出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル190(2024年2月1日~2月29日)

24年1月の書籍雑誌推定販売金額は731億円で、前年比5.8%減。
書籍は457億円で、同3.5%減。
雑誌は273億円で、同9.5%減。
雑誌の内訳は月刊誌が219億円で、同10.6%減、週刊誌は54億円で、同4.7%減。
返品率は書籍が33.8%、雑誌が47.8%で、月刊誌は48.4%、週刊誌は45.2%。
24年の始まりのデータであり、本年はどのような出版状況を招来していくことになるだろうか。


1.出版科学研究所による23年度の電子出版販売金額を示す。
 

■電子出版市場規模(単位:億円)
2014201520162017201820192020202120222023前年比
(%)
電子コミック8821,1491,4601,7111,9652,5933,4204,1144,4794,830107.8
電子書籍19222825829032134940144944644098.7
電子雑誌7012519121419313011099888192.0
合計1,1441,5021,9092,2152,4793,0723,9314,6625,0135,351106.7

 『出版状況クロニクルⅦ』で、23年は電子コミックシェアが90%を超えるだろうと予測しておいたが、4830億円という90.3%を占め、そのとおりになってしまった。
 それは電子書籍が440億円の8.2%、電子雑誌が81億円の1.5%とマイナス基調にあり、これらの回復は難しい状況だといっていい。前者は2年連続、後者は5年連続の減少となっているからだ。
 それでも電子合計販売金額は5351億円に達し、23年の紙の雑誌販売金額4418億円を上回り、電子コミックだけでも同様である。24年は書籍販売金額を超えてしまうかもしれない。



2.同じく出版科学研究所の2011年から23年にかけての書籍雑誌販売部数の推移を挙げておく。

■書籍雑誌販売部数の推移(単位:万冊)
書籍雑誌
販売部数増減率販売部数増減率
201170,013▲0.3198,970▲8.4
201268,790▲1.7187,339▲5.8
201367,738▲1.5176,368▲5.9
201464,461▲4.8165,088▲6.4
201562,633▲2.8147,812▲10.5
201661,769▲1.4135,990▲8.0
201759,157▲4.2119,426▲12.2
201857,129▲3.4106,032▲11.2
201954,240▲5.197,554▲8.0
202053,164▲2.095,427▲2.2
202152,832▲0.688,069▲7.7
202249,759▲5.877,132▲12.4
202346,405▲6.767,087▲13.0

 書籍も雑誌も販売部数はそれぞれ6.7%、13%という最大のマイナスで、23年が悪しきターニングポイントというべき年であったことを示しているのかもしれない。
 部数のことを考えてみても、書籍は7億冊から5億冊、雑誌は20億冊から7億冊を割りこんでしまい、雑誌に至っては2011年の3分の1になってしまった。
 この12年における雑誌の凋落が歴然で、しかも下げ止まりは見られず、雑誌のうちのコミックスはさらに電子コミックに侵食されていくだろう。
 それからこれは『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』で指摘しておいたように、書籍販売部数の推移は、図書館貸出冊数と比較参照すべきであることを付記しておく。



3.『日経MJ』(2/14)が「紀伊国屋、本屋から日本屋へ」という大見出しで、一面特集をしている。リードは次のようなものだ。
 「日本の書店が漫画と雑貨で海外市場の開拓を急ぐ。紀伊国屋書店は米国で文房具やキャラクターグッズを主軸とし、売上高の半分を雑貨が占める店舗がある。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)も東南アジアなどで日本の雑貨を扱う店舗を増やす。日本の書籍市場が縮むなか、書籍だけに頼らない、日本のコンテンツ発信拠点として成長戦略を描く。」
 その例として、テキサス州の紀伊国屋オースティン店が挙げられている。コミック『ONE PIECE』『東京リベンジャーズ』などがずらりと並び、売上高の5割以上が漫画関連グッズ、文房具、ぬいぐるみ、プラモデルといった雑貨で占められていることがレポートされ、こうした業態で100店の出店を目ざすという高井会長の言が紹介されている。
 その一方で、CCCは東南アジアで同じく日本のグッズ類、文具、雑貨が売場の50%を占める業態で出店していくとの見解を披露している。

 『出版状況クロニクルⅦ』 で、『日経MJ』とCCCのタイアップ記事を批判してきているが、これも同じ特集だと見なせよう。しかも紀伊国屋が主役の記事のように映るが、明らかにCCCからのリークを受けてのものだと考えざるを得ない。
 日本の現在の出版業界の惨状の中において、このような特集は不毛だと見なすしかない。



4.ブックセラーズ&カンパニーは2月15日メディア向けに進捗状況を説明し、直仕入取引について、三笠書房、スターツ出版、徳間書店、主婦の友社の4社と3月から順次始め、他にも20社以上の出版社と商談を進めていると報告。

 これも『出版状況クロニクルⅦ』 で、紀伊国屋、CCC、日販によるブックセラーズ&カンパニーの立ち上げから出版社などへの「方針説明会」までトレースしてきた。
 23年11月の「方針説明会」は出版社111社が出席したとされているが、それに呼応したのはわずか4社しかないことが自明となった。しかも徳間書店と主婦の友社はCCC傘下にあるはずで、実質的には2社ということになる。
 20社以上の出版社と商談を進めているにしても、「方針説明会」出席出版社の111社のことを考えると、その2割にも及んでいない。
 大手出版社は参加しないと伝えられている。



5.『新文化』(2/1)がカルチュア・エクスペリエンス(CX)の「鎌浦慎一郎新社長に所信と現状を聞く」を掲載している。要約してみる。

CXは「流販一体」をコンセプトに掲げ、全国のTSUTAYAの流通を維持し、この難局を乗り越えるために設立された。
CXは「地域に交流を生む新しい時代の体験型書店」をスローガンにして、TSUTAYAの未来を描き直していく。
TSUTAYAは過去40年、映画、本、音楽、ゲームなど、人々が好きなものを提供してきた。これからも「好き」ということは永遠になくならないし、社のスローガンである「好きが生きる。」やリアル書店ならではの「誰か」という要素などをどう息づかせていくかを追究していく。
TSUTAYAには本、文具、雑貨、レンタル、セルゲーム、トレカなどの複数のアイテムがある。MPD時代は物流を日販、仕入、商流・生産をMPDが担っていた。
本はブックセラーズ&カンパニーの商流に移し、TSUTAYAはFC800店の書店連合という位置づけとなる。CXはFC本部、及び物流機能が一体となった小売業として、送り方の最適解の模索へと踏みこんでいく。
この2、3年は「新しい時代の体験型書店」をつくるタイミングであり、お客様の体験価値と加盟店にとって儲かるモデルを追求し、店舗モデルを作り出すことに注力する。

 そして具体的に「地域に交流を生む新しい時代の体験型書店としてのアイテムが語られ、本、文具、雑貨にトレカが挙げられ、それに地域マーケットに合わせた店舗展開が結びつけられていく。
 それらはゴルフ練習場、ヨガ教室を中心とするフィットネス、韓国食品とコスメを扱う「韓ビニ」、プラモデルをつくるスペース「プラモLABO」などである。

 このような業態が「新しい時代の体験型書店」「加盟店にとって儲かるモデル」となるだろうか。
 それにで見たように、ブックセラーズ&カンパニーの商流もどうなるのかわからないし、「体験型書店」のコアである本の行方も茫洋としている。
 最近、数年ぶりでTSUTAYAのFCである複合型書店を見学してきた。撤退はしていなかったものの、TSUTAYAの看板ロゴはそのままで色褪せ、スポーツジム、古着、ブックオフの業種の店舗に変わっていた。
 この店はTSUTAYAとブックオフが複合化していたのだが、いち早くTSUTAYAのFCから脱退したのであろう。
 このようにTSUTAYAのレンタル事業から離脱した店舗が全国に増殖しているのではないだろうか。それはカルチュア・エクスペリエンスのアイテムとしてもはや映画が挙がっていないことからわかるように、さらに増え続けていくだろう。
 これで『出版状況クロニクルⅦ』の日販の奥村景二社長、CCCの高橋誉則代表権COOに続いて、CXの鎌浦社長という3人のキーパーソンの発言を確認したことになろう。



6.矢野研究所によれば、23年の「オタク」関連主要国内市場は8175億円、前年比6%増とされる。
 そのオタク関連市場の14分野を挙げてみる

1 アメニ
2 同人誌
3 インディーズゲーム
4 プラモデル
5 フィギュア
6 ドール
7 鉄道模型
8 トイガン
9 サバイバルゲーム
10 アイドル
11 プロレス
12 コスプレ衣裳
13 メイドカフェなど
14 音声合成

これらのうちの1のアニメは2750億円、前年比4%増、10のアイドル市場は1900億円、同15%増、2の同人誌は1058億円、同14%増、3のインディーズゲーム市場は242億円、同24%増となっている。

 まったく門外漢の世界だが、このオタク関連市場は『出版状況クロニクルⅦ』 でレポートしておいた、静岡に新店舗をオープンしたホビー販売の駿河屋のアイテムそのものである。
 駿河屋はトーハンや日販とも提携し、日販のNICリテールズと合併会社の設立、三洋堂やジュンク堂でも導入されている。
 本年はオタク関連市場をアイテムとする駿河屋の躍進の年になるのだろうか。いってみれば、の紀伊國屋にしても、のTSUTAYAとCXにしても、駿河屋のアイテムへと接近している構図になるからだ。



