出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1536 萩原朔太郎『詩の原理』と磯田光一『萩原朔太郎』

前回引いた第一書房のPR誌『伴侶』はモルナアル『お互に愛したら』にふれた後、次のように続いていく。「詩集としては『詩の原理』(萩原朔太郎著)の普及版は古い形容ですが、飛ぶやうに売れました。某師範学校の教科書に採用されたり、随分出ました」。 (…

古本夜話1535 第一書房、鈴木善太郎、モルナアル『お互に愛したら』

第一書房に関しては『近代出版史探索』116を始めとして断片的にふれてきているが、これから少し続けて言及してみたい。 創業六年目の昭和五年に第一書房はPR誌『伴侶』を創刊し、そこに「第一書房と昭和四年――高速度内幕話――」が掲載され、「単行本の成績」…

古本夜話1534 中村不折『芸術解剖学』と泰西名画家伝『ティチアン』

中央美術社と日本美術学院などに関しては拙稿「田口掬汀と中央美術社」(『古本探究Ⅲ』所収)の他に、『近代出版史探索』163や『同Ⅱ』243などでも言及してきたが、やはりその後入手した本も二冊あるので、ここで取り上げておきたい。 その一冊は拙稿でも書名…

古本夜話1533 講談社『佐々木邦全集』と細木原青起の挿絵

日本漫画会は円本漫画シリーズとジョイントしていただけでなく、その他の全集などともコラボレーションしていた。それは『近代出版史探索Ⅲ』484の『現代ユウモア全集』において、岡本一平、近藤浩一路、田中比左良、細木原青起、水島爾保布、池部鈞、麻生豊…

小田光雄 逝去のお知らせ

小田光雄は、2024年6月8日、病気のため永眠しました。享年73。葬儀は近親者のみにて執り行いました。戦後社会論をライフワークとした小田光雄の出発点は『〈郊外〉の誕生と死』であり、その延長線上で、出版・古書・図書館など多岐にわたる分野を論じ、多く…

古本夜話1532 建設社「漫画講座」、日本漫画会、加藤悦郎

これは昭和初期円本時代ではなく、昭和九年に刊行されているが、やはり一連の漫画シリーズと見なせるので、続けて書いておくべきだろう。 それは建設社の「漫画講座」第四巻で、例によって浜松の時代舎で入手した一冊であり、日本漫画会編と銘打たれている。…

古本夜話1531 中央美術社『現代漫画大観』、『日本巡り』、田口鏡次郎

『漫画六家撰』の版元である中央美術社に関しては拙稿「田口掬汀と中央美術社」(『古本探究Ⅲ』所収)において、もうひとつの漫画円本企画『現代漫画大観』 を挙げ、このうちの二冊に言及している。だが最近もう一冊入手したこと、及び前回の『裸の世相と女…

古本夜話1530 中央美術社「漫画六家撰」、下川凹天『裸の世相と女』、金子文子

これも浜松の時代舎で入手したのだが、下川凹天の『裸の世相と女』が手元にある。同書は昭和四年に中央美術社から「漫画六家撰」シリーズの一冊として刊行されているので、はやり円本時代の企画のひとつに数えられるだろう。それゆえに、この「漫画六家撰リ…

古本夜話1529 平凡社『川柳漫画全集』と『寸鉄双紙(明和の巻)』

百科事典や大部の辞典類が続いてしまったが、昭和円本時代には漫画シリーズもすでに企画出版されていたことにもふれておこう。 出版における戦後のコミックの隆盛の中にいると、それが当たり前のように錯覚するけれど、昭和三十年代まではまた「ポンチ絵」と…

古本夜話1528 三省堂『日本百科大辞典』

かつて拙稿「三省堂『ウェブスター氏新刊大辞書和訳字彙』と教科書流通ルート」(『古本屋散策』所収)において、三省堂の『日本百科大辞典』はそれとは別の物語になると記したことがあった。だが本探索で平凡社の『大百科事典』を取り上げたし、『近代出版…

