出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル98(2016年6月1日〜6月30日)

出版状況クロニクル98(2016年6月1日〜6月30日)

16年5月の書籍雑誌の推定販売金額は962億円で、前年比4.1%減。
書籍は461億円で、同3.2%減、雑誌は501億円で、同4.9%減。
雑誌のうちの月刊誌は401億円で、同5.7%減、週刊誌は99億円で、1.4%減。後者の近年に見ない小幅なマイナスは、先月の10.5%減の反動と考えられる。
返品率は書籍が42.4%、雑誌は45.5%と高止まりしている。
書店売上は書籍が文庫の8%減もあって、石原慎太郎『天才』などのベストセラーが出ているにもかかわらず、3%マイナス。雑誌のほうも定期雑誌7%減、ムック5%減、コミック2%減で、6%のマイナス。5月までの休刊誌は前年より17点増の63点で、創刊誌の40点を上回っているし、まだこれからも続出していくだろう。
2月と4月は書籍がプラスだったために、全体のマイナスは小幅だったが、5月は戻ってしまった。5月までは2.5%減であるが、16年上半期マイナスは2%台にとどまるかどうか、6月の売上次第ということになる。
天才



1.『出版年鑑』による15年の出版物総売上高が出され、『出版ニュース』(6/下)に掲載されているので、それを示す。

■書籍・雑誌発行売上推移
新刊点数
(万冊)
書籍
実売総金額
(万円)
書籍
返品率
(%)
雑誌
実売総金額
(万円)
雑誌
返品率
(%)
書籍+雑誌
実売総金額
(万円)
前年度比
(%)
199660,462109,960,10535.5%159,840,69727.0%269,800,8023.6%
199762,336110,624,58338.6%157,255,77029.0%267,880,353▲0.7%
199863,023106,102,70640.0%155,620,36329.0%261,723,069▲2.3%
199962,621104,207,76039.9%151,274,57629.9%255,482,336▲2.4%
200065,065101,521,12639.2%149,723,66529.1%251,244,791▲1.7%
200171,073100,317,44639.2%144,126,86730.3%244,444,313▲2.7%
200274,259101,230,38837.9%142,461,84830.0%243,692,236▲0.3%
200375,53096,648,56638.9%135,151,17932.7%231,799,715▲4.9%
200477,031102,365,86637.3%132,453,33732.6%234,819,2031.3%
200580,58098,792,56139.5%130,416,50333.9%229,209,064▲2.4%
200680,618100,945,01138.5%125,333,52634.5%226,278,537▲1.3%
200780,59597,466,43540.3%122,368,24535.3%219,834,680▲2.8%
200879,91795,415,60540.9%117,313,58436.3%212,729,189▲3.2%
200980,77691,379,20941.1%112,715,60336.1%204,094,812▲4.1%
201078,35488,308,17039.6%109,193,14035.4%197,501,310▲3.2%
201178,90288,011,19038.1%102,174,95036.0%190,186,140▲3.7%
201282,20486,143,81138.2%97,179,89337.5%183,323,704▲3.6%
201382,58984,301,45937.7%92,808,74738.7%177,110,206▲3.4%
201480,95480,886,55538.1%88,029,75139.9%168,916,306▲4.6%
201580,04879,357,21737.7%80,752,71441.6%160,100,931▲5.2%
本クロニクル93 で示しておいたように、出版科学研究所データは書籍7419億円、雑誌7801億円、合計1兆5520億円、前年比5.3%減である。それに比べ、こちらは合計1兆6010億円、前年比5.2%減である。マイナス幅だけはほぼ共通していることになる。

それは14年もほぼ同様だったが、15年の
『出版年鑑』による全体マイナス幅5.2%は、この20年間だけでなく、戦後始まって以来の最大の落ちこみで、出版危機が加速していることを告げている。またその事実を反映して、雑誌返品率もかつてない41.6%になっており、実売総金額も16年は雑誌が8000億円を割りこみ、書籍が上回る事態を迎えるであろう。まさに現在、書籍が雑誌を支えなければならない流通販売状況に入っているわけだが、現実的にそれが可能なのか。『出版年鑑』データはそのことを示唆しているといえよう]

2.これも『出版ニュース』(6/中)だが、やはり『出版年鑑』における出版社数の推移も掲載されているので、それも引いておく。

■出版社数の推移
出版社数
19924,284
19934,324
19944,487
19954,561
19964,602
19974,612
19984,454
19994,406
20004,391
20014,424
20024,361
20034,311
20044,260
20054,229
20064,107
20074,055
20083,979
20093,902
20103,817
20113,734
20123,676
20133,588
20143,534
20153,489
[この20年で、ほぼ1000社が減少したことになる。13年連続のマイナスで、それが21世紀に入ってから、さらに顕著になってきたとわかる。

