出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

ブルーコミックス論

ブルーコミックス論60 星野之宣『ブルー・ワールド』(講談社、一九九六年)

運命ノ導クトコロ、イズレノ道ナリト辿リユカン ヴェルギリウス 前回ふれた『諸星大二郎(西遊妖猿伝の世界)』の中に、「西遊鼎談」が収録されている。それは八四年における手塚治虫、諸星大二郎、星野之宣の座談会で、諸星と星野が手塚の影響を受け、さらに…

ブルーコミックス論59 諸星大二郎『栞と紙魚子と青い馬』(朝日ソノラマ、一九九八年)

私が諸星大二郎を読み始めたのは、一九七八年に「SF怪奇短篇集」として刊行された『アダムの肋骨』(奇想天外社)からなので、三十年以上にわたって諸星のファンだったことになる。 (奇想天外社版) (集英社版)久しぶりに取り出して見ているうちに、またして…

ブルーコミックス論58 森岡倫理『青、青、青』(Bbmfマガジン、二〇〇九年)

森岡倫理の『青、青、青』の英語タイトルblue blue blue、そう、句読点を除くと先に取り上げた岡崎京子の作品と同じということになる。「Blue Blue Blue」( 『恋とはどういうものかしら?』所収)そのイントロダクションを示す。 『そこは誰もが訪れることの…

ブルーコミックス論57 伸たまき『青また青』(新書館、一九九〇年)

『青また青』 (獸木野生短篇集2) 作家のビダー・ボイドは画家のフェルと知り合う。フェルはビダーのファンで、七千部の処女作『午前の光』の一冊を買い、その後の雑誌に発表された短編を追いかけて読んでいるという。フェルは自分がホモセクシャルだと告白し…

ブルーコミックス論56 水原賢治『紺碧の國』(少年画報社、二〇〇二年)

真夏の空の下にある中学校の屋上の高架水槽の上で、ひとりの少女が夢想していた。「そこへ行けば、願いが叶えられるという、そこは忘れられた世界最後の楽園、わたしはそこへ行きたい。ZONE―聖域―……。」と。その少女は羽木陽美子(ヒミコ)で、そこにもうひとりの…

ブルーコミックス論55 吉原基貴『あおいひ』(講談社、二〇一〇年)

『あおいひ』には六つの話が収録され、タイトルの「あおいひ」そのものにまつわる、職業がそれぞれ異なる五人の物語が描かれている。裏表紙のキャッチコピーは「誰もが何者にもなれず、漆黒の闇の中に“あおいひ”を見る夜がある。それは希望の光か、幼き日の…

ブルーコミックス論54 岡崎京子「Blue Blue Blue」(『恋とはどういうものかしら?』所収、マガジンハウス、二〇〇三年)

前回岡崎京子によるボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』にふれたこともあり、表題作でも長編でもない短編だけれど、ここで彼女のブルーコミックにも言及しておこう。その「Blue Blue Blue」は九六年に『アンアン』に発表されたこともあってか、岡崎の多く…

ブルーコミックス論53 ジョージ朝倉『バラが咲いた』(講談社、二〇〇三年)

なぜ『バラが咲いた』がブルーコミックスに挙げられているかというと、英訳タイトルとしてBlue Rose Bloomed とあるように、このバラは他ならぬ青いバラを意味しているからだ。しかもこれは五つの作品から編まれているのだが、もう一編「青色的少年」(Le Ga…

ブルーコミックス論52 原作朝松健・漫画桜水樹『マジカルブルー』(リイド社、一九九四年)

物語のプロローグとして、Dを横にしたマークを掲げた魔術スクールの授業シーンが描かれ、そこで学んだひとりの女子学生が魔術儀式を行ない、ペットを虐殺したり、男子高生を死に追いやったりする場面がまず提出されている。魔術スクールと彼女の背後にいる…

ブルーコミックス論51 名香智子『水色童子K.K.』(小学館、二〇〇四年)

この『水色童子K.K.』を取り上げるべきか、いささか迷ったのだが、これもタイトルはブルーに属しているし、挙げておくべきだと判断したのである。本連載で後述することになるボリス・ヴィアンに『北京の秋』(岡村孝一訳、早川書房)というブラックユーモア…

