出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル145(2020年5月1日~5月31日)

 20年4月の書籍雑誌推定販売金額は978億円で、前年比11.7%減。
 書籍は476億円で、同21.0%減。
 雑誌は501億円で、同0.6%減。
 その内訳は月刊誌が422億円で、同1.8%増、週刊誌は78億円で、同11.6%減。
 返品率は書籍が32.5%、雑誌は39.9%で、月刊誌は39.4%、週刊誌は42.6%。
 書店売上は書籍が15%減、雑誌は定期誌13%減、ムック30%減、コミックス12%増で、『ONE PIECE』(集英社)、『進撃の巨人』『五等分の花嫁』(いずれも講談社)の新刊発売、『鬼滅の刃』既刊全19巻の重版が寄与している。
 なお念のために確認しておくが、この出版科学研究所によるデータは、取次出荷金額から、取次への書店返品金額を引いたもので、書店での実売金額ではない。
 そのことから、他業種の売上落ちこみデータとの乖離が必然的に生じてしまう事実を承知されたい。

ONE PIECE 進撃の巨人 五等分の花嫁 鬼滅の刃


1.『日経MJ』(5/22)に衣料品・靴専門店13社の4月販売実績が掲載されている.前回と同様に、リードの書店販売状況と比較する意味で、再び引いてみる。

■衣料品・靴専門店販売実績 4月(前年同月比増減率%)
店名全店売上高既存店売上高既存店客数
カジュアル衣料ユニクロ▲57.7▲56.5▲60.6
ライトオン▲80.2▲79.6▲77.0
ユナイテッドアローズ▲91.1▲91.4▲91.4
マックハウス▲63.6▲60.6▲62.5
ジーンズメイト▲67.9▲72.0▲66.8
婦人・子供服しまむら▲27.9▲28.1▲27.0
アダストリア▲68.3▲67.8▲61.0
ハニーズ▲63.5▲50.7▲52.1
西松屋チェーン1.02.1▲2.6
紳士服青山商事▲70.6▲68.3▲58.8
AOKIホールディングス▲49.0▲37.2▲32.1
チヨダ▲43.7▲43.4▲43.3
エービーシー・マート▲69.3▲45.2▲44.2

 いずれも3月の倍以上のマイナスで、小売業としてはすさまじいばかりの落ちこみというしかない。
 新型コロナウィルスの影響による休業や時短の店舗の拡大によるものだ。ユナイテッドアローズは全242店のうち、4月末にはアウトレットの1店だけが営業という状態で、前年同月比91.1%減となっている。私は3月に駅ビルショッピングセンター内のユナイテッドアローズでシャツを2枚買ったばかりだが、4月はそこも休業となったのであろう。
 ユニクロやアダストリアも同様で、EC売上高はプラスとなったが、それで補うことはできず、マイナスは大きい。
 しまむらは休業店は少なく、時短営業を続けたことで、27.9%減の落ちこみにとどまったことになる。
 紳士服も靴もやはりマイナスは大きく、外出自粛に加え、在宅勤務も影響しているのだろう。5月7日からは営業を再開する動きもあるけれど、どこまで回復するだろうか。
 これ以上のマイナスはないにしても、3月並の売上に戻せれば幸いといっていいかもしれない。
 百貨店の4月売上も1208億円、前年同月比72%減で、3月の33.4%減の倍以上と、過去最大の落ちこみである。
 コンビニ売上高は7781億円、同10.6%減だが、こちらも過去最大のマイナスとなっている。



2.アメリカの新型コロナウィルス影響は、衣料品大手チェーンのJクルー、フィットネスクラブのゴールドジム、高級百貨店のニーマン・マーカス、同じく大手百貨店JCペニーの経営破綻が続出し、日本以上に深刻化してきている。
 またカジュアル衣料のギャップも手元資金を確保するために、北米店舗の賃料支払いを中止し、8万人の従業員を一時解雇すると発表し、リアル店舗の危機も伝わってくる。
 あるコンサルト会社の指摘によれば、ポストコロナ期には、財務的に体力のない小売業はすべて淘汰されるのではないか、また別の調査会社によれば、20年には1万5000店が閉店し、企業の経営破綻が続いていくと予測されている。