日本の出版物の多様性とは、中小出版社によって支えられていたわけだから、これらの1000社に及ぶ出版社の退場は出版物の多様性が失われ、画一的な出版物が多数を占める市場に拍車をかけたことになる。

それもまた出版業界の危機をもたらした要因であることは疑いをえない。

また15年の書店閉店が668店だったことは本クロニクル93 に示しておいたが、16年は太洋社の倒産もあり、こちらも1000店近くに及ぶのではないだろうか]

3.『日本の図書館 統計と名簿2015』が出されたので、公共図書館の推移を示す。

日本の図書館 統計と名簿2015
 

■公共図書館の推移
    年    図書館数
専任
職員数
(人)
蔵書冊数
(千冊)
年間受入
図書冊数
(千冊)
個人貸出
登録者数
(千人)
個人貸出
総数
(千点)
資料費
当年度
予算
(万円)
1971 8855,69831,3652,5052,00724,190225,338
1980 1,3209,21472,3188,4667,633128,8981,050,825
1990 1,92813,381162,89714,56816,858263,0422,483,690
1997 2,45015,474249,64919,32030,608432,8743,494,209
1998 2,52415,535263,12119,31833,091453,3733,507,383
1999 2,58515,454276,57319,75735,755495,4603,479,268
2000 2,63915,276286,95019,34737,002523,5713,461,925
2001 2,68115,347299,13320,63339,670532,7033,423,836
2002 2,71115,284310,16519,61741,445546,2873,369,791
2003 2,75914,928321,81119,86742,705571,0643,248,000
2004 2,82514,664333,96220,46046,763609,6873,187,244
2005 2,95314,302344,85620,92547,022616,9573,073,408
2006 3,08214,070356,71018,97048,549618,2643,047,030
2007 3,11113,573365,71318,10448,089640,8602,996,510
2008 3,12613,103374,72918,58850,428656,5633,027,561
2009 3,16412,699386,00018,66151,377691,6842,893,203
2010 3,18812,114393,29218,09552,706711,7152,841,626
2011 3,21011,759400,11917,94953,444716,1812,786,075
2012 3,23411,652410,22418,95654,126714,9712,798,192
2013 3,24811,172417,54717,57754,792711,4942,793,171
20143,24610,933423,82817,28255,290695,2772,851,733
2015 3,26110,539430,99316,30855,726690,4802,812,894
『出版状況クロニクル4』 において、10年から図書館貸出冊数が書籍販売冊数を上回っていることを指摘し、またそれが14年に至ってマイナスに転じたことも記しておいた。そしてそのマイナスは数年間追跡する必要もあると書いてきた。

15年は6.9億冊と2年続きのマイナスで、図書館数、蔵書冊数、登録者数はいずれも増えていることからすれば、図書館貸出冊数もすでにピークアウトを迎えていると見なしていいかもしれない。

これもまたで述べたような出版社の減少による、出版物の多様性と魅力が失われたことの反映であるかもしれない。とすれば、図書館においても、出版危機の余波が及んでいることにもなる。

また「雑誌の図書館」である大宅壮一文庫の近年の赤字も伝えられている]

4.図表の掲載が続くが、もうひとつ示しておく。それは図書券・図書カード発行高・回収高推移である。

■図書券、図書カード発行高、回収高
発行高(百万円)回収高(百万円)
図書券図書カード図書券図書カード
199763,2526,30369,55561,8404,87266,712
199863,7618,32272,08462,4225,96266,384
199963,69111,24474,93562,6597,38870,047
200061,62115,49777,11960,7489,98370,731
200159,74115,16474,90559,88112,18072,062
200257,39716,99074,38757,89713,16471,060
200353,51119,16272,67354,09315,51269,605
200447,74022,74870,48851,80617,57769,384
200518,47251,55770,03038,83130,57769,408
2006-68,01068,01010,93453,86564,798
2007-67,42767,4275,13858,40363,540
2008-65,31165,3113,30259,62862,930
2009-65,14365,1432,38360,00662,389
2010-66,64666,6461,87961,47563,354
2011-58,30358,3031,54957,68259,231
2012-55,75155,7511,06852,80453,872
2013-53,33653,33683350,37851,211
2014-58,32658,32670251,11151,813
2015-48,48948,489--50,110

