出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1200 メレジュコーフスキイ『神々の死』と折口信夫

人類最古の記録はすべて神話と歴史が区別されてゐないのが 実際でないか? 且、さういふ神話的歴史もしくは史詩に於 て、僕等は古代人の思想と生活とを窺ふことが出来るのだ。岩野泡鳴『悲痛の哲理』(『泡鳴全集』 第十五巻所収、国民図書、大正十一年) 本…

古本夜話1199 新潮社『世界文芸全集』

前回の譲受出版と同様に、ずっと新潮社の円本『世界文学全集』にふれてきたが、この企画も昭和を迎えていきなり出現したわけではなく、大正時代の翻訳出版の集積があって結実した円本全集に他ならない。その主たるベースとなったのは大正九年から刊行され始…

古本夜話1198 廣文堂書店、小中村清矩遺著『有聲録』、石川文栄堂

これまで譲受出版に関して、特価本や造り本出版社の多くの例を挙げてきたけれど、それらからわかるように、出版金融と人脈が錯綜し、一筋縄ではいかない世界でもある。本探索1192で、新潮社の『椿姫』の例も挙げたばかりだ。そのために先行する研究もないし…

古本夜話1197 金子健二訳『全訳カンタベリ物語』

前回、読み巧者の平田禿木が『カンタベリ物語』『千一夜物語』『デカメロン』を三大短編集成としていることにふれたが、そこまでいわれれば、これまで取り上げてこなかったチョーサー『全訳カンタベリ物語』もここで書いておくしかないだろう。同書は『近代…

古本夜話1196 平田禿木、『英国近代傑作集』、ヘンリー・ジェイムズ『国際挿話』

前回の『世界文学全集』2には、これも幸いなことに「世界文学月報」が残されていて、そこに平田禿木が「『デカメロン』に就て」という一文を寄せている。そこで禿木はチョーサーの『カンタベリイ物語』、『千一夜物語』と比較して、同じ短編集成であるけれど…

古本夜話1195 森田草平訳『デカメロン』と『補遺デカメロン』

浜松の時代舎で、新潮社の森田草平訳『補遺デカメロン』を入手してきた。これは第一期『世界文学全集』2の別冊で、『日本近代文学大事典』の「叢書・文学全集・合著集総覧」において、「『補遺デカメロン』あり」と付記されていたけれど、実物は初めて目にす…

古本夜話1194 ツルゲーネフ『文学的回想』と「トロップマンの死刑」

本探索1173のドーデ『巴里の三十年』において、ツルゲーネフの『思い出』が届いたことを記し、同書を閉じていることを既述しておいた。 そこで角川文庫にツルゲーネフ『文学的回想』(中村融訳、昭和二十六年)があったことを思い出し、読んでみた。これは一…

古本夜話1193 桜井鷗村訳『蛮人境』とその原作

前回、長田秋涛に再登場してもらったので、やはり旧幕臣の翻訳家で、同じように晩年は実業界に転身した、『近代出版史探索Ⅲ』531などの桜井鷗村にも再び言及してみる。それは友人から『蛮人境』という翻訳書を恵送されたこと、また本探索1189のイギリスの出…

出版状況クロニクル161(2021年9月1日~9月30日)

21年8月の書籍雑誌推定販売金額は811億円で、前年比3.5%減。 書籍は433億円で、同0.1%減。 雑誌は377億円で、同7.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が314億円で、同6.1%減、週刊誌は62億円で、同12.2%減。 返品率は書籍が37.4%、雑誌は43.6%で、月刊誌は43.6%、週刊…

古本夜話1192 デュマ・フィス『椿姫』とその翻訳史

続けて、新潮社『世界文学全集』30に収録の『サフオ』『死の勝利』を取り上げたが、もう一作も同様で、それはデュマ・フィス、高橋邦太郎訳『椿姫』である。 (『世界文学全集』30) たまたまこの巻には「世界文学月報」がそのまま残っていて、『近代出版史探…

