出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル186(2023年10月1日~10月31日)

23年9月の書籍雑誌推定販売金額は1078億円で、前年比2.6%増。
書籍は668億円で、同5.3%増。
雑誌は409億円で、同1.6%減。
雑誌の内訳は月刊誌が353億円で、0.1%増、週刊誌は55億円で、同11.1%減。
返品率は書籍が29.3%、雑誌が39.4%で、月刊誌は37.8%、週刊誌は48.0%。
書籍雑誌合計の推定販売金額の前年比プラスは21年11月以来、書籍のプラスは22年1月以来。
だがそれは書籍と月刊誌の返品率の改善によるもので、店頭売上の回復に起因していない。
25年2月に日販がコンビニ配送から撤退することも明らかになった。
出版科学研究所による出版物推定販売金額は、取次出荷から返品金額を引いたものなので、
トーハンが引き継がなければ、ダイレクトな影響を与えることになろう。


1.出版科学研究所による23年1月から9月までの出版物推定販売金額を示す。

 

■2023年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2023年
1〜9月計
800,989▲6.4471,959▲5.3329,029▲8.0
1月77,673▲9.047,441▲7.030,232▲11.9
2月99,792▲7.663,424▲6.336,368▲9.7
3月137,162▲4.790,558▲4.146,604▲5.7
4月86,595▲12.848,350▲11.638,245▲14.2
5月67,725▲7.736,625▲10.031,101▲4.9
6月79,203▲8.142,019▲4.737,185▲11.7
7月73,860▲0.938,850▲2.235,0100.5
8月71,144▲11.337,820▲10.633,323▲12.0
9月107,8342.666,8735.340,961▲1.6

 23年9月までの推定販売金額は8009億円で、前年比6.4%減である。22年度の推定販売金額は1兆1292億円だったので、最終的に6.4%減とすれば、722億円のマイナスとなり、1兆570億円前後の数字となるだろう。
 23年はかろうじて1兆円の販売金額を保つことになろうが、24年には1兆円を割ってしまうことが確実となってきた。
 ピーク時の1996年には2兆6564億円に達していたわけだから、24年には実質的にその3分の1程度となり、それは1970年後半の金額をも下回ってしまう。
 出版社の場合はひとまずおくとしても、このような半減どころではない販売金額状況において、流通販売を担う取次と書店は限界のところまで来ている。
 果たして24年はどのような状況を迎えることになるのか。23年にしても、残されたのはわずか2ヵ月しかない。



2.紀伊國屋書店、CCC、日販は書店主導のための出版流通改革実現に向けて、株式会社ブックセラーズ&カンパニーを設立。
 資本金は5000万円、出資比率は紀伊國屋40%、CCCと日販がいずれも30%、代表取締役会長は紀伊國屋会長の高井昌史、代表取締役社長は紀伊國屋経営戦略室長の宮城剛高が就任。

 事業内容に関しては前回の本クロニクルで、日販や紀伊國屋へのインタビューを示し、低正味買切制への意向を指摘しておいた。
 今回の設立発表においても、「書店と出版社が販売・返品をコミットしながら仕入部数を決定する、新たな直仕入スキームを実現するための書店―出版社間の直接取引契約の締結を目指」すと述べられている。
 その詳細は出版社などには10月以降、書店に向けては24年春をめどに説明の場を設けていくとされる。
 だがで見たように、出版物売上は最悪のところまで落ちこんでしまった。それは24年春以後の出版状況がどうなるのかわからないことを示唆していよう。



3.日販GHDとCCCの合弁会社であるMPDは社名をカルチュア・エクスペリエンス(株)と変更し、FC事業と卸事業を統合した共同事業会社を発足。
 出資比率は日販GHD51%、CCC49%。
 FC、卸事業のいずれもが全国の主としてTSUTAYAのFC店に向けての書籍や雑誌を始めとする商材の流通販売を目的としている。

  しかしこれも前回のクロニクルで役員名を挙げているし、そこで示しておいたように、MPDの前年比マイナスと赤字幅は大きい。それにCCC(TSUTAYA、蔦屋書店)にしても、売上高の前年比マイナスは40%に及んでいる。
 のブックセラーズ&カンパニーだけでなく、カルチュア・エクスペリエンスも書店状況が最悪のところで立ち上げられたことになろう。
 また日販GHDは書店子会社のブラス、リブロプラス、積文館書店、Y・spaceの4社を合併し、新会社NICリテールズを設立している。
 それらがどのような軌跡をたどるのか、本クロニクルにおいても追跡していくことを約束しておく。



4.日販は24年秋に埼玉県新座市に「物流再編プログラム」の一環として、ロボティクスの活用や新しい倉庫管理システムを導入した新拠点を開設。延面積は7670坪。
 文具、雑貨の流通や出版社、他社からの物流受託も含まれ、それは3PLによる。

  これはの動向とパラレルに進められていくプロジェクトと見なせよう。『出版状況クロニクルⅥ』などで既述しておいたように、3PL=サードパーティ・ロジスティクスとは従来の取次とは異なる倉庫システムで、「物流再編プログラム」として、他業界の流通倉庫も意図されていると考えられる。
 それはトーハンも同じで、商品運送の東販自動車と倉庫内作業を担うトーハンロジテックスが合併している。こちらも他業界の物流需要への対応の拡大計画に備えてだとされる。トーハンロジテックスは経常利益の50%が3PLによっているという。
 それならば、取次は他業界の3PLに徹してサバイバルできるかというと、こちらも難しいところにきている。
 首都圏の物流施設は供給過剰で、今年末には空室率は8.8%、場所によっては15%を超えるのではないかと伝えられている。
 こうした日販やトーハンの投資は取次業ではなく、他業界の3PLに向けられているであろうし、虻蜂取らずという事態も生じるかもしれない。



5.日販の子会社「ひらく」が、茨城県常総市の「まちなか再生事業」を受託。
 これは一般社団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)の支援を受けてのものだ。
 その一環として、常総市中心市街地の関東鉄道水海道駅周辺エリアの活性化を目的として社会実験「Joso Collective」を行なう。

 本クロニクル169で、日販が100%子会社として、プロデュース事業の「ひらく」の設立を取り上げておいた。
 今回のプロジェクトは常総市の「まちなか再生プロデューサー」として任命されたのが「ひらく」の染谷拓郎社長で、「文喫」や「箱根本箱」も手がけてきたとされる。
 この「まちなか再生事業」に言及したのは、今年から勉強のために『ダ・ヴィンチ』を読むように心がけてきたが、そこでの「現在の出版業界では何が起きているのか。ブックディレクター有地和毅が今きになる動きを徹底取材」と銘打った「出版ニュースクリップ」はピンとこなかった。本クロニクルとはまったくクロスしない「出版ホットレポート」だったからだ。
 しかし有地が「ひらく」に属し、文喫のブックディレクターであることを知り、ようやく謎が解けたように思った。
 近年になってまったく知らない書店や人物などがメディアに露出しているのは、この「ひらく」と『ダ・ヴィンチ』を通じてのことだったのかと了承されたのである。

ダ・ヴィンチ 2023年11月号



6.ホビー販売の駿河屋が10月6日に旧静岡マルイ跡地に新本店をオープン。
 国内に120店を展開する駿河屋の旗艦店で、商品1000万点を揃え、国内ホビー商材販売店として最大規模。
 その駿河屋ビルは9階建てのうちの1Fから3Fを第一次開店とし、フィギュア、プラモデル、ゲーム、4Fはトレカを扱い、年内の開店をめざす。
 静岡を「ホビーのまち」とPRするとともに、町の活性化をめざし、海外も含め、年間80万人の来客数と30億円の売上が目標とされる。

 駿河屋に関しては本クロニクル168で、日販のNICリテールズとの合弁会社駿河屋BASEの設立、同174で三洋堂HDのレンタルに代わる駿河屋の導入、同180でジュンク堂新潟店内の駿河屋オープンを既述している。
 静岡の旧駿河屋本店は閉店した戸田書店の真向かいにあり、今回の旗艦店は丸善ジュンク堂が入ったビルの正面に位置している。
 トーハン、日販を横断する出店で、ブックオフ、CCCに続いて、24年は駿河屋の年になるのだろうか。
 この駿河屋の出自と背景、出店経緯などについては稿をあらためたい。



7.出版物貸与権センター(RRAC)は22年分の貸与権使用料13億5000万円を53の出版社を通じ、著作権者へと分配。
 前年の貸与権使用料は16億7000万円だったので、20%以上の減少、レンタルブック店は1437店で、こちらも188店もマイナスとなっている。

 レンタルブック店といっても、実質的にはレンタルコミック店で、これらもゲオとTSUTAYAが大半をしめているといっていい。
 このところ店によってちがうだろうが、ゲオは大量にレンタルコミックを50円で売っている。DVDやCDのレンタルが配信によって撤退続きであるように、レンタルコミックも同様の経緯をたどるのではないだろうか。



8.精文館書店の決算は売上高181億8200万円、前年比5.8%減、営業損失4400万円(前期は1億6500万円の利益)、経常損失5700万円(前期は1億6200万円の利益)、当期純損失2億2000万円(前期は8100万円の利益)で、減収減益の赤字決算。

 分野別売上高は示さないが、書籍やレンタルのマイナスによって12年ぶりに190億円を下回った。
 豊橋市を本店とする精文館は日販傘下に入り、CCCのFCとなり、現在は49店舗を展開しているが、これまでの複合店はもはやビジネスモデルとして成立するのが難しくなってきている。インボイス制度も他人事ではないだろう。
 それこそ今期は6の駿河屋のFCに加盟するという。
 最近になって、地方老舗書店、地方銀行、取次がバトルロワイヤル的に絡んだ内紛が聞こえてくる。地方の文化中枢としての書店を支えてきた地銀にしても、もはや限界にきているのだろうし、それがこれから連鎖するように起きてくるかもしれない。



9.朝日新聞出版が科学雑誌『Newton』を発行するニュートンプレスの全株式を取得し、同社は朝日新聞グループに加わる。

Newton(ニュートン) 2023年12月号 [雑誌]

 『Newton』は1981年に竹内均を編集長として創刊され、現在でも発行部数は8万5000部で、科学雑誌としては国内最大とされる。
 これも『出版状況クロニクルⅤ』で取り上げておいたように、2017年にニュートンプレスは民事再生法を申請し、現在も再生計画に基づき債務返済を続けている。だが今後は朝日新聞グループが債務返済を保証することになる。



