2012-12-01から1ヶ月間の記事一覧
前回、田山花袋の全集刊行の春陽堂、内外書籍、臨川書店の定本に至る推移について述べ、彼が明治文学の重要な人物だと多くが認めていたにもかかわらず、漱石、鷗外、藤村などに比べ、その全集の不運な状況に関しても記しておいた。そうした花袋の全集の出版…
八木敏夫が『日本古書通信』とほぼ同時に六甲書房を立ち上げ、行き詰っていた内外書籍株式会社や書物展望社の在庫を安く買い取り、古本屋に卸し、質の高い特価本のリバリューを伴うリサイクル市場を形成するに至ったことは、『日本古書通信』十二月号の八木…
「弁当工場」で深夜働く4人の主婦たちの名前とプロフィルを、まず提出しておこう。 *雅子/43歳。会社をリストラされ、再就職先が見つからず、多額の住宅ローンもあり、弁当工場の夜勤パートを選ぶ。後にその会社が信用金庫だとわかる。夫は会社で合わない…
さて遅ればせになってしまったが、やはり特価本業界のヒーローとでもいうべき坂東恭吾と帝国図書普及会についても、ここで一編書いておいたほうがいいだろう。この出版業界の寅さんと称していい坂東は『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』においても、…
これまで既述してきたように、特価本業界は各種の人名辞典などにも掲載されていない多くの著者や編集者を輩出させ、それは戦後の倶楽部雑誌の時代まで続いていくことになる。本連載でもしばしば春江堂に言及してきたが、今回は春江堂とその出版物、著者にふ…
桐野夏生の『OUT』を最初に取り上げたのは、この作品が拙著『〈郊外〉の誕生と死』(青弓社)の上梓とほぼ同時に刊行されていることに加え、私が本連載の「序」で示した八〇年代に顕著になり、九〇年代に入って定着した郊外の風景やファクターが出揃い、『OU…
もう一冊の書翰文にふれてみる。それもやはり特価本業界の出版社の三芳屋書店から出されたもので、その奥付に昭和十四年二月発行と記された、加藤緑葉の『新時代の青年書翰文』である。これは今まで挙げてきた書翰文の本と異なり、四六判並製、四百ページ弱…
『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』によれば、昭和初期円本の大量引き受けとその特価販売を通じて、それまで日本橋、浅草、下谷の下町を中心としていた赤本、特価本業界は神田地区へと進出していったとされる。そしてそれぞれの東京地域に加え、大阪…
序 「混住社会」というタームが使われ始めたのは一九七二年度の『農業白書』からだとされている。七〇年代初頭の日本の農業は、世界に例を見ない六〇年代以降の高度経済成長の激しい照り返しを受け、非農業部門との土地や水などの資源利用をめぐる競合の激化…
前回ふれた大川屋について、ここで一編書いておきたい。既述しておいたように、私は「講談本と近世出版流通システム」(『古本探究』所収)の中で、明治二十年代の大川屋の出版物を具体的に取り上げているのだが、その後四十年代のものを二冊入手しているか…
河野書店関連が続いたので、ここで成光館書店の一冊にもふれておきたい。本連載194や214などにおいても、成光館の出版物を取り上げてきた。『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』では成光館は河野書店の前身とされているが、これは特価本卸問屋と…
出版状況クロニクル55(2012年11月1日〜11月30日)出版社・取次・書店という近代出版流通システムがスタートしたのは明治20年代、すなわち1890年前後であり、その歴史はすでに120年余に及んでいることになる。しかもそれが未曾有の危機に追いやられているこ…