 20世紀の戦後日本の小売業はアメリカを範として誕生し、成長し続けてきた。それはスーパーから始まり、外食産業、に挙げた衣料品・靴専門店も同様だったし、書店も例外ではなかった。
 それはアメリカで起きたことは日本でも起きるし、先行するアメリカ消費社会は日本でも反復されると信じられたからである。しかし新型コロナウィルスによって、アメリカ消費社会が崩壊する危機に追いやられているとすれば、日本も同じように危機に見舞われていることになろう。
 その象徴はレナウンの破綻であり、同じくアパレルの三陽商会も赤字で、オンワードホールディングスは1400店を閉鎖するという。コロナだけでなく、国内アパレル市場はバブル期の15兆円から10兆円に縮小しているのに、供給量は20億点から40億点へと倍増していたのである。
 まったく出版業界と重なっているし、アパレル業界の出店と生産の過剰も他人事ではないと考えるしかない。



3.それならば、その先んじたアメリカ消費社会のモデルとしてのスーパーの現在はどういう状況にあるのか。スーパー3団体調査によれば、15ヵ月連続で既存店売上高は下回っていたが、2月からは大きなプラスに転じている。
 これも『日経MJ』(5/11)に「トップに聞く」として、日本スーパーマーケット協会会長で、食品スーパーのヤオコーの川野幸夫会長がインタビューに応じているので、それを要約してみる。
ヤオコーの3月既存店売上高は10%以上の高い伸びで、客単価も増加している。

★ 店は客と従業員の感染を防ぐために大変な状況にある。
★ 従業員の健康管理やストレス管理をしっかりやらなければ、ライフラインとしての役割を果せなくなるので、いかに感染を防ぐかということに細心の注意を払っている。
★ レジでは顧客との間を透明なシートで遮断し、混んではいけないので、特売チラシも配布していないが、それでも混んでしまい、入場制限した店もある。働く人を増やして、各人の作業量を減らしてあげるような策が必要だ。
★ 人手の確保は難しく、本部社員の多くが店に手伝いに行っている。外食産業で休業中の社員に来てもらっている。それは外食の場合、衛生管理などの訓練ができているので、スムーズに働き始められるからだ。
★ 消費動向はその日に食べないといけない総菜よりも、料理の素材となる肉や野菜などの生鮮が伸びている。コロナ前と逆の流れで、消費者はコロナの不安の中で、これからの生活がどうなるのかを一所懸命考え、家で料理したり、生活必需品を少し余裕をもって買っておこうという傾向が見える。
★ 消費者はコロナ情報にものすごく敏感になっているので、行政がコロナ対策で何か方針を発表すると、いきなり米や袋麺、パスタが売切れたりする現象が起きている。行政が緊急事態や外出自粛要請をする場合、前もってスーパー業界などに伝えてくれれば、それなりの準備ができるし、混乱を防げる。
★ 今のような非常事態は、ある意味で客の信頼を得ることができる絶好のチャンスです。長い目で見ると、ちゃんとした理念と志で経営している企業でないと続かない。米国の経済界でも株主第一主義を見直して、従業員や社会など幅広いステークホルダーを重視しようという議論が起きている。今回のコロナでそういう流れが加速しそうです。もうかればいいというわけでない。
★ 先を見れば、消費は低迷せざるを得ないし、収入の減る消費者は生活防衛のために価格にさらに敏感となるし、ネット通販との競争の激化している。スーパーにしても、安いところとライフスタイルを提案していくところに分かれていくだろう。


 拙著『〈郊外〉の誕生と死』でかつての消費社会のイデオローグとしてのダイエーの中内㓛、西武百貨店の堤清二、サミットの安土敏の存在を挙げておいたが、中内と堤はすでに鬼籍に入り、安土は退場してしまった。
 だがまだ川野幸夫が残っていた。前回は元すかいらーくの横川竟の言を紹介しておいたが、スーパーや外食の視点から語られる現状分析とその対策、今後の予測はリアルにして正当だと思える。
 だがコロナ禍の中で、出版業界は彼らに匹敵する言葉を誰も提出できていないし、そこにもまた現在の出版業界の危機が象徴されているだろう。
〈郊外〉の誕生と死



4.『文化通信』(5/18)や「新文化」(5/14)によれば、トーハン取引先書店の休業は700店、日販は640店。連休明けには前者は350店、後者は190店で再開を決めている。
 それらの主な再開店は全店ではないけれど、紀伊國屋書店、三省堂書店、くまざわ書店、丸善ジュンク堂書店、アニメイト、啓文堂書店、スーパーブックス、有隣堂、未来屋書店、文真堂書店などである。
 4月の書店売上はトーハンの場合、営業を継続した書店は前年同月比17%増だったが、休業店を含めると14%減。日販の場合も全体で6.1%減となっている。