10.『FACTA』(11月号)が貴船かずま「瀕死の『キネ旬』廃れる映画批評」を掲載している。
 そのリードは「著名な批評家は活動の場をネットに移行。紙媒体の限られたパイを大ベテランが奪い合い。」

facta.co.jp

 これも本クロニクル181で既述しておいたが、『キネマ旬報』(キネマ旬報社)が8月号より、月1回の合併号としての刊行となった。
 そこで月刊化は存続のための止むを得ない選択だと書いておいた。だがここでは「廃刊の瀬戸際まで追い詰められた」とされ、直近の発行部数は5万を切り、与信管理センターの格付けはF3で、キネマ旬報社も最も倒産の確立が高い企業に格付けされているようだ。
 確かに月2回が1回の発行となれば、売上も半分になってしまうので、そのような格付けに追いやられたのだろうが、もっと心配なのは親会社もすでに『キネ旬』を見放してしまったのではないかということだ。新聞夕刊の廃止により、映画評もなくなりつつあるし、映画批評ももはや成立する状況にない。
 そういえば、『選択』(10月号)も『週刊現代』編集部の内紛と騒動が続いていることを伝えている。ここまで雑誌が失墜してしまうと、週刊誌すらも安泰ではない状況になっていると考えるしかない。
キネマ旬報 2023年11月号 No.1932



11.ノセ事務所より、2023年上半期の朝日、読売、毎日、日経の4紙の朝刊の単行本書評リストが届いた。
 その10本以上書評された出版社と合計冊数を示す。

 

■ 2023年1~6月、朝刊4紙 単行本・書評掲載社
順位出版社合計(訳本)
1講談社41(4)
2新潮社40(7)
3中央公論新社36(3)
4岩波書店35(8)
5文藝春秋32(3)
6河出書房新社30(18)
7みすず書房26(18)
8白水社22(16)
9早川書房20(19)
10日本経済新聞社19(9)
11朝日新聞社18(6)
12勁草書房16(11)
13筑摩書房15(1)
14平凡社15(1)
15晶文社14(8)
16草思社12(7)
17東洋経済新報社12(8)
18名古屋大学出版会12(2)
19東京大学出版会11(1)
20慶應義塾大学出版会11(4)
21光文社11(3)
22KADOKAWA10(2)
23集英社10(2)
24ダイヤモンド社10(6)

 新聞別冊数を省略してしまったが、近年どの新聞に書評が出ても、ここに上がっていない小出版社の場合、ほとんどが問い合わせもなく、書店注文などにしても、数十冊あればよいほうだとの複数の声を聞いているからだ。
 それは実感できるし、書評どころか、新聞広告にしても、まったく反応がないという状況を迎えて久しい。
 それこそ前世紀においては、三八広告が打てれば出版社として一人前だといわれていたのである。本当にそんな時代があったことも もはや忘れられているだろう。



12.『日本古書通信』(10月号)が樽見博による「『性風俗資料』に特化した古書目録―股旅堂・吉岡誠さんに聞く」を掲載している。

 本クロニクルの読者であれば、届くたびに「股旅堂目録」を紹介してきたので、ご存じの方も多いと思う。
 ここで語られているように、吉岡は八重洲BC出身で、本店で5年、宇都宮店で1年の6年に及んでいる。現在の股旅堂の特集目録は書店でのブックフェア企画と相通じるところもあるとの言は、6年間の書店経験を抜きにしては古書目録も成立しなかったことを示唆していよう。
 それでいて量を売らなければならない書店、つまり「マジョリティを相手にする仕事より、古本屋の方が向いていると思います」と述べている。
 この吉岡の言葉は現在の出版業界においても、今一度かみしめなければならない発言のように思える。



13.『芸術新潮』(10月号)が特集「いまこそ知りたい建築家磯崎新入門」を組んでいる。

芸術新潮 2023年10月号

 そこには磯達雄の「磯崎新 危険な図書館」も掲載され、磯崎の建築家ならぬ著者としての軌跡も語られている。
 私などにとって、磯崎は美術出版社のA5判函入の『空間へ』(1971年)などから始まり、篠崎紀信とコラボした六耀社の「建築行脚」シリーズがただちに挙げられる。このシリーズに関しては別に一編を書くつもりでいる。
 また建築に関しては磯崎の静岡市における劇場プロジェクトとしての「グランシップ」にもう少し注視があってもいいように思われる。この1993年から98年にかけてのプロジェクトは監理を綜合設計事務所に委ねたこともあるかもしれないのだが、ほとんど論じられていないように思える。磯崎の死にあって、新たな注視も必要なのではないだろうか。

空間へ (1971年)  



14.社会学者の加藤秀俊が93歳で死去した。

 私にとって加藤はリースマンの『孤独な群衆』(みすず書房)の訳業に尽きる。
 この一冊はアメリカ社会学のコアを伝え、社会の生々しい現在と生成を分析することを教えてくれた。
 しかも加藤は2013年にその改訂版をも刊行している。それに喚起され、私も『孤独な群衆』論として、「他人指向型と消費社会」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)を書いている。まだネットで読めるはずなので、アクセスして頂ければ有難い。
孤独な群衆 上 (始まりの本)  郊外の果てへの旅/混住社会論

混住社会論37 リースマンの加藤秀俊 改訂訳『孤独な群衆』(みすず書房、二〇一三年)
odamitsuo.hatenablog.com


15.論創社HP「本を読む」〈93〉は「つげ義春と若木書房『傑作漫画全集』」です。
ronso.co.jp

 『新版 図書館逍遥』は発売中。
新版 図書館逍遙

 『近代出版史探索Ⅶ』は編集中。
 中村文孝との次のコモン論は準備中。

出版状況クロニクル185(2023年9月1日~9月30日)

23年8月の書籍雑誌推定販売金額は711億円で、前年比11.3%減。
書籍は378億円で、同10.6%減。
雑誌は333億円で、同12.0%減。
雑誌の内訳は月刊誌が277億円で、同12.0%減、週刊誌は55億円で、同12.0%減。
返品率は書籍が40.2%、雑誌が44.4%で、月刊誌は43.7%、週刊誌は47.6%。
推定販売金額は23年4月の12.8%に続く二ケタマイナスで、書店売上の低迷はいずれも40%を超える高返品率となって表われている。
23年も残すところ3ヵ月となっているが、このように販売金額も推移していけば、かつてない最悪の数字とデータを招来することになろう。


1.『日経MJ』(9/6)の2022年度「卸売業調査」が出された。
 そのうちの「書籍・CD・ビデオ部門」を示す。

■書籍・CD・ビデオ卸売業調査
順位社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
営業利益
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
伸び率
(%)
税引後
利益
(百万円)
粗利益率
(%)
主商品
1日版グループ
ホールディングス
444,001▲12.1▲417▲158▲21813.4書籍
2トーハン402,550▲6.0238▲81.4351▲70.231214.7書籍
3図書館流通
センター
52,3402.51,809▲15.52,044▲9.81,18518.0書籍
4日教販26,87639238728710.5書籍
10楽天ブックス3,917▲91.8書籍
11春うららかな書房2,561▲3.04014.314▲56.3931.5書籍
MPD139,238▲6.3▲444▲434▲6283.4書籍


 前年の本クロニクル173で、取次状況はTRCの一人勝ちであること、その流通メカニズムは中村文孝との対談『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』を参照してほしいと既述しておいた。
 22年度「経営指標」から見ても、「書籍・CD」は売上高前年比12.1%減と13業種のうちの最悪で、しかもこれで下げ止まりではなく、さらに加速していくだろう。
 日販GHDとMPDの売上高マイナスが本格化するのはこれからであり、前者は4000億円を割りこみ、トップの座をトーハンに譲ることは明らかだ。それとパラレルにMPDもどのように変貌していくのだろうか。
  



2.『新文化』(8/24)が「日販グループ『出版流通』再構築へ」との大見出しで、日販GHD吉川英作社長にインタビューしている。
 これは王子流通センター太田紀行所長への「ESG推進」インタビューとの併載だが、吉川の発言の「共同会社構想」「MPD事業再編」のほうを要約してみる。


日販グループの7つの事業のうちの取次事業と書店事業は赤字だが、その他の5事業は24億円の経常利益を計上している。しかし取次事業の大きな赤字をカバーできていない。
生活者が本を買って読む機会は減り、大量送品、大量返品の時代はすでに終わった中で、祖業である取次事業を復活させたい。
これからは身の丈に合ったサイズで仕事の仕方を変え、取引書店の販売・収益力を最大化させ、書店経営が持続できるように全力で取り組みたいし、出版文化を守っていきたい。
日販、紀伊國屋、CCCの3社共同会社の目的は「書店主導」で粗利益の向上に取り組み、書店を持続可能な業種・業態に再生していくことである。このままでは日本に書店がなくなってしまうからだ。
 そうした強い危機感と日本の書店を守らなくてはいけないという観点から、議論を突き詰め、書店の粗利益率を改善するために、書店主導での改革という結論に至った。
日販、紀伊國屋、CCCの3社の運営書店は1000店に及ぶので、その事業基盤を活かし、具体的な話し合いを行なっている。
新会社は書店と出版社の新たな直仕入れスキームを構築し、返品条件付き買切、粗利益率30%以上となる取引を増やしていく。
 つまり新会社は返品条件付き買切制の仕入れ共同会社となる。従来の委託性流通は日販とMPDが担う。
MPDはカルチュア・エクスペリエンス(CX)と社名変更し、企業体としてCCCのFC事業を統合する。これまでは卸事業とFC事業に分かれ、MPDは流通する商品代、CCCはFCからの手数料を売り上げ計上していたが、それがひとつになる。

 日販、MPD、CCCの三位一体の関係が終わりを迎えている。その始まりは拙著『出版業界の危機と社会構造』(論創社、2007年)において、「CCCと日販」「次世代TSUTAYA三〇〇〇店構想」「日販とCCCによるMPDの立ち上げ」「MPDとTSUTAYAの関係の謎」として言及している。
 そのコアはレンタル、FC、Tポイントであり、それらの失墜が現在の状況を招来させたことになろう。『出版状況クロニクル』シリーズに先行する拙著が読み直されることを切に願う。



3.『朝日新聞](9/3)が「書店主導の出版流通改革狙いは」と題して、紀伊國屋書店の高井昌史会長にインタビューしている。これも要約してみる。

日販、CCC、紀伊國屋の3社傘下書店を合わせると、書店経由の売り上げの20%を占めるし、それだけの規模の書店が直仕入れするようになるかもしれない。
日販は大きな判断をしたと思うし、かつての大量配本、大量返品は非効率で、今は適正な送品で返品を減らすとともに、欠品も防ぐべきだ。
紀伊國屋は在庫の自動補充システムを自社開発したり、出版社に対して積極的に配本指定したりして、返品率を27~28%まで下げてきたし、業界全体でもそこまで抑えたい。
川下の書店が努力して、川上の出版社にとっても利益を生む仕組みを作らなければならない。場合によっては8~9割を委託販売ではなく、買切制にすることも、交渉の中で出てくるだろう。
地域によっては蔦屋書店しかない町もあるし、そういう町でこそ、行政、図書館、学校、家庭と手を組み、本屋をひとつの文化サークルの拠点とし、町おこしのモデルをつくっていきたい。
仕入れで大切なのはAIに全部をまかせるのではなく、書店の現場やバイヤーの力によって、小さな地方出版社の本も含めてチェックし、良い本が店に並ぶようにしなければならない。読者が行きたいと思う本屋をどんどん作っていきたい。

