出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル55(2012年11月1日〜11月30日)

出版状況クロニクル55(2012年11月1日〜11月30日)

出版社・取次・書店という近代出版流通システムがスタートしたのは明治20年代、すなわち1890年前後であり、その歴史はすでに120年余に及んでいることになる。しかもそれが未曾有の危機に追いやられていることは周知の事実だといっていい。さらにまたその出版危機が日本だけで起きている特異な現象だということも。

日本の近代出版業界の流れは教科書、雑誌、書籍、戦後はコミックが加わり、形成されたと見なせるだろう。それらのインフラの中心は出版業界の三者ではあったとしても、とりわけ書籍に関しては、大正期の1910年代から古書業界が、流通販売だけでなく、生産に関しても大きな役割を果たし、リバリュー、リサイクルも含め、出版業界のバックヤードとして機能してきた。

それらの中でも赤本、特価本業界は出版に関して独特の位置を占め、貸本、大衆小説、コミックの揺籃の地だった考えられる。しかしそれらの出版物の収集は難しく、全貌をつかむことはもはや不可能に近い。

これまで出版史として語られていた部分は氷山の一角であり、まだ明かされていない出版の世界が確実に存在している。今年になって『日本古書通信』1000号記念として、八木書店の八木壮一にインタビューする機会を得て、古書業界と特価本業界の話の一端をうかがうことができた。

このインタビューは『日本古書通信』11月号から1月号にかけて、3回にわたって連載されるので、よろしければ目を通されんことを。またこの連載をバックアップする意味もあり、本ブログ「古本夜話」253より十数回、それらについて書いているので、こちらもまた参照されたい。

要するに電子書籍推進論者に欠けているのは、こうした日本の出版業界の重層的な歴史と構造に関する視点であり、彼らのいう電子書籍化すれば、売上も回復するという単純な考えと思いこみは無知の産物だとわかるだろう。

失われた出版業界の15年は、そうした出版のバックヤードすらも危機に追いやってしまったことが最大の問題であるということも。

日本古書通信 11月号(『日本古書通信』11月号)


1.日販とニッテンによる「販売ルート別推定出版物販売額」が出され、『出版ニュース』(11/中)に掲載されているので、それを示す。


■販売ルート別推定出版物販売額推移
書店CVSインターネット駅売店生協スタンド割販合計
20011,655,258490,079105,34550,49731,9877,0002,340,166
20021,628,944489,27696,36650,50030,1967,0002,302,282
20031,619,201463,83192,25450,00028,6565,9002,259,842
20041,624,879447,09181,18748,96927,7113,2002,233,037
20051,603,619439,17174,87347,50026,6852,9342,194,782
20061,596,433425,32667,63842,23125,0582,4422,162,636
20071,501,878382,21793,20067,64442,00023,2302,110,169
20081,467,849354,654101,20063,60541,60021,5572,050,465
20091,426,829312,413113,40059,52940,76820,3071,973,246
20101,401,681285,984128,50053,39739,77319,2911,928,626
20111,358,596261,737137,10045,82438,00017,6321,858,889

[いつも参照している出版科学研究所のデータと同様に、合計販売額のスパイラル的落ちこみが明らかだが、分野別を見て、書店以上に深刻なのはコンビニと駅販売店=キオスクとスタンドであり、この10年ほどでほぼ半減してしまっている。

目に見えて数が少なくなっていると実感できるキオスクやスタンドに比べ、コンビニは増え続け、最近5万店を超えたと伝えられているにもかかわらず、出版物販売額は一貫して下降線をたどってきたことになる。

この事実は、年を追うことにコンビニにおいて雑誌が売れなくなってしまったことを告げている。かつて雑誌はコンビニの主要商品で、現在でもトーハンの売上高の2割はセブン-イレブンによっているという。だがこのようにマイナスが続いていけば、いずれコンビニの雑誌コーナーの縮小という事態に至るかもしれない]

2.1 に続いて、折しも日本ABC協会による12年上半期の雑誌販売部数が発表された。報告誌167誌(前年同期165誌)の平均部数合計は1813万部で、前年同期比6.98%減。前半の雑誌だけで比べると、8.58%と大幅な減少を見ている。そのうちのコンビニやキオスクのシェアが高い主な週刊誌を挙げてみる。


