出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話350 安藤更生と春陽堂版『銀座細見』

今和次郎、吉田謙吉編著の『モデルノロヂオ』が、昭和五年に春陽堂から刊行されたことを既述しておいた。その翌年にやはり同様に、安藤更生の『銀座細見』が出されている。これは中公文庫での復刊を見ているが、『モデルノロヂオ』と同じく春陽堂版で読まな…

古本夜話349 石原憲治、秋葉啓、聚楽社『日本農民建築』

石原大塚巧芸社、緑草会、横山信の『民家図集』と今和次郎の『日本の民家』の系譜を引く石原憲治の『日本農民建築』全十六輯が、聚楽社から刊行され始めたのは、昭和九年である。『民家図集』全十二輯の出版は昭和五年から六年にかけてだったので、まさに符…

混住社会論44 花村萬月『鬱』(双葉社、一九九七年)

『〈郊外〉の誕生と死』の脱稿後に出されたり、読んだりしたこともあって、拙著ではいずれも取り上げることができなかったけれど、本連載2、3の桐野夏生『OUT』、同29の篠田節子『ゴサインタン』に加え、今回の花村萬月『鬱』は新たに出現した、ほぼ同時…

古本夜話348 高梨由太郎、洪洋社『建築写真類聚』、『写真集失われた帝都東京』

現在はどうかわからないけれど、かつて柏書房は公共、大学図書館市場に向けた営業体制を重視していたこともあって、それらを対象とする高定価の復刻版をかなり刊行していた。そのひとつに本連載5で触れているように、フックスのドイツ語版原書『風俗の歴史…

古本夜話347 横山信『図解本位新住家の設計』と『民家図集』

これは復刻された『写真集よみがえる古民家―緑草会編「民家図集」』を実際に見てもらうしかないのだが、ここに収録された民家の写真はすべてが玄妙なアウラを内包しているかのような印象で迫ってくる。それは今和次郎『日本の民家』所収の写真も同様であるけ…

混住社会論43 鈴木光司『リング』(角川書店、一九九一年)

横浜郊外の新築高層マンションと工場と新興住宅地の風景から始まる、鈴木光司の『リング』をあらためて読むと、一九七〇年代半ばに角川書店の角川春樹が仕掛けたメディアミックス化による横溝正史ブームから、すでに十五年ほど過ぎていたことを実感してしま…

古本夜話346 今和次郎『日本の民家』と『写真集よみがえる古民家―緑草会編「民家図集」』

今和次郎と吉田謙吉のバラック装飾社から考現学へ至るアウトラインをたどってきたが、ここでは少し時代を戻し、大正時代の今と民家、柳田国男との関係にふれてみたい。今の主著としては『日本の民家』(岩波文庫)があり、これは現在でも民家を考える古典に…

古本夜話345 加藤彰一の原始社とその出版物

前回ふれた塩澤珠江の『父・吉田謙吉と昭和モダン』の口絵写真のブックデザインのところを見ていて、吉田が昭和二年に原始社から出されたピリニヤーク著『日本印象記』(井出孝平、小島修一共訳)の装丁もしていることを知った。実はここで取り上げたいのは…

混住社会論42 筒井康隆『美藝公』(文藝春秋、一九八一年)

前々回ふれたディックの『高い城の男』ではないけれど、もうひとつの日本の戦後を想定したSFがある。しかもそれは本連載37のリースマン『孤独な群衆』や『何のための豊かさ』(後者も加藤秀俊訳、みすず書房)、及びリースマンなどのアメリカ社会学の成果を…

古本夜話344 吉田謙吉『築地小劇場の時代』と金星堂

バラック装飾社と考現学に携わる前後における吉田謙吉のことを一編書いておこう。今和次郎にもいくつかの顔があったように、吉田もまた様々な活動に加わり、本連載205で大正時代の相次いだ劇団や試演会の創立年表を掲載しておいたが、吉田はその中の踏路…

古本夜話343 今和次郎、吉田謙吉編著『モデルノロヂオ』『考現学採集』

バラック装飾社に携わった後、今和次郎と吉田謙吉は考現学に向かった。これはバラック装飾社と異なり、二人を編著として『モデルノロヂオ「考現学」』(春陽堂、昭和五年)、『考現学採集』(建設社、同六年)が残されている。私の所持する二冊は裸本であり…

出版状況クロニクル66(2013年10月1日〜10月31日)

出版状況クロニクル66(2013年10月1日〜10月31日)『週刊東洋経済』(10/12)が「今、始めなきゃ!就活」特集で、「業界最新天気図一覧」を掲載している。その中で出版業界だけが最低ランクの「大雨」で、そこからの脱出の可能性はまったくないとされ、「市…