21年11月の書籍雑誌推定販売金額は955億円で、前年比0.6%増。
書籍は542億円で、同11.0%増。
雑誌は412億円で、同10.4%減。
雑誌の内訳は月刊誌344億円で、同10.8%減、週刊誌は68億円で、同8.1%減。
返品率は書籍が33.6%、雑誌は41.3%で、月刊誌は40.7%、週刊誌44.2%。
書籍の2ケタ増は、前年同月の9.1%という大幅なマイナスに加え、10年ぶりの改訂『総合百科事典ポプラティア第三版』(ポプラ社、全18巻セット)が12万円で刊行されたことによっている。
雑誌は3ヵ月連続の2ケタ減で、定期誌、ムック、コミックスのいずれもが大きくマイナスである。
1.出版科学研究所による21年1月から11月にかけての出版物販売金額の推移を示す。
月 | 推定総販売金額 | 書籍 | 雑誌 | |||
(百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | (百万円) | 前年比(%) | |
2021年 1〜11月計 | 1,104,900 | ▲0.4 | 626,285 | 2.5 | 478,616 | ▲3.9 |
1月 | 89,651 | 3.5 | 50,543 | 1.9 | 39,108 | 5.7 |
2月 | 120,344 | 3.5 | 71,855 | 0.6 | 48,490 | 8.0 |
3月 | 152,998 | 6.5 | 97,018 | 5.9 | 55,980 | 7.7 |
4月 | 107,383 | 9.7 | 58,129 | 21.9 | 49,254 | ▲1.8 |
5月 | 77,520 | 0.7 | 42,006 | ▲0.9 | 35,515 | 2.6 |
6月 | 96,623 | ▲0.4 | 49,074 | 0.2 | 47,548 | ▲0.9 |
7月 | 82,077 | ▲11.7 | 42,677 | ▲4.6 | 39,400 | ▲18.2 |
8月 | 81,109 | ▲3.5 | 43,333 | ▲0.1 | 37,776 | ▲7.2 |
9月 | 110,221 | ▲6.9 | 65,922 | ▲3.8 | 44,299 | ▲11.1 |
10月 | 91,407 | ▲8.7 | 51,459 | ▲4.1 | 39,949 | ▲14.0 |
11月 | 95,567 | 0.6 | 54,269 | 11.0 | 41,297 | ▲10.4 |
21年11月までの書籍雑誌推定販売金額は1兆1104億円、前年比0.4%減である。この5年間でマイナス幅は最も小さいけれど、12月はどうなるのか。
20年はかろうじて1兆2000億円台をキープしたが、21年は難しいかもしれない。
2.日販の『出版物販売額の実態2021』が出された。
www.nippan.co.jp
販売ルート | 推定販売額 (億円) | 前年比 (%) |
1. 書店 | 8,519 | ▲0.7 |
2. CVS | 1,231 | ▲4.3 |
3. インターネット | 2,636 | 20.5 |
4. その他取次経由 | 425 | ▲9.8 |
5. 出版社直販 | 1,810 | ▲7.9 |
合計 | 14,621 | 0.9 |
これらに対して、タッチポイント市場規模上位3位は書店(構成比40.6%)、電子出版物は前年比33.5%増の4744億円(同22.6%)、インターネット(同12.6%)である。
書店は販売ルート、タッチポイント市場の双方がマイナスで、インターネットと電子出版物が大幅な伸びを示している。
出版科学研究所による2020年の出版物推定販売金額は1兆2237億円、前年比1.0%減だったので、販売ルート別も出版社直販1810億円を引けば、1兆2811億円となり、同じ1兆2000億円台となる。
いずれにしても、コロナ禍の巣ごもり需要とベストセラーコミックの恩恵も失速し、マイナス基調へと戻っていったことが浮かび上がってくる。
3.日販GHDの中間決算は連結売上高2463億9900万円、前年比1.5%増、営業利益16億4500万円、同17.4%増、中間純利益9億8200万円、同236.1%増の増収増益。