ブルーコミックス論50 吉田基已『水の色 銀の月』(講談社、二〇〇六年)

『水の色 銀の月』のストーリーを紹介することから始めてみよう。これは2巻本だが、1巻と2巻は登場人物が同じであるにしても、主人公も物語も異なるものなので、それは1巻についてだと了承されたい。亜藤森は日吉ヶ丘芸術大学の6年生で、2浪に2留を重ねてい…

ブルーコミックス論49 かわかみじゅんこ『軽薄と水色』(宙出版、二〇〇七年)

今回の『軽薄と水色』の「水色」は、前回のような夏休みを具体的に表象する色彩ではなく、若さ、それは「軽薄」の代名詞でもあるが、に伴う様々な感情のメタファーと見なせるだろう。それを示すかのようにfrivolité et blue clair というフランス語訳タイト…

ブルーコミックス論48 大石まさる『みずいろパーフェクト』(少年画報社、二〇〇八年)

前回と物語はまったく異なるにしても、夏であるから、それにふさわしい一編を続けてみよう。大石まさるのその『みずいろパーフェクト』を手にする以前に、同じ少年画報社から出された「水惑星年代記」シリーズを読んでいた。この五部作に、大石の水に関する…

ブルーコミックス論47 グレゴリ青山『マダムGの館 月光浴篇』(小学館、二〇一〇年)

われ月明の砂丘にまろびて蜃気楼(かいやぐら)を観たり、楼上に一女仙ありてわれにくさぐさの恠(あや)しき物語などなしけり。横溝正史「かいやぐら物語」猛暑が続いているので、暑気払いのような一編を記してみたい。 一九九〇年に出版された石川賢治の写真集…

ブルーコミックス論46 豊田徹也『アンダーカレント』(講談社二〇〇五年)

『アンダーカレント』と題された作品がある。鮮やかな紫みの青とされる花色のA5判のカバーに、一人の女性が川に沈んだオフェーリアのように横たわっている姿が描かれ、上の白い部分にこれもまた花色抜きで、そのタイトルが記されている。作者は豊田徹也で、…

ブルーコミックス論45 漆原友紀『水域』(講談社、二〇一一年)

(愛蔵版) 水色はもちろんだが、水に関する物語も「ブルーコミックス」に属すると見なし、いくつか書いてみよう。漆原友紀の『蟲師』は連載中からのTVアニメ化に加え、大友克洋の脚本、監督で映画化されたこともあり、その特異な動物でも植物でもない生命の…

ブルーコミックス論44 たなか亜希夫『Glaucos/グロコス』(講談社、二〇〇四年)

『Glaucos/グロコス』(以下『グロコス』とする)のタイトルの意味は最後の第4巻に至って、紅海におけるフリーダイビングで、200メートルの深度に挑むプロジェクト名にして、ギリシャ神話に登場する海の神とようやく紹介される。コミックでもあるし、里中満…

ブルーコミックス論43 土田世紀『同じ月を見ている』(講談社、一九九八年)

わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です。宮澤賢治「春と修羅」もう一編、月にまつわるタイトルのコミックを取り上げておこう。それは最近作者の土田世紀が若くして亡くなったこともあって、ささやかな追悼に代えたいと思ったか…

ブルーコミックス論42 marginal×竹谷州史『月の光』(エンターブレイン、二〇〇五年)

前々回の『俺と悪魔のブルーズ』におけるテーマとしてのアメリカ音楽、しかも私はその悪魔を、フランシス・ベーコンが描いた肖像のようなと記したが、彼の画集が重要な役割を占め、さらに前回の『月光の囁き』のタイトルを組み合わせたかのような作品がある…

ブルーコミックス論41 喜国雅彦『月光の囁き』(小学館、一九九五年)

少し前の山田たけひこの『マイ・スウィーテスト・タブー』に見たように、現代コミックは性とエロティシズムのテーマに果敢に挑み、これまでの文学や映画とはまた異なる様々な達成を遂げてきたと断言していいだろう。本連載でもそれらを取り上げてきたが、か…

ブルーコミックス論40 平本アキラ『俺と悪魔のブルーズ』(講談社、二〇〇五年)

