出版状況クロニクル64(2013年8月1日〜8月31日)
所用があって水戸へ出かけたので、帰りに土浦で降りた。土浦は30年ぶりだったが、その駅前周辺の変貌に驚いてしまった。それほど詳しいわけではないけれど、地場も含む百貨店、スーパーが撤退し、かつての面影がないほど街が変わってしまっていた。郊外消費社会の成立による、駅前商店街の衰退があからさまに露出しているように思われた。
土浦で降りたのは3月末に開店した☆つちうら古書倶楽部☆に寄るためである。元はパチンコ屋だったことを示す外装や看板もそのままだが、店舗は830平米と広く、22の古本屋の連携によって営まれているので、多くのブースが出され、それなりに壮観であった。
この22店は土浦の れんが堂を中心にして、東日本大震災で被災した店も参加し、古書による常磐線沿線地域の活性化をめざす、新しいかたちで立ち上げられた大型共同古本屋といえよう。衰退した駅前商店街に、このような大型古本屋が出現することは大げさにいえば、奇跡のようにも思われる。
時間が十分にないことが残念だったけれど、それでも10冊ほどは買うことができた。近ければ月に一度は行きたいと思うが、今度はいつになるだろうか。
1.『日経MJ』(7/31)の12年度「卸売業調査」が発表された。そのうちの「書籍・CD・ビデオ・楽器部門」を示す。なお「楽器」は省略。
■書籍・CD・ビデオ卸売業調査 順位 社名 売上高
(百万円)増減率
(%)営業利益
(百万円)増減率
(%)経常利益
(百万円)増減率
(%)税引後利益
(百万円)粗利益率
(%)主商品 1 日本出版販売 704,449 0.1% 5,114 ▲70.6% 5,784 ▲25.4% 1,778 11.0% 書籍 2 トーハン 503,484 ▲2.1% 6,020 ▲11.4% 3,132 ▲16.5% 2,795 11.8% 書籍 3 大阪屋 94,880 ▲20.9% 601 ▲25.7% 15 ▲93.3% 50 8.7% 書籍 4 星光堂 72,782 ▲0.8% − − − − − − CD 5 栗田出版販売 40,893 ▲7.7% − − − − − − 書籍 6 図書館流通センター 39,502 ▲6.5% 1,677 ▲24.7% 1,821 ▲23.6% 857 19.1% 書籍 7 日教販 35,500 ▲3.2% 484 ▲32.4% 29 ▲74.6% ▲23 10.3% 書籍 8 太洋社 35,360 ▲9.2% − − − − − 10.1% 書籍 9 シーエスロジネット 16,709 ▲17.5% ▲130 − ▲50 − ▲75 11.1% CD 11 ユサコ 4,279 ▲3.1% 106 ▲23.7% 106 ▲23.7% 36 18.9% 書籍 14 春うららかな書房 2,901 ▲1.0% 64 ▲12.3% 16 ▲38.5% 11 22.6% 書籍 [増減率からわかるように、日販の0.1%という15年ぶりのわずかな増収を除いて、マイナスで、全体の売上高は3.1%減、経常利益は25.7%減の大幅減益となっている。日販のわずかな増収にしても、アマゾンの大阪屋からの帳合変更によるものだ。
本クロニクル63で既述したように、13年の出版物売上高は前年600億円のマイナスで、1兆6800億円前後と予測される。したがって本年度の取次の売上高の落ち込みも必至ということになろう。
繰り返し書いてきたように、日本の取次システムは雑誌をベースにして構築され、成長してきたのだが、その雑誌の下げ止まりがまったく見えない中で、取次システム自体も利益を上げられない状況に入っていると判断すべきであろう]
2.取次の中でも、大阪屋はマイナス幅も大きく、また1で示した先の決算を修正し、赤字となった。
その修正決算の貸借対照表を挙げておく。
[黒字から赤字決算への理由について、子会社債権回収の可能性や売掛債権の違算処理などが発表されている。
これに対し、贅言を要する立場にないが、それでも売掛金について触れておくべきだろう。
先の決算と大きく異なるのはこの売掛金であり、302億円が277億円となっているからだ。つまり主として書店に対する売掛金25億円が回収不能だったということになり、それが赤字の原因といえるし、取次決算の操作の一端を覗かせている。
