21年12月の書籍雑誌推定販売金額は1030億円で、前年比10.2%減。
書籍は541億円で、同2.0%減。
雑誌は489億円で、同17.8%減。
雑誌の内訳は月刊誌427億円で、同18.4%減、週刊誌は62億円で、同14.0%減。
返品率は書籍が30.0%、雑誌は38.5%で、月刊誌は37.2%、週刊誌46.2%。
雑誌売上の大幅なマイナスは前年同月に『鬼滅の刃』最終巻の初版395万部が発行され、『呪術廻戦』とともに、全巻が爆発的に売れたことによる反動である。
書店のコミックス売上は30%減とされている。
1.出版科学研究所による1996年から2021年にかけての出版物推定販売金額を示す。
年 | 書籍 | 雑誌 | 合計 | |||
金額 | 前年比(%) | 金額 | 前年比(%) | 金額 | 前年比(%) | |
1996 | 10,931 | 4.4 | 15,633 | 1.3 | 26,564 | 2.6 |
1997 | 10,730 | ▲1.8 | 15,644 | 0.1 | 26,374 | ▲0.7 |
1998 | 10,100 | ▲5.9 | 15,315 | ▲2.1 | 25,415 | ▲3.6 |
1999 | 9,936 | ▲1.6 | 14,672 | ▲4.2 | 24,607 | ▲3.2 |
2000 | 9,706 | ▲2.3 | 14,261 | ▲2.8 | 23,966 | ▲2.6 |
2001 | 9,456 | ▲2.6 | 13,794 | ▲3.3 | 23,250 | ▲3.0 |
2002 | 9,490 | 0.4 | 13,616 | ▲1.3 | 23,105 | ▲0.6 |
2003 | 9,056 | ▲4.6 | 13,222 | ▲2.9 | 22,278 | ▲3.6 |
2004 | 9,429 | 4.1 | 12,998 | ▲1.7 | 22,428 | 0.7 |
2005 | 9,197 | ▲2.5 | 12,767 | ▲1.8 | 21,964 | ▲2.1 |
2006 | 9,326 | 1.4 | 12,200 | ▲4.4 | 21,525 | ▲2.0 |
2007 | 9,026 | ▲3.2 | 11,827 | ▲3.1 | 20,853 | ▲3.1 |
2008 | 8,878 | ▲1.6 | 11,299 | ▲4.5 | 20,177 | ▲3.2 |
2009 | 8,492 | ▲4.4 | 10,864 | ▲3.9 | 19,356 | ▲4.1 |
2010 | 8,213 | ▲3.3 | 10,536 | ▲3.0 | 18,748 | ▲3.1 |
2011 | 8,199 | ▲0.2 | 9,844 | ▲6.6 | 18,042 | ▲3.8 |
2012 | 8,013 | ▲2.3 | 9,385 | ▲4.7 | 17,398 | ▲3.6 |
2013 | 7,851 | ▲2.0 | 8,972 | ▲4.4 | 16,823 | ▲3.3 |
2014 | 7,544 | ▲4.0 | 8,520 | ▲5.0 | 16,065 | ▲4.5 |
2015 | 7,419 | ▲1.7 | 7,801 | ▲8.4 | 15,220 | ▲5.3 |
2016 | 7,370 | ▲0.7 | 7,339 | ▲5.9 | 14,709 | ▲3.4 |
2017 | 7,152 | ▲3.0 | 6,548 | ▲10.8 | 13,701 | ▲6.9 |
2018 | 6,991 | ▲2.3 | 5,930 | ▲9.4 | 12,921 | ▲5.7 |
2019 | 6,723 | ▲3.8 | 5,637 | ▲4.9 | 12,360 | ▲4.3 |
2020 | 6,661 | ▲0.9 | 5,576 | ▲1.1 | 12,237 | ▲1.0 |
2021 | 6,803 | 2.1 | 5,276 | ▲5.4 | 12,079 | ▲1.3 |
21年の出版物推定販売金額は書籍が15年ぶりにプラスとなったこともあり、1兆2079億円、前年比1.3%減となり、ぎりぎりのところで1兆2000万円台を保ったことになる。
電子書籍は4662億円、同18.6%増で、紙と合算すると1兆6742億円、同3.6%増となっている。