 前回の本クロニクルのCCCの高橋誉則代表兼COOへのインタビューと並んで、日販GHDと紀伊國屋の会長の見解が公表されたことになる。
 3者の共通項を一言でいえば、低正味買切制への移行ということになるだろう。
 しかし返品条件付きにしても、その実現は難しいし、紀伊國屋一社であればともかく、日販傘下書店とCCCのFC書店まで含んでの低正味買切制は絵に描いた餅のようにしか思えない。それを高井会長が承知していないはずもない。
 低正味買切制を実現できるのは1980年代の全盛期のリブロしかなかったし、そのような時期にしてもすでに外してしまったと考えられる。
 それに再販制の問題はクリアできていない。また現在のアマゾンのマーケットプレイスだけでなく、ヤフーやメルカリにおける新刊書籍出品は驚くほどで、すべてが売られているといっても過言ではない。そうした新刊割引商品がすでに確固として存在しているし、その事実も直視しなければならないのだ。



4.CCCは旗艦店「SHIBUYA TSUTAYA」を改装のために、10月1日から一時休業し、インバウンドに対する新施設として、2024年春に再開業する。
 1999年に「SHIBUYA TSUTAYA」はDVDやCDのレンタル業態の旗艦店として開店し、地上2Fから屋上まで11フロアを有し、DVD、CD、雑誌、書籍も販売していた。

 再開業に際して、本クロニクル182でふれた「Tポイント」は三井住友カードの「Vポイント」へと統一され、新業態店舗へと移行するとされている。
 その一方で、TSUTAYAの大型店閉店は続き、8月も6店を数えている。また未来屋、アシーネ、西友内書店などの閉店も10店以上に及び、スーパー系書店もビジネスモデルとしての退場を告げているようだ。
 なお『朝日新聞』(9/24)の「朝日歌壇」に永田和宏選として、次の一首が選ばれていた。

 ぎっしりの本描かれたシャッターに「週休七日」三月書房      (京都府 島多尋子)



5.いささか旧聞になるが、『週刊東洋経済』(6/24)が、「伝説の起業家が見た天国と地獄」というタイトルで、アスキー創業者西和彦へのインタニューを掲載していた。
 それを簡略にたどってみる。

 西は債権者から第三者破産を申し立てられた。その経緯と事情は5年ほど前に出版社のアスペクトの借金の連帯保証がきっかけだった。
 当時の高比良公成社長に経営が悪化したので助けてくれないかといわれ、3億円を出資した。ところがその直後、三菱UFJ銀行がアスペクトへの融資を連帯保証してくれなければ、資金を引き揚げるといってきた。そうなると出資した3億円も消えてしまうので、断腸の思いで連帯保証した。
 アスペクトの高比良はCSK創業者大川功の秘書で、西をつなぎ、アスキーに100億円出資してくれたので、その借りを返すかたちだった。
 だがアスペクトは経営が改善せず、三菱UFJ銀行が債権を金融会社に売り渡し、その金融会社がアスペクトと西に第三者破産を申し立てたのである。
 週刊東洋経済 2023年6/24号[雑誌](富裕層のリアル)  本の世界に生きて五十年―出版人に聞く〈5〉 (出版人に聞く 5)

 これは続報が出てからと考えていたが、9月になるまでアスペクトと西に関する記事は目にしていない。
 アスキーに関しては能勢仁『本の世界に生きて50年』(「出版人に聞く」5)において、西とアスキー時代が語られているが、能勢が退社して、それほど経っていなかったので、詳細な金融や経営事情はインタビューに織りこめなかったことを思い出す。
 それらのことはともかく、この旧聞記事を取り上げたのは最近になって、地方老舗書店の清算事情が伝えられ、第三者破産ということも絡んでいたのではないかと推測されたからだ。
 その老舗書店は地元で知られた資産家で、繁華街の一等地に店があったが、大型書店の出店の失敗もあってか、いつの間にか閉店し、他業種の店舗となっていた。
 どのような経緯があったのか不明だが、伝わってきた話によれば、自宅だけはかろうじて残されたが、その他の資産はすべて失われてしまったという。
 この間には5、6年が過ぎており、大きな負債がある老舗書店の清算のかたちの一端がうかがわれる。銀行、金融会社、取次などが複雑に絡み、清算に至る過程も一筋縄ではいかないことを示していよう。
 おそらく現在の書店はそれらにFC問題や多くのリース契約も抱えながら閉店に至っているはずだ。とすれば、閉店後の清算も困難な道筋をたどっているように思われる。



6.中央社の決算は売上高202億5447万円、前年比2.2%減で、減収減益となった。
 その内訳は雑誌が113億8316万円、同6.3%減、書籍は76億629万円で6.3%増、特品等は10億4057万円、同20.4%減。
 返品率は27.7%で、4年連続30%を下回り、営業利益は3億1894万円、同10.6%減、当期純利益は7645万円、同17.2%減。

 これまでも中央社がコミックに特化し、低返品率で利益を上げてきたことを既述してきたが、減収減益とはいえ、それが顕著である。
 「雑誌扱いのコミックス」は前年比7.6%減だったが、「書籍扱いのコミックス」が増えたことで、書籍部門の売上の伸びにつながっている。
 ただ出版業界の売上全体がコミック次第という状況において、やはり紙のコミックの行方が焦眉の問題であることは中央社にとっても同様だろう。



7.雑誌、書籍の卸売業を手がける広島市のブックス森野屋が自己破産。
 同社は1966年創業で、広島市内のスーパーや量販店に雑誌、書籍を卸し、2000年には年商24億3500万円を計上していた。
 22年には5億1300万円に落ちこみ、業務改善の見通しがたたず、今回の措置となった。
 負債は6億5600万円。

 ブックス森野屋は1960年代末から70年代にかけて、全国各地で簇生した所謂スタンド業者のひとつだと思われる。
 同社の自己破産はスーパーなどの雑誌スタンド販売も、ビジネスモデルとして限界に達していることを示唆していよう。
 こうしたスタンド業者が全国にどれだけあるのか定かではないけれど、同じような状況に追いやられているとみなすべきだ。



8.集英社の決算は売上高2096億8400万円、前年比7.4%増だが、不動産の減損による135億3400万円の特別損失を計上したことで、当期純利益は159億1900万円、同40.7%減の増収減益決算となった。
 売上高内訳は「出版売上」1274億1700万円、同5.6%増、「広告売上」80億2600万円、同6.7%減、「事業収入」742億4000万円、同12.6%増。
 「出版売上」のプラスは当期から「事業収入」に計上していた「デジタル」を出版売上に移管したことによっている。
 その内訳は「雑誌」157億8900万円、同4.9%減、「コミックス」311億9500万円、同8.4%減、「書籍」118億6500万円、同1.1%減、「デジタル」698億1000万円、同15.9%増。
 「事業収入」は「版権」563億1100万円、同18.2%増、「物販等」179億2900万円、同2.0%減。

 「デジタル」と「版権」売上は1261億円におよび、売上高の半分以上に及んでいる。また「雑誌」「コミックス」「書籍」は合わせても587億円で、その半分にも達していない。
 ここに集英社の現在の実像が浮かび上がるし、もはや取次や書店と密接にコラボレーションしてきた姿は失われてしまったことがわかるであろう。



9.光文社の決算は売上高179億6800万円、前年比5.5%増だが、今期も赤字決算。
 総売上高内訳は「製品売上」70億8000万円、同7.8%減、「広告収入」45億1200万円、同8.2%減、「事業収入他」57億7900万円、同26.0%増、「不動産収入」5億9900万円。
 増収は「製品売上」以外の3部門によるもので、「製品売上」の「雑誌」は43億8100万円、同12.2%減、「書籍」は26億9900万円、同0.5%増。
 返品率は前者が47.6%、後者は39.1%で、高止まりしたままである。
 その結果、特別損失は7億3400万円(前年は16億3200万円の損失)、当期純損失は4億9300万円(同12億400万円の損失)。

の小学館系列の集英社の好決算と対照的な講談社系列の光文社の連続赤字決算ということになる。
 それはコミック雑誌の集英社と女性誌の光文社の現在の等身大の姿を伝えていよう。
 それもあってか、43年ぶりに講談社から巴一寿社長が就任し、講談社らグループとの連携、DXを推進が伝えらえている。



10. 『文化通信』(9/19)が「ブロンズ新社代表取締役若月眞知子氏に聞く」というインタビューを掲載している。これも簡略に紹介してみる。

 若月は友人たちと広告プロダクションを設立し、テレビCMや企業PR誌を制作していたが、友人の一人がR書房を引き継ぎ、R書房新社を設立した。その一冊目が柳瀬尚紀訳のルイス・キャロル『シルヴィーとブルーノ』で、翻訳書の編集制作を手伝い、すっかり夢中になってしまった。
 そこで自主企画として、伊丹十三訳のサローヤン『パパ・ユーアクレイジー』、岸田今日子訳『ママ・アイラブユー』を手がけ、R書房新社を発売元として出版すると、とんとん拍子に売れた。
 そこで出版社を立ち上げようとして、新泉社の小汀良久から休眠状態だったブロンズ社を紹介され、1983年にブロンズ新社としてスタートし、今年で40周年になる。
 90年代に初の絵本『らくがき絵本』を刊行し、以後ヨシタケシンスケや かがくいひろしなどの絵本や児童書でヒットさせるに至る。

    らくがき絵本: 五味太郎50%

 これは前半だけの紹介だが、まだ長いので、興味のある読者は『文化通信』に当たってほしい。
 ここでR書房とされているのはれんが書房新社のことであり、ブロンズ社がどうしてブロンズ新社として立ち上げられたかを教えられ、ひとつの出版史のミッシングリンクを了承したことになる。



11.『朝日新聞』(8/31)の「声」欄に、「この夏閉じた50年続けた洋書店」という見出しの「無職 多和田栄治(東京都 90)」の投書が寄せられていた。
 「東京・神保町などで約50年営んだドイツ書専門書店を閉じた」ことに関する一文で、ネット通販と書店文化の衰退に抗えずの閉店が語られている。

 この多和田はドイツ在住の作家多和田葉子の父で、彼は閉店理由として「後継者不在」も挙げているが、父の営むエルベ書店はかたちはちがうにしても、正統的な後継者を世界に送り出したことになる。娘の滞独にしても、エルベ書店を抜きにして語れないであろう。
 エルベ書店の誕生はドメス出版の設立と連鎖していて、それは別のところで語ることにしよう。
 なお私はかつて多和田の『犬婿入り』を論じた「犬婿入りっていうお話もあるのよ」(『郊外の果てへの旅/混住社会論』所収)を書いていることを付記しておく。
犬婿入り (講談社文庫)  郊外の果てへの旅/混住社会論



