出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1273 野田映史編『別役実の風景』、『季刊評論』、烏書房

これは戦後に飛んでしまうのだが、やはり青野季吉絡みなので、ここで続けてふれておくことにしよう。 最近論創社から野田映史編の追悼集『別役実の風景』が刊行され、恵送された。別役たちが早稲田小劇場を立ち上げる前に属していた劇団自由舞台の昭和四十年…

古本夜話1272 青野季吉とトロツキイ『自己暴露』

青野季吉『文学五十年』には出てこないけれど、彼の訳として、トロツキイ『自己暴露』がある。これは「わが生活(Ⅰ)」というサブタイトルを付し、昭和五年にアルスから刊行されている。おそらく続刊と同工の函はいかにも当時のプロレタリア文学出版物を彷彿…

古本夜話1271 青野季吉『文学五十年』と葉山嘉樹のデビュー

前回、葉山嘉樹の「淫売婦」などが『文芸戦線』に発表されたのは青野季吉を通じてだったことを既述しておいた。これには少しばかり補足も必要なので、もう一編書いてみる。 まずは『文芸戦線』だが、これはその半分ほどが近代文学館により復刻されている。し…

古本夜話1270 葉山嘉樹『海に生くる人々』

本探索1255の小林多喜二の『蟹工船』の成立にあたって、葉山嘉樹の『海に生くる人々』が大きな影響を与えたことは近代文学史においてよく知られていよう。この日本プロレタリア文学の記念碑とされる『海に生くる人々』は大正十五年に改造社から刊行され、例…

古本夜話1269 スタア社『亜米利加作家撰集』

前回の奢灞都館の「アール・デコ文学双書」のラインナップを見ていて思い出されたのは、スタア社の『亜米利加作家撰集』のことである。これは昭和十五年刊行の並製三四五ページの一冊で、ヘミングウエイの「五萬弗」が収録されていたことから、『明治・大正…

古本夜話1268 エリナ・グリン、松本恵子訳『イット』と奢灞都館「アール・デコ文学双書」

前回の松谷与二郎『思想犯罪篇』の巻末広告にエリナア・グリーン、松本恵子訳『イツト』が見出された。そこには「世界的流行の尖端イツトの原本! クララ・ボウによつて全世界にふりまかれたイツト イツトとは? 人生の大問題たる性関係、性心理、性道徳を一…

古本夜話1267 天人社「世界犯罪叢書」と松谷与二郎『思想犯罪篇』

前々回の天人社に関して、もう一編続けてみる。この版元に関しては拙稿「小田律と天人社」(『古本探究Ⅲ』所収)で、ヘミングウェイ、小田律訳『武器よ・さらば』の初訳などに言及し、不完全ながら『現代暴露文学選集』や「新芸術論システム」の内容を紹介し…

古本夜話1266 牧野信一『鬼涙村』

前回に下村千秋に言及したこともあり、ここで牧野信一にもふれておきたい。牧野は下村や浅原六朗と異なり、『現代暴露文学選集』には名前を連ねていないけれど、彼らは大正八年創刊の同人誌『十三人』の中心メンバーだった。しかも下村や牧野ほどではないけ…

古本夜話1265 下村千秋『ある私娼との経験』と平輪光三『下村千秋 生涯と作品』

前回、天人社の『現代暴露文学選集』をプロレタリア文学シリーズのひとつとして挙げたが、これはすでに『近代出版史探索Ⅱ』394で取り上げていることを思い出した。 そこで言及したのはその一冊の中本たか子『朝の無礼』で、彼女がプロレタリア文学者にして蔵…

出版状況クロニクル168(2022年4月1日~4月30日)

22年3月の書籍雑誌推定販売金額は1438億円で、前年比6.0%減。 書籍は944億円で、同2.7%減。 雑誌は494億円で、同11.7%減。 雑誌の内訳は月刊誌が419億円で、同12.4%減、週刊誌は75億円で、同7.5%減。 返品率は書籍が23.8%、雑誌は39.3%で、月刊誌は38.9%、週…

