出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1044 杉浦盛雄『名古屋地方詩史』、馬場伸彦『周縁のモダニズム』、井口蕉花

春山行夫は名古屋の詩誌『青騎士』を揺籃の地とし、モダニズム詩人としての始まりを告げたといっていいだろう。 実は古田一晴『名古屋とちくさ正文館』(「出版人に聞く」シリーズ14)のインタビューに際し、参考文献として杉浦盛雄『名古屋地方詩史 』(同…

古本夜話1043 春山行夫訳、レヂス・ミシヨオ『フランス現代文学の思想的対立』

少しばかり飛んでしまったけれど、春山行夫に関して続けてみる。彼は第一書房からレヂス・ミシヨオ『フランス現代文学の思想的対立』を翻訳刊行している。同署と春山について、小島輝正は『春山行夫ノート 』(蜘蛛出版社)で、次のように述べている。 春山…

古本夜話1042 桜井書店とJ・A・シモンズ『ダンテ』

ダンテといえば、本連載1032でふれたばかりだし、『近代出版史探索』71などのJ・A・シモンズの『ダンテ研究入門』(Introduction to the Study of Dante)が著名な研究書として知られている。この対になるとされるのが、やはりシモンズの『文芸復興』(…

出版状況クロニクル146(2020年6月1日~6月30日)

20年5月の書籍雑誌推定販売金額は770億円で、前年比1.9%増。 書籍は423億円で、同9.1%増。 雑誌は346億円で、同5.7%減。 その内訳は月刊誌が286億円で、同1.5%減、週刊誌は59億円で、同22.0%減。 返品率は書籍が36.5%、雑誌は46.2%で、月刊誌は46.6%、週刊誌…

古本夜話1041 朝日新聞社『朝日住宅図案集』

戸川秋骨の『自然・気まぐれ・紀行』の記述からすれば、彼が住んでいた郊外は中野あたりだと推測していた。だが神谷敏夫『最新日本著作者辞典』を確認してみると、東京市外井荻とあった。そこで「郊外生活」を営み、「文化住宅」に住んでいたとされるが、彼…

古本夜話1040 戸川秋骨『自然・気まぐれ・紀行』、郊外社、薔薇閑『煙草礼讃』

本連載1037の戸川秋骨の随筆集『文鳥』は『近代出版史探索』99で取り上げているが、もう一冊手元にあって、それはまさに昭和六年に第一書房から刊行された『自然・気まぐれ・紀行』である。フランス装アンカット版で、「序のつもり」である「遜辞傲語」…

古本夜話1039 外語研究社「英文訳註叢書」と『宝島』

これは本連載1013「『英文世界名著全集』とスティーヴンソン」に続いて書くつもりだったのだが、本が出てこなくて、見送ってしまったのである。しかし二回にわたって英文学者の戸川秋骨や田部隆次、重治兄弟を取り上げてきたので、ここにその一編を挿入…

古本夜話1038 田部重治『峠と高原』、黒百合社、山上雷鳥『アルプス伝説集』

前回、『小泉八雲全集』刊行会代表兼訳者の英文学者田部隆次に、初めてふれたけれど、私が以前から知っていたのはその弟で、やはり英文学者の田部重治のほうだった。それは隆次と異なり、重治は『日本近代文学大事典』に立項があるように「山に親しみ全国各…

古本夜話1037 田部隆次、『小泉八雲全集』、戸川明三訳『神国日本』

これは前回ふれなかったが、福田清人は東京帝大国文科を卒業後、昭和四年から六年にかけて、第一書房に勤め、戦後になって、それを「長谷川さんと第一書房の思い出」(『第一書房長谷川巳之吉』所収)で回想している。 それによれば、当時は「宵闇せまれば悩…

古本夜話1036 協和書院「青年作家叢書」と福田清人「文学仲間」

前回の永松定の単行本『万有引力』は所持していないけれど、やはり同じ昭和十二年に協和書院から出された大澤衛『日本文化と英文学』が手元にある。大澤は後にトマス・ハーディの翻訳や研究で知られることになる英文学者で、同書はタイトルからも推測できる…

