出版状況クロニクル62(2013年6月1日〜6月30日)
ヤマダ電機の13年度の売上高は1兆7014億円で、これは12年の出版物売上高1兆7398億円とほとんど同じであることを示している。
このヤマダ電機の他に、エディオン、ケーズ、ヨドバシカメラを加えた家電量販店4社の売上高は3兆7000億円近くに及び、出版業界がいかに小さな市場であるか、また失われた16年間がそれに拍車をかけたことがよくわかる。
しかしこの家電量販店にしても、地デジ移行のテレビ需要の先食い、激しい安売り合戦、アマゾンなどのネット販売の影響を受け、ヤマダ電機を例に挙げれば、ピーク時の11年の2兆1500億円に比べると、4500億円も減少している。
家電量販店は流通戦争の勝利者と見なされていたが、それもゆらぎ始めているといえよう。本クロニクル60でも既述したように、その背後でパナソニック、ソニー、シャープ3社のメーカーの赤字合計は1兆6000億円となっている。もちろん様々な要因は指摘できるにしても、急成長した家電量販店市場における、生産と販売の関係のドラスティックな変化の影響を見逃すわけにはいかないだろう。
売上規模は異なるけれど、それは出版業界も同様で、複合店、図書館、ネット市場における出版社の刊行物の変移とその位相が、あらためて問われなければならない状況を迎えていると思われる。
1.図書館貸出総数について、本クロニクル61や宮田昇『図書館に通う』(みすず書房)の『東京新聞』(6/30)書評でもふれたのだが、重要な問題なので、書店や書籍推定販売部数も含めて表化してみる。データはアルメディア、出版科学研究所、『日本の図書館―統計と名簿』などによる。
■書店数、図書館数、個人貸出総数と書籍販売部数 年 書店数 前年比較 図書館数 個人貸出総数
(万冊)書籍推定販売部数(万冊) 1999 22,296 − 2,585 49,546 79,186 2000 21,495 ▲801 2,639 52,357 77,364 2001 20,939 ▲556 2,681 53,270 74,874 2002 19,946 ▲993 2,711 54,629 73,909 2003 19,179 ▲767 2,759 57,108 71,585 2004 18,156 ▲1,073 2,825 60,969 74,915 2005 17,839 ▲317 2,953 61,696 73,944 2006 17,582 ▲257 3,082 61,826 75,519 2007 17,098 ▲484 3,111 64,086 75,542 2008 16,342 ▲756 3,126 65,656 75,126 2009 15,765 ▲577 3,164 69,168 71,781 2010 15,314 ▲451 3,188 71,172 70,233 2011 15,061 ▲253 3,210 71,618 70,013 2012 14,696 ▲365 3,234 71,497 66,790 2013 14,241 ▲455 − − − [この表は書店数の減少とパラレルに図書館が増え、同様に個人貸出数も同様に伸びていったことを如実に示している。
それらの中でもとりわけ顕著なのは、2010年から貸出総数が7億冊を超え、書籍販売部数を上回り始めたことで、これはさらに続いていくだろう。ちなみに補足しておけば、この5年間ほどの図書館の年間受け入れ図書冊数は1800万冊前後、貸し出し登録者数は500万人強、予算も280億円前後と横這いである。これらと比較すると、貸出総数は99年に5億冊に至っていなかったので、10年以降4割以上、2億冊強の伸びを示し、出版業界の失われた16年とは逆に、専門取次TRCと公共図書館が急成長した時代であったことを告げている。