古本夜話1264 新日本出版社『プロレタリア詩集』、松永伍一『日本農民詩史』同『農民小学校』

前回、昭和に入ってからのプロレタリア文学書シリーズの刊行リストを挙げ、それらの中に小説だけでなく、年刊日本プロレタリア詩集』『労農詩集第一輯』『ナップ7人詩集』『詩・パンフレット』などの詩も出版されていたことを確認しておいた。これらの年刊ア…

古本夜話1263 昭和プロレタリア文学シリーズとその出版ディケード

日本のプロレタリア文学運動の雑誌の系譜をたどってみると、『近代出版史探索Ⅱ』210の大正十年創刊の『種蒔く人』から始まり、十三年の『文芸戦線』、昭和三年の『戦旗』へとリンクし、多くの作品が発表されていった。それと併走するように、多彩なプロレタ…

古本夜話1262 藤沢桓夫『新雪』と南進論

前回の改造社『プロレタリア文学集』に藤沢桓夫の名前があることは意外に思われたが、「生活の旗」を始めとする七つの短編を読んでみると、彼がこの時代において紛れもないプロレタリア作家だったことを実感した。 藤沢のことは『近代出版史探索Ⅱ』283でふれ…

古本夜話1261 『現代日本文学全集』と『プロレタリア文学集』

これまで見てきたように、昭和円本時代はプロレタリア文学の時代でもあった。しかもそれには他ならぬ円本も寄り添っていたし、時代のトレンドだったというべきであろう。 それをまさに表象しているのは『近代出版史探索Ⅵ』1101の円本の嚆矢としての改造社『…

古本夜話1260 『岡本唐貴自傳的回想画集・岡本唐貴自選画集』

前々回の『戦旗』創刊号に、プロレタリア美術運動に参加していた鈴木賢治が挿画、カット、漫画などを描いていたことを知り、岡本唐貴のことを想起してしまった。実は一年ほど前に、浜松の時代舎で『岡本唐貴自傳的回想画集・岡本唐貴自選画集』を購入してい…

古本夜話1259 山崎斌編『藤村の手紙』と新英社

前回の自然社に関する一文を書いた後で、浜松の時代舎に出かけ、山崎斌絡みの一冊を見つけてしまったのである。やはり続けて書いておくしかない。彼は既述したように、自然社から処女作長篇『二年後』を刊行し、それが前田河広一郎の、これも第一創作集『三…

古本夜話1258 前田河広一郎『三等船客』、自然社、「新人叢書」

『近代出版史探索Ⅳ』783や『同Ⅵ』1061の前田河広一郎は戦旗社「日本プロレタリア作家叢書」には見えていなかったが、本探索1253で挙げておいたように、日本評論社『日本プロレタリア傑作選集』には『セムガ』が収録されていた。それは未見だけれど、大正十一…

古本夜話1257 壺井繁治『激流の魚』と『戦旗』経営

本探索1253で戦旗社の出版流通と販売に関して、『近代出版史探索Ⅲ』645で既述していることにふれたが、それは「総合ヂャーナリズム講座」における壺井繁治の証言をベースにしている。『日本近代文学大事典』の『戦旗』の解題においても、それらは言及されて…

古本夜話1256 『戦旗』創刊号とメーデー

続けて戦旗社の「日本プロレタリア作家叢書」の徳永直『太陽のない街』、小林多喜二『蟹工船』を取り上げてきたが、両者が連載された『戦旗』創刊号が手元にある。それは本連載1251の新潮社『トルストイ研究』と同じく、近代文学館編集の講談社「復刻 日本の…

古本夜話1255 戦旗社「日本プロレタリア作家叢書」と小林多喜二『蟹工船』

前回の徳永直『太陽のない街』が戦旗社の「日本プロレタリア作家叢書」の一冊であることは既述しておいたが、それらの明細は示さなかったので、ここで挙げてみる。 1 藤森成吉 『光と闇』 2 小林多喜二 『蟹工船』/改訂版『蟹工船』 3 山田清三郎 『五月祭…