古本夜話1527 巌谷小波編『大語園』

本探索の平凡社は『大辞典』によって第二次経営破綻を迎えてしまうのだが、同時期にやはり売れ行きが芳しくなかったと思われるシリーズを刊行していた。それは昭和十年に始まる『大語園』である。まずは『平凡社六十年史』を引いてみる。 巌谷小波編の『大語…

古本夜話1526 平凡社版『世界興亡史論』と『印度史観』

前回ふれた平凡社の昭和六年の第一次経営破綻の前年には円本時代が終わりを迎えていたにもかかわらず、多くの全集、叢書、講座物が出されていて、それらの自転車操業的出版と雑誌『平凡』の失敗が重なり、倒産ではないにしても、開店休業の状態に追いこまれ…

古本夜話1525 平凡社『吉川英治全集』、『衆文』、『青年太陽』

『近代出版史探索Ⅵ』1058などで続けて言及した新潮社の『昭和長篇小説全集』は、円本時代の大衆文学出版の系譜上に成立した企画だが、当初の予定と異なる収録作品の事実から考えても、それらの作家たちが人気を集め、よく読まれていたことを物語っていよう。…

古本夜話1524 「家庭図書館」「総合大学」としての『大百科事典』

『近代出版史探索Ⅲ』427などで見てきたように、平凡社では昭和二年の『現代大衆文学全集』から始まり、出版社としては最多の円本の版元となっていく。この事実に関してはそれらをリストアップした拙稿「平凡社と円本時代」(『古本探究』所収)を参照され…

古本夜話1523 平凡社『大辞典』

平凡社が前回の『や、此は便利だ』という辞典から始まったことや下中弥三郎の出版構想からしても、『大百科事典』=エンサイクロペディアに対応する『大辞典』=ディクショナリーの企画を考えたのは当然の帰結であった。それに『大百科事典』のために増えて…

古本夜話1522 平凡社『や、此は便利だ』と「新しい女」

平凡社に関してはかつて「平凡社と円本時代」(『古本探究』所収)、『近代出版史探索Ⅱ』240などを書いているけれど、その後 入手したものもあるので、これらを取り上げてみる。 『平凡社六十年史』には「創業前史」として、下中弥三郎の生い立ちから大正三…

古本夜話1521 伊藤整『雪明りの路』、百田宗治、椎の木社

これも『近代出版史探索Ⅵ』1008の百田宗治と椎の木社にリンクしているので、ここで書いておこう。伊藤整の最初の著書は詩集『雪明りの路』である。同書を収録の『伊藤整全集』(第一巻、新潮社)を確認してみると、日本近代文学館版複刻に先駆け、昭和二十七…

古本夜話1520 河出書房『白秋詩歌集』

続けて『萩原朔太郎全集』『佐藤惣之助全集』にふれたが、同じように戦時下において、河出書房から『白秋詩歌集』も出版されている。その白秋も完結を待たず、昭和十七年に亡くなっている。昭和十六年八月初版、十八年三版三千部発行と奥付にある『白秋詩歌…

古本夜話1519 千家元麿『冬晴れ』と新しき村出版部「人類の本」

前回の佐藤惣之助や『近代出版史探索Ⅵ』1031の百田宗治たちとともに、中央公論社版『日本の詩歌』13 に収録されているのは千家元麿で、彼はやはり同巻の福士幸次郎や佐藤と大正元年に同人誌『テラコッタ』を創刊している。 その千家の詩集ではないけれど、短…

古本夜話1518 桜井書店『佐藤惣之助全集』

前回の萩原朔太郎と同じく、昭和十七年五月に続いて亡くなり、翌年にやはり全集が刊行された詩人がいる。それは佐藤惣之助で、彼は朔太郎と同様に『近代出版史探索Ⅵ』1052の詩話会に属し、朔太郎とともに『日本詩人』の編集に関わっただけでなく、朔太郎の妹…

