、九州地方への輸送を受け持っている各運送会社からの要請を受けたものである。現行のトラック幹線輸送が運行や労務管理上、法令違犯の状態にあり、出版社からの商品搬入日や発売日を含む輸送スケジュールの見直しが、法令順守やコストの点からも迫られていたからだ。

 本クロニクル127などで、出版輸送問題に関して、出版輸送事業者の現状からすると、もはやコストも含め、負担も限界を超え、明日にでも出版輸送が止まってしまってもおかしくない状況にあることを伝えてきた。
 今回の中国、九州地方での発売の遅れは、その一端が現実化してしまったことを告げている、しかもそれで問題解決とはならないのである。それから最も気になるのは、これがさらなる中国、九州地方での雑誌離れにつながり、dマガジンなどの電子雑誌への移行を促すのではないかということだ。
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4.『ニューズウィーク日本版』(3/5)が特集「アマゾン・エフェクト」を組んでいる。
 その巻頭に「誰もがアマゾンから逃れられない」を寄せているビジネスライターのダニエル・グロスは、「今も広がり続けるアマゾン・エフェクトの脅威、生活を支配する怪物企業は世界の破壊者か変革者か」と問い、急成長を続けるアマゾンの現在を次のように描いている。

ニューズウィーク日本版

 アマゾンが扱う品目は2000万点を超える。しかも物流(専用の貨物機と倉庫網を運用する)や食品販売(自然食品チェーンのホール・フーズ・マーケットを買収した)、映像コンテンツ(動画配信のプライム・ビデオ)、クラウドホスティング(アマゾンウェブサービス、略称AWS)、そしてゲームの世界(動画共有サービスのツィッチ)でも巨大な存在だ。(中略)
 その急成長を物語る数字には唖然とする。見たことがないような急速かつ多角的な事業拡大だ。18年度の総売り上げは2329億ドルで、前年度の1780億ドルから30%増。100億ドルという前代未聞の営業利益も記録した。(中略)事業の多角化が奏功し、今や売り上げの半分近くはネット通販以外で稼いでいる。
 この四半世紀にわたる躍進で、今では誰もがアマゾン・エフェクト(アマゾン効果)―アマゾンの急成長と多角化がもたらす影響、市場の混乱や変革を指す―を感じている。
 アマゾンは消費者を囲い込み、注目と忠誠と出費を促す。そのために提供するのは利便性、価値、そして商品とサービスの拡充だ。人々はアマゾンを身内のように信頼し、自宅に招き入れる。使い勝手の良さで関係が深まれば、もう他社は割り込めない。


 このようなアマゾンの急成長の背後には、「リテールズ・アポリカス(小売店)の残骸」が散らばり、それらも具体的に写真に示される。
 書店チェーンのボーダーズの経営破綻、バーンズ&ノーブルの店舗の減少、玩具チェーンのトイザらス、家電販売大手のラジオジャック、靴の安売りのペイレス・シューソース、通販のシアーズの経営破綻、これにショッピングモールも続いている。
 そしてフォトジャーナリストのセフ・ローレンスの「アマゾン時代の“墓場”を歩く」という「フォトエッセイ」には、それらのショッピングモールの廃墟が映し出されていく。

 私もロメロの映画『ゾンビ』を論じて、「やがて哀しきショッピングセンター」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)なる一文を書いているが、それらの写真はもはやゾンビも出没しないであろう何もない無残な姿を浮かび上がらせている。
 日本ではまだここまでの、「リテールズ・アポリカス」は出現していないと思われるが、書店状況を考えれば、その日も近づいているのかもしれない。
 なおこの特集は18ページに及ぶものなので、実際に読むことをお勧めする。
ゾンビ 郊外の果てへの旅(『郊外の果てへの旅/混住社会論』)



