出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2022-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話1347 民友社「現代叢書」と『極東の外交』

これは意図したわけではないが、本探索において、民友社に関してふれることが少なかった。それは前回既述しておいたように、民友社が当時は看板雑誌『国民之友』を有し、多くの書籍も刊行する大手出版社だったにもかかわらず、意外にその書籍を拾っていない…

古本夜話1346 徳富蘇峰、民友社、『国民之友』

本探索1343で引いた拙稿「正宗白鳥と『太陽』」において、白鳥の雑誌読書史が『国民之友』から始まっていたことにふれている。しかも岡山の読書少年だった白鳥は、雑誌や書籍を郵便通販で入手していたのであり、明治二十九年に東京専門学校に入るために上京…

古本夜話1345 博文館『日露戦争実記』

博文館の雑誌といえば、『太陽』創刊の前年の明治二十七年創刊の『日清戦争実記』、同三十七年の『日露戦争実記』にふれないわけにはいかないだろう。 (第1号) 前者については拙稿「近代文学と近代出版流通システム」(『日本近代文学』第65号掲載、日本近…

古本夜話1344 昭和の『太陽』臨時増刊『明治大正の文化』

『太陽』臨時増刊『明治名著集』と異なり、判型は菊判の「博文館創業四十周年記念」として、やはり増刊の『明治大正の文化』が出ている。これも浜松の典昭堂で一緒に買い求めてきたものである。昭和二年六月の発売だから、おそらく大正六年にも「同三十周年…

古本夜話1343 『太陽』記念増刊『明治名著集』

『大日本』から『日本及日本人』『我観』とたどってきたが、本探索1334で満川亀太郎が『三国干渉以後』で語っていたように、これらは「当時唯一の高級政治雑誌『太陽』」を範とする四六倍判を踏襲していたのである。 その『太陽』創刊号も近代文学館の「複刻…

古本夜話1342 『中野秀人全詩集』と「真田幸村論」

花田清輝、中野正剛、『我観』『真善美』といえば、それらにまつわる前後史があるので、そうした事実にも言及しておかなければならない。 まずは前史からふれてみる。中野正剛の弟秀人は早大中退後、大正九年に『文章世界』の懸賞当選論文「第四階級の文学」…

古本夜話1341 中野正剛と花田清輝『復興期の精神』

先に続けて言及してきた『我観』と我観社は戦後におけるアヴァンギャルド的な出版の水脈へとリンクしていくのである。それは近代出版史の事実からすれば、まったく意外でもないのだけれど、『我観』創刊号、及び我観社の花田清輝『復興期の精神』(初版、昭…

古本夜話1340 石井敏夫コレクション『絵はがきが語る関東大震災』と写真ジャーナリズムの勃興

前回の関東大震災絵葉書のことについて、もう一編書いておきたい。 絵葉書については『震災に巻けない負けない古書ふみくら』(「出版人に聞く」6、論創社)の佐藤周一が最も詳しいので、存命であれば、彼に問い合わせることができるのだが、残念なことに同…

古本夜話1339 紀田順一郎『日本語発掘図鑑』と「日本未曽有関東大震災実況絵葉書」

前回の『我観』創刊号において、雑誌が「芸術品」か「商品」かの問題を提起しているように思われるけれど、一枚の写真も見当らないことは意図的な編集だと考えられる。それは『我観』のような言論誌にとって、写真はふさわしくないとの判断によっているのだ…

古本夜話1338 『我観』創刊号

前回三宅雪嶺が創刊した『我観』第一号が手元にある。これは近代文学館の「複刻日本の雑誌」(講談社)の一冊で、当たり前だが、古本屋で入手した本探索1327の『日本及日本人』の実物よりもきれいであり、現存する最良の『我観』創刊号をもとにした複刻だと…

出版状況クロニクル175(2022年11月1日~11月30日)

22年10月の書籍雑誌推定販売金額は845億円で、前年比7.5%減。 書籍は484億円で、同5.9%減。 雑誌は360億円で、同9.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が296億円で、同10.8%減、週刊誌は64億円で、同4.3%減。 返品率は書籍が34.1%、雑誌は43.8%で、月刊誌は43.4%、週…

古本夜話1337 三宅雪嶺と『志賀重昂全集』

『日本及日本人』(『日本人』)が三宅雪嶺や志賀重昂を中心とする政教社から刊行され、そこに前回の鵜崎鷺城『薩の海軍 長の陸軍』、中島端『支那分割の運命』、コナン・ドイル、藤野鉦齋訳『老雄実歴談』、『青木繁画集』、長谷川如是閑『額の男』『倫敦』…

古本夜話1336 鵜崎鷺城『頭を抱へて』と興成館書店

前回の大正二年の『日本及日本人』第六〇四号のトップ書名記事に鷺城学人「誤られたる大隈伯」が挙げられていることにふれた。これは「人物評論」としての連載の一編のようで、武内理三他編『日本近現代史小辞典』(角川書店)を参照し、大正二年三月の政治…

古本夜話1335 政教社『日本及日本人』

前回の満川亀太郎『三国干渉以後』において、大正三年に彼は『大日本』の編集者となり、その六年近くに及ぶ雑誌記者生活の中で、「日本国家改造と亜細亜復興問題」を生涯の事業と決意したと述べている。 (論創社版) この『大日本』の立項は他に見出せない…

古本夜話1334 満川亀太郎『三国干渉以後』

前回既述しておいたように、下中弥三郎『維新を語る』の出版をきっかけとして、維新懇話会が発足し、下中がその代表世話人となり、そのメンバーに満川亀太郎も名を連ねていた。 実はこの満川も『維新を語る』の翌年に平凡社から自伝『三国干渉以後』を刊行し…

