出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1429 長谷川潾二郎画文集『静かな奇譚』

本探索において、前回の長谷川四郎で長谷川四兄弟のうちの三人は取り上げてきたので、もう一人の次兄である潾二郎にも言及しておくべきだろう。前回は画家と紹介しておいたけれど、彼は『探偵趣味』や『新青年』に地味井平造のペンネームで「煙突綺談」など…

古本夜話1428 長谷川四郎『シベリヤ物語』

前回、長尾辰夫の『シベリヤ詩集』を取り上げたのだが、長谷川四郎の『シベリヤ物語』に言及しないわけにはいかない。しかもこの二冊は詩集と小説の違いはあるにしても、出版は昭和二十七年と同じで、前者が二月に対して、後者は八月に刊行されている。やは…

古本夜話1427 長尾辰夫『シベリヤ詩集』

オキュパイド・ジャパン・ベイビーズと呼ぶところの、占領下に生まれた私たちの世代は、当然のことながら戦争と無縁ではなかった。必ず家族が戦死したり、戦地から帰還したり、外地から引揚げてきたりしていたし、そこにはシベリア抑留者たちも含まれていた…

古本夜話1426 高杉一郎『往きて還りし兵の記憶』と平澤是曠『哲学者菅季治』

ここで高杉一郎と『極光のかげに』に関連して、その補遺的二編を付け加えておきたい。 高杉は『往きて還りし兵の記憶』で、その一章を「菅季治の死」に当てている。私はそこで菅の名前を初めて知ったが、占領下日本とシベリア抑留問題を通じて、菅の死は社会…

古本夜話1425 『海坂』と藤沢周平

続けて『萬緑』を取り上げてきたので、ここでもうひとつの俳誌に言及する間奏的一編を書いてみよう。二十年ほど前に静岡の百貨店の古書市で、俳誌『海坂』の昭和三十一年から三十四年にかけての合本三冊を見つけ、購入した。それは私がこの分野に関心があっ…

古本夜話1424 瀬田貞二と中村草田男『風船の使者』

中村草田男の『萬緑』とみすず書房の関係に絡んで、北野民夫の他にもう一人の重要人物がいる。それは瀬田貞二で、彼は平凡社の『児童百科事典』の編集者、福音館の『落穂ひろい』の著者、評論社のトールキン『指輪物語』などの翻訳者である。 これらのうちで…

古本夜話1423 中村草田男句集『萬緑』と北野民夫

浜松の時代舎で、中村草田男句集『萬緑』を見つけ、入手してきた。この句集の存在は知っていたが、実物を手にしたのは初めてで、四六判上製函入、装幀は武者小路実篤によるものだった。版元は甲鳥書林で、昭和十六年に「昭和俳句叢書」の一冊として刊行され…

古本夜話1422 みすず書房『片山敏彦の世界』

片山敏彦とみすず書房の緊密な関係は、その生誕百年を記念して平成十年に編まれた『片山敏彦の世界』にも明らかである。片山敏彦文庫の会編とされているが、もちろん編集構成は小尾俊人によるもので、帯文には「〈詩人の清らかな手がすくうと/水は玉になる…

古本夜話1421 尾崎喜八『詩集 此の糧』

高杉一郎の「片山敏彦の書斎」( 『ザメンホフの家族たち』所収)に次のような一文がある。 さて、ここに書きつけるのはつらいことだが、先生の古くからの心の友だちであり、「ロマン・ロラン友の会」の仲間でもあった尾崎喜八さんが、昭和十七年であったか…

古本夜話1420 野口冨士男『感触的昭和文壇史』と青木書店

前回の渡辺一夫との関連で、『近代出版史探索Ⅶ』1383の青木書店のことも続けて書いておこう。それは野口富士男の『感触的昭和文壇史』(文藝春秋)を読んだからでもある。 野口は青山光二、井上立士、田宮虎彦、船山馨、牧屋善三、南川潤、十返一と 青年芸術…

古本夜話1419 渡辺一夫『まぼろし雑記』と高杉一郎

これは前回ふれなかったけれど、高杉一郎『極光のかげに』の「小序」は渡辺一夫によって書かれている。そこで「僕には、他人の著書の序文など書く資格は全くない」としながらも、それに応じたのは「高杉氏及び『人間』編集長木村徳三氏の御要求に従つて」の…

出版状況クロニクル183(2023年7月1日~7月31日)

23年6月の書籍雑誌推定販売金額は792億円で、前年比8.1%減。 書籍は420億円で、同4.7%減。 雑誌は371億円で、同11.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が313億円で、同11.1%減、週刊誌は58億円で、同15.0%減。 返品率は書籍が41.5%、雑誌が48.4%で、月刊誌は41.6%、週…