20年11月の書籍雑誌推定販売金額は949億円で、前年比5.6%減。
書籍は489億円で、同9.1%減。
雑誌は460億円で、同1.7%減。
その内訳は月刊誌が386億円で、同2.1%減、週刊誌は74億円で、同0.5%増。
返品率は書籍が34.3%、雑誌は38.9%で、月刊誌は37.9%、週刊誌は43.4%。
コロナ禍の中にある出版物推定販売金額は見えにくい。それは出版科学研究所の出版物推定販売金額が、取次出荷金額から返品金額を引いたものであることに加え、まさに干天の慈雨ともいうべき『鬼滅の刃』が重なっているからだ。
それに11月は書店の開店閉店がいずれも15店で、近年では少なく、TSUTAYA桑名店の600坪という大型店の閉店はあっても、ナショナルチェーンの大型店の出店はない。
これらの動向も21年へとつながっていくのだろう。
1.出版科学研究所による20年1月から11月までの出版物販売推移金額を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | |||
(百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | |
2020年 1〜11月 | 1,108,827 | ▲1.9 | 610,899 | ▲1.7 | 497,928 | ▲2.1 |
1月 | 86,584 | ▲0.6 | 49,583 | 0.6 | 37,002 | ▲2.2 |
2月 | 116,277 | ▲4.0 | 71,395 | ▲3.2 | 44,882 | ▲5.2 |
3月 | 143,626 | ▲5.6 | 91,649 | ▲4.1 | 51,977 | ▲8.1 |
4月 | 97,863 | ▲11.7 | 47,682 | ▲21.0 | 50,181 | ▲0.6 |
5月 | 77,013 | 1.9 | 42,383 | 9.1 | 34,630 | ▲5.7 |
6月 | 96,982 | 7.4 | 48,978 | 9.3 | 48,004 | 5.5 |
7月 | 92,939 | ▲2.8 | 44,755 | ▲7.0 | 48,184 | 1.4 |
8月 | 84,072 | ▲1.1 | 43,369 | 4.6 | 40,704 | ▲6.5 |
9月 | 118,382 | 0.5 | 68,555 | 0.3 | 49,827 | 0.8 |
10月 | 100,099 | 6.6 | 53,643 | 14.0 | 46,4577 | ▲0.8 |
11月 | 94,989 | ▲5.6 | 48,908 | ▲9.1 | 46,081 | ▲1.7 |
20年11月までの書籍雑誌推定販売金額は1兆1108億円、前年比1.9%減である。17年は6.9%、18年は5.7%、19年は4.3%のいずれも減だったことに比べれば、マイナス幅は最も小さいといえる。
この1.9%減を19年の販売金額1兆2360億円に当てはめてみると、234億円のマイナスで、かろうじて1兆2000億円台をキープできるかもれない。
それゆえに12月の販売金額次第ということになるが、どうなるだろうか。
2.日販GHDの中間決算は連結子会社34社の売上高2428億6100万円で、前年同期比3.2%減。
だが営業経常利益は30%以上増、純利益は2倍以上となる減収増益の中間決算。
「取次事業」売上高は2217億1700万円、同3.8%減、営業損失は3100万円で赤字。
「小売事業」売上高は308億9600万円、同1.6%増、営業利益は2億8100万円、同180%増。
3.トーハンの中間決算は連結子会社28社の売上高1942億9500万円で、前年同期比2.4%増。
営業経常利益、純利益も大幅増で、14年ぶりに増収増益。
トーハン単体売上高は1811億8400万円、同1.7%増だが、「取次事業」は赤字。
4.日教販の決算は売上高276億8100万円、前年同期比3.9%増。
営業、経常、当期利益ベースでも増益で、増収増益。
売上高内訳は「書籍」186億2000万円、同2.8%減。
「教科書」80億1600万円、同23.6%増。「教科書」は小学校教科書の改訂により、教員向け指導書が大幅に伸長。
