出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2024-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話 番外編その五の10 伊藤永之介『駐在所日記』

『近代出版史探索Ⅲ』459でふれた農民文学者の伊藤永之介に関して、ずっと書くつもりでいたのだが、彼の戦前の農民小説に出会えず、その機会を得ずして長い時間が過ぎてしまった。それだけでなく、いくつかの文学全集類は別にして、伊藤の作品は戦後に刊行さ…

古本夜話 番外編その五の9美術展カタログ『ミレー3大名画展』と『ピサロ展』

浜松の典昭堂で美術展カタログが大量に放出されていたので、私も多くを買い求め、知らずにいた美術展をカタログで観ている。 その中に『ミレー3大名画展―ヨーロッパ自然主義の画家たち』(Bunkamura ザ・ミュージアム他、二〇〇三年)と『ピサロ展―カミーユ…

古本夜話 番外編その五の8 太陽堂書店『これからの室内装飾』

浜松の時代舎で、森谷延雄『これからの室内装飾』を購入した。それは厚さが五センチ近いのだが、疲れ気味で、著者名もタイトルも定かに読めないので、時代舎による帯がまかれていた。そこに「建築書の歴史的名著」、大正十六年(ママ)初版、古書価五千円と記さ…

古本夜話 番外編その五の7 岡本貫瑩『印度美術の主調と表現』

『近代出版史探索Ⅵ』1148で、インド北部の『ベンガル民族誌』を取り上げたこともあり、ずっと気になっていた岡本貫瑩『印度美術の主調と表現』にも言及しておきたい。同書は昭和七年に発売所を神田区南甲賀町の六文館として刊行されている。函入菊判、本文、…

古本夜話 番外編その五の6 藤島亥治郎『日本美と建築』

前回の木下杢太郎の座右宝版『大同石仏寺』の「跋」において、編集の齋藤菊太郎と写真の山本明への謝辞が述べられていることを既述した。だがそれはもう一人いて、東京帝大工学部の藤島亥治郎教授で、建築学教室が有するインドの寺院や石仏の写真の多くを参…

古本夜話 番外編その五の5 東西交渉史と木下杢太郎『大同石仏寺』

本探索でお馴染みの生活社だけでなく、「ユーラシア叢書」に見たように、様々な出版社から東西交渉史、回教史、中国史、蒙古史、ロシア史、アジア史などに関する古典ともいうべき書物が刊行されていた。それらの企画や翻訳は『近代出版史探索Ⅲ』563の東亜経…

古本夜話 番外編その五の4 三省堂版『シャマニズム』と『民族学研究』

番外編その五の1で取り上げた『シャーマニズムの研究』を入手したのは『近代出版史探索Ⅳ』730のハルヴァ『シャマニズム』に関連してだった。この訳者の田中克彦が「シベリアの金枝篇」とよぶ『シャマニズム』は現在平凡社の東洋文庫に収録されているが、最初…

古本夜話 番外編その五の3 芙蓉書房「シルクロード叢書」

前回、芙蓉書房の「シルクロード叢書」にふれたが、その明細を示さなかったので、ここでそれらを挙げてみる。 1 西川一三 『秘境西域八年の潜行』上 2 〃 『 〃 』下 3 〃 『秘境チベット歩く』 4 岡本昇 『若い国ネパール―医学診療隊の記録』 5 ロバート・…

古本夜話 番外編その五の2 芙蓉書房『シルクロード事典』

新時代社の季刊雑誌 『ユーラシア』と加藤九祚のことで思い出されたのは芙蓉書房の『シルクロード事典』である。私は自分の無知を弁えているので、翻訳や編集のために多くの辞書、事典類を架蔵している。古本屋で目にとまるごとに購入した時期もあって、それ…

古本夜話 番外編その五の1 季刊雑誌『ユーラシア』

【お知らせ】「番外編」として、4つの塊の掲載が終わりました。 あとは「スピンオフ」のような断片的な原稿が残されています。 おそらく資料を読んだ段階で、「古本夜話」のどこかに挟むつもりで書きとめた原稿だと思われます。 日頃から近代出版史の一連の…