5.『出版ニュース』(3/下)に緑風出版の高須次郎が「アマゾンの『買い切り・時限再販』宣言に出版社はどう対応すべきか」を寄稿している。それを要約してみる。

郊外の果てへの旅

* 再販制下にあって、アマゾンが出版社との直接取引で、「買い切り」を条件とし、売れ残りを時限再販するというのは、越権行為に他ならず、時限再販をする、しないは出版社の専横事項に属する。
* 時限再販や部分再版については取引条件交渉のらち外の問題で、アマゾンから要求を持ち出すこと自体が、出版社の自由意思を妨げる行為、すなわち現行再販制度の任意再販、単独実施の原則に反する行為である。
* それにこれを日本最大の小売書店といえるアマゾンが要求することは圧力であり、事実上の強要である。出版社はアマゾンとの交渉内容を記録し、不公正な取引方法、優越的地位の乱用で公取委に訴えるなどの断固たる対応が必要である。
* アマゾンの要求に屈して、出版社が「買い切り・時限再販」を呑んでしまえば、出版社は完全にダブルスタンダードとなり、アマゾンでは買い切り・時限再販、一般書店では従来通りの返品条件付き委託の定価販売を求めることになり、現行再販制度上できる話ではない。
* 出版社の正当な権利も行使せず、アマゾンの要求を呑めば、次には完全な部分再版=自由価格取引を要求されることになり、出版界は自ら崩壊への道をたどっていくだろう。


 これはアマゾンと取引していない緑風出版の経営者の立場だからいえることで、直接取引している2942社は千々に乱れている状況にあると推測される。
 現在の出版危機下にあって、アマゾンとの直接取引によってサバイバルしている中小出版社も多いからだ。
 それに再販制に関する視座として、高須と私は異なっているので、いずれあらためて再販制の起源と歴史、その功罪をめぐって意見を交わしたいと思う。



6.5と同じ『出版ニュース』の最終号の伊藤暢章「海外出版レポート・ドイツ」が「大手取次店の倒産の影響」を伝えている。
 2月14日にドイツの大手取次KNV(コッホ、ネフ&フォルクマール有限会社)が突然、倒産申請し、出版業界を震撼させ、様々な論議を呼んでいる。
 KNVは1829年にライプツィヒで書籍の委託販売業を創業したことから始まり、それがドイツの書籍取次店の淵源であった。そして時代の変遷とともに、いくつもの同業他社の吸収合併、グループ化などがあり、大取次の地位を占めることになった。
 現在のKNVは5600の書店に納本し、その内訳はドイツが4200店、オーストリアとスイスが800店、その他の国が600店、また70ヵ国以上に輸出している。
 KNVは5000社以上の出版社の50万点の書籍を常備し、ニューメディアも6万3000点以上、ゲームなども1万6000点を扱い、「KNV書店輸送サーヴィス」という独自の配送システムを有し、全商品が翌日に販売拠点に配達されるという。
 倒産の原因は赤字の累積に加えて、広大なロジステックセンターの新設という設備投資の失敗によるもので、複雑ではあるけれど、書籍市場そのものになく、いわばKNV「自家製」の危機とされている。そのために出版社も書店も全面支援体制を組み、KNVをつぶしてはならないということで、援助策が打ち出されているようだ。

 ただそうはいっても、KNVの場合もアマゾンの影響がまったくないとは言い切れないだろう。このKNVのその後の行方もたどりたいが、『出版ニュース』は最終号なので、もはやそれもかなわない。その後『文化通信』(3/25)でも報じられている。
 本クロニクルとしては「海外レポート」を最も愛読、参照してきたので、これが終わってしまうのはとても残念だ。といって、各国の出版情報誌を講読する気にはならないし、日本だけのことに専念することにしよう。
 そういえば、かつて「ドイツの出版社と書店」(『ヨーロッパ 本と書店の物語』所収、平凡社新書)を書いたことがあった。新書なので、よろしければ参照されたい。
ヨーロッパ 本と書店の物語



7.『DAYS JAPAN』(3、4月号)も届いた。
 やはり最終号なので、『出版ニュース』に続けて取り上げておこう。
 この最終号は第一部「広河隆一性暴力報道を受けて検証委員会報告」、第二部「林美子責任編集による特集「性暴力をどう考えるか、連鎖を止めるために」で、前者は14ページ、後者は実質的に26ページの構成となっている。

