出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル188(2023年12月1日~12月31日)

23年11月の書籍雑誌推定販売金額は865億円で、前年比5.4%減。
書籍は493億円で、同2.9%減。
雑誌は372億円で、同8.5%減。
雑誌の内訳は月刊誌が313億円で、同9.2%減、週刊誌は58億円で、同4.2%減。
返品率は書籍が34.0%、雑誌が42.2%で、月刊誌は41.0%、週刊誌は47.8%。
9、10月は続けて小幅なプラスとなっていたが、11月はマイナスに転じた。
月刊誌は発行部数が前年比20%減であるのが大きく作用しているのだろう。
コミック次第は来年も続いていく。


1.出版科学研究所による23年1月から11月にかけての出版物販売金額を示す。

 

■2023年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2023年
1〜11月
972,436▲5.8571,131▲4.4401,304▲7.6
1月77,673▲9.047,441▲7.030,232▲11.9
2月99,792▲7.663,424▲6.336,368▲9.7
3月137,162▲4.790,558▲4.146,604▲5.7
4月86,595▲12.848,350▲11.638,245▲14.2
5月67,725▲7.736,625▲10.031,101▲4.9
6月79,203▲8.142,019▲4.737,185▲11.7
7月73,860▲0.938,850▲2.235,0100.5
8月71,144▲11.337,820▲10.633,323▲12.0
9月107,8342.666,8735.340,961▲1.6
10月84,8520.449,8202.835,032▲2.9
11月86,595▲5.449,352▲2.937,243▲8.5

 11月までの出版販売金額は9724億円、前年比5.8%減である。
 22年の出版販売金額は1兆1292億円だから、5.8%減を当てはめると、23年は1兆638億円前後となろう。かろうじて1兆円は下回らなかったけれど、広範な定価値上げを含んでのことと見なすべきだろう。
 おそらく24年は1兆円を割りこむところまできている



2.日販の「出版物販売額の実態2023」が出された。
 

■販売ルート別推定出版物販売額2023年度
販売ルート推定販売額
(億円)
前年比
(%)
1. 書店8,157▲2.2
2. CVS933▲20.4
3. インターネット2,8722.3
4. その他取次経由349▲5.9
5. 出版社直販1,708▲3.9
合計14,020▲3.1

 インターネット販売だけは前年と同じくプラスだが、それ以外の4ルートは前年と同じくマイナスである。
 とりわけマイナス幅が大きいのはコンビニルートで、本クロニクル176で示しておいたように、22年の1172億円に対して、20.4%減となり、ついに1000億円を下回ってしまった。
 これも前回の本クロニクルで既述しておいたけれど、1996年はコンビニの出版物販売額のピークで、5571億円だったのであり、何とその6分の1になってしまった。
 日販のコンビニ配送は2015年から赤字とされているが、他ならぬ日販の発行する「出版物販売額」の推移がその事実を語っていることになろう。



3.『週刊東洋経済』(12/2)が特集「CCC平成のエンタメ王が陥った窮地」を組んでいる。
 リードは「TSUTAYAにTポイント、そして蔦屋書店――。カリスマ創業者が率いる「企画会社」はなぜ没落したのか。」
 要約してみる。

週刊東洋経済 2023/12/2特大号(外国人材が来ない!)

ツタヤを運営するCCC系の店舗の18年4月以降の出閉店状況調査によれば、500店弱が純減している。
 都道府県別の純滅数は東京都が70、神奈川県と大阪府がともに44、北海道や福岡県など地方でも2ケタ減となり、閉店は553店に及んでいる。
 それに対し、出店は72だが、純増の都道府県は一つもない。
CCCの利益柱は全国900店のうちのフランチャイズ(FC)店からのロイヤルティ収入、及び2003年から始めた共通ポイント「Tポイント」で稼ぐ手数料の2つで、10年代まではこの両輪が機能し、安定して100億円前後の営業利益を上げてきた。
 しかしコロナ禍の21年3月に68億円の営業赤字に転落し、その後は営業利益10億円前後という低迷ぶりで、2つの利益柱が失速しているのは明白だ。
CCCもレンタルや書店業の市場縮小の岐路を迎え、「蔦屋書店」を中核とする複合型商業施設「代官山T-SITE」をオープンし、銀座や大阪の梅田などにも出店したが、都心型の「蔦屋書店」は出店エリアが限られ、ツタヤほどの店舗規模に至らなかった。
FC本部が提案してきた商材はテコ入れの決め手にならず、コロナ前からFC各店が赤字に転落し、店によっては1店で1000万円の赤字で、レンタルが大赤字となっている。
FCとTポイント事業は標準化されたビジネスモデルを全国の加盟店に横展開し、それを本部側は日々管理、運営するという「事業会社化」したことによって、CCCは企画できない「企画会社」に陥っていた。
22年春に増田宗昭会長は経営を生え抜きの高橋誉則に譲り、Tポイントを三井住友フィナンシャルグループのVポイントに統合する。またもう1つの柱であるFC事業をカルチュア・エクスペリエンス(CX)に移管する。
これらは「決死のグループ解体」とされ、「待ったなしの組織・人事制度改革が至上命令」と結ばれている。