古本夜話 番外編その四の4 伊達得夫と堤邦子『流浪の人』

「辻井喬+堤清二回顧録」である『叙情と闘争』(中央公論新社)を戦後の消費社会のキーパーソンの記録として読み出したところ、この一冊が彼の戦後史のみならず、妹の堤邦子へのレクイエムであることに気づかされた。同書の中に「妹の反乱」「留学の効用」…

古本夜話 番外編その四の3 前田出版社と『トップ』

かつて伊達得夫の『詩人たち―ユリイカ抄』を読んで、ふたつのエピソードがずっと記憶に残っていた。それらは冒頭に置かれた「『余は発見せり』」の中で、原口統三遺稿集『二十歳のエチュード』の初版がユリイカではなく、昭和二十二年六月に「M出版社」から…

古本夜話 番外編その四の2書肆ユリイカとパトロンヌ米川丹佳子

書肆ユリイカに米川丹佳子というパトロンヌがいたことを、伊達得夫の『詩人たち ユリイカ抄』(日本エディタースクール出版部)の大岡信の「解説」における「陰の有力な協力者」という指摘、及び長谷川郁夫の伊達の評伝『われ発見せり』(書肆山田)の中での…

古本夜話 番外編その四の1 創元社版『中原中也全集』について

中村稔の名前は詩人としての他に、『世代』の同人、書肆ユリイカの関係者、中原中也の研究者にして、その全集の編集者、弁護士として知られていたが、〇四年の自伝ともいえる『私の昭和史』に続いて、〇八年に『私の昭和史・戦後篇』(いずれも青土社)の上…

古本夜話 番外編その三の7 杉山平助『文芸従軍記』と大熊信行『文学のための経済学』

杉山平助の『文芸従軍記』に関して、続けて一編を書いてみる。それは同じく改造社「文芸復興叢書」に小林秀雄の『様々なる意匠』が収録されているように、杉山にとっての『様々なる意匠』に他ならない思えるからだ。またそこには「批評の敗北」という一文も…

古本夜話 番外編その三の6 杉山平助『文藝五十年史』と田中西二郎

杉山平助の『文藝五十年史』はかなり前に浜松の時代舎で購入しているし、その後、典昭堂でも見ているので、奥付の初版一万部という記載、及び当時の「新日本文化叢書」の人気をうかがわせていよう。だが同書を買い求めたのはそれらに関心があったわけではな…

古本夜話 番外編その三の5 岩本和三郎と双雅房『清方随筆選集』

前回、伊臣眞『観劇五十年』の装幀と口絵が鏑木清方によることにふれたが、数年前に『清方随筆選集』を入手している。これは四六判、六七六ページだが、昭和十九年九月という出版状況下にあって、粗悪で薄い用紙が使われていることに加え、第五部にあたる「…

古本夜話 番外編その三の4 伊臣眞『観劇五十年』

鱒書房「新日本文化史叢書」の「五十年史」シリーズにちなんで、ここで伊臣眞の『観劇五十年』にふれておきたい。同書は十年以上前に入手しているのだが、著者や版元に関して、ずっと手がかりがつかめない一冊だったのである。(『観劇五十年』) 三宅周太郎…

古本夜話 番外編その三の3 鱒書房「新日本文化史叢書」と筈見恒夫『映画五十年史』

前回の生活社の「生活選書」の一冊である三宅周太郎『芝居』の「あとがき」において、前年に『演劇五十年史』を書き下ろしているので、体力が回復していない旨の告白がしたためられていた。 そこで『演劇五十年史』とは鱒書房のいずれも「五十年史」とある「…

古本夜話 番外編その三の2 生活社「生活選書」と三宅周太郎『芝居』

生活社のことは『近代出版史探索』131で書き、『同Ⅴ』913などでフレイザー『金枝篇』の版元として紹介しておいた。また「ユーラシア叢書」として復刻される書物を送り出しながら、その一方で『同Ⅴ』927の「ギリシア・ラテン叢書」といった古典の出版も試みら…

