出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1527 巌谷小波編『大語園』

本探索の平凡社は『大辞典』によって第二次経営破綻を迎えてしまうのだが、同時期にやはり売れ行きが芳しくなかったと思われるシリーズを刊行していた。それは昭和十年に始まる『大語園』である。まずは『平凡社六十年史』を引いてみる。 巌谷小波編の『大語…

古本夜話1526 平凡社版『世界興亡史論』と『印度史観』

前回ふれた平凡社の昭和六年の第一次経営破綻の前年には円本時代が終わりを迎えていたにもかかわらず、多くの全集、叢書、講座物が出されていて、それらの自転車操業的出版と雑誌『平凡』の失敗が重なり、倒産ではないにしても、開店休業の状態に追いこまれ…

古本夜話1525 平凡社『吉川英治全集』、『衆文』、『青年太陽』

『近代出版史探索Ⅵ』1058などで続けて言及した新潮社の『昭和長篇小説全集』は、円本時代の大衆文学出版の系譜上に成立した企画だが、当初の予定と異なる収録作品の事実から考えても、それらの作家たちが人気を集め、よく読まれていたことを物語っていよう。…

古本夜話1524 「家庭図書館」「総合大学」としての『大百科事典』

『近代出版史探索Ⅲ』427などで見てきたように、平凡社では昭和二年の『現代大衆文学全集』から始まり、出版社としては最多の円本の版元となっていく。この事実に関してはそれらをリストアップした拙稿「平凡社と円本時代」(『古本探究』所収)を参照され…

古本夜話1523 平凡社『大辞典』

平凡社が前回の『や、此は便利だ』という辞典から始まったことや下中弥三郎の出版構想からしても、『大百科事典』=エンサイクロペディアに対応する『大辞典』=ディクショナリーの企画を考えたのは当然の帰結であった。それに『大百科事典』のために増えて…

古本夜話1522 平凡社『や、此は便利だ』と「新しい女」

平凡社に関してはかつて「平凡社と円本時代」(『古本探究』所収)、『近代出版史探索Ⅱ』240などを書いているけれど、その後 入手したものもあるので、これらを取り上げてみる。 『平凡社六十年史』には「創業前史」として、下中弥三郎の生い立ちから大正三…

古本夜話1521 伊藤整『雪明りの路』、百田宗治、椎の木社

これも『近代出版史探索Ⅵ』1008の百田宗治と椎の木社にリンクしているので、ここで書いておこう。伊藤整の最初の著書は詩集『雪明りの路』である。同書を収録の『伊藤整全集』(第一巻、新潮社)を確認してみると、日本近代文学館版複刻に先駆け、昭和二十七…

古本夜話1520 河出書房『白秋詩歌集』

続けて『萩原朔太郎全集』『佐藤惣之助全集』にふれたが、同じように戦時下において、河出書房から『白秋詩歌集』も出版されている。その白秋も完結を待たず、昭和十七年に亡くなっている。昭和十六年八月初版、十八年三版三千部発行と奥付にある『白秋詩歌…

古本夜話1519 千家元麿『冬晴れ』と新しき村出版部「人類の本」

前回の佐藤惣之助や『近代出版史探索Ⅵ』1031の百田宗治たちとともに、中央公論社版『日本の詩歌』13 に収録されているのは千家元麿で、彼はやはり同巻の福士幸次郎や佐藤と大正元年に同人誌『テラコッタ』を創刊している。 その千家の詩集ではないけれど、短…

古本夜話1518 桜井書店『佐藤惣之助全集』

前回の萩原朔太郎と同じく、昭和十七年五月に続いて亡くなり、翌年にやはり全集が刊行された詩人がいる。それは佐藤惣之助で、彼は朔太郎と同様に『近代出版史探索Ⅵ』1052の詩話会に属し、朔太郎とともに『日本詩人』の編集に関わっただけでなく、朔太郎の妹…

古本夜話1517 小学館版『萩原朔太郎全集』と版画社『定本青猫』

萩原朔太郎は昭和十七年に亡くなり、その翌年から十九年にかけて、小学館から『萩原朔太郎全集』十二巻が刊行されている。 (第三巻『詩の原理』) この出版に関して、『小学館五十年史年表』(小学館社史調査委員会編輯・発行、昭和五十年)はその第三巻『…

古本夜話1516 萩原朔太郎個人雑誌『生理』と椎の木社

続けて室生犀星にふれてきたが、萩原朔太郎のことに戻る。朔太郎は昭和八年に個人雑誌『生理』を創刊し、詩、アフォリズム、エッセイ、評論を寄せ、『郷愁の詩人の与謝蕪村』の連載は蕪村の再評価を促すものだった。これは『近代出版史探索Ⅱ』370でも言及し…

古本夜話1515 改造社『小酒井不木全集』

前々回の江戸川乱歩「押絵と旅する男」を掲載した『新青年』昭和四年六月増大号は、奇しくも小酒井不木追悼号というべき出だろう。口絵写真には四月三日の葬儀場面、及びそのデスマスクなども収められているし、「小酒井不木氏を偲ぶ」は恩師の永井潜東大教…