出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話1212 国民教育普及会『怖ろしき夢魔・獣人』

前回、天佑社のゾラ『貴女の楽園』の巻末広告に、やはり三上於菟吉訳『怖ろしき夢魔』『苦き歓楽』、松本泰訳『アベ・ムウレの罪』が既刊として並んでいることにふれた。また『近代出版史探索Ⅵ』1176、1179で、『怖ろしき夢魔』が『獣人』として、改造社の「…

古本夜話1211 三上於菟吉訳『貴女の楽園』、天佑社、小林政治

これも三十年ほど探していたゾラの三上於菟吉訳『貴女の楽園』を入手した。同書は『ボヌール・デ・ダム百貨店』の初訳で、大正十一年に天佑社から刊行されていたが、かつては数年に一冊しか古書市場に出ないという稀覯本で、古書価も数万円すると伝えられて…

古本夜話1210 ゾラ、渡辺俊夫訳『陥落』と日本書院

ゾラの渡辺俊夫訳『陥落』をようやく入手した。これも二十年ほど探し求めていた一冊だったが、『近代出版史探索』193で推測しておいたように、やはり「ルーゴン=マッカール叢書」第十九巻の『壊滅』に他ならなかった。『陥落』は次のように始まっている。 ラ…

古本夜話1209 中央出版社「袖珍世界文学叢書」、戸田保雄訳『ゾラ集』、中島孤島訳『生の悦び』

昭和円本時代に特価本業界も世界文学全集に類する出版を試みていて、それは中央出版社の「袖珍世界文学叢書」である。その一巻は昭和五年刊行の『ゾラ集』で、そこには『生の悦び』と『呪はれたる抱擁』の二作が収録されている。それに言及する前に、まずは…

古本夜話1208 三水社と西牧保雄訳『女優ナナ』

もう一冊『女優ナナ』がある。それは大正十五年に大谷徳之助を発行者とする日本橋区蠣殻町の三水社から刊行されている。四六判並製一九八ページの一冊で、クロージング部分はナナの死と「伯林へ、伯林へ、伯林へ!」で終わり、前々回の永井荷風の『女優ナナ…

古本夜話1207 本間久と『女優ナナ』

最近になって、前回の永井荷風訳『女優ナナ』と異なる二冊の『女優ナナ』を入手している。一冊は『近代出版史探索Ⅵ』1179でリストアップしておいたように、大正時代に入っての最初の「ルーゴン=マッカール叢書」の翻訳で、本間久訳として、大正二年に東亜堂…

古本夜話1206 新声社と永井荷風『女優ナナ』

『近代出版史探索Ⅵ』に、ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の出版、翻訳、訳者に関して、十編ほど収録しておいたが、その後さらに六冊入手したので、それらも付け加えておきたい。だがその前に永井荷風『女優ナナ』の出版をめぐる一編を書いておかなければ…

古本夜話1205 加藤敬事『思言敬事』、大久保和郎、八木さわ子

みすず書房の元編集長加藤敬事の『思言敬事』(岩波書店)を読み、教えられることがあったので、それを書いてみたい。 加藤はその「出会った人々のこと」の章において、「翻訳者素描」を試み、最初に大久保和郎にふれている。大久保の名前は『近代出版史探索…

古本夜話1204 笠井鎮夫『近代日本霊異実録』『日本神異見聞伝』

前回、新潮社の「海外文学新選」のポルトガル文学の編集兼訳者として、笠井鎮夫の名前を挙げておいた。だがこの笠井には外国文学者としてのプロフィルの他に、もうひとつの側面があり、それは『日本近代文学大事典』の立項にも見えている。 笠井鎮夫 かさい…

古本夜話1203 「海外文学新選」とスキターレッツ『笞の下を潜つて』

新潮社は海外文学翻訳シリーズとして、「ヱルテル叢書」に続き、「海外文学新選」を刊行している。これは前者の倍以上の三十九冊が出され、長篇、短篇、戯曲集など多岐に編まれ、その「趣旨」は奥付の上部のところに次のように謳われている。 近代文学の未だ…