DAYS JAPAN

 この構成からわかるように、「広河隆一性暴力報道」は十分に「検証」されているとはいえず、斎藤美奈子がラストページに書いているように、「広河事件の背後に見えるもうひとつの闇」を浮かび上がらせているような印象をもたらしてしまう。
 戦前の出版史に伴う文学、思想史をたどっていると、女性に関して白樺派は女中、左翼はハウスキーパー、京都学派は祇園ではないかとの思いを抱かされる。それが戦後も出版業界で同様に続いていて、広河事件はそれをあからさまに露出してしまったことになる。
 ただ私としては、セクハラもパワハラも無縁だと自覚しているが、『リブロが本屋であったころ』の中村文孝からは「出版業界にいるだけでパワハラだ」といわれているので、自戒しなければならないと思う。
DAYS JAPAN



8.『日経MJ』(3/15)が「ビッグ・バッド・ウルフ」というブックフェアを紹介している。
 これは洋書中心のブックフェアで、欧米で在庫処分となった洋書を大量調達し、定価の5~9割引という格安価格で売りさばくのが特徴で、期間限定だが、24時間営業である。
 同記事はミャンマーのヤンゴンでのブックフェアを伝え、11日間の営業中の来場者は15万人、在庫数は合計100萬冊に達し、ヤンゴンの書店にはその1%の在庫すらもないので、5冊、10冊のまとめ買いは当たり前とされる。
 ブックフェアはマレーシアから始まり、アジア8ヵ国、地域に広がっている。これはマレーシアのクアラルンプールの郊外の書店の若きオーナー夫妻が始めたもので、「赤ずきん」などに登場する「大きな悪いオオカミ」から命名され、子どもたちにこそ読書に親しんでほしいという思いがこめられているという。

 このブックフェアがのアマゾンの動向とリンクしているのかは詳らかにしないが、10年目を迎え、世界最大の洋書フェアと謳われるブックフェア「ビッグ・バッド・ウルフ」のことは初めて目にするし、どこにもレポートされていないと思えるので、ここで紹介してみた。



9.『出版月報』(2月号)が特集「紙&電子コミック市場2018」を組んでいる。
 18年のコミック市場全体の販売金額は4414億円、前年比1.9%増。
 その内訳は紙のコミックスが1588億円、同4.7%減、紙のコミック誌が824億円、同0.1%減。
 電子コミックスは1965億円、同14.8%増、電子コミック誌は37億円、同2.8%増。
 そのうちの「コミック市場(紙+電子)販売金額推移」と「コミックス・コミック誌推定販売金額」を示す。

■コミック市場全体(紙版&電子)販売金額推移(単位:億円)
電子合計
コミックスコミック誌小計コミックスコミック誌小計
20142,2561,3133,56988258874,456
20152,1021,1663,2681,149201,1694,437
20161,9471,0162,9631,460311,4914,454
20171,6669172,5831,711361,7474,330
20181,5888242,4121,965372,0024,414
前年比(%)95.389.993.4114.8102.8114.6101.9


■コミックス・コミック誌の推定販売金額(単位:億円)
コミックス前年比(%)コミック誌前年比(%)コミックス
コミック誌合計
前年比(%)出版総売上に
占めるコミックの
シェア
(%)
19972,421▲4.5%3,279▲1.0%5,700▲2.5%21.6%
19982,4732.1%3,207▲2.2%5,680▲0.4%22.3%
19992,302▲7.0%3,041▲5.2%5,343▲5.9%21.8%
20002,3723.0%2,861▲5.9%5,233▲2.1%21.8%
20012,4804.6%2,837▲0.8%5,3171.6%22.9%
20022,4820.1%2,748▲3.1%5,230▲1.6%22.6%
20032,5492.7%2,611▲5.0%5,160▲1.3%23.2%
20042,498▲2.0%2,549▲2.4%5,047▲2.2%22.5%
20052,6024.2%2,421▲5.0%5,023▲0.5%22.8%
20062,533▲2.7%2,277▲5.9%4,810▲4.2%22.4%
20072,495▲1.5%2,204▲3.2%4,699▲2.3%22.5%
20082,372▲4.9%2,111▲4.2%4,483▲4.6%22.2%
20092,274▲4.1%1,913▲9.4%4,187▲6.6%21.6%
20102,3151.8%1,776▲7.2%4,091▲2.3%21.8%
20112,253▲2.7%1,650▲7.1%3,903▲4.6%21.6%
20122,202▲2.3%1,564▲5.2%3,766▲3.5%21.6%
20132,2311.3%1,438▲8.0%3,669▲2.6%21.8%
20142,2561.1%1,313▲8.7%3,569▲2.7%22.2%
20152,102▲6.8%1,166▲11.2%3,268▲8.4%21.5%
20161,947▲7.4%1,016▲12.9%2,963▲9.3%20.1%
20171,666▲14.4%917▲9.7%2,583▲12.8%18.9%
20181,588▲4.7%824▲10.1%2,412▲6.6%18.7%