その他にも書籍比率が高いために、取次システムが赤字となっていること、不動産売却益が計上され、赤字が圧縮されていることも付け加えれば、第三者割当増資も大きな資本増強が必要となることは自明である。
7月31日の臨時株主総会以後、講談社と楽天を中心とする第三者割当増資の具体化が進んでいないのも、このような事情が絡んでいるのではないだろうか]
3.1には掲載されていないが、中央社の決算も挙げておく。
売上高273億円で前年比0.4%増、4年連続増収、経常利益も同様で、純利益は2億4300万円と増収増益決算。
[取次の中にあって、中央社が好調なのは、他と異なる「特品」部門によっていると思われる。
これは買切のアダルト商品などを含むもので、10億円近い売上で、前年比22.3%増となっている。それはまた、これも他の取次とは異なるアダルト系の取引書店、及びアニメイトの状況を反映しているし、低正味買切制が中央社の好調の要因だと推測される。
中央社も大阪屋と同様に、9月に第三者割当増資を予定し、出版社、同業者、書店、取引業者など8社が引受先で、9月に実施し、物流インフラ強化費用に当てるようだ]
4.トーハンは物流関連会社のベストアシストとトーハン・ロジテムを合併し、トーハンロジテックスとし、トーハンの近藤敏貴副社長が社長を兼任。新会社は出版物以外の物流業務を受託する「サード・パーティ・ロジスティクス(3PL)」により、売上高を現在の70億円から100億円に伸ばす。
[出版危機は多くの周辺業種にも影響を及ぼし、それが最も顕著なのは出版物倉庫業者で、ダンピング競争のような状態になってきている。
本クロニクルでも3PLについて言及してきたが、これは従来の一棟建倉庫と異なる、冷暖房完備でIT技術を駆使できる個室マンション形式とでもいったもので、そのような進化に対して、出版倉庫や出版物流通システムが追いついていないか、汎用性に欠けていることの表われでもある。
トーハンロジテックスは出版物以外の売上の確保とリストラの受け皿を兼ねているのだろうが、3PL化もその意味では困難と設備投資の問題が待っているはずだ]
5.取次続きなので、日販絡みのことも記しておく。CCCは代官山蔦屋書店のブック&カフェスタイル形式で、人口30万人規模の地方都市に超大型直営店を展開する。まず11月中旬に盛岡蔦屋書店1800坪、12月上旬に函館蔦屋書店2500坪が開店し、いずれ100店をめざすという。
[日販、MPD、CCCによる地方都市超大型直営店戦略ということになるが、それがもし成功すれば、その地方都市の既存のTSUTAYAは日販帳合書店も含め、閉店へと追いやられるだろう。これは三者のコラボによる、なりふりかまわない出店と見なすべきだ。
CCCはMBOに際し、中国進出と謳っていたが、いつの間にか図書館と超大型直営店にアイテムを変えてしまっている。しかし後者についていえば、もはやFC展開ができないことで、これはレンタルが高収益を生まなくなり、FCが儲かるビジネスモデルではなくなった事実を伝えていよう。そのFCと超大型直営店がバッティングすることになるのだ。
とりあえず、盛岡と函館における直営店とTSUTAYA FC店の行方を注視すべきだろう]
6.神戸市の海文堂書店が創業100周年を目前にして、売上不振のため、9月末で閉店。
[元町商店街にある海文堂は人文系書籍の充実、PR誌や雑誌の発行、古書店の誘致など地域と密着し、西の東京堂のような書店とされていた。
2010年の売上は3億8000万円とされていたが、おそらく3億円を大きく割こみ、赤字もピークに達し、閉店という処置に至ったのであろう]
7.5と6に見られる書店の出店と閉店だが、アルメディアによる12年の上半期(1月〜6月)の出店は91店、閉店は380店で、前者は前年比6店減、後者は同67店減、いずれも減少となっている。それに伴い、書店面積は8165坪の純減。
[出店はゼロ年代が170から180店、閉店が500から800店で推移していたことに比べ、10年代になって出店、閉店はゼロ年代のピークから半減してきてはいる。だが今年は閉店も大型化しているので、減少面積も拡大の傾向にあると見ていい。
このような状況の中にあって、11、12月の蔦屋書店の超大型店出店はどのような影響と結果を及ぼすであろうか]
8.ブックオフの増収減益の決算と売上高については、本クロニクル61、及び前回の12年「書店売上高ランキング」にも示しておいたが、9の問題と絡んで、4月以後の動向も記しておく。
