出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1171 松本苦味、ツルゲーネフ『春の水』、文正堂書店

前回の『ツルゲネエフ全集』の生田春月訳『春の波』は入手していないが、それにあたる松本苦味訳『春の水』は見つけている。『近代出版史探索Ⅱ』249で、金桜堂の「パンテオン叢書」と松本苦味訳、ゴオリキイ『どん底』を取り上げ、内藤加我の金桜堂の前身が…

古本夜話1170 新潮社『ツルゲエネフ全集』と生田春月訳『初恋』

新潮社はやはり大正七年から『ツルゲエネフ全集』全十巻を刊行している。それには前史があって、佐藤義亮は「出版おもひ出話」(『新潮社四十年」所収』で、明治四十年頃に外国文学の翻訳出版をツルゲーネフから始めようと思ったと述べ、次のように続けてい…

古本夜話1169 勝本清一郎と女たち

浜松の時代舎で、勝本清一郎の『前衛の文学』を入手してきた。これは昭和五年に新潮社ら刊行されたもので、『日本近代文学大事典』の勝本の立項において、書影と解題も見える。タイトルと並んで、装幀が村山知義であることはこの一冊の時代的位相を物語って…

古本夜話1168 吉井勇『こひびと』、新潮社「現代自選歌集」、『吉井勇集』

やはり籾山書店から大正六年に吉井勇の歌集『こひびと』が出されている。これも菊半截判で、一ページに二首が収録され、最初の一首からして「恋に生き恋に死ぬべきいのちぞと思い知りしも君あるがため」とあり、まさにタイトルにふさわしいオープニングとい…

古本夜話1167 三星社『青い鳥』、若月紫蘭、植竹書院「薔薇叢書」

これも浜松の時代舎で購入してきた一冊だが、マーテルリンク氏作、宮崎最勝解説『青い鳥』で、大正十四年に三星社出版部からの刊行である。 『近代出版史探索Ⅱ』281と227において、三星社が三陽堂、東光社と並んで、植竹書院の紙型と出版物を引き継いだ特価…

古本夜話1166 植竹書院「現代代表作叢書」、正宗白鳥『まぼろし』、三陽堂

前々回の籾山書店の「胡蝶本」と併走するように、大正三、四年に植竹書院から「現代代表作叢書」が刊行されていた。そのラインナップを示す。 1 森田草平 『煤煙』 2 鈴木三重吉 『珊瑚樹』 3 谷崎潤一郎 『麒麟』 4 田山花袋 『小春傘』 5 正宗白鳥 『まぼ…

古本夜話1165 籾山書店、自費出版、堀口大学『月光とピエロ』

近代出版史や文学史において、籾山書店が高浜虚子の俳書堂を引き継ぎ、「胡蝶本」を刊行したことは知られていても、自費出版を手がけていた事実はそれほど周知でないと思われるので、続けて書いておこう。しかもしそれは堀口大学の詩集などで、彼は大正七年…

古本夜話1164 高浜虚子、俳書堂、『ホトトギス』

俳書堂編『俳句の研究』と題する菊判上製、五六八ページ、一円五十銭の一冊が手元にあるけれど、とても疲れた裸本で、背文字はほとんど読める状態にはない。 冒頭の俳書堂主人が記す「凡例」によれば、本書は明治三十一年十月の東京版『ホトトギス』第二巻第…

古本夜話1163 籾山書店、「胡蝶本」、東枝書店

前回、三教書院の「いてふ本」を取り上げたからには、籾山書店の「胡蝶本」にもふれておくべきだろう。前者は袖珍文庫の国文学叢書、後者は文芸書の代表的叢書で、そのアイテムはまったく異なっているけれど、いずれも明治末期から大正にかけての刊行であり…

古本夜話1162 昭和十年代の「いてふ本」

本探索1135の金星堂=土方屋の福岡益雄に先駆けるようにして、明治末に大阪から出て、やはり東京で国文学叢書などの出版社を興した人物がいる。 それは鈴木種次郎で、出版社は『近代出版史探索Ⅱ』304の三教書院、国文学叢書は「いてふ本」という小型本とされ…

