出版状況クロニクル99(2016年7月1日〜7月31日)
16年6月の書籍雑誌の推定販売金額は1147億円で、前年比3.4%減。
書籍は543億円で、同1.2%減、雑誌は604億円で、同5.4%減。
雑誌の内訳は月刊誌が490億円で、同4.3%減、週刊誌は113億円で、同9.8%減。
返品率は書籍が41.9%、雑誌は42.8%で相変わらずの高止まりが続いている。
書店売上は書籍、雑誌いずれも4%減だが、文庫が10%マイナス、コミックも5%マイナスとなり、雑誌と同様の定期刊行物の落ちこみが目立つ。
これらは書店の客数の減少を反映しているのだろう。「ポケモンGO」の上陸は7月の出版物販売金額にどのような影響をもたらすであろうか。
1.『日経MJ』(7/13)の「第44回日本の専門店調査」が出された。そのうちの「書籍・文具売上高ランキング」を示す。
■2016年 書籍・文具売上高ランキング 順位 会社名 売上高
(百万円)伸び率
(%)経常利益
(百万円)店舗数 1 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA、蔦谷書店) 239,233 19.4 18,577 − 2 紀伊國屋書店 108,631 1.8 1,222 66 3 丸善ジュンク堂書店 75,907 264.4 ▲442 − 4 ブックオフコーポレーション 65,930 7.8 208 800 5 未来屋書店 54,846 8.3 434 339 6 有隣堂 52,415 4.0 375 45 7 くまざわ書店 42,229 ▲1.2 − 238 8 ヴィレッジヴァンガード 36,367 1.7 1,429 388 9 フタバ図書 34,821 0.8 1,242 69 10 トップカルチャー(蔦屋書店、峰弥書店、TSUTAYA) 32,354 ▲2.1 759 70 11 文教堂 30,474 ▲0.8 ▲369 197 12 三省堂書店 25,200 ▲2.7 − 36 13 三洋堂書店 23,108 ▲4.3 255 83 14 精文館書店 19,654 2.0 716 50 15 リブロ(mio mio、よむよむ、パルコブックセンター) 17,120 ▲15.4 − 78 16 明屋書店 13,909 1.1 181 86 17 キクヤ図書販売 12,176 ▲12.5 − 32 18 オー・エンターテイメント(WAY) 11,941 ▲1.4 194 59 19 積文館書店 9,660 ▲0.6 31 33 20 ダイレクト・ショップ 8,738 ▲8.3 − 52 21 京王書籍販売(啓文堂書店) 8,198 ▲9.8 14 31 22 戸田書店 6,833 ▲6.3 4 32 [『出版状況クロニクル4』で示しておいたように、15年は26店のうち、前年を上回っているのは3店だったが、今年は22店のうち10店が増収となっている。
  ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)267,910 ▲0.9 17,824 1,637
だがそれらは既存店売上高に基づくものではなく、出店や合併などによるもので、いうまでもないが、バブル出店とM&Aによって粉飾された数字と見なすべきだろう。
それを象徴するのは「同調査」の「総合売上高伸び率上位20社」で、1位が丸善ジュンク堂書店、8位がCCCである。またCCC、トップカルチャー、精文館、リブロ、積文館は日販との提携、もしくは子会社であり、くまざわ書店、三洋堂、明屋が同じくトーハンと提携し、傘下にあるわけだから、これらは取次とのコラボで、さらなる大型店出店に向かう。そうでなければ、売上が維持できないからだ。それは地方の中小書店の閉店に拍車をかけるだろう。
それからこれも『出版状況クロニクル4』でも指摘しておいたが、15年の179億円に続いて今年も、CCCは売上高2392億円に対し、185億円という異常といっていい経常利益を上げている。2位の紀伊國屋の売上高1086億円、経常利益12億円、3位の丸善ジュンク堂の売上高759億円、経常利益赤字4億円に比べ、売上高は突出しているにしても、営業利益とダイレクトに結びつくものではないはずで、この2年続きの経常利益はどのようにして生み出されたものなのか、そこに現在のCCCの核心が秘められているのかもしれない。