■ABC雑誌販売部数表(2012年1〜6月平均)
誌名12年上半期部数11年上半期比部数
AERA80,618▲15.30%
サンデー毎日73,072▲4.77%
週刊朝日131,452▲12.98%
週刊アサヒ芸能109,06911.77%
週刊現代381,984▲0.68%
週刊新潮356,623▲7.22%
週刊大衆145,782▲13.48%
週刊プレイボーイ125,774▲20.26%
週刊文春465,983▲2.39%
週刊ポスト284,755▲5.90%
SPA!!65,147▲10.42%
ニューズウィーク日本版39,457▲9.81%
FRIDAY169,722▲7.03%
週刊ダイヤモンド94,805▲9.60%
週刊東洋経済69,931▲6.49%
週刊女性151,377▲4.90%
女性自身242,5532.13%
女性セブン259,4634.58%

[週刊誌41誌 上半期平均部数合計は5656万部、同年同期比6.42%減である。リストからわかるように、『週刊アサヒ芸能』『女性自身』『女性セブン』を除くと、その他はすべて減少している。

これはケータイとスマホの広範な普及によって、電車の中で週刊誌を読むといった習慣や行為が見られなくなった現象とパラレルであることは明らかだ。

だがよく考えれば、そのような習慣や行為が定着したのは、都市人口とサラリーマン人口の増加に伴う、1950年代末からの週刊誌ブームによってもたらされたもので、半世紀後にターニングポイントを迎えているというべきだろうか。

かつて週刊誌は大きな事件があれば、部数はたちまち伸びたと伝えられていたが、そのような時代の終焉をも告げているのだろう]

3.1990年代からの複合店出店の柱であったAVレンタル市場も、落ちこみを示し始めている。『日経MJ』(11/7)の12年版「サービス業総合調査」が出された。そのうちのAVレンタルを示す。


■AVレンタル
順位社名部門売上高
(百万円)
前年度比
伸び率(%)
1カルチュア・コンビニエンス・クラブ
(TSUTAYA、蔦屋書店)
183,724▲1.7%
2ゲオホールディングス79,793
3フタバ図書10,973▲5.0
4アルゴホールディングス
(ビデオワン)
6,929
5三洋堂書店4,404▲2.9%
6ウェアハウス3,8551.8%
7カジ・コーポレーション
(ビデオ合衆国USV)
999▲21.8%

[週刊誌を読むというハビトゥスが定着したのは1960年代からであり、それにならっていえば、AVレンタルも80年代に発祥し、90年代になって広く普及し、複合店出店の柱になったと見なせるだろう。

しかしそのレンタル市場も確実に落ちこみ始めているし、それを「調査」は反映している。前半の5.1%プラスに対し、今年度は2.0%のマイナスである。それは上位陣の軒並減収が原因だともされているが、本クロニクルでも継続してふれてきたように、レンタル料金の値下げ競争と市場の飽和、あるいはAVレンタルを見るという習慣の転換期をも予兆させているのかもしれない。

いずれにせよ、レンタルが複合店の柱である時代は終わりつつあるのではないだろうか]

4.またしても数字の話になってしまうが、文部科学省社会教育調査によれば、全国の公共図書館で2010年度に貸し出された本は6億6360万冊で、過去最高となった。統計を取り始めた1974年度は7535万冊だったので、9倍近い数字となる。

[しかしこの数字は東日本大震災の影響が大きい岩手、宮城、福島3県を除いているので、実際にはさらに多く、年度版『日本の図書館−統計と名簿』のデータを見ると、10年は7億1172万冊、71年は2419万冊とあるので、30倍になっている。そして図書館数は3188館に対し、885館である。

その一方で、書店数は2万3000店から1万5000店へとひたすら減少していったことになる。しかも時代の流れは民営化の方向にあったのに、出版業界においては公営的書店化、すなわち公共図書館の増加と躍進の時代を過ごしてきたのである。それは公だけが栄え、民滅ぶといった状況を招来してしまった。

しかもこの公共図書館貸出冊数7億冊は09年から11年にかけての、各年の新刊推定発行部数のほぼ2倍、さらに推定販売部数を上回るものとなっていて、今後もそれらの数字が上がっていけば、出版企画も公共図書館市場向けへとシフトしていかざるをえない状況に染められていく。テレビの比喩でいえば、民放なきNHKだけの世界になっていく。ここに示した数字は、それらがあながち妄想だとすませられないことを示唆している]