古本夜話1517 小学館版『萩原朔太郎全集』と版画社『定本青猫』

萩原朔太郎は昭和十七年に亡くなり、その翌年から十九年にかけて、小学館から『萩原朔太郎全集』十二巻が刊行されている。 (第三巻『詩の原理』) この出版に関して、『小学館五十年史年表』(小学館社史調査委員会編輯・発行、昭和五十年)はその第三巻『…

古本夜話1516 萩原朔太郎個人雑誌『生理』と椎の木社

続けて室生犀星にふれてきたが、萩原朔太郎のことに戻る。朔太郎は昭和八年に個人雑誌『生理』を創刊し、詩、アフォリズム、エッセイ、評論を寄せ、『郷愁の詩人の与謝蕪村』の連載は蕪村の再評価を促すものだった。これは『近代出版史探索Ⅱ』370でも言及し…

古本夜話1515 改造社『小酒井不木全集』

前々回の江戸川乱歩「押絵と旅する男」を掲載した『新青年』昭和四年六月増大号は、奇しくも小酒井不木追悼号というべき出だろう。口絵写真には四月三日の葬儀場面、及びそのデスマスクなども収められているし、「小酒井不木氏を偲ぶ」は恩師の永井潜東大教…

古本夜話1514 凌雲閣、『緋牡丹博徒お竜参上』、『めがねと旅する美術』

浅草の凌雲閣=「十二階」といえば、必ず思い出されるのは加藤泰監督、藤純子、菅原文太共演『緋牡丹博徒お竜参上』である。この映画は昭和四十五年の「緋牡丹博徒」シリーズの第六作に当たり、同監督の第三作『花札勝負』と並んで名作の誉れが高く、私もリ…

古本夜話1513 江戸川乱歩「押絵と旅する男」

前回の『十二階崩壊』に見られる今東光の「十二階」への否定的見解とは対照的な思いを描いていた同時代人もいたにちがいない。その一人は江戸川乱歩であり、「十二階」を舞台装置として昭和四年(『新青年』六月号)に「押絵と旅する男」を発表している。 米…

古本夜話1512 今東光『十二階崩壊』と谷崎潤一郎『痴人の愛』

浅草の十二階といえば、ただちに今東光の『十二階崩壊』(中央公論社、昭和五十三年)が思い出される。それはその表紙に明治二十八年の浅草の百花堂発刊の彩色図絵「東京名所凌雲閣」を用いていたからだ。ただ残念なことに、『海』に連載中に今が急逝したこ…

古本夜話1511 石川啄木『一握の砂』と『ローマ字日記』

室生犀星の『蒼白き巣窟』を読みながら連想されたのは、石川啄木の桑原武夫編訳『ローマ字日記』(岩波文庫)であった。 これは磯田光一の『萩原朔太郎』(講談社)において、あらためて教えられたのだが、朔太郎と啄木がともに明治十九年生まれであり、朔太…

古本夜話1510 室生犀星『蒼白き巣窟』の削除と復元

室生犀星は『性に目覚める頃』に続いて、大正九年にやはり新潮社から『結婚者の手記』『蒼白き巣窟』と三冊の小説を上梓している。これらの二冊は未見だが、昭和十一年に『近代出版史探索Ⅲ』436の非凡閣から『室生犀星全集』が刊行され、その第七巻がそれら…

古本夜話1509 室生犀星『性に目覚める頃』と北原白秋『邪宗門』

室生犀星の『性に目覚める頃』所収の「抒情詩時代」と「性に目覚める頃」には明治末期の金沢の貸本屋や書店事情が描かれ、言及されているので、それらもトレースしてみよう。 犀星は十五歳のころから俳句を作り、また小品を書き、博文館の『少年世界』を読む…

古本夜話1508 滝田樗陰と室生犀星「幼年時代」

これまでに萩原朔太郎が大正十二年の『青猫』に続いて、同じ新潮社から『蝶を夢む』や『抒情小曲集』、また室生犀星のほうは十一年に『田舎の花』を刊行していることを既述しておいた。しかし犀星は朔太郎と異なり、それまでに大正九年の『性に目覚める頃』…