取次のコロナ禍の中での中間決算、及び決算を並べてみた。
日販やトーハンもコミックスは大きくプラスとなっているが、書籍、雑誌はいずれもマイナスで、取次事業の赤字が続いていることに変わりはない。いずれにせよ、下半期も含めての決算を待って、コロナ禍の中の日販とトーハンの実像を確認するしかないだろう。
日教販も書籍はマイナスなので、いわれるほどに学参の売れ行きがよかったということにならないかもしれない。ただ返品率は14.5%なので、取次としては健全である。やはり取次の生命線とは低返品率に他ならないのだから。
5.紀伊國屋書店の決算は連結売上高1143億5800万円で、前年比5.7%減だが、3年連続黒字決算。
その内訳は「店売総本部」が437億3600万円、同12.4%減、外商の「営業総本部」が483億8500万円、同2.8%増。「海外」が155億8800万円、同15.9%減。
単体売上高は981億4100万円、同4.0%減だが、こちらは13年連続黒字決算。
6.有隣堂の決算は売上高514億9700万円、前年比4.1%減、営業利益は2億5700万円、同45.3%減、経常利益は1億6700万円、同53.3%減、当期純損失は3億6000万円で、4年ぶりの損失決算。
7.トップカルチャーの決算は売上高301億2700万円、前年比3.4%減、営業利益は4億3600万円、同150.6%増、経常利益はコロナウイルス休業受取保証金6300万円もあり、4億7600万円、同208.6%増、純利益は3億7100万円、同173.1%増。
75店(古本市場トップブックス店を含む)で、書籍売上高は163億900万円、同2.4%増。
新社長は楽天出身の清水大輔取締役が就任。
8.三洋堂HDの中間決算は売上高102億300万円、前年同期比7.1%増で、営業、経常、純利益がともに黒字となり、赤字を見こんでいた通期業績予想を黒字に修正。
これらの書店の決算も、都市型書店、複合郊外店の相違はあるけれども、やはり取次と同様にコロナ禍の中での決算、及び中間決算といえよう。
休業、休業補償、『鬼滅の刃』に象徴されるコミックス売上の大幅増、学参や児童書特需などがそれぞれに反映され、これまでとは異なる売上高や利益、赤字や黒字が発生したと見なせよう。それゆえに非常時のものと考えておくべきだろう。
9.文教堂の株価が90円を割った。
本クロニクル150で、文教堂の「事業再生ADR 手続き」による存続と上場維持などを伝えてきた。
その10月の株価は120円を前後していたが、11月に入って落ち始め、12月には90円を割り、80円台になっている。
これは「事業再生ADR手続き」が終わるまで保たれていた株が売られ始めたということなのか、それとも市場がまったく評価していないということなのか、さらに下がり続けた場合、どうなるのだろうか。
これは本クロニクル143の文教堂のところを見てしいが、18年5月は414円、11月は239円、19年11月159円、20年3月は95円だった。
odamitsuo.hatenablog.com
10.長野県小諸市の竹澤書店が自己破産。
竹澤書店は1901年創業の老舗、JR小諸駅前の商店街に位置し、教科書販売も手がけていた。
2002年には年商1億6300万円を計上していたが、18年は4800万円に落ちこみ120年の歴史に幕を閉じることになった。負債は1億900万円。
アルメディアの『ブックストア全ガイド96年版』を確認してみると、当時の竹澤書店は40坪、取次はトーハンと栗田である。
その後の2001年にはおそらく栗田帖合で郊外店を出店し、数年は売上を伸ばしていたものの、ほどなく売上は落ち続け、自己破産を選択するしかなかったのだろう。帖合が楽天BNであろうから、それも影響しているはずだ。
それでもここまで延命できたのは、老舗ゆえに資産があったからだろうし、多店舗展開しなかったことによっていると思われる。
11.大垣書店はブックスタマの小作店、東大和店、所沢店の運営業務を受託。
これは木戸和成元ブックスタマ事業本部店舗管理統括兼商品政策担当を個人事業主とし、3店舗の運営を委託するものとされる。
大垣書店にとっては「直営店はない業務委託店」で、3店舗の販売データは大垣書店グループの実績として計上する。