[12年度の増収はリユースとオンライン事業によるもので、減益は主力のブックオフ既存店の客数減の影響とされている。
今期の4月から6月の直営既存店売上高は前年同期比0.9%減、7月も6.8%減となっていて、そのテコ入れのために、毎月29日を「ブックオフの日」として、一定額以上購入の客に割引券を配布するサービスを広げる。
FC既存店も客数減と売上減は明らかで、日によって、2割引、3割引、コミック4冊や単行本2冊が1000円といったバーゲンを展開している]
9.ブックオフを含めた中古品市場はどうなっているのか。日本リユース業協会がまとめた12年度会員16社、FCも含めた3064店合計の売上高は2766億円で、前年比4%増。
環境庁が3年ぶりに推計した中古品(自動車、バイクを除く)市場規模は09年度比19%増の1兆1887億円。そのうちの書籍市場規模は994億円で27%減。
[「ブランド品、衣類・服飾品、ベビー・子供用品」は2948億円と2倍となっているのに対し、「書籍」と同様に「パソコン・周辺機器」が983億円で30%減である。しかしこちらは進化を伴っているので、同じマイナスといっても、書籍とは意味がちがうと判断できよう。
この書籍市場規模は従来の古本屋とブックオフなどの新古本産業を含んでいて、それが09年度比で、27%マイナスだと推計していることになる。ということは出版業界の危機はリユース書籍の分野にまで反映され、それこそ「本離れ」も顕著になってきたことを告げているように思われる]
10.全国大学生活協同組合連合会が発表したデータによれば、大学生協の書籍事業供給高は02年の362億円が12年には274億円と88億円減少している。
[これはセメスタ制による教科書の低価格化も原因だとされるが、大学生の本離れと読書環境の変化も作用していると考えるしかない。
このことで思い出されたのは、大学生協を主たる取引先としていた専門取次の鈴木書店で、ここは01年に破産している。
そのひとつの原因は大学生協の日販への帳合変更も挙げられていたが、もしそれがなかったとしても、大学生協売上の減少は必然的に起きていたことになり、やはり破産は食い止められなかったであろうという現実に突き当ってしまう。
出版業界におけるほとんどの事実が、こうした後退戦の中にあることを教えてくれている。そのような中でのサバイバルの方法は本当に難しいと溜息が出てくる]
11.出版危機の中にあって、宝島者の蓮実清一社長が「出版不況にあらず」と『日経MJ』(7/29)のインタビューに答えている。それを要約してみる。
宝島社の13年度売上高は297億円で前年比14%増。12年下半期ファッション誌販売部数シェアは22%で1位、『sweet』は月平均38万部販売し、やはり1位を獲得。
* 07年に最大の経営資源である雑誌を業績拡大の先兵にしようと決め、思うように広告収入を確保するために、一番誌戦略を掲げた。
* そのために宝島社の組織がフラットで、論議もオープンである特質を生かし、社長以下、編集、広告、販売が横断的に組織するマーケッティング会議で、記事や表紙に至るまで決定。
* その戦略実現のための具体的手法が付録で、ブランドのバックやポーチの付録をつけると雑誌の売れ行きがよくなった。我々は付録をブランドアイテムと呼び、おまけではなく、編集コンテンツの重要な一部だと位置づけた。
* コスト負担は大きかったが、値ごろ感を意識し、価格も下げると、部数も伸び、広告収入も伸び始めた。
* さらに14年には女性誌2誌を創刊し、ファッション誌シェア30%をめざし、書籍もナンバー1を目標に掲げている。
* 出版不況ではない。業界の人たちは平気で自ら出版不況という言葉を使うが、経営者にとってはすごく都合のいい言葉だからだ。出版業界は家族経営、同族経営が多い。大手、老舗はほとんどそうで、それらが売上高の6割を占めている。その大手、老舗が不況なだけだ。[以前にも本クロニクルで書いているが、付録は宝島社の新たな発明ではなく、大手出版社の学年誌、少年少女誌、婦人誌、娯楽誌の定番であった。
宝島社の新しさとは付録としてブランドを選んだことで、それが成功の要因となる。それを除けば、宝島社は雑誌出版の王道ともいえる付録コンセプトに回帰し、当たったといっていいだろう。
