23年9月の書籍雑誌推定販売金額は1078億円で、前年比2.6%増。
書籍は668億円で、同5.3%増。
雑誌は409億円で、同1.6%減。
雑誌の内訳は月刊誌が353億円で、0.1%増、週刊誌は55億円で、同11.1%減。
返品率は書籍が29.3%、雑誌が39.4%で、月刊誌は37.8%、週刊誌は48.0%。
書籍雑誌合計の推定販売金額の前年比プラスは21年11月以来、書籍のプラスは22年1月以来。
だがそれは書籍と月刊誌の返品率の改善によるもので、店頭売上の回復に起因していない。
25年2月に日販がコンビニ配送から撤退することも明らかになった。
出版科学研究所による出版物推定販売金額は、取次出荷から返品金額を引いたものなので、
トーハンが引き継がなければ、ダイレクトな影響を与えることになろう。
1.出版科学研究所による23年1月から9月までの出版物推定販売金額を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | |||
(百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | |
2023年 1〜9月計 | 800,989 | ▲6.4 | 471,959 | ▲5.3 | 329,029 | ▲8.0 |
1月 | 77,673 | ▲9.0 | 47,441 | ▲7.0 | 30,232 | ▲11.9 |
2月 | 99,792 | ▲7.6 | 63,424 | ▲6.3 | 36,368 | ▲9.7 |
3月 | 137,162 | ▲4.7 | 90,558 | ▲4.1 | 46,604 | ▲5.7 |
4月 | 86,595 | ▲12.8 | 48,350 | ▲11.6 | 38,245 | ▲14.2 |
5月 | 67,725 | ▲7.7 | 36,625 | ▲10.0 | 31,101 | ▲4.9 |
6月 | 79,203 | ▲8.1 | 42,019 | ▲4.7 | 37,185 | ▲11.7 |
7月 | 73,860 | ▲0.9 | 38,850 | ▲2.2 | 35,010 | 0.5 |
8月 | 71,144 | ▲11.3 | 37,820 | ▲10.6 | 33,323 | ▲12.0 |
9月 | 107,834 | 2.6 | 66,873 | 5.3 | 40,961 | ▲1.6 |
23年9月までの推定販売金額は8009億円で、前年比6.4%減である。22年度の推定販売金額は1兆1292億円だったので、最終的に6.4%減とすれば、722億円のマイナスとなり、1兆570億円前後の数字となるだろう。
23年はかろうじて1兆円の販売金額を保つことになろうが、24年には1兆円を割ってしまうことが確実となってきた。
ピーク時の1996年には2兆6564億円に達していたわけだから、24年には実質的にその3分の1程度となり、それは1970年後半の金額をも下回ってしまう。
出版社の場合はひとまずおくとしても、このような半減どころではない販売金額状況において、流通販売を担う取次と書店は限界のところまで来ている。
果たして24年はどのような状況を迎えることになるのか。23年にしても、残されたのはわずか2ヵ月しかない。
2.紀伊國屋書店、CCC、日販は書店主導のための出版流通改革実現に向けて、株式会社ブックセラーズ&カンパニーを設立。
資本金は5000万円、出資比率は紀伊國屋40%、CCCと日販がいずれも30%、代表取締役会長は紀伊國屋会長の高井昌史、代表取締役社長は紀伊國屋経営戦略室長の宮城剛高が就任。
事業内容に関しては前回の本クロニクルで、日販や紀伊國屋へのインタビューを示し、低正味買切制への意向を指摘しておいた。
今回の設立発表においても、「書店と出版社が販売・返品をコミットしながら仕入部数を決定する、新たな直仕入スキームを実現するための書店―出版社間の直接取引契約の締結を目指」すと述べられている。
その詳細は出版社などには10月以降、書店に向けては24年春をめどに説明の場を設けていくとされる。
だが1で見たように、出版物売上は最悪のところまで落ちこんでしまった。それは24年春以後の出版状況がどうなるのかわからないことを示唆していよう。