7.『キネマ旬報』(2月号増刊)の「ベスト・テン」が発表された。
  日本映画、外国映画の「ベスト・テン」と読者選出のそれら4つを示す。


キネマ旬報 2024年2月増刊 キネマ旬報ベスト・テン発表号 No.1938

■日本映画ベスト・テン
順位キネ旬ベスト・テン読者選出ベスト・テン
作品名監督作品名監督
1せかいのおきく阪本順治Gメン瑠東東一郎
2PERFECT DAYSヴィム・ヴェンダース福田村事件
3ほかげ塚本晋也怪物
4福田村事件森 達也ゴジラ-1.0
5石井裕也
6花腐し荒井晴彦正欲岸 善幸
7怪物是枝裕和愛にイナズマ石井裕也
8ゴジラ-1.0山崎 貴君たちはどう生きるか
9君たちはどう生きるか宮崎 駿市子戸田彬弘
10春画先生塩田明彦BAD LANDS
バッド・ランズ
原田眞人


■外国映画ベスト・テン
順位キネ旬ベストテン読者選出ベストテン
作品名監督作品名監督
1TAR/タートッド・フィールドキラーズ・オブ
・ザ・フラワームーン
2キラーズ・オブ
・ザ・フラワームーン
マーティン・スコセッシTAR/ター
3枯れ葉アキ・カウリスマキフェイブルマンズ
4EO イーオーイエジー・スコリモフスキミッション・イン
・ポッシブル
クリストファー・マッカリー
5フェイブルマンズスティーブン・スピルバーグイニシェリン島の精霊
6イニシェリン島の精霊マーティン・マクドナー枯れ葉
7別れる決心パク・チャヌクバービーグレタ・ガーウィグ
8エンパイア・オブ
・ライト
サム・メンデスエンパイア・オブ
・ライト
9エブリシング・エブリウェア・オール
・アット・ワンス
ダニエル・クワン
ダニエル・シャイナート
トリとロキタジャン=ピエール・ダルデンヌ
リュック・ダルデンヌ
10ウーマン・トーキング
私たちの選択
サラ・ポーリーザ・ホエールダーレン・アロノフスキー

 これは本クロニクルとして初めて掲載するのだが、前回の『フリースタイル』 の「作家主義」によるマンガベストを紹介したことと関連している。
 私などは小説や詩、漫画や映画を「作家主義」というポジションで読み、観てきたわけだが、21世紀に入って、それらのすべてがあわただしく消費される状況を迎えたことで、もはや従来の「作家主義」が成立しなくなったように思われる。
 今回の「ベスト・テン」を挙げてみたのは、「キネ旬ベスト・テン」と「読者選出ベスト・テン」が異なってきたからである。日本映画では 5作、外国映画では 4作が異なり、これは記憶にあるかぎり、近年の現象ではないだろうか。
 かつては順位のちがいはあるにしても、ほとんど重なっていたし、そうした意味において、「キネ旬ベスト・テン」と「読者選出ベスト・テン」の「作家主義」は共通していたことになり、それが映画専門誌『キネマ旬報』の編集者と読者の観ることの共同体を彷彿とさせていた。
 だが趣味の雑誌に象徴されるそのような共同体も失われつつあるし、読み巧者、観巧者という言葉も聞かれなくなって久しい。
 ただ私にしても、お恥ずかしことに日本映画の 4『福田村事件』、外国映画の 7『別れる決心』、9『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』しか観ていないので、語る資格もないわけだが。
フリースタイル58 特集:THE BEST MANGA 2024 このマンガを読め!



8.『ゲオナビ』(1月号)が「2023年ゲオ年間ベストランキング」を発信しているので、こちらも挙げてみる。
 ただ20位まで紹介することもあり、監督名は省略する。その代わりにジャンルは示しておく。


 

■ゲオ年間ベストランキング
順位作品名ジャンル
トップガン マーヴェリック洋画アクション
キングダム2 遥かなる大地へ邦画アクション
ジュラシックワールド/新たなる支配者洋画SF
名探偵コナン ハロウィンの花嫁邦画アニメ
5クレヨンしんちゃん
もののけニンジャ珍風伝
邦画アニメ
6ドラゴンボール超スーパーヒーロー邦画アニメ
7沈黙のパレード邦画サスペンス
8ミニオンズ フィーバー洋画アニメ
9ザ・スーパーマリオブラザース・ムービー洋画アニメ
10死刑にいたる病邦画サスペンス
11ワイルド・スピード/ファイヤーブースト洋画アクション
12ブレット・トレイン洋画アクション
13劇場版 呪術廻戦0邦画アニメ
14ザ・ロストシティ洋画アクション
15極主夫道 ザ・シネマ邦画コメディ
16すずめの戸締まり邦画アニメ
17ブラックアダム洋画SF
18映画『Dr.コトー診療所』邦画ドラマ
19七人の秘書 THE MOVIE邦画サスペンス
20新・エヴァンゲリオン 劇場版
EVANGELION:3.0+1.11
THRICE UPON A TIME
邦画アニメ

 これも前回の『フリースタイル』 の「作家主義」に対する『ダ・ヴィンチ』のコミックベストに相応するものになってしまう。
 残念ながらこちらは1本も観ていないし、それは4、5、6、13、16、20が邦画アニメ、8、9が洋画アニメと、アニメが8本を占めていることにもよっている。
 その事実はゲオだけでなく、TSUTAYAにしても同様だろうし、23年ばかりでなく、レンタル市場はアニメが席巻してきたことを物語っていよう。
 それにしても、「キネ旬ベスト・テン」とは1作もダブっていないことにあらためて驚くし、「ゲオ年間ベストランキング」は同年であっても、まったく異なるアニメを主流とする映画世界が存在することを開示している。
 もちろんかつて「作家主義」映画と娯楽映画のちがいはあったにしても、それはゆるやかな棲み分けであり、トータルな映画世界へのリスペクトに包まれていたように思える。
 おそらくかつての書籍にしても同様だったが、現在は映画と同じパラダイムのうちに置かれているのだろう。



9.『選択』(2月号)が「増え続ける『読書時間ゼロ』の若者――思考力低下で衰退する社会」を掲載している。
 東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の「子供の生活と学びに関する親子調査」「子どものICT利用に関する調査」によれば、「一日の読書時間がゼロの小・中・高生が49.0%と訳反するに達した」とされる。
 スマホ利用が本格化する中高生ほど読書離れが進み、高校三年生では69.8%に及ぶという。


www.sentaku.co.jp

 このレポートは「読書の復活」こそが国家の盛衰を分ける要因だと結ばれているけれど、よく考えてみれば、私たちが小中高生だった1950年代から60年代において、一部を除いて生徒だけでなく、教師もまた本など読んでいなかった。
 その時代は現在と異なり、読書などはほめられる行為ではなく、私などは本ばかり読んでいるとロクなものにならないと教師から説教されたものだ。本当にそうなってしまったので、教師の予想は当たっていたことになる。
 でも小中学生にしても、『鬼滅の刃』の神風的ベストセラーに見られるように、物語とシンクロすれば、必然的に魅せられていくことを忘れるべきではないし、調査数字をそのまま信じるほうが一面的ではないだろうか。
鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックス)



10.東京都豊島区の神谷印刷が事業停止、また同新宿区の音羽印刷が破産。
 前者は1928年創業で負債は3億円、後者は1968年創業で負債は20億円。

 いずれもこの2ヵ月のうちの事業停止と破産で、出版不況とペーバーレス化による紙の流通量の減少が大きく影響しているよう。
 とりわけ顕著なのはコミックで、電子化に伴う既刊書の重版がまったくなくなったと伝えられている。
 かつてシリーズの新刊が出れば、必ず既刊分も重版されるのが常態だったが、それももはや過去のこととなってしまったようだ。



11.旧知の出版人の死が伝えられてきた。
 それは名古屋の出版社風琳堂の福住展人で、中部地方のリトルマガジン『あんかるわ』や『菊屋』の寄稿者たちと連携し、主として文芸書を出していた。

 福住は20年ほど前に名古屋から遠野市に会社を移していたこともあって、21世紀に入ってから会っていなかった。その死は共通の友人から教えられ、知ったことになる。
 記憶に残るのは、彼も鈴木書店に口座を開き、車に自転車を積んで地方営業し、それを自転車営業と称していたこと、及びウェルズの『世界文化史大系』全訳の原稿があるので、それを刊行したいといっていたことで、このふたつのエピソードが懐かしく思い出される。



12.『日本古書通信』(2月号)が特集「能登半島地震、被災地古本屋の声」を組んでいる。

 これは前回の本クロニクルで、『同通信』の折付桂子に依頼したものだが、早速実現し、写真も含めて16店から返信があり、生々しい地震報告となっている。



13.30年ぶりに『新文化』から原稿依頼があり、「出版流通販売の変貌と現在の危機』(2/29)を寄稿している。
 長きにわたる『出版状況クロニクル』のエキスの要約といえるので、読まれてほしいと思う。
www.shinbunka.co.jp


14.論創社HP「本を読む」〈97〉は「水木しげると東考社版『悪魔くん』」です。
ronso.co.jp

 『近代出版史探索Ⅶ』は「古本虫がさまよう」が書評を発信している。
 いつもながら ありがとう。
https://www.honzuki.jp/book/322325/review/301191/

 『出版状況クロニクルⅦ』は3月上旬発売予定。
 『近代出版史探索外伝Ⅱ』は編集中。

 
    

出版状況クロニクル189(2024年1月1日~1月31日)

23年12月の書籍雑誌推定販売金額は887億円で、前年比8.9%減。
書籍は483億円で、同7.5%減。
雑誌は404億円で、同10.0%減。
雑誌の内訳は月刊誌が354億円で、同8.8%減、週刊誌は50億円で、同17.9%減。
返品率は書籍が29.1%、雑誌が40.3%で、月刊誌は38.5%、週刊誌は50.4%。
週刊誌はマイナスと返品率が最悪な状況になっている。
おそらく24年は月刊誌はいうまでもなく、週刊誌の休刊も続出するであろう。


