2020-01-01から1年間の記事一覧
ずっと春陽堂に関連して書いてきた。前回でひとまず終えるのだが、その間に新たに入手した本によって、不明だったことの一端が判明したこともあり、それらにそれらにふれておきたい。 本探索1075で、昭和円本時代の『日本随筆大成』の編輯部とその代表者の早…
前回の青山毅編著『文学全集の研究』に十二種の円本が挙げられていたが、そのうちの改造社『日本文学大全集』だけはこれまで取り上げてこなかったので、ここで続けて言及してみる。 この四六倍判の個人文学全集は、二十年ほど前にはよく古本屋で見かけたけれ…
文学全集といえば、「月報」が付きものだが、私の架蔵している全集類はこれまで既述してきたように、ほとんど一世紀前の昭和円本時代の出版物が多い。それにすべてが古本屋で買ったものなので、「月報」が揃っていることはないし、そのことは『明治大正文学…
前回、春陽堂『明治大正文学全集』の編集校訂者たちを挙げ、その中に泉斜汀もいたことを示しておいたが、彼に関しては言及していないので、ここで一編を書いておこう。 それは近年、泉斜汀の探偵小説が『百本杭の首無死体』(幻戯書房)や『泉斜汀探偵小説撰…
ずっと続けて春陽堂にふれてきたこともあり、『明治大正文学全集』にも言及するしかない。『明治大正文学全集』は本探索1062の改造社『現代日本文学全集』と異なり、全六十巻を揃えているにもかかわらず、これまで飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』…
春陽堂の奥付、著作権、印税のことばかり続けて書いてきたので、もう一編を加えてみる。今回は江戸川乱歩に登場を願おう。 乱歩は『新青年』の大正十二年四月号に処女作「二銭銅貨」を発表し、続けて、「一枚の切符」「恐ろしき錯誤」、十三年に「二廃人」「…
前回、買切原稿料から印税制度に移行したのは昭和円本時代を通じてのことだったと述べたが、その実例を大正十五年から昭和二年にかけての春陽堂の『長塚節全集』全六巻に見てみる。 その前に第一巻にはさみこまれた「春陽堂予約出版事業」の払いこみチラシに…
夏目漱石、『朝日新聞』連載、春陽堂といった三題噺からすれば、必然的に長塚節の『土』が思い出される。 明治四十三年に節は漱石の依頼によって、『東京朝日新聞』に『土』を連載し、四十五年に春陽堂から出版された。しかも漱石の「『土』に就て」という序…
前回、藤村の自費出版の試みを引き継いだのは、漱石の『こゝろ』だったのではないかとの観測を提出しておいた。ところが実際はその逆で、藤村が範としたのは他ならぬ漱石だったと思われる。それに漱石は藤村より遅れて、明治四十年代になってからだが、『朝…
『金色夜叉』後編巻末の明治三十三年時点での春陽堂出版広告において、島崎藤村は「詩俳書之部」に分類されていることに気づかされた。そこには『若菜集』『一葉集』『夏草』の三冊が見え、明治三十年代には春陽堂にとって藤村が、尾崎紅葉を始めとする硯友…
20年10月の書籍雑誌推定販売金額は1000億円で、前年比6.6%増。 書籍は536億円で、同14.0%増。 雑誌は464億円で、同0.8%減。 その内訳は月刊誌が382億円で、同0.5%増、週刊誌は82億円で、同6.4%減。 返品率は書籍が32.2%、雑誌は41.3%で、月刊誌は40.6%、週刊…
前回の『金色夜叉』後編の巻末広告によって、明治三十年代初めの春陽堂が文壇の大家にして社会的名士の紅葉の著書二十九冊、村井弦斎は二十七冊、ちぬの浦浪六は十二冊を出していたとわかる。『金色夜叉』は当時のベストセラーだったし、弦斎と浪六は本探索…
前回、明治二十年代に春陽堂が文学書版元としての隆盛を見た一因が、文芸誌『新小説』の創刊であることにふれた。ただ『新小説』第一期は明治二十二年に創刊され、翌年には休刊となっているので、第二期『新小説』の明治二十九年創刊のほうが近代文芸誌とし…
前回のように、明治二十五年の黙阿弥「狂言百種」第三号と同二十六年の村上浪六『深見笠』の奥付裏の春陽堂の出版目録を見ていると、明治二十年代の近代文学が春陽堂とともに歩んできたことをあらためて実感してしまう。 もちろんその背景にあるのは明治二十…
前回の「狂言百種」の他に、同じく春陽堂のちぬの浦浪六の『深見笠』があり、これも明治二十七年二月初版、九月第三版の一冊で、やはり菊判和綴じ、一六七ページの和本仕立てであった。ちぬの浦浪六とは村上浪六の初期のペンネームで、故郷の堺にちなんでつ…