 アメリカの場合はとりわけ独立系書店が経営危機にさらされ、それを救済する目的で、様々な寄付や支援キャンペーンがなされているという。
 日本の大型、複合書店の場合、高い家賃コストに加えて、多くのリース経費が相乗しているはずで、これらの長期の休業は書店の資金繰りへとダイレクトに跳ね返り、緊迫した経営状況の只中にあると思われる。
 しかしこれまでと異なり、取次にしても、関連企業にしても、コロナ禍により、体力が失われているので、従来のようなM&Aや再編による救済は難しいと考えられる。
 とすれば、その資金繰りは自己調達や公的資金の導入ということになる。アメリカではないので、先述のような広範な書店への民間支援キャンペーンは期待できないからだ。「ブックストア・エイド基金」も承知しているけれど。



5.広島の廣文館の元運営会社広文館が広島地裁から特別清算開始命令を受けた。負債は25億円。
 廣文館は1915年創業で、広島市を中心に15店舗を展開し、2001年には売上高51億円を計上していた。だが17年には43億円と減少し、しかも長年に及ぶ粉飾決算が発覚し、大幅な債務超過が明らかになった。
 18年には既存事業を継続する新会社と債務を引き継ぐ旧会社とに会社分割するために、トーハン、大垣書店、広島銀行が出資し、新会社「廣文館」を新設し、12店舗を営業。旧会社「広文館」は19年に解散、整理が進められてきた。

 これらの発端は本クロニクル128で伝えてきたが、今回の特別清算開始命令によって、とりあえず幕が降ろされたことになる。それにしても実際の負債や粉飾決算はどれほどだったのだろうか。
 やはり本クロニクル135で、広島を中心とするフタバ図書の粉飾決算、同138などで文教堂GHDの事業再生ADR手続きを伝えてきたが、コロナ禍の中で、それらの行方はどうなるのであろうか。

odamitsuo.hatenablog.com
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6.三洋堂HDの連結決算は売上高199億6500万円、前年比2.1%減、営業利益は1億5100万円、同370.1%増、親会社株主に帰属する当期純損失は13億400万円(前年は3億800万円の損失)。
 その内訳は「書店」部門売上が125億7000万円、同2.6%減、「レンタル」部門が20億4500万円、同12.3%減だが、フィットネスジムなどの「新規事業」、「文具・雑貨・食品」「古本」「TVゲーム」の4部門が健闘した。
 しかし当期は販売管理費の削減もあって、営業利益は伸長したが、繰延税金資産10億1500万円を取り崩した他、減損損失5億2500万円と計上したことで、最終利益は損失となった。

 来期については売上高190億円と予測されている。だが今期の決算はまだ新型コロナウィルスの影響は小さいが、来期は厳しいと判断するしかない。
 「書店」「レンタル」部門の大幅なマイナスは避けられないだろうし、フィットネスジムなどの「新規事業」も直撃されていて、現在の旧店舗以上の導入は難しくなるかもしれない。
 1975年の郊外店出店の嚆矢としての三洋堂も、どこに向かっていくのだろうか。



7.「しんぶん赤旗」(5/19)によれば、世界一の古書街とされる神田神保町の古書店も9割以上が休業となっている。

「書店」と異なり「古書店」は東京都の休業要請の対象となったことも反映されているのだろう。
 靖国通り沿いには128店の中小古書店があるが、大半がシャッターを閉めたままの風景が出現してしまった。
 それらの店は3分の1が自店舗で、その他は賃貸である。家賃は最低50万から150万円ほどで、さらに倉庫代や人件費が加わる。ある古書店は東京都感染拡大防止協力金100万円、国の持続給付金200万円を申請中だという。
 それだけでなく、さらに問題なのは、古書を売り買いする「市場交換会」が開けないことである。それは読者を対象とする古書市も同様で、一日も早い再開が望まれる。



8.昨年から『日本古書通信』に連載されてきた「初版本蒐集の思い出―川島幸希さんに聞く」がこの5月号で10回目の最終回を迎え、そこで「初版本の未来」が語られているので、紹介しておきたい。