5.沖縄県産本ネットワーク編集発行の『沖縄県産本目録2012年版』が出された。沖縄の22の小出版社から刊行されている千点を超える沖縄本総目録で、それぞれの出版社によるコラムが付され、そのひとつ、ボーダーインクの宮城正勝による「すさまじく変貌した本をめぐる風景」を紹介しておきたい。

本クロニクルで既述しておいたが、1948年創業の球陽堂書房がくまざわ書店による吸収、解散で、昔からの書店の最後の牙城が崩れてしまった感があると宮城は始め、次のように続けている。

ボーダーインクの創立は1990年だが、その当時、沖縄県書店商業組合に加入している書店は120店舗ほどあったと思う。それが今ではその半分もあるかどうか。90年代はじめには、国際通りに書店が4軒あったが、それも今やゼロ。

創立以来、ボーダーインクの歴史は、書店の廃業、閉店、撤退を見続けてきたようなものである。この趨勢は今後も変わらないにちかいない。

書店だけではない、出版社もまた解散したりひっそりと消えていくのを、いくつ見てきたかしれない。出版王国などとよばれていたのがゆめのようだ。地方・小出版流通センターの資料によると、90年代のはじめ頃までは、県単位での出版点数では沖縄は10位以内をキープしていたのである。出版をめぐる風景は一変した。ボーダーインクの創立当時も、出版状況および先行きは明るいものではなかったが、しかし事態は予想をはるかにこえている。しかもすさまじい勢いで。安易に夢をかたるべきではないが、この条件をふまえてスタートするしかないのも事実である

[書店と出版社をめぐる状況が、「地方出版大県」と呼ばれる沖縄にも集約されて表出していることを教えてくれる。90年代はまだファミレスも成立しないほど大衆食堂の島だと伝えられていたが、その後の日本全国が均一化されていく過程で、それも解体されつつあるのだろう。

私は以前に新城郁夫の
『沖縄を聞く』(みすず書房)を読み、触発されるところがあった。また今度始める新しい連載のために、沖縄の小説を読むべきだとも思い、この目録を入手したのである。

この目録を手がかりにして少しずつ沖縄のことを勉強していきたいと思う。この目録は地方・小流通センターで入手できる。

なお地方・小流通出版センターの10月期売上は8、9月から持ち直し、10月は前年比3.7%減となっている]

 

6.『選択』11月号が「『出版取次会社』が本を殺す」という記事を掲載している。


[これはアマゾンの「キンドル」発売などを背景とし、取次を「主役」とする「醜い内紛や中小書店、出版社虐め」をレポートしたものである。だがそれらはすでに周知のトーハンの内紛と日販の返品率改善のための総量規制への言及で、羊頭狗肉といっていいし、取次だけを悪者扱いしている偏向記事に他ならない。

しかしそれでも知らなかったデータの紹介があったので、それだけは示しておくべきだろう。それは帝国データバンク調査によるもので、12年9月末時点において、11年度の決算が把握された出版社2609社のうち、売上高1億円に満たない会社は1165社で、そのうち決算が黒字だったのはわずか167社にすぎないというデータである。

だがこれも売上高が1億円以上であれば、黒字が多くなるのかというとそうではなく、似たような割合だと考えられる。
とすれば、出版社の危機もここに極まれりという状況になっていることは明白で、そのような状況の中で何の改革もなされず、また一年が失われていったことを意味していよう]

7.その取次にも危機は否応なく押し寄せている。太洋社は60人希望退職者を募り、本社移転を発表。それに伴い、現在の取次業97%、新規事業1%を、それぞれ85%、13%にする計画だという。

[太洋社の7期連続減少、2年連続赤字、次々と続く帳合変更について、本クロニクルでも言及してきたが、来期売上高は60億円のマイナスと予想されているので、それを含んだリストラ計画の発表と考えていいだろう。今月も喜久屋5店のトーハンへの帳合変更が報じられている。

これは私見だが、太洋社の國弘社長は有能な合理主義者だと思われるし、オーナー社長の立場に近い。それでも完全に行き詰ってしまったと自覚しているはずの再販委託制と正味問題を変革することはできず、このような処置に至るしかなかったのである]