 8ページに及ぶ特集はCCCの現在の「没落」の状況を浮かび上がらせ、今後の行方を問うていることになろう。だがこのような特集も本クロニクルを抜きにしては成立しなかったと思われる。
 またこの特集には「CCCの業績推移」「閉店ドミノ」「大胆なグループ解体」チャートが付され、さらに「CCC高橋社長」へのインタビュー、「さらばTポイント栄華と没落の20年」「カリスマ創業者増田宗昭の知られざる素顔」という2本の記事も添えられている。
 このような状況を背景として、前回のクロニクルにおける日販のコンビニ配送からの撤退、紀伊國屋書店、CCC、日販の新会社ブックセラーズ&カンパニーが設立されたことはいうまでもないだろう。



4.3の『東洋経済』本誌の特集に続いて、「東洋経済オンライン」(12/15)が「赤字、リストラ、コンビニ撤退『本の物流王』の岐路――業界を騒がせた取次大手『日販』の幹部に聞く」、「同」(12/19)が「書店のドン『紀伊國屋』がTSUTAYAと組んだ裏側――紀伊國屋会長に合弁会社設立の狙いを直撃」という2本のインタビューを発信している。
赤字、リストラ、コンビニ撤退「本の物流王」の岐路 業界を騒がせた取次大手「日販」の幹部に聞く | メディア業界 | 東洋経済オンライン
書店のドン「紀伊國屋」がTSUTAYAと組んだ裏側 紀伊國屋会長に合弁会社設立の狙いを直撃 | メディア業界 | 東洋経済オンライン

 前者の日販の奥村景二社長インタビューは前回の本クロニクルで、他紙インタビューを要約している。だからそこで語られていなかったことを挙げてみれば、10月に早期退職支援発表、CCCからCXへの出向者500人の増加、日本一の文具卸になるという発言であろう。
 後者の紀伊國屋の高井昌史会長の発言も抽出してみる。ブックセラーズ設立のきっかけはCCCの増田会長と高橋社長の提案で、キーワードは「書店からの業界改革」である。お客に最も近く、理解している「川下の書店から改革」することで一致した。それは「うちとTSUTAYAは十分お金持だ」ということにもよっているし、大手出版社4社も協力の意思を示している。またCCCにも「もう少し本を売らなきゃ。本屋に徹しないとだめだよ」といっている。
 さらなる詳細は「同オンライン」を確認してほしいが、「本の物流王」と「書店のドン」の発言において、現在の出版危機状況を直視した明確な取次と書店ヴィジョンが語られているとは思えない。
 日販とCCCとMPDはレンタルとFCで街の中小書店を閉店に追いやり、今度はコンビニを切り捨て、紀伊國屋を引きこみ、CCCをサバイバルさせるという構図が明らかであるにもかかわらず。
 それは本クロニクルだけの見解ではないはずだ。