★ 今回の新型コロナウィルスによって、古本屋の経営が一層厳しさを増し、廃業をせまられる店も出てくるのは必定です。そのことによって、初版本の未来も大きく変わっていく。
★ 近年初版本の価値は下落の一途を辿り、まだ底が見えていない。ただ泉鏡花・夏目漱石・太宰治のように下落率が低い作家と、島崎藤村・志賀直哉・川端康成・井伏鱒二といった「暴落」している作家に分かれてはいるけれど、「安くなっている」ことは確かで、物価がはるかに安い半世紀前と同じである。
★ これだけ古書価が下がることは初版本需要がないこと、絶望的なまでの現代文学初版本の不人気もあるが、最大の問題は初版本を購入する若い年齢層が薄いことだ。
★ 若いコレクターが育たないのは、近代文学作品を読んでいないこと、また経済的問題も見逃せない。
★ 若い人が参画しない趣味の世界の将来が暗いこと、初版本の世界も同様ではないかと危惧していたが、近年すこしだけ光明が見えてきたし、それは想像もしなかったところから見えてきた。
★ それは5年前の大学祭での太宰治展と翌年の夏目漱石展の開催の告知・宣伝のために「初版道」というカウント名のツィッターを始めたことによる。このツイートのほとんどは珍しい初版や署名本の紹介で、当初からフォロワー数は順調に増え、漱石展が終わる頃には5千人近くになっていた。
★ そこで継続することにし、フォロワーとの交流方法として、初版本プレゼントを考え、近代文学を代表する作家たちの初版本を贈る企画を始めた。しかも送料も含めて無料で。そして今日まで初版本をプレゼントしたフォロワーは約4千人、現在のフォロワー数は1万6千人となった。それらの人々が初版本を買ったり、大学で近代文学を学ぶようになったりもしている。
★ また最後に川島は付け加えている。もちろんこれらの人々が「初版本コレクター」になることは少ないにしても、「初版本の世界の魅力を発信し、サンタクロースのように本を贈り続ける。それが自分にしかできない使命だと思っています」と。


 私は初版本などにまったくの門外漢なので、この川島の「初版本の未来」に何のコメントも付せないけれど、「初版道」だけでなく、蒐集家による「署名本道」「限定本道」などのアカウントも立ちあがってくれればと思う。
 それからこれは奇異に思えるかもしれないが、本クロニクルにしても「出版業界の未来」に関して、現在状況の分析を通じて予測することを目的としているし、「それが自分にしかできない使命だ」と考えているのである。
 もうしばらく「サンタクロースのように」贈り続けることを約束しよう。



9.図書館などの被災・救援サイト「save MLAK」の新型コロナウィルスによる図書館動向調査によれば、対象1626館のうち、88%に及ぶ1430館が休館。
 その内訳は都府道県率図書館43館、市町村立図書館1387館。

 私が使っている市立図書館もずっと休館し、5月半ばに再開したけれど、新聞や雑誌の閲覧はできず、ほぼ貸出だけであるために、閑散としている。
 ただTRCの電子図書館サービスは全国276館に導入されているようだが、3月期の貸出は4万5100件、前年同月比255%増、4月貸出は6万7000件、同423%増となっている。
 これらがコロナ禍の図書館の光景をいえるが、書店や古本屋だけでなく、コロナ後の図書館もどうなるであろうか。



10.TRCの決算は売上高462億7800万円、前年比2.3%増、経常利益は23億7100万円、同12.0%増の増収増益。

 TRCの場合は、やはり公共図書館市場という安定した低返品率、及び出版社との直取引の拡大によって成長を続けていることになろう。
 それにでふれた電子図書館サービスの伸長も加われば、コロナ禍の中にあっても、来期も安定しているかもしれない。
 しかし図書館と読者をめぐる問題は必然的に変わっていくだろう。



11.KADOKWAの連結決算は売上高2046億5300万円、前年比1.9%の減、営業利益は80億8700万円、同198.7%増、経常利益は87億8700万円、同108.9%増
 当期純利益は80億9800万円(前年は40億8500万円の純損失)の減収増益。
 同社は子会社55社、持分法適用会社16社で構成され、出版、映像、ゲーム、ウェブサービスを事業領域としている。
 出版事業売上高は1173億3000万円、前年比1.2%増。電子書籍、電子雑誌は90億円超で、過去最高の売上。ネット書店などの売上も前年比50%増。
 ただ同事業の営業利益は62億4800万円、同13.9%減で、物流費増加の影響とされる。

  その一方で、KADOKWAは『東京ウォーカー』『横浜ウォーカー』『九州ウォーカー』を休刊すると発表。『東京ウォーカー』は1990年のバブル時の若い世代向けの情報誌として創刊されたことを思い出す。
 『東海ウォーカー』『関西ウォーカー』は刊行を続けるとされるが、いずれは休刊となるだろう。
またKADOKWAと角川文化振興財団は7月に予定していた大型文化複合施設「ところざざわサクラタウン」のオープンを11月以降に、6月予定だった「角川武蔵野ミュージアム」のプレオープンも7月下旬から10月に遅らせることを決定している。
 これらも新型コロナウィルスの影響であり、KADOKWAにしても、来期はコロナ禍と直面せざるを得ないだろう。
東京ウォーカー 横浜ウォーカー 九州ウォーカー 東海ウォーカー 関西ウォーカー



