出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話1357 宮嶋資夫とゾラの『金』

これは『宮嶋資夫著作集』(全八巻、慶友社、昭和五十八年)を入手するまで、その作品の存在も書かれていたことも知らなかったのだが、『宮嶋資夫著作集』第五巻に唯一の長編小説『金』が収録されていたのである。この作品は宮嶋が『英学生』の広告取りや編…

古本夜話1356 スタンダール、阿部敬二訳『アンリ・ブリュラールの生涯』、冨山房百科文庫

宮嶋資夫の自伝といっていい『遍歴』には男女、有名無名を問わず、多くの人たちが登場している。しかし書かれたのは戦後の昭和二十五年だが、たどられているのは大正から昭和戦前のことなので、プロフィル不明の人物も少なくない。ないものねだりになってし…

古本夜話1355 飲食物史料研究会編『趣味の飲食物史料』

浜松の時代舎で、飲食物史料研究会編『趣味の飲食物史料』という一冊を見つけ、購入してきた。大阪の公立社書店を版元として、昭和七年に刊行されている。宮嶋資夫たちと『飲料商報』の関係をトレースしてきたこともあるし、私以外にはこのような書籍を取り…

古本夜話1354 百瀬晋、高木六太郎、『飲料商報』

宮嶋資夫の『遍歴』は本探索1289の『エマ・ゴールドマン自伝』ではないけれど、登場人物人名事典を編んでみたいという誘惑にかられるが、それは断念するしかない。そうはいっても『日本アナキズム運動人名事典』が代行してくれる人々も多いからだ。それでも…

古本夜話1353 宮嶋資夫と大下藤次郎

宮嶋資夫の『遍歴』は戦後になってからの回想で、それぞれの確固たる証言や資料に基づくものではなく、彼が思い出すままに書いていった自伝の色彩が強い。そのために時系列、人間関係、社会主義とアナキズム人脈なども交錯し、そこには出版資金、編集、翻訳…

古本夜話1352 宮嶋資夫『遍歴』と古田大次郎『死の懺悔』

宮嶋資夫の『遍歴』におけるアナキズムから仏門への転回点をたどってみると、その発端は関東大震災から昭和初年にかけてのことだったと思われる。 実際に『遍歴』のタイトルが物語るように、宮嶋はこの自伝的著作を「巡礼と遍歴」の章から始め、関東大震災か…

古本夜話1351 笹井末三郎と柏木隆法『千本組始末記』

宮嶋資夫の『禅に生くる』では彼を天龍寺へと誘ったのは「笹井君」で、それをきっかけにして宮嶋はその毘沙門堂の堂守となり、仏門の生活へと入っていったのである。 この「笹井君」は笹井末三郎のことで、柏木隆法によって『千本組始末記』(海燕書房、平成…

古本夜話1350 宮嶋資夫と『禅に生くる』

神近市子の近傍にいた宮嶋資夫の『坑夫』は復刻版が出されていないようなので、『日本近代文学大事典』における書影しか見ていないが、その後、彼が仏門に下り、「蓬州」として著した『禅に生くる』は浜松の時代舎で入手している。四六版上製函入で、昭和七…

古本夜話1349 八木麗子と宮嶋資夫『坑夫』

神近市子の夫の鈴木厚の陸軍画報社との関係から、少しばかり迂回してしまったが、『神近市子自伝』に戻る。八木麗子に言及しなければならないからだ。神近は八木麗子、佐和子姉妹に関して『蕃紅花』の同人で、姉は『万朝報』の記者、妹は神田の英仏和高女の…

古本夜話1348 三つの『家庭雑誌』

もう一冊、博文館の雑誌があるので、これも取り上げておく。それは『家庭雑誌』で、大正十四年四月増大号である。菊判二〇八頁、編輯兼発行人は中山太郎治、すなわち『近代出版史探索』49などの中山太郎に他ならない。(『家庭雑誌』大正13年1月号) 表紙は…

古本夜話1347 民友社「現代叢書」と『極東の外交』

これは意図したわけではないが、本探索において、民友社に関してふれることが少なかった。それは前回既述しておいたように、民友社が当時は看板雑誌『国民之友』を有し、多くの書籍も刊行する大手出版社だったにもかかわらず、意外にその書籍を拾っていない…

古本夜話1346 徳富蘇峰、民友社、『国民之友』

本探索1343で引いた拙稿「正宗白鳥と『太陽』」において、白鳥の雑誌読書史が『国民之友』から始まっていたことにふれている。しかも岡山の読書少年だった白鳥は、雑誌や書籍を郵便通販で入手していたのであり、明治二十九年に東京専門学校に入るために上京…

古本夜話1345 博文館『日露戦争実記』

博文館の雑誌といえば、『太陽』創刊の前年の明治二十七年創刊の『日清戦争実記』、同三十七年の『日露戦争実記』にふれないわけにはいかないだろう。 (第1号) 前者については拙稿「近代文学と近代出版流通システム」(『日本近代文学』第65号掲載、日本近…

古本夜話1344 昭和の『太陽』臨時増刊『明治大正の文化』

『太陽』臨時増刊『明治名著集』と異なり、判型は菊判の「博文館創業四十周年記念」として、やはり増刊の『明治大正の文化』が出ている。これも浜松の典昭堂で一緒に買い求めてきたものである。昭和二年六月の発売だから、おそらく大正六年にも「同三十周年…

古本夜話1343 『太陽』記念増刊『明治名著集』

『大日本』から『日本及日本人』『我観』とたどってきたが、本探索1334で満川亀太郎が『三国干渉以後』で語っていたように、これらは「当時唯一の高級政治雑誌『太陽』」を範とする四六倍判を踏襲していたのである。 その『太陽』創刊号も近代文学館の「複刻…