1.出版科学研究所による1996年から2023年にかけての出版物推定販売金額を示す。

■出版物推定販売金額(億円)
書籍雑誌合計
金額前年比(%)金額前年比(%)金額前年比(%)
199610,9314.415,6331.326,5642.6
199710,730▲1.815,6440.126,374▲0.7
199810,100▲5.915,315▲2.125,415▲3.6
1999 9,936▲1.614,672▲4.224,607▲3.2
2000 9,706▲2.314,261▲2.823,966▲2.6
2001 9,456▲2.613,794▲3.323,250▲3.0
2002 9,4900.413,616▲1.323,105▲0.6
2003 9,056▲4.613,222▲2.922,278▲3.6
2004 9,4294.112,998▲1.722,4280.7
2005 9,197▲2.512,767▲1.821,964▲2.1
2006 9,3261.412,200▲4.421,525▲2.0
2007 9,026▲3.211,827▲3.120,853▲3.1
2008 8,878▲1.611,299▲4.520,177▲3.2
2009 8,492▲4.410,864▲3.919,356▲4.1
2010 8,213▲3.310,536▲3.018,748▲3.1
20118,199▲0.29,844▲6.618,042▲3.8
20128,013▲2.39,385▲4.717,398▲3.6
20137,851▲2.08,972▲4.416,823▲3.3
20147,544▲4.08,520▲5.016,065▲4.5
20157,419▲1.77,801▲8.415,220▲5.3
20167,370▲0.77,339▲5.914,709▲3.4
20177,152▲3.06,548▲10.813,701▲6.9
20186,991▲2.35,930▲9.412,921▲5.7
20196,723▲3.85,637▲4.912,360▲4.3
20206,661▲0.95,576▲1.112,237▲1.0
20216,8032.15,276▲5.412,079▲1.3
20226,496▲4.54,795▲9.111,292▲6.5
20236,194▲4.74,417▲7.910,612▲6.0

 23年はかろうじて1兆円を上回ったものの、24年の出版物推定販売金額の困難さを予兆させる数字となってしまった。
 ピーク時の1996年の2兆6564億円とくらべれば、実質的に3分の1の売り上げになってしまったのである・
 そうした出版物売上状況において、出版社はともかく、流通と販売を担う取次と書店は本当に深刻な事態に追いやられている。それは流通と販売自体が恒常的な赤字となっているのではないかと考えられるからだ。



2.『フリースタイル』58 の特集「THE BEST MANGA 2024 このマンガを読め!」が刊行された。
「BEST10」を示す。

フリースタイル58 特集:THE BEST MANGA 2024 このマンガを読め!

■BEST10
順位書名著者出版社
1『神田ごくらく町職人ばなし』坂上暁仁リイド社
2『ぼっち死の館』齋藤なずな小学館
3『東京ヒゴロ』松本大洋小学館
4『龍子 RYUKO』エルド吉永リイド社
5『うみべのストーブ』
大白小蟹短編集
大白小蟹リイド社
6『プリニウス』ヤマザキマリ
とり・みき
新潮社
7『環と周』よしながふみ集英社
8『東東京区区
(ひがしとうきょうまちまち)』
かつしかけいたトゥーヴァージンズ
9『銃声』
OTOMO THE COMPLETE WORKS
大友克洋講談社
10『去年の雪』村岡栄一少年画報社

神田ごくら町職人ばなし 一 (トーチコミックス) ぼっち死の館 (ビッグコミックス) 東京ヒゴロ (3) (ビッグコミックス) 龍子 RYUKO 1 (トーチコミックス) うみべのストーブ 大白小蟹短編集 (トーチコミックス) プリニウス12(完) (バンチコミックス) 環と周 (マーガレットコミックス) 東東京区区 1 (路草コミックス) 銃声 (OTOMO THE COMPLETE WORKS) 去年の雪 (全1巻) (YKコミックス)

 今回は例年と異なり、1,2,3,4,6,10の半分以上を読んでいた。ただの場合、全12巻の途中までしか目を通していないのだが。
 私は論創社のHP「本を読む」の連載で、1960年代から70年代のマンガに言及していることもあり、10の村岡栄一『去年の雪』を推奨したい。これは日本の漫画の青春時代が描かれ、村岡と岡田史子が同志で、村岡を通じてデビューし、彼女の葬儀までが追跡されている。
 残念ながらこの連作を完成させずに病に倒れ、まさに白鳥の歌のような作品となってしまったが、コミック編集者の娘によって送り出されたことは、父娘の連携を物語って感動的だ。
 『フリースタイル』編集・発行人の吉田保はこの特集が「日本で唯一の『作家主義』によるマンガ紹介」で「作家主義ベスト」と見なしてほしいと語っている。私もそれに同感するし、「作家主義」ゆえに『去年の雪』が選ばれたと実感するからである。



3.『ダヴィンチ』(1月号)の「BOOK OF THE YEAR 2023」特集におけるコミックベストを挙げてみる。

ダ・ヴィンチ 2024年1月号

■コミックランキング
順位書名著者出版社
1『違国日記』ヤマシタトモコ祥伝社
2『気になってる人が男じゃなかった』新井すみこKADOKAWA
3『ONE PIECE』尾田栄一郎集英社
4『ツユクサナツコの一生』益田ミリ新潮社
5『【推しの子】』 赤坂アカ
×横槍メンゴ
集英社
6『3月のライオン』羽海野チカ
白泉社
7『女の園の星』和山やま祥伝社
8『名探偵コナン』青山剛昌小学館
9『スキップとローファー』 高松美咲講談社
10『税金で買った本』ずいの:原作
系山冏:漫画
講談社

違国日記(1) (FEEL COMICS swing) 気になってる人が男じゃなかった VOL.1 (KITORA) ONE PIECE 1 (ジャンプコミックス) ツユクサナツコの一生 【推しの子】 1 (ヤングジャンプコミックス) 3月のライオン 1 (ジェッツコミックス)女の園の星 1 (フィールコミックス) 名探偵コナン(1) (少年サンデーコミックス) スキップとローファー(1) (アフタヌーンKC) 税金で買った本(1) (ヤングマガジンコミックス)

 これはの「作家主義」のコンセプトではなく、人気作品、売れ筋リストの色彩が強い。
 「作家主義」とはフランス映画批評タームで、それをコミックに応用すれば、コミックも作家による個人の表現手段、表現物と見なすべきだが、これらのコミックはそれに当てはまるのだろうか。吉田の言を借りれば、「作者のことなんか知らないよ。作品が面白ければいい」というラインナップのようにも思える。
 といって、これも映画の「プログラム・ピクチャー」ということもできない。つまりこれらは「作家主義」も「プログラムコミック」もたやすく超えてしまったコミックの集積といっていいのかもしれない。
 そんなこともあってか、私にしてもだけは読んでいる。



4.同じく『フリースタイル』58 にマンガ雑誌の「2023年4月~6月の平均発行部数」リストが掲載されているので、それも引いてみる。

■2023年4月~6月の平均発行部数
書名出版社部数
週刊少年ジャンプ集英社1,176,667部
週刊少年マガジン講談社370,083部
週刊少年サンデー小学館160,417部
月刊少年マガジン講談社164,333部
月刊コロコロコミック小学館333,333部
週刊ヤングジャンプ集英社274,167部
ヤングマガジン講談社188,667部
ビッグコミックスピリッツ小学館57,833部
ビッグコミックオリジナル小学館265,500部
ビッグコミック小学館163,167部
モーニング講談社90,000部
ビッグコミックスペリオール小学館42,667部
コミック乱リイド社135,703部
グランドジャンプ集英社102,500部
コミック乱ツインズリイド社88,150部
ヤングアニマル白泉社47,600部
アフタヌーン講談社26,633部
ちゃお小学館143,333部

 本クロニクルでも「コミック誌販売部数」をリストアップしてみようと考えていたので、引用転載させてもらった。
 これはいしかわじゅん、中野晴行、伊作利士夫による「マンガ時事放談2024」で示されたものだ。そこでの中野の発言を要約紹介してみよう。
 2024年にはマンガ雑誌、単行本合計で、5047億円、それが23年には紙と電子合計で6770億円、紙だけ見ると、2291億円で、20年前の42%にまで縮小している。かつては発行部数が百万部を超えるマンガ雑誌が7誌あったが、現在では『週刊少年ジャンプ』だけになってしまった。
 あらためてリストを確認すると、『週刊少年マガジン」は37万部、『週刊少年サンデー』は16万部、『ビッグコミック』は16万部であり、雑誌の凋落はマンガ雑誌の衰退に象徴されていることが伝わってくる。



5.『日経新聞』(12/1)が漫画配信アプリ「LINEマンガ」を運営するLINEデジタルフロンティアによる電子漫画の国内流通総額が2023年1月~11月に1000億円を超えたと伝えている。
 LINEデジタルは「LINEマンガ」に加え、「ebookjapan」も運営し、21年は800億円、22年は900億円だったが、ついに1000億円を超えたことになる。そこには「漫画アプリ・サービス利用率」調査も掲載されているので、それも挙げておく。

■漫画アプリ・サービスの利用率
順位サービス名利用率(%)
1LINEマンガ41.9
2ピッコマ37.3
3少年ジャンプ+23.4
4めちゃコミック22.7
5コミックシーモア21.9
6マンガ BANG!16.1
7マガポケ15.5
8ebookjapan14.0
9Ranta!12.3
10マンガワン12.0

 これらの他にも多くあるのだろうし、スマホの「縦読みマンガ」がその流通販売に大きく貢献しているようだ。この「縦読みマンガ」は韓国を発祥とし、今後は日本作品も加えていくとされる。
 私などには無縁の世界だが、このようにして21世紀のコミック世界も変わっていくのだろう。それこそ村岡栄一の物語は『去年の雪』ということになろう。



