出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話302 新島広一郎『講談博物志』と講談本出版


前回の末尾のところで、新島広一郎の『講談博物志』に言及したが、これは講談本に対する情熱と長い年月にわたる収集をベースにした驚くべき労作である。その収集は明治二十年代の大川屋の講談本から始まり、昭和六十年の講談社の「歴史講談」に至る、ほぼ百五十四シリーズに及ぶもので、しかもそれらのすべての書影を掲載し、それぞれの内容にもふれている。

これらの講談本は同書でしか見ることができないものも多く、それらの書影をたどっていくのは未知の扉を開いていくようでもあり、また私見によれば、講談本という分野を広く網羅することで、『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』を補充する重要な出版史資料と判断していい。それゆえに多くの知らなかったことを教えてくれる。

だが『講談博物志』は私家版で少部数刊行されただけであり、同書に目を通している読者は少ないと考えられるし、古書市場にも見出すことが困難である。それでも最近の中野書店の古書目録に初めて掲載されているのを見た。それらのことを考えると、同書を紹介することは本連載の義務のようにも思われるので、煩をいとわず、そのシリーズ名だけでもラインナップしておきたい。ただ30は本連載274でふれた池田蘭子『女紋』、31から36も同じ立川文庫の復刻なので、省略する。

女紋

明治時代

1 大川屋書店(東京)    約四百巻
2 両輪堂(東京)       巻数不明
3 文事堂(東京)       百巻
4 三新堂(東京)       約八十巻
5 中村惣次郎(日吉堂・東京) 巻数不明
6 松陽堂(東京)       巻数不明
7 金桜堂(東京)       百巻
8 朗月堂(東京)       約百巻
9 東京共盟館(東京)     巻数不明
10 名倉昭文館(大阪)     七十五巻
11 天国屋書店(東京)
12 春江堂(東京)      百二十巻
13 中川玉成堂(大阪)    約二百巻
14 岡本偉業館(大阪)    百三十二巻
15 新聞講談(地方の中小新聞も含め、多くの新聞が掲載)
16 樋口隆文館(大阪)    百巻
17 此村欽英堂(大阪)    約百巻
18 博多成象堂(大阪)    約百巻
19 岡本増進堂(大阪)    約百巻
20 立川文明堂(大阪)    約百二十巻
21 松本金華堂(大阪)    巻数不明
22 柏原奎文堂(大阪)    百五十巻

大正時代

23 大川屋書店各種文庫(東京)
24 袖珍講談文庫(金正堂・文祥堂・大阪) 約二十巻
25 講談文庫(日吉堂・東京)   二十巻
26 通俗武士道(求光閣・東京)  二十巻
27 仇討文庫(尚文館・東京)    巻数不明
29 立川文庫(立川文明堂・東京)  約二百巻
37 家庭新お伽噺(今古堂書店・東京) 四十巻
38 家庭お伽噺 (榎本書店・大阪)  約五十巻
40 史談文庫(岡本偉業館・大阪)  約百二十巻
41 日本文庫(湯川書店・大阪)   三十巻
42 岡村講談叢書(岡村盛花堂・東京)  二十四巻
43 天狗文庫(榎本書店・大阪)   約三十巻
44 新著文庫(岡本増進堂・大阪)  八十五巻
45 寸珍叢書(岡村書店・東京)   約三十
46 榎本文庫(榎本書房・大阪)   約五十巻
47 ポケット叢書(岡田文祥堂・大阪)  約五十巻
48 怪傑文庫(日吉堂・東京)    三十巻
50 壮快文庫(秀美堂・東京)    三十巻
51 忍術文庫(日吉堂・東京)    三十巻
52 怪傑文庫(三盟社・東京)    巻数不明
53 ともえ文庫(加藤一郎・大阪)  七巻
54 さくら文庫(大川屋書店・東京)  約八十巻
55 英雄文庫(日吉堂・東京)    二十巻
56 英勇文庫(榎本書店・大阪)   約百二十巻
57 武士道文庫(榎本書店・大阪)  四十巻
58 面白文庫(国華堂本店・東京)  巻数不明
59 忍術豪傑長編文庫(中村日吉堂) 十六巻
60 長編講談(榎本書店・大阪)   約八十巻
61 大和文庫(榎本書店)      三十六巻
62 怪傑文庫(榎本書店)      巻数不明
63 長編講談(博文館)       百二十五巻
64 八千代文庫(大川屋書店)    約百巻
65 湯川文庫(湯川明文館・大阪)  十八巻
66 活動文庫(島鮮堂書店・東京)  約三十巻
67 五栄文庫(五栄館書店・東京)  百八巻
68 大正文庫(駸々堂・大阪)    百巻
69 講談文庫(中村日吉堂・東京)  十六巻
70 キネマ文庫(島鮮堂・東京)   三十二巻
71 やよひ文庫(加賀屋書店・東京) 三十二巻
72 怪談文庫(春江堂・東京)    十巻
73 豆本文庫(三盟社書店・東京)  巻数不明
74 花形文庫(中村日吉堂・東京)  二十四巻
75 浪花文庫(榎本書店・東京)   巻数不明
76 朝日文庫(島鮮堂書店・東京)  三十二巻
77 忍術文庫(榎本書店・大阪)   巻数不明
78 ポケット講談文庫(立川文明堂)  四十巻
79 敷島文庫(春江堂・東京)    二十巻
80 美久仁文庫(明文館・大阪)   約七十巻
81 錦文庫(榎本書店・大阪)   約三十巻
82 千代田文庫(春江堂・東京)   約三十巻
83 岡本長編講談(岡本増進堂・大阪)  約六十巻
84 美やこ文庫(綱島書店・東京)   四十巻
85 武士道文庫(聖光社書店・大阪)  巻数不明
86 キング叢書(榎本書店・大阪)   五十四巻
87 花王文庫(榎本書店)       二十四巻
88 東洋文庫(聖光社書店・大阪)   約十巻
89 大和文庫(大盛堂書店・東京)   三十二巻
90 旅行文庫(大川屋書店・東京)   十巻
91 君ヶ代文庫(岡村書店・東京)   約百巻
92 朝日文庫(榎本書店・大阪)    十六巻
93 日本講談叢書(湯川明文館・大阪)  二十巻
94 名作講談集(近代文芸社・大阪)  三十巻

