出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2019-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話980 椋鳩十『鷲の唄』

既述したように、前回の三角寛がサンカ小説「山窩お良」を発表したのは昭和七年だったが、ほぼ同時期に椋鳩十がやはり山窩小説を書いていた。椋に関しても、『日本近代文学大事典』の立項の前半を引いてみる。 椋鳩十 むくはとじゅう 明治三八・一・二二~昭…

古本夜話979 三角寛とサンカ小説

本連載974の「山窩」の補注のようなものを何回か書いてみたい。 「サンカ」という言葉を知ったのは昭和三十年代後半の中学時代だった。テレビで連続時代劇『三匹の侍』が放映されていて、谷川で女性が半裸になり、背中を見せるシーンがあった。現在では何…

古本夜話978 和歌森太郎『修験道史研究』

前回、堀一郎との関係から、和歌森太郎が『民間伝承』に寄稿するようになり、昭和二十四年には編集委員、二十六年から翌年十二月号の終刊まで、編集兼発行者を務めていたことを既述しておいた。 だがそれらについて、『[現代日本]朝日人物事典』の和歌森太…

古本夜話977『民間伝承』、堀一郎、和歌森太郎

前回は『民間伝承』の戦時下における流通販売の六人社と生活社への委託、及び戦後の六人社との再びのコラボレーションをたどってきたが、編集兼発行人に関しては守随一と橋浦泰雄にふれただけだった。 守随も木曜会同人で、東大新人会のメンバーだった。しか…

古本夜話976『民間伝承』の流通と販売

前回の柳田国男篇『海村生活の研究』が、民間伝承の会の後身である日本民俗学会から、昭和二十四年に刊行されたことを既述しておいた。姉妹篇ともいえる『山村生活の研究』は戦前の十二年に民間伝承の会から出されている。大東亜戦争と敗戦をはさんでいるけ…

古本夜話975 日本民俗学会『海村生活の研究』と戦後の柳田国男

前回の後藤興善の『又鬼と山窩』に収録されている「豊後水道への旅」と「萬弘寺の市」は、昭和十二年に柳田国男の木曜会メンバーを中心とする全国海村調査に対し、日本学術振興会の補助金が出されたことで実現した記録である。また「恠音・恠人」「神仏の恩…

古本夜話974 後藤興善『又鬼と山窩』

ジェネップ『民俗学入門』の訳者、柳田国男『民間伝承論』の講義筆記者兼構成者としての後藤興善に続けてふれてきた。だがその後藤のプロフィルは明確につかめず、『柳田国男伝』の記述からたどってみると、明治三十三年兵庫県生まれ、国文学専攻で、昭和八…

古本夜話973 柳田国男『民間伝承論』、共立社『現代史学大系』、後藤興善

バーンの『民俗学概論』やジェネップの『民俗学入門』の翻訳出版は、柳田国男にとっても自らの手で概論書をという意欲を駆り立てたにちがいない。それは昭和九年に『民間伝承論』として結実し、日本民俗学の立場を規定し、『柳田国男伝』にしたがえば、「日…

古本夜話972 ジェネップ『民俗学入門』

本連載936のバーンの岡正雄訳『民俗学概論』に続いてとは言えないけれど、その五年後の昭和七年にヴァン・ジェネップの後藤興善訳『民俗学入門』が、郷土研究社から刊行されている。 その第一章は「フォークロアの歴史」と題され、次のように始まっている…

古本夜話971 三国書房、「女性叢書」、江馬三枝子『飛騨の女たち』

前回の六人社の「民俗選書」として刊行されなかったが、江馬三枝子の『白川村の大家族』が挙げられていたことを既述しておいた。 本連載489などで、江馬修が『山の民』を飛騨の郷土研究誌『ひだびと』に連載し、その編集や執筆を支えたのは妻の三枝子だっ…

出版状況クロニクル139(2019年11月1日~11月30日)