 図書カードを発行する日本図書普及の今期の決算と事業実績によれば、図書カード発行高は484億8900万円で、前年比16.9%減、回収高は501億1000万円で、同3.3%減。回収高が発行高を上回ったのは、11年度に続いて2度目。

[1960年に出版社、取次、書店の連携参加によって創立された日本図書普及は、2000年に図書券、図書カードの発行高770億円のピークを達成していたが、それからは15年間連続マイナスで、ついに500億円を割ってしまったことになる。

その最も大きな原因は加盟店の激減で、2000年に1万2500店近くを数えていたが、15年にはその半分ほどの6608店となっている。

雑誌や書籍だけでなく、図書カードもまたそれに見合う書店数が必要であり、現在の書店数ではそのインフラが形成できないことを露呈し、明らかに採算問題に入り始めている]

5.日販の子会社25社を含む連結売上高は6398億円で、前年比3.2%減。営業利益は27億円、5.8%増だが、当期純利益は8億円、18.7%減と減収減益の連結決算。

 日販単体の売上高は5238億円、同4.6%減。その内訳は書籍2475億円、雑誌2434億円、開発商品327億円。営業利益は16億円、同14.7%減、当期純利益は10億円、22.4%増の減収増益。

[経費節減によって、営業利益は増となっているが、前回も記しておいたように、雑誌売上が書籍売上を下回る事態を迎えている。

単体での雑誌売上高は9.9%減で、とりわけコンビニルートの返品率は51.2%に及び、『出版状況クロニクル4』 で指摘してきたコンビニの現在の雑誌の月商30万円台と突き合わせれば、その取次が流通だけで利益を上げていないことは明白であろう。

それからリブロ池袋本店などの撤退費用として10億円ほどの特別損失が計上されているが、子会社の書店のリストラはこれから必至であろうし、今期の決算はどうなるのか、それが出版業界全体のメルクマールともなろう]

6.MPDの売上高は1894億円、前年比1.6%減。営業利益は7億円、同27.5%減。当期純利益は3億円、同48.7%減の減収減益決算。

 その内訳は「BOOK」989億円、1.7%減、書籍430億円、5.0%増、雑誌566億円4.9%減。

 「AVセル」308億円、8.7%減、「GAME」165億円、8.9%減、「RENTAL」239億円、6.5%減、その他191億円、33.9%増。

[日販の子会社であるMPDは、CCC=TSUTAYAのために設立された特販取次と見なしていいし、CCC=TSUTAYAを映し出す鏡だと考えられる。

これも『出版状況クロニクル4』 でフォローしてきたが、MPDは12年の2094億円をピークとして、3年連続マイナスで、16年はついに1900億円を割りこみ、4期にわたる減収となっている。CCC=TSUTAYAのFCフランチャイズシステムの主力であった「AVセル」「GAME」「RENTAL」のマイナスも大きく、その大型複合店のチェーンの存続が問われ始めている」

7.トーハンの売上高は4737億円、前年比1.5%減。その内訳は書籍が1845億円、雑誌が1702億円、コミックが567億円、MM商品が621億円で、その中でも雑誌は5.4%減の96億円のマイナスとなっている。ただコスト削減もあって、営業利益は61億円、1.6%増、当期純利益は23億円、8.2%増。

 子会社14社も含めた連結売上高は4883億円、1.4%減、営業利益59億円、5.6%減、当期純利益16億円、1.3%増の減収増益。

 なお太洋社からの帳合変更は日販の200店に対して、トーハンは54店。

[トーハンのコンビニシェア、及びその売上減と返品率は出されていないが、セブン-イレブンだけで取引書店の3倍を超える1万5000店を抱えていることからすれば、雑誌の落ちこみは焦眉の問題となっているはずだ。そのコンビニ配送に関しては、日販と協力して共同配送を進めていくとされるが、 でふれたように、さらにコンビニの雑誌売上のマイナスが生じる可能性が高い。そうなれば、トーハン、日販の共同配送にしても、赤字になりかねないだろう。

ここで日販、トーハンの前期の決算が出揃ったわけだが、正念場となるのは今期の決算であろう]

8.旧大阪屋の決算見通しも発表されている。

 それによれば、15年4月から16年3月期の売上割引前の売上高は693億円、前年比0.8%増、その内訳は書籍が433億円、6.4%増、雑誌が242億円、7.7%減、教科書等18億円。