12.やはり『文化通信』(9/5)で、地方・小出版社流通センターの川上賢一が「わたしの新人時代」としての模索舎体験を語っている。

 それに呼応するかのように、句誌『杉』(7月号)の大原哲夫の「私の編集ノート」連載が「地方・小出版社流通センター」に当てられ、小学館の編集者の大原が同センター発行の情報誌『アクセス』のボランティアとして、編集に携わっていたことを教えられた。
 そこに登場する人々は顔見知りの人たちもいるけれど、実に多くの人たちが地方・小出版社流通センターと書肆アクセス、そして情報誌『アクセス』をひとつのトポスとして参集していたのである。
 本当に『アクセス』を読んでいた時代が思い出されるが、そのような時代はもはや戻ってこないことも実感させられる。



13. 『人文会ニュース』(No.144)が届いた。

 そこで日本評論社の休会を知った。
 未来社が退会したことに続けての休会であり、それぞれの事情の反映と見なせよう。
 なお人文会の「人文会販売の手引き」が8年ぶりに改訂され、人文会のHPからダウンロードできる。
 これも昔のことになってしまうが、1980年代の初版刊行の際に『新文化』で書評したことを思い出す。 
jinbunkai.com



14.宮下志朗『文学のエコロジー』(左右社)が届いた。

  文学のエコロジー (放送大学叢書) ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)

 この「エコロジー」というタイトルにこめられたタームは文学作品が「いかなるプロセスで成立したのか、また、いかなる環境で流通し、受容されたのかといった問題」に言及していることから選ばれている。
 実は拙著『ヨーロッパ 本と書店の物語』(平凡社新書)もそのことをテーマとしている。
 『文学のエコロジー』で関心を持たれたら、読んでいただければありがたい。



15. 「少女マンガを語る会」全記録としての『少女マンガはどこからきたの?』(青土社)読了。

少女マンガはどこからきたの?: 「少女マンガを語る会」全記録    小学館の学年誌と児童書 (出版人に聞く)

 少女マンガは門外漢なので、非常に教えられることが多かった。
 ただひとつ気になるのは、野上暁『小学館の学年誌と児童書』(「出版人に聞く」18)における証言で、「少女漫画は復刻しても売れない」という事実である。野上は小学館クリエイティブの社長も務めていたから、実感がこもっていたし、それがどうしてなのかわからないとも語っていた。
 その疑問はまだ解かれていない。



16.論創社HP「本を読む」〈92〉は「辰巳ヨシヒロ『劇画暮らし』『劇画漂流』と『影』創刊」です。
 
ronso.co.jp

 『新版図書館逍遥』は発売中。
 『近代出版史探索Ⅶ』は編集中。
 中村文孝との次のコモン論は準備中。
新版 図書館逍遙

出版状況クロニクル184(2023年8月1日~8月31日)

23年7月の書籍雑誌推定販売金額は738億円で、前年比0.9%減。
書籍は388億円で、同2.2%減。
雑誌は350億円で、同0.5%増。
雑誌の内訳は月刊誌が293億円で、同3.2%増、週刊誌は56億円で、同11.7%減。
返品率は書籍が41.0%、雑誌が42.9%で、月刊誌は42.0%、週刊誌は47.1%。
雑誌のプラスは22年8月以来11ヵ月ぶりだが、コミックスの『ONE PIECE』『呪術廻戦』『キングダム』『【推しの子】』(いずれも集英社)『ブルーロック』(講談社)の新刊が出されたことによっている。
しかし雑誌の40%を超える返品率はまったく改善されておらず、雑誌販売金額もコミック次第という状況が続いている。

ONE PIECE 106 (ジャンプコミックス) 呪術廻戦 23 (ジャンプコミックス) キングダム 69 (ヤングジャンプコミックス) 【推しの子】 12 (ヤングジャンプコミックス) ブルーロック(25) (講談社コミックス)


1.『日経MJ』(8/2)の「第51回日本の専門店調査」が出された。
 そのうちの「書籍・文具売上高ランキング」を示す。

 

■ 書籍・文具売上高ランキング
順位会社名売上高
(百万円)
伸び率
(%)
経常利益
(百万円)
店舗数
1紀伊國屋書店96,8851,06467
2ブックオフコーポレーション81,1211,264
3丸善ジュンク堂書店66,391▲5.1
4有隣堂52,216▲21.951459
5未来屋書店45,193236
6トップカルチャー(蔦屋書店、TSUTAYA)20,467▲19964
7ヴィレッジヴァンガード19,927198
8精文館書店19,300▲12.616249
9三洋堂書店17,584▲6.4▲18773
10文教堂15,845▲10.412091
11リブロプラス(リブロ、オリオン書房、あゆみBOOKS他)15,717▲8182
12リラィアブル(コーチャンフォー)14,2210.641211
13大垣書店12,736▲2.39444
14キクヤ図書販売10,175▲5.836
15ブックエース8,768▲2.512731
16オー・エンターテイメント(WAY書店)8,371▲6.6567
17勝木書店4,937▲9.912715
18成田書店1,166▲7.34
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA、蔦屋書店)108,677▲40.35,390
くまざわ書店42,581▲4.9238
三省堂書店18,800▲5.824
ゲオストア(ゲオ)197,2744.63,3351,089

 今回の調査において、「書籍・文具」部門にコメントが付されていないことに加え、「業種別売上高の増減率」表にも明らかなように、23業種のうち19業種が増収となっているが、「書籍・文具」は最下位で、減収が20%近くに及び、突出した最悪の状況を迎えている。
 それはとりわけCCCに顕著で、40.3%減に象徴されている。しかも今回の売上高計上は会計ルール「収益認識に関する会計基準」が適用されたことにもよっている。そのために近年はずっとトップを占めてきたにもかかわらず、「連結適用」となり、番外に置かれている。それはくまざわ書店、三省堂書店も同様である。
 もはや、「書籍・文具」部門は専門店調査の対象からも外されていく時代へと向かっているようだ。



2.トップカルチャーは第三者割当増資で、6億7000万円を調達する。
 割当先はトーハンでトップカルチャー株式の22%を占める筆頭株主となる。

 本クロニクル182で、トップカルチャーの日販、MPDからトーハンへの帳合変更を伝えたばかりだが、その条件のひとつが、この第三者割当増資だったことになろう。その一方で、26年までに19店の撤退を検討中とされる。
 このような事態はトーハンによる日販の一部吸収合併ではないか、またCCC、日販、MPDの三位一体の関係も解体過程に入っているのはないかとも記述しておいた。
 それにトップカルチャーはの「売上高ランキング」で6位であり、7位の精文館書店、16位のオー・エンターテインメントにしても、CCCのFCであるから、これらの行方も気にかかる。
 さらに付け加えれば、10位の文教堂は日販が筆頭株主となっているが、こちらもどうなるのか。
odamitsuo.hatenablog.com



3.MPDが10月からカルチュア・エクスペリエンスへと社名変更し、CCCのFC事業とMPDの卸売事業を統合する。
 代表取締役会長は日販GHD執行役員、MPD社長の長豊光、代表取締訳社長にはCCCの執行役員、TSUTAYA事業総括の鎌浦慎一郎が就任。

 本クロニクル182で、紀伊國屋書店、CCC、日販が共同仕入れのための新会社を設立することにふれておいたが、MPDの社名変更とCCCのFC事業の統合はそれに向けてのMPDの切り離しのように思える。
 当初は三社による共同仕入れ会社の設立は紀伊國屋、CCCのFC書店、日販子会社書店の統合による仕入れ正味のダンピングが目的ではないかと考えられた。
 しかしカルチュア・エクスペリエンスの業態からすれば、TSUTAYAと日販子会社書店の紀伊國屋への統合が狙いではないだろうか。つまり丸善とジュンク堂が統合し、丸善ジュンク堂が誕生したように。
 だが問題なのは丸善ジュンク堂の場合はスポンサーとしてのDNPが存在したが、日販がその役割を果たすのは難しい。それとも背後に思いがけないスポンサーが控えているのだろうか。



4.『新文化』(8/3)が「CCCの代表兼COO高橋誉則氏に聞く」として、「CCCのエンジンは人」の大見出しでの一面インタビューを掲載している。
 それを要約してみる。


紀伊國屋書店との対話を重ねる中で、書店の粗利改善に着手するという方向性を確認し合った。
そのためにCCCが培ってきた知的資本を業界のために提供したい。
紀伊國屋、日販との新会社のイメージは取次が担ってきた商流・物流機能のうちの商流機能の一部を引き継ぎ、出版社と書店が直接対話できる場をつくる機関である。
書店は買切条件も含めて、従来とは異なるコミットメントを求められるし、出版社もそれに合わせ、流通条件を考える必要がある。
これからのCCCグループの全体事業像は知的資本カンパニーで、事業化されるような企画を生み出す企画会社にして、世の中に出したプロダクトやサービスをイノベーションしていく事業会社である。
書店分野でいえば、今一度直営店の役割を「我々の挑戦の舞台」と定義し、それを見たFC企業が社会的に価値がある、面白い、儲かるなどと評価されるのが一番大事だ。
今後の複合書店業態は集客と出版物との具善の出会いをどのように提供するかの両方を頑張らなければならない。また販売行為だけでなく、時間の過ごし方、人との出会いを書店の中に組みこんでいけるかも大事だ。
収益に関しては返品性のままでは利益率を上げようとすると、誰かがしわ寄せを食うので、出版社、取次、書店の各プレイヤーが少しずつ自分たちのやり方や考え方を変え、新しい収益モデルを作らなければならないし、新会社設立の目的もそこにある。

 まだ続いているけれど、何も語っていないに等しい話と要約をさらにたどることは苦痛なので、ここで止める。
 それゆえに前回の本クロニクルで示しておいた第38期決算の特別損失や特別利益に関しては「詳細は基本的に非開示」とされている。
 またこれも本クロニクル182で取り上げたSMBCとの「Vポイント」化も、「詳細は基本的に非開示」のままで、肝心のことには何も言及されていない。
 おそらく1、2、3のCCC状況の中において、否応なく発言を強いられる新社長というポジションに置かれているので、このようなインタビューを受けざるをえなくなったと推測される。
 7月もTSUTAYAの大型店の閉店は6店を数えている。



5.出版科学研究所による23年上半期の電子出版市場を示す。

■電子出版物販売金額(億円)
2022年
1~6月期
2023年
1~6月期
前年同期比(%)占有率(%)
電子コミック2,0972,271108.389.3
電子書籍23022999.69.0
電子雑誌464291.31.7
電子合計2,3732,542107.1100.0