日販単体は売上高2010億6500万円、同3.5%増、営業利益は4億3700万円(前年同期は1億1000万円の損失)、純利益は3億4800万円(同8400万円の損失)と黒字転換。
4.トーハンの連結中間決算は売上高2130億4100万円、前年比9.6%増、営業利益は11億2600万円、同43.7%減、中間純利益は4億7800万円、同52.8%減の増収減益。
トーハン単体は売上高1994億9800万円、同10.1%増、営業利益は5億200万円、同73.7 %減、純利益は2億7100万円、同70.6 %減。
5.日教販の決算は売上高272億5700万円、前年比1.5%減、営業利益は5億4700万円、同8.8%増、当期純利益は2億2480万円、同23.2%減の減収減益。
売上高内訳は書籍191億6000万円、同2.9 %増、教科書68億600万円、同15.1 %減、教科書は前年の改訂に伴う指導書の大幅伸張の反動で、返品率は13.5 %。
1の2021年出版物販売金額推移状況の中においての取次の中間決算、及び決算となる。
3の日販、4のトーハンも取次事業の黒字化によるものとされるが、いずれも返品率の低下、出版社の書籍と雑誌の運賃協力金などが作用しているのだろう。
しかし日販の小売事業のグループ書店は8社240店で、売上高291億6400万円、前年比5.6 %減、営業損失100万円(同営業利益2億8100万円)、新規店5店、閉店10店、トーハンは265店で売上高260億9800万円、同9.2 %減、新規店1店、閉店6店、黒字4社、赤字4社となっている。
これらの数字は取次事業が黒字化してもグループ書店が苦戦しているのは明白で、それらの赤字が加速すれば、取次の黒字化にしても、たちまち消えてしまうはずだ。
トーハンの増収にしても、丸善ジュンク堂との新規取引が寄与しているので、取次のグループ書店も出店と閉店のバランスが狂ってしまえば、どうなるかわからないところまできていよう。
それにしても、MPDや楽天BNも決算はどうなっているのだろうか。
日教販の場合はデジタル等が6億9500万円、同55.0 %増に加え、例年のことながら不動産5億9600万円、同0.1 %減が大きく寄与しているとわかる。だが文部科学省は来年から英語のデジタル教科書を小中学生に無償での提供を決めている。これもどのような影響をもたらすであろうか。また日販やトーハンのデジタル事業のほうはどうなっていくのだろうか。
6.紀伊國屋書店の決算は連結売上高1155億8700万円、前年比1.1%増、営業利益は11億3800万円、同127.3%増、純利益15億700万円、同101.6%増の増収増益。
その内訳は「店売総本部」450億4800万円、同3.0%増、「営業総本部」475億6300万円、同2.7%減、「海外」171億900万円、同9.8%増。
単体売上高は978億9000万円、同0.3%減、営業利益は7億7300万円、同3.8%増、純利益6億8800万円、同15.9%増の14年連続黒字決算。
7.有隣堂の決算は売上高668億6600万円、前年比29.8%増、営業利益は8億4500万円、同228.1%増、純利益は3億7400万円(前年は3億6000万円の損失)と増収増益で、書籍や雑誌などの13部門中、11部門で前年実績を上回り、過去最高の売上高。
6の紀伊國屋は2店閉店に対して3店出店というバランス、及び「海外」の伸びが寄与したことは歴然である。
7の有隣堂黒字化は前年のコロナによる音楽教室の休業の反動、外商部門の「GIGAスクール構想」によるタブレット端末案件の獲得、新規出店のSTORY STORY YOKOHAMAなどによると見なせよう。
8.『週刊東洋経済』(12/11)が産業レポート「稼ぐ集英社と消える書店 出版界であらわになる格差」を発信している。
インタビューに応じているのは「手を取り合って出版流通改革を進める」奥村景二日販社長、「出版ビジネスはもう限界書店の役割を再定義せよ」との松信健太郎有隣堂社長である。
3、4、5と取次、6、7と書店の決算を見てきたが、本クロニクル161の集英社の決算に示されているように、デジタルや版権収入が全売上高の半分を占めつつある出版社と異なり、取次と書店は出版ビジネスの限界へと追いやられている。
