20年9月の書籍雑誌推定販売金額は1183億円で、前年比0.5%増。
書籍は685億円で、同0.3%増。
雑誌は498億円で、同0.8%増。
その内訳は月刊誌が423億円で、同3.6%増、週刊誌は74億円で、同12.7%減。
返品率は書籍が31.7%、雑誌は37.5%で、月刊誌は36.5%、週刊誌は42.4%。
書籍は池井戸潤『半沢直樹 アルルカンと道化師』(講談社)初版30万部を始め、馳星周『少年と犬』(文藝春秋)、『会社四季報 業界地図2021年版』(東洋経済新報社)などがヒットし、さらに返品減が加わり、微増となった。
雑誌は『鬼滅の刃』(集英社)の売れ行きは落ち着き始めたが、『ONE PIECE』『キングダム』『SPY×FAMIRY』(いずれも集英社)や『進撃の巨人』(講談社)などの新刊が続き、返品も大きく改善し、プラスとなった。
1.出版科学研究所による20年1月から9月にかけての出版物販売金額の推移を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | |||
(百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | |
2020年 1〜9月計 | 913,739 | ▲2.3 | 508,349 | ▲2.3 | 405,390 | ▲2.3 |
1月 | 86,584 | ▲0.6 | 49,583 | 0.6 | 37,002 | ▲2.2 |
2月 | 116,277 | ▲4.0 | 71,395 | ▲3.2 | 44,882 | ▲5.2 |
3月 | 143,626 | ▲5.6 | 91,649 | ▲4.1 | 51,977 | ▲8.1 |
4月 | 97,863 | ▲11.7 | 47,682 | ▲21.0 | 50,181 | ▲0.6 |
5月 | 77,013 | 1.9 | 42,383 | 9.1 | 34,630 | ▲5.7 |
6月 | 96,982 | 7.4 | 48,978 | 9.3 | 48,004 | 5.5 |
7月 | 92,939 | ▲2.8 | 44,755 | ▲7.0 | 48,184 | 1.4 |
8月 | 84,072 | ▲1.1 | 43,369 | 4.6 | 40,704 | ▲6.5 |
9月 | 118,382 | 0.5 | 68,555 | 0.3 | 49,827 | 0.8 |
20年9月までの書籍雑誌推定販売金額は9137億円で、同2.3%減。前年比マイナス217億円である。これは近年にない低いマイナスで、5、6、7月と3ヵ月書籍雑誌のプラスが生じたことによっている。
18年と19年の数字は本クロニクル126、138にも掲載しておいたが、18年のマイナスは728億円、19年は408億円だったから、それだけ見れば、かなり改善されたともいえる。
しかしリードでも書いておいたように、1億部に及んだという『鬼滅の刃』を始めとするコミックの好調による要因が大きいと考えられる。
だが出版科学研究所のデータは取次ルートの送品に基づいていて、書店の実売金額ではない。それにコロナ禍が重なり、このような販売金額となったのか、現時点では判然としない。
続けて書店決算などにふれていくけれど、その点を了承してほしい。また『出版月報』(10月号)も特集「新型コロナウィルス感染拡大と出版界」を組んでいるが、「前編」なので、来月を「後編」を待って言及するつもりでいる。
2.文教堂GHDは20年8月期に債務超過を解消する見込みを発表。
19年6月、文教堂GHDと文教堂の2社は「事業再生ADR手続き」を申請し、債務者会議で再生計画案を諮り、東証の上場維持を図った。
その結果金融機関6行が借入金元本の返済を一時停止し、41億6000万円、日販は5億円を出資し、借入金の一部を債権の株式化によって支援することになった。
文教堂GHDの第3四半期売上高は166億2800万円、前年比9.8%減だが、純利益は3億3000万円と黒字転換。
文教堂の「事業再生ADR手続き」に関しては本クロニクル135、その債務超過、大量閉店については同129、132などで既述しておいたので、必要ならば、そちらを参照してほしい。