 上半期電子出版市場は2542億円、同8.3%増だが、電子書籍、電子雑誌は前年に続いていずれもマイナスで、やはり電子出版市場自体がコミック次第ということになる。
 電子コミックは各ストアの販売施策、オリジナル作品の強化、縦スクロールコミックの伸長などによって成長が続いているとされる。



6.『文学界』が9月号から電子版化。

文學界(2023年9月号)(特集 エッセイが読みたい 創作 筒井康隆 川上弘美)

私は『文学界』連載のリレーエッセイ「私の身体を生きる」を愛読していて、8月号の鳥飼茜「ゲームプレーヤー、かく語りき」はとても考えさせられた。私は鳥飼の『先生の白い嘘』(講談社)『サターンリターン』(小学館)を注視している。彼女の言葉を借りれば、紙の「車体」でなく、電子の「車体」でこれらのエッセイを読むと、印象が変わってしまうのではないかとも思われた。
文學界(2023年8月号)(創作 高瀬隼子 石原燃/鼎談 円城塔×千葉雅也×山本貴光)   先生の白い嘘(1) (モーニング KC)   サターンリターン (1) (ビッグコミックス)  



7.講談社、小学館、集英社は8月からPubteX が供給するRFIDタグを新刊コミックスなどに挿入して流通を始め、9月から一部の書店で実証実験を開始する。
 講談社は8月以後の雑誌扱い新刊コミックス、「講談社文庫」「講談社タイガ」の新刊文庫、小学館は8月以降の新刊コミックス、集英社は9月以降の雑誌扱い新刊コミックスが対象。
 RFIDは「しおり」の中に埋めこまれ、製本会社で挿入される。

 本クロニクル168で、PubteXが講談社、小学館、集英社と丸紅がAI活用ソリューション事業のために立ち上げられたこと、また前回の本クロニクルでも、どうなっているのかと書いたばかりであった。
 このRFID事業の他にも、AIによる配本最適化ソリューション事業も進め、出版界のサプライチェーンを再構築していくとされるが、まずはRFIDのほうはどうなるのだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



8.日販が商業文化施設の丹青社と連携し、メトロ溜池山王構内に無人書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」を秋にオープンし、持続可能な書店モデルの実現に向けた実証実験をする 。

 との連動は定かでないが、旬なテーマに特化した品揃えの商品展開、遠隔接客システムなどを導入とされる。
 こちらもどうなるのか。



9.東京書籍の高校用教科書『新高等地図』に1200ヵ所の大量訂正があり、2025年度分を最後に廃刊となる。
 20年度の教科書検定に合格し、同年は3万6千冊が配布され、全国シェアは8% 。

 たまたま戦前の中等学校教科書株式会社の『新選大地図外国篇修正版』を入手し、それについて書いていたのである。
 奥付を見ると、昭和13年初版で訂正と修正を繰り返しながら、16年には修正6版となっている。
 このように地図は修正と訂正の重版を反復しながらもロングセラー、定番商品となっていく。その意味で、ただちに廃刊という処理は校正、校閲のスタッフ不足による大量訂正が発生したことに尽きるだろう。
 私も年齢的なこともあり、年を追うごとに校正、校閲が不得手となっているので、他人事ではないと実感してしまう。



10.『朝日新聞』(7/31)が「司書を22年『切られるとは』」という記事を発信している。
 埼玉県狭山市の非正規司書の60代の女性が3月末で「切られる」ことになった。
 それは2020年に始まった非正規地方公務員の新しい任用制度「会計年度任用職員」によるもので、任期は一年以内、総務省マニュアルで「自動更新の再任用は原則2回まで」という基準を例示したため、今年3月末で多くの人が仕事を失うとされ、「2023年問題」と呼ばれていたという。

 本クロニクル182で、日本図書館協会による非正規職員の処置改善要望書の送付にふれておいたが、やはりアリバイ工作にすぎず、相変わらず、非正規職員の問題は何の解決も見ていないのであろう。
 私も顔見知りの図書館職員が非正規で、やはり一年ごとの更新の繰り返しで、その時期がくると憂鬱だとの話を聞いている。
 おそらくどこの図書館においても、非正規職員がコアでありながらも、不安定なポジションに置かれ、それでいて中枢の仕事を担うことで、図書館が稼働していると察せられる。それに正規職員とのヒエラルキーも存在していよう。
 これらの記事も、多少なりとも『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』が参照されているのだろう。
  



11.これも『朝日新聞』静岡面(8/23)によれば、伊東市で7月に着工予定だった新図書館建設が入札不調でストップする事態となっている。
 建設資材と人件費の高騰、参加企業の辞退、予定価格の超過が原因で、工事費総額37億円が現状では50億近くまで上がり、再入札も見送られた。
 伊東市の小野達也市長は2017年の市長選で、図書館、文化ホール建設を公約のひとつに掲げて初当選し、計画を進めていた。

 本クロニクル175で、公共施設を多く手がけている親しい建築家の言として、これからの市レベルの図書館建設は資金不足、税収減収、少子高齢化に伴う財政圧迫で、不可能になるのではないかとの将来予測を紹介しておいた。
 伊東市の例はまさにそれを象徴する事態を招来してしまったことになろうし、さらに他市でも同様のことが続いていくだろう。
odamitsuo.hatenablog.com



12.『新版 図書館逍遥』は発売中。
新版 図書館逍遙

 『近代出版史探索Ⅶ』は編集中。

 論創社HP「本を読む」〈91〉は「梶井純『戦後の貸本文化』」です。
ronso.co.jp

出版状況クロニクル183(2023年7月1日~7月31日)

23年6月の書籍雑誌推定販売金額は792億円で、前年比8.1%減。
書籍は420億円で、同4.7%減。
雑誌は371億円で、同11.7%減。
雑誌の内訳は月刊誌が313億円で、同11.1%減、週刊誌は58億円で、同15.0%減。
返品率は書籍が41.5%、雑誌が48.4%で、月刊誌は41.6%、週刊誌は48.4%。
いずれも40%を超える高返品率は2ヵ月連続で、月を追うごとに売上が落ちこみ、それが返品率の上昇へとリンクしているのだろう。
それだけでなく、売上の低迷による書店返品の増大、及び書店閉店で生じる返品量も重なっていると判断できよう。


1.出版科学研究所による23年上半期の出版物推定販売金額を示す。
 

■2023年上半期 推定販売金額
推定総販売金額書籍雑誌
(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)(百万円)前年比(%)
2023年
1〜6月計
548,151▲8.0328,416▲6.9219,735▲9.7
1月77,673▲9.047,441▲7.030,232▲11.9
2月99,792▲7.663,424▲6.336,368▲9.7
3月137,162▲4.790,558▲4.146,604▲5.7
4月86,595▲12.848,350▲11.638,245▲14.2
5月67,725▲7.736,625▲10.031,101▲4.9
6月79,203▲8.142,019▲4.737,185▲11.7

 上半期の出版物推定販売金額は5481億円、前年比8.0%減、書籍は3284億円、同6.9%減、雑誌は2197億円、同9.7%減。
 これに高返品率を重ねれば、下半期は最悪の出版状況を招来しかねないところまできているように思われる。
 ちょうど1年前の本クロニクル171において、取次と書店は体力の限界にきていると指摘しておいたが、まさに正念場を迎えているといっても過言ではない。



2.『出版指標年報2023』が日本出版インフラセンター、書店マスタ管理センターによる、23年3月28日時点の書店総店舗数は1万1149店、前年比457店減、坪あり店舗数は8478店、同328店減というデータを報告している。

shuppankagaku.shop-pro.jp

 つまり実質的に書店は1万店どころか、8500店を下回っていることになり、1960年代の2万6000店の4分の1になってしまったことになる。
 しかも6月の書店閉店数は62店に及び、TSUTAYAの大型店7店の他に、西友の9店が目立つ。前者は複合型書店、後者はスーパー内書店がもはやビジネスモデルとしての限界状況にあることを告げている。こうした閉店状況はまだ続いていくことは必至で、年内には8000店を割りこんでしまうだろう。
 トップカルチャーが不採算の10~20店を閉店、八重洲BCの赤字1.9億円なども伝えられている。



3.名古屋のちくさ正文館が7月末で閉店。
 『中日新聞」を始めとして、多くの記事などが出されているが、出版業界の切実な声を代表するものとして、「地方・小出版流通センタ通信」(No.563)を引いておく。

「3月の通信で、鳥取の定有堂の閉店を伝えましたが、今度は、名古屋の老舗ちくさ正文館の閉店(7月末)を伝えることになるとは思いもよりませんでした。当センター発足以来、扱い出版物に注目し、数多く仕入れてくれていた書店です。人文書を中心とした品揃えには定評があり、全国に知れ渡っていました。1961年創業で、約400平方メートルの店内に6万冊の本が並んでいます。古田一晴店長の仕入れの眼が光り、研究者や文筆家にも一目置かれてきました。約20年前から売り上げが縮小、建物の老朽化、諸経費の高騰、コロナ禍による来店者減が追い討ちをかけ、閉店を決めたそうです。寂しく、残念です。」

 閉店に合わせて皮肉な偶然といえるかもしれないが、古田一晴『名古屋とちくさ正文館』(「出版人に聞く」11)は重版したばかりで、在庫がある。読んで頂ければ、古田とちくさ正文館閉店に際しての何よりの手向けとなろう。
名古屋とちくさ正文館―出版人に聞く〈11〉 (出版人に聞く 11)



4.日販グループで書店事業を担うブラス、リブロプラス、積文館書店、Y・spaceの4社は10月1日付で合併し、新たにNICリテールズを設立。
 同グループのいまじん白揚も含め、出版社やメーカーの仕入取引窓口は新会社に一本化されるが、各社の屋号は継承し、教科書販売と図書館業務は既存法人が存続して継承する。

 前回の本クロニクルで、日販の小売り事業の営業赤字が1億5800万円だと既述しておいたが、4社の書店事業と仕入取引窓口の一本化によって、少しでも正味を改善しようとする試みであろう。
 しかしそのかたわらで、不採算店は増え続けるだろうし、店舗リストラは避けられず、その閉店に伴うコストは多大なものとなってしまうだろう。
 それでいて、教科書販売は既存法人が存続して担うということになり、これも奇妙な会社分割のかたちであり、各都道府県の教科書取次会社との関係はどうなっていくのだろうか。



5.CCCの第38期決算は703億600万円、前年同期比2.1%減、営業利益は前期比2倍の13億2200万円、経常利益は13億4700万円、(同46.1%減)。特別利益は216億300万円、特別損失123億9800万円、当期純利益は105億3600万円で、2期連続100億円を超えた。
 連結売上高は1086億7700万円、同40.3%減、営業利益は11億4200万円、同23.3%増の減収増益。特別損失は216億7400万円、純損失は129億9600万円、前期は98億3600万円の黒字。