ちなみにゲオのほうは売上高2679億円、経常利益178億円で、CCCとほぼ同じだがこちらは同じレンタルがメインでも、CCCのようなFCシステムではなく、直営店ビジネスで、CCCとはビジネス業態モデルは異なっている。しかもゲオは前年比0.9%減であるから、やはりレンタルのマイナスが影響していると思われる。
前回の取次の決算でもふれておいたが、今期は何とかとりつくっても、書店も来期の決算が出版業界の危機を否応なく露出してしまうことになろう]
2.1の丸善ジュンク堂やCCCのFC店の増床や出店も記しておこう。
丸善ジュンク堂は7月下旬から8月下旬にかけて5店をリニューアル、新規出店する。
出店はジュンク堂書店南船橋店1000坪、MARUZEN東松山店250坪、ジュンク堂FCとして奈良の啓文堂書店が商業施設ならファミリーに300坪、リニューアルは丸善お茶の水店が150坪増床して400坪、丸善ラゾーナ川崎店が現在の1010坪から940坪に減床となる。
明文堂プランナーは埼玉の戸田市の商業施設「T-FRONTE」に明文堂書店TSUTAYA1070坪を出店。同社はこれで22店となり、1000坪を超える店は5店目。
[その一方で、まだ定かではないが、返品量などを考えると、書店閉店も急ピッチで進められているようだ。
渋谷のリブロ(かつてのパルコ)も閉店が伝えられ、池袋のリブロ、新宿南口の紀伊國屋に続いて、かつての都心大型店の撤退も連鎖するように起きている。その流れは加速することはあっても、止めることはできないだろう]
3.日書連の2015年「全国小売書店経営実態調査報告書」が出された。
1991年、99年、2005年に続く4回目のもので、『出版ニュース』(7/下)などに掲載されている。
「経営状況の変化」は「悪くなった」36.1%、「非常に悪くなった」31.2%、「やや悪くなった」17.9%、「変わらない」10.5%、「良くなった」1.5%という内訳となっている。
その要因は「客数・客単価の減少」「雑誌の低迷」「ネット書店」「競合店の出現」などが挙げられている。
[2015年の調査で特徴的なのは、05年には「悪くなった」が62.5%で、「非常に悪くなった」の項目はなかったのだが、今回はそれが31.2%に及び、「悪くなった」や「やや悪くなった」を合わせれば、悪化は85.2%に及んでいることになる。まさに瀕死状態といっても過言ではない。
この事実は、日書連加盟4000店のうちの大半がそのような状況下にあることを伝えている。これらは雑誌シェアが売り上げの半分以上を占めている書店が67.3%に及んでいることから、雑誌の凋落に直撃され、しかもそれはさらにエスカレートしていると推測するしかない。1990年には日書連加盟店は1万2500店を数えていたことからすれば、街の中小書店の大半が消えてしまい、その最後の段階に入っていると思われる。
折しも『週刊東洋経済』(7/23)が「書店は消えていくのか 出版不況で残る条件」という記事を発信をしている]
4.これも『日経MJ』(6/29)の2015年小売業調査などによれば、通販の売上高は9.2%増。これは首位のアマゾンジャパンが前年比19%増、9999億円だったことに多くを負っている。
セブン&アイ・ホールディングスのオムニチャンネルなどの通販部門売上高は1587億円。ヨドバシカメラの通販売上高も1000億円に迫る。
さらに関連の数字を引いておけば、コンビニは大量出店もあり、全店ベースで初めて売上高10兆円を突破。
[これらの出版物売上高は明らかにされていないが、本クロニクルでアマゾンのそれがピークアウトしたのではないか、また近年のコンビニの雑誌売上から見れば、取次の流通部門は赤字になっているはずだと述べてきた。
シェアが高いアマゾンはともかく、コンビニでは5万店で出版物売上高は2000億円であるから、1店当たり年間売上高は400万円でしかなく、これ以上落ちこんでいけば、他の商品との入れ替えを検討される分野になってしまうかもしれない。また取次がどこまでコンビニとの取引に耐えられるかという状況に入っていることもふまえておくべきだろう]
5.アマゾンが8月から電子書籍読み放題サービス「キンドル・アンリミテッド」を開始する。月額980円で、キンドル版の電子書籍、雑誌、コミックスなど5、6万点が読み放題となる。