しかし文教堂に対して、やはり本クロニクル148でふれておいたように、経済誌で継続疑義の企業に挙げられていた。
確かにこのような事業再生によるならばば、危機に陥っている小売業の存続はできるが、事業の再建は可能かと問うべきだろう。文教堂の取次とのタイアップ、及び郊外店大量出店によるナショナルチェーン化と上場化というビジネスモデルは、もはや終わっていると考えられるからだ。
本クロニクル135で、文教堂、日販、金融機関のトライアングルの行方への注視を促しておいたが、まだ最終的決着はついていないと見るべきだろう。
その後、文教堂GHDは45歳以上の正社員25人の希望退職を募ると発表した。
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3.精文館書店の決算が出された。
売上高は207億8700万円、前年比7.1%増で、過去最高を記録。営業利益は6億1700万円、同40.5%増、当期純利益は3億4600万円、同26.4%増。
その内訳は「書籍・雑誌」128億854万円、同11.7%増、「文具」22億7830万円、同7.8%増、「セル(CD・DVD・新品ゲーム・中古ゲーム)」20億8444万円、同1.7%減、「AVレンタル」25億8516万円、同7.3%減、「金券(図書カード、POSAカード)」4億9801万円、同8.3%増、「その他」5億3325万円、同19.4%増。
前年度の精文館書店の決算は、本クロニクル138で既述しているので、これも必要とあれば見てほしいが、前年は800坪を越える大型店出店にもかかわらず、1.9%減だった。
今期の出店は366坪のTSUTAYA BOOKSTOREテラスモール松戸の1店だけで、「書籍・雑誌」は11.7%増となっている。
コロナ禍の影響もあってなのか、釈然としない印象を与える。
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4.2021年3月31日に消費税転嫁対策特別措置法が失効し、出版やムックなどの出版物に適用されていた消費税別価格表示の特別措置も終了となる。それに伴い、4月1日からは総額表示(税込価格)義務が発生する。
財務省は書協、雑協に対し、特別措置の執行を前提で進めてほしいし、スリップのボウズ、カバー、本体の一ヵ所でも税込価格を表示すれば、総額表示義務を満たすと明示した。
総額表示義務違反に関して、消費税上の罰則規定は設けられていない。また書協は出版社や書店の負担を懸念し、関係省庁に対し、特別処置の延長を要請してきたとされる。
この問題に対して、書協は9月18日に、4月1日以降の刊行物が対象で、「総額表示表記のしおり」の挟み込みを提案している。また日本出版者協議会は9月28日付で「消費税総額表示義務の特例の『無期限延長』、『外税表示』許容の恒久化を強く要望する」との声明を出している。
しかし何よりも問題なのは書店在庫、つまり出版社の社外在庫で、それが半年余りで解決できるとは思われない。書協の消費税対応はその導入時の1989年から失敗の繰り返しで、今回もその轍を踏まないことを望むばかりだ。
前回の本クロニクルで、この問題が政治マターとされていることを伝えた。そうして水面下で延長化の動きが進められていたようだが、どうも実を結ばなかったと伝えられている。
5.2018年の税制改正で決まった「返品調整引当金廃止」の適用が半年後の21年4月から始まる。
この制度変更は出版業界特有の「委託販売」「常備委託」の特異性を見直すことにもつながるとして、『文化通信』(9/18)が碇信一郎公認会計士にヒアリングしているので、それを要約してみる。
★ 2021年4月から「収益認識に関する新しい会計基準」の適用に伴い、税法が改正され、その中に「返品調整引当金の廃止」が含まれているので、ほとんどの出版業界関係者に影響が及ぶ。この「廃止」には10年間の経過措置がとられるにしても、出版社の税負担が増えることは間違いない。 |