6.2から5までのマンガ状況に関連して、星野ロミ『漫画村の真相』(KKベストセラーズ)にもふれておくべきだろう。
漫画村の真相 出過ぎた杭は打たれない

 同書は昨年の10月刊行だが、書評を見ていない。それはこの「漫画村」のシステムがよく理解できないことに起因しているのではないだろうか。星野も語っている。
 プラグラマーとして、「他の人がまだ取り入れていないシステムを作るために(中略)漫画村にもいろいろな工夫を施しました。その工夫の全貌を理解している人は、警察にも、検察にも、裁判所にも、有識者にも、もちろん政府にも、一人もいませんでした。説明してもわかってもらえなかったのです。」
 そのシステムとは「リバースプロキシ」というもので、「漫画村のサイトには画像をアップロードせず、よそのサイトでアップロードされた画像に通り道だけを作る技術」であり、「実態としての漫画村はただよそのサイトを表示しているだけ」「第三者のサイトにアップされている画像が合法や違法かは、僕には判断しようがありません」という弁明となる。
 これ以上のことは『漫画村の真相』のコアとしての第5章「司法への復讐」を直接参照してほしい。



7.『新文化』(12/21)が「2023年出版界10大ニュース」5⃣として、4月時点で日書連加盟店は2665店で、前年比138店減少、日本の書店和は8000店台になったのではないかと報じている。

 これらは『出版状況クロニクルⅦ』でも既述しているし、また鳥取の定有堂書店、名古屋の正文館本店、ちくさ正文館の閉店を伝えてきたが、12月には青森の木村書店が96年の歴史を終えるという。さらにこの24年1月には書楽阿佐ヶ谷店、アバンティブックセンター京都店も閉店する。後者はかつて営業で訪れたことを思い出す。24年にさらに多くの閉店が続いていくだろう。
 それは出版物の流通販売において、日販やトーハンの傘下書店だけでなく、かろうじてサバイバルしてきた書店にしても、赤字には耐えられなくなった状況を浮かび上がらせていることになろう。



8.トップカルチャーの連結決算は売上高189億5300万円、前年比9.3%減、営業損失は8億200万円(前年は1億5400万円の損失)、当期純損失は13億7600万円(前年は2億7200万円の損失)で、減収損失の決算。

 トップカルチャーのメインを占める「蔦屋書店事業」売上高は179億6500万円、前年比12.2%減で、「書籍」「特選雑賀」「レンタル」「ゲーム・リサイクル」「販売CD、DVD」のすべてがマイナスとなっている。この事実は「蔦屋書店事業」がもはやビジネスモデルとして成立せず、崩壊の過程にあることを示唆している。
 トップカルチャーは日販からトーハンへの帳合変更に伴うトーハンの筆頭株主化と連携を通じての25年の営業黒字化、26年までに売上高181億円、営業利益4億5000万円を目ざすとされている。そのためには現在58店を数える「蔦屋書店事業」はさらに閉店が続いていくだろう。



9.日本新聞協会の「日刊紙の都道府県別発行部数と普及度調査」によれば、2023年10月の総発行部数は2859万部、前年比7.3%減となり、10年連続の減少、しかも最大幅のマイナスとなった。10年前の13年と比べると、1840万部減ったことになる。

 本クロニクルが繰り返し指摘してきたように、20世紀は戦争と革命の時代であり、同時に書籍、雑誌、新聞の世紀であった。
 だが21世紀は戦争だけが続き、革命は見失われ、出版物と新聞も凋落をたどっている。折しも『選択』(12月号)が、スマホが駆逐した「フォトジャーナリズムの終焉」という記事を発信している。
 本当に私たちはどこへ向かおうとしているのだろうか。
www.sentaku.co.jp



10.「弁護士ドットコムニュース」(1/18)が転売禁止の図書館「除籍本」がメルカリに大量出品されていることを報じている。
 「除籍本」に関しては多くの図書館で転売禁止を謳っていつが、根拠となる法令は存在していないのである。

 『出版状況クロニクルⅦ』の2023年11月のところで、『折口信夫全集』『開高健全集』『小川国夫全集』などの個人全集を始めとして、多くの全集や叢書が除籍本として放出されていることを記したばかりだ。
 蔵書、選書思想を確立することなく肥大化した図書館の当然の帰結といえるであろうし、これからも書籍本は続々と放出され、メルカリがその一大リサイクル市場となっていくかもしれない。だがそのような経路であっても、必ず読者との出会いは生まれるであろうし、それを否定することはできない。



11.伊東市の新図書館建設事業が建築資材や人件費の高騰から競争入札が不調となっていたが、規模を縮小し、再設計すると発表された。

 『出版状況クロニクルⅦ』の2013年8月のところで既述しているが、今度は25年着工をめざすと先送りされたことになる。
 しかし今後の公共図書館の新建築だけでなく、再建築やリプレースは『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』で指摘しておいたように、行政の財政の緊縮化、市民の高齢化と少子化の中にあって、難しいプロジェクトとなっていくのは確実だ。
 伊東市市長は「図書館はその街の文化度を測るうえで、なくてはならない施設であり、ハコモノ行政として批判される公共事業には当たらない」と抗弁しているようだが、果たしてどうなるであろうか。
 



12.親しい古本屋から、数年前に司馬遼太郎の売れ行きがぱったり止まり、今度はついに藤沢周平にも及んでしまったという慨嘆に近い声を聞いた。

 それで図書館の佐伯泰英、風野真知雄、鳥羽亮の3人の時代小説文庫が独立して2本棚展示されていたことを思い出した。 
 そこで図書館の文庫棚をあらためて見てみると、まったく読んだこともない時代小説文庫が大量に並んでいることを発見したのである。
 それらは宇江佐真理、井川香四郎、上田秀人、金子成人、坂岡真、鈴木英治、千野隆司、牧秀彦、稲葉稔、和田はつ子などで、いずれも10冊以上あり、その他にも同様の作家たちが文庫棚を占めていることに気づく。
 これらの事実はもはや司馬遼太郎や藤沢周平の時代が終わり、佐伯、風野、鳥羽を始めとする時代小説文庫作家たちの時代へと移行したことを物語っていよう。



13.能登地震による被害は300書店に及んだと伝えられていたが、『新文化』(1/18)は建物損傷、道路の寸断などで18店が「再開未定」だと伝えている。
 またそのうちの11店は廃業せざるを得ないという被害状況のようだ。

 これは報道されていないが、古本屋のほうはどうだったのであろうか。
 東日本大震災に際しては故佐藤周一が『震災に負けない古書ふみくら』(「出版人に聞く」6)で証言を残しているので、そのリアルな状況を確認できる。
 今回もどなたかが『日本古書通信』に書いてくれないだろうか。そのことを『東北の古本屋』(文学通信)の折付桂子に頼んでみようと思う。
震災に負けない古書ふみくら (出版人に聞く 6)   増補新版 東北の古本屋



14.ハルノ宵子『隆明だもの』(晶文社)を読み、春秋社の編集者だった小関直の死を知った。

隆明だもの

 小関は吉本の『最後の親鸞』を始めとする春秋社の吉本本の編集者であった。
 彼のことは宮下和夫『弓立社という出版思想』(「出版人に聞く」19)にも出てくるし、拙書も読んでくれて、感想を聞かせてもらったことを思い出す。
 たまたま「吉本隆明の出版史」という企画を考えていて、その一冊によって、「出版人に聞く」シリーズを再開しようと思っていた矢先のことだった。
  弓立社という出版思想 (出版人に聞く 19)



15.論創社のHP「本を読む」〈96〉は「佐藤まさあき『劇画私史三十年』」です。
ronso.co.jp

 『新版 図書館逍遥』『近代出版史探索Ⅶ』は発売中。
 『出版状況クロニクルⅦ』は2月下旬発売予定。

新版 図書館逍遙     出版状況クロニクルⅦ

出版状況クロニクル188(2023年12月1日~12月31日)

23年11月の書籍雑誌推定販売金額は865億円で、前年比5.4%減。
書籍は493億円で、同2.9%減。
雑誌は372億円で、同8.5%減。
雑誌の内訳は月刊誌が313億円で、同9.2%減、週刊誌は58億円で、同4.2%減。
返品率は書籍が34.0%、雑誌が42.2%で、月刊誌は41.0%、週刊誌は47.8%。
9、10月は続けて小幅なプラスとなっていたが、11月はマイナスに転じた。
月刊誌は発行部数が前年比20%減であるのが大きく作用しているのだろう。
コミック次第は来年も続いていく。


1.出版科学研究所による23年1月から11月にかけての出版物販売金額を示す。

 

■2023年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2023年
1〜11月
972,436▲5.8571,131▲4.4401,304▲7.6
1月77,673▲9.047,441▲7.030,232▲11.9
2月99,792▲7.663,424▲6.336,368▲9.7
3月137,162▲4.790,558▲4.146,604▲5.7
4月86,595▲12.848,350▲11.638,245▲14.2
5月67,725▲7.736,625▲10.031,101▲4.9
6月79,203▲8.142,019▲4.737,185▲11.7
7月73,860▲0.938,850▲2.235,0100.5
8月71,144▲11.337,820▲10.633,323▲12.0
9月107,8342.666,8735.340,961▲1.6
10月84,8520.449,8202.835,032▲2.9
11月86,595▲5.449,352▲2.937,243▲8.5

 11月までの出版販売金額は9724億円、前年比5.8%減である。
 22年の出版販売金額は1兆1292億円だから、5.8%減を当てはめると、23年は1兆638億円前後となろう。かろうじて1兆円は下回らなかったけれど、広範な定価値上げを含んでのことと見なすべきだろう。
 おそらく24年は1兆円を割りこむところまできている



2.日販の「出版物販売額の実態2023」が出された。
 

■販売ルート別推定出版物販売額2023年度
販売ルート推定販売額
(億円)
前年比
(%)
1. 書店8,157▲2.2
2. CVS933▲20.4
3. インターネット2,8722.3
4. その他取次経由349▲5.9
5. 出版社直販1,708▲3.9
合計14,020▲3.1

 インターネット販売だけは前年と同じくプラスだが、それ以外の4ルートは前年と同じくマイナスである。
 とりわけマイナス幅が大きいのはコンビニルートで、本クロニクル176で示しておいたように、22年の1172億円に対して、20.4%減となり、ついに1000億円を下回ってしまった。
 これも前回の本クロニクルで既述しておいたけれど、1996年はコンビニの出版物販売額のピークで、5571億円だったのであり、何とその6分の1になってしまった。
 日販のコンビニ配送は2015年から赤字とされているが、他ならぬ日販の発行する「出版物販売額」の推移がその事実を語っていることになろう。



3.『週刊東洋経済』(12/2)が特集「CCC平成のエンタメ王が陥った窮地」を組んでいる。
 リードは「TSUTAYAにTポイント、そして蔦屋書店――。カリスマ創業者が率いる「企画会社」はなぜ没落したのか。」
 要約してみる。

週刊東洋経済 2023/12/2特大号(外国人材が来ない!)

