出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話247 鈴木大拙訳、スエデンボルグ原著『天界と地獄』

このところ「出版状況クロニクル」52、53で記しておいたように、三島の北山書店の閉店セールなどで、探していた本をかなり見つけたので、それらについても続けてふれておきたい。明治四十三年に鈴木大拙によって翻訳されたスエデンボルグ原著『天界と地獄』…

ブルーコミックス論56 水原賢治『紺碧の國』(少年画報社、二〇〇二年)

真夏の空の下にある中学校の屋上の高架水槽の上で、ひとりの少女が夢想していた。「そこへ行けば、願いが叶えられるという、そこは忘れられた世界最後の楽園、わたしはそこへ行きたい。ZONE―聖域―……。」と。その少女は羽木陽美子(ヒミコ)で、そこにもうひとりの…

古本夜話246 ドイツ語版キント『女天下』と沼正三『ある夢想家の手帖から』

これは戦後編でと思っていたのだが、前回、土井晩翠訳『オヂュッセーア』に関連して、沼正三と『家畜人ヤプー』にふれたこと、また最近内藤三津子へのインタビュー『薔薇十字社とその軌跡』を行なったことも重なり、本連載5「アルフレッド・キントの『女天…

古本夜話245 冨山房の土井晩翠訳『オヂュッセーア』

楠山正雄と冨山房について、ずっと言及し、前回は杉山代水にもふれたので、二人に続いて、『冨山房五十年』には見えていないが、昭和十八年に刊行したホーマー著、土井晩翠訳『オヂュッセーア』にもふれておきたい。これはその「序」にあるように、「叙事詩…

ブルーコミックス論55 吉原基貴『あおいひ』(講談社、二〇一〇年)

『あおいひ』には六つの話が収録され、タイトルの「あおいひ」そのものにまつわる、職業がそれぞれ異なる五人の物語が描かれている。裏表紙のキャッチコピーは「誰もが何者にもなれず、漆黒の闇の中に“あおいひ”を見る夜がある。それは希望の光か、幼き日の…

古本夜話244 杉谷代水と『書翰文講話及文範』

楠山正雄のことを確認するために『冨山房五十年』に目を通していて、冨山房の創業時代の功労者で故人となった人たちを写真入りで紹介している数ページがあり、そこに杉谷代水も含まれていることに気づいた。その写真は他の編集者たちよりも大きく、それは付…

古本夜話243 平凡社『世界美術全集』と中央美術社

本連載や『古本探究3』で、近代出版史において重要な人物が、隆文館の草村北星と中央美術社の田口掬汀ではないかと何度も既述してきた。それは私見のみならず、すでに紹介しておいたように、小川菊松も『出版興亡五十年』の中で、新潮社の佐藤義亮と並んで…

ブルーコミックス論54 岡崎京子「Blue Blue Blue」(『恋とはどういうものかしら?』所収、マガジンハウス、二〇〇三年)

前回岡崎京子によるボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』にふれたこともあり、表題作でも長編でもない短編だけれど、ここで彼女のブルーコミックにも言及しておこう。その「Blue Blue Blue」は九六年に『アンアン』に発表されたこともあってか、岡崎の多く…

古本夜話242 平凡社、下中緑、権藤成卿『自治民範』

本連載199で、渋谷定輔の『農民哀史』(勁草書房)にふれたが、これについては別の機会にゆずると書いておいた。ところが前々回『世界家庭文学大系』と『世界家庭文学全集』を確認するために、久しぶりに尾崎秀樹の手になる『平凡社六十年史』に目を通し…

古本夜話241 大村謙太郎と精華書院

前回、精華書院にふれたように、そこから秋田雨雀の『太陽と花園』が出され、それはほるぷ出版の「名著複刻 日本児童文学館」の一冊として、昭和四十九年に刊行されている。 『太陽と花園』『太陽と花園』は大正十年の発行で、これが「創作童話」の一篇であ…

ブルーコミックス論53 ジョージ朝倉『バラが咲いた』(講談社、二〇〇三年)

なぜ『バラが咲いた』がブルーコミックスに挙げられているかというと、英訳タイトルとしてBlue Rose Bloomed とあるように、このバラは他ならぬ青いバラを意味しているからだ。しかもこれは五つの作品から編まれているのだが、もう一編「青色的少年」(Le Ga…

古本夜話240 平凡社『世界家庭文学大系』、精華書院、楠山正雄訳『不思議の国』

『楠山正雄の戦中・戦後日記』における三香男の「解説」によれば、楠山が昭和十七年から日記をつけ始めたのは、長女冨美の見合いから婚礼に至る記録のためであったようだ。その結婚相手の同盟通信ハノイ支局長前田雄二は前田晁の息子で、前田と楠山は早稲田…

古本夜話239 楠山正雄『夢殿』と講談社版『小川未明童話全集』

楠山三香男編『楠山正雄の戦中・戦後日記』(冨山房)はタイトルに示されているように、楠山の日記の部分が半分以上を占め、それは昭和十七年九月から死に至る前年の二十四年四月に及んでいる。戦前はまだ『国民百科大辞典』に引き続いて、冨山房の『国史辞…

出版状況クロニクル53(2012年9月1日〜9月30日)

出版状況クロニクル53(2012年9月1日〜9月30日)先月三島の北山書店の閉店と半額セールにふれたが、今月もう一度訪れることができた。かなり売れているようで、山積みになっていた在庫も明らかに減り、これまで目にする機会がなかった棚も見え、ずっと探して…