古本夜話1342 『中野秀人全詩集』と「真田幸村論」

花田清輝、中野正剛、『我観』『真善美』といえば、それらにまつわる前後史があるので、そうした事実にも言及しておかなければならない。 まずは前史からふれてみる。中野正剛の弟秀人は早大中退後、大正九年に『文章世界』の懸賞当選論文「第四階級の文学」…

古本夜話1341 中野正剛と花田清輝『復興期の精神』

先に続けて言及してきた『我観』と我観社は戦後におけるアヴァンギャルド的な出版の水脈へとリンクしていくのである。それは近代出版史の事実からすれば、まったく意外でもないのだけれど、『我観』創刊号、及び我観社の花田清輝『復興期の精神』(初版、昭…

古本夜話1340 石井敏夫コレクション『絵はがきが語る関東大震災』と写真ジャーナリズムの勃興

前回の関東大震災絵葉書のことについて、もう一編書いておきたい。 絵葉書については『震災に巻けない負けない古書ふみくら』(「出版人に聞く」6、論創社)の佐藤周一が最も詳しいので、存命であれば、彼に問い合わせることができるのだが、残念なことに同…

古本夜話1339 紀田順一郎『日本語発掘図鑑』と「日本未曽有関東大震災実況絵葉書」

前回の『我観』創刊号において、雑誌が「芸術品」か「商品」かの問題を提起しているように思われるけれど、一枚の写真も見当らないことは意図的な編集だと考えられる。それは『我観』のような言論誌にとって、写真はふさわしくないとの判断によっているのだ…

古本夜話1338 『我観』創刊号

前回三宅雪嶺が創刊した『我観』第一号が手元にある。これは近代文学館の「複刻日本の雑誌」(講談社)の一冊で、当たり前だが、古本屋で入手した本探索1327の『日本及日本人』の実物よりもきれいであり、現存する最良の『我観』創刊号をもとにした複刻だと…

古本夜話1337 三宅雪嶺と『志賀重昂全集』

『日本及日本人』(『日本人』)が三宅雪嶺や志賀重昂を中心とする政教社から刊行され、そこに前回の鵜崎鷺城『薩の海軍 長の陸軍』、中島端『支那分割の運命』、コナン・ドイル、藤野鉦齋訳『老雄実歴談』、『青木繁画集』、長谷川如是閑『額の男』『倫敦』…

古本夜話1336 鵜崎鷺城『頭を抱へて』と興成館書店

前回の大正二年の『日本及日本人』第六〇四号のトップ書名記事に鷺城学人「誤られたる大隈伯」が挙げられていることにふれた。これは「人物評論」としての連載の一編のようで、武内理三他編『日本近現代史小辞典』(角川書店)を参照し、大正二年三月の政治…

古本夜話1335 政教社『日本及日本人』

前回の満川亀太郎『三国干渉以後』において、大正三年に彼は『大日本』の編集者となり、その六年近くに及ぶ雑誌記者生活の中で、「日本国家改造と亜細亜復興問題」を生涯の事業と決意したと述べている。 (論創社版) この『大日本』の立項は他に見出せない…

古本夜話1334 満川亀太郎『三国干渉以後』

前回既述しておいたように、下中弥三郎『維新を語る』の出版をきっかけとして、維新懇話会が発足し、下中がその代表世話人となり、そのメンバーに満川亀太郎も名を連ねていた。 実はこの満川も『維新を語る』の翌年に平凡社から自伝『三国干渉以後』を刊行し…

古本夜話1333 下中弥三郎『維新を語る』と維新懇話会

前回の維新社だが、『平凡社六十年史』はダイレクトに言及していないけれど、昭和六年の『大百科事典』の刊行後、満州事変などを背景として、下中弥三郎の社会活動が活発になっていったことが記述されている。これを補足しているのは『下中弥三郎事典』の「…

古本夜話1332 陸軍画報社と中山正男『一軍国主義者の直言』

『神近市子自伝』において、日蔭茶屋事件で出獄後の大正九年に、彼女が四歳年少の鈴木厚と結婚したことが語られている。彼は早稲田大学を中退した評論家で、文学、歴史、社会主義に通じていて、辻潤が連れてきたのだった。 ところがその後、三人の子どもをな…

古本夜話1331 雑誌委託制の始まりと婦人誌の全盛

明治三十年代後半から大正にかけて、多くの女性誌が創刊され、大正時代には神近市子や望月百合子たちが新聞の婦人記者となり、昭和に入ると婦人誌が全盛となっていく。だが二十世紀の昭和時代が婦人誌の全盛だったことを記憶している読者や出版人はもはや少…

古本夜話1330 阿部真之助『現代世相読本』

『神近市子自伝』に戻ると、そこには思いがけない人物が出てくる。それは神近の東京日日新聞社の婦人記者としての社会的ポジションと英語ができる女性という評判が作用していたのであろう。ところがそうしたキャリアも、大正五年に大杉栄との恋愛問題で反故…

古本夜話1329 中西悟堂と『野鳥』

前々回、石川三四郎の近傍の人脈として中西悟堂の名前を挙げたが、彼は思いがけないことに『日本アナキズム運動人名事典』にも長く立項され、それは『日本近代文学大事典』も同様なので、悟堂にまつわる一編も書いておこう。 小林照幸の「評伝・中西悟堂」と…

古本夜話1328 上野英信編『鉱夫』と新人物往来社『近代民衆の記録』

前回の最後のところで、本探索で続けて言及してきた田口運蔵、片山潜、近藤栄蔵、永岡鶴蔵たちと加藤勘十が社会主義運動史において、炭鉱と鉱(坑)夫というラインでつながり、そこにゾラの『ジェルミナール』の翻訳も必然的にリンクしていたことにふれておい…