3.日販GHDとCCCの合弁会社であるMPDは社名をカルチュア・エクスペリエンス(株)と変更し、FC事業と卸事業を統合した共同事業会社を発足。
出資比率は日販GHD51%、CCC49%。
FC、卸事業のいずれもが全国の主としてTSUTAYAのFC店に向けての書籍や雑誌を始めとする商材の流通販売を目的としている。
しかしこれも前回のクロニクルで役員名を挙げているし、そこで示しておいたように、MPDの前年比マイナスと赤字幅は大きい。それにCCC(TSUTAYA、蔦屋書店)にしても、売上高の前年比マイナスは40%に及んでいる。
2のブックセラーズ&カンパニーだけでなく、カルチュア・エクスペリエンスも書店状況が最悪のところで立ち上げられたことになろう。
また日販GHDは書店子会社のブラス、リブロプラス、積文館書店、Y・spaceの4社を合併し、新会社NICリテールズを設立している。
それらがどのような軌跡をたどるのか、本クロニクルにおいても追跡していくことを約束しておく。
4.日販は24年秋に埼玉県新座市に「物流再編プログラム」の一環として、ロボティクスの活用や新しい倉庫管理システムを導入した新拠点を開設。延面積は7670坪。
文具、雑貨の流通や出版社、他社からの物流受託も含まれ、それは3PLによる。
これは2と3の動向とパラレルに進められていくプロジェクトと見なせよう。『出版状況クロニクルⅥ』などで既述しておいたように、3PL=サードパーティ・ロジスティクスとは従来の取次とは異なる倉庫システムで、「物流再編プログラム」として、他業界の流通倉庫も意図されていると考えられる。
それはトーハンも同じで、商品運送の東販自動車と倉庫内作業を担うトーハンロジテックスが合併している。こちらも他業界の物流需要への対応の拡大計画に備えてだとされる。トーハンロジテックスは経常利益の50%が3PLによっているという。
それならば、取次は他業界の3PLに徹してサバイバルできるかというと、こちらも難しいところにきている。
首都圏の物流施設は供給過剰で、今年末には空室率は8.8%、場所によっては15%を超えるのではないかと伝えられている。
こうした日販やトーハンの投資は取次業ではなく、他業界の3PLに向けられているであろうし、虻蜂取らずという事態も生じるかもしれない。
5.日販の子会社「ひらく」が、茨城県常総市の「まちなか再生事業」を受託。
これは一般社団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)の支援を受けてのものだ。
その一環として、常総市中心市街地の関東鉄道水海道駅周辺エリアの活性化を目的として社会実験「Joso Collective」を行なう。
本クロニクル169で、日販が100%子会社として、プロデュース事業の「ひらく」の設立を取り上げておいた。
今回のプロジェクトは常総市の「まちなか再生プロデューサー」として任命されたのが「ひらく」の染谷拓郎社長で、「文喫」や「箱根本箱」も手がけてきたとされる。
この「まちなか再生事業」に言及したのは、今年から勉強のために『ダ・ヴィンチ』を読むように心がけてきたが、そこでの「現在の出版業界では何が起きているのか。ブックディレクター有地和毅が今きになる動きを徹底取材」と銘打った「出版ニュースクリップ」はピンとこなかった。本クロニクルとはまったくクロスしない「出版ホットレポート」だったからだ。
しかし有地が「ひらく」に属し、文喫のブックディレクターであることを知り、ようやく謎が解けたように思った。
近年になってまったく知らない書店や人物などがメディアに露出しているのは、この「ひらく」と『ダ・ヴィンチ』を通じてのことだったのかと了承されたのである。
6.ホビー販売の駿河屋が10月6日に旧静岡マルイ跡地に新本店をオープン。
国内に120店を展開する駿河屋の旗艦店で、商品1000万点を揃え、国内ホビー商材販売店として最大規模。
その駿河屋ビルは9階建てのうちの1Fから3Fを第一次開店とし、フィギュア、プラモデル、ゲーム、4Fはトレカを扱い、年内の開店をめざす。
静岡を「ホビーのまち」とPRするとともに、町の活性化をめざし、海外も含め、年間80万人の来客数と30億円の売上が目標とされる。