5.『新文化』(12/14)が「コンビニ流通引継ぎの経緯と真意」の大見出しで、「トーハン・田仲幹弘副社長に聞く」を掲載している。
 それも抽出要約してみる。

これは業界全体に関わる、とても重要な問題であり、これまでの経緯と出版輸送の現実、その価値を正しく伝えたい。
始まりは今年の1月27日に日販の奥村社長が1人でトーハンに来社し、近藤社長に「24年2月にコンビニ2社の流通をやめることを役員会で決めた」と言われたことです。
しかし2月15日に両社長は話し合いの場をもち、業界全体への影響があまりにも大きいので、「日販がコンビニ2社の流通を継続できるよう一緒に考えよう。再考してほしい」と呼びかけた。
3月下旬に日販は役員会において、撤退期日を1年延長し、25年2月に変更すると決定し、コンビニ2社に通告したが、5月連休明けに日販から取引継続のための条件交渉の申し入れがあったようだ。
それもあって、コンビニ2社から雑誌販売は続けたいので、トーハンとの取引の問い合わせが入り、そこで初めて取引を検討したが、トーハンの場合、配送センターの都合により、25年7月からしか受けられないと伝えた。
一番心配したのはコンビニ2社が雑誌販売を止めることで、もしそれらの雑誌棚が撤去されれば、「共用配送」の仕組みが壊れてしまし、雑誌出版社と雑誌文化の危機ともなってしまう。
だが日販は9月上旬にコンビニ2社に対し、25年2月でやめると正式に通達したので、2社はトーハンに正式に取引を依頼したこともあり、現在協議している。
「空白の4カ月」の対応は商取引に関して、25年3月からトーハンに移行するが、仕入・配本・物流は日販が代行し、トーハンの配送分を段階的に増やし、清算はトーハンが行い、日販への業務代行実費も負担するというスキームだ。
 だが赤字のコンビニルートをそのままのかたちで引き継ぐことはできないので、コンビニ2社との条件交渉、出版社の協力も必要である。
書店1万店の輸送網は6万店のコンビニルートによって成立しているし、コンビニ流通を守ることは書店配達を維持することと直結する。日販の決定は多くの企業に巨額の費用を発生させ、不安定化リスクをもたらすといわざるをえない。
今回のことを機に、出版社、書店にも出版配送網インフラが貴重なインフラであることを知ってほしいし、決められた日と時間に、極めて低コストで全国販売拠点へ共同配送できる輸送網を持つのはこの出版業界以外にはない。
他産業では流通コストを流通側、小売側が販売価格に転嫁するが、再販制度下にあるこの業界では出版社にしか価格決定権がない。本の原価には書店マージン、流通コストなども含まれているはずなのに賄いきれておらず、原価率を変えるか、改革販売を見直すしかない。

 取次の流通現場から、ここまで率直で真摯な言葉が発せられたことは初めてのように思われるので、長い引用紹介になってしまった。
 ここで再販委託制の実質的な崩壊が出版流通の只中にも及んでいることを確認したことになるが、で見たように、コンビニ売上もまだ下げ止まりではない。トーハンが代行したとしても、問題が解決されたわけではないのだ。



6.『朝日新聞』(12/7)の「声」欄に、「無職 市橋栄一(東京都70)」という人の「新しい書店像 再販制度見直しを」の投書が掲載されていた。

 2010年までは新聞業界もまた「再販制」護持一辺倒で、このような見出しの投書が掲載されることなどありえなかった。それもあって、長きにわたって再販制を批判してきた『出版状況クロニクル』シリーズはまったく書評されてこなかったし、紹介もなされていなかった。
 しかしで見たように、その危機は出版流通の現場にも及んでいるし、それは新聞業界も例外ではないのだ。
 市橋とは面識がないので、中村文孝に確認したところ、紀伊國屋書店のニューヨーク支店長で、以前から再販制を批判していたとのことだった。
 それゆえにここで「再販委託性の見直し」による「書店文化」のサバイバルが提起されていることになろう。



7.トーハン26社の中間決算は連結売上高1898億円、前年比0.9%減、営業損失1億9700万円(前年は7億4300万円の損失)。
 単体売上高は1742億円、営業損失7億3500万円(前年は9億6100万円の損失)。
 連結、単体とも営業損失を計上したが、東京ロジスティックスセンターの売却益31億円を特別利益として計上し、最終利益は連結・単体で増益。


8.日販GHD38社の中間決算は連結売上高2048億円、前年比6.8%減、営業損失13億8800万円(前年は1億400万円の損失)、中間純損失11億5000万円(前年は11億7800万円の利益)。
 日販単体の売上高は1607億円、前年比168億円減。
 営業損失18億9800万円(前年は6億2600万円の損失)、中間純損失13億8100万円(前年は5億8400万円の損失)。
 書店ルート減収分は191億円。


