出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1223 森田思軒訳『十五少年』と白石実三  

前回ふれなかったが、『巌窟王』を収録した春陽堂『明治大正文学全集』8は『森田思軒 黒岩涙香篇』で、思軒のほうはジュール・ヴェルヌの『十五少年』が選ばれている。これはいうまでもなく、思軒訳を発祥として、その邦訳タイトルに使われることになる『十…

古本夜話1222 黒岩涙香『巌窟王』

黒岩涙香のことは『近代出版史探索』102、103で、『天人論』や『現今名家碁戦』などの朝報社の出版物に言及しているが、本探索1218の堺利彦『哀史梗概』に関連づけられる涙香の『巌窟王』や『噫無情』の翻訳にはふれてこなかった。 涙香は明治二十五年に『万…

古本夜話1221 大鐙閣と木蘇穀訳『血縁』

実は『労働』に続いて、大正十二年六月に大鐙閣から「ルーゴン=マッカール叢書」の木蘇穀訳『血縁』が刊行されている。これは『近代出版史探索』193でふれ、同188の吉江喬松訳『ルゴン家の人々』にあたるが、『血縁』のほうが先行しているし、拙稿「天佑閣と…

古本夜話1220 大鐙閣「ゾラ傑作集」と飯田旗軒訳『労働』

本探索1217で、堺利彦がゾラの「四福音書」のうちの『労働』を『労働問題』として翻訳し、明治三十七年に春陽堂から刊行されていることにふれた。これは大正九年に叢文閣の『労働』(「労働文芸叢書」2)としての再版が出ているけれど、『堺利彦全集』所収を…

古本夜話1219 板垣退助監修『自由党史』と五車楼

前回のヴィクトル・ユゴーのことだが、板垣退助が明治十年代に外遊し、その際にユゴーに会い、読むべき書物として彼の小説を勧められ、『レ・ミゼラブル』などの著作を持ち帰ったというエピソードを想起させる。 それは確か板垣退助監修『自由党史』(岩波文…

古本夜話1218 堺利彦訳『哀史梗概』

堺利彦の死と同年に刊行された中央公論社の『堺利彦全集』は、その短期間の準備と編集にもかかわらず、多彩な堺の仕事と業績を俯瞰するようなかたちで、見事な全集として編まれている。 編集者の荒畑寒村は「翻訳は全部を割愛し」、翻訳小説も「特に興味の深…

古本夜話1217 中央公論社『堺利彦全集』とゾラ『子孫繁昌の話』『労働問題』

前回のゾラ『肉塊』(『パリの胃袋』)の訳者が秋庭俊彦ではなく、堺利彦の売文社の関係者ではないかと推測しておいた。また実際に本探索1202の奥栄一も売文社の翻訳係だった。(『肉塊』) それに『近代出版史探索Ⅵ』1180でふれたように、堺も『木芽立』(…

古本夜話1216 秋庭俊彦訳『肉塊』と三徳社

もう一冊「ルーゴン=マッカール叢書」があるので続けてみる。それは三徳社の大正十二年の秋庭俊彦訳『肉塊』上巻で、『巴里の胃袋』の最初の翻訳といえる。ただ下巻は未見で、本探索1210の『陥落』と同様に、関東大震災に巻きこまれ、刊行されていないのかも…

古本夜話1215 世界文豪代表作全集刊行会と井上勇訳『ナナ』

今にして、われ穢れたるものなること、道 穢れたるものの一族なること露われぬ。 おお、なんじ、わが血を吸いたる三つの道よ、 なれ、隠れたる谷、樫の林よ、三つの道の狭き出口よ。 『暴君オイディプス』 これもずっと未入手だった『世界文豪代表作全集』の…

古本夜話1214 椎名其二『野へ』とヱルノス

『近代出版史探索外伝』の表紙カバー写真に一九〇六年のフランス語版『ゾラ全集』の書影を使っていることを既述しておいた。前回の榎本秋村訳『沐浴』がこの第十八巻所収の『新ニノンへのコント』だと判明したが、やはり同巻の短編集『ナイス・ミクラン』(N…

古本夜話1213 榎本秋村訳『沐浴』と『新ニノンへのコント』

天佑社のゾラの翻訳をもう一冊見つけたので、それも続けて書いておきたい。それは大正十二年七月刊行の訳『沐浴』である。天佑社の六冊目のゾラの翻訳だが、三〇六ページの短篇集ゆえか、『貴女の楽園』などの厚い四六大判と異なり、一回り小さい判型で、函…

出版状況クロニクル163(2021年11月1日~11月30日)

21年10月の書籍雑誌推定販売金額は914億円で、前年比8.7%減。 書籍は514億円で、同4.1%減。 雑誌は399億円で、同14.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌332億円で、同13.1%減、週刊誌は67億円で、同18.2%減。 返品率は書籍が32.8%、雑誌は43.9%で、月刊誌は43.4%、週…