ツタヤを運営するCCC系の店舗の18年4月以降の出閉店状況調査によれば、500店弱が純減している。
 都道府県別の純滅数は東京都が70、神奈川県と大阪府がともに44、北海道や福岡県など地方でも2ケタ減となり、閉店は553店に及んでいる。
 それに対し、出店は72だが、純増の都道府県は一つもない。
CCCの利益柱は全国900店のうちのフランチャイズ(FC)店からのロイヤルティ収入、及び2003年から始めた共通ポイント「Tポイント」で稼ぐ手数料の2つで、10年代まではこの両輪が機能し、安定して100億円前後の営業利益を上げてきた。
 しかしコロナ禍の21年3月に68億円の営業赤字に転落し、その後は営業利益10億円前後という低迷ぶりで、2つの利益柱が失速しているのは明白だ。
CCCもレンタルや書店業の市場縮小の岐路を迎え、「蔦屋書店」を中核とする複合型商業施設「代官山T-SITE」をオープンし、銀座や大阪の梅田などにも出店したが、都心型の「蔦屋書店」は出店エリアが限られ、ツタヤほどの店舗規模に至らなかった。
FC本部が提案してきた商材はテコ入れの決め手にならず、コロナ前からFC各店が赤字に転落し、店によっては1店で1000万円の赤字で、レンタルが大赤字となっている。
FCとTポイント事業は標準化されたビジネスモデルを全国の加盟店に横展開し、それを本部側は日々管理、運営するという「事業会社化」したことによって、CCCは企画できない「企画会社」に陥っていた。
22年春に増田宗昭会長は経営を生え抜きの高橋誉則に譲り、Tポイントを三井住友フィナンシャルグループのVポイントに統合する。またもう1つの柱であるFC事業をカルチュア・エクスペリエンス(CX)に移管する。
これらは「決死のグループ解体」とされ、「待ったなしの組織・人事制度改革が至上命令」と結ばれている。

 8ページに及ぶ特集はCCCの現在の「没落」の状況を浮かび上がらせ、今後の行方を問うていることになろう。だがこのような特集も本クロニクルを抜きにしては成立しなかったと思われる。
 またこの特集には「CCCの業績推移」「閉店ドミノ」「大胆なグループ解体」チャートが付され、さらに「CCC高橋社長」へのインタビュー、「さらばTポイント栄華と没落の20年」「カリスマ創業者増田宗昭の知られざる素顔」という2本の記事も添えられている。
 このような状況を背景として、前回のクロニクルにおける日販のコンビニ配送からの撤退、紀伊國屋書店、CCC、日販の新会社ブックセラーズ&カンパニーが設立されたことはいうまでもないだろう。



4.3の『東洋経済』本誌の特集に続いて、「東洋経済オンライン」(12/15)が「赤字、リストラ、コンビニ撤退『本の物流王』の岐路――業界を騒がせた取次大手『日販』の幹部に聞く」、「同」(12/19)が「書店のドン『紀伊國屋』がTSUTAYAと組んだ裏側――紀伊國屋会長に合弁会社設立の狙いを直撃」という2本のインタビューを発信している。
赤字、リストラ、コンビニ撤退「本の物流王」の岐路 業界を騒がせた取次大手「日販」の幹部に聞く | メディア業界 | 東洋経済オンライン
書店のドン「紀伊國屋」がTSUTAYAと組んだ裏側 紀伊國屋会長に合弁会社設立の狙いを直撃 | メディア業界 | 東洋経済オンライン

 前者の日販の奥村景二社長インタビューは前回の本クロニクルで、他紙インタビューを要約している。だからそこで語られていなかったことを挙げてみれば、10月に早期退職支援発表、CCCからCXへの出向者500人の増加、日本一の文具卸になるという発言であろう。
 後者の紀伊國屋の高井昌史会長の発言も抽出してみる。ブックセラーズ設立のきっかけはCCCの増田会長と高橋社長の提案で、キーワードは「書店からの業界改革」である。お客に最も近く、理解している「川下の書店から改革」することで一致した。それは「うちとTSUTAYAは十分お金持だ」ということにもよっているし、大手出版社4社も協力の意思を示している。またCCCにも「もう少し本を売らなきゃ。本屋に徹しないとだめだよ」といっている。
 さらなる詳細は「同オンライン」を確認してほしいが、「本の物流王」と「書店のドン」の発言において、現在の出版危機状況を直視した明確な取次と書店ヴィジョンが語られているとは思えない。
 日販とCCCとMPDはレンタルとFCで街の中小書店を閉店に追いやり、今度はコンビニを切り捨て、紀伊國屋を引きこみ、CCCをサバイバルさせるという構図が明らかであるにもかかわらず。
 それは本クロニクルだけの見解ではないはずだ。


5.『新文化』(12/14)が「コンビニ流通引継ぎの経緯と真意」の大見出しで、「トーハン・田仲幹弘副社長に聞く」を掲載している。
 それも抽出要約してみる。

これは業界全体に関わる、とても重要な問題であり、これまでの経緯と出版輸送の現実、その価値を正しく伝えたい。
始まりは今年の1月27日に日販の奥村社長が1人でトーハンに来社し、近藤社長に「24年2月にコンビニ2社の流通をやめることを役員会で決めた」と言われたことです。
しかし2月15日に両社長は話し合いの場をもち、業界全体への影響があまりにも大きいので、「日販がコンビニ2社の流通を継続できるよう一緒に考えよう。再考してほしい」と呼びかけた。
3月下旬に日販は役員会において、撤退期日を1年延長し、25年2月に変更すると決定し、コンビニ2社に通告したが、5月連休明けに日販から取引継続のための条件交渉の申し入れがあったようだ。
それもあって、コンビニ2社から雑誌販売は続けたいので、トーハンとの取引の問い合わせが入り、そこで初めて取引を検討したが、トーハンの場合、配送センターの都合により、25年7月からしか受けられないと伝えた。
一番心配したのはコンビニ2社が雑誌販売を止めることで、もしそれらの雑誌棚が撤去されれば、「共用配送」の仕組みが壊れてしまし、雑誌出版社と雑誌文化の危機ともなってしまう。
だが日販は9月上旬にコンビニ2社に対し、25年2月でやめると正式に通達したので、2社はトーハンに正式に取引を依頼したこともあり、現在協議している。
「空白の4カ月」の対応は商取引に関して、25年3月からトーハンに移行するが、仕入・配本・物流は日販が代行し、トーハンの配送分を段階的に増やし、清算はトーハンが行い、日販への業務代行実費も負担するというスキームだ。
 だが赤字のコンビニルートをそのままのかたちで引き継ぐことはできないので、コンビニ2社との条件交渉、出版社の協力も必要である。
書店1万店の輸送網は6万店のコンビニルートによって成立しているし、コンビニ流通を守ることは書店配達を維持することと直結する。日販の決定は多くの企業に巨額の費用を発生させ、不安定化リスクをもたらすといわざるをえない。
今回のことを機に、出版社、書店にも出版配送網インフラが貴重なインフラであることを知ってほしいし、決められた日と時間に、極めて低コストで全国販売拠点へ共同配送できる輸送網を持つのはこの出版業界以外にはない。
他産業では流通コストを流通側、小売側が販売価格に転嫁するが、再販制度下にあるこの業界では出版社にしか価格決定権がない。本の原価には書店マージン、流通コストなども含まれているはずなのに賄いきれておらず、原価率を変えるか、改革販売を見直すしかない。

 取次の流通現場から、ここまで率直で真摯な言葉が発せられたことは初めてのように思われるので、長い引用紹介になってしまった。
 ここで再販委託制の実質的な崩壊が出版流通の只中にも及んでいることを確認したことになるが、で見たように、コンビニ売上もまだ下げ止まりではない。トーハンが代行したとしても、問題が解決されたわけではないのだ。



6.『朝日新聞』(12/7)の「声」欄に、「無職 市橋栄一(東京都70)」という人の「新しい書店像 再販制度見直しを」の投書が掲載されていた。

 2010年までは新聞業界もまた「再販制」護持一辺倒で、このような見出しの投書が掲載されることなどありえなかった。それもあって、長きにわたって再販制を批判してきた『出版状況クロニクル』シリーズはまったく書評されてこなかったし、紹介もなされていなかった。
 しかしで見たように、その危機は出版流通の現場にも及んでいるし、それは新聞業界も例外ではないのだ。
 市橋とは面識がないので、中村文孝に確認したところ、紀伊國屋書店のニューヨーク支店長で、以前から再販制を批判していたとのことだった。
 それゆえにここで「再販委託性の見直し」による「書店文化」のサバイバルが提起されていることになろう。



