2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧
(いずれも新潮文庫) 前々回の萩原朔太郎の「大森駅前坂」のセピア色の写真を見ていて、確かセピア色の風景といった言葉が佐藤春夫の小説にあったことを思い出した。実は本連載で佐藤の『田園の憂鬱』を取り上げるべきか考え、読んでいたのだが、その背景は…
岩橋邦枝の『評伝長谷川時雨』において、明治十二年生まれの時雨が六歳で秋山源泉学校に入学し、それが秋山校長の自宅を学校とする代用小学校で、十三歳まで寺子屋教育を受けたことが述べられている。明治十年代にはまだ公立学校が普及しておらず、代用小学…
かつて「夫婦で出版を」(『文庫、新書の海を泳ぐ』所収、編書房)という一文を書き、三上於菟吉の妻の長谷川時雨も出版者だった事実にふれたことがあった。その拙稿は、高見順の『昭和文学盛衰史』(文春文庫)における「長谷川時雨は、文学史にはさしたる…
前回、前々回と近藤富枝の『馬込文学地図』や萩原朔太郎の写真集『のすたるぢや』、谷崎潤一郎の『痴人の愛』を題材とし、続けて荏原郡馬込村や大森町の生活や風景などを見てきた。それらは大正半ばから昭和初期にかけてのもので、田園都市会社(これまで田…
前回非凡閣刊行の『新選大衆小説全集』第八巻に『三上於菟吉集』が含まれていることを既述した。それゆえにこの出版社にも言及しておこう。この全二十四巻に及ぶ著者と収録作品細目は『日本近代文学大事典』第六巻に収録されているので、それを参照してほし…
三上於菟吉の戦前の出版物を六冊持っている。それは前回挙げたサイレン社の『青空無限城』(昭和十年)の他に、次の五点である。 『青空無限城』 1 『妙齢』 (二松堂書店、大正十二年) 2 『白鬼』 (新潮社、大正十五年) 3 『三上於菟吉集』 (『新選大衆…
前回の谷崎潤一郎の『痴人の愛』の主要な舞台が省線電車の大森駅に近い洋館であり、その「お伽噺の家」に関して長い言及をしたばかりだ。しかしこの作品において、主人公はマゾヒストであるけれども、模範的な「サラリー・マン」と設定されているので、同時…
青蛙房の岡本経一がサイレン社で新米編集者を務めていたことは既述したが、そのサイレン社の本を三冊持っている。それは三上於菟吉の『青空無限城』、スタンダールの齋田禮門訳『パルムの僧院』、菊地甚一の随筆『罪無罪』である。三上の小説はともかく、昭…
岡本経一の『私のあとがき帖』の「江戸好み三好一光」の中に、思いがけないふたつの出版社が出てくる。詳細な言及ではないけれど、ここでしか見つからない記述だと考えられるので、ふれておくべきだろう。そのふたつの出版社とは大村書店と磯部同光社である…
(新潮文庫) 谷崎潤一郎の『痴人の愛』は田園都市株式会社が開発を進めていた荏原郡の大森町を主たる舞台としているが、この作品が大阪で書かれたことに関してはあまり言及されていない。横浜に住んでいた谷崎は一九二三年箱根で避暑中に関東大震災に遭い、…
出版状況クロニクル78(2014年10月1日〜10月31日)9月の書籍雑誌推定販売金額は1508億円で、前年比0.7%減。その内訳は書籍が同0.4%減、雑誌は1.1%減で、前月より持ち直しているが、それは前年より送品稼働日が1日多かったことによっている。 返品率は書籍…