12.小学館の決算は総売上高977億4700万円、前期比0.7%増、経常利益55億7700万円、同26.8%増。当期利益39億2600万円の増収増益。
 そのうちの出版売上は497億1000万円、同8.8%減、広告収入は107億2900万円、同1.5%増、デジタル収入は248億5400万円、同21.1%増、版権収入等は124億5400万円、同8.6%増。
 出版物売上の内訳は雑誌が207億200万円、同9.8%減、コミックスが166億6800万円、同9.1%減。書籍が106億8800万円、同0.1%減、パッケージソフト16億5200万円、同33.3%減。

 今期において、小学館のデジタル収入は雑誌売上を上回り、さらにコミックと書籍の売上の合計金額にも迫り、総売上高の4分の1を超える規模になっている。
 来期はそれがさらに推進され、逆に出版売上はコロナ禍と相乗し、後退していくことになろう。



13.メディアドゥHDの連結決算は売上高658億6000万円、前期比30.2%増、営業利益は18億5300万円、同26.3%増、経常利益17億6100万円、同18.0%増。当期純利益は8億8400万円(前期は12億4300万円の純損失)となり、最高益を計上。
 同社は電子書籍流通事業が売上の98%を占め、その売上高は645億2900万円、前年比28.7%増、営業利益は18億6100万円、同15.0%増。

 メディアドゥの設立、株式上場、出版デジタル機構の買収などに関して、必要とあれば、『出版状況クロニクルⅤ』を参照してほしい。
 いずれにしても、11のKADOKAWA、12の小学館で見たように、電子書籍、電子雑誌の成長が好決算を支えていることになる。
 それは今回言及しなかったけれど、インプレスHD、イーブックイニシアティブジャパン、実業之日本社などの決算も同様で、新型コロナウィルスの影響を背景として、さらに推進されていくだろう。そのことが書店にどのような結果をもたらすかはいうまでもない。
出版状況クロニクル5



14.『FACTA』(6月号)にジャーナリストの永井悠太郎の「テレビ・新聞・出版『底なし収入減』」が掲載されている。
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 12で小学館決算における広告収入の微増を見たばかりだが、このレポートによれば、新型コロナウィルスの影響で、テレビと新聞の広告が急減しているようだ。
 とりわけ民放テレビは広告収入が要なのに、イベント収入も壊滅状態となり、20年はローカル局の赤字決算が相次ぎ、ローカル局再編が加速するとされる。
 また新聞も広告収入が激減し、在京4紙の3月の広告掲載段数は朝日新聞の前年同月比19.7%減を始めとして、大幅に下回っている。それは地方紙も同様である。
 新聞販売店の収入の柱であるチラシの減少も深刻で、千葉県では7割減というところも出てきている。
 出版関係にはふれなかったけれど、20年は雑誌広告の激減に見舞われるかもしれない。



15.『現代思想 』(5月号)が緊急特集「感染/パンデミック」を組んでいる。

現代思想

 これは緊急特集ということもあって、玉石混交の印象を否めないけれど、ヴィジャイ・プラシャド+マヌエル・ベルトルディ/粟飯原文子訳「パンデミックで人びとを破滅させはならない」の一読をお勧めしたい。そこでは16ヵ条の提言がなされ、これまで見たなかで最も見事なパンデミック処方箋のように思える。
 この執筆者たちと論考に関するコメントは何も付されていないが、アフリカから発信されたと見なせよう。



16.元小澤書店の長谷川郁夫がなくなった。享年72歳。

 長谷川とはもう30年以上会っていなかった。時の流れはあまりにも早く、毎月のように出版関係者も鬼籍に入っていく。
 残念なのは長谷川が第一書房史として『美酒と革嚢 』(河出書房新社))を上梓したにもかかわらず、自らの小澤書店史を書き残してくれなかったことだ。
 誰かが代わりに書いてくれるだろうか。
美酒と革嚢



17.『近代出版史探索Ⅱ』は5月末発売。
近代出版史探索Ⅱ
 今月の論創社HP「本を読む」52は「コーベブックス、渡辺一考、シュウオッブ『黄金仮面の王』」と奢霸都館」です。