出版社は講談社、小学館の他に複数の中堅出版社が参加する見通しで、KADOKAWAは検討中、集英社は参加しないという。
[NTTドコモの雑誌中心の「dマガジン」に続いて、総合読み放題ともいえるサービスが開始されることになる。
これまで電子書籍化されていなかった村上春樹の「初期三部作」の電子版配信開始の広告が、『朝日新聞』(7/1)などの全一面に掲載されていたが、この「キンドル・アンリミテッド」と絡んでいるのだろう。
この広告を見て、これも同紙(6/27)の短歌欄にあった高野公彦選による一首を想起した。それは次のような歌である。
いますこし本屋を続けゐたきかな本が紙 にて刷られるうちは (長野県) 沓掛喜久男
この人物も3 の「全国小売書店経営実態報告書」アンケートに経営悪化と返答していたのだろうか]
6.2015年に栗田出版販売から楽天に事業譲渡されたブックサービスは、9月に楽天ブックスへと統合し、書籍・雑誌通販と出版社直販(ブックサービスコレクト)はそのまま継承される。
[経産省によれば、2015年の国内電子商取引(EC)市場は13兆8000億円、前年比7.6%増とされ、5年前の2倍、全小売市場の5%を占めるに至った。
その中心だった楽天は楽天市場の単独業績を開示しておらず、アマゾンに主役を奪われつつあるとされる。
今回のブックサービスの総合などはリリースされるが、出版物売上やコボなどの電子書籍事業はどうなっているのだろうか。
これも『出版状況クロニクル4』でふれておいたが、12年の電子書籍参入に際し、三木谷社長は電子書籍が出版業界の復活の大きな起爆剤となるし、日本のマンガを世界中に発信し、大きなビジネスとしたいと豪語していた。ところがその後の展開と行方はほとんど聞こえてこない。5 の「キンドル・アンリミテッド」ではないが、電子書籍でもアマゾンの後塵を拝するばかりの状況に追いやられているように見える」
7.6 に続いてこれも楽天絡みである。
前回の本クロニクルで旧大阪屋単体決算の見通しを取り上げておいたが、ほぼ同様の売上高で686億円、前年比0.8%増、経常利益2億円の増収増益決算。
それに伴い、大阪屋人事を発表。代表取締役は元講談社の大竹深夫、取締役は楽天の服部達也のままだが、新たな専務取締役として、元日販の専務の加藤哲朗、取締役としてツタヤ関東社長、MPD常務を経て楽天に入社していた川村興市が就任。
[これらの大阪屋栗田の新役員体制を見ると、メインの経営陣は当然のことながら旧大阪屋と栗田から選出されておらず、講談社などの大手出版社、楽天、日販との連携による経営が目ざされているとわかる。
「本業のこれまで以上の強化」と「ネットとリアル書店の連携」が謳われ、前者を加藤専務、後者を服部、川村両取締役が担当するとされる。呉越同舟とはいわないけれど、どうなるのか、お手並みを拝見することにしよう]
8.日販は雑協と出版社34社との共同企画として、8月1日から9月30日まで雑誌時限再販フェア「雑誌夏トクキャンペーン」を実施する。
7月1日移行に発表され、時限再販指定された80誌136点が対象となり、書店は40法人356店が参加する。
価格決定権は書店に移るが、日販は100円引きを推奨し、出版社は書店割引原資として、1冊当たり100円の報奨金を出す。
[雑誌の銘柄として、耷出版社は全月刊誌、集英社は全ファッション誌、内訳としては「女性向け」49点、「男性向け」38点、「趣味系」49点と発表されているだけである。
確かにこれだけの数の雑誌を一堂に集め、時限再販するのは初めての試みだが、現在の出版危機に対応する企画だとは判断できない。おそらくひとつのパフォーマンスに終わってしまう可能性も高い。現在の若い読者にとって、時限再販100円引きは購入の誘いになると思えない。それにこの3つの分野の雑誌は、ブックオフで売られている雑誌のシェアと重なっているからだ。
日販がその成果を発表することを期待することにしよう]
9.またしても『日経MJ』(7/15)だが、アニメイトホールディングスの阪下實社長が初めて日経新聞の取材に応じたという記事が掲載されている。