古本夜話1035 永松定『万有引力』

ジョイスの『ユリシイズ』の共訳者の永松定は「現代の芸術と批判叢書」のハアバアト・ゴルマン『ジョイスの文学』も翻訳している。永松の名前は高見順の『昭和文学盛衰史』(文春文庫)などに散見できるけれど、彼に関する言及はほとんど目にしていない。た…

古本夜話1034 三浦逸雄と『伊太利語辞典』

ダンテの『神曲』が続いたこともあり、もう一人の『神曲』の翻訳者にもふれないわけにはいかないだろう。しかもそれは本連載1016で『ユリシイズ』翻訳において謝辞を掲げられていた人物で、しかも第一書房の『セルパン』編集長の三浦逸雄によるものだか…

古本夜話1033 中山昌樹『ダンテ神曲物語』

前回はふれられなかったが、北川冬彦は『現代訳 神曲地獄篇』のために参照した先行翻訳として、次の三冊を挙げている。 山川丙三郎 「地獄」 (岩波版) 中山昌樹 「地獄篇」 (洛陽堂版) 生田長江 「地獄篇」 (新潮社版) (山川丙三郎訳) この際だから…

古本夜話1032 北川冬彦『現代訳 神曲地獄篇』

続けて詩人の北川冬彦の一冊にも言及しておきたい。ただそれは戦後の翻訳であり、昭和二十八年に創元社から刊行されたダンテの『現代訳 神曲地獄篇』である。 この一文を書くために、あらためて中央公論社版『日本の詩歌』25所収の北川の『三半規管喪失』(…

出版状況クロニクル145(2020年5月1日~5月31日)

20年4月の書籍雑誌推定販売金額は978億円で、前年比11.7%減。 書籍は476億円で、同21.0%減。 雑誌は501億円で、同0.6%減。 その内訳は月刊誌が422億円で、同1.8%増、週刊誌は78億円で、同11.6%減。 返品率は書籍が32.5%、雑誌は39.9%で、月刊誌は39.4%、週…

古本夜話1031 百田宗治のポルトレ

本連載1028の安西冬衛『軍艦茉莉』(厚生閣書店)の巻末広告に、「現代の芸術と批評叢書」に続いて、『詩と詩論』と百田宗治の著作が掲載されている。百田のそれらは『新しい詩の解題とその作り方』『詩の鑑賞』『陋巷風物詩 冬花帖』『鑑賞 芭蕉句抄』…

古本夜話1030 阿部知二『冬の宿』

本連載787、789、869などの阿部知二が「現代の芸術と批評叢書」の一冊として、昭和四年に処女評論集『主知的文学論』を刊行していることを既述しておいた。これは入手しておらず、未読だが、『日本近代文学大事典』に「主知主義」という立項がある…

古本夜話1029 西脇順三郎『ヨーロッパ文学』とジョイス

本連載1016の春山行夫『ジョイス中心の文学運動』刊行の半年前、やはり第一書房から昭和八年五月に、西脇順三郎の『ヨーロッパ文学』が出されている。西脇の「序」によれば、この編集も主として春山によっているので、これらの多くが『詩と詩論』に発表…

古本夜話1028「現代の芸術と批評叢書」と安西冬衛『軍艦茉莉』

伊藤整の『新心理主義文学』を含んだ「現代の芸術と批評叢書」は『詩と詩論』の創刊に寄り添うようにして、昭和四年から刊行され始めた。もちろん編輯責任者は春山行夫であり、「新興芸術の精華を網羅せんとする」として、次のように謳われている。 出版界の…

古本夜話1027 春山行夫『文学評論』と小林秀雄

昭和九年に春山行夫は厚生閣書店から『文学評論』を上梓している。これは菊判三七〇ページに及び、春山の「私の『セルパン時代』」(『第一書房長谷川巳之吉』所収、日本エディタースクール出版部)によれば、昭和八年に厚生閣を退社するにあたって、社長の…