しかし紙のほうの書籍はかろうじてプラスになったものの、雑誌は5000億円を下回る寸前のところまできている。
近代出版流通システムは雑誌をベースにして、書籍が相乗りするかたちで稼働してきた。それが2016年に逆転し、6年目を迎えたことになる。
もはや限界といっていい流通状況にあると思われるが、今年はどのように進行していくのであろうか。
2.日販とトーハンの12月29日から1月3日までの書店売上調査が出されている。
日販は総合で前年比6.2%減、トーハンは同1.4%減。調査は日販が1607店、トーハンが1519店。
取次のPOS実績によれば、21年下半期書店売上は続けてマイナスで、11,12月は二ケタ減となっている。
とりわけ12月のコミックとMM商品の落ちみは激しく、30~40%減となっている。コロナ巣ごもり需要とコミック神風バブルは終焉したと見なせよう。
もちろんオミクロン第6波が長期化した場合、再現も考えられるけれど、コロナ禍において、出版状況も想像以上に変わってしまったはずで、その只中へと22年の出版業界はドラスチックに突入していくと判断すべきであろう。
3.くまざわ書店の連結決算は総売上高450億2000万円、前年比7.2%増。創業以来の過去最高額。
純売上高は447億8000万円、同7.2%増、経営利益は14億円、同40.1%増。営業利益と当期純利益は非公表。
店舗数は228店、法人別ではくまざわ13店、くまざわ書店105店、神奈川くまざわ書店77店、東京ブックセンター開発25店、球陽堂(田園書房)6店、パペレーリア・イケダ(文具)15店。
前回のクロニクルで、CCCのFCで東証1部上場のトップカルチャーの売上高が264億円、純損失19億円であることを既述しておいた。
くまざわ書店はトーハン系列に移行して以来、増殖と膨張を繰返し、上場企業のトップカルチャーを上回る売上高に至ったことになる。しかも経常利益は公表しているにもかかわらず、営業利益と当期純利益は非公表なのは、コロナ巣ごもり需要とコミックバブルをふまえてのことで、実質的には赤字であるのかもしれない。
本クロニクル163において、やはり日販系列の文教堂が売上高187億円、営業利益3億円で、財務改善がなされつつあるとのリリースを引いておいたが、その後、株価も40円を下回り、またしても22年度第1四半期は赤字になったと伝えられている。
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4.三省堂書店の決算は3億5700万円の純損失。
コロナ禍によりターミナル店を中心とするマイナスが大きく影響したとされる。
前期は神保町本店の土地評価替の計上で、純利益23億円だった。
また神保町本店は建て替えのために3月下旬閉店予定だったが、5月8日まで延ばし、6月上旬解体開始予定。
赤字の中での本店の閉店と解体、25、6年には新たな神保町本店がお目見えするとのことだが、本当にその頃出版状況はどうなっているのだろうか。
折しも東急百貨店本店内のジュンク堂渋谷店の閉店も伝えられてきたし、大型書店状況も予断を許さないところまできているように思われる。
5.映画館「岩波ホール」が7月で閉店。
コロナ禍による急激な経営環境の変化を受け、劇場運営は困難との判断による。
同ホールは1968年に岩波書店社長の岩波雄二郎が多目的ホールとして創設し、74年には高野悦子総支配人のもとで、「エキプ・ド・シネマ」として、名作映画を上映し、65ヵ国271作品を手がけてきた。
2016年に破産した信山社(旧岩波ブックセンター)と岩波ホールは隣接し、岩波文化を象徴していたところがあった。
しかし岩波ホールも閉館し、三省堂も解体に入ることからすれば、神田の風景も変わってしまうしかない。後はどうなるのか。
6.昭文社HDは連結子会社の昭文社の希望退職者を募集。
対象者は41歳以上の正社員で、退職日は3月31日。
19年2月に続く2度目の希望退職の実施で、前回は80人の募集に対し、96人が応募。
昭文社HDの22年3月期連結予想は売上高53億円、純損失8億6000万円とされていたが、希望退職者募集による影響は避けられないだろう。
コロナ禍によって、旅行需要がほとんど消失し、主要ガイド「まっぷる」が苦戦したことが大きいとされる。