それによれば、マンガとアニメグッズを販売するアニメイトは昨年島根県に出店し、全都道府県を制覇した。今年で会社設立30年目を迎えるアニメイトは、前身はムービックで、1983年に池袋に1号店を開設し、87年に店舗運営部門がアニメイトとして分社化し、現在は120店舗に及んでいる。その過程で、書泉や芳林堂のM&Aも成立したことになる。
アニメイトの人気を支えるのは若い女性で、アニメを通じた人々の出会いの場を供するというコンセプトを有し、「活発化するアニメ市場と、停滞が懸念される書店市場という両面を持ち、モノ消費とコト消費の中間のような業態」とされる。
今月から「あなたの街にアニメイトを出店させよう!」と題して、出店希望を募る企画を始めている。
[本クロニクル94でも、アニメイトが講談社やKADOKAWAなどと設立したジャパンマンガアイランスによるアニメイトタイバンコク店の出店にふれたばかりだが、このようなアニメイトの歴史に関しては知らないでいた。おそらく中央社とのコラボによって成長が支えられてきたのであろうし、それもいずれ語られることになるだろう]
10.『出版月報』(6月号)が特集「絵本好調の背景を探る」を組んでいる。
そこに示された絵本市場のデータと児童書販売金額の数字をアレンジして表化してみる。
ただし絵本市場の販売金額は2011年から15年にかけてしか算出されていない。
[2015年の児童書推定販売金額は807億円で、前年比3.5%増の2年連続プラス。そのうちの絵本は309億円で、38.3%を占め、これも同6%増である。
■児童書・絵本売上推移 年 児童書販売金額
(億円)絵本販売金額
(億円)絵本新刊点数
(冊)平均価格
(円)1点当たり部数
(千冊)2001 920 − 1,305 942 9.0 2002 1,100 − 1,443 903 8.3 2003 950 − 1,312 942 8.5 2004 1,060 − 1,493 976 7.6 2005 920 − 1,714 976 7.4 2006 1,000 − 1,649 1,015 7.4 2007 900 − 1,593 1,079 6.6 2008 940 − 1,452 1,149 6.1 2009 830 − 1,347 1,123 6.1 2010 795 − 1,332 1,135 5.9 2011 803 299 1,382 1,158 5.1 2012 780 292 1,304 1,137 4.8 2013 770 294 1,361 1,081 5.3 2014 780 290 1,476 1,111 5.3 2015 807 309 1,431 1,162 4.9
出版物販売金額や書店数の減少から考えても、また新刊点数や平均価格や1点当たりの部数の推移を見て、絵本は健闘している分野といっていい。
とりわけ新刊部数は半減しているにもかかわらず、販売金額が伸びているのは、既刊本のロングセラーに多くをよっている。ロングセラーを多く擁する児童書出版社の既刊と新刊の比率は9対1で、市場に出回っている絵本数は2万7千点とされるが、圧倒的に既刊書重版に支えられているのである。それゆえに新刊点数が半減しても販売金額の伸びがあり、それが書籍出版のかつての健全なあり方だったことを想起させるし、「累計200万部以上発行した絵本ランキング」リストはその事実を裏づけている。
そういえば、出版協に属している風濤社の近年のロングセラー絵本『地獄』も1980年代に出されたはずだ。
このような絵本市場の拡大の一つの要因は、大人の読者を中心とする近年の絵本ブームも指摘されているが、それらにしても、ロングセラーと既刊書をベースにしていることはいうまでもあるまい。そして絵本や児童書市場の堅調な動向は、翻って新刊とベストセラーに大きく依存する書籍市場の近年の異常さと偏重性を浮かび上がらせることになる。
また児童書の販売チャンネルは取次経由での書店ルート、学校、公共図書館ルートの他に、幼稚園、保育園、直販ルートなどがあるが、取次経由ルートが7割以上を占めている。
それに関連して付け加えれば、公共図書館の貸出数の26%は児童書とされている。これを2015年に当てはめれば、6億9千万冊のうち、1億8千万冊を占めている。この事実だけを取り上げても、「生産年齢人口」に基づいて出版動向を論じることの間違いがわかるであろう。
