出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

古本夜話572 クリスティー『奉天三十年』と岩波新書

前回の衛藤利夫選集ともいうべき『韃靼』に収録されなかった一冊があって、それは昭和十年に大亜細亜建設社から刊行された『満洲生活三十年・奉天の聖者クリステイの思出』である。その理由はこれがクリスティー著、矢内原忠雄訳『奉天三十年』のタイトルで…

古本夜話571 衛藤利夫『韃靼』と翻訳書

これも三回続けてイブラヒムがタタール人=韃靼人であること、大日本文明協会のこと、嶋野三郎が満鉄の東亜経済調査局で『露和辞典』を編んだことを取り上げてきたが、これらに関連する人物と著書があるので、それにもふれておきたい。それは衛藤利夫の『韃…

混住社会論147 伊井直行『ポケットの中のレワニワ』(講談社、二〇〇九年)

本連載23から26 にかけて、一九八〇年代に日本へと漂着したベトナム難民やインドシナ半島のボートピープルをテーマとする小説を取り上げてきた。二〇〇九年に刊行された伊井直行の『ポケットの中のレワニワ』は、その難民たちの二一世紀に入ってからの行方を…

古本夜話570 嶋野三郎と『露和辞典』

本連載564「大川周明、井筒俊彦、東亜経済調査局」の最後のところで、やはり大川と同様に東亜経済調査局に在籍し、ロシア語辞典を編纂し、代々木上原に回教寺院を建立した嶋野三郎の名前を挙げておいた。 かつて竹林滋他編『世界の辞書』(研究社)を読ん…

古本夜話569 大日本文明協会叢書『土耳其帝国』

前回イブラヒムの『ジャポンヤ』において、繰り返し会談し、言及が多いのは大隈重信で、しかも早稲田大学も何度か訪れていたようだ。そのうちの一度は大隈講堂で、日暮里に住んでいたトルコ系エジプト人のアフマド・ファズリーの講演会が開かれた時だった。…

混住社会論146 吉田修一『悪人』(朝日新聞社、二〇〇七年)

吉田修一の『悪人』の冒頭には、まずその物語のトポロジーを提出するかのように、三瀬峠を跨いで福岡市と佐賀市を結ぶ全長48キロの国道263号線の現在の風景が描かれている。その起点は福岡市早良区荒江交差点で、一九六〇年代半ばから福岡市のベッドタウンと…

古本夜話568 イブラヒム『ジャポンヤ』

三回にわたって続けてふれてきたイブラーヒーム=イブラヒムが初めてに日本を訪れたのは、日露戦争後の明治四十二年だったことを既述しておいた。これは後に知ったのだが、彼はその記録を残していて、平成三年になって、それは「イスラム系ロシア人の見た明…

古本夜話567 田中逸平『白雲遊記』

前回の若林半の『回教世界と日本』の中に、彼の盟友田中逸平の回教葬の写真が収録され、イブラヒムが読経する場面も写っていることを既述した。残念ながら若林は見当たらないが、田中は平凡社の『日本人名大事典』(『新撰大人名辞典』)に立項されているの…

出版状況クロニクル98(2016年6月1日〜6月30日)

出版状況クロニクル98(2016年6月1日〜6月30日)16年5月の書籍雑誌の推定販売金額は962億円で、前年比4.1%減。 書籍は461億円で、同3.2%減、雑誌は501億円で、同4.9%減。 雑誌のうちの月刊誌は401億円で、同5.7%減、週刊誌は99億円で、1.4%減。後者の近…