 最終的に営業利益数千万円、経常利益、税引前利益1億円台の半ばとしている。

[これも『出版状況クロニクル4』 で既述しているが、大阪屋の前期売上高は681億円で、営業、経常利益は赤字だった。それが増収増益となったのは、栗田の民事再生申請に伴い、何らかの上乗せがなされたからだと判断するしかない。帳合戦争の勝者たる日販やトーハンですら減収となっているのだから、大阪屋の場合、そう考えて当然だろう。

それだけでなく、本クロニクル96 で、大阪屋栗田の発足をレポートしておいたが、栗田の返品をめぐる問題はまだ解決しておらず、とりわけ大手出版社への返品は処理できていないとも伝えられている。

取次の倒産に際しては栗田の返品処理に表出したように、そのスキームが確立されておらず、太洋社の場合にも同じように混乱が起き、それはまだ解決に至っていない。栗田にしても、太洋社にしても、倒産以後の出版社や書店との関係の詳細はほとんど明らかではないし、ブラックボックスと化している。

そうした意味からしても、前期の旧大阪屋決算は、今期の大阪屋栗田決算を照らし合わせてみなければ、実態が浮かび上がってこないと思われる]

9.地方・小出版流通センターの決算も出され、売上高は12億9462万円で、前年比9.49%増。

 「同通信」(No.478)の報告を引いておく。


 15年度決算の報告をします。昨年は、統合取次・栗田出版販売(株)と(株)太洋社の破綻・出版流通からの撤退という、大きな曲がり角にきた年でした。

 また当社が設立以来直接取引きしてきた大型書店・リブロ池袋店が閉店しました。市場の激変のなかで当社はなんとか供給を続けてきました。一昨年、昨年と大幅な扱い高減少に伴い2年連続の最終赤字決算でしたが、15年度は取次出荷が前年比11%増だったことで、なんとか最終赤字は逃れました。

 図書館売上は−2.5%、直書店売上0.2%増、総売上は9.49%増で、売上総利益は11.82%増となりました。しかし、営業損益は−608万円、積立て金等を取崩した営業外収入866万円でなんとか黒字という有様で、苦しい経営状況であることは変わりません。
 経費が若干増えたのは、昨年来続けてきた賃金カット幅を縮小したこと、栗田出版の債権の半分を貸倒れ引き当て計上したことによります。経常利益254万」、当期利益443万となりました。」
[このような状況の中で、どうして取次出荷が11%増となったのかは説明されていない。だが先述してきたように、日販、旧大阪屋は書籍が雑誌を上回り、またトーハンも書籍がコミックを抜いた雑誌を上回っていることからすれば、地方・小の場合、大半が書籍であるから、雑誌と比べて、書籍のほうは下げ止まりの兆候を垣間見せていることになるのだろうか]

10.トーハンは鹿島建設グループから八重洲ブックセンターの株式49%を譲受し、トーハン元社長の山崎厚男が新社長に就任。

 八重洲ブックセンターは1978年に八重洲に最大型店を出店し、神奈川、千葉、栃木県なども含め、12店を展開し、売上高は59億円。

[株式譲渡金額は明らかになっていないし、またどうしてトーハンだったのかも同様である。

ただ仄聞するところ、日販帳合で手がけた新規店がいずれも売上予測と異なり、失敗に終わったこと、また丸善丸の内店が同じく日販であることから、トーハンに株式譲渡と経営を委ねるという決定が下されたのではないかとの観測もあるようだ。

それからもうひとつ考えられるのは、東京駅前の八重洲エリア大規模開発との絡みで、そのプロジェクトに備えての布石の試みであるかもしれない]

11.三洋堂ホールディングスの売上高は231億円、前年比4.2%減。

 文具・雑貨・食品部門や古本部門は前年を上回り健闘したが、65%のシェアを占める「書店部門」が前年比4%減となり、また「セルAV」や「レンタル」なども同様で、全体として前年をクリアできなかった。

 今期予想は売上高220億円、前年比5.1%減、当期純利益11億円、同39.0%減を見込む。

『出版状況クロニクル4』 で、三洋堂の加藤和裕社長の書店の選択肢は、「破綻」か「身売り」しかないとの言、それからトーハンが子会社から三洋堂の株式を譲受し、第2位の株抜巣になったことを既述しておいた。
今期予想売上高からすれば、赤字になる可能性をも示唆しているようで、これは上場会社としてのシビアな判断かもしれないが、トーハンによる「囲い込み」を想定しているとも考えられる]

