前回で【自治会、宗教、地方史】の掲載が終わり、いよいよブログを終了いたします。
最後に、小田光雄の文字通りの遺稿となりました2024年2月29日号『新文化』第一面記事を転載したいと思います。
これは末尾に書かれていますように、2024年1月18日に論創社主催の講演会で、「出版流通販売インフラの変貌と危機/70年代半ばからのパラダイムシフト」と題した講演の一部を要約したものです。
新文化通信社より転載許可をいただきましたので、掲載いたします。
小田光雄は現在の出版状況を見届けることなく逝ってしまいましたが、2年前にこのような出版パラダイムの変遷をまとめておりました。ブログの掉尾を飾るにふさわしい一文だと思われます。出版をめぐる状況は時々刻々と変化しておりますが、小田光雄の最後の警鐘としてお読みいただければ幸いです。
2009年より17年にわたりブログをご愛読いただき、感謝に堪えません。2024年6月に亡くなった後も変わらず応援してくださいまして、ありがとうございました。おかげさまで遺稿までたどり着くことができました。
ブログには書籍化に至らなかった記事も多々ありますので、いましばらくは閲覧可能な状態を維持していく所存です。大いに活用していただけますよう、ご案内いたします。
今までご愛読いただき、誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます。
小田啓子
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「出版流通販売インフラの変貌と現在の危機 70年代半ばからのパラダイムシフト」
小田光雄
業態転換した書店界 郊外店・FC・レンタル・複合化・・・
出版物販売金額は1996年の2兆6564億円をピークとして減少し続け、21世紀に入って凋落の一途をたどっている。23年は1兆612億円であるから、定価値上げを考えれば、実質的に1兆円を割りこんでしまった。日本の近代出版業界は出版社・取次・書店という流通販売システムによって、雑誌を中心として稼働してきた。それに戦後の56年における再販委託制の実施と相俟って成長してきたわけだが、80年代に入って社会状況や書店も変貌し、すでに制度疲労を起こし、近代出版流通システム自体が実質的に崩壊し始めていたのである。
90年代の出版状況に関しては拙著『出版社と書店はいかにして消えていくか』(ぱる出版、1999年、後に論創社、2008年)で詳述したとおりだ。
さてここでは少しばかり時間を巻き戻し、1970年代半ばに現実となった日本の消費社会化、それに伴う出版流通販売インフラのドラスチックな変貌について考えてみたい。
その前に消費社会化の定義にふれておけば、第三次産業就業人口が50%を超えた時点をさしている。つまりここで、それまでの農業や工業をベースとする第一次、第二次産業社会から物販やサービスを中心とする第三次産業社会へと移行したことになる。それは生産社会から消費社会への転換であり、つまり近代から現代への移行だったし、すべての分野でパラダイムチェンジが起きていた。
ちなみに出版社・取次・書店という近代出版流通システムが誕生したのは1890年代に他ならず、その前史も含めれば、一世紀近くにわたって、生産社会を背景として営まれてきたのである。70年代までの出版業界とそれを取り囲む業態の内実を見てみる。
【1890年代から1975年までの近代のパラダイム】
| 1 | 出版社 | 約4000社 |
| 2 | 取次 | 東販、日販、大阪屋、栗田、中央社、太洋社の6大総合取次、及び神田村専門取次 |
| 3 | 書店 | 1960年代後半は商店街の中小書店を中心とし約2万6000 |
| 4 | キオスク、スタンド | 現代において実質的に消滅 |
| 5 | 古本屋 | 神田を始めとする古書街の形成、リバリューとリサイクル |
| 6 | 貸本屋 | 60年は約3万店 |
| 7 | 図書館 | 全国で800館 |
こうした近代出版業界は80年代から21世紀に入って大いなる変貌を遂げていく。それは現代出版業界への移行であり、次のようなものだ。
【1975年から2024年までの現代のパラダイム】
| 1 | 出版社 | 約3000社 |
| 2 | 取次 | 鈴木書店、栗田出版販売、太洋社などが倒産 |