8.様々な風評が流れ、出版社の出荷制限の動きも目立ってきた明文図書が取引先に対して、「弊社について一部事実と異なる風評があり」と始まる声明を発表。

それによれば、経営状況は黒字決算を続け、リストラによる経費削減も進み、売上減ではあるが、財務上の問題はなく、法律経済経営書の専門取次として、不動産有効活用に取り組むとしている。

[しかしこのような声明のかたわらで、明文図書は他の企業との業務提携や事業譲渡を模索していたが、それらも不調に終わったとの報道もなされている。

出版危機はこれまで、出版社や書店に比重が強く表われていたが、柳原書店や鈴木書店に見られた取次の危機が再発する時期を迎えている。これからは取次も正念場となろう]

9.岩崎書店の岩崎弘明社長が『新文化』(11/8)に「なぜ日本だけが衰退し続けるのか?」という一文を寄稿しているのでそれを要約してみる。

*最近の見聞と統計からも、欧米の出版状況は明るく、出版物売上高も前年比1〜5%増で推移しているのに、どうして日本だけがマイナス成長を続けているのか。

*アメリカにおいて、読書は楽しみであるから、時代が変化しても人々はその楽しみを捨てないので、本の売上は変わらない。それに対し、日本では勉強や実学的知識を得るための強制的読書が主である。児童書において、その典型が課題図書の読書感想文だと考えられる。

*だからそのような読書でなく、広く教養、人間性、知性を高め、創造力を育成するような読書という視点を広く導入すべきである。

*消費税は児童書の立場からすれば、撤廃を望みたいが、それが無理であるならば、軽減税率の適用を願う。

*出版業界の復興に向けて、出版4団体と児童出協から選抜メンバーを送り、復興チームを立ち上げ、サバイバル戦略の策定と活動を提案する。

[これも私見だが、岩崎も太洋社の國弘と同様のタイプと立場にあると目されるので、二人とも業を煮やしているのだと思う。岩崎は出版4団体と言っているけれど、私にいわせれば、書協の責任が最も重いし、それはかつての大失策である消費税の内税処理に表われている。またしても同じ道を歩むのだろうか]

10.元東京堂店長の佐野衛の『書店の棚 本の気配』(亜紀書房)が初版4000部、重版1500部と好調な売れ行きだという。

書店の棚 本の気配

[何よりなことで、いくつかの書評を見ているが、私なりに関心を持った佐野の一文を引いておきたい。それは日本の出版業界の特殊性にもふれているからだ。

佐野は「書店員の年齢」と題する章で、現在の書店員がコンビニと同様に若い人ばかりになり、年齢限定といった環境になっていて、そのために多様で年齢も高い読者層への対応がなされず、棚づくりもできないようなひずみを生んでいると指摘している。そして佐野は書店と書店員の原則について述べている。

「書店員は読者の年齢層に対応する年齢層を擁して作業にあたらなければならない。少なくともさまざまな人間的経験に対応しうるような、品揃えと販売体制はできるのではないかと思っている。」

これは書店ばかりの問題ではない。雑誌編集者にしても、日本の雑誌がコミック誌に代表されるように若い人たちを対象とするものが多いこともあって、同様の環境にあり、それが同じひずみを生じさせていることは明らかだ。このことをあらためて考えてみる必要があるのではないだろうか]

11.『サイゾー』12月号が特集「今、一番ヤバイマンガ」と銘打ち、「タブーなマンガ」を論じている。

「出版不況の中で、それでも堅調だとされていたマンガ業界までもが縮小を始めた」というリードによる「マンガ業界㊙ウラ話」「いま最も危険なマンガ作品たち」「マンガのいまを徹底検証」の3章仕立てで、16本の記事、座談会、インタビューが並び、充実した特集になっている。

サイゾー12月号
[とりわけ興味深かったのはマンガ編集者と書店員の2本の座談会で、コミック生産と販売の現場の状況が浮かび上がってくる。これらの座談会ではないが、『ストロボライト』(太田出版)や、『よいこの黙示録』(講談社)で注目していた青山景が自殺していたことを知らされた。

記事は要約するよりも読んだほうがよいと思われるので、この一冊の購入をおすすめする。

それとこれは表紙にも記されておらず、予想外の収穫だったが、第2特集の「リクルート上場の暗雲」で、リクルートの功罪をリアルに抉っている。このような会社から創刊された、『ダ・ヴィンチ』の功罪もあらためて検証しなければならないだろう。