出版状況クロニクル158(2021年6月1日~6月30日)

21年5月の書籍雑誌推定販売金額は775億円で、前年比0.7%増。 書籍は420億円で、同0.9%減。 雑誌は355億円で、同2.6%増。 雑誌の内訳は月刊誌が290億円で、同1.1%増、週刊誌は65億円で、同9.5%増。 返品率は書籍が37.5%、雑誌は44.3%で、月刊誌は44.5%、週刊…

古本夜話1161 正宗白鳥『人を殺したが・・・』と井伏鱒二

ハイネ『ハルツの旅』の巻末広告「聚芳閣の長篇小説」という一ページを見ていて、紅野敏郎『大正期の文芸叢書』における「新作家叢書」に連想が及んだので、そのことを書いてみよう。 まずそのうちの九作を挙げてみる。 1 中西伊之助 『一人生記録』 2 近藤…

古本夜話1160 ハイネ、古賀龍視訳『ハルツの旅』

金星堂と聚芳閣がリンクする一編を書いておこう。 大正十四年に聚芳閣からハイネの散文詩集『ハルツの旅』が古賀龍視訳で刊行されている。これはハイネが一八二四年にハルツ地方を旅した際に書かれた、詩も含んだ「散文」旅行記といっていい。詩だけのほうは…

古本夜話1159 ヒユネカア『エゴイスト』と「海外芸術評論叢書」

聚芳閣は前回の『院本正本日本戯曲名作大系』とほぼ同時期に、「海外芸術評論叢書」を刊行している。ただこの「叢書」は『全集叢書総覧新訂版』や紅野敏郎『大正期の文芸叢書』にも見当らないこともあり、全巻点数や明細が確定されていない。 (『院本正本日…

古本夜話1158 聚芳閣『院本正本日本戯曲名作大系』と三島才二

本探索1116の『校註日本文学大系』から、ずっと「大系」シリーズをたどってきたが、もう一冊あるので、それも書いておこう。それは『院本正本日本戯曲名作大系』第一巻で、大正十四年に足立欽一の聚芳閣から刊行されている。足立と聚芳閣に関しては拙稿「足…

古本夜話1157 征矢野晃雄『聖アウグスチヌスの研究』、長崎次郎、長崎書店

前回のヤコブ・ベーメ『黎明』の訳者の征矢野晃雄は『キリスト教大事典改新訂版』(教文館、昭和四十三年)に立項されていなかったけれど、その後版と考えられる『日本キリスト教歴史大事典』(同前、同六十三年)において、立項を見出すことができる。それ…

古本夜話1156 南原実『ヤコブ・ベーメ 開けゆく次元』と征矢野晃雄訳『黎明』

確か最初にヤコブ・ベーメの名前を知ったのは、コリン・ウィルソンの『宗教と反抗人』(中村保男訳、紀伊國屋書店、昭和四十三年)で、その第一章がベーメに当てられていたからだ。だがその内容に関してはベーメが靴屋で、著者のウィルソンも靴屋の息子とい…

古本夜話1155 筑摩書房とベルトラム『ニーチェ』

本探索1149の茅野蕭々『独逸浪漫主義』と同じく、高橋巖が『ヨーロッパの闇と光』で言及しているベルトラムの『ニーチェ』は筑摩書房から浅井真男訳で、昭和十六年十一月に刊行されている。私の手許にあるのは十七年二月の再版で、太平洋戦争が迫りつつある…

古本夜話1154 村上静人、赤城正蔵、「アカギ叢書」

前回『ハウプトマン名作選集』が村上静人訳編によることを既述しておいたけれど、村上は『日本近代文学大事典』に立項されておらず、「アカギ叢書」の訳者の一人としての記載を散見するだけである。 (『ハウプトマン名作選集』) それに加えて、「アカギ叢書…

古本夜話1153 『ハウプトマン名作選集』と『寂しき人々』

前々回の「独逸文学叢書」に収録予定だったハウプトマン『ソアーナの異教徒』(奥津彦重訳)は、昭和三年に岩波文庫として刊行された。この特異な小説に言及するつもりでいたが、その岩波文庫が紛れてしまい、出てこないので、代わりに『ハウプトマン名作選…