 これは『文化通信』(7/4)の記事に基づくが、このようにCCCが決算を公表したのは初めてではないだろうか。
 この決算データに象徴されるように、CCCとその周辺が喧しい。前回の本クロニクルで、CCCと三井住友フィナンシャルグループの「Vポイント」、CCC、紀伊國屋、日販の新たな取次別会社設立発表、CCCの最大のFCトップカルチャーの日販からトーハンへの帳合変更を伝えている。
 今月もCCCはU-NEXTと提携し、動画配信なども利用できるサービス「TSUTAYAプレミアNEXT」を開始し、その子会社カルチュア・エンタテインメントは雑誌『季刊エス』『SS(スモールエス)』をパイインターナショナルに事業譲渡し、また学研HDと資本業務提携契約を締結している。
 CCC=TSUTAYA、日販とMPDはどこに向かっているのか。
 その後MPDはFC事業と卸事業を統合した新たな共同事業会社カルチュア・エクスペリエンスと社名変更し、10月1日に始動と発表した。 



6.書協の会員社の近刊情報誌「これから出る本」は12月下期号で休刊。
 22年度は23回発行し、合計掲載点数は2955点、のべ出版社数947社、1号あたり平均販売部数は8万1000部で、掲載点数と販売点数の長期的減少に歯止めがかからなかった。

 正直にいって、まだ出ていたのかという感慨しか浮かばない。
 1976年の創刊であるから、よくぞ半世紀も続いたというべきだろう。



7.『読売新聞オンライン』(6/26)によれば、北九州市の市立若松図書館の指定管理者である日本施設協会が、22年度の貸出冊数を水増し、不正に2万冊増やしていた。
 他の市立図書館管理者の選にもれたことが原因で、危機感から不正を行なったという 。

 本クロニクル181で、図書館個人貸出数が21年の5.4億冊に対し、22年は6.2億冊と回復していることにふれておいた。20年は6.5億冊だったのである。
 若松図書館のような不正貸出冊数の増加による回復とは思えないにしても、実際に多くの図書館で、そうした改竄が行なわれれば、確かに数字は変わってしまうだろう。
 『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』では日本施設協会を挙げていないけれど、全国的に見るならば、それこそ私たちが知らない指定管理者も多く存在していると考えられる。
 



8.『FACTA』(8月号)が井坂公明「『夕刊廃止』へ舵切った日経新聞」を発信している。

facta.co.jp

 新聞の夕刊廃止に関しては、本クロニクル177で、『静岡新聞』が3月末での夕刊廃止を伝えておいた。同紙はセット購読だが、朝、夕刊ともに50万部を超え、地方誌では唯一の存在ではないかとされていた。それが購読料3300円のままで夕刊を廃止したところ、どうなったのかを記しておきたい。
 私は『朝日新聞』をとっているのだが、郵便と重なるので、新聞配達のバイクとよく出会う。すると『静岡新聞』の夕刊廃止以来、夕刊の配達部数が月を追うごとに少なくなり、現在ではバイクのカゴの夕刊がかつての5分の1以下に減ってしまった。いやそれ以上かもしれない。そのために配達時間が30以上早くなってきている。
 そこで注視してみると、近隣で夕刊をとっているのは私だけになってしまったようなのだ。隣人も『静岡新聞』をとっていたけれど、夕刊廃止に伴い、この際だから止めてしまったとのことで、どうもそれが周囲でも連鎖して起きたようなのである。だから県全体で考えれば、朝刊も同様に減少したはずだ。
 また別のところで、新聞配達の人の収入が急速に減り、他にもアルバイトをしないとやっていけないとの声も聞こえてきた。
 これは地方紙『静岡新聞』夕刊廃止がもたらした卑近な例だが、全国紙の場合はどうなるのだろうか。



9.『世界』(8月号)で、最後の編集長渡部薫が「『週刊朝日』のカーテンコール」を語っている。 
 渡部によれば、編集長に就いた2021年4月時点で、「収益悪化の構造はすでに限界」であり、「刷れば刷るほど赤字」の状態に陥っていたという。

世界 2023年8月号

 前回の本クロニクルでも、『週刊朝日』休刊にふれているが、この渡部の言を凋落してしまった雑誌状況に当てはめてみれば、「収益悪化の構造はすでに限界」に達し、「刷れば刷るほど赤字」の雑誌も多くあると推測できよう。
 そのことに関連して、渡部の別の言も引いてみる。
「メディアの終焉は、そこで働く契約スタッフにとって職場の消滅ということだ。週刊朝日では「常駐フリー」と呼ばれる業務委託契約記者一三人とも契約を打ち切った。三〇年以上、携わったデザイナーも、DTPも、校閲にも、大きな犠牲を強いた。私も出来得る限りの伝手(つて)を頼ったが、芳しい結果につなげられなかった(後略)」
 そういうことなのだ。現在の出版業界において、ひとつの雑誌の終わりは多くの難民にも似た存在を派生させてしまうし、次なる雑誌を見つけることが困難になっている。
 それは出版社のみならず、取次や書店においても同様であるのだ。



10.書店で『昭和40年男』(8月号)が特集「俺たちの読書」、『クロワッサン』が特別編集「すてきな読書」であるのを見つけ、購入してきた。

昭和40年男 2023年8月号 Vol.80  クロワッサン特別編集 大人の知的好奇心を刺激する すてきな読書。 (MAGAZINE HOUSE MOOK)

 私は『昭和40年男』を初めて買ったが、「Born in 1965」ではないけれど、昭和40年代を学生として過ごしているので、このような切り口の読書特集もあることを教えられた。
 好企画だと思うし、これは本クロニクル178で既述しておいたが、『昭和40年男』がヘリテージに継承され、の『週刊朝日』と異なり、休刊にならなくてよかった。
 この特集には編集者たちのそうした思いも反映されているはずだ。またここに出てくる『人間の証明』の森村誠一の死も伝わってきた。

 『クロワッサン』のほうで読んでいたのはラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(吉沢康子訳、創元推理文庫)の一冊だけで、この特集分野における不明を恥じるしかない。
 そういえば、『あの本は読まれているか』はパステルナークの『ドクトル・ジヴァゴ』のことなので、DVDは観てみようと思っているうちにすでに半年が経ってしまった。
 そのようにして、老いの時間は過ぎていくのだろう。

あの本は読まれているか (創元推理文庫 Mフ 39-1)  ドクトル・ジヴァゴ (『ドクトル・ジヴァゴ』) ドクトル・ジバゴ アニバーサリーエディション [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [DVD]



11.岩田書院から『図書目録』と共に、「創立30周年記念謝恩セール本体価格の2割引+税」の案内が届いた。 
 そこには「新刊ニュース裏だより」(2023・06)も添えられ、次のように記されていた。

 現在の在庫総冊数は76,000冊。毎月の倉庫代だけでも30万円。このほか、取次店への出荷と、個人直送や、新刊の献本発送まで倉庫会社に依託しているので、その経費も含めると、毎月50~60万円になります。
 年間の売上げが1億円以上あったときは、この経費はそれほどの負担ではなかったのですが、いまは年間売上げが5000万円以下になっているので、かなりの負担になっています。そこで、この際、一気に在庫を減らしたい。事情をご理解ください。

 岩田書院は1993年に創業し、「ひとり出版社」ならではの歴史、民俗書を中心として、2023年6月時点で、トータルして1161点を刊行している。
 あらためて目録を繰ってみると、こういう言い方は適切ではないけれど、岩田書院がなければ上梓できなかったであろう多くの研究書、史資料を目にする。
 とりわけ地方の歴史、民俗研究者にとって、岩田書院は頼りになる版元であっただろうし、私の知人たちも実際に世話になっている。
 だがその岩田博も23年に「人生で初めて入院・手術」とあり、「次のセールは、岩田書院の廃業時期になるかもしれない。それは、いつ?」ともらしていることも付記しておこう。



12. 駒場の河野書店から暑中見舞代わりにと、明治古典会『七夕古書大入札会』目録を恵送された。

 その1の「文学作品」は近代文学の初版が勢揃いし、目の保養をさせてくれる。それはともかく意外だったのは3の「漫画・アニメ」で、明治古典会でも、これらが不可欠の分野になってきているのだろう。
 これは最近の古本屋の光景だったが、筑摩書房の『明治文学全集』の多くが50円均一で売られていたことに対し、通常のコミックのほうは100円となっていたことにはいささか驚かされた。
 だがそれが現在における出版物の事実なのだ。
明治文學全集 1 明治開化期文學集(一)



13.坂本龍一追悼特集が『新潮』『芸術新潮』『キネマ旬報』などで組まれている。

新潮2023年08月号  芸術新潮 2023年5月号  キネマ旬報 2023年6月下旬号 No.1924

 しかし誰も坂本が出版社を立ち上げていたことにはふれていないので、そのことを書いておく。
 坂本は1984年に本本堂という出版社を興し、冬樹社を発売元とし、高橋悠治との共著『長電話』やカセットブックを刊行し、本格的な出版活動にも乗り出すつもりでいたようだ。
 そのための出版企画、刊行予定書目として、『本本堂未刊行図書目録』(「週刊本」シリーズ、朝日出版社)も出されたのだが、実現に至らなかった。その未刊行本リストは80年代を象徴している。興味があれば、そちらを見てほしい。

長電話



14.平凡出版(現マガジンハウス)の木滑良久が93歳で亡くなった。
 彼は『週刊平凡』『平凡パンチ』『an・an』などの編集長を務め、『POPEYE』や『BRUTUS』を創刊している。

 前回の本クロニクルで、『アンアン』創刊号に携わって椎根和の『49冊のアンアン』に言及したが、平凡出版こそは戦後の高度成長期とともに歩んだ雑誌出版社であり、自由でアナーキーなひとつの「想像の共同体」だったようにも思える。
 木滑や椎根はその体現的な存在であった。
 たまたま木滑とほぼ時を同じくして、義母が96歳で亡くなり、その遺品の書籍に混じって『週刊平凡』最終号(1987年10月6日号)があり、もらってきた。
 義母は木滑と同世代ではあるが、『週刊平凡』を愛読していたとは思えない。だがこの雑誌はその時代を共有するものだったと考えられる。
 このようにして、かつての「国民雑誌」の時代も終わっていくのであろう。

49冊のアンアン  



15. 新聞の訃報記事で、漫画家、タツノコプロ元社長の九里一平の83歳の死を知った。

 ミラン・クンデラの死について書くつもりでいたが、ここでは久里にふれておきたい。おそらく私しか書かないと思われるからだ。
 九里のことは小学生の頃に読んだだけで、ずっと失念していたのだが、川内康範原作『アラーの使者』の漫画家だったのである。
 それを確認したのは2010年に刊行された『アラーの使者(完全版)』(「マンガショップシリーズ」359、パンローリング発売)によってだった。
 なぜこの『アラーの使者』に注視したかというと、川内こそは戦前のスメラ学塾の通俗的な後継者であり、それがタイトルに象徴されているからだ。ちょうど五味康祐が日本浪曼派の後継者だったように。 それゆえに漫画であったにしても、19550年代における川内と九里のコンビはそれなりの時代的意味が秘められていたのではないだろうか。
 だがこの頃、「マンガショップシリーズ」を書店で見かけない。どうなったのであろうか。

