2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧
(愛蔵版) 水色はもちろんだが、水に関する物語も「ブルーコミックス」に属すると見なし、いくつか書いてみよう。漆原友紀の『蟲師』は連載中からのTVアニメ化に加え、大友克洋の脚本、監督で映画化されたこともあり、その特異な動物でも植物でもない生命の…
浜松の時代舎で東亜堂の佐々木邦訳『全訳ドン・キホーテ』を見つけたのであるが、その同じ棚には三十冊以上の佐々木の戦前の小説が並んでいて壮観であった。そのうちの一冊も購入してきたので、その本のことも書いておこう。それは昭和十六年に長隆舎書店か…
前々回に植竹書院のことを確認するために、宇野浩二の『文学三十年』などを再読し、島村抱月と片上伸の名前で出された『ドン・キホーテ』の翻訳は「村山何とかいう人」の名訳で、自分も牧野信一も愛読したし、植竹書院としては最も大きい仕事だったという記…
『Glaucos/グロコス』(以下『グロコス』とする)のタイトルの意味は最後の第4巻に至って、紅海におけるフリーダイビングで、200メートルの深度に挑むプロジェクト名にして、ギリシャ神話に登場する海の神とようやく紹介される。コミックでもあるし、里中満…
「胡蝶本」『刺青』前回植竹書院を取り上げたので、今回は籾山書店についてふれてみよう。といって私は初版本や美本にも通じていないこともあって、籾山書店の所謂「胡蝶本」に関してではない。もちろんほるぷ出版の復刻で、森鷗外の『青年』や谷崎潤一郎の…
硨島の『ロシア文学翻訳者列伝』には植竹書院のことも書かれている。硨島も参考資料に挙げているように、植竹書院については宇野浩二が『文学の三十年』(中央公論社)や『文学的散歩』(改造社、後に『文学の青春期』復刻沖積舎)の中で言及しているが、こ…
わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です。宮澤賢治「春と修羅」もう一編、月にまつわるタイトルのコミックを取り上げておこう。それは最近作者の土田世紀が若くして亡くなったこともあって、ささやかな追悼に代えたいと思ったか…
硨島亘の『ロシア文学翻訳者列伝』は第三部第三章の「早稲田大学とロシア文学」が圧巻であり、そこに矢口達の名前も出てきて、次のような知らなかった事実を教えてくれる。 矢口の関心は恐らく泰西文学全般にあり、昭和の円本景気に伍して、かつての「アカギ…
前回取り上げた土方定一の『近代日本文学評論史』は、本連載203でふれた『ロシア文学翻訳者列伝』(東洋書店)の範となった一冊だと著者の硨島亘が書いている。そのこともあり、この機会に硨島の著作によって教えられ、啓発された事柄を何編か挿入しておきた…
前々回の『俺と悪魔のブルーズ』におけるテーマとしてのアメリカ音楽、しかも私はその悪魔を、フランシス・ベーコンが描いた肖像のようなと記したが、彼の画集が重要な役割を占め、さらに前回の『月光の囁き』のタイトルを組み合わせたかのような作品がある…
本連載209で、昭和九年に矢野文夫による全訳『悪の華』が耕進社から刊行され、その出版にあたって明治文学談話会の山室静と土方定一の助力を得たこと、耕進社が談話会の機関紙『明治文学研究』の印刷兼発行所だったことを既述しておいた。この事実は矢野もま…
前回左翼系出版社として補足を加えることができた一社に木星社書院があり、その社主が福田久道だと記しておいた。福田に関しては『日本近代文学大事典』に立項されているので、まずはそれを引いてみる。明治二十八年生まれは判明しているが、出身地、経歴、…
出版状況クロニクル50(2012年6月1日〜6月30日)今年もすでに半年が過ぎた。 出版危機は相変わらず深刻化する一方であるが、表面的には大きな倒産は起きていない。いわば擬似的な凪の状態に置かれているといっていい。しかしそれが嵐の前の静けさという不気…