12.未来屋書店の決算も出された。売上高は548億円、前年比8.2%増。

 これは昨年かつてのダイエーの子会社アシーネ91店、売上40億円を吸収したからで、それに伴い、店舗数は339店となった。

[これも『出版状況クロニクル4』に掲載しておいたが、書店売上高ランキングにおいて、14、15年と続けて、未来屋は第4位を占め、今年もそれは確保されるであろう。イオンの子会社であることから、その郊外ショッピングセンターが中心だと思われるが、総店舗面積はすでに5万坪を超える。今期もすでに6月にオープンした千葉県佐倉市にユーカリが丘店500坪を含めて4店、今後も5店の新規出店が決まっているという。

大駐車場を備え、集客力の強いショッピングセンター内の未来屋は、しばらくは勝ち組としてこれからも増加していくだろう。と同時に、それはフリースタンディングの書店だけでなく、同様の立地の書店とのバッティングをも招来させると思われる]

13.小学館の決算は売上高956億円、前年比6.7%減で、当期損失は30億円の赤字。営業損失は非公表だが、経常損失は9億円。

 「出版売上」は631億円、13.1%減、その内訳は雑誌295億円、12.2%減、コミックス204億円、10.0%減、書籍112億円、14.1%減、パッケージソフト18億円、40.8%減。

 広告収入は118億円、7.2%減だが、デジタル収入はコミックを中心にして、117億円、54.4%増で、これは電子コミックの大幅な伸長による。

[30億円の当期損失は栗田や太洋社の破産に加え、有価証券の評価損、固定資産税の除却損なども要因だとされる。

だがこのどの分野も軒並み大きなマイナスになっていることは、マス雑誌を中心とする大手出版社が陥ってしまった出版危機の状況を浮かび上がらせているといえよう。これからは雑誌のスクラップ(休刊)とビルド(創刊)を検討していくとされるが、売れなくなった雑誌のスクラップは容易でも、現在の状況において、マス雑誌を創刊し、成長させることが困難なのはいうまでもあるまい。

それに電子コミックを推進すればするほど、紙コミックがマイナスになっていくのも自明のことで、これもコミックを柱とする大手出版社の悩ましいジレンマということになろう]

14.ドワンゴとKADOKAWAの共同持株会社カドカワの連結売上高は2009億円、営業利益は91億円、経常利益は101億円、当期純利益は68億円。

 またKADOKAWAは所沢市と新たな文化発信拠点をめざす「クール・ジャパン・フォレスト」推進協定を締結。20520年までにKADOKAWAは旧所沢浄化センター跡地に出版製造・物流拠点を作る計画だったが、同構想を受け、図書館、美術館、博物館、ショップ、レストランを併設した「ところざわサクラタウン(仮称)」を建設する。

[カドカワの決算発表とKADOKAWAの「クール・ジャパン・フォレスト」推進協定締結は、まさに連結しているのだろう。

角川歴彦会長の言によれば、KADOKAWAの70年の知識とノウハウ、2700人の社員のアイデアを結集し、同社のオフィスだけでなく、ホテルなども誘致するという。

それに所沢市もジョイントするわけだから、はた目から見れば、これは出版プロジェクトというよりも、紛れもない文化を冠とした不動産開発プロジェクトのように映る。2020年の東京オリンピックまでに完成をめざすということだから、その推移をまさにはた目から楽しませてもらうことにしよう]

15.宮田昇の『小尾俊人の戦後』(みすず書房)が出された。サブタイトルは「みすず書房出発の頃」。

小尾俊人の戦後 ゾルゲ事件
[人文書の出版者や編集者にとって、小尾はその範と目される出版者、編集者に他ならなかった。英仏独語に通じ、多くの先駆的な翻訳書の出版に携わる一方で、あの『ゾルゲ事件』に始まる『現代史資料』全45巻をも刊行したのである。それらをもって、出版の原典といえる「ミニプロ・ミニセール」の出版を貫き、体現してくれた。