19年10月の書籍雑誌推定販売金額は938億円で、前年比5.3%減。 書籍は470億円で、同3.2%減。 雑誌は468億円で、同7.4%減。 その内訳は月刊誌が380億円で、同6.0%減、週刊誌は87億円で、同12.9%減。 返品率は書籍が37.0%、雑誌は43.3%で、月刊誌は43.5%、週刊…

古本夜話970 六人社、「民俗選書」、橋浦泰雄『民俗採訪』

『近代出版史探索』で、六人社と『民間伝承』にふれているが、『民間伝承』が六人社から発売される昭和十五年五月号から、六人社の出版広告が掲載されるようになり、そのひとつが「民俗学文庫」で、実際には「民俗選書」として刊行されるに至る。 その「近刊…

古本夜話969 岩田準一『志摩の海女』

前々回の田中梅治『粒々辛苦・流汗一滴』の他にもう一冊、「アチック・ミューゼアム彙報」として出された著作を持っている。ただそれは原本ではなく、戦後になって復刻された岩田準一の『志摩の海女』である。これは「同彙報 第38」の『志摩の蜑女』として、…

古本夜話968 赤松啓介、栗山一夫、『民俗学』

前回の赤松啓介(栗山一夫)に関しては後に三笠書房や唯物論研究会のところで言及するつもりでいたが、彼が昭和十三年に『民俗学』(三笠書房)を上梓し、柳田民俗学を批判していることを考えれば、続けてふれておくべきだろう。 それに昭和六十年代には明石…

古本夜話967 「アチック・ミューゼアム彙報」と田中梅吉『粒々辛苦・流汗一滴』

『民間伝承』の第一号には「最初の世話人」として、柳田国男、橋浦泰雄、守随一などを含めた十四人の名前が挙がっているが、意外なのは宮本常一を始めとして、澤田四郎作、桜田勝徳が名前を連ねていることである。 佐野眞一の宮本と澁澤敬三を描く『旅する巨…

古本夜話966 萩原正徳、三元社、『旅と伝説』

昭和十年に創刊された『民間伝承』を読んでいると、雑誌の紹介欄に多くの民俗学に関連するリトルマガジンの新しい号の概要が記され、これらのトータルなコラボレーションによって、日本の民俗学も造型、展開されてきたことを実感させる。 その中に必ず『旅と…

古本夜話965 青磁社、米岡来福、桑田忠親『千利休』

伊波普猷『古琉球』を刊行した青磁社に関しては本連載393などでふれておいたように、この版元は山平太郎を発行者としていたが、出版社の戦時下の企業整備により、合併した八雲書林の鎌田敬止が編集長となり、折口信夫の『死者の書』を刊行したことを既述…

東京古書組合 トークイベントのお知らせ

この度、第29回ドゥマゴ文学賞を受賞しました。 その受賞記念として、12月7日(土)、東京古書組合主催のトークイベントが開催されます。 トークイベント要綱 ご希望の方は、下記のサイトからお申し込み下さい。 申し込み

古本夜話964 稲村賢敷『沖縄の古代部落マキョの研究』

もう一冊の沖縄書は稲村賢敷の『沖縄の古代部落マキョの研究』で、昭和四十三年に販売所を琉球文教図書株式会社として刊行されている。定価は五弗とあり、本土復帰以前の出版だったことを伝えている。 (『沖縄の古代部落マキョの研究』) 奥付の「著者略歴…

古本夜話963 眞堺名安興と『沖縄一千年史』

もう二冊ほど沖縄書があるので、続けて書いてみる。 一冊は眞堺名安興、島倉龍治著『沖縄一千年史』で、昭和二十七年の四版とあり、発行者は福岡市の親泊政博、発行所は住所を同じくする沖縄新民報社、発売所は琉球文教図書株式会社となっている。 (『沖縄…