古本夜話1152 岩波書店『ストリントベルク全集』

岩波書店としては関東大震災直後の企画だが、前回の「独逸文学叢書」と併走するように刊行され、同じく岩波文庫へと移ることで中絶してしまったのは『ストリントベルク全集』だったと思われる。 (「独逸文学叢書」、『世襲山林監督』) その一冊である『大…

出版状況クロニクル157(2021年5月1日~5月31日)

21年4月の書籍雑誌推定販売金額は1073億円で、前年比9.7%増。 書籍は581億円で、同21.9%増。 雑誌は492億円で、同1.8%減。 雑誌の内訳は月刊誌が420億円で、同0.7%減、週刊誌は72億円で、同8.2%減。 返品率は書籍が27.5%、雑誌は40.3%で、月刊誌は39.3%、週…

古本夜話1151 岩波書店「独逸文学叢書」、藤代禎輔、ルードヴィヒ『世襲山林監督』

前回の三笠書房『ホフマン全集』が時期尚早ゆえに二冊で中絶してしまったことにふれた。それより十年ほど前になるけれど、岩波書店でも「独逸文学叢書」が企画され、こちらは十四冊出されたが、やはり後が続かなかったと思われる。 その3にあたるルードヴィ…

古本夜話1150 三笠書房『ホフマン全集』と『黄金の壺』

茅野蕭々の『独逸浪漫主義』は昭和十年代において、最もまとまったドイツロマン派に関する紹介と研究を兼ねた一冊だったと思われる。しかも丁寧な索引も付され、作家と作品をたどる便宜もはかられている。 (『独逸浪漫主義』) 例えば、小説のところで、ノ…

古本夜話1149 茅野蕭々『独逸浪漫主義』

前回の 近藤春雄『ナチスの青年運動』のような時宜にかなったナチズム書ばかりでなく、昭和十年代には多くのドイツ文学、思想書も出版されていたはずだが、それらの全貌は明らかにされていない。フランス文学に関しては『近代出版史探索Ⅴ』で多く言及してい…

古本夜話1148 近藤春雄『ナチスの青年運動』

『三省堂書店百年史』は昭和十年代の書店に関しては多くの写真を掲載して、支那事変以後の売場の変遷、また「名著目録(昭和五年―十五年)」示して、「名著の供給を絶やさなかった」事実を伝えてようとしているが、自社出版物についてはほとんど語っていない…

古本夜話1147 啓文社、河原万吉『趣味の古書通話』、水原堯榮『女性と高野山』『邪教立川流の研究』

河原万吉の本がもう一冊出てきたこともあり、前回の彼の宗教と絡めて、もう一編書いてみよう。 それは『趣味の古書通話』で、昭和十二年、発行者を生地優吾とする、本郷区元町の啓文社からの刊行である。河原の「序」によれば、同書は古書に関する四冊目の著…

古本夜話1146 河原万吉訳、スエデンボルグ『天界と地獄』

前回の河原万吉がゾラ『居酒屋』の訳者であることを既述したが、その他にも思いがけない翻訳が見出される。それは拙稿「スウェーデンボルグ『天界と地獄』と静思社」(『古本屋散策』所収)、やはり『近代出版史探索Ⅱ』247の鈴木大拙訳『天界と地獄』と異な…

古本夜話1145 四六書院「通叢書」と河原万吉『猥談奇考』

前回、『三省堂書店百年史』に何の説明もないけれど、四六書院「通叢書」の河原万吉『古書通』の書影が掲載されていることを既述しておいた。 (『古書通』) (『西洋音楽通』) この「通叢書」は昭和四年十二月に、現代人における趣味の欠乏が問題なので、「…

古本夜話1144 四六書院、小松清『西洋音楽通』、三省堂『レコード音楽全集』

前回、大正時代に上方屋出版部の楽譜本や歌本がまさに飛ぶように売れていたことにふれたが、昭和に入ると、それらも含めた音楽書や雑誌の分野も活発になっていったと推測される。それは『近代出版史探索Ⅱ』339のアルスの「音楽大講座」や春秋社の『世界音楽…