なおブックスタマの福生店、武蔵小山店、八王子店は従来通りブックスタマが運営する。
これはブックスタマの元幹部がこの3店舗を何らかの条件で継承し、その中取次を大垣書店が引き受けたということになるだろう。
やはりアルメディアの『ブックストア全ガイド96年版』を繰ってみると、ブックスタマは10店を数え、本クロニクル143の戸田書店、同146の自由書房、同150などの文教堂と並んで、1980年代以後の郊外店出店の雄であった。しかしそうした時代も終わったことを伝えていよう。
12.朝日新聞社の中間決算も出されている。
単体売上高は1027億円、前年比15.0%減、営業損益は87億円、純損益は408億円の赤字となった。
渡辺雅隆社長は退任を発表。
もちろんコロナ禍の影響も大だが、新聞離れが加速しているからだ。日本ABC協会によれば、9月の『朝日新聞』は497万部、同43万部減となっている。
『FACTA』(12月号)のジャーナリスト永井悠太朗「スマホ普及で高齢者『紙離れ』加速」は、60代のスマホ利用者が19年度は80%近くに達し、高齢者の「紙離れ」はさらに加速していくことを示唆している。
有料の新聞から無料のネットニュースへという流れは、スマホ利用98%超という20、30代、90%を超えている10、40代だけでなく、60代にまで及んでいくのは確実だ。その一方で、最も新聞を読んでいるとされる70代以上の人々は社会から退場していく。
これは新聞だけの現実ではなく、雑誌や書籍の現実でもあるのだ。
13.集英社の『鬼滅の刃』最終23巻が初版395万部で、ほぼ完売。
それに合わせ、集英社は12月4日の全国紙5紙の朝刊に4面にわたる全面広告を出稿した。これは出版広告としても初めてあろうし、出版物におけるコミックの奇蹟的売上を象徴するものだ。
前回と同じく、出版科学研究所の小売ベース金額で考えれば、12月4日は最終23巻だけで20億円以上の書店売上が生じたことになる。10月の週刊誌76誌全売上は82億円であるから、何とも恐るべき『鬼滅の刃』フィーバーというしかない。
しかしこれは前回も既述しておいたけれど、このような超ベストセラー現象が来年も繰り返される保証はないのだし、その反動が恐ろしい。
14.note は文藝春秋を引受先とする第三者割当増資を実施し、資本業務提携契約を締結する。
その目的は「クリエイターの発掘と育成」「新たなコミュニティの創出」「イベントでの協業」「社員交流」で、協力関係を強めていくとされる。
その目的としての「新たなコミュニティの創出」は、単なるnote=デジタルメディアと文春=プリントメディアのコラボを意味するのではなく、現在の出版業界において最も求められているものなのかもしれない。
20世紀までは出版社、取次、書店は出版物をめぐる共同体というニュアンスが残っていたが、21世紀に入ると、それはほとんど消えてしまったように思える。
21世紀を迎えてのドラスチックな生活の変容とパラレルに、出版物や読書の意味も変わってしまった。それは出版業界という古いコミュニティの崩壊を意味していよう。
だがここでいわれている「新たなコミュニティの創出」がどのようなものとして出現するのかはわからない。ただ菊池寛が1世紀前にイメージした『文藝春秋』的ユートピアでないことだけは確かであろう。
15.『ZAITEN』(1月号)が「オーナーも動き出した『光文社』でリストラ懸念」という記事を発信している。
本クロニクル150で、『JJ』の月刊発行の中止を伝え、それは他の女性誌にも及んでいくのではないかと書き、前回には文化出版局の『ミセス』として現実化したことを伝えたばかりだ。
光文社は20年売上高185億円で、実質的純損失は14億円で、今期はすでに第1四半期だけで、赤字額は11億円に達しているという。
この記事によれば、光文社のこの窮状に際し、筆頭株主の講談社の野間省伸社長が取締役会に出席し、苦言を呈すという「異例の事態」を迎えたようだ。
そして派遣社員の雇い止めも始まり、10年の50人の社員削減に続いて、またもやリストラが起きるのではないかとされている。
そういえば、同号の『ZAITEN』の「今月の一行情報」に「電子書籍に強みをもつ中堅出版社で販売低迷、経営の不振から従業員のリストラと給与の大幅削減が発表された模様」とある。これはどこなのか。