★ 例えば、これまでの返品付き販売において、出版社が取次への販売時にすべて収益を計上していた。しかし今後は返品が見込まれる金額(売価ベース)については計上できなくなり、「返品負債」として計上し、また返品が見込まれる分は「返品資産」として計上する。そして決算日に返品負債と返品見積もりが正しかったかどうかを見直す必要がある。 |
★ それに照らし合わせれば、出版業界の「委託販売」は「返品条件付き販売」で、一般の「委託販売」とは異なり、再販制に基づいて書店に預けたかたちとなり、出版社にしても書店にしても、主体的に販売しているとは言い難い。 |
★ 「常備委託」は「預け在庫」だが、売上を計上している。だが実際に出版社には1冊目が売れ、次の本が入った時に初めて売上を計上しているので、本来の売上計上の時期がずれている。このように出版業界の当たり前の取引にしても、この収益認識基準の変更を機とし、新たに考える必要がある。 |
ここでは言及されていないが、書店の新規開店に当たり前のように乱発されている「委託販売」や「常備委託」にしても、当然のように見直しを迫られることになろう。しかもその「委託販売」や「常備委託」が書店の資金繰りのための返品となって早期に出版社へと戻されていることも考慮に入れなければならない。
これらも含めて、すべての問題を先送りして、また出版業界のつけが現実化しようとしているのだろう。
6.流通情報誌『激流』(11月号)が特集「止まらぬ閉店ドミノ 活路はどこに」を組んでいる。
とりわけジャーナリスト石橋忠子レポート「一等地の空洞化で始まる街と企業の再生モデル構築」は生々しい。そこではすさまじいまでのコロナ閉店が語られている。
外食産業はジョイフルが200店、コロワイドが196店、吉野家HDが国内外で150店、ペッパーフードサービスが114店、チムニーが72店、ロイヤルHDが70店、ワタミが65店とこの7社だけで約850店に及ぶ。
アパレルもレナウンの破綻に加え、オンワードHDが700店、ワールドが358店、三陽商会が150店、TSIHDが210店、ジャパンイマジネーションが今年度中に92店と、6社だけで2000店以上になる。
外食やアパレルだけでなく、ファッション雑貨、眼鏡、生花、スポーツ用品、アニメショップなども次々と閉店し、カラオケボックスはすでに500店が閉店したと見られる。
さらに赤字店舗続出で、閉店ラッシュはこれから本格化することも確実だとされる。
7.『日経MJ』(9/23)も「モールに迫る空洞化の足音」と題し、1月から6月にかけて、全国2800ヵ所の商業施設の出退店データから、アパレルや外食を中心にテナント1140店が純滅したことをレポートしている。
施設の飽和感、ネット通販との競合の厳しさ、コロナによる集客力の落ち込みが、巨大なショッピングモールの存在危機を問うていることになる。
書店の閉店はそこまで目に見えて増えていないが、年末から来年にかけてどうなるのかわからない。
小出版社の側から見れば、出版協加盟社の3月から5月売上は平均27.8%減、楽天ネットワークの入金は返品相殺され、入金がないところも多いようだ。しかもコロナ休業や閉店の返品はこれから本格化するのではないかとの観測も出されている。
書店と同じく、出版社のほうもコロナ危機には深刻である。
8.日販とトーハンは雑誌返品業務の物流拠点を統合し、11月から日販グループの出版共同流通蓮田センターで段階的に実施する。
今後、書籍返品業務、書籍新刊送品業務、雑誌盗品業務も含め、協業の検討を進め、物流作業の効率化を通じ、出版流通網の再構築をめざすとされる。
このような動向を受けてなのか、10月から中央社が物流をトーハンに業務委託することで、自社の集荷も中止となっている。
中央社の帖合書店、スタンドは900弱とされるが、これからはトーハンの書店コードが使われることになる。
この数ヵ月、病院内の書店の閉店が目につくけれど、おそらくこうした中央社のトーハンへの業務委託と関連しているのだろう。
9.出版物貸与権管理センター(RRAC)は第13回(平成31年度分)の貸与権使用料の分配を発表。
分配額は14億9000万円で、第12回の16億300万円、第11回の21億2000万円という3年連続の減少。ピークは第10回の23億5100万円。
レンタルブック店は1865店で、16年2172店、17年2069店、18年1973店とこちらも減少が続いている。
