出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話1188 第百書房、井上勇訳『制作』、高島正衛

ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の大正時代の譲受出版に関して、ずっとトレースしてきたので、ここでもう一冊付け加えておこう。 それは本探索1179でも挙げておいた井上勇訳『制作』で、大正十一年に聚英閣から刊行されているが、この前後巻2冊は未見で…

古本夜話1186 ゴンクール『売笑婦エリザ』、アラン・コルバン『娼婦』、『ナナ』

本探索1173のドーデ『巴里の三十年』 において、フローベールの家での晩餐会にはゴンクールの『令嬢エリザ』も供されていた。ゴンクール兄弟に関しては『近代出版史探索Ⅴ』825、826で取り上げているが、この作品は弟のジュールの死後、一八七七年に兄のエド…

古本夜話1187 三星社の水上齊訳『全訳ボワ゛リー夫人』に至るまで

本探索1184の『ボワ゛リー夫人』がようやく出てきたので、ここで書いておく。黒川創の『国境』において、夏目漱石の仲介で明治三十四年に『満洲日々新聞』に連載されたフロオベルの『ボワ゛リー夫人』は植民地の新聞だったこともあり、ほとんど知られていな…

古本夜話1185 テーヌ『英文学史』と『文学史の方法』

ずっとゾラにふれてきたので、彼に大きな影響を与えたとされ、本探索1177で金森修も挙げていたテーヌ『英文学史』も取り上げておこう。 テーヌの『英文学史』は一八六三年にアシェット書店から三巻で出版され、六四年に一巻が加えられ、六九年に五巻に分かれ…

古本夜話1184 水上斎訳『酒場』と木村幹訳『居酒屋』『夢』

成光館版「ルーゴン=マッカール叢書」は本探索1179『死の解放』、同1180『芽の出る頃』の他に、もう一冊あり、それは水上斎訳『酒場』で、昭和三年十一月の再版とされている。「改訂」と付されているが、それは大正十一年の天佑社版の譲受出版を意味している…

古本夜話1183 伊佐襄『正しい英語の知識』とユスポフ『ラスプーチン暗殺秘録』

前回の伊佐襄と高橋襄治に関してもネット検索したところ、後者はヒットしなかったけれど、前者には『ラスプーチン暗殺秘録』や『正しい英語の知識』という訳書、著書があるとわかった。そこでこれらも早速入手することになった。 先に『正しい英語の知識』を…

古本夜話1182 伊佐襄訳『ジェルミナール』と高島襄治訳『ゼルミナール』

昭和に入ると、ゾラの『ジェルミナール』は伊佐襄訳『ジェルミナール』(『新興文学全集』15,平凡社、昭和五年)、高島㐮治訳『ゼルミナール』(改造社、同九年)として刊行されている。 (伊佐襄訳『ジェルミナール』、本の友社復刻)(『ゼルミナール』)…

古本夜話1181 中央社出版部『ゾラ著作異状なし』

前回、関口鎮雄訳『芽の出る頃』を取り上げ、私が所持しているのは大正十二年の金星堂版の上下本ではなく、昭和二年の合本の成光館版で、こちらは特価本出版社による譲受出版であることを既述しておいた。また同書が『ジェルミナール』で、訳者の関口のプロ…

古本夜話1180 関口鎮雄訳『芽の出る頃』と堺利彦訳『ジェルミナール』

前回は大正時代のゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」翻訳をリストアップしたので、金星堂の『芽の出る頃』、アルスの堺利彦訳『ジェルミナール』を挙げておいた。だがそこで言及できなかったこともあり、ここで書いておきたい。それは前回の『獣人』と同じく…

古本夜話1179 三上於菟吉訳『獣人』と坂井律訳『死の解放』

ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の翻訳は大正時代後半が最盛期で、国立国会図書館編『明治・大正・昭和翻訳文学目録』(風間書房)を確認してみると、次のようにリストアップできる。類似した試みを『近代出版史探索』193で行なっているけれど、私は論創…