書店にとっては再販委託制の末路というべきで、有隣堂にしても、HIBIYA CENTRAL MARKET や誠品生活日本橋などの複合店は利益の大半を書店以外の飲食やアパレルで稼いでいることが伝えられている。また松信の講演も『新文化』(12/9)に掲載されている。
しかし前回の『創』(12月号)の特集「街の書店が消えてゆく」ではないけれど、『週刊東洋経済』のレポートにしても、今さら何をか言わんやである。『出版状況クロニクルⅣ』の2015年のところで言及した特集「TSUTAYA 破壊と創造」(10/31)よりも問題意識や取材力ははるかに後退している。日販の奥村にインタビューしているのだから、ここでこそMPDとCCC=TSUTAYAの現在と行方を問うべきだったのである。
9.CCCは2020年度の書籍雑誌販売金額が過去最高の1427億円に達したと発表。店舗数は1060店。
10.CCCは代官山蔦屋書店の新業態、時間制有料シェアオフィス兼ラウンジ「SHARE LOUNGE」を首都圏100ヵ所で展開していく。現在は第1号店のTSUTAYA BOOKSTORE渋谷スクランブルスクエアを始めとする13ヵ所で営業。
11.CCCのFCのトップカルチャーの決算は売上高264億700万円、前年比12.3%減、純損失は19億3900万円(前期は3億7100万円の純利益)。レンタル事業撤退による違約金などの特別損失21億4400万円を計上したのが大きい。蔦屋書店事業売上高は257億2700万円、同12.7%減、レンタル部門は同35.6%減。
12.ヤフーは主力EC「ヤフーショッピング」、ニュースサイト「ヤフーニュース」などの10以上のサービスで、CCCのTポイントと連携してきたが、2022年3月で終了し、ペイペイポイント「ペイペイボーナス」へと移行。
これも前回の本クロニクルで、近隣にあるTSUTAYAの閉店を既述しておいたが、レンタル複合店とFCシステムを主とするCCC=TSUTAYAも次のビジネスモデルの模索へと向かっているし、それを続けて挙げてみた。
9は本クロニクル153ですでにふれているが、この時のTSUTAYA BOOK NETWORK加盟店は779店とされていたので、店舗数の誤差が大きい。1060店とすれば、1店当たりの年商は1億3000万円、月商は1100万円であり、売上の悪い店舗を含めての書籍雑誌推定金額と見なすべきだろう。レンタルに加えて、出版物売上の落ちこみがわかる。
10は日本橋高島屋のドリームリンクの「Cafe黒澤文庫」や日販の文喫を想起させるが、11のトップカルチャーも連動し、蔦屋書店/TSUTAYAの「リモデル」としてのコワーキングスペース事業、特選雑貨文具ジャンルの拡大、リシーリング強化の組み合わせで進められていくとされる。
トップカルチャーは東証1部上場企業であり、株価を気にしていようが、300円を下回り、市場は反応していないように思える。それは前回の文教堂も同様で、終に株価は50円割れのところまできている。
12のヤフーのTポイントからの離脱も、そうしたCCC=TSUTAYAの動向とリンクしているはずであり、おそらく水面下ではさらに様々な事柄が起きているし、22年はそれらが次々と浮かび上がってくると推測される。
odamitsuo.hatenablog.com
13.三洋堂書店はインターネットで注文した書籍を、店員を介さずに受け取るコーナーを全店に設け、セルフレジ台数を増やし、店名を「スマ本屋三洋堂」に変更する。
21年7月に先行開店した「スマ本屋名鉄神宮前店」は原則1人の従業員で営業し、同じシステムを愛知と岐阜を中心とする75店の全店に広げる。店名は「スマートな買い物ができる」に由来する。
三洋堂も11のトップカルチャーと同様に、レンタル複合店から様々な事業との組み合わせを推進してきたが、ポストレンタル、事業複合店として、「スマ本屋」をモデルとして打ち出していこうとしているのだろう。
三洋堂は上場していても、トーハンの傘下にあることも作用してか、株価も900円台と安定している。しかし22年売上高は130億円、前年比6%減とコロナ禍以前の数字へと戻りつつあるので、新たなビジネスモデルの提出を迫られていたことになる。
14.ブックオフが「ブックオフで!?新品コミックが買える!」とのポスターを表示し、新刊コミックを販売している。その数は144店に及び、全794店の2割近くとなり、内訳は直営店77店、FC加盟店67店。取次は日販。