その小尾の「戦後」と「みすず書房の出発の頃」が、その「日記1951年」と「年譜」も付され、ここに初めて提出されたことになる。

それはどのような出版状況下での「出発」であったのか。宮田は次のように記している。


 その中で出版界は、昭和二十四年三月二十九日の集中排除法の適用による日本出版配給株式会社(日配)の解散に直面する。日配の前身は、戦時下、東京堂、東海堂、北隆館、大東館の大手をはじめ、栗田書店、上田屋、大阪屋などもろもろの取次が投合した、日本出版配給統制株式会社という文字通り本を「配給」する「統制」会社であった。
 出版社もその「日配」を通してのみ、本を読者に届けることができた。敗戦後の十月、統制の文字をなくし、日本出版配給株式会社になるが、略称は「日配」であり、書籍も、雑誌も、教科書も、すべて一元的に「配給」する役割は変わりなかった。
 その「日配」が集中排除法の適用をうけるのではないかと「朝日新聞」や業界紙「新聞之新聞」が伝えたのは、早くも昭和二十三年二月十三日である。その時点から書店の送金をしぶり、支払いの遅延が始まった。日配の催促に、書店が返本で相殺した結果、出版社は大量の自社在庫を抱えることになる。
 日配が解散と決まると、それは雪崩のような返本になった。しかも銀行は金融引き締めで、そのような出版社への貸し出しを渋った。戦後創立された多くの出版社は、それから一、二年のあいだに消えていった。それがのちに言われた「昭和二十四年の出版恐慌」である。
この出版状況は現在の出版業界をも彷彿とさせずにはおかない。しかし小尾もみすず書房も、このような「出版恐慌」をくぐり抜けてきたのであり、この一冊を通じて学ぶべきだと思われる]

16.宮下志朗の『カラー版書物史への扉』が刊行された。

カラー版書物史への扉
[これは長きにわたって、岩波書店の『図書』の表紙、及び解説として連載されたもので、「カラー版」書影入りの書物文化史を形成している。

紹介されている版画や地図なども含めた書物は、カエサル『ガリア戦記』のフランス訳から、ボッカッチョ『デカメロン』の84冊に及び、楽しく読めるばかりでなく、充分に目の保養もさせてくれる。

ただ読み終えてみると、自分がもっているのは何と一冊にすぎないことに気づく。それは76のアントワーヌ・ガラン訳『千一夜物語』で、しかもここに挙げられているのは1714年刊行の最初の挿絵入りなのである。それに対して、私が所有しているのは1921年刊行のガルニエ版で、残念なことに挿絵は一枚もない。いずれ挿絵入りのガラン訳本に出会えるだろうか]

17.『キネマ旬報』(5/上)に「追悼嶋地孝麿さん キネマ旬報の『礎』をきずいた一人」という記事が掲載されている。

日本映画俳優全集・男優編 日本映画俳優全集・女優編 日本映画作品全集  
[これは5ページに及ぶ、まさに「追悼」というべきもので、嶋地は1988年にキネマ旬報社を退社していることからすれば、異例の「追悼」特集であり、他の雑誌にしても、そのように「追悼」された編集者はいなかったのではないだろうか。

それに彼は映画関係者として著名ではなかったし、私にしても、ここで初めて嶋地の名前を知ったのである。

それなのにどうしてここで取り上げたかというと、長きにわたって、キネマ旬報社の『日本映画俳優全集・男優編』 『同・女優編』 『日本映画作品全集』 『アメリカ映画作品全集』 『ヨーロッパ映画作品全集』などのお世話になってきたからで、これらはすべて嶋地の編集によっていることを教えられたからだ。

この追悼記事が出なければ、これらの「映画ジャーナリズムの財産」というべき、丹念な調査に基づく画期的な事典類の編集者が嶋地だった事実は、そのまま忘却されることになったかもしれない。

彼は1930年北海道石狩市生まれ、57年にキネ旬に入社し、30年にわたって編集にたずさわってきたことになる。2015年11月に死去し、享年85歳だったという]

18.『週刊文春』(6/30号)に、鹿島茂による『出版状況クロニクル4』の書評が掲載された。

週刊文春 出版状況クロニクル4
[思いがけないことで、とてもうれしい。しかも本クロニクルに初めて寄せられた最も適格な書評でもあるからだ。

またさらにこの「移民と郊外、書店と郊外」と題する彼の「私の読書日記」そのものが、私の他の仕事も読まれた上での批評(クリティク)と目されるし、その背後に、私たちが共に拳々服膺している重要な著作をも浮かび上がらせる仕掛けとなっている。

風間さんならぬ鹿島さん、ありがとござんす!]

19.「出版人に聞く」シリーズ〈20〉として、河津一哉、北村正之『花森安治と「暮しの手帖」の周辺』のインタビューを終えた。また同〈21〉としては鈴木宏『風の薔薇から水声社へ』が入稿、続けて刊行予定 。

20.今月の論創社HPの連載「本を読む」5 は〈澁澤龍彦、山手樹一郎、柳田民俗学〉です。よろしければ、のぞいて下さい。