RRACは2007年から貸与権に基づき、コミックを中心としたレンタルブックの貸与権使用料を徴収し、著作者に分配する業務を行ない、第1回(平成10年度分)の分配金額は5億2000万円だった。
ピーク時から比べれば、9億円近いマイナスで、レンタルコミックももはや下り坂となっていることが歴然である。
それもあってなのか、ゲオではレンタルコミックが大量に放出され、一冊50円で売られている。
しかし今年の神風だったといえる『鬼滅の刃』がレンタルコミックとなれば、今一度盛り返すかもしれない。
10.『出版月報』(9月号)が特集「タレント写真集」を組んでいる。
1990年代前半にヘアヌード写真集がブームとなり、91年の樋口可南子『water fruit』、宮沢りえ『Santa Fe』(いずれも朝日出版社)がそれぞれ55万部、165万部と大ヒットした。それをきっかけとして、92年20点、93年80点、94年には200点超が刊行されたのである。
それらを追った「タレント写真集と関連本30年の歴史(1990~2020年)」は出版史資料として貴重なものだ。
この30年史を見ていて想起されるのは、本格的な消費社会を迎えての広義の意味における芸能書とスポーツ書の隆盛、及びそれらにまつわるセレブティ出版のこれまでなかった台頭である。ブックオフの棚を眺めると、それらの多くが売れずに棚を占め、残骸のように残っている。
折しも『週刊ポスト』(10/9)が「ヘア・ヌード完全カタログ」を謳っているので、購入してみると、1994年に刊行された『井狩春男のヘア・ヌード完全カタログ』(飛鳥新社)の転載であった。
そういえば、鈴木書店倒産以来、井狩とも二十年近く会っていない。お達者であろうか。
11.電子ストア「まんが王国」を運営するビーグリーはぶんか社、及びグループ会社(海王社、新アポロ出版、文友社、楽楽出版)の持ち株会社であるNSSK―CCの全株式を取得し、子会社化。買収金額は53億円。
ぶんか社はかつての日本文華社で、コミックや新書を出し、雑誌の『みこすり半劇場』は岩本テンホーのベストセラーコミックの掲載誌でもあったし、かなり楽しませてくれた記憶がある。海王社はヘア・ヌード写真集の版元、文友社と楽楽出版はぶんか社の会社分割による子会社とされる。新アポロ出版は自動車雑誌関連の編集プロダクション。
19年のぶんか社単体売上高は45億円、純利益7億円とされるが、この買収は三井住友銀行をメインとする70億円のシンジケートローンによってなされたようだ。
本クロニクル148で、やはり買収されたKKベストセラーズの現会長が三井住友銀行出身であることにふれておいた。出版社のM&Aとその後の経過を知ると、それが本当に魑魅魍魎としていることに気づかされる。
このような出版状況下において、そうした事例はいくつもあると推測される。
12.光文社は女性ファッション誌『JJ』を21年2月で定期刊行を終了。
同誌は1975年創刊で、若い女性のみならず、服飾関連バイヤーたちの必読誌でもあった。
6のアパレルの大量閉店と必然的に結びついているはずで、それは女性誌全体にも及んでいくのかもしれない。
13.「朝日歌壇」(10/25)にまたしても一首を見つけたので引いておく。
硝子戸をのぞけばいつも背表紙が
手まねきしていた三月書房 (大和郡山市 四方 護)
その後の「硝子戸」の向こうはどうなったのであろうか。
6月に閉店したはずの「三月書房が店を開けてる?」という記事も見出せる。
14.アメリカで三島由紀夫写真集 『男の死』" The Death of a Man ”が出されているようだ。
これは『薔薇十字社とその軌跡』(「出版人に聞く」シリーズ10で、内藤三津子が未刊に終わった写真集として語っていた一冊である。三島は遺言のように、必ず出してほしいと言い残していたが、『底本三島由紀夫書誌』を出すことを優先したために、未刊に終わってしまった。
どのような経緯があってのアメリカでの出版なのかは詳らかではないが、半世紀が経っての刊行であるだけに、何らかの事情も潜んでいるにちがいない。
15.論創社HP「本を読む」〈57〉は「岡本太郎とマルモル・モース」です。
『近代出版史探索Ⅳ』は10月上旬刊行されました。