古本夜話962 笹森儀助『南嶋探験』

柳田国男は昭和三十六年に筑摩書房から刊行された『海上の道』(岩波文庫)の中で、笹森儀助の『南島探検』に言及し、次のように述べている。 笹森儀助の『南島探験』という一書は、明治二十六年(一八九三)かに、この人が沖縄県の島々を巡歴して、還ってき…

古本夜話961 比嘉春潮、崎浜秀明編訳『沖縄の犯科帳』

本連載958で、伊波普猷『古琉球』の「後記」が比嘉春潮と角川源義の連名で書かれていることを既述しておいた。後者の角川は昭和二十年に角川書店を創業し出版業界ではよく知られているので、ここでは前者の比嘉にふれてみたい。たまたま彼と崎浜秀明編訳…

出版状況クロニクル138(2019年10月1日~10月31日)

19年9月の書籍雑誌推定販売金額は1177億円で、前年比3%減。 書籍は683億円で、同0.2%増。 雑誌は494億円で、同7.3%減。その内訳は月刊誌が409億円で、同8.4%減、週刊誌は85億円で、同1.5%減。 書籍のプラスは4.7%という出回り平均価格の大幅な上昇によるもの…

古本夜話960 柳田国男と『山島民譚集』

前回ふれておいたように、金田一京助の『北蝦夷古謡遺篇』は「甲寅叢書」、知里幸恵の『アイヌ神謡集』は「爐辺叢書」の一冊として、それぞれ郷土研究社から刊行されたのである。(『北蝦夷古謡遺篇』) (『アイヌ神謡集』) 「甲寅叢書」に関しては、拙稿…

古本夜話959 金田一京助『北の人』と知里幸恵『アイヌ神謡集』

伊波普猷の『古琉球』の「改版に際して」の中に、青磁社の山平太郎が見え、「北人の『ユーカラ概説』に対して、南人の『おもろ概説』が欲しい」といわれ、それは少なくとも一ヶ年を要するので、代わりに『古琉球』の「改版」を提案したとの言があった。 その…

古本夜話958 伊波普猷『古琉球』

南島研究の嚆矢が、前回もその名を挙げた伊波普猷の『古琉球』であることは今さらいうまでもないだろうし、現在では今世紀に入って岩波文庫化もされ、読むことに関してもアクセスが容易になっている。ところがその出版史をたどってみると、それが困難な道筋…

古本夜話957 「爐辺叢書」と本山桂川『与那国島図誌』

前回の『生蕃伝説集』と併走するように、同時代に南島文献が出され始めていた。柳田国男研究会編『柳田国男伝』(三一書房)は、「甲寅叢書」の継続事業ともいうべき郷土研究社の「炉(ママ)辺叢書」が、南島研究史に大きな意味を持ち、全三十六冊のうち八冊が…

古本夜話956 佐藤融吉、大西吉寿『生蕃伝説集』と杉田重蔵書店

きだみのるは『道徳を否む者』の中で、台湾の町の印象に関して、「アルジェリア・モロッコに範を取ったと云われる台北の町は美しく、そして歩道は張り出した二階の下になって、日射が遮られていた」と記している。そして「植民地に漂う異種文化は少年の中に…

古本夜話955 トラピスト修道院と間世潜『トラピスチヌ大修道院』

きだみのるの『道徳を否む者』において、「私」は十五歳の少年時代を回想する。「少年」は台湾の父のところから東京の叔父の家に引き取られ、中学時代を送っていた。しかしそれは台湾の自然と光に包まれた暮らしと異なり、「溝泥の霧の中で生活しているよう…

古本夜話954 きだみのる『道徳を否む者』

もう一編、ジョゼフ・コットに関して書いてみる。 前回取り上げた小説 『道徳を否む者』は『きだみのる自選集』第二巻に収録されている。これは明らかにきだみのる=山田吉彦の自伝というべきものだが、「山村槙一の手記」によるとのサブタイトルが付されて…