| 3 | 書店 | 郊外店を中心とする約1万店 |
| 4 | 古本屋 | 古書街の衰退と無店舗化 |
| 5 | コンビニ | 約6万店 |
| 6 | ブックオフ | 郊外大型店とフランチャイズシステム |
| 7 | DVDレンタル複合店 | TSUTAYA=CCCをメインとする郊外大型店とフランチャイズシステム |
| 8 | 図書館 | 約3300館、図書館取次のTRCのマークシステムによる成長と大型化 |
| 9 | アマゾン(マーケットプレイス) | 実質的な再販制廃止と流通革命 |
| 10 | スマホ市場 | コミックと雑誌デジタル化と配信 |
| 11 | 新刊バーゲン市場 | メルカリなどのリサイクルの出現 |
これが現代出版業界の見取図ということになる。1、2、3、4、8は近代、5、6、7、9、10、11は現代になって出現した業態だが、3の書店だけを見ても、2万6000店から1万店というほぼ3分の1になってしまったことを直視すれば、近代が現代に駆逐されていった事実をあからさまに告げていよう。8の図書館も誕生は近代であるにしても、現代を背景としていることはいうまでもない。
郊外複合店が出店加速 オーダーリーズ方式で
しかし、ここで留意しなければならないのは再販委託制という近代出版流通システムの改革を経ることなく、そのままのかたちで現代へと転換したことであろう。郊外店出店は75年の三洋堂書店に始まり、その後80年代からの郊外店出店ラッシュ、それに続く複合大型店の出店にしても、すべては再販委託制のメカニズムを利用してなされたものであり、それは大型店の閉店にしても、清算先送りシステムを内包しているゆえに、現在の取次の経営を直撃していると推測される。
それに加えて、近代の中小書店が商店街に位置することもあって、土地建物も自社(己)物件だったことと対照的に、現在の書店を始めとするコンビニ、ブックオフ、レンタル複合店のいずれもがオーダーリース方式=借地借家方式によって成立している。これは80年代以後の郊外化によって、物販、サービス業が大型駐車場を備えたロードサイドビジネス化したことによっている。
それは中村文孝氏との対談『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』(論創社)で指摘しておいたように、図書館も例外ではない。
21世紀に入っての地方書店の閉店は、アマゾンのみならず、図書館の増加も大きく影響している。それに加えて2000年に大店法が廃止され、大規模小売店舗法が成立し、CCC=TSUTAYAは日販、MPDと連携し、大型複合店出店を加速させることによって、それまでの郊外店を駆逐し、ついに書店数は1万店を下回る事態となってしまったのである。
複合大型店 6年で約600店が撤退
しかし、これらの複合大型店出店にしても、すべてがオーダーリース方式によるもので、レンタル事業が利益を上げていた時代ではよかったにしても、映画のネット配信によってレンタル事業も赤字となり、大型店を維持できず、この6年で約600店が撤退、閉店する状況を迎えている。
清算先送りのシステム 取次会社の経営直撃
いうなれば、再販委託制とオーダーリース方式の先送りのメカニズムの清算が迫られ、それが流通の根幹というべき取次の問題へと跳ね返っている状況だと見なしていいだろう。再販委託制とリース社会の果てに生じた出版業界の現実がここにある。
オーダーリース方式のメカニズムと書店のリスクに関しては、平山光名義で『新文化』1995年7月27日号に寄稿している。
なお本稿は2024年1月18日の論創社主催の講演「出版流通販売インフラの変貌と現在の危機」の一部の要約であることを付記しておく。
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最後となった「出版状況クロニクル190」(2024年2月1日~2月29日)でも小田光雄本人がこの記事を紹介していました。
13.30年ぶりに『新文化』から原稿依頼があり、「出版流通販売インフラの変貌と現在の危機』(2/29)を寄稿している。
長きにわたる『出版状況クロニクル』のエキスの要約といえるので、読まれてほしいと思う。