7.トーハン26社の中間決算は連結売上高1898億円、前年比0.9%減、営業損失1億9700万円(前年は7億4300万円の損失)。
 単体売上高は1742億円、営業損失7億3500万円(前年は9億6100万円の損失)。
 連結、単体とも営業損失を計上したが、東京ロジスティックスセンターの売却益31億円を特別利益として計上し、最終利益は連結・単体で増益。


8.日販GHD38社の中間決算は連結売上高2048億円、前年比6.8%減、営業損失13億8800万円(前年は1億400万円の損失)、中間純損失11億5000万円(前年は11億7800万円の利益)。
 日販単体の売上高は1607億円、前年比168億円減。
 営業損失18億9800万円(前年は6億2600万円の損失)、中間純損失13億8100万円(前年は5億8400万円の損失)。
 書店ルート減収分は191億円。


9.日教販の決算は売上高280億2660万円、前年比4.3%増。当期純利益は2億1970万円、同23.4%減。
その内訳は書籍193億8300万円、同4.4%増、「教科書」76億3200万円、同5.3%増。
学参、辞書、教科書は高校教科書の改訂に伴う定価アップ、採択数の増加など順調に推移し、返品率は10.2%。

 取次3社の決算を挙げてみた。
 トーハン、日販はいずれも実質的赤字で、取次と書店の赤字は下半期にさらにふくらむであろう。
 日教販は採用物の教科書、辞書、学参を中心とする専門取次の健全性を伝え、低返品率こそが取次の生命線であることを示している。ただ各都道府県の教科書会社の実態はどうなっているのだろうか。



10.紀伊國屋書店の連結決算は売上高1306億787万円、前年比8%増。営業利益36億6621万円、同48.2%増、当期純利益31億7919万円、同56.5%増の3年連続の増収増益で、過去最高の売上高、利益。
 その内訳は「店売本部」432億8832万円、同0.4%増、「営業本部」531億4435万円、同6.4%増、「海外事業」296億5263万円、同26.7%増。


11. 有隣堂の決算は売上高520億1501万円、前年比0.4%減。営業利益2億3897万円、同61.1%減、当期純損失1256万円(前年は3億1345億円の利益)で、減収損失の決算。

 紀伊國屋の決算の過去最高の売上高と利益は連結の「海外事情」の好調さによっていることは歴然で、国内事業においては有隣堂と変わらない状況にあると見なせるであろう。
 取次にしても、書店にしても、24年度が正念場となろう。



12.ノセ事務所から、帝国データバンクに基づく「出版社の実績」が届いた。
 これは569社に及ぶ2013年から22年にかけてのデータの集積だが、ここでは22年の上位20社の売上高と純利益を抽出し、挙げてみる。

 

■出版社の実績販売ルート   (単位:百万円)
順位出版社2022年純利益
1集英社209,48415,919
2講談社169,40014,900
3KADOKAWA129,8838,060
4小学館108,47161,620
5日経BP38,90025,520
6宝島社30,345-4,230
7東京書籍24,95190
8ぎょうせい21,5604,410
9文藝春秋19,477-522
10光文社17,900-493
11双葉社16,5991,284
12新潮社16,0000
13ハースト婦人画報社15,7501,551
14Gakken15,500-85
15岩波書店14,80087
16新学社14,412212
17ダイヤモンド社13,425747
18NHK出版 13,424368
19白泉社13,3810
20数研出版12,400750


毎年感心するのは宝島社の躍進で、文藝春秋や新潮社を凌駕していることだ。
 1970年代にJICC出版局として始まり、『月刊宝島」を刊行していた小出版社が、90年代における「別冊宝島」の多種多量の発行を経て、大手雑誌出版社へと変貌していったことが重なって想起される。だが22年は赤字なのが気になる。
 創業者の蓮実清一と石井慎二は『週刊現代」の元取材記者で、その事実は井家上隆幸『三一新書の時代』(「出版人に聞く」16)に語られているが、折しも蓮実の80歳の死が伝えられてきたばかりだ。    
三一新書の時代 (出版人に聞く 16)      



13.日販、トーハンの2023年ベストセラーが出された。



■日本出版販売・トーハン 2023年 年間ベストセラー(総合)
順位書名著者出版社本体(円)
日販トーハン
12小学生がたった1日で19×19まで
かんぺきに暗算出来る本
小杉拓也ダイヤモンド社1,000
21大ピンチずかん鈴木のりたけ小学館1,500
34変な家雨穴飛鳥新社1,273
47変な絵雨穴双葉社1,400
55街とその不確かな壁村上春樹新潮社2,700
63汝、星のごとく凪良ゆう講談社1,600
79キレイはこれでつくれますMEGUMIダイヤモンド社1,500
88ポケットモンスタースカーレット
・バイオレット公式ガイドブック 完全ストーリー攻略
元宮秀介
ワンナップほか
オーバーラップ1,400
9パンどろぼう柴田ケイコKADOKAWA1,300
106地獄の法大川隆法幸福の科学出版2,000
1111日本史を暴く磯田道史中央公論新社840
1212TOEIC L&R TEST 出る単特急
金のフレーズ
TEX加藤朝日新聞出版890
1313頭のいい人が話す前に考えていること安達裕哉ダイヤモンド社1,500
1416人は話方が9割永松茂久すばる舎1,400
15パンどろぼう おにぎりぼうやの
たびだち
柴田ケイコKADOKAWA1,300
1620やる気1%ごはん テキトーでも
美味しくつくれる悶絶レシピ500
まるみキッチンKADOKAWA1,540
17パンどろぼうとほっかほっカー柴田ケイコKADOKAWA1,300
1820代で得た知見FKADOKAWA1,300
1917くもをさがす西加奈子河出書房新社1,400
20バカと無知橘玲新潮社880
10パンどろぼう
パンどろぼうVSにせパンどろぼう
パンどろぼうとなぞのフランスパン
パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち
パンどろぼうとほっかほっカー
柴田ケイコKADOKAWA各1,300
14安倍晋三 回顧録安倍晋三
橋本五郎、尾山宏ほか
中央公論新社1,800
15ポケットモンスタースカーレット
・バイオレット公式ガイドブックパルデア図鑑完成ガイド
元宮秀介
ワンナップほか
オーバーラップ1,600
18898ぴきせいぞろい!ポケモン
大図鑑上・下
小学館各1,000
19成熟スイッチ林真理子講談社840
(集計期間:2022年11月22日~2023年11月21日)

小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本 大ピンチずかん 変な家

 本クロニクル176で「紅白歌合戦」のようなものとして、22年のベストセラーを掲載したが、学参の『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算ができる本』が日販の1位、トーハンの2位に躍り出るとは予想もしていなかった。
 私も長きにわたって戦後出版史と関連し、ベストセラー表にも目を通してきたけれど、純然たる小学生用学参がベストセラーの首位を占めたことはなかったのである。 
 前世紀までのベストセラーは小説、話題の書、トレンド本などが多く、どちらかといえば、無用の書に分類でき、忘れ去られる宿命を帯びていた。
 ところが23年は有用で役立つ小学生のための学参にとって代わられたことになる。
 前代未聞の出来事のように思えるし、出版業界そのものがまったく変わってしまったことも象徴しているのではないだろうか。



14.新宿書房の村山恒夫より、この10月で閉業の知らせが届いた。
 半世紀の間に刊行した480冊のうちの120タイトルは鎌倉の出版社「港の人」が引き継ぎ、「SS文庫」として販売を担うという。

 村山の叔父の映画監督である村山新治のDVD、梅宮辰夫主演『夜の悪女』『赤い夜光虫』『夜の手配師』(東映)を購入したばかりのところに、この知らせが届いた。
 今度、村山と会える機会があれば、出版ではなく映画の話をしようと思う。



15.山田太一 89歳、三木卓 88歳、西木正明 83歳の死が伝えられてきた。

 山田に関しては『岸辺のアルバム』論として、「『浮気』とホームドラマ」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)を書き、三木とはある文学賞の審査をともにしていたことがあった。また三木のことは、井出彰『書評紙と共に歩んだ五〇年』(「出版人に聞く」9)でも、日本読書新聞時代が語られている。
 西木はみすず書房の『現代史資料』を使いこなした現代史をテーマとする作家だが、その人脈の背景に山口健二の存在があったように思えてならない。デビュー作『オホーツク諜報船』(角川書店)はそれを示しているし、山口のことは宮下和夫『弓立社という出版思想』(「出版人に聞く」19)を参照してほしい。

 郊外の果てへの旅/混住社会論  書評紙と共に歩んだ五〇年 (出版人に聞く 9)     オホーツク諜報船 (角川文庫 緑 628-1)  弓立社という出版思想 (出版人に聞く 19)



16.論創社HP「本を読む」〈95〉は「東京トップ社、熊藤男、つげ義春『流刑人別帳』」です。 
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 『新版図書館逍遥』は発売中。
  新版 図書館逍遙
 『近代出版史探索Ⅶ』は1月発売予定。
   
 『出版状況クロニクルⅦ』は2月発売予定。
 『近代出版史探索外伝Ⅱ』と中村文孝との対談『自治会、宗教、地方史』は編集中です。
 24年はその他にも何本か予定しています。

出版状況クロニクル187(2023年11月1日~11月30日)