古本夜話1202 奥栄一と奥むめお『婦人問題十六講』

前回、「ヱルテル叢書」のゴーチエ『金羊毛』の訳者の奥栄一をプロフィル不明の人物として挙げなかったのは、『日本近代文学大事典』で次のように立項されていたからである。 奥 栄一 おく えいいち 明治二四・三・二七~昭和四四・九・四(1891~1969)詩人…

古本夜話1201 新潮社「ヱルテル叢書」と秦豊吉訳『若きヱルテルの悲み』

『近代出版史探索Ⅵ』1199などの『世界文芸全集』や同1170の『ツルゲエネフ全集』に先駆け、しかもパラレルに新潮社から「ヱルテル叢書」が刊行されていた。ただ私の所持しているのはケルレルの『村のロメオとユリヤ』の一冊だけで、菊半截判、柿色の鮮やかな…

古本夜話1200 メレジュコーフスキイ『神々の死』と折口信夫

人類最古の記録はすべて神話と歴史が区別されてゐないのが 実際でないか? 且、さういふ神話的歴史もしくは史詩に於 て、僕等は古代人の思想と生活とを窺ふことが出来るのだ。岩野泡鳴『悲痛の哲理』(『泡鳴全集』 第十五巻所収、国民図書、大正十一年) 本…

古本夜話1199 新潮社『世界文芸全集』

前回の譲受出版と同様に、ずっと新潮社の円本『世界文学全集』にふれてきたが、この企画も昭和を迎えていきなり出現したわけではなく、大正時代の翻訳出版の集積があって結実した円本全集に他ならない。その主たるベースとなったのは大正九年から刊行され始…

古本夜話1198 廣文堂書店、小中村清矩遺著『有聲録』、石川文栄堂

これまで譲受出版に関して、特価本や造り本出版社の多くの例を挙げてきたけれど、それらからわかるように、出版金融と人脈が錯綜し、一筋縄ではいかない世界でもある。本探索1192で、新潮社の『椿姫』の例も挙げたばかりだ。そのために先行する研究もないし…

古本夜話1197 金子健二訳『全訳カンタベリ物語』

前回、読み巧者の平田禿木が『カンタベリ物語』『千一夜物語』『デカメロン』を三大短編集成としていることにふれたが、そこまでいわれれば、これまで取り上げてこなかったチョーサー『全訳カンタベリ物語』もここで書いておくしかないだろう。同書は『近代…

古本夜話1196 平田禿木、『英国近代傑作集』、ヘンリー・ジェイムズ『国際挿話』

前回の『世界文学全集』2には、これも幸いなことに「世界文学月報」が残されていて、そこに平田禿木が「『デカメロン』に就て」という一文を寄せている。そこで禿木はチョーサーの『カンタベリイ物語』、『千一夜物語』と比較して、同じ短編集成であるけれど…

古本夜話1195 森田草平訳『デカメロン』と『補遺デカメロン』

浜松の時代舎で、新潮社の森田草平訳『補遺デカメロン』を入手してきた。これは第一期『世界文学全集』2の別冊で、『日本近代文学大事典』の「叢書・文学全集・合著集総覧」において、「『補遺デカメロン』あり」と付記されていたけれど、実物は初めて目にす…

古本夜話1194 ツルゲーネフ『文学的回想』と「トロップマンの死刑」

本探索1173のドーデ『巴里の三十年』において、ツルゲーネフの『思い出』が届いたことを記し、同書を閉じていることを既述しておいた。 そこで角川文庫にツルゲーネフ『文学的回想』(中村融訳、昭和二十六年)があったことを思い出し、読んでみた。これは一…

古本夜話1193 桜井鷗村訳『蛮人境』とその原作

前回、長田秋涛に再登場してもらったので、やはり旧幕臣の翻訳家で、同じように晩年は実業界に転身した、『近代出版史探索Ⅲ』531などの桜井鷗村にも再び言及してみる。それは友人から『蛮人境』という翻訳書を恵送されたこと、また本探索1189のイギリスの出…