 16年までのコミック市場全体の販売金額は4400億円台で推移し、17年は4300億円と前年マイナスになっていたが、18年はプラスとなった。しかしこれは『出版月報』でもリストアップされているように、紙の大手コミックレーベルの価格値上げの影響が大きい。
 電子コミック市場は初めて2000億円を超えたけれど、1965億円という電子コミックスの伸びによるもので、これは海賊版サイト「漫画村」の閉鎖とリンクしている。
 それらを考えると、コミック市場全体が回復しつつあるとの判断は留保すべきだろう。それに1997年は紙のコミックス、コミック誌だけで、5700億円を販売していたのであり、2018年はそれが半減以下の2412億円まで落ち込んでしまっている。このマイナスはまだ続いていくだろうし、電子コミックスはまだ伸びていくにしても、この5年間のコミック市場全体の販売金額の推移からすれば、4300から4400億円台を上回る成長は期待できないように思われる。

 それから最も留意すべきはコミック誌の販売金額で、17年に1000億円を割りこみ、917億円だったのが、さらに93億円のマイナスで、824億円となってしまったのである。19年は確実に700億円台になるだろう。1997年には3279億円だったから、5分の1の販売金額で、コミック誌の終わりの時代を象徴しているかのようだ。

 またこれは本クロニクル119でも書いておいたが、電子コミックス市場にしても、紙のコミックス市場がそうであるように、あくまで紙のコミックス誌が母胎となって形成されている。その母体であるコミックス誌の凋落は確実に電子コミックス市場へとも反映されていくだろう。
 海賊版サイトが閉鎖されても、旧作の電子コミックス化が一巡してしまえば、それほどの成長を期待することはできないのではないだろうか。



10.講談社の決算が出された。
 売上高は1204億円、前年比2.1%増、当期純利益は28億円、同63.6%増。
 その内訳は雑誌509億円、同8.9%減、書籍は160億円、同9.4%減。広告収入50億円、同8.6%増、事業収入443億円、同24.1%増。
 事業収入のデジタル関連収入は334億円、同33.9%増、そのうちの電子書籍売上は315億円、同44.1%増、国内版権収入は60億円、同5.2%減、海外版権収入は47億円、同9.3%増。

 雑誌と書籍のマイナスを電子書籍などの事業収入でカバーし、3年連続の増収となった。
 それはで既述したコミックの定価値上げ、海賊版サイトの閉鎖も作用しているはずだ。
 これも本クロニクル118で、講談社は出版社・取次・書店という近代出版流通システムからのテイクオフをめざしているのではないかとの推測を述べておいたが、19年のアマゾンとの取引はどうなるのか、それを注視すべきだろう。
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11.文化庁の著作権侵害物の全面的なダウンロードを違法化の提出は、今国会では見送りとなった。

 これは前回の本クロニクルでもふれているが、2月27日に日本漫画家協会に加入する1600人の漫画家たちの異議申し立てが大きな力となったようだ。
 日本漫画家協会理事長、里中満智子へのインタビューが『朝日新聞』(3/13)にも掲載され、それらの事情、漫画家としての立場が語られている。
 やはり問題なのは「著作権者である私たち漫画家が知らない間に話が進んでいて」、漫画家は政府や文化庁から意見を聞かれることもなく、出版社からも説明や経過報告を受けていないことだ。つまり肝心な当事者に説明責任を果たすことなく、万事が進められていたのだ。
 里中も海賊版には悩んでいるけれど、「現案では、漫画を護るゆえに一般の方が不自由になってしまうのはかえって不本意です」と述べている。まさに正論というべきであろう。



12.地球丸が破産手続き。
 同社はアウトドア専門誌出版社で、ルアー&フライフィッシング雑誌『Rod and Reel』などを出していた。
 負債は7億1700万円。
Rod and Reel