古本夜話1254 徳永直『太陽のない街』

徳永直『太陽のない街』の戦旗社版は架蔵している。もちろんそれは昭和四年の初版ではなく、近代文学館からの複刻である。戦旗社の「日本プロレタリア作家叢書」にふさわしい装幀は、柳瀬正夢によるハンマーを振ろうとする労働者の姿を描いたもので、目黒生…

出版状況クロニクル167(2022年3月1日~3月31日)

22年2月の書籍雑誌推定販売金額は1079億円で、前年比10.3%減。 書籍は677億円で、同5.7%減。 雑誌は402億円で、同17.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が335億円で、同18.8%減、週刊誌は67億円で、同6.4%減。 返品率は書籍が29.5%、雑誌は39.8%で、月刊誌は38.9%、…

古本夜話1253 日本評論社『日本プロレタリア傑作選集』と徳永直『能率委員会』

本探索1248の山内封介『レーニン』と一緒に、やはり浜松の時代舎で、徳永直の『能率委員会』を入手している。これは昭和五年に日本評論社から刊行された『日本プロレタリア傑作選集』の一冊で、文庫版を一回り大きくした判型の並製である。奥付には定価三十…

古本夜話1252 新潮社『蘆花全集』と『順礼紀行』

本探索1247でふれた数次に及ぶトルストイブームはともかく、その立役者ともいえる徳富蘆花の明治時代におけるベストセラー作家としての人気に関しては、私などの昭和の戦後世代にとって、実感を伴うことは難しい。それに現在でも岩波文庫で読めるにしても、…

古本夜話1251 新潮社『トルストイ研究』

本探索1247で、新潮社の雑誌『トルストイ研究』を挙げたが、幸いなことにこの第一号は近代文学館編集によって講談社が昭和五十七年に刊行した「複刻 日本の雑誌」の一冊に含まれ、近年それを入手しているので、ここで取り上げておこう。 (『トルストイ研究…

古本夜話1250 吉田一穂『海の人形』と金井信生堂

『金星堂の百年』が出されたことは近代出版史や文学史にとって幸いだったが、全出版目録が収録されていないのは残念の一言に尽きる。それは金星堂の戦前の出版物の収集が困難であることを象徴していよう。紅野敏郎にしても『大正期の文芸叢書』(雄松堂出版…

古本夜話1249 池田みち子『無縁佛』

『金星堂の百年』において、「編集部員は文学青年、文学少女」という見出しで、本探索1238の松山敏だけでなく、当時の他の編集者についてもふれられ、次のように記されていた。 のちに作家となり戦後は「肉体派の風俗作家」などと呼ばれた池田みち子も、常勤…

古本夜話1248 山内封介『レーニン』、金星堂、近代出版社

前回の近代出版社に関して、もう一編書いておきたい。 その前に山内封介というロシア文学者にふれてみる。彼はやはり前回挙げた新潮社の「トルストイ叢書」の『贋造手形』、及びゴンチャロフ『オブローモフ』の訳者だが、昭和に入ってからは新潮社の訳者とし…

古本夜話1247 近代出版社と相馬御風、相馬泰三訳『復活』

もう一編、新潮社と演劇絡みの話を続けたい。佐藤義亮は「出版おもひ出話」において、大正三年に島村抱月が松井須磨子と芸術座を立ち上げ、帝国劇場でトルストイの『復活』を旗揚げ興業した際のエピソードを記している。 それによれば、『復活』の舞台稽古が…

古本夜話1246「現代脚本叢書」、花房柳外、『演劇新潮』

新潮社の「現代脚本叢書」は『近代出版史探索Ⅱ』205で、金子洋文の『投げ棄てられた指輪』を取り上げておいた。その際にはこの「叢書」のラインナップを示さなかったこと、及び谷崎潤一郎の『法成寺物語』を入手したこともあり、もう一度ふれてみる。その前…