古本夜話 番外編その三の1 大和書店、新美南吉『おぢいさんのランプ』、巽聖歌

大和書店の巻末出版目録の中に、「日本少国民文学新鋭叢書」として、新美南吉『牛をつないだ椿の木』、「絵による自然科学叢書」として、寺尾新監修、中西悟堂編、辻一絵『淡水魚』、児童文化賞受賞の昆虫童画家の小山内龍『昆虫放談』などの児童書が掲載さ…

幻の企画書

「古本夜話番外編」をお読みいただき、ありがとうございます。 まだ続きがあるのですが、ここで、残された「企画書」を挟みたいと思います。 小田光雄はわずか3ヵ月に満たない闘病で亡くなったがゆえに、新年にはまだ元気で、 これから出版したい企画書を書…

古本夜話 番外編その二の6 園田一亀『韃靼漂流記』

原書房「ユーラシア叢書」34として、園田一亀『韃靼漂流記の研究』が復刻されている。これは入手していないのだが、その後、平凡社から同じく『韃靼漂流記』(東洋文庫)として刊行されているので、こちらのほうを取り上げてみる。 園田は大正半ばに満洲へ渉…

古本夜話 番外編その二の5 満洲移住協会と藤山一雄『ロマノフカ村』

原書房の「ユーラシア叢書」は生活社を中心とする戦時下の書籍の復刻である。だがそれに類する書籍は続けてふれてきた山一書房や大和書店ではないけれど、その他にも多くの版元が刊行していたと思われる。そうした一冊を浜松の時代舎で入手し、これは実に興…

古本夜話 番外編その二の4 パーカー『韃靼一千年史』と大和書店

これは「ユーラシア叢書」で復刻されていないけれど、どうして選にもれたかと思われる一冊がある。それはE・H・パーカー著、閔丙台訳『韃靼一千年史』で、やはり昭和十九年に大和書店から刊行されている。初版二五〇〇部、会計定価は四円八十銭、菊半並製三…

古本夜話 番外編その二の3 ルネ・グルセ、後藤冨男訳『アジア遊牧民族史』と山一書房

「ユーラシア叢書」のもうひとつの原本は27、28のルネ・グルセ『アジア遊牧民族史』で、これも昭和十九年に翻訳刊行されている。菊半八八二ページに及ぶ大冊で、版元は発行者を杉山栄一とする神田区須田町の山一書房である。奥付によれば、初版二千部、定価…

古本夜話 番外編その二の2 帝国書院とユール『東西交渉史』「ユーラシア叢書」

実は前回ふれなかったけれど、「ユーラシア叢書」として復刻されている原本がまだ二冊あり、それは本探索でも取り上げてこなかったので、ここで書いておきたい。 その一冊は7のヘンリー・ユール著、アンリ・コルディエ補、東亜史研究会訳編『東西交渉史』で…

古本夜話 番外編その二の1 原書房「ユーラシア叢書」と生活社

すでに十年以上前になるのだが、『リブロが本屋であったころ』(「出版人に聞く」4)の中村文孝との生活社の出版物に関する話の中で、昭和五十年代に原書房から「ユーラシア叢書」が刊行され、そこに生活社の復刻も含まれているということを教えられた。それ…

古本夜話 番外編その一の7 『水上瀧太郎全集』と『大阪』

これは前回の『三田文学』臨時増刊「水上瀧太郎追悼号」ではふれられていないけれど、水上の死と同年の昭和十五年十一月に、岩波書店から『水上瀧太郎全集』全十二巻の第一回配本として、小説『大阪』『大阪の宿』を収録した四巻が出されている。翌年には『…

古本夜話 番外編その一の6 『三田文学』臨時増刊、「水上瀧太郎追悼号」

プロレタリア文学や農民文学の流れに棹さすようだが、前回賀川豊彦『死線を越えて』を批判する水上瀧太郎にふれたので、ここでその死にも言及しておきたい。いうまでもないが、水上もそれらと同時代の文学者だったのである。彼のことは『近代出版史探索Ⅲ』55…