出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話285 坂東恭吾と博文館の月遅れ雑誌

本連載261で、私が出版業界の寅さんとよんでいる坂東恭吾のことを書いておいたが、彼は特価本業界のパイオニアであり、その走りとしての月遅れ雑誌を最初に扱った立役者だった。坂東が寅さんたるゆえんはその販売の語り口に求められ、彼の口上の無類の面…

古本夜話284 福永書店と徳富健次郎『小説富士』

前回、創元社の矢部良策の最初の出版『文芸辞典』は、大正七年に福永一良が福永書店を創業し、徳富蘆花の『新春』を処女出版したことに刺激を受け、矢部も大阪で出版社をと考えたことがきっかけだと既述しておいた。福永書店は特価本業界と直接関係ないけれ…

混住社会論15 大友克洋『童夢』(双葉社、一九八三年)

大友克洋の『童夢』において、まず迫ってくるのは、突出した団地の風景とその描写に他ならないし、それは冒頭の見開き二ページの夜の高層団地の風景に象徴されているといえよう。そこでは屋上も俯瞰されているが、まったく人影もなく、「どさッ」という小さ…

古本夜話283 創元社『文芸辞典』と大谷晃一『ある出版人の肖像』

日本出版社、湯川弘文社に続く錦城出版社の東京進出は、創元社の東京での成功と活躍に影響を受けているのではないかと既述しておいた。しかし創元社にしても、先行する日本出版社や湯川弘文社の出版活動に影響を受けてスタートしたことは間違いないし、それ…

古本夜話282 錦城出版社、大坪草二郎、太宰治『右大臣実朝』

前回の崇文館の藤谷芳三郎や立川文明堂の立川が経営に関わった大阪の出版社についても書いてみる。それは錦城出版社で、湯川松次郎の『上方の出版と文化』の中にも出てくるのではないかと期待していたが、まったく言及されていなかった。そのために脇阪の『…

混住社会論14 宇能鴻一郎『肉の壁』(光文社、一九六八年)と豊川善次「サーチライト」(一九五六年)

(ベストブック社)(光文社文庫)これまで米軍基地やデペンデント・ハウスの「天国」的側面について、繰り返し言及してしまったけれど、占領は強制的混住であったことからすれば、そのような綺麗事ばかりのイメージですまされるはずもない。そのことを考え…

古本夜話281 崇文館と松山敏『ハイネの詩集』

湯川松次郎の『上方の出版と文化』は自らの湯川弘文社について、多くは語られていないにしても、他の出版社に関する証言はかなり含まれていて、脇阪要太郎の『大阪出版六十年のあゆみ』と照らし合わせると、少しばかり手がかりがつかめたりする。しばらく前…

古本夜話280 湯川松次郎『上方の出版と文化』と湯川弘文社

前回既述したように、脇阪要太郎は『大阪出版六十年のあゆみ』において、大阪出版業界は自らの日本出版社の創業に加え、湯川弘文社と創元社が立ち上がったことで、大正期に活況を呈したと書いている。これは本連載276の武士道文庫のところではもれてしま…

混住社会論13 城山三郎『外食王の飢え』(講談社、一九八二年)

前回、村上龍の『テニスボーイの憂鬱』において、テニスボーイが経営するステーキハウスでの、デニーズも出てくる「訓示」を引用し、一九八〇年代の外食産業の成長の一端を示しておいた。ステーキハウスはポピュラーなファミリーレストランに分類できないに…

古本夜話279 脇阪要太郎『大阪出版六十年のあゆみ』と戸川貞雄『第二の感激』

前々回資料として『大阪出版六十年のあゆみ』を使用したこともあり、その著者の脇阪要太郎についても書いておこう。彼は全国出版物卸商業協同組合とダイレクトな関係を持っていないけれど、大阪の出版社は大正期の「文庫合戦」に見られたように、同組合に関…

古本夜話278 柳川春葉『生さぬ仲』と代作者北島春石

前回、渡辺霞亭の『渦巻』が中央公論社の『日本近世大悲劇名作全集』に収録されていることを記しておいた。この八巻本の全集にはその他に、家庭小説の源とされる尾崎紅葉の『金色夜叉』から、その分野の代表作といえる小杉天外の『魔風恋風』、菊池幽芳『己…

混住社会論12 村上龍『テニスボーイの憂鬱』(集英社、一九八五年)

米軍基地や前回言及したデペンデント・ハウスに象徴される占領軍住宅を日常の風景として、また目に焼きつけて成長した少年がいる。彼はまさに「基地の街に生まれて」というエッセイを書き、そこで佐世保には米軍基地があり、朝夕にはアメリカ国歌に合わせて…

出版状況クロニクル58(2013年2月1日〜2月28日)

出版状況クロニクル58(2013年2月1日〜2月28日) BS朝日で、「世界で最も美しい書店」(2/23)を放映した。それは次の4ヵ国の書店の紹介である。 * オランダの「セレクシス・ドミニカネン」/13世紀のゴシック教会建築を利用した書店。 * アメリカの「バー…