9.日教販の決算は売上高280億2660万円、前年比4.3%増。当期純利益は2億1970万円、同23.4%減。
その内訳は書籍193億8300万円、同4.4%増、「教科書」76億3200万円、同5.3%増。
学参、辞書、教科書は高校教科書の改訂に伴う定価アップ、採択数の増加など順調に推移し、返品率は10.2%。

 取次3社の決算を挙げてみた。
 トーハン、日販はいずれも実質的赤字で、取次と書店の赤字は下半期にさらにふくらむであろう。
 日教販は採用物の教科書、辞書、学参を中心とする専門取次の健全性を伝え、低返品率こそが取次の生命線であることを示している。ただ各都道府県の教科書会社の実態はどうなっているのだろうか。



10.紀伊國屋書店の連結決算は売上高1306億787万円、前年比8%増。営業利益36億6621万円、同48.2%増、当期純利益31億7919万円、同56.5%増の3年連続の増収増益で、過去最高の売上高、利益。
 その内訳は「店売本部」432億8832万円、同0.4%増、「営業本部」531億4435万円、同6.4%増、「海外事業」296億5263万円、同26.7%増。


11. 有隣堂の決算は売上高520億1501万円、前年比0.4%減。営業利益2億3897万円、同61.1%減、当期純損失1256万円(前年は3億1345億円の利益)で、減収損失の決算。

 紀伊國屋の決算の過去最高の売上高と利益は連結の「海外事情」の好調さによっていることは歴然で、国内事業においては有隣堂と変わらない状況にあると見なせるであろう。
 取次にしても、書店にしても、24年度が正念場となろう。



12.ノセ事務所から、帝国データバンクに基づく「出版社の実績」が届いた。
 これは569社に及ぶ2013年から22年にかけてのデータの集積だが、ここでは22年の上位20社の売上高と純利益を抽出し、挙げてみる。

 

■出版社の実績販売ルート   (単位:百万円)
順位出版社2022年純利益
1集英社209,48415,919
2講談社169,40014,900
3KADOKAWA129,8838,060
4小学館108,47161,620
5日経BP38,90025,520
6宝島社30,345-4,230
7東京書籍24,95190
8ぎょうせい21,5604,410
9文藝春秋19,477-522
10光文社17,900-493
11双葉社16,5991,284
12新潮社16,0000
13ハースト婦人画報社15,7501,551
14Gakken15,500-85
15岩波書店14,80087
16新学社14,412212
17ダイヤモンド社13,425747
18NHK出版 13,424368
19白泉社13,3810
20数研出版12,400750


毎年感心するのは宝島社の躍進で、文藝春秋や新潮社を凌駕していることだ。
 1970年代にJICC出版局として始まり、『月刊宝島」を刊行していた小出版社が、90年代における「別冊宝島」の多種多量の発行を経て、大手雑誌出版社へと変貌していったことが重なって想起される。だが22年は赤字なのが気になる。
 創業者の蓮実清一と石井慎二は『週刊現代」の元取材記者で、その事実は井家上隆幸『三一新書の時代』(「出版人に聞く」16)に語られているが、折しも蓮実の80歳の死が伝えられてきたばかりだ。    
三一新書の時代 (出版人に聞く 16)      