昭和戦前

95 講談社各種講談全集(次回に別述するので省略)
96 忍術文庫(榎本書店)    二十巻
97 日の丸文庫(中村書店・東京)   巻数不明
98 名作長編講談(富士屋書店)   八十巻
99 丸三文庫(忠文館・大阪)    二十巻
100 好評講談(春陽堂・東京)   巻数不明
101 講談文庫(日本講談社・東京)  十五巻
102 きんぐ文庫(榎本書店)    四十巻
103 皇国武士道文庫(不動社・東京)  五十巻
104 忍術痛快文庫(春江堂・東京)   二十巻
105 忍術ポケット文庫(積文館・大阪)  四十巻
106 英雄豪傑文庫(春江堂・東京)   二十巻
107 傑作講談(富士屋書店・東京・大阪)  十巻
108 ポケット講談(榎本書店)    十四巻
109 名作新長編講談(大川屋書店・東京)  約六十巻
110 美久仁文庫(榎本書店)   十八巻
111 豪傑文庫(榎本書店)     巻数不明
112 評判長編講談(村田松栄館・大阪)  二十巻
113 評判忍術文庫(村田松栄館・大阪)  十巻
114 講談文庫(大盛堂・東京)  巻数不明
115 日本講談文庫(大川屋書店) 巻数不明
116 ときわ文庫(丸山東光堂・大阪) 約五十巻
117 忍術ポケット文庫(尚文社)  四十巻
118 新講談文庫(春江堂・東京)  巻数不明
119 少年講談(大日本雄弁会講談社)  巻数不明
120 文庫名なし(講談社)  巻数不明

昭和戦後

121 読切名講談集(講談社)   戦後最初の講談本
123 少年講談(金鈴社・東京)  約二十巻
124 豪傑文庫(大衆文庫社・大阪)  巻数不明
125 豪快文庫(時代読切社・東京)  十巻
126 新立川文庫(育英出版・大阪)  九巻
127 少年少女講談文庫(黎明社・東京)  十二巻
128 少年講談(育英出版・東京)  巻数不明
129 少年家庭講談(集英社・東京)  九巻
130 大平文庫(大平書房・東京)  六巻
131 少年講談(みどり社・東京)  巻数不明
132 千代田文庫(キング出版社・大阪)  四十巻
133 あやめ文庫(白水社・大阪)  二十巻
134 あやめ文庫(あやめ出版社・東京)  二十巻
135 少年講談文庫(黎明社・東京)  十巻
136 しのぶ文庫(皆書房・東京)  巻数不明
137 真説講談文庫(松要書店・大阪)  十巻
138 長編講談(富士屋書店・東京)  約八十巻
139 講談全集(講談社)  四十五巻
140 少年痛快講談全集(太陽少年社・東京) 約四十巻
141 評判長編講談全集(金園社・東京)  二十一
142 少年少女(少年講談社・東京)  巻数不明
143 長編講談全集(長編講談刊行会・東京)  約四十巻
144 さくら文庫(欧友社・東京)  約十巻
145 少年講談絵物語全集(鶴書房・東京)  十巻
146 少年講談全集(大日本雄弁会講談社) 三十巻
147 評判講談新書(共栄社・東京)  十六巻
148 きょうず講談(日本教図KK・東京)  巻数不明
149 少年少女物語文庫(集英社・東京)  三十巻
150 講談名作全集(普通社・東京)  五巻
151 サンデー講談(一水社・東京)  十二巻
152 定本講談名作全集(講談社)  八巻
153 講談名作文庫(講談社)  三十巻
154 歴史講談(講談社)  十巻

この明治から昭和に至る、途切れることのない講談本リストを見ると、語り物としての講談はともかく、出版物としても明治、大正、昭和と息長く延命してきたことが伝わってくる。それにこれまで取り上げてきた特価本業界の出版社が何と多く登場していることだろうか。5や51や59に見られるように、本連載289290の中村書店もまたその前身は講談本出版社だったのだ。そしてあらためてこれらの出版社から膨大な講談本が出され続けてきたことに驚きを覚える。

私は「講談本と近世出版流通システム」(『古本探究』所収)や本連載などで、昭和円本時代に赤本業界が出していた講談本が講談社の『講談全集』などに奪われ、また大衆文学の誕生によって、そこで講談は衰退していったのではないかと述べてきた。だがこのリストからすれば、戦後に至るまで講談はまだ多くの読者を獲得していたことになるし、時代小説、映画などの時代劇、貸本マンガなどのバックヤードであったと痛感する次第だ。
古本探究

[関連リンク]
◆過去の[古本夜話]の記事一覧はこちら