しかしそれは旅行ガイド書を刊行している他の出版社にも共通しているはずで、やはり本クロニクル155で、ダイヤモンド・ビッグ社の「地球の歩き方シリーズ」の学研プラスへの譲渡にも言及している。
そうしたコロナ禍における旅行ガイドブックの不振に加え、もはや紙のガイドや地図もデジタル化され、これから書店の地図ガイド売場も縮小化されていくであろう。
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7.ディスカヴァー21は純損失2億7800万円の決算を発表。
ディスカヴァー21は大手取次を経由しない書店との直取引で返品率も低く、『ニーチェの言葉』などの相次ぐベストセラーによって好調だと目されていたが、コロナ禍もあってなのか、いきなり赤字となってしまったようだ。
取次を介在していない独自の直取引、それに基づく在庫、データ管理下においても、流通はともかく、書店販売は難しくなっていることを示していよう。
直取引でないにしても、同様の流通によっている多くの小出版社の状況はどうなっているのだろうか。
8.看護の科学社が破産。負債は1億600万円。
本クロニクル161で、同社が1976年に設立され、月刊誌『看護実践の科学』の他に、看護、医療、介護書などを刊行していたが、法的整理に入ったことを既述しておいた。だが破産するしかなかったようだ。
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9.講談社の女性誌『with』は3月発売の5月号をもって、適時刊行へと移行する。
今後はウェブサイト「with Online」を中核とし、従来の紙版に加え、次世代のコミュニティとサービスを伴う次世代事業モデルを構築するとしている。
『with』の創刊は1981年で、光文社の『cancan』も同様だった。それに先行して、75年には光文社の『JJ』、77年には平凡出版の『クロワッサン』、集英社の『モア』、78年には婦人生活社の『素敵な女性』、後の83年には集英社の『LEE』、青春出版社の『SAY』、講談社の『ViVi』などが創刊され、まさに70年代後半から80年代前半にかけては女性ビジュアル誌創刊のディケードであった。
それからすでに半世紀近くを経ているし、このようにして女性ビジュアル誌の時代も終わっていくのだろう。
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10.小学館と演劇出版社は歌舞伎専門誌『演劇界』を4月号で休刊。
『演劇界』は演劇出版社によって1943年に創刊され、2007年に同社は小学館の傘下に入っていたが、継続は困難となっていた。
『演劇界』は1907年創刊の『演芸画報』の系譜を引く商業演劇と歌舞伎を主とする専門雑誌であった。
残念ながらすでに役割を終えたというしかない。
ただ知人が同誌による演劇評論家だったので、次のメディアが見つけられるだろうかと気になる。
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11.トーハンとメディアドゥは宝島社と共同で、人気占い師シウマの『あなたの居場所がすべて開運スポットになる琉球秘術』NFTデジタル特典「デジタル御守」付特装版を販売すると発表。
NFTデジタル特典とはブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)を活用し、ユーザーが購入した出版物などの特典として入手できる、資産的価値を持つデジタルコンテンツの総称とされる。
もちろん不案内で、どのようなものかわからないけれど、このトーハン、メディアドゥ、宝島社のトリオのNFTデジタル特典の販売が成功すれば、続々と出されていくことになろう。
『文化通信』(1/1)にメディアドゥの藤田恭嗣社長へのインタビューが掲載されているが、本クロニクル153ですでに一度取り上げている。必要であれば、同じインタビュー内容ではないし、メディアドゥ史も付されていることもあり、ダイレクトに参照されたい。
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12.『人文会ニュース』(No.139)が巻頭の「15分で読む」において、中条省平の「現代社会とマンガ」を掲載している。
中条文は適格にして簡略な戦後マンガ史であり『マンガの論点』(幻冬舎新書)などの著者にふさわしく、『人文会ニュース』の読者にも、ここで挙げられたコミックを再考してほしいと思う。
