22年7月の書籍雑誌推定販売金額は745億円で、前年比9.1%減。
書籍は397億円で、同6.9%減。
雑誌は348億円で、同11.5%減。
雑誌の内訳は月刊誌が284億円で、同13.4%減、週刊誌は63億円で、同2.4%減。
返品率は書籍が41.8%、雑誌は43.8%で、月刊誌は44.1%、週刊誌は42.7%。
6月に続き、返品率は40%を超えるカルテットで、もはや限界のところまできている。
これから秋に向かっていくが、出版業界はどうなっていくのだろうか。
1.出版科学研究所による22年上半期の電子出版市場を示す。
2021年 1~6月期 | 2022年 1~6月期 | 前年同期比(%) | 占有率 (%) | |
電子コミック | 1,903 | 2,097 | 110.2 | 25.2 |
電子書籍 | 231 | 230 | 99.6 | 2.8 |
電子雑誌 | 53 | 46 | 86.8 | 0.6 |
電子合計 | 2,187 | 2,373 | 108.5 | 28.5 |
上半期電子出版市場は2373億円で、前年比8.5%増。電子コミックは2097億円、同10.2%増だが、電子書籍、電子雑誌はいずれもマイナスで、下半期もコミック次第ということになる。
上半期の出版物シェアは電子出版28.5%、紙書籍42.3%、紙雑誌は29.2%である。
またインプレス総合研究所の『電子書籍ビジネス調査報告書2022』によれば、21年の電子出版販売金額は5510億円、同14.3%増となっている。
内訳はコミック4660億円、同16.4%増、書籍は597億円、同7.3%増、雑誌は253億円、同3.9%減。コミックシェアは84.6%を占め、雑誌は4年連続マイナスである。
電子出版も22年の二ケタ成長は難しいように思われるし、成熟市場に向かっているのかもしれない。
2.『日経MJ』(8/10)の「第50回日本の専門店調査」が出された。
そのうちの「書籍・文具売上高ランキング」を示す。
順位 | 会社名 | 売上高 (百万円) | 伸び率 (%) | 経常利益 (百万円) | 店舗数 |
1 | カルチュア・コンビニエンス・クラブ (TSUTAYA、蔦谷書店) | 181,942 | ー | 8,104 | ー |
2 | 紀伊國屋書店 | 97,890 | ▲0.3 | 1,018 | 67 |
3 | 丸善ジュンク堂書店 | 69,966 | 4.1 | ー | ー |
4 | 有隣堂 | 66,866 | ー | 806 | 50 |
5 | 未来屋書店 | 48,547 | ▲3.3 | 23 | 241 |
6 | くまざわ書店 | 44,775 | 7.2 | ー | 240 |
7 | トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA) | 25,727 | ▲12.7 | 257 | 70 |
8 | 精文館書店 | 222,094 | 6.3 | 649 | 52 |
9 | ヴィレッジヴァンガード | 21,748 | ▲5.5 | 340 | ー |
10 | 三省堂書店 | 19,960 | 0.6 | ー | 22 |
11 | 三洋堂書店 | 18,792 | ー | ▲31 | 76 |
12 | 文教堂 | 17,687 | ▲12.4 | 385 | 99 |
13 | リブロプラス (リブロ、オリオン書房、あゆみBOOKS他) | 16,535 | ー | ▲85 | 87 |
14 | リラィアブル(コーチャンフォー) | 14,136 | ▲10.3 | 679 | 10 |
15 | 大垣書店 | 13,032 | 8.8 | 161 | 43 |
16 | キクヤ図書販売 | 10,799 | 8.6 | ー | 38 |
17 | ブックエース | 8,992 | ▲6.5 | 187 | 32 |
18 | オー・エンターテイメント(WAY) | 8,958 | ▲9.3 | 105 | 67 |
19 | 勝木書店 | 5,481 | ▲11.4 | 159 | 15 |
20 | 成田本店 | 1,258 | ▲6.7 | ー | 4 |
専門店調査は23業種に及び、そのうちの19業種は増収だが、「書籍・文具」は「HC・カー用品」「生鮮」「紳士服」と並んで減収となっている。それは本クロニクルでもトレースしてきたように、これからも続くであろう。