近隣にあるブックオフはそうではないけれど、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などの新刊棚を設けている。それは新刊コミックベストセラーによる集客力を期待してのことであろうが、そこに取次からのプレゼンテーションと入荷が約束されれば、さらに増えていくようにも思われる。
15.『朝日新聞』(12/12)が「漫画家発掘もネットの時代」という記事を発信している。
それらは集英社のアプリ・サイト「少年ジャンプ+」と『月刊コミックゼノン』の「コアコミックス」の試みである。
前者はデジタル時代の才能を発掘し、『週刊少年ジャンプ』を超える漫画作品をつくることを目標として開設された。
オリジナル作品に力を入れ、『SPY ×FAMILY』『怪獣8号』『ダンダダン』などの閲覧数1日100万を超える作品を要している。その新人発掘の要となるのが、関連の漫画投稿サイト「ジャンプルーキー!」で、毎月投稿者1千人、3千作品ほどの応募がある。
後者は昨年から熊本県の高森町で漫画家志望者たちが共同生活しながら学ぶ「アーティストビレッジ阿蘇096区」を運営し、制作スタジオと参考書籍も揃え、東京の編集部とリモートでつながり、現在2人が修行中とされる。
またコアコミックスの協力で、地元の県立高森高校に漫画学科の新設が決まり、同社の取締役の『北斗の拳』の原哲夫や『シティハンター』の北条司が講師を務め、作画や表現方法を教える予定だという。
コミックも紙の時代からデジタル化へと向かっている中で、コミックを生み出す現場もまた変容しつつあることを伝えていよう。私などはそれらを享受する世代ではないけれど、やはり次世代のコミックはそうした新しいトポスから生まれてくるのは必然のように思われる。
だが私たちの記憶にある居酒屋や喫茶店や定食屋などにおかれていた、シミがつき、汚れた漫画雑誌はその時にはもはや存在していないであろう。
16.『選択』(12月号)が前号(11月号)に「小室眞子さんの乱という政治事件」を掲載したところ、11月2日にまったく同誌とは関係ない中高年ユーチューバーがその記事をネタにして配信たことで、次のような出来事があったとして、編集付記といえる「裏通り」で述べている。
www.sentaku.co.jp
祭日を挟んで四日の朝、社員が出社してびっくり。「ユーチューブを見て」の購読がドッと舞い込んできたのです。その数は、朝日、中日、東京新聞に小誌広告を出した十一月一日と二日の申し込み合算に倍するものでした。この現象、分析すると興味深い傾向が見えてきた。
まず、ユーチューブ経由の申し込みの多くが、女性だったこと、それも六十歳以上が大半というから、たまげました。開拓したいと常々願っていた層です。それが、紙媒体とは相性が悪いと思い込んでいたインターネットの、深夜の動画で叶うとは。電話対応した社員によると、どなたも「ネット配信で『選択』を初めて知った」と口を揃えたそうです。
少しばかり長くなってしまったが、編集人兼発行人の驚きのほどがうかがえるので、省略せず、そのまま引用してみた。
しかも『選択』は年間予約購読誌であり、それが3紙の倍の新規購読者に及んだというのは本当に意外だし、その大半が60歳以上の女性だったということは所謂「ミッチーブーム」以後に形成された皇室ファンやマニアの層の厚さを告げていることになろう。古来からの王女伝説や神話生成などにも連想が及んでしまう。
17.岩波ジュニア新書の黒瀧秀久『森の日本史』(10月刊行)、『榎本武揚と明治維新―旧幕臣の描いた近代化』(17年12月刊行)が著作権侵害にあたるとして、絶版回収となる。
この新書の絶版回収を知り、かつて現代新書編集長を務めた故鷲尾賢也から聞かされた話を思い出した。
パソコンが普及する以前は原稿用紙もほとんど手書きで、テーマを決め、著者に依頼すると、定期的に飲食を共にし、原稿の進行状況や問題点の意見支援、著者の悩みなども聞き、それなりの付き合いもあり、どのようにして一冊が書かれたかも推測できた。