13.医薬ジャーナル社倒産。
 同社は1965年設立で、『医薬ジャーナル』などの5点の月刊誌の他に、医学専門書を出版し、大手製薬会社、病院、薬局などを定期購読者としていた。
 負債は3億8800万円。

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 本クロニクルでも趣味の雑誌の世界の解体にふれてきているが、12の地球丸の破産も、その具体的な一例となろう。
 13の医薬ジャーナル社の倒産は、事情通によれば、これから起きるであろう医学書出版社の危機の前ぶれであるとのことだ。
 その他にも数社の破綻が伝えられているが、複数の確認がとれていないので、今回は書かない。



14.大修館書店の関連会社大修館A.S.が、ゆまに書房の全株式を取得し、グループ会社化。
 大修館の鈴木一行社長が、ゆまに書房代表取締役社長に、ゆまに書房の荒井秀夫社長が代表取締役会長に就任。
 社員19人の継続雇用と、当面の間の取引先変更はなく、編集、営業、物流、制作面でのシナジー効果を高めたいと説明されている。

 私は ゆまに書房の『編年体大正文学全集』を所持していることもあって、ゆまに書房が大修館と一緒になって、文芸書における新たな企画と分野に進出してほしいと思う。
 これは知らなかったけれど、ゆまに書房は1975年創業で、大学市場に強く、千代田区の本社、茨城の杜やロジスティックスセンターも自社物件であるという。それに加えて今回の決定は後継者問題ゆえだとされている。
編年体大正文学全集



15.釧路市の絵本と童話の専門店、プー横丁が閉店。
 そのプロフィールは次のようなものだった。

 「おとなとこどものプー横丁」
 本好きが高じてなってしまった絵本と童話の店。読み聞かせが好きで小さい人が来てくれたら読まずにいられない。その為か個人の文庫か私設の図書館みたいな所、と勘違いされる時もあるが、れっきとした読み・売り本屋です。


 夏の閉店を前倒しして、3月いっぱいで閉店となったようで、やはりいろいろな事情が絡んでいるのだろう。
 本クロニクル115でも名古屋のメルヘンハウスの閉店を取り上げているけれど、児童書専門店は1980年代から90年代にかけて、ブームの感すらもあったけれど、現在はどうなっているのだろうか。
odamitsuo.hatenablog.com



16.産業編集センター編著『本をつくる―赤々舎の12年』を読了。

本をつくる―赤々舎の12年

 これはサブタイトルに「赤々舎の12年」とあるように、京都のアートブック、写真集専門出版社といっていい赤々舎の創業者姫野希美へのインタビュー、及び170冊の写真集などの書影も添えた、赤々舎の歴史と出版目録を兼ねた一冊である。
 12年間でこれほど多くの写真集を刊行し、そのうちの10冊近くが木村伊兵衛写真賞を受賞しているのは驚くしかない。それらを挙げてみれば、岡田敦『I am』、志賀理江子『CANARY』、浅田政志『浅田家』などだ。
 だがかつて写真集は返品されるとダメージが大きく、採算などが難しいとされていた。現在ではそのような問題はクリアーされたのであろうか。それらも含めて、姫野に会う機会があったら、そっと経営の秘訣を教えてもらいたいと思う。
I am CANARY 浅田家



17.安田浩一×倉橋耕平の対談集『歪む社会』(論創社)を読み終えた。

I am

 これは論創社から献本され、読んだのだが、思いもかけずにこの一冊が歴史修正主義、ヘイト本、ネット右翼、新自由主義の出版史に他ならないことに気づいた。
 そうした意味において、『歪む社会』は現代出版史としても読めるし、広く推奨する次第である。



18.宮田昇が90歳で亡くなった。

 宮田は早川書房や日本ユニエージェンシーなどを経て、出版太郎名義の『朱筆』全2冊(みすず書房)から、『出版状況クロニクルⅤ』で紹介しておいた近著『昭和の翻訳出版事件簿』(創元社)までを著わしている。それらは宮田でしか書けなかった戦後の出版と翻訳史であり、出版界はかけがえのない証言者を失ってしまったことになる。
 謹んでご冥福を祈る。
朱筆  昭和の翻訳出版事件簿



19.今月の論創社HP「本を読む」㊳は「新人物往来社『怪奇幻想の文学』と『オトラント城綺譚』」です。