古本夜話1178 宇高伸一訳『ナナ』と三好達治

前回、大正十一年にゾラの『ナナ』が宇高伸一全訳で、『世界文芸全集』7として刊行され、大ベストセラーとなり、新潮社が新社屋を建設するに至り、それがナナ御殿とよばれたというエピソードを記しておいた。(『世界文芸全集』) この宇高については『日本…

古本夜話1177 ゾラ『実験小説論』、『パスカル博士』、金森修『科学的思考の考古学』

ゾラが「ルーゴン=マッカール叢書」の第一巻『ルーゴン家の誕生』(伊藤桂子訳、論創社)を刊行するのは一八七一年で、その理論とされる『実験小説論』を上梓するのは八〇年で、拙訳もある「同叢書」の第九巻『ナナ』の出版後だった。日本における『実験小説…

古本夜話1176 松本恵子訳『アベ・ムウレの罪』とパラドウ

前回の『フロオベエル全集』の『聖者アントワヌの誘惑』ではないけれど、ドーデの『巴里の三十年』に見えるゾラの『ムレー司祭』も、『アベ・ムウレの罪』として、やはり改造社の「ゾラ叢書」で翻訳刊行されていた。それは昭和五年の「同叢書」第二篇として…

古本夜話1175 庄司浅水、ブックドム社、フローベル『愛書狂の話』

前回の改造社版『フロオベエル全集』第四巻には、拙稿「庄司浅水と『愛書狂』」(『古本屋散策』所収)ですでにふれている。だがそれは同巻に「愛書狂」が収録されていたことによるものだ。 (改造社版) その後、ブックドム社のフローベル著、庄司浅水訳『愛…

古本夜話1174 フロベエル、広瀬哲士訳『聖アントワアヌ』と双樹社

フローベールの家での晩餐会の席に供せられていた『聖アントワーヌの誘惑』は一八七四年=明治七年に刊行されている。 一八四五年にフローベールはイタリア旅行で、ジェノヴァのバルビ宮において、ブリューゲルの「聖アントワーヌの誘惑」を見た。そしてその…

古本夜話1173 ドーデ、萩原彌彦訳『巴里の三十年』

前回、トルストイやドステエーフスキーの日記や書簡を収録した新潮社の「人と芸術叢書」にふれたが、その第四編がドオデエの『巴里の三十年』であることを知った。この訳者が『支那思想のフランス西漸』(第一書房、昭和八年)の後藤末雄だと承知していたけ…

古本夜話1172 西宮藤朝『近代十八文豪と其の生活』

前々回の佐藤義亮の発言にみたように、大正時代を迎えると、新潮社は外国文学の翻訳出版が活発になっていく。 それらをたどる前に、その外国文学の翻訳出版に関連する恰好の一冊を拾っているので、これを紹介しておきたい。そのタイトルは『近代十八文豪と其…

古本夜話1171 松本苦味、ツルゲーネフ『春の水』、文正堂書店

前回の『ツルゲネエフ全集』の生田春月訳『春の波』は入手していないが、それにあたる松本苦味訳『春の水』は見つけている。『近代出版史探索Ⅱ』249で、金桜堂の「パンテオン叢書」と松本苦味訳、ゴオリキイ『どん底』を取り上げ、内藤加我の金桜堂の前身が…

古本夜話1170 新潮社『ツルゲエネフ全集』と生田春月訳『初恋』

新潮社はやはり大正七年から『ツルゲエネフ全集』全十巻を刊行している。それには前史があって、佐藤義亮は「出版おもひ出話」(『新潮社四十年」所収』で、明治四十年頃に外国文学の翻訳出版をツルゲーネフから始めようと思ったと述べ、次のように続けてい…

古本夜話1169 勝本清一郎と女たち

浜松の時代舎で、勝本清一郎の『前衛の文学』を入手してきた。これは昭和五年に新潮社ら刊行されたもので、『日本近代文学大事典』の勝本の立項において、書影と解題も見える。タイトルと並んで、装幀が村山知義であることはこの一冊の時代的位相を物語って…