それからこのデータは日本図書館協会の2014年版『図書館年鑑』所収の「公共図書館総計」によっているが、2008年までしか出されておらず、以後のデータはそれに準ずるものと判断している。児童書売上高推移からすれば、それが妥当でもあると見なしているからだ。
公共図書館は児童書だけでなく、年齢別、分野別、貸出シェアの実態を明らかにすべきであろうし、そのような貸出データに基づき、ベストセラー貸出問題をも論議すれば、これまでと異なる視点が浮上してくるかもしれない]
11.図書館総合展運営委員会による「出版と図書館の未来図」をテーマとする地域フォーラム「図書館総合展2016フォーラムin 塩尻」が開催された。
それが『図書新聞』(7/16)にレポートされているが、その開会に先立ち、塩尻市出身の古田晁が創業した筑摩書房の山野浩一社長が次のように語ったという。
「全集の筑摩と言われたが、今月3月末の決算をみて、ペーパーバック(PB)が売上全体に占める割合は69%、出版点数は309点中、228点がPB。その割合は74%、PBの筑摩になってきた。単行本の点数は年々少なくなってきて、41点、そのなかで資料性の高い2000円を超えるものはわずか7点だった。四半世紀の間に図書館から遠ざかっていった。」
[『出版状況クロニクル4』で、筑摩書房新刊状況に関する山野の言を紹介しておいたが、それがこの1年でさらに加速し、往年の筑摩ではなく、言外にペーパーバック出版社へとシフトせざるを得なかった内情も語られていることになる。
このレポートには、岩波書店の岡本厚社長やみすず書房の持谷寿夫社長のそれぞれの講演「出版社にとって図書館とは? 版元が図書館に期待すること」「図書館で『本』に出会うということ」も収録されている。だが山野の言のほうが、よりリアルで、しかも人文書出版社の現在を生々しく伝えているので、こちらのほうを紹介してみた]
12.学術出版社の創文社が2020年をめどに会社を解散すると公表。新刊発行は来年3月までとされる。
[これは人文書出版社に静かな波紋として、大きく拡がっていく気がする。創文社は千代田区一番町に自社物件不動産を有し、高定価、高正味と学術出版助成金に加え、日キ販をメインとする安定した取次と常備書店網を備え、盤石の学術出版社と見なされてきたからだ。それゆえに『ハイデッガー全集』やトマス・アクィナス『神学大全』の企画刊行も果たせたと思われてきた。
その創文社でさえも売上の回復が見こめず、解散に向かうとすれば、日本で もはや大学出版局を除いて、学術出版は不可能だと考えるしかない。
創文社と創業者の久保井理津男に関しては、『出版状況クロニクル4』で書いているが、久保井の『一出版人が歩いた道』は戦前から戦後にかけての学術出版史を形成しているので、あらためて読まれてほしいと思う。
また読者としては、カッシーラーの『国家の神話』やマルク・ブロックの『フランス農村史の基本性格』が懐かしい。しかしこのような出版状況下では、ハイデッガーやアクィナスのみならず、それらの継承も難しいかもしれない]
13.これも人文書の新思索社が破産。
負債総額は5000万円。小泉孝一社長が亡くなり、事業を断念したことで、取締役が破産申し立てに至ったとされる。
[実は「出版人に聞く」シリーズ〈15〉の『鈴木書店の成長と衰退』の小泉孝一は、この新思索社の経営者であった。
このインタビューは2011年11月に行なわれたのだが、その直後から連絡が取れなくなり、四方八方手を尽くしたけれど、探すことができなかった。そのためにインタビューは3年ほどペンディングになっていたのである。
しかし取次の危機も顕在化してきたため、そのままにしておくには惜しいこともあり、あえて刊行したという事情も付随していた。
だがこの本の刊行後も、小泉の消息への多くの問い合わせは寄せられたが、本人からは何の連絡も入らなかった。
そしてそれから2年後に、新思索社破産と小泉の死の知らせを受けたことになる。だがいつ亡くなったのか、在庫はどうなるのか、破産に至る経緯と事情はどうだったのかは、まだ何も伝わってこない。
彼には世話になった人たちも多いはずで、それらが判明したら、本クロニクルで報告するつもりでいる]
14.「出版人に聞く」シリーズ〈20〉として、河津一哉、北村正之『花森安治と「暮しの手帖」の周辺』の編集を終えた。何とか9月に出せるといいのだが。
今月の論創社HP連載「本を読む」6 は〈角田喜久雄と山中共古〉です。立ち寄って頂ければ幸いです。