それに加え、1973年創刊の『人文会ニュース』がようやく正面からコミックを取り上げたことを寿ぎたい。続けての三崎絵美・信濃潔の「マンガ専門図書館の現場から」も時宜を得ている。
実は私も『近代出版史探索外伝』に最も長い『ブルーコミックス論』を収録しているし、中村文孝との対談『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』(近刊)でも公共図書館とコミックの問題をふれているからだ。
それにまた論創社HP「本を読む」では続けて「バンド・デシネ」にふれたので、次回からは日本の「バンド・デシネ」的コミックに関して連載するつもりでいることを付け加えておこう。
13.『フリースタイル』(50)が恒例の特集「THE BEST MANGA 2022このマンガを読め!」を組んでいる。
今回の「BEST10」は一冊も読んでおらず、そこでただちに1の松本大洋『東京ヒゴロ』(小学館)を買い求めた次第だ。
松本の前作『ルーブルの猫』はあまりかわなかっただけに、『東京ヒゴロ』は現在のコミック出版状況と重なる登場人物の描き方に関して、題材、ストーリーともに、魅せられた。この作品が12ではないけれど、戦後コミック史を踏まえていることは明らかだ。どおくまんの『嗚呼!!花の応援団』からの引用も見られて楽しい。出版関係者必読のコミックとして推奨したい。
それはともかく、編集・発行人の吉田保が「from EDITOR」で、「ユーザー」という言葉について書いているが、まったく同感である。私も図書館の「ユーザー」に言及したばかりだからだ。
吉田は「ユーザー」と「ファン」は異なり、前者には本や映画に対する「リスペクト」が欠けているのではないかと述べているけれど、それは図書館関係者も同様のように思われる。
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14.『現代思想』(2022・1)も特集「現代思想の新潮流 未邦訳ブックガイド30」を組んでいる。
30年以上前に、やはり『現代思想』(1986・4)で特集「未邦訳ブックガイド 現代総の22冊」が編まれ、そこにはフーコー『性の歴史』、ドゥルーズ=ガタリ『千のプラトー』、ベンヤミン『パサージュ論』などが並んでいた。
幸いにして、現在ではそれらのほとんどの邦訳を見ているが、今回の特集の翻訳はどれほど読めるであろうか。
それでもマーティン・ヘグルンド『この生』(Martin Hägglund. This Life:Secular Faith and Spiritual Freedom , Pantheon , 2019)は身近なところで翻訳が始められていくようなので、意外と早く読むことができるかもしれない。
15.ジャーナリスト、作家の外岡秀俊が亡くなった。
私は中原清一郎『未だ王化に染はず』(福武書店、1986年、小学館)に関して、拙稿「『未だ王化に染はず』の真の作者は誰か」(『古本探究』所収)で、それが外岡の作品であることを明らかにしている。
それが彼にどのような影響をもたらしたかは詳らかにしないが、作家として『未だ王化に染はず』のテーマを深化させていったならば、まったく別の地平へと至ったように思えてならない。68歳という現在にあっては早すぎる死が惜しまれる。
16.未知の女性名義での訃報が届いた。
開けてみると、叔母竹内幸子、83歳にて他界の知らせであった。
竹内は三笠書房創業者竹内道之助の夫人で、拙稿「竹内道之助『わが生』」(『古本屋散策』所収)でふれた彼の遺稿集の刊行者である。
面識はなく、電話で話しただけであったけれど、『わが生』を拝借し、読むことができた。
彼女の死もあり、今年は引き延ばしてきた戦前の三笠書房史にとりかからなければと思う。
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17.『近代出版史探索Ⅵ』は3月刊行予定。
中村文孝との対談『私たちが知っている図書館についての二、三の事柄』はゲラも出てきたので、4月中に刊行できればいいのだが。
論創社HP「本を読む」〈72〉は12.13と関連して、「ダヴィッド・プリュドム『レベティコ』」です。
本を読む #072〈ダヴィッド・プリュドム『レベティコ』〉 | 論創社