odamitsuo.hatenablog.com
16.アメリカの最大出版社ペンギンランダムハウス(PRH)が3位のサイモン&シュスター(S&S)を買収する計画が明らかになった。
買収金額は21億7500万ドルで、21年に計画は完了とされ、両社の合計売上高はアメリカ書籍出版市場の3分の1となり、ハードカバーフィクションシェア全体の5割に達するという。
その30億ドル近い売上高は2位のハーパーコリンズの2倍以上の規模となり、かつての「ビッグ5」から1社が支配的シェアを持つ「ビッグ1」の時代になろうとしている。
この計画がスムーズに進むのか、司法省などの規制当局の承認が下りるのか、予断を許さない状況にあると伝えられている。
だがそれはアメリカだけでなく、日本でも必然的に起きていくだろうし、実際にKADOKAWAの例を見れば明らかだ。それに音羽、一ツ橋グループでは水面下で様々に進められているようだし、取次に至っては前回書いたとおりだ。またそれは書店も同様だと思われる。
17.『選択』(12月号)が「WORLD情報カプセル」で、フランスの「アマゾンのいないクリスマス」というアマゾン不買運動の盛り上がりを伝えている。
それによれば、フランスの従来の反アマゾンの土壌に新型コロナウイルスの感染拡大が加わり、この間にアマゾンが4、5割も売上を伸ばしたとされ、「アマゾンが不公正に利益を得ている」という批判が噴出しているようだ。
日本のアマゾンのコロナ禍での出版物販売金額は公表されていないけれど、伸びていることは確実であろう。
「日本の古本屋」にしても、店売はまったくといっていい状態だが、ネット販売は初めて月商2億円を上回ったと伝えられている。
アマゾンのマーケットプレイスも同様だろうし、コロナとアマゾンとの間で、出版業界はどのような事態を迎えることになるのだろうか。
18.『新文化』(12/3)が「ここでしか売っていない出版物を」の大見出しで、50周年を迎えた小流通出版物書店「模索舎」のほぼ全面特集をしている。
様々なミニコミ紙には必ず「模索舎」取扱との表示がなされていたが、それも少なくなってきたのではないかと考えていたので、50周年を迎えたのは何よりだと思う。
だがあらためて考えてみると、最後に訪れたのは1980年頃で、ほとんど貢献していない。
数年前に創業者の五味正彦が亡くなり、本クロニクルでも追悼を記し、その際に模索舎の存続も確認した次第だ。
『アナキズム』(第7号)に榎本智至「1970・10→2020・10シコシコ/模索舎から半世紀」が掲載され、コロナ禍での模索舎営業のことがレポートされているので、こちらも読んでほしい。もちろん同誌も「模索舎」取扱いである。
19.牧村康正『ヤクザと過激派が棲む街』(講談社)を読了。
これは『実話ドキュメント』元編集長で、竹書房の社長も務めた牧村による新たな極道ジャーナリズムの誕生である。
1980年代のヤクザと過激派の「金町(山谷)戦争」を描いた一冊にして、エンツェンスベルガーの『政治と犯罪』(野村修訳、晶文社)を想起させる。
20.糸井重里、小堀鷗一郎『いつか来る死』(マガジンハウス)を読み終えた。
小堀の『死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)は読んでいたし、糸井が70歳を超えたことも承知していたので、こうした対談がなされることに驚きはなかった。
それよりもこのような一冊がマガジンハウスから出されたことに感慨を新たにした。私などの世代はマガジンハウスの前身の平凡出版の『平凡パンチ』創刊に立ち会い、初期の『ブルータス』なども読んできたので、これらの雑誌に関して、堀川正美の「夜になっても遊び続けよ」という詩の一節を体現したようなイメージが強かった。
だから前回『漫画 君たちはどう生きるのか』のベストセラーは似合わないと批判したのだが、ついにこのような一冊も出てしまった。それは糸井だけでなく、平凡出版と私たちの老いをも突きつけていることになる。
21.『近代出版史探索Ⅴ』は12月下旬に発売された。
論創社HP「本を読む」〈59〉は「『牧神』創刊号と小出版社賛助広告」です。