古本夜話1192 デュマ・フィス『椿姫』とその翻訳史

続けて、新潮社『世界文学全集』30に収録の『サフオ』『死の勝利』を取り上げたが、もう一作も同様で、それはデュマ・フィス、高橋邦太郎訳『椿姫』である。 (『世界文学全集』30) たまたまこの巻には「世界文学月報」がそのまま残っていて、『近代出版史探…

古本夜話1191 三島由紀夫とダンヌンツィオ『死の勝利』『聖セバスチャンの殉教』

前回のドーデ『サフオ』とダンヌンツィオ『死の勝利』が、大正の初めに新潮社の「近代名著文庫」として翻訳され、昭和円本時代にいずれも『世界文学全集』30に収録されたことを既述しておいた。(「近代名著文庫」) (『世界文学全集』30) 佐藤義亮の『出版お…

古本夜話1190 ドオデエ、武林無想庵訳『サフオ』

このようなことを書くと、奇異に思われるかもしれないが、小学生の頃、私はドーデのファンであった。それは本探索1173でふれなかったけれど、昭和三十年代には各種の児童向けの世界文学全集が出されていて、そこにドーデの作品も含まれ、『風車小屋だより』…

古本夜話1189 ヴィゼッテリイとゾラの英訳

前回の井上勇も『制作』の翻訳に際し、「ヴイゼツテリイ監督のもとに出版された英訳」も参照したと「覚書」に記していた。前々回の山本昌一は『ヨーロッパの翻訳本と日本自然主義文学』の「ゾラと荷風・枯川」において、従来の所謂「ヴィゼッテリイ本」ヴィ…

古本夜話1188 第百書房、井上勇訳『制作』、高島正衛

ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の大正時代の譲受出版に関して、ずっとトレースしてきたので、ここでもう一冊付け加えておこう。 それは本探索1179でも挙げておいた井上勇訳『制作』で、大正十一年に聚英閣から刊行されているが、この前後巻2冊は未見で…

古本夜話1186 ゴンクール『売笑婦エリザ』、アラン・コルバン『娼婦』、『ナナ』

本探索1173のドーデ『巴里の三十年』 において、フローベールの家での晩餐会にはゴンクールの『令嬢エリザ』も供されていた。ゴンクール兄弟に関しては『近代出版史探索Ⅴ』825、826で取り上げているが、この作品は弟のジュールの死後、一八七七年に兄のエド…

古本夜話1187 三星社の水上齊訳『全訳ボワ゛リー夫人』に至るまで

本探索1184の『ボワ゛リー夫人』がようやく出てきたので、ここで書いておく。黒川創の『国境』において、夏目漱石の仲介で明治三十四年に『満洲日々新聞』に連載されたフロオベルの『ボワ゛リー夫人』は植民地の新聞だったこともあり、ほとんど知られていな…

古本夜話1185 テーヌ『英文学史』と『文学史の方法』

ずっとゾラにふれてきたので、彼に大きな影響を与えたとされ、本探索1177で金森修も挙げていたテーヌ『英文学史』も取り上げておこう。 テーヌの『英文学史』は一八六三年にアシェット書店から三巻で出版され、六四年に一巻が加えられ、六九年に五巻に分かれ…

古本夜話1184 水上斎訳『酒場』と木村幹訳『居酒屋』『夢』

成光館版「ルーゴン=マッカール叢書」は本探索1179『死の解放』、同1180『芽の出る頃』の他に、もう一冊あり、それは水上斎訳『酒場』で、昭和三年十一月の再版とされている。「改訂」と付されているが、それは大正十一年の天佑社版の譲受出版を意味している…

古本夜話1183 伊佐襄『正しい英語の知識』とユスポフ『ラスプーチン暗殺秘録』

前回の伊佐襄と高橋襄治に関してもネット検索したところ、後者はヒットしなかったけれど、前者には『ラスプーチン暗殺秘録』や『正しい英語の知識』という訳書、著書があるとわかった。そこでこれらも早速入手することになった。 先に『正しい英語の知識』を…