出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話1462 大日本文明協会とリップマン『世論』

浜松の典昭堂で、ウォルター・リップマンの『世論』を入手した。しかもそれは裸本で、背タイトルの旧字の『與論』がかろうじて読める一冊だった。それだけでなく、版元は大日本文明協会で、『近代出版史探索Ⅲ』569などの「大日本文明協会叢書」の一冊として…

古本夜話1461 弘津堂書房と樋口弘、佐々元十共訳『世界を震撼させた十日間』

ジョン・リードの『世界をゆるがした十日間』は戦前に『世界を震撼させた十日間』として刊行されている。それは昭和四年に樋口弘、佐々元十共訳で、弘津堂書房から出版され、四六判並製四一七ページだが、当然のことながら伏字も多く、戦後の岩波文庫版に見…

古本夜話1460 ジョン・リード『世界をゆるがした十日間』

前回のモスクワの「魔窟」のようなホテル・ルックスだが、『エマ・ゴールドマン自伝』の最も長い三〇〇ページ近くに及ぶ第52章「ロシア一九二〇-二一年」において、誰が滞在していたのか、あらためて確認してみた。するとエマたちは訪れているけれど、実際…

古本夜話1459 マイエンブルグ『ホテル・ルックス』

ここで少し趣向を変えてみる。本探索の目的のひとつは近代の出版を通じて、どのようにして「想像の共同体」が形成されていったか、またそこに集ったインターナショナルな人々の出会いはどのようなものだったのかを浮かび上がらせることにある。そのような典…

古本夜話1458 岩上順一『歴史文学論』と森鷗外「歴史其儘と歴史離れ」

入手したのは二十年以上前になるのだが、そのままずっと放置しておいた一冊があった。それは機械函入、岩上順一『歴史文学論』で、昭和十七年に中央公論社から刊行されている。 読まずにほうっておいたのは、そうしたそっけない装幀に加え、岩上を知らなかっ…

古本夜話1457 新日本文学会と中野重治『話四つ・つけたり一つ』

昭和十年代後半の戦時下と同様に、戦後の昭和二十年代前半の出版業界も不明な事柄が多い。その背景には国策取次の日配の解体に伴う東販や日販などの戦後取次への移行、出版社・取次・書店間の返品と金融清算、三千社以上に及ぶ出版社の簇生と多くの倒産など…

古本夜話1456 『世界評論』創刊号と大西巨人『精神の氷点』

続けてふれてきた小森田一記が手がけた『世界評論』創刊号は手元にある。それは例によって近代文学館の「復刻日本の雑誌」(講談社)の一冊としてで、WORLD REVIEWという英語タイトルも付され、昭和二十一年二月一日発行のA5判一一二ページ仕立てである。(…

古本夜話1455 横浜事件、『日本出版百年史年表』『出版事典』

前回、『出版人物事典』の小森田一記の立項において、彼が横浜事件で検挙されたことを見ている。この横浜事件はいわば出版業界の大逆事件と称すべきもので、本探索でも取り上げておかなければならない事件であり、ここで書いておきたい。 横浜事件は大東亜戦…

古本夜話1454 世界評論社、小森田一記、尾崎秀実『愛情はふる星のごとく』

これは戦後を迎えてのことだが、ゾルゲ事件で獄中にあった尾崎秀実が妻の英子と娘の楊子に宛てた書簡集『愛情はふる星のごとく』がベストセラーになっている。それは昭和二十一年からのことで、出版ニュース社編『出版データブック1945~1996』のベストセラ…

古本夜話1453 義和団の乱と大山梓編『北京籠城日記』

前回、渡正元が普仏戦争とパリ・コミューンに遭遇し、明治四年にその記録が『法普戦争誌略』として刊行され、それが二万部に及んだこと、及び大正三年に第一次世界大戦の勃発を受け、『巴里籠城日誌』として再刊されたことを既述しておいた。(東亜堂版) だ…

古本夜話1452 渡正元『巴里籠城日誌』

かつて拙稿「農耕社会と消費社会の出会い」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)で、久米邦武編『特命全権大使 米欧回覧実記』(岩波文庫)に言及している。岩倉使節団がフランスを訪れたのは、普仏戦争とパリ・コミューンの余燼さめやらぬ1872年であり…

出版状況クロニクル186(2023年10月1日~10月31日)

23年9月の書籍雑誌推定販売金額は1078億円で、前年比2.6%増。 書籍は668億円で、同5.3%増。 雑誌は409億円で、同1.6%減。 雑誌の内訳は月刊誌が353億円で、0.1%増、週刊誌は55億円で、同11.1%減。 返品率は書籍が29.3%、雑誌が39.4%で、月刊誌は37.8%、週刊…