出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話373 大鳳閣書房『俳文学大系』、坂戸彌一郎、蘇武緑郎「花街風俗叢書」

前々回、東方書院と三井昌史についてふれておいたのだが、その東方書院を別の出版社の月報で見出したので、それも報告しておきたい。これは書き忘れてしまったけれど、かつてやはり東方書院の『昭和新纂国訳大蔵経』のタイトルだけを挙げたことがあり、昭和…

混住社会論54 長嶋有『猛スピードで母は』(文藝春秋、二〇〇二年)

長嶋有の『猛スピードで母は』は団地で暮らす母と息子の生活をテーマとしている。この小説を読みながら、私が思い浮かべたのは江藤淳の『成熟と喪失』における、安岡章太郎の『海辺の光景』への言及の一節である。そこで江藤は次のようなことを記していた。…

古本夜話372 野口米次郎私家版『鳥居清長』

書誌研究懇話会編『全集叢書総覧新訂版』(八木書店)の浮世絵の出版のところを見ていると、東方書院の『浮世絵大成』だけでなく、大鳳閣からも『浮世絵大家集成』、また芸艸堂の『浮世絵志』、高見沢木版社の『浮世絵稀版帖』、第一書房の『浮世絵版画名作…

古本夜話371 東方書院『浮世絵大成』と『仏教聖典講義大系』

ずっと大判美術書についてふれてきた。それらの出版の流れは本連載243で言及した昭和円本時代の平凡社の『世界美術全集』の刊行によって、出版業界にとっても読者にとっても、広く認知された出版形式となったと思われる。平凡社の企画の目論見は美術の大…

混住社会論53 角田光代『空中庭園』(文藝春秋、二〇〇二年)

角田光代の六編の連作からなる『空中庭園』は、「ラブリー・ホーム」という、十六歳を前にした女子高生「あたし」=マナの語りと視点に基づく作品から始まっている。「あたし」はクラスメートの「森崎くん」とラブホテル野猿に制服姿のままできているのだ。…

古本夜話370 中央美術社、河東碧梧桐『画人蕪村』、萩原朔太郎『郷愁の詩人与謝蕪村』

本連載362で既述したように、近代出版史における美術書出版は、美術雑誌『みづゑ』『中央美術』『アトリエ』などの創刊とパラレルに活発になっていったと見なしていい。そしてその中心にいたのは、本連載163の『美術辞典』や243の平凡社の『世界美…

古本夜話369 第一書房と若月保治『近松人形浄瑠璃の研究』

前々回の『スピード太郎』刊行の前年の昭和九年に、やはり第一書房から若月保治の『近松人形浄瑠璃の研究』が出されている。これは箱入四六倍判、九一〇ページに及ぶ大著で、第一書房としてもこれ以上の大冊は刊行していないだろうし、戦前の出版業界におい…

混住社会論52 宮沢章夫『不在』(文藝春秋、二〇〇五年)

前回は小説におけるファンタジーのようなコンビニ、前々回は現代詩に描かれたイメージとしてのコンビニを見てきたが、そうした色彩ゆえに現実のコンビニの名称は使われていなかった。そこで今回は同じフィクションながら具体的にコンビニ名を散りばめ、そこ…

古本夜話368 樺島勝一画、織田小星作『正チヤンの冒険』

宍戸左行の『スピード太郎』に続いて、もうひとつモダニズム漫画というべき作品を紹介しておきたい。それは樺島勝一画、織田小星作『正チヤンの冒険』で、大正時代に出現していることを考えれば、モダニズム漫画の嚆矢とも位置づけられるだろう。これも早く…

古本夜話367 第一書房と宍戸左行『スピード太郎』

前々回、岡本一平の漫画小説『人の一生』における映画の影響にふれた。だが残念なことにこれは判型が四六判で、漫画と文章が混在化していたこともあって、それぞれもコマに映画手法を見出しても、『人の一生』自体が映画のようだとは感じられなかった。しか…

出版状況クロニクル69(2014年1月1日〜1月31日)

出版状況クロニクル69(2014年1月1日〜1月31日)本クロニクルにおいて、危機の中にある出版業界を、社会要因と構造から限界集落にたとえ、そこで起きている現象を出版敗戦ともよんできた。そして今年はその不可避の帰結として、出版業界のあからさまな解体が…