古本夜話1026 伊藤整と小林秀雄「心理小説」

前回、ジョイスの伊藤整たちの『ユリシーズ』の本邦初訳に対して、英文学アカデミズムにおける面白くない思いが潜み、それが川口喬一の『 昭和初年の「ユリシーズ」』にも見え隠れしていることを既述しておいた。 それは仏文学アカデミズムの系譜に属する小…

古本夜話1025 伊藤整『新心理主義文学』と川口喬一『昭和初年の「ユリシーズ」』

本連載1016の昭和八年の春山行夫の『ジョイス中心の文学運動』に先行して、昭和七年に伊藤整の『新心理主義文学』が、やはり春山編集の「現代の芸術と批評叢書」の一冊として、厚生閣書店から刊行されている。ただ私の場合、これは未見だし、入手してい…

古本夜話1024 『詩神』と『現代詩選集』

続けて二回にわたり、新潮社の『日本詩集』を取り巻いていた詩のリトルマガジンに言及しておいた。そこで挙げてこなかったが、やはり同様の『詩神』があって、復刻ではない実物の昭和五年二、四、五、七、八月号の合本を所持している。いずれも『詩神』を示…

古本夜話1023 内藤鋠策と抒情詩社

前回詩話会にふれたが、大正後期の呉越同舟であるとはいえ、この当時最大の詩人団体としての詩話会を敵に回した歌人がいる。それは内藤鋠策である。内藤はまた出版社の抒情詩社を立ち上げ、詩雑誌『抒情詩』を大正元年に創刊している。その『抒情詩』の同十…

古本夜話1022 新潮社『日本詩集』と菊地康雄『青い階段をのぼる詩人たち』

岩野泡鳴も関係し、本連載1008でも『日本詩集』が大正を代表する詩人の集まりだったという伊藤整の証言を引いておいたばかりだ。ただ新潮社の詩話会編『日本詩集』は紅野敏郎の『大正期の文芸叢書』にも掲載されていないし、「叢書」とも銘打たれていな…

古本夜話1021 平泉澄『中世に於ける社寺と社会の関係』

筧克彦『神ながらの道』に続いて、やはり大正十五年に至文堂から、平泉澄の『中世に於ける社寺と社会の関係』も出版されている。後に平泉も筧と並ぶ皇国史観のイデオローグとして知られていくが、大正時代には新進の日本中世研究者であり、その特異な視線は…

出版状況クロニクル144(2020年4月1日~4月30日)

20年3月の書籍雑誌推定販売金額は1436億円で、前年比5.6%減。 書籍は916億円で、同4.1%減。 雑誌は519億円で、同8.1%減。 その内訳は月刊誌が434億円で、同8.5%減、週刊誌は84億円で、同6.4%減。 返品率は書籍が25.5%、雑誌は40.7%で、月刊誌は40.6%、週刊…

古本夜話1020 筧克彦『神ながらの道』

前回、岩野泡鳴が筧克彦の古神道に関する著作、沼津の御用邸での御前進講『神ながらの道』を参考にして、大正三年に『古神道大義』を書き上げ、翌年に敬文館から刊行したことにふれておいた。これは『泡鳴全集』の編集に当った大月隆仗の回想によるものだっ…

古本夜話1019 大月隆仗、『泡鳴全集』、国民図書株式会社

前回言及した『悪魔主義の思想と文芸』は断っておいたように、『泡鳴全集』第十六巻所収のものである。この『泡鳴全集』全十八巻は昭和十年から翌年にかけて、国民図書株式会社から刊行されている。これもどうして『泡鳴全集』が国民図書から出版されたのか…

古本夜話1018 岩野泡鳴『悪魔主義の思想と文芸』

春山行夫が『ジョイス中心の文学運動』の「はしがき」において、同書のタイトルはシモンズの『表象派の文学運動 』の岩野泡鳴訳に基づくと述べ、さらに次のように書いている。 また僕は詩人であり小説家であり批評家であつた岩野泡鳴の《悪魔主義の思想と文…