ミシェル・パストゥローは『青の歴史』(松村恵理、松村剛訳、筑摩書房)において、色の歴史とはすべて社会史であり、その中でも青は歴史的問題を内包していると述べている。そして古代から近代に至る青の意味の変容をたどり、十八世紀末になってヨーロッパ…

ブルーコミックス論39 中村珍『羣青』(小学館、二〇一〇、一一、一二年)

中村珍の『羣青』を取り上げなければとずっと思っていたけれども、まだ下巻が出ていないこともあって、先延ばししてきた。その出版事情を記せば、上巻が二〇一〇年三月、中巻が一一年二月に出ているので、この刊行ペースから考えて、下巻が近々出されるので…

ブルーコミックス論38 山田たけひこ『マイ・スウィーテスト・タブー ―蒼の時代』(小学館、二〇〇六年)

山田たけひこは『柔らかい肌』『初蜜』から『マイ・スウィーテスト・タブー』に至るまで、一貫してぎこちないまでに真摯に「性」を物語のテーマにすえてきたといえるだろう。しかもその「性」の物語は、若き登場人物たちにおけるエネルギーとして表出し、そ…

ブルーコミックス論37 山岸涼子『甕のぞきの色』(潮出版社、二〇一〇年)

(潮出版社) (秋田書店プリンセスコミック) (秋田書店) その魅惑的なタイトルゆえに、「山岸涼子スペシャルセレクション」4の『甕のぞきの色』を購入してしまった。ただこの作品は記憶の片隅に残っていたので、初出を見てみると、一九九二年十一月から…

ブルーコミックス論36 金子節子『青の群像』(秋田書店、一九九九年)

金子節子の『青の群像』は、裏表紙カバーの内容紹介のコピーにあるように、その「青」を含んだタイトルはそのまま「青春群像劇」を意味していて、色彩の「青」の喚起するイメージは伴っていない。しかし主人公たちは男女の二卵性双生児で、姉は「碧(みどり)…

ブルーコミックス論35 原作李學仁・漫画王欣太『蒼天航路』(講談社、一九九五年)

前回の江戸川啓視と石渡洋司の『青侠ブルーフッド』は秦の始皇帝時代に端を発し、墨子を祖とする青幇への弾圧を物語のベースに置いていた。 秦の始皇帝といえば、ただちに秦始皇陵兵馬俑坑を思い浮かべてしまう。これは一九七〇年代に発見された中国古代文明…

ブルーコミックス論34 原作江戸川啓視、漫画石渡洋司『青侠ブルーフッド』(集英社、二〇〇五年)

前回の『プルンギル』の原作者江戸川啓視によるもう一編のコミックがある。それは石渡洋司の『青侠ブルーフッド』で、冒頭に次のような注記が置かれている。それはこれから語られる物語、事件、登場人物、対立する組織はすべてフィクションであるという、小…

ブルーコミックス論33 原作江戸川啓視、作画クォン・カヤ『プルンギル―青の道―』(新潮社、二〇〇二年)

新宿の廃ビルで、身体中の関節を外され、血を抜かれ、捻じ曲げられた若い女性の奇怪な全裸死体が発見された。死体のそばの壁には血で書かれたハングルの文章が残されていた。ちょうど一ヵ月前にも横浜で同じ状態の女の死体が見つかっていて、明らかに連続殺…

ブルーコミックス論32 高橋ツトム『ブルー・へヴン』(集英社、二〇〇二年)

高橋ツトムの『ブルー・へヴン』は映画『ポセイドン・アドベンチャー』から『タイタニック』に代表される、大型客船パニックドラマの系列に連なる作品と位置づけられるだろう。 巨大な豪華客船が冒頭の見開き二ページに描かれ、その次にバンドを背景に歌手が…

ブルーコミックス論31 タカ 『ブルーカラー・ブルース』(宙出版、二〇一〇年)

前回、貸本漫画の読者として想定された「非学生ハイティーン」という言葉が、一九七〇年以後、成立しなくなったことを既述した。それと同様に工場労働者を意味する「ブルーカラー」も死語となり、ほとんど使われなくなってしまった。それは「ブルーカラー」…