出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1203 「海外文学新選」とスキターレッツ『笞の下を潜つて』

新潮社は海外文学翻訳シリーズとして、「ヱルテル叢書」に続き、「海外文学新選」を刊行している。これは前者の倍以上の三十九冊が出され、長篇、短篇、戯曲集など多岐に編まれ、その「趣旨」は奥付の上部のところに次のように謳われている。 近代文学の未だ…

古本夜話1202 奥栄一と奥むめお『婦人問題十六講』

前回、「ヱルテル叢書」のゴーチエ『金羊毛』の訳者の奥栄一をプロフィル不明の人物として挙げなかったのは、『日本近代文学大事典』で次のように立項されていたからである。 奥 栄一 おく えいいち 明治二四・三・二七~昭和四四・九・四(1891~1969)詩人…

古本夜話1201 新潮社「ヱルテル叢書」と秦豊吉訳『若きヱルテルの悲み』

『近代出版史探索Ⅵ』1199などの『世界文芸全集』や同1170の『ツルゲエネフ全集』に先駆け、しかもパラレルに新潮社から「ヱルテル叢書」が刊行されていた。ただ私の所持しているのはケルレルの『村のロメオとユリヤ』の一冊だけで、菊半截判、柿色の鮮やかな…

古本夜話1200 メレジュコーフスキイ『神々の死』と折口信夫

人類最古の記録はすべて神話と歴史が区別されてゐないのが 実際でないか? 且、さういふ神話的歴史もしくは史詩に於 て、僕等は古代人の思想と生活とを窺ふことが出来るのだ。岩野泡鳴『悲痛の哲理』(『泡鳴全集』 第十五巻所収、国民図書、大正十一年) 本…

古本夜話1199 新潮社『世界文芸全集』

前回の譲受出版と同様に、ずっと新潮社の円本『世界文学全集』にふれてきたが、この企画も昭和を迎えていきなり出現したわけではなく、大正時代の翻訳出版の集積があって結実した円本全集に他ならない。その主たるベースとなったのは大正九年から刊行され始…

古本夜話1198 廣文堂書店、小中村清矩遺著『有聲録』、石川文栄堂

これまで譲受出版に関して、特価本や造り本出版社の多くの例を挙げてきたけれど、それらからわかるように、出版金融と人脈が錯綜し、一筋縄ではいかない世界でもある。本探索1192で、新潮社の『椿姫』の例も挙げたばかりだ。そのために先行する研究もないし…

古本夜話1197 金子健二訳『全訳カンタベリ物語』

前回、読み巧者の平田禿木が『カンタベリ物語』『千一夜物語』『デカメロン』を三大短編集成としていることにふれたが、そこまでいわれれば、これまで取り上げてこなかったチョーサー『全訳カンタベリ物語』もここで書いておくしかないだろう。同書は『近代…

古本夜話1196 平田禿木、『英国近代傑作集』、ヘンリー・ジェイムズ『国際挿話』

前回の『世界文学全集』2には、これも幸いなことに「世界文学月報」が残されていて、そこに平田禿木が「『デカメロン』に就て」という一文を寄せている。そこで禿木はチョーサーの『カンタベリイ物語』、『千一夜物語』と比較して、同じ短編集成であるけれど…

古本夜話1195 森田草平訳『デカメロン』と『補遺デカメロン』

浜松の時代舎で、新潮社の森田草平訳『補遺デカメロン』を入手してきた。これは第一期『世界文学全集』2の別冊で、『日本近代文学大事典』の「叢書・文学全集・合著集総覧」において、「『補遺デカメロン』あり」と付記されていたけれど、実物は初めて目にす…

古本夜話1194 ツルゲーネフ『文学的回想』と「トロップマンの死刑」

本探索1173のドーデ『巴里の三十年』において、ツルゲーネフの『思い出』が届いたことを記し、同書を閉じていることを既述しておいた。 そこで角川文庫にツルゲーネフ『文学的回想』(中村融訳、昭和二十六年)があったことを思い出し、読んでみた。これは一…

古本夜話1193 桜井鷗村訳『蛮人境』とその原作

前回、長田秋涛に再登場してもらったので、やはり旧幕臣の翻訳家で、同じように晩年は実業界に転身した、『近代出版史探索Ⅲ』531などの桜井鷗村にも再び言及してみる。それは友人から『蛮人境』という翻訳書を恵送されたこと、また本探索1189のイギリスの出…

出版状況クロニクル161(2021年9月1日~9月30日)

21年8月の書籍雑誌推定販売金額は811億円で、前年比3.5%減。 書籍は433億円で、同0.1%減。 雑誌は377億円で、同7.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が314億円で、同6.1%減、週刊誌は62億円で、同12.2%減。 返品率は書籍が37.4%、雑誌は43.6%で、月刊誌は43.6%、週刊…