23年1月の書籍雑誌推定販売金額は797億円で、前年比6.5%減。
書籍は474億円で、同7.0%減。
雑誌は323億円で、同5.8%減。
雑誌の内訳は月刊誌が266億円で、同3.3%減、週刊誌が56億円で、同16.0%減。
返品率は書籍が32.8%、雑誌が41.8%で、月刊誌は41.3%、週刊誌は44.3%。
最悪に近い前年マイナスと返品率で、23年が始まったことになる。
学参期以後の取次と書店の動向がどうなるのか、それが焦眉の問題であろう。
韓国映画『名もなき野良犬の輪舞』に「人を信じるな、状況を信じろ」というセリフがあった。
23年はどのような出版状況へと向かっていくのか、注視し続けなければならない。
1.出版科学研究所による22年度の電子出版市場販売金額を示す。
年 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 前年比 (%) |
電子コミック | 882 | 1,149 | 1,460 | 1,711 | 1,965 | 2,593 | 3,420 | 4,114 | 4,479 | 108.9 |
電子書籍 | 192 | 228 | 258 | 290 | 321 | 349 | 401 | 449 | 446 | 99.3 |
電子雑誌 | 70 | 125 | 191 | 214 | 193 | 130 | 110 | 99 | 88 | 88.9 |
合計 | 1,144 | 1,502 | 1,909 | 2,215 | 2,479 | 3,072 | 3,931 | 4,662 | 5,013 | 107.5 |
22年の電子出版市場は5013億円で、前年比7.5%増。それらの内訳は電子コミックが4479億円、同8.9%増。電子書籍446億円、同0.7%減、電子雑誌は88億円、同11.1%減。
電子コミックの成長は21年と比較し、半減し、緩やかになってきているが、占有率は89.3%に及び、23年は90%を超えるであろう。
それに対し、電子書籍は500億円に達するかと思われたが、マイナスに転じ、成長は止まったと考えられる。しかし電子雑誌のほうは4年連続二ケタ減で、最も占有率が高い「dマガジン」も会員数の下げ止まりが見られないし、100億円に届くのも難しい状況にある。
やはり今後の電子出版市場もコミック次第ということになろう。それに22年出版状況として特筆すべきは、電子出版が雑誌販売額の4795億円を上回ったことで、23年度には書籍販売額をも超えてしまうかもしれない。
2.同じく出版科学研究所の2011年から22年にかけての書籍雑誌販売部数の推移を挙げておく。
年 | 書籍 | 雑誌 | ||
販売部数 | 増減率 | 販売部数 | 増減率 | |
2011 | 70,013 | ▲0.3 | 198,970 | ▲8.4 |
2012 | 68,790 | ▲1.7 | 187,339 | ▲5.8 |
2013 | 67,738 | ▲1.5 | 176,368 | ▲5.9 |
2014 | 64,461 | ▲4.8 | 165,088 | ▲6.4 |
2015 | 62,633 | ▲2.8 | 147,812 | ▲10.5 |
2016 | 61,769 | ▲1.4 | 135,990 | ▲8.0 |
2017 | 59,157 | ▲4.2 | 119,426 | ▲12.2 |
2018 | 57,129 | ▲3.4 | 106,032 | ▲11.2 |
2019 | 54,240 | ▲5.1 | 97,554 | ▲8.0 |
2020 | 53,164 | ▲2.0 | 95,427 | ▲2.2 |
2021 | 52,832 | ▲0.6 | 88,069 | ▲7.7 |
2022 | 49,759 | ▲5.8 | 77,132 | ▲12.4 |
これまで販売金額と販売部数の双方を引くのは煩雑でもあり、主たる出版データは前者によってきた。
だが『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』で示しておいたように、図書館貸出冊数推移との比較、今後の参照データでもあるので、ここで表化しておく。
またそれは22年の販売部数が書籍は5.8%、雑誌は12.4%と、この12年間のうちで最大のマイナスとなっているからだ。