駿河屋に関しては本クロニクル168で、日販のNICリテールズとの合弁会社駿河屋BASEの設立、同174で三洋堂HDのレンタルに代わる駿河屋の導入、同180でジュンク堂新潟店内の駿河屋オープンを既述している。
静岡の旧駿河屋本店は閉店した戸田書店の真向かいにあり、今回の旗艦店は丸善ジュンク堂が入ったビルの正面に位置している。
トーハン、日販を横断する出店で、ブックオフ、CCCに続いて、24年は駿河屋の年になるのだろうか。
この駿河屋の出自と背景、出店経緯などについては稿をあらためたい。
7.出版物貸与権センター(RRAC)は22年分の貸与権使用料13億5000万円を53の出版社を通じ、著作権者へと分配。
前年の貸与権使用料は16億7000万円だったので、20%以上の減少、レンタルブック店は1437店で、こちらも188店もマイナスとなっている。
レンタルブック店といっても、実質的にはレンタルコミック店で、これらもゲオとTSUTAYAが大半をしめているといっていい。
このところ店によってちがうだろうが、ゲオは大量にレンタルコミックを50円で売っている。DVDやCDのレンタルが配信によって撤退続きであるように、レンタルコミックも同様の経緯をたどるのではないだろうか。
8.精文館書店の決算は売上高181億8200万円、前年比5.8%減、営業損失4400万円(前期は1億6500万円の利益)、経常損失5700万円(前期は1億6200万円の利益)、当期純損失2億2000万円(前期は8100万円の利益)で、減収減益の赤字決算。
分野別売上高は示さないが、書籍やレンタルのマイナスによって12年ぶりに190億円を下回った。
豊橋市を本店とする精文館は日販傘下に入り、CCCのFCとなり、現在は49店舗を展開しているが、これまでの複合店はもはやビジネスモデルとして成立するのが難しくなってきている。インボイス制度も他人事ではないだろう。
それこそ今期は6の駿河屋のFCに加盟するという。
最近になって、地方老舗書店、地方銀行、取次がバトルロワイヤル的に絡んだ内紛が聞こえてくる。地方の文化中枢としての書店を支えてきた地銀にしても、もはや限界にきているのだろうし、それがこれから連鎖するように起きてくるかもしれない。
9.朝日新聞出版が科学雑誌『Newton』を発行するニュートンプレスの全株式を取得し、同社は朝日新聞グループに加わる。
『Newton』は1981年に竹内均を編集長として創刊され、現在でも発行部数は8万5000部で、科学雑誌としては国内最大とされる。
これも『出版状況クロニクルⅤ』で取り上げておいたように、2017年にニュートンプレスは民事再生法を申請し、現在も再生計画に基づき債務返済を続けている。だが今後は朝日新聞グループが債務返済を保証することになる。
10.『FACTA』(11月号)が貴船かずま「瀕死の『キネ旬』廃れる映画批評」を掲載している。
そのリードは「著名な批評家は活動の場をネットに移行。紙媒体の限られたパイを大ベテランが奪い合い。」
facta.co.jp
これも本クロニクル181で既述しておいたが、『キネマ旬報』(キネマ旬報社)が8月号より、月1回の合併号としての刊行となった。
そこで月刊化は存続のための止むを得ない選択だと書いておいた。だがここでは「廃刊の瀬戸際まで追い詰められた」とされ、直近の発行部数は5万を切り、与信管理センターの格付けはF3で、キネマ旬報社も最も倒産の確立が高い企業に格付けされているようだ。
確かに月2回が1回の発行となれば、売上も半分になってしまうので、そのような格付けに追いやられたのだろうが、もっと心配なのは親会社もすでに『キネ旬』を見放してしまったのではないかということだ。新聞夕刊の廃止により、映画評もなくなりつつあるし、映画批評ももはや成立する状況にない。
そういえば、『選択』(10月号)も『週刊現代』編集部の内紛と騒動が続いていることを伝えている。ここまで雑誌が失墜してしまうと、週刊誌すらも安泰ではない状況になっていると考えるしかない。
11.ノセ事務所より、2023年上半期の朝日、読売、毎日、日経の4紙の朝刊の単行本書評リストが届いた。
その10本以上書評された出版社と合計冊数を示す。
順位 | 出版社 | 合計(訳本) |
1 | 講談社 | 41(4) |
2 | 新潮社 | 40(7) |