その中で前回もふれたが、CCCの売上高と経常利益は異常というしかない。売上高1819億円に対し、経常利益81億円で、これは本クロニクル160を見てほしいが、前年は2982億円に対し、経常利益は42億円だったのである。
紀伊國屋書店が売上高978億円に対し、経常利益が10億円であることに比べて、いくら連結決算、経常利益とはいえ、不可解だ。
そのことはCCCのFCであるトップカルチャーやオー・エンターテインメントの売上高から見ても同様だし、日販、MPD、FC書店へとリンクしていく問題のようにも思われる。
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3.東京日販会と千葉日販会が解散。
『出版状況クロニクルⅥ』で、埼玉日販会の解散を伝えたが、東京と千葉日販会も続くことになった。
原因はコロナ禍と会員書店数の減少に他ならない。
2003年に書店は2万店を超えていたが、20年には1万2千店となり、22年時点ではほぼ半減してしまった。
それは日書連加盟書店数にも顕著で、21年には3000店を下回り、2987店であり、すでに栃木県と山口県は脱退している。日販会ではないけれど、こちらのほうも続く県が出てくるだろう。
このような書店状況下において、かつての恒例であった大手出版社の報奨金付大型企画と書店の外商の結びつきによる大量販売はもはや成立しなくなってしまった。
だが現在になって考えると、それらのバブル大型企画も書店が元気な時代の産物だったとわかる。その例をひとつだけ挙げれば、1980年代の集英社『篠山紀信シルクロード』全8巻で、これは日本が送りだした最強の写真集として推奨できよう。
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4.東京昭島市の井上書店(NET21井上昭島店)が店舗営業を終了し、今後はNET21に在籍しながら、教科書取扱店として営業を継続。
井上昭島店に関連してだと思われるが、『新文化』(8/11)が「NET21新刊指定配本35出版社に拡大」との大見出しで、一面特集を組んでいる。
本クロニクルで何度もNET21にふれてきたが、2001年に「共同仕入れ」と「報奨金獲得」などを目的として設立され、現在は22法人・28店舗が加盟している。今野英治社長は今野書店、田中淳一郎会長は恭文堂が担っている。帖合は楽天BN。
特集の内容は35社に及ぶ新刊指定配本の協力で、その例として筑摩書房の場合が具体的に言及されている。
しかしそこに示されている配本問題もさることながら、長引くコロナ禍の中での書店環境が、かつてない危機的局面を迎え、消費者の購買意欲は下がり、客足の減退は痛切で、「今後、書店をどう続けていくか、見えてこないほど厳しい状況」だという。
NET21の多くの加盟書店でも売上低迷に歯止めが利かない苦境にあるとされ、その中で井上昭島店の店舗営業が終了したことになる。
5.虎の穴は運営書店「とらのあな」のうちの秋葉原店A、新宿店、千葉店、なんばA店、梅田店の閉店を発表。
国内の「とらのあな」は再出店予定の名古屋店も見合わせたことで、池袋店だけとなる。
『出版状況クロニクルⅥ』で、コロナ禍状況下の「とらのあな」の続く閉店状況にふれてきたが、ついに池袋店だけになってしまったことになる。
コロナ禍前には同人誌、コミックを中心とする「とらのあな」は全国展開をはかって、勢いのある書店として知られていた。本当の書店の栄枯盛衰も激しい。
『日経MJ』(8/29)が「とらのあな」を一面レポートしている。
6.ローソンと日販の「LAWSON マチの本屋さん」ブランド2号店が「ローソン碧南相生町三丁目店」(愛知・碧南市)としてオープン。80坪で、本売場は12坪。
本クロニクル158で、埼玉・狭山市の1号店のオープンを伝えたが、2号店まで1年以上経っていることからすれば、それほどの成果は上がっていないと見なすべきだろう。
それからこのブランドは既存のローソン店の増床リニューアルであるので、投資コストに対して、出版物売上の採算が難しいのではないだろうか。
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7.三洋堂HDは子会社の保険代理業三洋堂プログレが業務スーパーなどの神戸物産とフランチャイズ契約を結び、ビュッフェ事業「神戸クック・ワールド・ビュッフェ」に参入する。