実際に部数も書籍は7億冊から5億冊、雑誌は20億冊から8億冊をわりこんでしまい、書籍にしても雑誌にしても、まったく下げ止まりは見られず、まだ減少していくだろう。
本クロニクルで繰り返し日販、トーハンの取次と書店事業の双子の赤字を指摘してきたが、23年はそれがさらに加速していくことは確実で、書籍雑誌販売冊数の推移にもうかがえる。
3.名古屋市東区の正文館本店が6月末で閉店。土地、建物、駐車場も売却。
本社ビルの老朽化、建替資金の回収も困難であり、「本店を閉め、初代が戦前に購入しその後維持してきた土地を売却することはまさしく断腸の思いですが、将来のために決断致しました」とHPで公表。
本クロニクル168で焼津谷島屋の民事再生、同169で沼津市のマルサン書店仲見世店の閉店、同175で長野県の山根書店の閉店などを既述しておいたが、地方の老舗書店の閉店はこれからも続いていくだろう。
正文館本店の場合、店舗面積は400坪近くあったはずで、これに駐車場用地を加えれば、大きな会社資産である。その閉店、売却には経営者の「まさしく断腸の思い」がうかがえるが、「将来のために決断」するしかなかったと推測される。
しかしあえていえば、正文館のように先送りせずに、土地建物を売却できることは幸いだと見なせよう。そのような売却もできず、そのまま不良債権が塩漬けとなってしまっている例も多い。そこに老舗書店の閉店の難しさのひとつが潜んでいるのである。
4.三省堂書店の決算は最終損益が5億9400万円の赤字と発表。前期は3億3700万円の赤字。
本社ビル建替えに伴う神保町本店の閉店、池袋本店の縮小が大きく影響し、減収減益とされている。
だが本クロニクル170で丸善ジュンク堂、同171で八重洲ブックセンターの連続赤字を見てきたように、大型店のナショナルチェーンにしても、構造的な赤字に陥っていることは明白だ。
それに23年からは諸経費の上昇が迫っており、当然のことながら人件費も含まれるし、黒字化の困難はいうまでもあるまい。
再販委託制の行き詰まりと雑誌の衰退の只中で、書店は漂流するしかない状況を迎えていよう。
5.朝日新聞出版の月刊誌『Journalism(ジャーナリズム)』が3月で休刊。
2008年の創刊で、新聞、雑誌、放送、出版などの記事や論考を主としていた。
『朝日新聞』の三八ツ広告で見ることもあり、内容によって、年1、2回購入していたが、書店では売っていなかったので、新聞販売店を介してだった。ただそれらの号にしても、大学の紀要論文的印象が強く、あまり参考にならなかった記憶が残っているだけである。前回『週刊朝日』の5月休刊にふれ、雑誌出版社としての朝日新聞社=朝日新聞出版は終焉しつつあると書いておいたばかりだが、『Journalism』もそれに連なったことになろう。
それでも『週刊朝日』は1950年代に百万部を超えていた週刊誌で、その書評欄は数々のベストセラーを生み出したこともあり、『朝日新聞』の「歌壇」には休刊を惜しむ歌が多く寄せられたようだ。「佐佐木幸綱選」「永田和宏選」として、次の三首が挙げられているので、雑誌レクイエムとして引いておく。
スマホなど無かった時代の情報源「週刊朝日」が休刊するとふ
(川越市) 西村 健児
残念な「週刊朝日」休刊よ、東海林さだおの見開きもまた
(相馬市) 根岸 浩一
この国が軍拡に舵を切る最中「週刊朝日」休刊決まる
(磐田市) 白井 善夫
6.みすず書房の月刊誌『みすず』も8月号で休刊。
かつて『みすず』は出版太郎の『朱筆』連載もあったので、1970年代から欠かさず読んできた。当時、出版太郎が誰なのか定かでなかったが、『朱筆』『朱筆Ⅱ』が単行本化された後、彼が私のいうところの4翁の1人である宮田昇だったことが明らかになった。それに合わせて、告白すれば、宮田の『朱筆』を継承するつもりで、本クロニクルも始められたのである。実際に宮田も本クロニクルを読んでいた。
しかし21世紀に入ってからは恒例の1、2月合併号の「読書アンケート特集」に目を通すだけで、休刊にしても、23年の同号で知ったことになる。自著も訳書も何度か挙げてもらっているのに、定期購読してこなかったことを申し訳なく思う。
それにつけても『みすず』は秀逸なリトルマガジンで先駆的な出版社のPR雑誌だったと考えられるが、これが出版社のPR雑誌の休刊の始まりとなるかもしれない。