アラーの使者〔完全版〕 (マンガショップシリーズ 359)



16. 『新版 図書館逍遥』は7月上旬発売。
新版 図書館逍遙
ronso.co.jp

『近代出版史探索Ⅶ』は編集中。

 論創社HP「本を読む」〈90〉は「桜田昌一『ぼくは劇画の仕掛人だった』」です。
ronso.co.jp

出版状況クロニクル182(2023年6月1日~6月30日)

23年5月の書籍雑誌推定販売金額は667億円で、前年比7.7%減。
書籍は366億円で、同10.0%減。
雑誌は311億円で、同4.9%減。
雑誌の内訳は月刊誌が252億円で、同6.1%減、週刊誌は58億円で、同0.7%増。
返品率は書籍が40.8%、雑誌が45.9%で、月刊誌は46.3%、週刊誌は44.3%。
いずれも40%を超える高返品率で、23年下半期も高止まりしたままで続いていくように思われる。
月末になって、名古屋ちくさ正文館の閉店が伝えられてきた。


1.トーハンから出版社に対して、トップカルチャーの59店舗が日販、MPDからトーハンへの帳合変更が伝えられてきた。
 帳合変更は10月1日の予定。

 前回、未来屋書店の日販からトーハンへの帳合変更を取り上げたばかりだ。トップカルチャーのほうも本クロニクル172の『日経MJ』の「書籍・文具売上ランキング」第7位、売上高は257億円に及ぶ。
 はっきりいってしまえば、日販は未来屋とトップカルチャーの2社を合わせ、700億円以上の売上を失うことになる。このような事態はトーハンによる日販の一部吸収合併と見なすべきではないだろうか。
 ただ問題なのは、こうしたスキームを誰が描いているかにある。2016年の大阪屋と栗田出版販売の経営統合は『出版状況クロニクルⅤ』でトレースしておいたように、小学館や講談社などの大手出版社によって進められ、19年に楽天ブックスネットワークへと至っている。ところが今回の日販からトーハンの帳合変更の背景はまだ見えてこない。
 なお未来屋の決算は最終損益9億2800万円の赤字、トップカルチャーの第2四半期の営業損益は1億6600万円の赤字。



2.CCCと三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は来年春をめどとする「Tポイント」と「Vポイント」の新たな名称を「Vポイント」にすると発表。

 これも本クロニクル176などで既述しているが、当初はCCCが6割、MSFGが4割という株式保有スキームだった。
 だがその後の進展は困難で、とりあえず先行して、新生「Vポイント」が発表されたことになろう。
 株式のことといえば、1のトップカルチャーの19%を占める第2位株主はCCCだった。だが今回の日販、MPDからトーハンへの帳合変更で、その株式の行方はどうなるのだろうか。
 また長きにわたるCCC、日販、MPDの三位一体の関係も解体過程に入っている。
 そのことに注視しなければならない。
odamitsuo.hatenablog.com



3.今秋、紀伊國屋書店、CCC、日販が共同仕入れのための新会社を設立すると発表。

 これは紀伊國屋の高井昌史社長のコメントから考えると、3社が新たな取次別会社を設立し、紀伊國屋、CCCのFC書店、日販の子会社書店の1000店がそれに加わるというスキームである。
 当然のことながら、そこで意図されているのは表層的に1000店のバイニングパワーによる仕入れ正味のダンピングである。つまりMPDをモデルとする特販的出版取次バージョンだと考えるしかない。
 しかし3社の出自とDNPの相違、で見たような日販とCCCの問題を背景としていることからすれば、スムーズにことが進むとは思われない。日販とCCCはともかく、紀伊國屋のメリットはどこにあるのか、これもはっきりしていない。
 これも『ブックオフと出版業界』で既述しておいたが、かつて丸善が日販とブックオフと連携し、ブックオフ業態のチェーン化を試みたことを想起してしまった。もちろん失敗に終わったのであるが。
 またこれも本クロニクル168で、講談社、小学館、集英社と丸紅のAI活用のソリューション事業新会社「パブテックス」にふれているけれど、こちらはどうなっているのだろうか。
ブックオフと出版業界 ブックオフ・ビジネスの実像



4.丸善ジュンク堂の第13期決算は売上高663億9100万円、前年比35億円減、営業利益は1200万円、前年比95.7%減、最終損益は1億5900万円の赤字。前期は9000万円の黒字。

 これも本クロニクル180で、丸善CHIHDの連結決算にふれ、実質的に赤字だと述べておいたが、その事実が確認されたことなろう。おそらく店舗リストラが始まっていくと考えられる。
 丸善ジュンク堂の第6期から11期にかけての50億円を超える赤字は、同170、日販からトーハンへの帳合変更は同174で既述している。



5.三洋堂HDの加藤和裕社長が2億5900万円の営業損失となった決算説明会を開き、『新文化』(6/1)や『文化通信』(6/6)などによれば、次のように語っている。

 「営業損失となったのは1993年以来、30年ぶり。これは商売をやっている意味がない」し、「書店」は、「(本の)メディアとしての力が弱まっている」。複合書店業態にしても、「この世から複合書店はなくなるのではないか。我々は本を扱っているがゆえに、本と何かを複合させるという発想から脱却できず、赤字を招いた。本にこだわり過ぎた結果、この十数年の低落から抜け出せていない」と。

 加藤の言を引いたのは、前回の本クロニクルで三洋堂HDのデータを示したこともあるけれど、三洋堂の1975年の郊外店出店が嚆矢とされているからだ。
 彼の言葉には地方商店街の書店から、郊外店出店、複合店化、ナショナルチェーン化、株式上場、トーハン傘下書店に至る半世紀の書店の変遷の実感がこめられているように思う。
 2010年代後半は近隣の郊外ショッピングセンターに三洋堂が出店したこともあり、時々出かけ、その本と雑誌、ビデオとCDのセルとレンタル、古本と雑貨販売などの複合業態を目にしていた。しかし採算ベースにあるとは思えず、それもあってか、数年で撤退してしまった。すでにこの頃から複合書店も行き詰っていたはずだ。
 それでも三洋堂の株価が900円前後を保っているのは、トーハン傘下にあることに加え、このような前向きの情報開示によっているのであろう。
 それは日販傘下の文教堂のほぼ40円の株価がまったく動いていないことと対照的である。



6.日書連加盟店は前年138店マイナスの2665店となった。

 1986年のピーク時には1万2935店あったわけだから、ほぼ5分の1になってしまった。東京は前年13店減の264店。
 これも前回の「公共図書館の推移」で示しておいたが、22年の全国の公共図書館は3305館であるので、それをはるかに下回るのだ。ちなみに公共図書館は2006年から3000館を超えている。
 また日書連加盟店が二ケタマイナスとなっている県は、岩手、山梨、石川、福井、佐賀、宮崎で、23年はさらに拍車がかかるだろう。
 出版業界も書店の歴史と構造も知らない国会議員たちによる「町の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)が悪質な冗談を見なすしかないのは、その事実に加え、彼ら彼女たちの多くが読書と無縁の存在であるからだ。



7.日販GHDの連結決算は売上高4440億円、前年比12.1%減、営業損益は4億1700万円の赤字。
 経常損失は1億5800万円(前年同期は36億4800万円の黒字)。
 純損失は2億1800万円(同13億9100万円の黒字)。
 日販とMPDの取次事業売上高は4023億1400万円、同12.6%減、金額ベースで580億円のマイナスで、営業損益は24億2900万円の赤字。
 小売事業売上高は537億2400万円、同12.8%減で、営業赤字は1億5800万円(同2億4600万円の赤字)。


8.トーハンの連結決算は売上高4025億5000万円、前年比6.0%減、営業利益は2億2800万円、同81.4%減。
 純利益は3億1200万円(前年は16億4800万円の損失)。
 トーハンの単体売上高は3768億1100万円、同6.2%減、営業損益は4億8500万円の赤字だが、営業外収入によって経常利益8億2300万円(同17億2900万円の損失)。
 書店事業も10社で1億6600万円の経常損失。

 日販の商品売上高の500億円超のマイナスは276億円が「書店ルート減収」、84億円が「既存書店売上減少」、90億円が「閉店の影響」、110億円が「帳合変更の影響」とされる。
 それらのマイナスは「帳合変更の影響」を除いてトーハンも同様であろうし、要するに日販にしても、トーハンにしても、書店の売上の減少、閉店と新規出店の少なさが直撃している。しかし1で示しておいたように、「帳合変更の影響」が本格化するのは今期であることはいうまでもない。
 またコンビニルートも売上の激減と返品率の悪化によって、運賃コストも捻出できなくなっているようだ。



9.「地方・小出版流通センター通信」(No.562)においても、売上状況が厳しい中での決算が次のように報告されている。コロナ禍も収まり、新刊も増え、総売上高は9億1937万円と前年を上回った。ところがである。

 三省堂神保町本店、渋谷丸善&ジュンク堂の閉店、三省堂池袋店の規模縮小による返品が膨大の量となりました。図書館売上-9.28%、書店売上-28.8%、取次出荷+5.76%で総売上は2.32%増でしたが、粗利益は微々たる増加しかありませんでした。取次出荷に置いては、昨年に転換した楽天ブックスネットワークのリアル書店取引停止が影響して、昔の規模には戻りません。経費的には、管理費合計が13.99%減でした。営業損失は917万円となり、営業外収入1237万円で埋めて、最終当期利益439万円と、営業内黒字とはほど遠く、厳しい決算数字です。


 大手取次と規模は異なるにしても、現在の取次状況がそのままリアルに語られているといっていい。さらに今期は八重洲ブックセンター本店の閉店に伴う返品も生じるであろうし、それに丸善ジュンク堂のリストラも重なってくるまもしれない。
 そういえば、中村文孝『リブロが本屋であったころ』(「出版人に聞く」4)で語られていたように、地方・小出版社流通センターが発足したのは1976年で、それは4の三洋堂の郊外店出店と同時期だったことになる。
 このところ、コミックや写真集に関して書いているのだが、そのうちの多くが地方・小出版流通センターを経由していたことに気づく。
 それに多くのリトルマガジンの創刊とその流通を担ったのは同センターに他ならず、もう忘れられているかもしれないが、『本の雑誌』にしてもそうだったのである]

リブロが本屋であったころ (出版人に聞く 4)