愛知、各務原市のイオンタウン各務原鵜沼内に1号店、福井市のパリオシティ福井店内に2号店を続けてオープン。
出店形態は既存店併設ではなく、単独出店をベースとする。
8.日販と日販GHDは日清紡HDと「City Farming事業」の実証実験を始める。
これは新鮮ないちごが収穫できる小型設備植物工場で、生活空間に貸出サービスする。
文喫など3店舗で行なう。
9.MPDは神田税務署から酒類販売業免許を受けた。
各種の酒類の卸売と食雑貨とを取り扱い、酒類販売業免許を持つTSUTAYA加盟店に卸を始める。
7から9は書店や取次の新たな事業への参入、試みというとになるが、もはや書店でも取次でもない。
このようにして、本や雑誌という出版物は背後に追いやられていくのだろう。
10.アマゾンは年内に全国18ヵ所のデリバリステーション(DS)を新設。
青森、岩手、秋田、長野、徳島、香川、愛媛、高知、熊本、沖縄の10県は初めての開設で、これによりDSは国内で45拠点を超える。
DSは配送に特化した物流拠点で、フルフィルメントセンターから出荷された梱包済商品を受けつけ、仕分けする。
この増設で、北海道を除く46都道府県都市部は雑誌や書籍などの商品が翌日配送されることになる。
『日経MJ』(7/27)の「21年度小売業調査」によれば、アマゾンは売上高2兆5331億円で、セブン&アイHD、イオンに続く第3位を占め、前年比15.9%増とされる。もちろん通販部門では圧倒的首位を占める。
今回のDSの新設で、アマゾンの次年度の成長も確実であろう。
11.小学館、集英社、KADOKAWAは海賊版サイト「漫画村」の運営者に総額19億円2960万円の損害賠償を提訴。
12.小学館はネタバレサイト「漫画ル」と「KOREWATA」の2件に法的措置をとり、それぞれの運営者は県警や警視庁に書類送検された。
11の「漫画村」による被害額は推計3200億円とされ、それに加えて、「漫画村」は海賊版サイトの定着と成長を促したとされる。
前回も中国の海賊版サイト「漫画バンク」の運営者の摘発と罰金刑60万円を既述しておいたが、それもあって、今回の19億円の損害賠償となったのである。
12のネタバレサイトはマンガのセリフ、風景、場面展開などを公開し、「文字の海賊版」と呼ばれている。
これらの海賊版サイトを出版社の攻防はまだまだこれからも続いていくだろう。
13.シンコーミュージックのギター雑誌『GiGS』が休刊。
1989年創刊で、1990年代の全盛期には20万部に及んでいたが、現在は3万部と低迷していた。
14.大洋図書の『メンズナックル』が休刊。
2004年にミリオン出版から創刊され、18年にミリオン出版が大洋図書に吸収合併で引き継がれ、刊行されていた。
『近代出版史探索』で、近代の雑誌の誕生が「趣味の共同体」を背景にしていたことを繰返し言及してきた。
これらの雑誌の休刊はそのような趣味の時代も終わりつつあることを示していよう。
15.ニューヨークで書店の主催する講座で、サルマン・ラシュディが刺された。
ラシュディは1988年に『悪魔の詩』(五十嵐一訳、新泉社)を発表し、89年にホメイニから死刑宣告が出され、その呪縛がまだ続いていたことになる。
日本でも『悪魔の詩』は新泉社から翻訳出版され、トラブルも生じていたし、筑波大学助教授の訳者も殺害され、その事件は2006年に時効となっている。
フェティ・ベンスラマ『物騒なフィクション―起源の分有をめぐって』(西谷修訳、筑摩書房、1994年)を読み直さなければならない。
『悪魔の詩』の書店販売に関しては、今泉正光『「今泉棚」とリブロの時代』(「出版人に聞く」1)を参照されたい。
16.『風船舎古書目録』第16号が届いた。
特集は「今日は帝劇、明日は三越、明後日は・・・。偶発的東京名所案内」で何と550ページに及んでいる。
まさに読むべき「古書目録」といっていいだろうし、東京の各区別のアンソロジーでもある。
近代出版史からいえば、これほど多くの全集などの内容見本の掲載は見たこともない。
私も早速注文したがうまく当たるだろうか。
fusensha.ocnk.net
17.中村文孝との対談『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』は好評発売中。
重版できればよいのだが。
今月の論創社HP「本を読む」〈79〉は「東考社と小崎泰博『幻の十年』」です。