それも含めて久しぶりに買った今月の『サイゾー』は思いがけなく充実していた]

ストロボライト よいこの黙示録 ダ・ヴィンチ

12.『週刊東洋経済』(12/1)が「新・流通モンスター アマゾン」特集を組んでいる。リードは「ワンクリックで何でも買えるネット通販が毎日の買い物を一新した。安くて速く、便利なアマゾンの破壊力に、日本の産業界が震撼する。」

構成はアマゾン「大解剖」「使い方ガイド」「マーケットプレイス」などの紹介に続いて、「日常に入り込むアマゾン」「アマゾンに食われる先行者」「キンドル上陸! 本が消える日」の三部仕立て。

週刊東洋経済

[ネット通販とアマゾンの状況見取図として、これまでで最も俯瞰的な特集といえるだろう。

出版業界とのダイレクトな関係でいえば、やはり第3部の「キンドル上陸!」である。そこに示された電子書籍端末リストを引いてみる。

■主な端末と書店の概要
端末名メーカー価格電子書店コンテンツ数
キンドル・ペーパーホワイトアマゾン・ジャパン7,980円キンドルストア5万点
コボグロー楽天7,980円コボイーブックストア6万6100点
リーダーソニー9,980円リーダーストア6万8800点
ガラパゴスシャープオープン(2万円前後)ガラパゴスストア5万3000点
リディオブックライブ8,480円ブックライブ10万点

しかし11月19日発売で1ページ新聞広告もうたれたキンドルも、アマゾンのサイトで予約しても、入手できるのは来年の1月になってからのようだ。

その一方で、ソニーがリーダーを講談社の、楽天はコボを小学館の全社員にばらまいた事実も記され、電子書籍端末攻防の一端がうかがわれる。鳴り物入りにもかかわらず、キンドルの供給不備と相俟って、ちぐはぐな電子書籍狂騒曲はまったく変わることなく進んでいる。だが電子書籍端末売上合戦も長くは続かず、来年の早いうちにシェアが確定されると思われる。

その他に電子書店、本の価格比較、流通マージンなども掲載されているので、これも資料として手元に一冊置いておくべきだろう]

13.日本出版インフラセンター(JPO)と経産省の「コンテンツ緊急電子化事業」(緊デジ)に関してだが、出版社申請締め切りは今月30日となっているにもかかわらず、11月13日時点での申請は6725点にとどまっている。

[本クロニクルにおいて、官製プロジェクトと見なすしかないお粗末な発想による「緊デジ」を一貫して批判してきた。「緊デジ」の破綻が明らかになった後も、出版デジタル機構は5年後に100万点、2000億円の売上をめざすプロジェクトをそのまま進めていくつもりなのだろうか。

出版デジタル機構のスキームもJPOと経産省によって形成され、官民ファンド150億円の投資が謳われているが、これも「緊デジ」10億円と同様に税金の無駄遣いとしか思えない。

またしてもJPOは経産省委託事業の「第二期フューチャー・ブックストア・フォーラム」の活動状況を報告しているが、それらの研究コンセプトが現在の状況とずれてしまっていること、またワーキンググループのメンバーがどう考えてもふさわしくないことも含んで、出版危機の構造をわかっていない官製プロジェクトの白々しさが伝わってくる。そんなことにかまけている間に、出版危機はさらに深刻化する一方であるというのに。

それゆえに書協を始めとする出版4団体はJPOの活動をアリバイ工作にしてはならないことを肝に銘ずるべきだ]

14.「出版人に聞く」シリーズ〈9〉の井出彰『書評紙と共に歩んだ五〇年』は12月初旬発売にずれこんでしまった。同じように内藤三津子『薔薇十字社とその軌跡』も来年刊行となる。

著者の都合で遅れている鈴木宏『書肆風の薔薇から水声社へ』、小泉孝一『鈴木書店の成長と衰退』、古田一晴『名古屋とちくさ正文館』は来年の早いうちに刊行予定であるので、もうしばらくお待ち頂きたい。

次なるインタビューは塩澤実信『倶楽部雑誌とその時代』が予定されている。


《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房 貸本屋、古本屋、高野書店

《新刊》
書評紙と共に歩んだ五〇年