23年10月の書籍雑誌推定販売金額は848億円で、前年比0.4%増。
書籍は498億円で、同2.8%増。
雑誌は350億円で、同2.9%減。
雑誌の内訳は月刊誌が295億円で、0.2%減、週刊誌は54億円で、15.6%減。
返品率は書籍が33.8%、雑誌が44.9%で、月刊誌は43.7%、週刊誌は50.4%。
週刊誌の月次の50%超えは初めてだ。
書籍は9月期に続いて、返品が減少し、推定販売金額も2ヵ月連続のプラスとなった。
それは新刊と出回りの書籍の2.7%、5.1%増の平均価格の値上がりにもよっている。
だが書店店頭売上は厳しく、書籍は6%減、文庫は9%減、ビジネス書は3%減、実用書は2%減、児童書13%減で、文芸書は5%増となっているが、これは初版30万部の『続 窓ぎわのトットちゃん』(講談社)の刊行に負っている。
雑誌は定期誌10%減、ムック4%減、コミックスも『呪術廻戦』『SPY×FAMILY』(いずれも集英社)などのヒット作はあっても8%減となっている。

続 窓ぎわのトットちゃん  呪術廻戦 24 (ジャンプコミックス)  SPY×FAMILY 12 (ジャンプコミックス)


1.日販のコンビニ配送からの撤退をめぐって、『文化通信』(11/14)と『新文化』(11/16)が日販の奥村景二社長にインタビューしているので、要約してみる。

日販のコンビニルート収益は2015年から赤字になっていた。15年度の営業損失額は5億円で、その後8年連続で赤字幅は増え続け、22年度は売上高317億円に対して、営業損失は32億円である。
18年からコンビニ各社との話し合いを始め、運賃の一部の負担をお願いしたが、それでも売上減少、返品増、運賃値上げを止めることはできなかった。
日販の運賃130億円のうちコンビニは60億円を占め、高止まりしたままで、23年度は売上高280億円、営業損失は40億円となるだろう。
 このまま継承していくと、日販全体の収益への大きな影響だけでなく、安定した書店流通もできなくなる恐れがあり、それは避けなければならないので、あえて決断した。
当初は24年2月末でシミュレーションしていたが、コンビニチェーンとの協議を重ねる中で、1年延長し、25年2月末日という結論になった。
ファミリーマートとローソンはトーハンが引き継いでくれることを確認しているし、「ローソン マチの本屋さん」9店舗は今後も継続していく。
コンビニとブックセラーズ&カンパニーの設立によって、日販の売上高は減るが、後者の場合、物流を担うことで手数料を得ることになり、収益面では貢献してくれるはずだ。

 しかしファミリーマートとローソンからの撤退は24年2月から1年先送りされたことで、さらに50億円近い大きな営業損失をこうむることになろう。
 それに現在の出版状況を考えれば、これからの1年において、何が起きるかわからないところまできている。それはトーハンにしても同様であろう。
 2007年の『出版業界の危機と社会構造』において、1992年から2005年にかけてのコンビニの出版物販売推移を示し、ピーク時の96年は5571億円で、そのシェアが全出版物売上の21%に及んでいたことを示しておいた。そんな時代もあったのだ。
 ところがこれも本クロニクル176で見たように、2022年は1172億円で、5分の1になってしまったのである。このようなコンビニの雑誌売上の凋落を受け、日販もその配送は15年から営業損失となり、今回の事態に追いやられたのである。



2.紀伊國屋書店、CCC、日販が設立した新会社ブックセラーズ&カンパニー(BS&Co.)が11月2日に「方針説明会」を開いた。
 出版社211社や関係者330人が出席し、こちらも『新文化』(11/9)、『新文化』(11/14)がレポートしているので、これも要約してみる。

その「直取引ビジネスモデル」は出版社の全銘柄を包括する「販売コミットモデル」、ロングセラー銘柄やシリーズを低正味で完全買切する「返品ゼロモデル」の2種である。
それは紀伊國屋の「商品知識」「目利き力」、CCCの「AI需要予測」「チェーンオペレーション」、NIC傘下の日販グループ3書店法人の「運営スキル」などを活用し、出版社と適正仕入数と取引条件を決める。
新刊の初回仕入数はすべて指定できるようにし、重版時に優先出荷を契約出版社に求める。
 棚在庫は自動発注し、BS&Co.に参加する1000店の書店員、バイヤーを通じ、拡売銘柄や復刊企画を提案し、売り伸ばしていく。
「販売コミットモデル」はこれらを前提として、「売上拡大インセンティブ」「返品歩安入帳」を組みいれる。BS&Co.が出版社に返品する際にはペナルティとして仕入れ正味より低正味で返品する仕組みで、物流と清算は日販に委託し、流通コストは参加書店が負担する。
「返品ゼロモデル」は完全買切で、出版社と売買契約を結ぶもの。大型店舗では面出陳列などで優先して展開。
 こちらの物流はカルチュア・エクスペリエンス(CX=旧MPD)の厚木センターが傘下書店に送品し、流通コストは参加書店が負担し、商品代金はBS&Co.が出版社に直接支払う。

 まだ「方針説明」は続いていくのだが、ここで止める。これだけで十分だろう。
 BS&Co.は来年1月にこれらのスキームに関して出版社数社とトライアルを始め、4月に本格稼働し、「販売コミットモデル」を書籍の20%、26年春には50%、「返品ゼロモデル」で同10%とし、残りの40%をこれまで通りの委託とする計画だとされる。
 しかし本クロニクルが繰り返しトレースしてきたように、紀伊國屋は書籍販売をメインとする書店であることに対し、CCC傘下のFC書店と日販グループ書店は雑誌とレンタルをコアとする複合店であり、いうなればDNAはもちろんのこと、出自も性格も家風もまったく異なり、日販を仲人とする政略結婚のような印象が拭い切れない。
 それにと同じく、26年春までは長く、何が起きるかわからない出版状況に置かれているし、早期の破談や婚約解消も考えておくべきだろう。私はかつて「新宿・紀伊國屋書店」(『書店の近代』所収)を書き、オマージュを捧げているので、あえて言及してみた。
書店の近代―本が輝いていた時代 (平凡社新書)



3.取協と雑協は日書連と協議し、「完全土曜休配(輸送会社の集荷作業なし)」を23年度より12日多くすることで、2024年度から完全土曜休配は37日となった。

 『出版状況クロニクルⅥ』でも東京都トラック協会が抱える問題などをトレースしてきているが、37日の休配は差し迫った運送業界の「2024年問題」へのひとつの対応ということになろう。これは4月から配送会社ドライバーの労働時間が年間960時間に制限されることをさしている。
 それにのコンビニ配送問題と密接にリンクしているし、雑誌に相乗りするかたちで、書籍も流通配本されてきた事実を直視すべきところまできている。



4.「新文化」通信編『出版流通データブック2023』(10/26)が出されたので、その「出店ファイル2022年」の200坪以上の23店を挙げておく。
 

■出店ファイル2022年200坪以上店
店 名所在地売場総面積(坪)帳合
コーチャンフォー つくば店茨城県2000日 販
蔦屋書店 佐久平店長野県900日 販
ブックエースツタヤ イオンタウン水戸南店茨城県625日 販
ツタヤブックストア AIZU福島県520日 販
ツタヤブックストア 印西ビッグホップ千葉県500日 販
ツタヤブックストア イオンモール土岐岐阜県495日 販
ツタヤブックストア 金沢エムザ石川県460日 販
ツタヤブックストア ららぽーと堺大阪府417日 販
ゲオ 姶良店鹿児島県403トーハン
丸善 豊田T-FACE店愛知県371トーハン
ゲオ アーバンモール新宮中央店福岡県371トーハン
有隣堂 ニッケコルトンプラザ店 千葉県350日 販
ゲオ イオンタウン荒尾店熊本県350トーハン
ツタヤブックストア MARUNOUCHI東京都329日 販
宮脇書店 伊勢ララパーク店 三重県320トーハン
ツタヤブックストア APIT京都四条京都府290日 販
ツタヤブックストア 亀戸東京都270日 販
TSUTAYA 甲府昭和店山梨県250日 販
くまざわ書店 富山マルート店富山県240トーハン
くまざわ書店 北砂店東京都234トーハン
紀伊國屋書店 あらおシティモール店熊本県215トーハン
ツタヤブックストア恵比寿ガーデンプレイス東京都211日 販
ちえなみき福井県200トーハン

 これに10月以降の有隣堂の神戸阪急店(80坪)、ブックエースのTSUTAYAデイズタウンつくば(700坪)、京都蔦屋書店(683坪)が続いている。
 だが22年は本クロニクル177で示しておいたように、300坪以上の出店が24店会ったことに比べると、出店にしても坪数にしても、明らかな後退シーンを見せつけている。
 23年の出店にしても、蔦屋書店、ツタヤ、TSUTAYAだけで、半分以上の12店に及び、22年よりも出店集中が続き、尋常ではない。
 それにこのような新規FC店に2の「販売コミットモデル」や「返品ゼロモデル」を導入することが可能かという疑問へとつながっていく。「直取引ビジネスモデル」とはFCのチェーンオペレーションシステムとまったく相反するものに他ならないからだ。



5.『季刊出版指標』(2023年秋号)が「データから見る読者と読書環境の変化1977~2022年」を特集している。
 そのうちの「一世帯当たりの年間品目別支出金額〈雑誌・書籍〉」を平均年齢のみにして示す。


季刊 出版指標2023年秋号
 

■一世帯当たりの年間品目別支出金額〈雑誌・書籍〉 単位:円
雑誌書籍
20005,38610,900
20015,43410,288
20025,00810,642
20034,76410,104
20045,01010,458
20055,04010,324
20064,6759,870
20074,4349,462
20084,4899,659
20094,6179,216
20104,4609,163
20114,3338,772
20123,9858,556
20133,9538,341
20143,6848,281
20153,3958,120
20163,3517,557
20173,1507,478
20183,0337,527
20192,9647,807
20202,7568,466
20212,8118,747
20222,5267,738
00年比(%)46.971.0