しかし問題なのはそれが出版業界にどのような影響をもたらしたかであり、その館数や予算の増加が止まりつつある現在、公と私における出版物の意味も含め、それらのことをもう一度考える必要がある。このことは本クロニクル55でもすでに論じているけれど。そうした図書館状況を当てこんで、明らかに「造り本」めいた多くの本が出されている。最近の例を挙げれば、漆原宏写真集『ぼくは、図書館がすき』で、日本図書館協会から、わずか90ページ足らずの小さな写真集にしては高すぎる2800円で刊行されている。これは公共図書館、日図協などのプロパガンダ本と見なすしかない内容だが、高定価にもかかわらず、必備図書のようなかたちで公共図書館に入っているようだ。それでいて、一方では市民のリクエスト選別も始まっている。図書館側の選書の意味も問われなければならないだろう。
折しも、CCCによる武雄市図書館の開館によって、市内の書店の売上は明らかに減少していると伝えられている]
[f:id:OdaMitsuo:20130629112735j:image:h70]
2.出版科学研究所と異なる実売金額に基づく『出版年鑑』データも出され、『出版ニュース』(6/上)に掲載されているので、そちらも引いておこう。
■書籍・雑誌発行推移 年 新刊点数
(万冊)書籍
実売総金額
(万円)書籍
返品率
(%)雑誌
実売総金額
(万円)雑誌
返品率
(%)書籍+雑誌
実売総金額
(万円)前年度比
(%)1996 60,462 109,960,105 35.5% 159,840,697 27.0% 269,800,802 3.6% 1997 62,336 110,624,583 38.6% 157,255,770 29.0% 267,880,353 ▲0.7% 1998 63,023 106,102,706 40.0% 155,620,363 29.0% 261,723,069 ▲2.3% 1999 62,621 104,207,760 39.9% 151,274,576 29.9% 255,482,336 ▲2.4% 2000 65,065 101,521,126 39.2% 149,723,665 29.1% 251,244,791 ▲1.7% 2001 71,073 100,317,446 39.2% 144,126,867 30.3% 244,444,313 ▲2.7% 2002 74,259 101,230,388 37.9% 142,461,848 30.0% 243,692,236 ▲0.3% 2003 75,530 96,648,566 38.9% 135,151,179 32.7% 231,799,715 ▲4.9% 2004 77,031 102,365,866 37.3% 132,453,337 32.6% 234,819,203 1.3% 2005 80,580 98,792,561 39.5% 130,416,503 33.9% 229,209,064 ▲2.4% 2006 80,618 100,945,011 38.5% 125,333,526 34.5% 226,278,537 ▲1.3% 2007 80,595 97,466,435 40.3% 122,368,245 35.3% 219,834,680 ▲2.8% 2008 79,917 95,415,605 40.9% 117,313,584 36.3% 212,729,189 ▲3.2% 2009 80,776 91,379,209 41.1% 112,715,603 36.1% 204,094,812 ▲4.1% 2010 78,354 88,308,170 39.6% 109,193,140 35.4% 197,501,310 ▲3.2% 2011 78,902 88,011,190 38.1% 102,174,950 36.0% 190,186,140 ▲3.7% 2012 82,204 86,143,811 38.2% 97,179,893 37.5% 183,323,704 ▲3.6% [こちらのデータでも、書籍に比べて雑誌の落ちこみが歴然である。96年に比べ、販売金額は4割減少し、部数は月刊誌4割マイナスとなり、週刊誌に至っては何と半減している。
しかもここ5、6年は返品率も30%後半に高止まりし、雑誌の危機は深刻化する一方で、それは今年になっても相変わらず続いている。またスマホの普及などの本格的な影響はまだこれから数字に反映されていくはずで、スパイラル的マイナスの止まる気配はいささかも感じられない。今年後半からさらに雑誌危機が加速していくとも考えられる。