古本夜話1191 三島由紀夫とダンヌンツィオ『死の勝利』『聖セバスチャンの殉教』

前回のドーデ『サフオ』とダンヌンツィオ『死の勝利』が、大正の初めに新潮社の「近代名著文庫」として翻訳され、昭和円本時代にいずれも『世界文学全集』30に収録されたことを既述しておいた。(「近代名著文庫」) (『世界文学全集』30) 佐藤義亮の『出版お…

古本夜話1190 ドオデエ、武林無想庵訳『サフオ』

このようなことを書くと、奇異に思われるかもしれないが、小学生の頃、私はドーデのファンであった。それは本探索1173でふれなかったけれど、昭和三十年代には各種の児童向けの世界文学全集が出されていて、そこにドーデの作品も含まれ、『風車小屋だより』…

古本夜話1189 ヴィゼッテリイとゾラの英訳

前回の井上勇も『制作』の翻訳に際し、「ヴイゼツテリイ監督のもとに出版された英訳」も参照したと「覚書」に記していた。前々回の山本昌一は『ヨーロッパの翻訳本と日本自然主義文学』の「ゾラと荷風・枯川」において、従来の所謂「ヴィゼッテリイ本」ヴィ…

古本夜話1188 第百書房、井上勇訳『制作』、高島正衛

ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の大正時代の譲受出版に関して、ずっとトレースしてきたので、ここでもう一冊付け加えておこう。 それは本探索1179でも挙げておいた井上勇訳『制作』で、大正十一年に聚英閣から刊行されているが、この前後巻2冊は未見で…

古本夜話1187 三星社の水上齊訳『全訳ボワ゛リー夫人』に至るまで

本探索1184の『ボワ゛リー夫人』がようやく出てきたので、ここで書いておく。黒川創の『国境』において、夏目漱石の仲介で明治三十四年に『満洲日々新聞』に連載されたフロオベルの『ボワ゛リー夫人』は植民地の新聞だったこともあり、ほとんど知られていな…

古本夜話1186 ゴンクール『売笑婦エリザ』、アラン・コルバン『娼婦』、『ナナ』

本探索1173のドーデ『巴里の三十年』 において、フローベールの家での晩餐会にはゴンクールの『令嬢エリザ』も供されていた。ゴンクール兄弟に関しては『近代出版史探索Ⅴ』825、826で取り上げているが、この作品は弟のジュールの死後、一八七七年に兄のエド…

古本夜話1185 テーヌ『英文学史』と『文学史の方法』

ずっとゾラにふれてきたので、彼に大きな影響を与えたとされ、本探索1177で金森修も挙げていたテーヌ『英文学史』も取り上げておこう。 テーヌの『英文学史』は一八六三年にアシェット書店から三巻で出版され、六四年に一巻が加えられ、六九年に五巻に分かれ…

古本夜話1184 水上斎訳『酒場』と木村幹訳『居酒屋』『夢』

成光館版「ルーゴン=マッカール叢書」は本探索1179『死の解放』、同1180『芽の出る頃』の他に、もう一冊あり、それは水上斎訳『酒場』で、昭和三年十一月の再版とされている。「改訂」と付されているが、それは大正十一年の天佑社版の譲受出版を意味している…

古本夜話1183 伊佐襄『正しい英語の知識』とユスポフ『ラスプーチン暗殺秘録』

前回の伊佐襄と高橋襄治に関してもネット検索したところ、後者はヒットしなかったけれど、前者には『ラスプーチン暗殺秘録』や『正しい英語の知識』という訳書、著書があるとわかった。そこでこれらも早速入手することになった。 先に『正しい英語の知識』を…

古本夜話1182 伊佐襄訳『ジェルミナール』と高島襄治訳『ゼルミナール』

昭和に入ると、ゾラの『ジェルミナール』は伊佐襄訳『ジェルミナール』(『新興文学全集』15,平凡社、昭和五年)、高島㐮治訳『ゼルミナール』(改造社、同九年)として刊行されている。 (伊佐襄訳『ジェルミナール』、本の友社復刻)(『ゼルミナール』)…