7.『月刊ポップティーン』も2月号で休刊。ウェブマガジン「ポップティーンメディア」へと移行する。
1980年に女子中高生を読者として主婦の友社から創刊され、94年に角川春樹事務所に移行し、2021年には同誌事業フォーサイド子会社ポップティーンへと譲渡されていた。
本クロニクル159で、角川春樹事務所とフォーサイドが資本業務提携し、後者が前者の株式15%を保有に至ったことを取り上げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)絡みで、よくわからない印象がつきまとうと述べておいた。
だがおそらくそのような流れの中で、休刊という事態に及んだのであろう。
かつて『ポップティーン』はギャル雑誌としてのセックス特集が過激だとされ、国会で問題になったこともあったが、もはや雑誌出版史においても記憶されていないようで、この度の休刊となった。
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8.男性誌『昭和40年男』『昭和50年男』、バイク誌『タンデムスタイル』『Lady's Bike』などを発行のクレタとクレタパブリッシングが破産し、ヘリテージがそれらの事業を譲受する契約を締結。
ヘリテージは2020年9月に設立され、21年9月に枻出版社の『Lightning』など7誌と飲食事業を譲受している。
クレタは1991年設立で、99年にエルピーマガジン社、後のクレタパブリッシングと提携している。クレタパブリッシングは2016年に売上高3億4500万円を計上していたが、21年には2億5000万円に減少し、今回の処置となった。
『昭和40年男』は書店で見かけていたので知ってはいたけれど、講読したことはなく、版元としてのクレタ、クレタパブリッシングも認識していなかった。
それはヘリテージも同様で、本クロニクル154で枻出版社の民事再生法に言及し、事業譲渡の1社として挙げておいたが、その業態も含め、詳細は全く判明していなかったし、その後の経過も報道されていなかった。
今回のクレタとクレタパブリッシングの破産で、再びヘリテージが登場してきたことになろう。
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9.毎日新聞社は4月から愛知、岐阜、三重の3県の夕刊の廃止を発表。
前回の本クロニクルで、『静岡新聞』の夕刊が3月末で廃止となることを伝えたが、全国紙と地方紙の違いはあるにしても、このように続く夕刊の休刊や廃止は、他の全国紙、地方紙に与える影響は大きく、今後はそのようなラッシュを迎えることになろう。書店ではないけれど、新聞販売店もどうなるのか。
19世紀から20世紀にかけては戦争と革命、それに併走する出版と新聞ジャーナリズムの時代であったと見なせよう。しかし21世紀に入り、戦争だけが残り、もはや革命は見失われ、出版、新聞ジャーナリズムは凋落してしまったことになるのだろうか。
10.『日本古書通信』(2月号)が「河野書店・河野高孝さんに古書業界この四〇年を聞く」を掲載している。
河野は全古書連理事長兼任となる東京古書組合理事長も務め、東京洋書会、明治古典会の運営にも携わってきた。
このインタビューは4ページに及ぶもので、40年間の古書業界の動向とその行方も語られ、それらは出版業界と併走するものだし、出版業界の人々にも一読を勧めたい。
またインタビューしている同誌の樽見博が巻末の「談話室」で、まったく変わってしまった、次のような町田のブックオフ事情にふれていた。
「商店街の至るところにブックオフの看板が並び、ブックオフの聖地のようなのには驚いた。創業者から経営者も変わったが、現在全国に六〇〇店以上あるようだ。ただ新古本屋という感じではなく、古着屋など様々なリサイクル品販売に変わっている。」本クロニクル168などで、ゲオの2nd STREET化にふれてきたが、ブックオフのほうもまさに「本離れ」し、業態転換を図っていくと思われる。そういえば、近隣のブックオフの閉店も続いているようだ。
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11.『新文化』(2/16)が「新星出版社『実用書』『営業』軸に100周年」との大見出しで、記念出版『ビジュアル大事典』を特集し、富永靖弘社長にインタビューしている。