なお今年に入っての雑誌返品率だが、書籍を上回り、1月、4月、5月は40%を超え、5月は何と42.5%に達している。異常な事態であるし、これは出版業界においても前代未聞の状況を迎えているのだ]
3.その半減してしまった週刊誌だが、しばらくぶりに『アサヒ芸能』(6/6、6/13、6/20)を3週続けて買った。安田理央による「『ビデオ・ザ・ワールド』が見たAV30年盛衰史」という興味深い連載が掲載されていたからだ。まずその最初のリードをご覧あれ。
老舗のAV雑誌『ビデオ・ザ・ワールド』が5月8日発売の6月号で休刊となった。83年11月の創刊から数えて、30年。黎明期からアダルトビデオをウォッチし、表裏問わず積極的に取り上げ、数々の名物企画を生み出した。そんな舞台裏の秘話を関係者の証言を交えて「アダルトビデオの時代」を振り返る。 [白夜書房、後にコアマガジン発行『ビデオ・ザ・ワールド』は83年創刊で、現存する月刊アダルトビデオ誌としては最も歴史のある雑誌で、AVレビューコーナー「チャンネル」を有し、日本のAVの歴史とともに歩んできたといえるし、それは家電量販店やCCC=TSUTAYAやゲオの歴史とも無縁でないどころか、密接にリンクしていたはずだ。80年代から90年代にかけて、毎月10誌以上が刊行され、AVの隆盛とAV雑誌創刊は併走していたが、ネット時代の到来とともに休刊へと追いやられていったのである。
『ビデオプレス』(大亜出版)、『ビデパル』『オレンジ通信』(東京三世社)、『べっぴん』『ビデオボーイ』(英知出版)、『ベストビデオ』『アップル通信』(三和出版)、『ビデオ・エックス』(笠倉出版社)、『さくらんぼ通信』(ミリオン出版)、『ビデオメイトDX』(コアマガジン)といった雑誌の盛衰が丁寧にたどられ、この時代の所謂エロ雑誌業界が浮かび上がってくる。それはコンビニの成人雑誌コーナーの推移をも物語っていよう。
大手マスコミや出版業界紙や書評紙などでもまったく言及されていない貴重なAV雑誌盛衰史であるし、ひとつの出版史としてほとんど読まれていないと思われるので、加筆と資料を追加し、徳間ポケット(新書)での刊行を望みたい。『アサ芸』ならでは好企画だからだ。
それに加え、袋とじヌード、スキャンダル、ヤクザ記事に混じって、「全企業『ユニクロ化』で全社員“奴隷時代”が来るッ」「零細企業が助成金廃止で『社員総アルバイト時代』になる」といった「激情キャンペーン」や「ダメノミクスに殺される!」の連載もあり、久しぶりに猥雑にしてエネルギッシュな誌面を楽しませてもらった。12年下期のABC雑誌販売調査によれば、やはり部数は11万部と11年同期の12万部を下回っているが、頑張れ、『アサ芸』!]
4.日販は売上高5813億円で前年比0.6%増、経常利益33億円、同18.6%減、純利益31億円、同64.5%増の増収決算。単体では15年ぶりに前年を上回ったが、これは主要取引先となったアマゾンや楽天の寄与が大きく、書店の売り上げは落ちこんでいる。
連結決算は7044億円で同0.1%増。
5.MPDは売上高2061億円で前年比1.6%減、経常利益13億円、同19.6%減、純利益7億円、同20.6%減の減収減益。
AVセルの減少が要因とされる。
6.トーハンは売上高4912億円で前年比2.6%減、経常利益33億円、同0.5%増、純利益24億円、同54.1%増の増益決算。
連結決算は5034億円で同2.2%減。
7.大阪屋は売上高948億円で前年比20.9%減。250億円以上の減少となり、20年ぶりに1000億円を割る。経常利益1500万円、同93%減、純利益5000万円、同58.5%減。
アマゾンの帖合変更や取引書店の販売不振と97店に及ぶ廃業などが大きな原因。
8.地方小出版流通センターの決算も「同通信」No.442に報告されている。それによれば、売上高13億円で、前年比12.33%減。かろうじて黒字決算を確保したが、売上が回復する見込みは薄く、営業内での採算の確保ができない現状は深刻だとの認識が述べられている。
[5から9は大取次から小取次までの今期の決算状況である。