古本夜話1333 下中弥三郎『維新を語る』と維新懇話会

前回の維新社だが、『平凡社六十年史』はダイレクトに言及していないけれど、昭和六年の『大百科事典』の刊行後、満州事変などを背景として、下中弥三郎の社会活動が活発になっていったことが記述されている。これを補足しているのは『下中弥三郎事典』の「…

古本夜話1332 陸軍画報社と中山正男『一軍国主義者の直言』

『神近市子自伝』において、日蔭茶屋事件で出獄後の大正九年に、彼女が四歳年少の鈴木厚と結婚したことが語られている。彼は早稲田大学を中退した評論家で、文学、歴史、社会主義に通じていて、辻潤が連れてきたのだった。 ところがその後、三人の子どもをな…

古本夜話1331 雑誌委託制の始まりと婦人誌の全盛

明治三十年代後半から大正にかけて、多くの女性誌が創刊され、大正時代には神近市子や望月百合子たちが新聞の婦人記者となり、昭和に入ると婦人誌が全盛となっていく。だが二十世紀の昭和時代が婦人誌の全盛だったことを記憶している読者や出版人はもはや少…

古本夜話1330 阿部真之助『現代世相読本』

『神近市子自伝』に戻ると、そこには思いがけない人物が出てくる。それは神近の東京日日新聞社の婦人記者としての社会的ポジションと英語ができる女性という評判が作用していたのであろう。ところがそうしたキャリアも、大正五年に大杉栄との恋愛問題で反故…

古本夜話1329 中西悟堂と『野鳥』

前々回、石川三四郎の近傍の人脈として中西悟堂の名前を挙げたが、彼は思いがけないことに『日本アナキズム運動人名事典』にも長く立項され、それは『日本近代文学大事典』も同様なので、悟堂にまつわる一編も書いておこう。 小林照幸の「評伝・中西悟堂」と…

古本夜話1328 上野英信編『鉱夫』と新人物往来社『近代民衆の記録』

前回の最後のところで、本探索で続けて言及してきた田口運蔵、片山潜、近藤栄蔵、永岡鶴蔵たちと加藤勘十が社会主義運動史において、炭鉱と鉱(坑)夫というラインでつながり、そこにゾラの『ジェルミナール』の翻訳も必然的にリンクしていたことにふれておい…

出版状況クロニクル174(2022年10月1日~10月31日)

22年9月の書籍雑誌推定販売金額は1051億円で、前年比4.6%減。 書籍は635億円で、同3.7%減。 雑誌は416億円で、同6.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が353億円で、同5.2%減、週刊誌は62億円で、同10.5%減。 返品率は書籍が30.9%、雑誌は39.4%で、月刊誌は38.4%、週…

古本夜話1327 加藤シヅエ『ある女性政治家の半生』とマーガレット・サンガー『性教育は斯く実施せよ』

前回、加藤シヅエ『ある女性政治家の半生』に関して、石本静枝時代をラフスケッチしただけなので、表記を加藤に代え、もう一編続けたい。 (日本図書センター復刻) 加藤は大正九年に渡米し、ニューヨークでバラードスクールに籍を置き、速記タイプライターな…

古本夜話1326 石本恵吉、大同洋行、エリゼ・ルクリユの蔵書

エリゼ・ルクリユ『地人論』の訳者の序には当時の石川三四郎の人脈が記され、この翻訳をめぐって吉江喬松、山下悦夫、芹澤幸治郎(ママ)、古川時雄の好意と助力を得たとされる。吉江は『近代出版史探索』189などで既述しておいたように、フランス文学者で、前回…

古本夜話1325 エリゼ・ルクリユ『地人論』

前回、石川三四郎が千歳村で「土民生活」を始め、望月百合子とともに共学社として『ディナミック』を創刊したのはルクリユの影響が大きかったのではないかと指摘しておいた。そして当時、石川がルクリユの『地人論』を翻訳していたことも。 それは昭和五年に…

古本夜話1324 共学社と『ディナミック』

本探索1321で、昭和二年に石川三四郎が世田谷の千歳村で土民生活の実践としての共学社を発足させ、それに望月百合子がパートナーとして加わったことを既述しておいた。 その共学社から昭和四年に二人の編集で、月刊紙といっていい『ディナミック』が創刊され…

古本夜話1323 新潮社「現代仏蘭西文芸叢書」と望月百合訳『タイース』

前々回もふれたように、望月百合子は百合名義で、大正十三年に新潮社からアナトオル・フランスの『タイース』を翻訳刊行している。『タイース』は『近代出版史探索Ⅴ』810で、『舞姫タイス』として取り上げているし、望月訳はこれも同815で挙げておいた「現代…

古本夜話1322 満州と和田伝『大日向村』

望月百合子『大陸に生きる』を読んでいて、舞台は満州でありながらも、日本の昭和十年代を彷彿とさせたのは、『近代出版史探索Ⅲ』530の小川正子『小島の春』や『同Ⅴ』812の白水社の『キュリー夫人伝』 が取り上げられていることである。また周作人との対話の…

古本夜話1321 望月百合子『大陸に生きる』と大和書店

前回、『女人芸術』創刊号の「評論」は山川菊栄「フェミニズムの検討」、神近市子「婦人と無産政党」に続いて、望月百合子「婦人解放への道」が並んでいることを既述しておいた。その内容にふれると、婦人解放は単なる参政権の獲得や職業上の平等だけでなく…

古本夜話1320 『女人芸術』創刊号

前回、神近市子が長谷川時雨と『近代出版史探索Ⅵ』1054の生田花世に誘われ、『女人芸術』に加わったことにふれた。 (『女人芸術』創刊号) 私は「夫婦で出版を」(『文庫、新書の海を泳ぐ』所収)を始めとして、『近代出版史探索Ⅲ』434、435などで、三上於…