ところがパソコン時代になり、著者に会わないまま原稿依頼をするようになると、通過儀礼としての飲食の付き合いもないままに、ある日突然パソコンで完成原稿が送られてくる。それもあって、編集者は著者がどのようにして一冊を書き上げたのか不明のままで出版せざるをえないことも生じるようになった。
すると無断引用、剽窃問題が多々起きるようになり、編集者としての悩みの種であったという。
具体的な例は聞かなかったけれど、そうした著者と編集者の関係、パソコン、ネット時代はさらに加速するばかりであったから、現在ではそれに類するトラブルが絶え間なく起きていると推測されるし、今回の岩波書店の例はまさに氷山の一角であろう。
18.『キネマ旬報』(11/下)の「REVIEW日本映画&外国映画」欄に、松浦弥太郎監督『場所はいつも旅先だった』が次のような紹介を添え、挙がっていた。
雑誌『暮しの手帖』元編集長で文筆家や書店オーナーなどさまざまな顔を持つ松浦弥太郎が自ら旅をし、アメリカ、スリランカ、フランス、オーストラリア、台湾の6都市で主に早朝と深夜に撮影、人々の日常の営み、かけがえのない日々を飾らない言葉で語る。
それに対して、映画監督、脚本家の井上淳一が評している。
『世界ふれあい街歩き』とか『世界の窓から』とかテレビと見紛う作り。飛行機の機関誌に書かれているようなナレーションが延々と。そこには新しい視点も切り口も批評性もない。何のために作ったの? 動くガイドブック? 仕事だから最後まで見たけど、映画館なら途中で出てる。いや、そもそも観に行かない。映画を作るならちゃんと映画を作って欲しい。配給宣伝、これをいいと思っているのか。映画館が可哀想。もう何年も底が抜けたと思ってきたが、底なし底の底はなお暗く深い。
前回の本クロニクルで、「シロサギ」本屋ライターを批判しておいたが、松浦もその一人に他ならない。井上の映画評が伝えるとおりで、その松浦がどのようにして『暮しの手帖』編集長にすえられたのかも不明だし、何もできなかったことは河津一哉、北村正之『「暮しの手帖」と花森安治の素顔』(「出版人に聞く」20)にも明らかである。映画ばかりでなく、出版業界にしても、「底なし底の底はなお暗く深い」のである。
19.澤田精一『光吉夏弥 戦後絵本の源流』(岩波書店)読了。
光吉の名前は岩波書店の『ちびくろさんぼ』『ひとまねこざる』(「岩波の子どもの本」シリーズ)などの訳者として知ってはいたが、この評伝によって、その知られざる謎多き人生を教えられたことになる。小著ながら、児童書も含めて編集、出版史における労作である。
著者の澤田は福音館の元編集者で、「岩波の子どもの本」を担ったもう一人の編集者兼訳者石井桃子の「かつら文庫」のシークレットに関してもふれている。岩波書店もよく出したと思う。私もいずれ謎にみちた編集者として光吉について一編を書くつもりだ。
20.村山恒夫『新宿書房往来記』(港の人)が届いた。
多くの知っている人々、書籍が登場し、とても懐かしいし、巻末の「新宿書房刊行書籍一覧1970~2020」によって、原秀雄『日没国物語』と立木鷹志『虚霊』を読んだのが1982年であったことを確認した。
現在、中村文孝との対談『私たちが知っている図書館についての二、三の事柄』を手がけているのだが、図書館において本はシステムの部品、もしくはチップにすぎないのに、出版社にあっては常に一冊ずつの物語があることをあらためて認識させてくれる。
21.アダム・プシェヴォスキ『それでも選挙に行く理由』(粕谷祐子、山田安珠訳、白水社)読了 。
原文タイトルはWhy Bother with Elections? 『どうして選挙に思い悩むか?』だが、邦訳名のほうが通りがいいので、そのようになったのであろう。選挙もさることながら、ロクな本しか読んでいない私のガラではないのだけれど、ひとつの正当な民主主義論として考えさせられたことを記しておこう。
22.古書目録『股旅堂25』が出された 。
「特別付録」として、黒田明による「飯田豊一インタビュー(2009~2013)が収録され、5000冊近い目録とで、双方が楽しめる。
かたわらに飯田豊一『「奇譚クラブ」から「裏窓」へ』(「出版人に聞く」12)を置くとさらに楽しめることを付記する次第だ。
23.論創社HP「本を読む」〈71〉は「バンド・デシネとマックス・エルンスト『百頭女』」です 。
本を読む #071〈バンド・デシネとマックス・エルンスト『百頭女』〉 | 論創社