日販とトーハンは増収、増益となっているが、大阪屋などからの帖合変更によるものとみなせるので、これらも束の間の決算と見なせよう。両社の決算で留意しなければならないのは書籍返品率で、日販が31.6%、トーハンは40%であるから、トーハンも日販と同様の総量規制を実施していくことを念頭に置くべきだろう。
MPDがついに減収決算となったことは、TSUTAYA市場が縮小し始めたことを告げている。それはTSUTAYAばかりでなく、AVセルとレンタルの複合店の行方の予兆と考えるべきではないだろうか。
大阪屋は9でふれるので、地方小だが、ここは書籍だけの取次で、かつて『本の雑誌』も『広告批評』もそのように流通していたのであり、書店市場の変化の影響を最も受けていると思われる。それはもはや少部数出版物を仕入れる機能を失ってしまった、大量販売一辺倒の書店状況を反映している]
9.7の大阪屋の状況や楽天傘下報道を背景にして、楽天、講談社、小学館、集英社、大日本印刷5社との業務・資本提携協議に入っていると南雲社長が公表。
[『日経新聞』(6/4)による大阪屋の楽天傘下報道は、ジュンク堂の工藤恭孝が筆頭株主にして経営委員長の立場にあるので、当初は飛ばし記事とも見られていたが、講談社からDNP4社まで含まれていたことによって、納得がいったことになる。
これらの5社による大阪屋の第三者割当増資引き受けが行われることは確実になり、250億円減収に伴う信用不安も払拭されたにしても、それで大阪屋という取次を立て直すことができるのだろうか。講談社などはブックオフの株式を握ったにもかかわらず、何もしていないし、それはDNPによる出版業界の再編にしても、流通と販売に対して何の変革も実行できていない。
大阪屋が出版取次の第3極の立場を維持することに異論はないが、そのために明確なビジョンを描くことができないのであれば、楽天の単なるベンダーの道をたどる可能性も否定できないのではないだろうか]
10.ブックオフにやや遅れてスタートした「ふるほん文庫やさん」の社長谷口雅男が失踪し、行方不明のままで、広島県三原市JAの元スーパー店舗兼本社に40万冊、北九州市の廃校小学校舎を利用したNPO法人の文庫専門館に45万冊が放置されているという。JA三原と北九州市は大量に残された文庫本の処分のめどが立たず、苦慮している。両者とも家賃はずっと滞納状態だったという。
[これは『毎日新聞』(6/8)や『中日新聞』(6/20)の地方版に掲載されたためか、まだよく知られていないようだ。最近になって、90年代に立ち上がったリサイクルビジネスの破綻が聞こえてくる。
例えば、「マネーの虎」といったテレビ出演で知名度が高い「生活倉庫」なども自己破産に至っているし、「ふるほん文庫やさん」も同様の経路をたどったと思われる。
これらのリサイクルビジネスの特徴は創業者の波瀾に富んだ履歴とマスコミ露出にあり、それに続いてのFC化、株式上場というストーリーが常道だった。「ふるほん文庫やさん」もその例にもれず、プロパガンダ本として『ニッポン文庫大全』(ダイヤモンド社)や『ふるほん文庫やさんの奇跡』(新潮OH文庫)などが刊行され、様々なビジネス展開につながっていったのである。前者は岡崎武志+茂原幸弘編となっているので、岡崎はこのような結末を迎えるに至った「ふるほん文庫やさん」の軌跡をレポートする義務があろう]
11.『ブルータス』(6/15)が「古本屋好き。」という特集を組んでいる。そのメインとなるリードは「ところで、ここ2、3年で、新しい古本屋が増えてきている」というものだ。
[ここで紹介されている古本屋の大半を知らないので、事情通や親しい古本屋にも問い合わせてみたが、私と同様の返事が戻ってきた。
このような特集に触発されてか、続けて『朝日新聞』(6/12)の地方版が、「個性派古書店花盛り」と題して、元書店員が相次いで古本屋を開店した記事が、かつてないスペースで掲載されていた。
もちろん古本屋が増えるのは大歓迎であるのだが、このような特集記事は古本屋ビジネス幻想を過剰に煽り、惑わしてしまうのではないかという危惧を覚える。それは「ふるほん文庫やさん」プロパガンダとも共通しているからだ。
このような新たな古本屋の出現は、本クロニクル60で述べておいたように、出版社、取次、書店からなる出版業界が、ほとんどといっていいほどリクルート市場ではなく、本に関する居場所が求められない、あるいはリストラされた人々によって支えられているようにも思える。