しかし『おまけとふろく大図鑑』(「別冊太陽」)などを参照するまでもなく、かつての付録は編集の創意と読者の夢のコレスポンダンスが感じられる。それが今はブランドアイテムになったということであろうし、なんとなく物悲しい思いにかられるけれど、現在の書店市場の雑誌読者にとって歓迎すべき企画だったことになろう]
12.雑誌に関してだが、『出版月報』8月号が「世界の雑誌の動向をさぐる」という特集を組んでいる。リードを引く。
日本雑誌市場は15年連続のマイナスと依存として右肩下がりで、規模はピークから4割も減少。書籍と比較すると、落ち込みが非常に激しい。インターネットの普及により雑誌という媒体ニーズが弱まっていることは間違いない。こうした状況は日本だけなのか。海外はどうだろうか、意外と聞こえてこない海外の雑誌事情を調査し、レポートする。
そしてアメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、中国、韓国の出版市場規模、雑誌データ、広告収入タイトル数、書店数などが挙げられている。
[しかし比較は対象データの問題や雑誌をめぐる流通販売事情もあり、明確な見取図と結論が出ているとはいえない。
それでも雑誌販売部数の推移だけから考えても、日本の雑誌の落ちこみに比べ、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスは微減といったところで、やはり雑誌危機は日本特有の出版業界の流通と販売に結びついていると見なすしかない。
ちなみにアメリカの雑誌は2万点を超え、毎年700点以上が創刊され、その9割が定期の直接購読となっている。それに対し日本は3300タイトルで、定期購読は群を抜いて少ない]
13.以前に『江の川物語―川漁師聞書』を購入したことがあったためか、周防大島の みずのわ出版から新刊案内とともに、近況を綴った通信が届いた。みずのわ出版は』『宮本常一写真図録』『宮本常一離島論集』などを出していて、新刊は那須圭子『My Private Fukushima 報道写真家 福島菊次郎とゆく』である。
通信によれば、島で自家農園を整備し、自給自足の暮らしをめざし、何としてでも出版を続けていくと表明している。その柳原一徳による通信に、次のような一文があるので、それを引用しておく。
地方がここまで疲弊したのは、多様な要因がありましょうが、その重要な要素の一つが「団塊の世代がよってたかって日本を悪くした」ことにあると私は考えます。神戸に居る私の両親などその典型ではありますが、地方から都会に出た団塊の世代、およびそれより少し上の世代を中心とした人たちが、自身の出身地をきちんと顧みることなく、夫々の地で連綿と受け継がれてきた生活文化を次世代につなぐ役目を放棄したこと、これに尽きるのではないでせうか。
[確かにそこに地方の疲弊の理由のひとつを求めることはできる。だがそれが敗戦によってもたらされた戦後と高度成長期の物語であり、「団塊の世代」にしても、そうした大きな物語から逃れることができなかったことも事実である彼らとはオキュパイドジャパン・ベイビーズに他ならないからだ。。
そのこともさることながら、出版危機に引き寄せれば、「団塊の世代」が読書文化を「次世代につなぐ役目を放棄したこと」に起因しているようにも考えられる。その例として、11の付録を挙げることができるのではないだろうか]
14.日本出版社協議会がアマゾンに対し、大学生を対象とする10%ポイント還元特典の中止を求めていることは本クロニクル60で既述している。
その後さらに加盟社51社は、再販契約違反だとして、アマゾン、日販、大阪屋に1ヵ月以内の自社商品の除外を求めたが、回答を拒否された。
[出版協加盟社51社は出荷停止も示唆しているので、この後の展開はどうなるのだろうか。
対象となる書籍は51社で4万点を超え、アマゾンの取り扱い書籍の6%を占めるという]
15.教科書や学習参考書の池田書店が自主廃業。
[こちらは同名だが、実用書の池田書店とはまったく異なる別会社なので、混同を留意されたい]
16.古田一晴『名古屋とちくさ正文館』は著者の都合でまたしても遅れてしまい、9月半ばに発売される。
「出版人に聞く」シリーズ14として、塩澤実信『倶楽部雑誌とは何であったか』のインタビューを終えた。これによって初めて倶楽部雑誌の世界の一端が語られることになる。ご期待あれ。
《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》