出版状況クロニクル160(2021年8月1日~8月31日)

21年7月の書籍雑誌推定販売金額は820億円で、前年比11.7%減。 書籍は426億円で、同4.6%減。 雑誌は394億円で、同18.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が328億円で、同19.0%減、週刊誌は65億円で、同14.3%減。 返品率は書籍が41.4%、雑誌は43.9%で、月刊誌は43.3%、…

古本夜話1181 中央社出版部『ゾラ著作異状なし』

前回、関口鎮雄訳『芽の出る頃』を取り上げ、私が所持しているのは大正十二年の金星堂版の上下本ではなく、昭和二年の合本の成光館版で、こちらは特価本出版社による譲受出版であることを既述しておいた。また同書が『ジェルミナール』で、訳者の関口のプロ…

古本夜話1180 関口鎮雄訳『芽の出る頃』と堺利彦訳『ジェルミナール』

前回は大正時代のゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」翻訳をリストアップしたので、金星堂の『芽の出る頃』、アルスの堺利彦訳『ジェルミナール』を挙げておいた。だがそこで言及できなかったこともあり、ここで書いておきたい。それは前回の『獣人』と同じく…

古本夜話1179 三上於菟吉訳『獣人』と坂井律訳『死の解放』

ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の翻訳は大正時代後半が最盛期で、国立国会図書館編『明治・大正・昭和翻訳文学目録』(風間書房)を確認してみると、次のようにリストアップできる。類似した試みを『近代出版史探索』193で行なっているけれど、私は論創…

古本夜話1178 宇高伸一訳『ナナ』と三好達治

前回、大正十一年にゾラの『ナナ』が宇高伸一全訳で、『世界文芸全集』7として刊行され、大ベストセラーとなり、新潮社が新社屋を建設するに至り、それがナナ御殿とよばれたというエピソードを記しておいた。(『世界文芸全集』) この宇高については『日本…

古本夜話1177 ゾラ『実験小説論』、『パスカル博士』、金森修『科学的思考の考古学』

ゾラが「ルーゴン=マッカール叢書」の第一巻『ルーゴン家の誕生』(伊藤桂子訳、論創社)を刊行するのは一八七一年で、その理論とされる『実験小説論』を上梓するのは八〇年で、拙訳もある「同叢書」の第九巻『ナナ』の出版後だった。日本における『実験小説…

古本夜話1176 松本恵子訳『アベ・ムウレの罪』とパラドウ

前回の『フロオベエル全集』の『聖者アントワヌの誘惑』ではないけれど、ドーデの『巴里の三十年』に見えるゾラの『ムレー司祭』も、『アベ・ムウレの罪』として、やはり改造社の「ゾラ叢書」で翻訳刊行されていた。それは昭和五年の「同叢書」第二篇として…

古本夜話1175 庄司浅水、ブックドム社、フローベル『愛書狂の話』

前回の改造社版『フロオベエル全集』第四巻には、拙稿「庄司浅水と『愛書狂』」(『古本屋散策』所収)ですでにふれている。だがそれは同巻に「愛書狂」が収録されていたことによるものだ。 (改造社版) その後、ブックドム社のフローベル著、庄司浅水訳『愛…

古本夜話1174 フロベエル、広瀬哲士訳『聖アントワアヌ』と双樹社

フローベールの家での晩餐会の席に供せられていた『聖アントワーヌの誘惑』は一八七四年=明治七年に刊行されている。 一八四五年にフローベールはイタリア旅行で、ジェノヴァのバルビ宮において、ブリューゲルの「聖アントワーヌの誘惑」を見た。そしてその…

古本夜話1173 ドーデ、萩原彌彦訳『巴里の三十年』

前回、トルストイやドステエーフスキーの日記や書簡を収録した新潮社の「人と芸術叢書」にふれたが、その第四編がドオデエの『巴里の三十年』であることを知った。この訳者が『支那思想のフランス西漸』(第一書房、昭和八年)の後藤末雄だと承知していたけ…