しかし書店よりも古本屋は、はるかに困難であることを肝に銘じるべきで、多くの新しい古本屋の苦戦が伝えられている]
12.日販とトーハンの上半期ベストセラーが発表された。双方とも1位は村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、第2位は阿川佐和子『聞く力』、 以下に『とびだせどうぶつの森 かんぺきガイドブック』(エンターブレイン)、近藤誠『医者に殺されない47の心得』(アースコム)、東川篤哉『謎ときはディナーのあとで(3)』(小学館)などが続いている。
同じく『ダ・ヴィンチ』(7月号)でも「2013上半期 BOOK OF THE YEAR」が掲載されている。
[前者に関してはこの数年20位までのリストを掲載してきたが、その手間暇も惜しまれるので、もうお終いとする。このベストセラーリストが現在の出版業界の現実を示していることになるのだが、書店市場の大型化によって、逆に販売が均一、画一的になったことだけを突きつけているように思われるからだ。それは『ダ・ヴィンチ』にも表われ、小出版社やマイナーな著者もアリバイ的に登場しているけれども、基本的には30万円から130万円の広告費を払うことができる出版社の、大量販売の売れ筋宣伝用雑誌と考えても間違っていないだろう。
それゆえに日販やトーハンのベストセラー、複合店とレンタル、大型店、ショッピングセンター内の売れ筋ともリンクし、そのような分野における参考資料となっているのかもしれない。
そういえば、『週刊読書人』や『図書新聞』と異なり、図書館には必ずといっていいほど『ダ・ヴィンチ』が置かれている。つまり当然のように小出版社、少部数出版物が象徴する出版の多様性は排除されていることになり、それが8に示した地方・小出版流通センターの売上状況にもつながっている。これもまた書店や図書館の現実に他ならない]
13.MPDは853店に及ぶCCC=TSUTAYAを主要な取引先とし、TSUTAYAは書店として国内最大の出版物売上となっている。そのMPDの「出版社売上ランキング(2012年4月1日~2013年3月31日)」が「総合」「雑誌(コミックを含む)」「書籍」、それからジャンル別に「コミック」「定期ムック」「児童書」「実用書「文庫」「文芸書」「ビジネス」「学参」にわけて、『文化通信』(6/24)に掲載されている。
全部に言及できないので、「総合」「雑誌(コミックを含む)」の上位6社を抽出し、ふれてみる。
■MPDの出版社売上ランキング 順位 総合 雑誌(コミックを含む) 出版社 売上高(億円) 出版社 売上高(億円) 1 集英社 142 集英社 126 2 講談社 119 講談社 91 3 角川GP 103 小学館 80 4 小学館 99 角川GP 53 5 学研マーケティング 34 宝島社 25 6 宝島社 31 学研マーケティング 20
「総合」に占める「雑誌(コミックを含む)」のシェアを次に示す。
集英社89%、講談社76%、角川GP51%、小学館81%、学研59%、宝島81%ということになる。
[私は07年に刊行した『出版業界の危機と社会構造』において、70年代までの書店状況が、都市の大書店や地方の老舗書店は小出版社の本まで揃えて売り、小書店は大手出版社の雑誌とベストセラーばかりを追いかけるもので、大書店、老舗書店と小出版社の関係は対角線取引という言葉に表われていたことを述べておいた。
そのことに関し、紀伊國屋とTSUTAYAの出版社ランキングを比較し、前者が人文、社会科学書、外国文学、ビジネス書の版元がランキング入りしているのと対照的に、TSUTAYAは女性も含んで客層も若く、ベストセラー、コミック、ゲーム本、ライトノベル、趣味実用書の出版社の比重が高く、レンタルとの相乗を狙っているとの分析を記しておいた。