 今世紀に入っての雑誌の凋落が一世帯当たりの消費支出にも露わである。2000年の5386円に対して、22年は2526円と46.9%になり、まさに半減してしまっている。
 しかもこれは平均であり、20代の場合は2000年7916円に対し、22年は959円、30代は7740円に対し、2154円となり、かつての雑誌のコア読者層の雑誌離れが歴然となっている。
 とりわけ20代は半減どころか、90%近いマイナスで、10代の場合のデータは示されていないけれど、同様ではないかと推測できよう。
 とすれば、雑誌の凋落は下げ止まりでなく、まだ続いていくことは必至であろう。
 書籍のほうは雑誌ほどではないにしても、ここでの金額はコミックス(単行本)と古本も含まれていることに留意すべきだ。



6.『朝日新聞](11/1)のオピニオン&フォーラムの耕論「本と書店 生き残りは」において、幻冬舎社長の見城徹が次のように語っている。

  「幻冬舎を創業して30年になりますが、今の出版状況は最悪だと思います。(…)ベストセラー本の売れ行きがこの4年で4分の1ぐらいに落ちた気がするんですよ。(…)映画化やドラマ化されればこれくらいは売れるという経験則が全く通用しなくなってしまった。(…)特に小説やエッセーが主体の文庫本は壊滅的です。」

 実際に幻冬舎文庫を創刊し、現在も刊行している見城の言であるゆえに、ひときわリアルである。文庫出版社の社長がここまで語ったことはなかったし、それは幻冬舎文庫のみならず、他の文庫にしても同じ状況にあると思われる。
 初版部数の信じられない落ちこみ、重版はなされず、初版のまま消えていく文庫の場合、もはや文庫は必然的なアイテムとしてのロングセラー銘柄ではなくなってしまった。おそらく新書も同様のプロセスをたどっているはずだ。
 その次に控えているのは文庫や新書の廃刊ということになろう。



7.市立図書館で、『筑摩世界文学大系』、吉川弘文館「人物叢書」、三一書房『現代短歌大系』に加えて、小沢書店『小川国夫全集』、新潮社『川端康成全集』『開高健全集』、岩波書店『幸田文全集』、中央公論社『折口信夫全集』が除籍書籍として放出されていた。


筑摩世界文学大系 71 イェイツ  藤原頼長 (人物叢書 新装版)   小川国夫全集 第6巻 若潮の頃/逸民  川端康成全集 全35巻セット  開高健全集〈第1巻〉  
幸田文全集〈第4巻〉さゞなみの日記・包む 折口信夫全集 (13) 新古今前後・世々の歌びと 和歌史 1

 これにはさすがに驚いた。箱のない全集類の放出は裸で捨てられたような感があったからだ。それに小川国夫は郷土作家であるし、全集はこれしかないし、今後新たに全集が出版されることはまずないだろう。
 小沢書店の故長谷川郁夫が、岩波書店からの全集刊行が決まっていたにもかかわらず、小川国夫に懇願し、ようやく小沢書店から出版を実現させたエピソードを知っているので、本当に考えさせられてしまった。だが情けないことに、私などにしても、もはやそれらを持ち帰る余裕がないのである。
 これらの全集類は貸出がほとんどないために機械的に除籍処分となったのであろう。しかも市民へのリユース名目によってで、これからもそうした除籍放出は続いていくだろうし、それは全国の公共図書館でも起きていると見なすしかない。もはや公共図書館は蔵書思想をまったく失い、無料貸本屋的に機能していく道をたどっていくのであろう。



8.『日本経済新聞](11/10)が「韓国漫画アプリ 日本が主戦場」との大見出しで、「ネイバーとカカオ首位争い」を報じている。リードを引いてみる。
 
「韓国ネット2強のネイバーとカカオが漫画配信プラットフォームで陣取り合戦を繰り広げている。主戦場は最大市場の日本だ。ネイバー系の「LINEマンガ」とカカオの「ピッコマ」が読者と作家を奪い合う。韓国事業は成長余地が限られ、日本を突破口として世界市場で稼ぐビジネスモデルを模索する。」

 日本の漫画配信アプリ利用動向は「縦読み」の「LINEマンガ」が首位の33%、「ピッコマ」が2位30%、帝人子会社のインフォコムが手がける「めちゃコミック」が3位の12%で、韓国企業が大きく引き離している。
 漫画配信アプリは小学館や集英社なども力を入れているが、数千万単位の利用者を抱える「LINEマンガ」や「ピッコマ」に後れを取っている。

 日本の漫画配信アプリ利用動向は「縦読み」の「LINEマンガ」が首位の33%、「ピッコマ」が2位30%、帝人子会社のインフォコムが手がける。
 「めちゃコミック」が3位の12%で、韓国企業が大きく引き離している。
 漫画配信アプリは小学館や集英社なども力を入れているが、数千万単位の利用者を抱える「LINEマンガ」や「ピッコマ」に後れを取っている。

 電車に乗ると、雑誌や本を読んでいる人はほとんどおらず、スマホを見ている光景が定着して、すでに久しい。
 かつては『週刊少年ジャンプ』を始めとするコミック誌を読んでいた小中学生たちももはや見当たらず、きっと「LINEマンガ」や「ピッコマ」へと移ってしまったのであろう。そしてこの流れは元へと戻らないことも確実だ。
 双葉社の『月刊まんがタウン』の休刊が伝えられてきた。
月刊まんがタウン 2024年 01 月号 [雑誌]



9.文教堂GHDの連結決算は売上高154億7000万円、前年比6.2%減、営業利益は7300万円、同40.2%増、経常利益は9700万円、同28.7%増、当期純利益は9600万円、同32.0%増。

『出版状況クロニクルⅥ』で既述しておいたように、文教堂GHDは19年の事業再生ADR手続きで同意を得た事業再生計画に基づく返品率減少、文具販売の強化、不採算店舗の閉鎖などの事業構造改革を進めてきたとされる。
 その結果、負債合計は86億4700万円で、前年に比べ3億800万円減少し、純資産が9600万円増加し、当期純利益を計上したことになる。
 しかし株式市場において、株価は40円から35円までじりじりと下がり、上場株とは思えないほどの売買低迷が続いているように見受けられる。いずれにしても、売上高が伸びることは期待できないし、今後どうなるのか。



10.『創』(12月号)が特集「街の書店が消えてゆく」を組んでいる。

創 (つくる) 2023年 12月号

 近年の『創』の恒例の出版業界特集は床屋談義を超えるものではなく、ほとんど取り上げてこなかった。だが今回はレポートとして、元『新文化』の石橋毅史や長岡義幸を招聘し、書店にスポットをしぼったことで、現在の書店の率直な肉声を伝えていよう。
 とりわけ往来堂書店の笈入建志社長の語る売上、客数、資金繰りの実際は、街の書店の等身大の姿を浮かび上がらせているように思う。
 またちくさ正文館の古田一晴へのインタビューも掲載され、それに加え、11月17日には日本出版クラブで、古田を囲む会が開かれ、50人以上に及ぶ人文書関係者が集まり盛会だったという。私は都合がつかず出席できなかったが、何よりであり、古田こそは仕入れと販売に関して「スリップ一代」の店長をまっとうしたというオマージュを捧げておきたい。
 古田の『名古屋とちくさ正文館』(「出版人に聞く」11)は重版出来、在庫あり。
名古屋とちくさ正文館―出版人に聞く〈11〉 (出版人に聞く 11)



11.元三月書房の宍戸立夫から「のんきに楽しく暮しています」の便りとともに、歌誌『塔』(2023・7)を恵送された。

 それは同誌が特集「田村雅之さんに聞く」を組んでいたからである。
 田村は本クロニクル175でふれた廃業した国文社の編集長で、後に砂子屋書房を立ち上げていて、特集は両社の詳細に及び、知らなかった事実を教えてくれる。ちなみに一緒に砂子屋書房を設立した粟屋和雄が亡くなっていたことも。
 それらはさておき、宍戸にも「出版人に聞く」としてインタビューしておくべきだったといまさらながらに思う。彼もまた紛れもない「スリップ一代」の人物で、しかも書店人として祝福すべき晩年を送っているようだから。



12.古内一絵『百年の子』(小学館)を読了。

 小説としては今ひとつだが、そのモデル、資料として、野上暁『小学館の学年誌と児童書』(「出版人に聞く」18)がベースとして使われている。
 おそらく同書から大いなるインスピレーションを得て『百年の子』が構想されたと見なしてかまわないだろう。
百年の子  小学館の学年誌と児童書 (出版人に聞く)



13.『日本古書通信](11月号)が編集長樽見博の「青木正美さん逝く」を掲載している。

 青木は8月に90歳で亡くなったという。面識はなかったけれど、同誌で長きにわたって連載をともにしたこともあってか、著書を恵送され、本クロニクル167などで取り上げてきている。
 「青木さんの古本屋としての凄さに対し私は畏敬の念を持ってきた。優れた古本屋がそうであるように、従来価値のないと見られていたものに商品としての魅力を見出していく先見性。青木さんの場合、それは戦前戦中の児童物の分野で発揮された。」
 これを引いたのは前回ふれた駿河屋の先達が青木だったのではないかと思われたからだし、そのように考えても失礼には当たらないだろう。



14.論創社HP「本を読む」〈94〉は「完全復刻版『影・街』と短編誌の時代」。

ronso.co.jp

 『新版 図書館逍遥』は発売中。
新版 図書館逍遙

 『近代出版史探索Ⅶ』は12月下旬刊行予定。
 中村文孝との次のコモン論は12月に脱稿。