古本夜話1168 吉井勇『こひびと』、新潮社「現代自選歌集」、『吉井勇集』

やはり籾山書店から大正六年に吉井勇の歌集『こひびと』が出されている。これも菊半截判で、一ページに二首が収録され、最初の一首からして「恋に生き恋に死ぬべきいのちぞと思い知りしも君あるがため」とあり、まさにタイトルにふさわしいオープニングとい…

古本夜話1167 三星社『青い鳥』、若月紫蘭、植竹書院「薔薇叢書」

これも浜松の時代舎で購入してきた一冊だが、マーテルリンク氏作、宮崎最勝解説『青い鳥』で、大正十四年に三星社出版部からの刊行である。 『近代出版史探索Ⅱ』281と227において、三星社が三陽堂、東光社と並んで、植竹書院の紙型と出版物を引き継いだ特価…

古本夜話1166 植竹書院「現代代表作叢書」、正宗白鳥『まぼろし』、三陽堂

前々回の籾山書店の「胡蝶本」と併走するように、大正三、四年に植竹書院から「現代代表作叢書」が刊行されていた。そのラインナップを示す。 1 森田草平 『煤煙』 2 鈴木三重吉 『珊瑚樹』 3 谷崎潤一郎 『麒麟』 4 田山花袋 『小春傘』 5 正宗白鳥 『まぼ…

古本夜話1165 籾山書店、自費出版、堀口大学『月光とピエロ』

近代出版史や文学史において、籾山書店が高浜虚子の俳書堂を引き継ぎ、「胡蝶本」を刊行したことは知られていても、自費出版を手がけていた事実はそれほど周知でないと思われるので、続けて書いておこう。しかもしそれは堀口大学の詩集などで、彼は大正七年…

古本夜話1164 高浜虚子、俳書堂、『ホトトギス』

俳書堂編『俳句の研究』と題する菊判上製、五六八ページ、一円五十銭の一冊が手元にあるけれど、とても疲れた裸本で、背文字はほとんど読める状態にはない。 冒頭の俳書堂主人が記す「凡例」によれば、本書は明治三十一年十月の東京版『ホトトギス』第二巻第…

古本夜話1163 籾山書店、「胡蝶本」、東枝書店

前回、三教書院の「いてふ本」を取り上げたからには、籾山書店の「胡蝶本」にもふれておくべきだろう。前者は袖珍文庫の国文学叢書、後者は文芸書の代表的叢書で、そのアイテムはまったく異なっているけれど、いずれも明治末期から大正にかけての刊行であり…

古本夜話1162 昭和十年代の「いてふ本」

本探索1135の金星堂=土方屋の福岡益雄に先駆けるようにして、明治末に大阪から出て、やはり東京で国文学叢書などの出版社を興した人物がいる。 それは鈴木種次郎で、出版社は『近代出版史探索Ⅱ』304の三教書院、国文学叢書は「いてふ本」という小型本とされ…

古本夜話1161 正宗白鳥『人を殺したが・・・』と井伏鱒二

ハイネ『ハルツの旅』の巻末広告「聚芳閣の長篇小説」という一ページを見ていて、紅野敏郎『大正期の文芸叢書』における「新作家叢書」に連想が及んだので、そのことを書いてみよう。 まずそのうちの九作を挙げてみる。 1 中西伊之助 『一人生記録』 2 近藤…

古本夜話1160 ハイネ、古賀龍視訳『ハルツの旅』

金星堂と聚芳閣がリンクする一編を書いておこう。 大正十四年に聚芳閣からハイネの散文詩集『ハルツの旅』が古賀龍視訳で刊行されている。これはハイネが一八二四年にハルツ地方を旅した際に書かれた、詩も含んだ「散文」旅行記といっていい。詩だけのほうは…

古本夜話1159 ヒユネカア『エゴイスト』と「海外芸術評論叢書」

聚芳閣は前回の『院本正本日本戯曲名作大系』とほぼ同時期に、「海外芸術評論叢書」を刊行している。ただこの「叢書」は『全集叢書総覧新訂版』や紅野敏郎『大正期の文芸叢書』にも見当らないこともあり、全巻点数や明細が確定されていない。 (『院本正本日…