それがさらに加速し、国内最大の出版物売上高を手中にしたことになる。この事実はTSUTAYAが大型店であっても、あくまで雑誌、コミック店で、書籍も新刊とベストセラーがメインとなり、その出店がかつてのような対角線取引に見られるような、小書店との棲み分けではなく、それらによって立つ小書店の基盤を奪うものであったことが了承される。しかも同じ日販帖合の小書店ばかりでなく、トーハンの小書店も閉店に追いやり、シェアを拡大していったのである。だがこれは出版業界にとってマイナスに働いたことを、失われた16年が示しているのではないだろうか。
折しも北海道書店組合理事長を務め、札幌で健闘してきた くすみ書房が資金的に行き詰まり、サイト上で廃業の危機にあると支援メッセージを発信している。その一方では何の声も上げられず、多くの書店が消えていっているのだろう]
14.ムダの会の『いける本いけない本』第18号が届き、そこに「大座談会」として「激変! 現役が語るいまどきの編集事情」が掲載されているので、抽出紹介してみる。
* 専門書編集のノルマは年間12冊、一般書編集者は単行本、文庫合わせ20冊から25冊。
* 一冊当たりの部数が落ちているので、点数をださねばならず、といってスタッフは減っているから、編集者一人頭の点数が増える。校正刷をまともに読んでいる時間もなく、ゲラ読みはもはや儀式化。
* 点数を出すために、著者が自ら書くのではなく、聞き書き、ゴーストライターによるものが増え、ビジネス書の場合、著者は自分では書かず、構成や内容も編集者が全部お膳立てする。
* 会社は「売れる本」しか認めないけれど、そのように編集しても結果的に売れない本が多い。
* 専門研究書であっても、二千部を割るものは大学などの出版助成金をつける必要があり、印税を払うことは不可能。
* 売れなくても内容の良い本というのは成立しない。紀伊國屋のパブラインにより、発売三日で実売最終予測が出るので、刊行後数ヵ月で断裁の検討が始まり、売れなかった著者の二冊目はありえない。
* 出版社の上層部は数字しか見ておらず、今では「作家を育てる」こと自体がなくなってきている。
* 作家も編集者より会社を見ていて、自分の本をどれだけ売ってくれるかを査定している。ただ書店でサイン会をやっても、なかなか人が集まらなくなっている。[少しだけ「本づくりの魅力」も語られているけれど、これが現在の大手、中堅出版社の偽らざる編集事情と考えてしかるべきだろう。
『出版年鑑』によれば、12年の新刊点数は過去最高の8万2204点に及んでいるとされるが、その大半がこのような編集プロセスによって刊行されているのかと考えると、暗然とした思いに捉われる。
売れなくなって当り前という編集の内幕が語られているし、現在のような流通販売システムを続けていく限り、こうした編集事情は改善されないし、さらに悪化していくのは確実である。
出版社が長年にわたって蓄積してきた編集の理念と技術すらも解体されようとしているのかもしれない]
15.日本インフラセンタ―(JPO)の経産省「コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)の523社、6万4883点の内訳が発表され、そのうちコミックが2万9861点であることなども明らかになった。
それに対し、『東京新聞』(6/28)が朝刊一面で、「被災地支援 書籍のデジタル化 復興予算 無理やり消化」の記事を掲載し、「電子化された書籍の6割近くが大手5社の作品」で、東北とは関係のない「復興予算のずさんな使い方」を告発している。
[JPOと緊デジ問題に関しては、本クロニクル51、53、54、55、57と一貫して批判言及してきているので、本クロニクルの読者であれば、驚くに価しないであろう。
JPOは批判を受け、有識者による第三者委員会を設け、事業の検証をするというので、さらに追跡言及することを明記しておこう]
16.「出版人に聞く」シリーズとして、飯田豊一=濡木痴夢男のインタビュー『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』を進めているが、14とは対照的な読者に対する確固たる編集理念と技術が最大限に発揮され、所謂悪書出版物が刊行されていたことを実感している。
古田一晴の『名古屋とちくさ正文館』は遅れてしまい、今月刊行となる。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》