2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧
前回、中村光夫の長田秋涛伝も兼ねる小説『贋の偶像』に登場する彼の弟子安川老人が、アナキストの安谷寛一をモデルにしていると記しておいた。『贋の偶像』において、安川老人は秋涛会の中心人物で、二冊のパンフレットを刊行し、それは秋涛に関する貴重な…
前回安谷寛一の記述に、思いもかけない長田秋涛の名前を見出したこともあり、ここで長田に関する一編を挿入しておきたい。ただし秋涛は二重表記とする。まずは『増補改訂版新潮日本文学辞典』の長田の項を引く。 長田秋涛おさだしゅうとう 明治四・一〇・五…
リースマンの『孤独な群衆』の改訂訳版が出された。この機会を得て、『孤独な群衆』を改訂版で再読したので、それについて書いておこう。ちなみにその前に記しておけば、加藤秀俊訳の一九六四年版は毎年のように版を重ね、二〇〇九年には四十二刷、発行部数…
アナキスト系人脈によるアルスの出版物として、『大杉栄全集』の他に『ファブル昆虫記』全十二巻と『ファブル科学知識全集』全十三巻を挙げていいように思う。(『ファブル科学知識全集』第8巻、『日常の理化』)ただ戦前の『昆虫記』というと、岩波文庫の山…
本連載231でふれたクロポトキンの『相互扶助論』と前回のロマン・ロランの『民衆芸術論』の二作が収録されている一巻があって、それは大正十五年に刊行された『大杉栄全集』第六巻である。 (同時代社版)天金ならぬ天黒にして、黒地のハードカバー、背の…
D・リンチの『ブルーベルベット』やロメロの『ゾンビ』、エドワード・ホッパーやエリック・フィッシュルのそれぞれの作品など、アメリカの映画や絵画に続けてふれてきたが、一九九〇年代になって、アメリカの郊外を、映画を主として俯瞰しようとする一冊が出…
全国出版物卸商業協同組合に関する連載が長くなってしまったが、ここで再び楠山正雄関連のところに戻る。 本連載235で楠山正雄の『近代劇十二講』がロマン・ロランの『民衆の芸術』に基づいていることを既述しておいた。あらためて大正時代におけるロラン…
前回、特価本業界に関する最後の一編と断わっておいたのだが、思いがけずに講談本の労作を恵贈されたので、同じく拾遺の一編として紹介の意味も兼ね、書いておきたい。それらは私家版であり、まだよく知られていないと思われるからだ。 『講談博物志』そこに…
私は一九九七年に上梓した『〈郊外〉の誕生と死』(青弓社)の最終章において、郊外ショッピングセンターと絡め、ジョージ・A・ロメロのホラー映画『ゾンビ』をすでに論じている。しかし当時と現在では郊外ショッピングセンターをめぐる問題が、まったく異な…
最後にもう一編だけ、特価本業界拾遺として書いておきたい。それも岡村書店絡みだし、この機会を外すと、いつ言及できるのかわからないからでもある。それは『義太夫百二十段集』で、明治三十五年に刊行され、B6判をさらに小さくした判型の並製で、四百四十…
当初十数回ほどのつもりで始めた特価本業界に関する言及もかなり長くなってしまったので、ひとまず終えることにするが、ここで井上勤の『アラビヤンナイト物語』にふれておきたい。昨年杉田英明の『アラビアン・ナイトと日本人』(岩波書店)が刊行された。…
出版状況クロニクル64(2013年8月1日〜8月31日) 所用があって水戸へ出かけたので、帰りに土浦で降りた。土浦は30年ぶりだったが、その駅前周辺の変貌に驚いてしまった。それほど詳しいわけではないけれど、地場も含む百貨店、スーパーが撤退し、かつての面…