10.小学館の決算は総売上高1084億7100万円、前期比2.6%増。
経常利益73億100万円、同18.4%増、当期利益61億6200万円、同2.8%増の増収増益。
 総売上高のうち出版売上は433億4600万円、同7.9%減、その内訳は雑誌が151億9400万円、同10.7%減、コミックスが130億2900万円、同10.6%減、書籍は151億2300万円、同2.1%減のいずれもがマイナスで、版権収入も106億5700万円、同5.2%減だが、広告収入は92億7600万円、同1.5%増、デジタル収入も451億9200万円で18.0%増。

 前回の本クロニクルで、KADOKAWAの決算において、「ゲーム事業」が好調であることを伝えたばかりだ。
 小学館の場合も、出版物売上はコミックスすらマイナスだが、デジタル収入のプラスが大きく、増収増益となっている。
 結局のところ、小学館もKADOKAWAも書店市場からテイクオフしつつあり、それは講談社、集英社も同様だ。
 かくして書店市場とともに歩み、成長してきた大手4社にしても、紙ではなく、デジタル分野へと移行しつつあることを告げていよう。



11.『週刊東洋経済』(5/27)が特集「アニメ熱狂のカラクリ」を組んでいる。そのリードは次のようなものだ。

 10年で市場は2倍以上に拡大―アニメは今の日本で希有な成長産業だ。動画配信の普及、アニメ映画のヒット連発で、世界に商機が広がる中、企業は投資を加速させる。出資者と制作者との不釣り合いな収益分配など、長年の課題を抱えながらも、熱狂が続く。そんなアニメマネーから目が離せない。

週刊東洋経済 2023年5/27号[雑誌](アニメ 熱狂のカラクリ)

 この特集は世界市場規模とその広がりから、アニメ制作の現場、声優たちの過酷な境遇に至るまでを取材し、私のような門外漢でも教えられることが多かった。
 とりわけ「出版社がボロ儲け 狂乱のIP(漫画の知的財産)パブル」は、コミックスとアニメのメディアミックスによる版権収入が集英社、小学館、講談社の業績を支えていることを明らかにしている。それが現在の大手出版社のトレンドなのだ。
 私のアニメは1995年の押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』あたりで止まっているので、その後のアニメを観ていない。反省しなければならない。
Ghost in the Shell: Stand Alone Complex Complete Series Collection - Blu-ray



12.国会図書館のデジタル化事業のもとで、図書館が所蔵資料の一部分をメールなどで利用者に送信できる新制度が6月1日に施行された。
 これは改正著作権法に基づき、流通している本もパソコンなどで読めるようになり、権利者保護のために1冊の1部分に対し、最低500円の補償金額が必要とされる。

 これと関連して、日本出版著作権協会(JPCA)が「国会図書館のデジタル化事業についてここで一旦立ち止まるべきであると、考える」という声明を発表し、国会図書館と文化庁著作権課に送付している。
 これは前回の本クロニクルで挙げた『出版権をめぐる攻防』の緑風出版の高須次郎によるもので、同書と併読されれば、著作権法とデジタル化の問題のコアの在り処がわかるであろう。
 出版権をめぐる攻防



13.日本図書館協会が全国の都道府県知事や市長に対し、公立図書館に勤める非正規職員の処置改善を求める要望所を送付。

 これは『東京新聞』(6/7)などで大きく報道されている。だが発端は『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』において、「官製ワーキングプアの実態」が広く知られたことで、日本図書館協会がアリバイ工作的に出したとしか考えられない。
 このような要望書の送付とマスコミ発表によって、公共図書館における、その76%に及ぶ非正規職員の処遇が改善されるわけでもないことは自明であるからだ。それに司書資格取得が「資格トレトレ詐欺」に近いと指摘されたことにも起因しているのだろう。
 



14.『新文化』(6/1)が「『インボイス制度』出版業界の対応は?」という一面特集を掲載している。
 「インボイス制度」とは「適格請求書等保存方式」のことで、事業者が消費税の控除や還付を受ける際に、課税事業者のみが発行できる適格請求書が必要となる。
 出版業界では著者、翻訳者、ライター、デザイナーなどのフリーランスで、年間1000万円以下で消費税納税を免除されてきた事業者が多く、その対応に追われている。
 この特集ではいち早く「インボイス制度反対」声明を出していた日本出版者協議会の水野久会長(晩成書房)を中心として特集が組まれているので、彼の言を引いておく。

 誰が納税するかを民間に決めさせるもの。本づくりに携わる現場の人間を対立させ、負担を強いる。出版文化にとって、なにひとついいところのない制度です。
 問題ばかりの制度だが、仕組みが煩雑で、正確に理解している人は多くない。十分に周知されていないのです。
 出版に携わる個人事業主はいま、業界がどのような方向に進むのか不安を感じている。彼らと密に連携し、本づくりをしてきた中小出版社団体である私たちは、意思表示する義務がある。

 本クロニクル171で、日本漫画家協会のインボイス制度の反対声明を既述しているし、の地方・小出版流通センターも、取引出版社の多くが免税事業者となる可能性が高く、対応に苦慮していると述べているが、本当に10月からのインボイス制度実施は中小出版社を直撃するので、そのために廃業や倒産に追いやられるところもでてくるとも考えられる。

odamitsuo.hatenablog.com



15.『週刊朝日』(6/9)が表紙に「101年間、ご愛読ありがとうございました。」の言葉を付し、休刊となった。

週刊朝日 2023年 6/9 休刊特別増大号【表紙:撮影/浅田政志】 [雑誌]

 あらためて考えてみると、朝日新聞社の場合、1990年に『アサヒグラフ』、92年に『朝日ジャーナル』が休刊となっている。
 『朝日ジャーナル』の創刊は59年だから、朝日新聞社には戦後になって一般週刊誌の『週刊朝日』、報道写真誌『アサヒグラフ』、政治、思想誌としての『朝日ジャーナル』の週刊誌3派鼎立時代を迎え、それが30年近く維持されてきた。その全盛は60年代から70年代にかけてであろう。
 それは言い換えれば、新聞と週刊誌の蜜月の時代だったが、再販制と宅配の新聞販売店によって営まれてきたのである。
 ところがデジタル化の時代を迎え、『週刊朝日』も休刊となってしまった。『朝日ジャーナル』の場合、休刊後の93年に『朝日ジャーナルの時代』という大冊アンソロジーが編まれ、刊行されたが、『週刊朝日』はすでに『「週刊朝日」の昭和史』全5巻が出版されているので、平成における試みはなされないままに忘れられていくように思える。
  



16.『東京人』(7月号)が特集「僕らが愛したなつかしの子ども雑誌」を組んでいる。

東京人2023年7月号 特集「なつかしの子ども雑誌」[雑誌]

 大手出版社の児童雑誌にもっと照明が当てられるべきだと常々思っていたので、時宜を得た企画である。
 山下裕二が語る「学年誌の表紙画家玉井力三」の再発見もうれしい。それにこの特集は「学年誌は「学年誌のターニングポイント」と「出版史」の二本を受け持っている野上暁からのサジェッションを多く受けていると思われる。
 野上暁『小学館の児童書と学年誌』(「出版人に聞く」18)に語られているように、野上は実際に『小学一年生』の編集長を務め、しかも長きにわたって学年誌と児童書、及び児童文学の最前銭にもいたので、こうした特集には不可欠の人物だったのである。
 この特集を読むことで、同書において聞きそびれてしまった多くが想起され、後悔の念にかられるけれど、こうした機会を得て、野上がそれらの欠落を埋めてくれれば、何よりだと思う。
小学館の学年誌と児童書 (出版人に聞く 18)



17.バルザック原作のフランス映画『幻滅』を観てきた。

 それはかつて私が40ページほどの「バルザック『幻滅』の書籍商」(『ヨーロッパ本と書店の物語』所収)の一編を書いていたことにもよっている。
 この『幻滅』は19世紀前半のフランスの出版業界を舞台とするもので、映画のほうでは描かれていないが、当時の出版業界の実相を浮かび上がらせて興味深い。そのこともあって既訳では意味不明なところもあり、該当部分は私訳している。
 主人公の文学志望者リュシアンは取次において、出版者と取次仕入れ担当者との会話を耳にする。それは拙著の72、73ページ示しておいた。少しばかり我田引水的に日本の出版取引用語を当てはめているけれど、このように解釈すると、フランスの当時の出版社と取次の実態が明らかになってくる。
 ただ残念なのは映画において、これらのシーンは省かれていることで、その理由は新聞ジャーナリズムのほうに焦点が当てられたことによっている。
 拙訳も読んでほしいのだが、これも品切である。それでも図書館にはあるだろうし、映画のほうを観て、興味を覚えて読んで頂ければ幸いだ。

ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)  幻滅 ― メディア戦記 上 (バルザック「人間喜劇」セレクション <第4巻>)   



18.椎根和『49冊のアンアン』(フリースタイル)読了。

49冊のアンアン

 『幻滅』の後にはこれを推奨するしかない。1970年に創刊された『アンアン』を語ってすばらしい一冊で、椎根こそは銀座の雑誌編集の快楽を教えてくれる比類なき編集者であることが実感される。
 私たちは書籍編集しか知らない貧しい編集体験しかないからだ。それゆえに『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』においても、椎根の『銀座Hanako物語』(マガジンハウス)を雑誌バブルと消費社会の快楽を描いた一冊として、絶賛しておいたが、そのプレリュードが『アンアン』だったとわかる。
 『アンアン』とは女性ファッション誌をよそおっていたけれど、本格的な消費社会の訪れの中でめばえつつあった写真とファッションの狂気と愛を表出させようとしていたのである。
 謎のようでもあり、アナーキーな編集者としての椎根は堀内誠一と女性たちのみならず、多くの写真家、デザイナー、編集者たちを召喚することで、それを実現したといえよう。

 銀座Hanako物語――バブルを駆けた雑誌の2000日  



19.『股旅堂古書目録』27が届いた。
 今回の特集は「明治大正昭和売春史考~遊郭/公娼/私娼/吉原/玉の井/赤線・・・」である。


 股旅堂は本クロニクル172の風船舎と同様に、古書目録を送られるたびに紹介してきた。それはいつもテーマ別の厚い編集によって、必ずひとつの分野のアーカイブを形成していたからである。
 そのことを通じて、公共図書館の日本十進分類法とはまったく異なる書物群とその宇宙が出現している。図書館が購入先となっているかは不明だが、今回の『股旅堂古書目録』の後記には「公費・経費で御購入下さるお客様へ」として、「インボイス(適格請求書)発行事業者となる申請を見合わせる予定」だという告知がなされている。
 中小出版社、地方・小出版流通センターのみならず、古本屋もインボイス制度に苦慮しているとわかるし、目録販売に関しても重大な問題となっているのだ。



20.『新版 図書館逍遥』は7月3日発売予定。
新版 図書館逍遙
ronso.co.jp

 論創社HP「本を読む」〈89〉は「冨士田元彦『さらば長脇差』と大井広介『ちゃんばら芸術史』」です。
ronso.co.jp