所謂「実用書」出版社の一面特集はこれまでほとんど目にしていなかったし、『ビジュアル大事典』にしても、企画や価格にしても、これまでの新星出版社のコンセプトからはテイクオフしているし、1000円という書店報奨金も大手出版社に比肩するものである。
新星出版社は1923年に富永龍之助によって操業された冨永興文堂が前身だが、『出版人物事典』や『日本出版百年史年表』には見えておらず、『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』に記載されているだけだった。
それはやはり特集にあるように、「実用書」と「営業」に強い出版社であっても、「書店の平台」で売るべき本として、書店員が認識していなかったことにもよっている。
だが時代は変わったのだ。これを機会に全出版目録を出してほしいと願う。
12.『週刊読書人』(1/27)が「追悼 渡辺京二を偲ぶ」と題し、藤原良雄、新保祐司、小川哲生による鼎談を2面掲載している。
前々回の本クロニクルでも渡辺を追悼しているし、『朝日新聞』(2/11)や『選択』(2月号)でも追悼記事や特集を見ている。
屋上屋を架すようだが、たまたま3月にゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』(伊藤桂子訳、論創社)の新版が刊行されるので、そのことに関連して書いておきたい。
レガメーの「江ノ島のお茶屋の女」を表紙絵とする葦書房版『逝きし世の面影』を読み、渡辺にそれらを記録した来日異邦人たちがどこから来たのかを問うべきで、それはフランスの場合、ベンヤミンの『パッサージュ論』やゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の世界からやってきたのではないかという私信をしたためたことがあった。同様のことを「来日異邦人の記録」(『文庫、新書の海を泳ぐ』所収)として書いている
すると渡辺から読んでみるつもりだとの返信があり、その後「ルーゴン=マッカール叢書」は全巻を読んでくれたようだ。
とりわけ『ボヌール・デ・ダム百貨店』は「叢書」中でも、消費社会を描いた嚆矢といえる作品で、今回の新版は当時の挿絵入りで、こちらも読んでもらえればと思っていたのである。刊行が遅れてしまい、間に合わなかったことが残念でならない。
13.『キネマ旬報』(2/下)の恒例の「ベスト・テン発表特別号」が出された。
恥ずかしいことに、22年は「日本映画」「外国映画」の双方のベストテンを一作も観ていなかった。
その一因は50、60時間は当たり前という長大な韓国ドラマにはまってしまったことにあり、1作を観るのに1ヵ月もかかってしまう事情にもよっている。
だがそのことはともかく、この「特別号」で驚かされたのは24ページに及ぶ「映画人追悼」記事と「映画・TV関係者物故人」リストで、22年にはずっと観てきた映画の監督や俳優があまりに多く亡くなってしまったことを実感させられてしまった。しかしそれは銀幕の上だけでなく、私たちもその年齢に達していることも。監督でいえば、ピーター・ブルックも97歳で亡くなっている。その『マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺』を観たのは半世紀以上前のことだった。DVDが出ていたことを知り、ただちに購入した。近日中に観るつもりだ。
1986年から「日本映画時評」を連載してきた山根貞男の83歳の死も伝えられてきた。もはや彼の「時評」も読むことができなくなってしまった。
(『マラー/サド』)
14.黒木亮『兜町の男――清水一行と日本経済の80年』(毎日新聞社)を読了。
清水一行に関して一冊が書かれるとは予想していなかったが、ここに経済小説家清水伝が刊行されたことになる。
参考資料として、井家上隆幸『三一新書の時代』(「出版人に聞く」16)が挙げられ、実際に引用されている。編集者としての井家上の役割も顕彰され、本当によかったと思う。
15.『新編図書館逍遥』は4月刊行予定。
『近代出版史探索Ⅶ』も書き終えているので、年内には刊行できるだろう。
論創社HP「本を読む」〈85〉は「戦後の漫画=コミック出版の変容」です。
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