13.日販、トーハンの2023年ベストセラーが出された。



■日本出版販売・トーハン 2023年 年間ベストセラー(総合)
順位書名著者出版社本体(円)
日販トーハン
12小学生がたった1日で19×19まで
かんぺきに暗算出来る本
小杉拓也ダイヤモンド社1,000
21大ピンチずかん鈴木のりたけ小学館1,500
34変な家雨穴飛鳥新社1,273
47変な絵雨穴双葉社1,400
55街とその不確かな壁村上春樹新潮社2,700
63汝、星のごとく凪良ゆう講談社1,600
79キレイはこれでつくれますMEGUMIダイヤモンド社1,500
88ポケットモンスタースカーレット
・バイオレット公式ガイドブック 完全ストーリー攻略
元宮秀介
ワンナップほか
オーバーラップ1,400
9パンどろぼう柴田ケイコKADOKAWA1,300
106地獄の法大川隆法幸福の科学出版2,000
1111日本史を暴く磯田道史中央公論新社840
1212TOEIC L&R TEST 出る単特急
金のフレーズ
TEX加藤朝日新聞出版890
1313頭のいい人が話す前に考えていること安達裕哉ダイヤモンド社1,500
1416人は話方が9割永松茂久すばる舎1,400
15パンどろぼう おにぎりぼうやの
たびだち
柴田ケイコKADOKAWA1,300
1620やる気1%ごはん テキトーでも
美味しくつくれる悶絶レシピ500
まるみキッチンKADOKAWA1,540
17パンどろぼうとほっかほっカー柴田ケイコKADOKAWA1,300
1820代で得た知見FKADOKAWA1,300
1917くもをさがす西加奈子河出書房新社1,400
20バカと無知橘玲新潮社880
10パンどろぼう
パンどろぼうVSにせパンどろぼう
パンどろぼうとなぞのフランスパン
パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち
パンどろぼうとほっかほっカー
柴田ケイコKADOKAWA各1,300
14安倍晋三 回顧録安倍晋三
橋本五郎、尾山宏ほか
中央公論新社1,800
15ポケットモンスタースカーレット
・バイオレット公式ガイドブックパルデア図鑑完成ガイド
元宮秀介
ワンナップほか
オーバーラップ1,600
18898ぴきせいぞろい!ポケモン
大図鑑上・下
小学館各1,000
19成熟スイッチ林真理子講談社840
(集計期間:2022年11月22日~2023年11月21日)

小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本 大ピンチずかん 変な家

 本クロニクル176で「紅白歌合戦」のようなものとして、22年のベストセラーを掲載したが、学参の『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算ができる本』が日販の1位、トーハンの2位に躍り出るとは予想もしていなかった。
 私も長きにわたって戦後出版史と関連し、ベストセラー表にも目を通してきたけれど、純然たる小学生用学参がベストセラーの首位を占めたことはなかったのである。 
 前世紀までのベストセラーは小説、話題の書、トレンド本などが多く、どちらかといえば、無用の書に分類でき、忘れ去られる宿命を帯びていた。
 ところが23年は有用で役立つ小学生のための学参にとって代わられたことになる。
 前代未聞の出来事のように思えるし、出版業界そのものがまったく変わってしまったことも象徴しているのではないだろうか。



14.新宿書房の村山恒夫より、この10月で閉業の知らせが届いた。
 半世紀の間に刊行した480冊のうちの120タイトルは鎌倉の出版社「港の人」が引き継ぎ、「SS文庫」として販売を担うという。

 村山の叔父の映画監督である村山新治のDVD、梅宮辰夫主演『夜の悪女』『赤い夜光虫』『夜の手配師』(東映)を購入したばかりのところに、この知らせが届いた。
 今度、村山と会える機会があれば、出版ではなく映画の話をしようと思う。



15.山田太一 89歳、三木卓 88歳、西木正明 83歳の死が伝えられてきた。

 山田に関しては『岸辺のアルバム』論として、「『浮気』とホームドラマ」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)を書き、三木とはある文学賞の審査をともにしていたことがあった。また三木のことは、井出彰『書評紙と共に歩んだ五〇年』(「出版人に聞く」9)でも、日本読書新聞時代が語られている。
 西木はみすず書房の『現代史資料』を使いこなした現代史をテーマとする作家だが、その人脈の背景に山口健二の存在があったように思えてならない。デビュー作『オホーツク諜報船』(角川書店)はそれを示しているし、山口のことは宮下和夫『弓立社という出版思想』(「出版人に聞く」19)を参照してほしい。

 郊外の果てへの旅/混住社会論  書評紙と共に歩んだ五〇年 (出版人に聞く 9)     オホーツク諜報船 (角川文庫 緑 628-1)  弓立社という出版思想 (出版人に聞く 19)



16.論創社HP「本を読む」〈95〉は「東京トップ社、熊藤男、つげ義春『流刑人別帳』」です。 
ronso.co.jp

 『新版図書館逍遥』は発売中。
  新版 図書館逍遙
 『近代出版史探索Ⅶ』は1月発売予定。
   
 『出版状況クロニクルⅦ』は2月発売予定。
 『近代出版史探索外伝Ⅱ』と中村文孝との対談『自治会、宗教、地方史』は編集中です。
 24年はその他にも何本か予定しています。