本探索1068において、久保田彦作が江戸生まれの狂言作者、戯作者で、河竹黙阿弥門下だったが、黙阿弥と親しかった仮名垣魯文に引き立てられ、『仮名読新聞』にも関係し、明治十一年に『鳥追阿松海上新話』を上梓するに至ったことを既述しておいた。 黙阿…
本探索1065で蛯原八郎の『明治文学雑記』を取り上げたが、その後続けて明治開花期文学をたどっていくと、この一冊が「雑記」のタイトルにもかかわらず、参考文献として必ずといっていいほど挙げられている。それに同書にはこの時代に蛯原しか書かなかっ…
本探索1067や1068で、筑摩書房の『明治開化期文学集(一)』、角川書店の『明治開花期文学集』を参照してきたが、これらのタイトルとコンテンツのいずれもが、改造社の『明治開化期文学集』(『現代日本文学全集』1)を範としていることは明白である…
少し飛んでしまったが、本探索1067で、仮名垣魯文『高橋阿伝夜刃譚』、同1068で久保田彦作『鳥追阿松海上新話』といった所謂「毒婦物」に続けてふれたのは、最近になって三角寛の『縛られた女たち』を偶然に入手したこと、また三角のサンカ小説にし…
もう一編、中山太郎編著『校註諸国風俗問状答』に関連して書いておきたい。それは中山がその序文にあたるものとして、冒頭に「本書を先づ異郷の学友/ニコライ・ネフスキー氏に御目にかけ候」という一文を掲げているからだ。(『校註諸国風俗問状答』) そこ…
本探索1072で喜多村信節『嬉遊笑覧』を取り上げ、また同1078の博文館「帝国文庫」の校訂者が柳田国男と中山太郎であることにもふれておいた。その関連から、『喜遊笑覧』と同様に柳田が推奨し、しかも中山が編者とし、上梓している一冊に言及してみ…
20年9月の書籍雑誌推定販売金額は1183億円で、前年比0.5%増。 書籍は685億円で、同0.3%増。 雑誌は498億円で、同0.8%増。 その内訳は月刊誌が423億円で、同3.6%増、週刊誌は74億円で、同12.7%減。 返品率は書籍が31.7%、雑誌は37.5%で、月刊誌は36.5%、週刊…
『一誠堂古書籍目録』に続いて、やはり巌松堂の同じ目録『日本志篇』を取り上げてきたわけだが、これらには範があったと思われる。 それは『東京書籍商組合員図書総目録』(以下『図書総目録』)である。この目録は拙稿「図書総目録と書店」(『書店の近代』…
前回の『一誠堂古書籍目録』の他にも、少し遅れてだが、同時代に古書籍目録が出されている。それは巌松堂書店古典部が昭和三年に刊行した『古書籍在庫目録日本志篇』(以下『日本志篇』)である。こちらは四六判で、発行者は波多野重太郎となっている。彼も…
前回の水谷不倒の『明治大正古書価之研究』の背景にあるのは、明治二十年代における近代出版業界の誕生と成長による古典類の復活だった。それらを通じての近代古書業界も形成され、そうした動向は古書展覧会や古書販売目録に支えられ、大正九年の東京古書籍…
前回は『其磧自笑傑作集』などの校訂者である水谷不倒に言及できなかったので、ここでふれておきたい。水谷は『日本近代文学大事典』に立項を見出せるので、まずはそれを要約してみる。 水谷は近世文学研究者で、安政五年に国学者水谷民彦の子として名古屋に…
やはり円本時代の昭和三年に博文館から「帝国文庫」の再版が刊行され、『博文館五十年史』はそれに関して次のように述べている。 「帝国文庫」は前年正編五十編、続編五十編が大好評の裡に完成したが、爾来既に数十年を過ぎ、偶たま世間には定価一円にて故書…
前々回の吉川弘文館の『日本随筆大成』の合板、つまり共同出版のかたちにふれたことで、吉川半七と吉川弘文館がやはり大槻文彦の『言海』を共同出版していたことを思い出した。(『日本随筆大成』) これは背と本扉には『言海』、奥付には『改版言海縮刷』と…
前回の日本随筆大成刊行会は昭和三年から四年にかけて、『日本図会全集』全十二巻を出版している。これは江戸時代に出された代表的な名所図会を収録したものであり、『図解現代百科辞典』(三省堂、昭和八年)を引いてみると、「名所図会」は以下のように述…
『嬉遊笑覧』だが、これは昭和円本時代にも刊行されている。それは『日本随筆大成』の別巻としてで、その別巻は各二冊からなる大田南畝『一話一言』、『嬉遊笑覧』、寺島良安編『和漢三才図会』である。『一話一言』上下は所持しているけれど、残念ながら『…