3 | 中央公論新社 | 36(3) |
4 | 岩波書店 | 35(8) |
5 | 文藝春秋 | 32(3) |
6 | 河出書房新社 | 30(18) |
7 | みすず書房 | 26(18) |
8 | 白水社 | 22(16) |
9 | 早川書房 | 20(19) |
10 | 日本経済新聞社 | 19(9) |
11 | 朝日新聞社 | 18(6) |
12 | 勁草書房 | 16(11) |
13 | 筑摩書房 | 15(1) |
14 | 平凡社 | 15(1) |
15 | 晶文社 | 14(8) |
16 | 草思社 | 12(7) |
17 | 東洋経済新報社 | 12(8) |
18 | 名古屋大学出版会 | 12(2) |
19 | 東京大学出版会 | 11(1) |
20 | 慶應義塾大学出版会 | 11(4) |
21 | 光文社 | 11(3) |
22 | KADOKAWA | 10(2) |
23 | 集英社 | 10(2) |
24 | ダイヤモンド社 | 10(6) |
新聞別冊数を省略してしまったが、近年どの新聞に書評が出ても、ここに上がっていない小出版社の場合、ほとんどが問い合わせもなく、書店注文などにしても、数十冊あればよいほうだとの複数の声を聞いているからだ。
それは実感できるし、書評どころか、新聞広告にしても、まったく反応がないという状況を迎えて久しい。
それこそ前世紀においては、三八広告が打てれば出版社として一人前だといわれていたのである。本当にそんな時代があったことも もはや忘れられているだろう。
12.『日本古書通信』(10月号)が樽見博による「『性風俗資料』に特化した古書目録―股旅堂・吉岡誠さんに聞く」を掲載している。
本クロニクルの読者であれば、届くたびに「股旅堂目録」を紹介してきたので、ご存じの方も多いと思う。
ここで語られているように、吉岡は八重洲BC出身で、本店で5年、宇都宮店で1年の6年に及んでいる。現在の股旅堂の特集目録は書店でのブックフェア企画と相通じるところもあるとの言は、6年間の書店経験を抜きにしては古書目録も成立しなかったことを示唆していよう。
それでいて量を売らなければならない書店、つまり「マジョリティを相手にする仕事より、古本屋の方が向いていると思います」と述べている。
この吉岡の言葉は現在の出版業界においても、今一度かみしめなければならない発言のように思える。
13.『芸術新潮』(10月号)が特集「いまこそ知りたい建築家磯崎新入門」を組んでいる。
そこには磯達雄の「磯崎新 危険な図書館」も掲載され、磯崎の建築家ならぬ著者としての軌跡も語られている。
私などにとって、磯崎は美術出版社のA5判函入の『空間へ』(1971年)などから始まり、篠崎紀信とコラボした六耀社の「建築行脚」シリーズがただちに挙げられる。このシリーズに関しては別に一編を書くつもりでいる。
また建築に関しては磯崎の静岡市における劇場プロジェクトとしての「グランシップ」にもう少し注視があってもいいように思われる。この1993年から98年にかけてのプロジェクトは監理を綜合設計事務所に委ねたこともあるかもしれないのだが、ほとんど論じられていないように思える。磯崎の死にあって、新たな注視も必要なのではないだろうか。
14.社会学者の加藤秀俊が93歳で死去した。
私にとって加藤はリースマンの『孤独な群衆』(みすず書房)の訳業に尽きる。
この一冊はアメリカ社会学のコアを伝え、社会の生々しい現在と生成を分析することを教えてくれた。
しかも加藤は2013年にその改訂版をも刊行している。それに喚起され、私も『孤独な群衆』論として、「他人指向型と消費社会」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)を書いている。まだネットで読めるはずなので、アクセスして頂ければ有難い。
混住社会論37 リースマンの加藤秀俊 改訂訳『孤独な群衆』(みすず書房、二〇一三年)
odamitsuo.hatenablog.com
15.論創社HP「本を読む」〈93〉は「つげ義春と若木書房『傑作漫画全集』」です。
ronso.co.jp
『新版 図書館逍遥』は発売中。
『近代出版史探索Ⅶ』は編集中。
中村文孝との次のコモン論は準備中。